列車制御に向けた実環境下でのGPS測位誤差上限

列車制御に向けた実環境下でのGPS測位誤差上限不等式評価
Evaluation of the upper bound of GPS positioning error for train control system in real environment
武輪知明
Tomoaki Takewa
辻田亘
Wataru Tsujita
岩本貴司
Takashi Iwamoto
三菱電機株式会社 先端技術総合技術研究所
Advanced Technology R&D center, Mitsubishi Electric Corporation
1. まえがき
3. まとめ
近年鉄道では中長距離閑散区間を中心に,列車位置検知に測
位衛星を使用した低コスト列車制御システムが注目されている((1)).
列車を安全に運行するためには,測位誤差と安全余裕距離の大
小を確実に判定する必要がある.既往研究では,列車に衛星測
位受信機を搭載して測位値標本を蓄積し統計的に誤差上限値を
求める試みがなされている.しかしこの方式は必要標本数が膨大
になる課題がある.我々は測位値の蓄積に依らない方式確立を
目指し,これまでに精密な受信機時計によって測位誤差の上限
を逐次的に規定する誤差上限不等式を理論的に示した(2).
本稿では精密受信機時計としてRb発振器を用い,実環境下で
誤差上限不等式の成立を確認した結果を報告する
誤差上限不等式の成立を確認した結果を報告する.
UTCに同期させたRb発振器を用いて,実環境下で我々が示し
た誤差上限不等式が成立することを確認した.事前予測が不可
た誤差上限不等式が成立することを確認した
事前予測が不可
能な,NLOS信号混入時に発生する局所的な測位誤差増大時に
おける成立も示しており,衛星測位の列車制御適応へ活路を開く
ものと考える.今後は2次元測位への拡張と共にアルゴリズムの実
機組み込み化を進めリアルタイム評価を行う予定である.
太陽電池パネル
電波遮蔽板
受信アンテナ
2. 実環境下での誤差上限不等式評価試験
2-1 実験方法
実環境として,測位誤差の増大が予測される見通し外(NLOS)
信号受信状態と,鉄道走行環境下の状態を選定した.測位誤差
評価のため,アンテナは予め位置を測量した箇所に設置した.
UTCに同期させたRb発振器(PRS10)のクロックで動作するRFレ
コーダーを用いてGPS信号を標本化し,解析は後処理で行った.
(b)鉄道走行環境
図1:アンテナ設置箇所
720
信号到来時刻遅延(m)
700
680
660
NLOS信号受信衛星
640
直達波受信衛星
620
600
0
50
100
時間(秒)
150
200
図2:NLOS信号受信衛星と直達波受信衛星の信号到来時刻遅延量
(縦軸は時間に光速を乗じて距離に換算)
140
140
120
120
測位誤差と誤差上限値 (m)
測位誤差と誤差上限値 (m)
2-2 NLOS信号受信環境下での評価試験
図1(a)に示すように,太陽電池パネルと電波遮蔽板に挟まれ
た位置に受信アンテナを設置することで,直接波が遮断された
NLOS信号受信環境を構築した.この条件下で仮想的な線路軌
道を想定し,NLOS信号受信衛星を含む2衛星による一次元測位
を行うと測位結果は大きな誤差を有した(別稿(3)にて報告).
より詳細に現象を分析するため,アンテナ設置座標値を利用し
て,受信機時計で計測される信号到来時刻の理論値に対する遅
延量を算出した.図2にNLOS信号受信衛星の遅延量と, 直達
波を受信した2衛星の遅延量を,信号送信時刻に対して200秒間
描画したものを示す.遅延量は衛星クロック誤差,電離圏・対流
圏遅延,回路遅延,反射による光路長増加等の成分を含む.各
衛星間の遅延量の差は,全衛星に共通である回路遅延量を除
いた成分の影響を反映している.図より直達波の遅延は時間的
な変動が緩やかであり,かつ2衛星間の差が10 m程度である.こ
れは遅延量に混入する各種誤差の性質と矛盾しない.一方
延
す 各種誤差 性質
盾
NLOS信号は,直達波と比較して70 mを超える大きな遅延を示し
ている.これは反射による光路長増加を200秒間に渡り安定して
捉えた結果とみられる.このNLOS信号受信衛星を測位に使用す
ると,誤差の増大は避けられない.この時,受信機時計バイアス
から算出した誤差上限値と実際の測位誤差を描画した結果を図
3(a)に示す.図より,誤差上限値は実際の測位誤差より大きく,
NLOS信号受信環境下での誤差上限不等式の成立を表している.
受信アンテナ
(a)NLOS信号受信環境
100
測位誤差
誤差上限値
80
60
40
20
0
0
測位誤差
誤差上限値
100
80
60
40
20
50
100
時間 (秒)
150
200
(a)NLOS信号受信環境下での結果
0
0
50
100
時間 (秒)
150
200
(b)鉄道走行環境下での結果
図3:測位誤差と誤差上限値
謝辞
本実験を実施するに当たりご協力いただいた鉄道総合技術研
究所山本春生氏に感謝の意を表す.
2-3 鉄道走行環境下
鉄道走行環境下での評価試験
評価試験
参考文献
鉄道走行環境下として,図1(b)に示す鉄道総合技術研究所構
内の試験線路付近に受信アンテナを設置し,同様の評価実験を
実施した.算出した誤差上限値と実際の測位誤差を描画した結
果を図3(b)に示す.ここでも誤差上限値は実際の測位誤差より大
きく,鉄道走行環境下での誤差上限不等式の成立を表している.
(1) P. Mertens, JP.Franckart, A.Starck, “A low cost train location and
signaling system for the low density lines,” WCCR 2003.
(2) T.Iwamoto, T.Takewa, and W.Tsujita, “Receiver Clock-based
Integrity Monitoring for GNSS Positioning,” ION ITM, 2015.
(3) 岩本,武輪,辻田, “未知分布に従う雑音の招く衛星測位誤差と受信
機時計を用いる抑制,” 測位航法学会, 2015. submitted.