輸血分野症例問題(2症例)

輸血分野症例問題(2症例)
今回の症例は院内のものではありませんでした
ので具体的なデータは割愛させていただきます。
当日の内容を抜粋して掲載いたしますので
ご了承ください。
また、当日の質問に誤解を招く内容がありました
ので解説を加えました。ご確認ください。
2011.12.02.(Fri)
佐賀社会保険病院 検査部
宮地律子
症例-1
輸血前の血液型・不規則抗体検査に問題がなく
輸血実施後、交差試験の自己対照に凝集を認
めた場合の対応について
初回交差試験
生食法
Peg-IAT
CC
RCC-①
自己対照
0
0
2+
0
0
2+
RCC-②
自己対照
0
0
2+
0
1+
NT
10日後の交差試験
生食法
Peg-IAT
CC
同種血輸血による患者血球の感作が考えられるため
直接抗グロブリン試験を実施します
多特異
抗IgG
抗補体
1+
1+
0
*多特異=多特異(抗IgG+抗補体)抗グロブリン試薬
抗IgG=IgG単特異性抗グロブリン試薬
抗補体=補体単特異性抗グロブリン試薬
直接抗グロブリン試験の反応はIgG抗体によるものと思われます。
直近で受けた輸血により抗体が産生された可能性が高いと考えます。
直接抗グロブリン試験の精査が必要です。(DT解離試験)
DT解離試験を実施します
Jka抗体 が同定された。
2回目の交差試験に用いた血液で不規則抗体検査を実施してください。
2回目の交差試験に用いた血液による不規則抗体検査結果
Jka抗体 が同定された。
Jka抗体は遅発性溶血性輸血反応を起こす抗体であるが、しばしば検出限界
以下となり血液製剤がヘテロ血球の場合交差試験で見逃される可能性がある
輸血の際は抗血清により確実に陰性血を輸血する必要がある
RCC-①=Jk(a+)
RCC-②=Jk(a―)
したがって、2回目の交差試験の自己対照に凝集はあったが交差試験結
果としては適合と考える
初回の不規則抗体検査でなぜ陰性なのでしょう?
・ 抗体検出後2週間~3か月で検出感度以下になり輸血前検査で抗体が見逃
されることがあります。
・ 2次応答により抗体価が急上昇し、輸血後24~48時間後に溶血が起きます。
これを防ぐためには輸血歴、検査歴などにより患者情報の収集が重要にな
ります。
・ 不規則抗体検査の実施時期の検討も必要となります。
医事請求には問題が残ると考えられます。
・ 溶血所見がある場合は血清中の抗体が供血者血球と反応して(消費され
て) 抗体が検出されない場合があるので、溶血所見の確認が必要です。
溶血所見はどこで見ていくのでしょう?
・ 確認事項は、輸血前後での溶血所見の有無および輸血効果の有無です。
溶血所見=LDH・Bili・I-Bili・Kの増加、ハプトグロビンの減少
輸血効果=前回輸血によるRBC・Hb増加の持続割合
患者の基礎疾患により一回の検査による溶血所見の判断は難しいため
ペア血清により判断します。
症例-2
輸血前のABO式血液型にフリーセルを認め
た場合の緊急輸血に対する対応について
(他の検査について問題はないものとする)
ABO血液型検査
おもて検査
うら検査
おもて判定
抗A
抗B
3+mf
0
判定保留
A血球
B血球
0
4+
うら判定
総合判定
A型
判定保留
この症例における救急外来での輸血のオーダに際して適合血
を選択してください。
緊急輸血に際して、精査をする猶予もなく
製剤の払い出しが必要な場合
ABO血液型が確定できない
異型適合血を使用する
(院内の輸血療法委員会で緊急輸血マニュアルに掲載し広報しておく)
赤血球製剤=O型血液製剤の使用
血漿製剤(FFP・PC)=AB型製剤の使用
異型適合血の考え方
患者ABO血液型
適合RCC
患者ABO血液型
適合血漿製剤
A
A>O
A
A>AB>B
B
B>O
B
B>AB>A
O
O
O
全型適合
AB
AB>A=B>O
AB
AB>A=B
異型適合血を使用する場合
・ 血液型確定用に輸血前血液を採血しておく
・ 異型適合血輸血の同意を得てカルテに記載する
(緊急時は事後でも可)
・異型適合血を使用した場合、投与後の溶血反応に
注意する
問題点の原因・追加検査・確認事項
フリーセルが認められた場合に考えられる原因
①不適合輸血・骨髄移植などによる後天性キメラ
②先天的なキメラ(2卵性双生児・2精子受精)・モザイクの可能性
③亜型の可能性
④疾患による抗原減弱
⑤新生児
・ 確認事項として移植歴、輸血歴、既往歴、年齢などの患者情報は
原因の推定に重要ですが緊急時に確認することは難しいと思わ
れます。
・ 亜型を疑う場合は、レクチンとの反応や抗血清に対する被凝集価
の追加検査が有効です。
・ 追加検査として糖密度勾配法による血球の分離による血液型
検査やフローサイトメトリーによる 粒度分布によりキメラ・モザイクの
推定がなされます。
追加検査
1)糖密度勾配法
分離されたフリーセルは抗A・抗Bとの反応は見られなかったことか
らO型と考えられた。
2)フローサイトメトリー
明確な2峰性のピークが観察されたことより、亜型、モザイクは
否定され血液型キメラによる部分凝集(Mf)と考えられた。
3)レクチンとの反応
抗A1レクチン=3+Mf(対照A1B=3+)抗Hレクチン=1+(対照A1B=0)
4)被凝集価測定
抗Aに対する被凝集価=1024倍(対照A1B=2048倍)
ABO式血液型にフリーセルを認めた場合
の緊急時の適合血の選択
異型適合血の考え方
(ABO式血液型が確定できない時)
患者ABO血液型 適合血漿製剤
A
A>AB>B
B
B>AB>A
<ABO式血液型が確定するまで>
O
全型適合
・赤血球製剤( RCC )=O型RhD(陽性)
AB
AB>A=B
・血漿製剤(FFP・PC)=AB型RhD(陽性)
異型適合血を使用する場合
・ 血液型確定用に輸血前血液を採血しておく
<精査により血液型が確定したら>
・ 異型適合血輸血の同意を得てカルテに記載する
確定した血液型を適合血とする
(緊急時は事後でも可)
症例検討会の時に受けた質問について
(ABO式血液型検査のウラ試験にフリーセルはあるか)
Q
前院では移植患者にABO式血液型検査のウラ試験にフリーセル
を認めていました。
A 市販されている血球製剤を使用されている場合考えられません。
A1血球にフリーセルがあるとすればB血球が混入している、
B血球にフリーセルがあるとすればA血球が混入している事
を意味します。
ABO式血液型検査のウラ試験では、その凝集に強弱はあっても
理論的にフリーセルはありえません。
フリーセルとはABO式血液型おもて検査についてのみ問題となる
用語です。