福岡県福岡市・糸島市における地質と地形からみた

平成 23 年度卒業論文発表会
年度卒業論文発表会
2012.2.4.
題 「福岡県福岡市・糸島市における地質と地形からみた地震被害」
福岡県福岡市・糸島市における地質と地形からみた地震被害」
発表者 202101 加藤 翔伍 (担当 黒木)
目次
Ⅰ.はじめに Ⅱ.研究方法 1.研究対象地域 2.調査方法 3.分析方法 Ⅲ.調査結果 1.現地被害調査 2.
推定震度の分析 3.亀裂評価点数の分析 4.表層に近い地層の情報と推定震度 Ⅳ.考察 Ⅴ.まとめ 謝辞 参考文献 参
考資料 参考 HP
Ⅰ.はじめに
地震被害の研究は,これまで,地形学,地質学のそれぞれで行われており,地形・地質をともに用いて地震被
害について研究したものは少ない。そこで,本研究では,地形・地質の 2 つの要素と地震被害との関係を分析し,
地震で危険になる地域の推定方法を検討することを目的とする。
Ⅱ.研究方法
1.研究対象地域:
1.研究対象地域 2005 年福岡県西方沖地震で震度 6 弱が記録された,福岡市と糸島市とする(図 1)。
2.調査方法
1)地質図及び地形区分図のデータ化:福岡県土地分類基本調査の「表層地質図」と「地形分類図」を GIS データ
化する。
2)表層に近い地層区分のデータ化:既存のボーリングデータの座標と標高,砂礫層(基盤に最も近い最下層のもの)
と基盤の上面高度,砂礫層と基盤より上部の軟弱層の層厚をデータベース化し,地震被害と関わる地層区分と
その層厚を検討する。
3)震源からの距離:震源を中心とする 3km バッファを作成した。
4)地震被害調査:糸島市を中心に大字を目安に,建物などの被害調査から亀裂評価点数を計算し,また,被害に
関する聞き取りを行いつつ,アンケート調査を実施し推定震度を計算する(図 2)。使用した亀裂評価基準を表 1
に,アンケートを資料 1 に示す。福岡市西区については,福岡市防災危機管理課のデータから家屋被害を整理
した。
3.分析方法
1)重ね合わせ 1:表層地質図,地形分類図,震源からの距離を推定震度と重ね合わせ,両者の関係を明らかにし
て,各区分に対し,平均の推定震度を求める。
2)重ね合わせ 2:表層地質図,地形分類図,震源からの距離を亀裂評価点数と重ね合わせ,両者の関係を明らか
にする。さらに,それを 3.1)と比較する。
3)危険推定:地震で危険になる地域の精度良い推定方法を,地質区分,地形区分,震源からの距離を変数とし,
検討する。
4)調査方法の評価:亀裂評価点数,福岡市の家屋被害に推定震度を重ね合わせ,本研究の調査方法を評価する。
Ⅲ.調査結果
1.現地被害調査結果の例
1.現地被害調査結果の例
西浦の被害を事例に,亀裂評価点数に関連する被害状況(写真 1),推定震度に関連する聞き取り調査の状況(写
真 2)を紹介する。
2.推定震度の分析
1)推定震度の分布:図 3 は,53 地点でのアンケート調査による推定震度である。また,図 4 は図 3 を基にクリギ
ング法で空間補完をした推定震度分布である。これによると,推定震度は概ね震源から離れるにつれ低くなる
が,近接地点または同距離帯において震度に差が見られることが分かった。
2)地質と推定震度:表層地質図と推定震度分布図を重ねてみる(図 5)。この図からは,推定震度の高いところの地
質との対応関係や低いところの地質との対応関係が見えづらい。そこで,各地質毎に推定震度を平均した(図
6)。これらの図から,粘土などの地質で最も被害が大きくなり,砂や礫の地質で最も被害が小さくなるが,近
接地点かつ同じ地質であるのに,推定震度に差が見られることが分かった。
3)地形と推定震度:地形分類図と推定震度分布図を重ねてみる(図 7)。この図からは,推定震度の高いところの地
形との対応関係や低いところの地形との対応関係が見えづらい。そこで,各地形毎に推定震度を平均した(図
8)。これらの図から,自然堤防・砂州・砂丘の地形で最も被害が大きくなり,山麓地の地形で最も被害が小さ
くなるが,近接地点かつ同じ地形であるのに,推定震度に差が見られることが分かった。
4)震源からの距離と推定震度:図 3 を基に,横軸を震源からの距離帯とし,縦軸を推定震度とする分散図を作成
した(図 9)。これより,震源から 1km 離れる毎に,推定震度は 0.1448 低くなることが分かった。しかし,地
質や地形の違いのため,同じ距離でもばらつきがある。
3.亀裂評価点数の分析
1)亀裂による評価点数の分布:図 10 は,表 1 に基づく 34 地区の亀裂評価点数の分布図であり, 3km バッファ
を重ねて示した。これより,評価点数は概ね震源から離れるにつれ低くなるが,近接地帯または同距離帯にお
いて差が見られるという,推定震度と同じ傾向を持つ。
2)地質と亀裂評価点数:表層地質図と亀裂評価点数分布図を重ねてみる(図 11)。亀裂評価点数は,図 5 で示され
た推定震度と同じ傾向を持つ。
3)地形と亀裂評価点数:地形分類図と亀裂評価点数分布図を重ねてみる(図 12)。亀裂評価点数は,図 7 で示され
1
た推定震度と同じ傾向を持つ。
4.表層に近い地層の情報と推定震度:
:分析できた地域が少ないため,発表では省略する。
4.表層に近い地層の情報と推定震度
Ⅳ.考察
1.推定震度と気象庁の震度の関係
図 13 は,推定震度区分に震度計の設置場所を示した。これより,気象庁の震度は,推定震度と比べて,平均
して約 1 高い傾向がある。
このずれは,
アンケート回答者居住住宅と震度計の位置が完全一致していないことと,
前者は地盤の良い場所に立地し,後者は,地質は粘土などで,地形は三角州のように逆に地盤のあまり良くない
場所に設置されていることが理由として考えられる。したがって,本研究の推定震度は値としては妥当で,基と
なるアンケートは,分布密度も高く網羅的なので,地震で危険になる地域の推定に有効かと思われる。
2.推定震度と福岡市の家屋被害の関係
図 14 は福岡市西区における建物被害の分布を示す。被害の大きい順に,全壊,大規模半壊,半壊,一部損壊
である。被害の大きい順に 4,3,2,1 と得点を与え,IDW 法により空間補完をし,推定震度を重ねた(図 15)。
これと図 4 の特徴を比べると,①西浦周辺,②横浜~徳永,③福重周辺に周囲より震度の高い地域があり,分布
が良く似ている。したがって,推定震度は福岡市の家屋被害と良い相関があるため,地震で危険になる地域の推
定に有効かと思われる。
3.推定震度と亀裂評価点数の関係
3.推定震度と亀裂評価点数の関係
推定震度を目的変数,A~F(表 1)の 6 つの亀裂区分に対する数(総計で 50 個に換算)を説明変数として,エクセ
ルにより,重回帰分析を行った。この結果,重相関 R は 0.67 と高く,良く回帰ができているが,補正 R2 は 0.32
なので再現性は低かった。また,推定震度を S1 とすると,
S1=0.064348866×(A の数)+( -0.075235285)×(B の数)+( -0.061179985)×(C の数)
+(-0.018153245)×(D の数)+0×(E の数)+0.009298893×(F の数)+5.347208692
となる。この式の切片は,仮に亀裂をまったく観察できないとき,つまり亀裂が生じる限界震度を示すと思われ
る。ここで,E の加重が 0,補正 R2 が低いという問題があるが,データ数が少ないことや,福岡県西方沖地震
以外の原因による亀裂が含まれていることが要因として考えられる。したがって,亀裂発生の程度には震度が関
連するため,亀裂の評価は,地震で危険になる地域の推定に有効であることが分かった。
4.地質,地形,震源からの距離で見た推定震度
4.地質,地形,震源からの距離で見た推定震度
推定震度を目的変数,地質,地形,震源からの距離を説明変数として,エクセルにより重回帰分析を行った。
この時,地質,地形についてはダミー変数を用いる。この結果,重相関 R は 0.82 と非常に高く,良く回帰がで
きており,補正 R2 も 0.61 と再現性が高いことが分かった。また,推定震度を S2 とすると,
0.268493392(自然堤防・砂州・砂丘)
0.344413748(粘土など)
0.128233919(丘陵地)
0.313504427(変成岩)
0.018100452(三角州)
S2=
0.159154092(深成岩)
+
0(山麓地)
0(砂や礫)
-0.227592424(扇状地)
-0.606647415(台地)
+(-0.139592288)×(震源からの距離)+6.494314327
となる。この結果,地質や震源からの距離は,本研究の重ね合わせ分析の結果と同じであるが,地形区分の加重
の順序は,図 8 と異なる結果を得ることができた。また,地質では,変成岩が深成岩より震度を高めやすいこと
も示せた。したがって,既存研究にない地質,地形,震源からの距離を変数とする地盤条件分析は,地震で危険
になる地域の推定方法として有効である。
5.本研究の意義:省略
5.本研究の意義
Ⅴ.まとめ
福岡県西方沖地震による福岡県糸島市と福岡市西区の地震被害について,現地調査を行い,また GIS を用いて
分析をした結果,以下の 6 点が分かった。
1.重ね合わせ分析の結果,推定震度は,地質では,粘土などで最も大きくなり,砂や礫で最も小さくなる。ま
た,地形では,自然堤防・砂州・砂丘で最も大きくなり,山麓地で最も小さくなる。そして,震源からの距
離では,遠ざかるほど推定震度は小さくなる。
2.推定震度と福岡市の家屋被害の程度を重ね合わせてみると,その分布には良い関係が見られるため,各都道
府県や各市町村の被害データから,震度の推定ができる可能性を指摘した。
3.亀裂評価点数は,推定震度に対し再現性は低いが回帰は良く,両者を重ね合わせてみると,その分布には良
い関係が見られるため,亀裂評価点数から震度の推定ができる可能性を指摘した。
4.地質,地形,震源からの距離は,推定震度に対し,回帰も再現性も良いため,地震で危険になる地域の推定
方法として有効であることが分かった。
5.本研究で用いたアンケートや亀裂状況の情報分析方法は,時間が経過しても震度を細かく推定できることが
明らかとなった。
6.本研究は,亀裂状況の総合的な解析やこれまで個別に扱われがちであった地質,地形,震源からの距離の各
条件の総合的な解析が,地震被害の推定に役立つことを示した点で意義があると考える。
謝辞 参考文献 参考資料 参考 HP 省略
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図 1 調査対象地域
図 2 大字の分布
表 1 亀裂評価基準
写真 1 塀の亀裂(大)
写真 2 聞き取り調査状況
図 3 アンケート調査地点と震度
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図 4 推定震度分布
図 5 地質区分と推定震度
図 6 地質と推定震度の平均
図 7 地形区分と推定震度
図 8 地形と推定震度の平均
図 9 震源距離と推定震度の散布図
4
図 10 亀裂評価点数の階級区分図
図 11 地質区分と亀裂評価点数
図 12 地形区分と亀裂評価点数
図 13 推定震度と気象庁の震度
図 14 西区被害分布図
図 15 西区被害の空間補完と推定震度
5
資料 1 福岡県西方沖地震に関するアンケート
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