The Japanese Saturday College of Melbourne Inc. JSC学校ニュース 第二号 発行日 2011年5月13日 「教える」の語源は「愛しむ」こと 校長 藤家管幸 2006年1月20日、小泉純一郎元首相は 最後の国会演説に孔子の言葉を使いま した。 「志士は溝壑(こうがく)に在るを忘 れず」という教えです。この言葉は吉田松 陰が弟子たちの教育に好んで引用した 言葉です。 育成したのですから、教員として卓越 した才能を持っていたのでしょう。 その意味は、「志ある人は、その実 現のためには、溝や谷に落ちて屍(し かばね)をさらしても構わないと常に 覚悟して、いかなる困難をも厭(い と)わない心構えを持たなければなら ない」というものです。小泉元首相は 松陰と自らを重ねて、政治家の気構え を説いたのでしょうか。 「教えるの語源は愛(いと)しむこと。誰に も得手不得手がある。絶対に人を見捨て るようなことをしてはいけない」 この4月、松陰のゆかりの地、山口 県の萩市を訪れました。松下村塾の一 室に何枚もの肖像画(写真)が飾られ ています。伊藤博文、木戸孝允、久坂 玄瑞、山縣有朊、高杉晋作…など明治 維新を胎動させた人たちです。その中 に松陰の絵(右)がありました。尐し 老けて見えますが、彼が松下村塾の主 宰者として門下生を指導したのは28歳 のころです。この若さで優秀な人材を 親も教員も子どもに人生や学問を教える 立場にあります。最後に、松陰の名言をもう ひとつ。 吉田松陰は30年の短い生涯に数々の 教育的名言を残しています。 「愛しむ」は「慈しむ」という意味でもありま す。つまり「かわいがって大事にする」ことで す。どんな子でもかわいがって大事にするこ とが「教えること」であるということでしょう。教 育の原点のような気がします。 吉田松陰 「学問とは自分の才能を見せびらかして人 を従わせるためではない。人を教育して、一 緒に善き人になろうとすることである」 教える立場として座右の銘としたい言葉で す。 ホームページもご覧ください www.jsc-mel.com 国語教科書と四季 副校長 井上紀子 5月号から毎月何か皆さんに興味を持っていただけ そうなことを書いていきたいと考えています。 私達の補習校という性格上、日本とオーストラリ ア、日本語と英語に関することが中心となる予定で す。今回はまず初回ですので、オーストラリアと日本 の位置関係、南半球と北半球ということを考えてみま しょう。 メルボルンに住み始めてまだ2年に届きません。南 半球に住むということ事態初めての経験です。ここの 生活はほとんど快適。ところがひとつだけどうしても なじめないことがあります。ヨーロッパにいたときの 車の右側通行との違いでもなく、ある種の日本食品入 手の困難さでもありません。それは、季節が逆さまだと いうことです。これまで何度も訪れたことはあったのだ けれど、一過性で別に違和感を感じたことはありません でした。 ところがこちらに住んでみると、これまでの自分の長 年の経験とはことごとく異なるのです。殊に日本人は季 節を大切にする国民です。私の生活がいかに季節と関係 してこれまで動いていたのか、こちらに来てからよくわ かります。これまでも何度もクリスマス時期にメルボル ンに来て家族、親戚と夏のクリスマスを経験しました が、住んでいないので特に何とも感じませんでした。 現在は違和感を持ち続けています。まず、お正月の時 期。私にとってこれはやはり寒くてはなりません。3月 3日のひな祭りは桃の節句です。春であって秋では季節 が合いません。イースター(復活祭)は生命の再生を称 える行事で、生命の再生の象徴である春でなくてはなり ません。今は子供の日となっている端午の節句では菖蒲 (しょうぶ)を使います。七夕は夏です。クリスマスは やはり寒くて早く暗くなる冬でなくては雰囲気が出ませ ん。早く暗くなるからこそクリスマスのイルーミネー ションも雰囲気が出ます。さんさんとした太陽の下での クリスマスツリーにもまだ慣れません。自分は春の4月 に生まれたのに、こちらでは秋です。うーん。 さらに、こちらでは果物、野菜、花(植物)などにも 季節感がなかなか感じられません。近所を歩いていても いまだにバラの花が咲いているかと思えば、椿か山茶花 (さざんか)らしい花も咲いています。かと思えばハイ ビスカスの咲いている庭もあります。家の中には季節の 花を活けたいと思っても、なかなか自分の概念の中にあ る季節の花が売っていません。今頃市場でチューリップ が売られているのを見てぎょっとしますが、オランダ辺 りから空輸されて来るのでしょうか。オランダは世界中 から花が集まる市場で、そこから世界各地に送り出され るそうですから。秋には菊や桔梗(ききょう)など欲し いところですが、菊をこちらの春に見かけたりします。 こういうメルボルンですが、確実に街路樹が枯れ、落ち 葉が道路に目立ちます。そうするとやはり秋を感じま す。 (日本では北に行くほど寒いですが)広大なオース トラリアは北の方に行くと亜熱帯、熱帯ですから年中 様々なものが採れます。すいかなど年中売っているよう な気がします。ただ、自分としてはできるだけこの地方 の旬のものを食べたいと考えています。葡萄(ぶどう) やりんごなどは秋を感じさせてくれます。 ここで国語の教科書の話に入りましょう。当然のこ とながら、教材は日本の国にいる日本人学習者のために 編纂されたものです。低学年用の教科書ほど季節に関す る導入が多く見られますが、小学校全般を通して全編に 季節が盛り込まれています。中学校になれば、直接季節 や行事を取り扱うような単元はなくても、翻訳でない日 本語の文章の中に日本の文化や行事のことがでてきま す。当幼稚園でも日本の行事を取り入れています。 言語はすなわち文化です。言語は広義の文化の一部 をなしています。文章を読むということはその背景に なっている文化を汲み取って読むということです。背景 がわからなければ理解は完全ではありません。 日本の俳句はまさに季節そのものですが、日常の言 い回しや表現にもそれが表れています。生活そのものが 季節に合わせて動いていま す。日本料理も四季や旬を大 切にします。 補習校にはこちら生まれの 子供達がたくさんいます。こ の子達にとってはオーストラ リアの季節こそが当たり前な のですが、日本語を学ぶとい うことはその中に出てくる日 本の季節を意識して学ぶということになります。ある言 語を学習するということは、必然的にその言語の背景と なる文化をも学習するということになります。日本では 周りの環境全てが日本そのもので、あえて日本文化を強 調しなくても、日本に住んでいるということだけで国語 教科書は理解できます。 世界がグローバル化し日本で も西洋化が進んでいますが、 やはり日本で見聞きするもの とこちらでの生活は違いま す。日々の生活の仕方も違い ますし、こちらには日本のよ うな規模の公共交通網もあり ません。魚を丸ごとそのまま 売っている店も尐ないです。 オーストラリアにも一応季節 の移り変わりは見られますが、日本の四季のようにはっ きりしていません。むしろメルボルンには1日のうちに 四季があると言われています。日本では12月から2月 といえば冬ですが、こちらは夏に当たります。 保護者の方々には、機会あるごとに日本の季節や行 事のことをお子さん達に伝えて欲しいと思います。学校 の方でも配慮して教えていきたいと考えています。 この歳まで生きてくると、自分の経験がいかに季節 と結びついているのか実感します。小学校入学の頃に桜 が満開だったとか、大学入試の頃はとても寒かったと か。季節の感覚と何月ということが結びついています。 最後にひとつ。今年になって確信したことがありま す。それは、月の満ち欠けの形まで北半球とは逆という ことです。満月の後また月を見ると、これから大きく なっていく上弦の月という形が見られます。満月の後な のだから新月に向かう下弦の月でなくてはならないはず なのに。何となく気付きながらも確証を取っていません でしたが、天気予報で月の満ち欠けを調べてみたらやは り反対でした。私にとっての新発見でした。 (井上紀子) JSCメルボルン補習校 The Japanese Saturday College of Melbourne Inc. ◆保護者会出席&クラス委員選出のお礼 郵便物送付先: P.O.Box 2622 Cheltenham, Vic3192 学校代表電話: 0401 054 962 学校代表メール: [email protected] ウェブサイト: www.jsc-mel.com 保護者会出席ありがとうございました。クラス委員選出にご協力 いただきお礼申し上げます。クラスの連絡網ができましたら、緊 急時や必要なときにご利用ください。 学校運営なんでも相談 ◆プロジェクトチームスタッフ募集 藤家校長(非常勤) [email protected] 教育相談: 井上副校長 [email protected] 転入学受付: スワン事務長 [email protected] <現地校(借用校舎)情報> 学校名: Sandringham East Primry School (略称SEPS) 所在地: 9 Holloway Rd. Sandringham Vic3191 (Melway p77A11) 交通: Sandringham Train Station下車 バス822番 Moorabbin Train Station下車 バス825番 図書 寄贈 工事中の新教室が完成しま すと、現在使っている1年生の 教室がSEPSの日本語教室となり ます。この一角に本校の図書コー ナーを置くことが可能になりました。 ご家庭で眠っている子供向きの本、絵本、辞典 類など本校の子どもたちのために寄贈いただけな いでしょうか。蔵書が整いましたら、待望の図書 室をオープンします。 寄贈の具体的な方法について は後日、学校よりお知らせしま す。保護者の皆様のご支援をど うぞよろしくお願いいたしま す。 コミュニティ・ランゲージ・スクールの申請に関する調査に協力の 申し出がありました。早速、5月7日に井上副校長を中心にミー ティングを持ちました。これからでもご参加くださる方は副校長ま でお声かけください。 ◆副教材の遅延 小中学校のドリル、ワークブック等の副教材が航空便で発注して いるにもかかわらず、まだ届いておりません。授業にも支障をきた していますが、到着を待つ以外に方法がありません。ご理解のほ どお願いいたします。 ◆代員登録 保護者の皆さんに、あるいはお知り合いの方に代員として登録で きる方がいましたらお知らせください。 <登録職種>幼稚園教員およびアシスタント、小学校教員(国 語・算数)、中学校国語教員、中学校数学教 員 ◆ボランティア教員募集 幼稚園、小学校1~3年生のボランティア教 員を募集しています。適当な方がいましたら 井上副校長までご紹介ください。 家庭教育のお願い 小学校・中学校の保護者の皆様へ 本校の生徒達は、月曜から金曜までは現地校に通 いながら、土曜日には日本の検定教科書を使って日 本と同じように国語と算数(数学)を勉強していま す。生徒達にとって大変な努力を要することです。 英語で学科を勉強しながら、同時に日本語を維 持、向上させることは多大な努力を伴います。 どうぞ毎日尐しずつでも勉強するようにしてくだ さい。前日にあわてて宿題を仕上げるというのでは なく。宿題はけっこうたくさん出ていますので、毎 日取り組みながら仕上げてください。 ただ会話ができるという語学力では勉強には十分ではあ りません。特に学年が上がるにつれ、内容は難しくなりま す。日本語で思考し、考えをまとめて書く力を養わなくて はなりません。たくさん読書することは日本語学習の大切 な支援になります。 幼稚園を含めた全校保護者へ 両親が日本人の場合は、家庭内の使用言語は必然 的に日本語ですが、片親が非日本人で日本語ができ ない、または簡単な会話程度しかできない場合は、 ついつい家庭内言語が共通の英語となってしまうの ではないでしょうか。 お母さんが日本人の場合は、お母さんは日本語、 お父さんは英語というように決めて、お母さんと話 す時は徹底して日本語を使いましょう。子供が英語 で言った場合、その言葉をもう一度日本語で繰り返 すよう努めていただくと効果があるはずです。親に も忍耐が要求されます。 日英バイリンガルの子供を育てるには、並々なら ぬ努力が必要です。エベレストを目指して一歩一歩 登って行くようなものです。しかしそれが実った時 は、人生で一番大切な宝となるのは間違いありませ ん。
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