浮遊じんの全ベータ放射能の季節変動に及ぼす遠方起源ラドン - 新潟県

第4巻
新潟県放射線監視センター年報
2006
21
浮遊じんの全ベータ放射能の季節変動に及ぼす遠方起源ラドンの影響
山
興樹・霜鳥達雄・藤巻
広司・坂上
央存・殿内重政
Influence of remote source component of Radon-222 on seasonal
variations of gross β radioactivity in airborne dust
Koki Yamazaki, Mitsugu Kasahara, Tatsuo Shimotori, Hiroshi Fujimaki,
Hisanobu Sakaue and Shigemasa Tonouchi
The seasonal variation of gross β radioactivities in Niigata Prefecture were similar to that of radon
concentration, showing high concentrations appeared in the period from summer to autumn and low in winter.
This result at Japan Sea coast is contrary with one at Pacific coast of Japan, where the maximum concentrations
were recorded in winter season. The decrease in gross β radioactivity and radon (222Rn) concentration in winter
is probably caused by the decrease in the amount of near source component of radon which north east seasonal
wind from Sea of Japan blows off, and by the elimination of airborne dust containing radon progeny as a result
of scavenging process in cloud (rainout) and below cloud (washout).
According to the relation between radon concentration and gross β radioactivity after 5 hours from
sampling end, which result mainly from thoron progeny composed only near source component, an excess of
radon concentration in the snowy period is considered to be brought from Chinese continent by Siberian cold
air mass.
Keywords : Gross β radioactivity, Airborne dust, Radon, Seasonal variation
1
は
じ
め
に
新潟県では,東京電力株式会社柏崎刈羽原子力発電所周辺地域において浮遊じんの全ベータ放射能
を対象に大気中放射性物質のモニタリングを行っている.
浮遊じんの全ベータ放射能測定法は,核種を特定できないため人体の内部被ばくを定量的に評価す
ることはできないが,迅速に概略の放射能値が得られるため放射性物質の大気中への異常放出の早期
検知に有効であり,自治体の環境放射線モニタリングに広く用いられている.一方,全ベータ放射能
には大気中にバックグラウンドとして常に存在する天然放射性核種からの寄与が含まれるため,人工
放射性核種に由来する濃度変動を正しく評価するためには,天然放射性核種の大気環境中における動
態を把握しておくことが必要である.
このような観点から,当所では,浮遊じんの全ベータ放射能の変動に大きく影響を及ぼしていると
考えられるラドン(222Rn)の地表大気中濃度の連続測定を平成 17 年 5 月から実施している.全ベー
タ放射能の経年変動,季節変動,日変動と気温等の気象条件との関係,ラドン濃度の日変動との類似
性,全ベータ放射能濃度の地点差とラドン濃度との関係等については既報 1) で述べた.ここでは,全
ベータ放射能の季節変動に及ぼす遠方起源ラドンの影響について検討したので報告する.
2
方
法
2.1 浮遊じんの全ベータ放射能
浮遊じんの全ベータ放射能は,東京電力株式会社柏崎刈羽原子力発電所周辺地域に設置した 9 局の
自動観測局のうち,柏崎市街局,刈羽局では昭和 58 年 10 月の発電所周辺環境放射線監視調査開始当
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22
初から,また西山局では平成 14 年 4 月か
ら連続測定を行っている.3 局の発電所
からの位置関係を Fig.1 に示す.
浮遊じんの採取は,セルローズ・ガラ
ス繊維のロール状ろ紙(ADVANTEC 製
HE-40T)を使用し,吸引口高さ約 2m,
流量約 200 ℓ /min で 6 時間の間欠集じん
方式により 1 日 4 回実施した.ろ紙のス
テップ送り時刻は,0 時,6 時,12 時及
び 18 時である.全ベータ放射能の測定は,
柏崎市街局と刈羽局では 50mm 厚鉛遮蔽
体付のアロカ製ベータ線用 50mmφプラ
Fig.1. Location of measuring points.
スチックシンチレーション検出器(U3O8 線源にて計数効率 30%以上)を,西山局では三菱電機製 50mm
φZnS(Ag)+プラスチックシンチレーション検出器(90Sr 線源にてベータ線計数効率 10%以上)を使
用した.1 回の集じん毎に終了直後から 10 分間隔で 6 時間測定を繰り返し行い,測定データは環境放
射線テレメータシステムにより収集した.得られたデータは最初の 10 分値を「直後濃度」,見かけ上
の半減期 37 分 2) で減衰するラドン崩壊生成物の影響がほとんど無くなった 5 時間後の値を「5 時間後
濃度」として整理した(Fig.2).平常時においては,直後濃度はラドン崩壊生成物濃度の変化を,5 時
間後濃度は見かけ上の半減期が約 12 時間 2) と相対的に長いトロン崩壊生物濃度の変化を表している.
なお,西山局の検出器は,将来全アルファ
放射能も監視対象とするための調査研究用
として,アルファ線も同時に測定できるホ
スウィッチ型検出器を採用している.全ベ
ータ放射能濃度の校正には 3 局とも U3O8
線源を用いており,アルファ線測定用
ZnS(Ag)シンチレータの有無(厚さ)によ
って検出器のベータ線エネルギー依存性が
異なる 3) ため,平常時においては大気中の
ラドン,トロン(220Rn)崩壊生成物(214Pb,
214
Bi, 212Pb, 212Bi 及び 208Tl, Fig.3 参照)の濃
度が同程度でも西山局と他の 2 局の全ベー
タ放射能濃度の間には差が生ずる
1)
.迅速
に概略の放射能値を取得し原子力発電所か
らのベータ核種放出の有無を監視するとい
う測定目的は,直後濃度と 5 時間後濃度の
Fig.2. Typical decay curves of collected β nuclides on the
filter paper (HE-40T).
T1/2 : apparent half life (from MEXT 2) )
○ : radioactivity immediately after sampling.
△ : radioactivity after 5 hours from sampling end.
平常時の変動幅からの外れと減衰曲線から
求めた見かけ上の半減期の変化を常に確認
することで十分達成されている.しかし,
Radon
Thoron
地域内でのラドン・トロン濃度の違いが観
測局間の全アルファ・全ベータ放射能の差
にどのように反映されてくるか等,天然放
射性核種の地点別寄与割合の把握は,監視
精度のさらなる向上にとって必要なことで
あり,この意味では 3 局とも同じ方式の検
出器であることが望ましいため,機器更新
Fig.3. Radon, thoron and their progeny associated with
gross β radioactivity in airborne dust.
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時には全アルファ放射能と全ベータ放射能を同時測定可能なタイプに統一する予定である.
2.2 ラドン濃度
ラドン濃度調査は,浮遊じんの全ベータ放射能の連続測定を行っている柏崎市街局,刈羽局,西山
局の 3 局のほか,対照地点として発電所から北東に直線距離で約 60km 離れた新潟市曽和に位置する
新潟県放射線監視センターを加え,計 4 地点で実施した(Fig.1).屋外測定は平成 17 年 5 月から開始
した.測定には,Genitron Instruments 社製ラドンモニタ AlphaGUARD PQ2000PRO を使用した.測定
器は通気性の収納箱に入れて地上約 1mに設置し,計測周期 1 時間で連続測定を実施した.
AlphaGUARD は,有効容積 0.56 ℓ の通気式電離箱を検出部とするパルス型電離箱式ラドンモニタで
あり,フィルタを通して電離箱内に侵入したラドンのアルファ線による電離から生じたパルスをカウ
ントし,単位時間あたりのカウント数からラドン濃度を評価する 4).当所が保有する測定器は 2 台で
あるため,調査地点 4 地点のうち刈羽局を定点として固定し,他の 3 地点は 1 箇月毎に移動して測定
を行った.なお,気象データは各自動観測局に設置してある気象観測機器による測定結果を用いた.
3
結果及び考察
刈羽局における浮遊じんの全ベータ放射能の直後濃度,5 時間後濃度,屋外ラドン濃度,降水量及
び積雪深について,平成 17 年 5 月から 18 年 6 月までの時系列変化の様子を Fig.4 に示した.ここで,
屋外ラドン濃度は対応する 6 時間での 1 時間計測値の平均値,降水量及び積雪深はそれぞれ対応する
6 時間での 10 分値の積算値及び平均値である.
浮遊じんの全ベータ放射能と屋外ラドン濃度の間には比較的よい相関が認められることについては
既に報告した 1) が,この図からも両者の 6 時間値の日周変動が同じサイクルであることや降水時の低
Precipitation
(mm 6hrs-1), Snow (cm)
Radon concentration
( Bq m-3 )
Gross β radioactivity
( Bq m-3 )
Gross β radioactivity
( Bq m-3 )
下も含めた長期的な変動パターンの類似性を確認することができる.
12
10
Gross β radioactivity immediately after sampling
8
6
4
2
0
1 M
0.8
J
J
A
S
O
N
D
J
F
M
A
M
J
J
J
J
A
S
O
N
D
J
F
M
A
M
J
J
A
S
O
N
D
J
F
M
A
M
J
J
A
M
J
J
Gross β radioactivity
after 5 hours from sampling end
0.6
0.4
0.2
0
20 M
Radon concentration
15
10
5
0
80 M
J
J
Precipitation (integrated)
60
Snow depth
40
20
0
M
J
J
A
S
O
N
D
J
F
M
2005
2006
Fig.4. Temporal variations of gross β radioactivity in airborne dust, outdoor radon concentration, precipitation
and snow depth obtained by 6-hour intervals at Kariwa monitoring station. The region between the arrow
heads show periods of no data.
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Fig.4 のデータを月平均値グラ
15
0
WSW
(%)
30
期が約 3.8 日(Fig.3)と比較的長
く,気流に乗って遠方まで減衰せ
ずに運ばれることから,冬季は大
陸の大地から発生したラドンがシ
ベリア寒気団に沢山保持されたま
ま日本海をわたって柏崎上空まで
達し,大気中のラドン及びその崩
壊生成物濃度を上昇させることが
予想される.しかし,Fig.5 のグラ
フは逆に冬季はいずれも濃度が低
5
ESE
(%)
30
20
SW
SE
10
SSW
S
WS (m/s)
SSE
0
10
Radon, Gross β immediate (Bq m-3)
ことを示している.ラドンは半減
WSW
E
0.5
Radon conentration
Gross β immediately after sampling
sampling
sampling end
end
Gross β after 5 hours from sampling
0.4
0.3
5
0.2
0.1
0
Gross β after 5 hrs (Bq m-3)
はどちらかといえば北北東から北
E SE
0
WS (m/s)
SSE
0
S
W
15
SSW
E
SE
10
10
の風配図は,夏から秋(8∼10 月)
い季節風が吹く頻度が非常に多い
20
SW
1
下が著しいことがわかる.刈羽局
5
20
W
し,5 時間後濃度は特に冬季の低
1 月)は大陸方向からの北西の強
ENE
5
冬に低い値となる季節変動が存在
い風が比較的多いのに対し,冬(12,
WN W
ENE
NE
10
20
WN W
NNE
15
NW
10
ン濃度のいずれも夏から秋に高く
東の海岸線に沿った方向からの弱
NE
N
20
15
NW
直後濃度,5 時間後濃度及びラド
NNW
NNE
10
から,浮遊じんの全ベータ放射能
(%)
N
20
5
NNW
1
(%)
フとして Fig.5 に示した.この図
0
A
M
J
J
A
S
O
N
D
J
F
M
A
M
J
2005
2006
Fig. 5. Seasonal variations of gross β radioactivity and radon
concentration in monthly averages. Wind roses and wind speed
histograms show the difference of prevailing wind direction and
speed between in winter season (December to January) and in
summer season (August to October).
下していることを示している.
ラドン濃度の季節変動については,夏季に低く,冬季に高くなる傾向が一般的
ラドン崩壊生成物濃度についても同様な傾向が報告されている
7,8)
5,6)
とされており,
.今回の刈羽局における季節変動は
いずれもこれらの報告例とは異なる結果となったが,同じ日本海側の福井県で観測されたラドン崩壊
生成物濃度の季節変動は刈羽局と同じ傾向を示してい
たものである.新潟県や福井県のような日本海側での
測定結果には,冬季の降雪や積雪に覆われる期間が長
い等,太平洋側とは異なる気象条件が反映されている
ことが考えられる.日本海海上で実施されたラドン崩
壊生成物濃度の測定結果 10) によれば,夏季に低く冬季
に高く,冬季には陸上の福井県内の濃度の約 1.5∼2.5
倍の高い値が観測されており,海上では高い濃度であ
ったラドン崩壊生成物が,降雪によるレインアウト,
ウォッシュアウト効果により,その多くが大気中から
除去され,陸域では濃度が低くなると考えられている.
大気中から除去されたラドン崩壊生成物は降水とと
もに地上に降下し,無限平面ガンマ線源となって地表
付近の空間線量率を上昇させる.Fig.6 は柏崎刈羽地域
での降水による空間線量率上昇量の月変化である
11)
.
-1
.これまでの報告例の多くは太平洋側で測定され
20
Accumulated dose, (nGy mm )
る
9)
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
A M J J A S O N D J F M
Fig. 6. Seasonal variations of accumulated
doses caused by precipitation. Accumulated
doses were evaluated from the increases in dose
rates beyond the base line of no precipitation
periods. These data were compiled from April
1984 to March 1988 and from April 1993 to
March 1994.
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単位降水量あたりの線量上昇量は明らかな季節変動を示し,夏季に低く冬季に高い.放射平衡を仮定
すれば降水中に含まれる放射能は線量上昇量に比例すると考えられること,及び日本海側の北陸地域
では冬季の降水量が他のどの季節よりも大きい
12)
ことから,Fig.6 はラドン崩壊生成物の大気中から
の除去量が冬季に最も多くなることを示している.
降水中のラドン崩壊生成物濃度の大部分はレインアウトに由来すると推定されており 13) ,大陸から
日本海沿岸上空まで輸送されてきたラドンの多くは雲の中で崩壊生成物に変化した後雨雪水中に取り
込まれて地表に降下すると考えられる.上下混合により地表付近まで降下したラドンとその崩壊生成
物については,海からのラドン散逸量が少ないためこれらの濃度が低い北西からの気流との混合によ
り大気中濃度が低下しやすく,また
除去過程としてのウォッシュアウト
northwest
seasonal wind
Siberian
cold air mass
効果は雨よりも雪のほうが大きいと
の報告 14) があることも考慮すると,
Rainout
冬季に大陸から輸送されるラドンの
日本海沿岸地域の地表大気中濃度へ
の影響はそれほど大きくないと考え
Washout
られる.一方,測定地点近傍の大地
wind
から発生する近傍起源成分について
snow cover
も,冬季は降水による土壌空隙率の
減少や降雨,降雪による地表面の被
Siberian continent
Sea of Japan
Radon
Thoron
覆の影響で地表からの散逸率が低下
れる.全ベータ放射能 5 時間後濃度
Progeny
(Particle)
Fig. 7. Schematic drawing of long-range transportation and
scavenging process for radon and its decay products.
の冬季の低下理由についても,その大部分を占める
トロン崩壊生成物の親核種であるトロンの半減期が
約 55 秒(Fig.3)と短く近傍起源成分のみと考えら
れることから同様な解釈をすることができる.これ
らの関係の模式図を Fig.7 に示した.
以上の効果が重ね合わさった結果,冬季の日本海
沿岸地域では大陸からラドンの供給があっても,ラ
ドン及び浮遊じんの全ベータ放射能が夏季に比べて
低い値を示すと考えられる.なお,冬季の太平洋側
4
Gross β radioactivity (Bq m-3)
し,大気中濃度は減少すると考えら
(Gas)
Feb.
2
るため,ラドンとその崩壊生成物濃度が高くなるも
のと解釈できる.
Fig.8 にラドン濃度と全ベータ放射能濃度直後濃
度及び 5 時間後濃度との月平均値の相関図を示した.
積雪期の 12∼2 月を除くといずれも良い相関関係が
認められる.すなわち月平均値レベルで見ると,無
雪期はラドン濃度が増加するとその崩壊生成物濃度
(全ベータ放射能直後濃度)も増加する(Fig.8 a).
トロン崩壊生成物からの寄与が大部分である 5 時間
後濃度との間にも,ラドン濃度との間に同程度の相
関関係が存在する(Fig.8 b)理由は,トロンはラド
Jan.
Dec.
1
3
0.3
Gross β radioactivity (Bq m-3)
加わり,上下混合により地表付近の濃度を押し上げ
y = 0.5072x - 0.1291
R2 = 0.8332
3
では日本海側から脊梁山脈を越えて上空を輸送され
てきた大陸由来のラドンに国内で発生したラドンが
a) Gross β radioactivity measured
immediately after sampling
4
5
6
7
-3
Rn-222
concentration
(Bq m )
b) Gross
β radioactivity
measured
after 5 hours from sampling end
0.2
y = 0.0566x - 0.1731
R2 = 0.8022
0.1
EXCESS
Jan.
Dec.
0
3
4
5
Feb.
6
7
Rn-222 concentration (Bq m-3)
Fig. 8. Relations among radon concentration and
grossβ radioactivity in airborne dust. These data
are monthly averaged values.
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ンの同位体であり,半減期を除けば環境中の動態はラドンと差がないためと考えられる.これに対し,
積雪期には,前述したプロセスにより崩壊生成物が大気中から除去されやすいため,ラドン濃度が同
じでも相対的に低値となる.また,Fig.8 の積雪期(12∼2 月)のラドン濃度を無雪期の回帰式に代入
して求めた全ベータ放射能の無雪期換算値と実測値の比は,直後濃度が 0.65∼0.85,5 時間後濃度が
0.16∼0.25 となり,直後濃度の低下量は 5 時間後濃度に比べ少ない.この理由は,ラドン崩壊生成物
は,大気中から除去されなかった大陸由来の遠方起源成分が加わるため,直後濃度の低下はあまり大
きくならないが,トロン崩壊生成物は親核種のトロンが近傍起源のみであることから,冬季の降雨,
降積雪による散逸率低下や除去作用の効果が直接現れることによると考えられる.
ここで 5 時間後濃度を近傍起源トロン崩壊生成物のみの寄与によるものとし,また無雪期のラドン
濃度には遠方起源成分がほとんど無視できる程度しか含まれていないと仮定すると,Fig.8 b の回帰直
線は近傍起源成分同士の関係を示していることになる.従って図に矢印で示した回帰直線からのラド
ン濃度の超過分は,遠方起源ラドン成分とみなすことができる.かなり大雑把な議論ではあるが,図
から求めた積雪期における遠方起源ラドン成分の割合は 26∼33%となり,池辺ら
15)
が名古屋で実測
とシミュレーション計算から求めた,20km 以遠の土壌を発生源とする遠方起源成分の割合の年平均
値約 29%(=2/7)と同程度となったことから,概略値を知るための手法としては妥当と考えられる.
全ベータ放射能とラドン濃度が高値と低値を示した時の例として,平成 15 年 9 月 8 日(夏の低値),
9 月 29 日(夏の高値),平成 16 年 1 月 24 日(冬の低値)及び 2 月 23 日(冬の高値)の 9 時に刈羽局
2005/9/8 9:00
2005/9/29 9:00
Summer Min.
Summer Max.
2006/1/24 9:00
2006/2/24 9:00
Winter Min.
Winter Max.
o
o
Fig. 9. Backward trajectories at Kariwa monitoring station (37.422 N, 138.624 E) at 9:00 JST on the days
of lowest/highest Radon concentration in summer/winter seasons. The starting altitude is 1500 m above sea
level. The time interval between adjacent marked points is six hours. Trajectories are obtained using the
isentropic model.
第4巻
新潟県放射線監視センター年報
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に到達する後方流跡線を示した(Fig.9).図から,夏は高値であっても大陸からの影響は少なく,冬
は低値であっても大陸からの気流が到達していることがわかる.流跡線解析プログラムは国立環境研
究所地球環境研究センターの CGER-METEX 16,17) を使用し,流跡線の経路は刈羽局の上空 1500m を基
点として 96 時間前まで,気団が等温位面を移動するとして求めた.
大地から生じ,半減期 3.8 日で崩壊するラドンの影響範囲は,同程度の時間スケールで変化する気
象現象と関連付けて考察することが必要である.今後さらに多くのデータを蓄積することにより,遠
方起源のラドンの影響の定量的把握など監視精度向上に寄与する基礎データの検討を進めたい.
4
ま
と
め
浮遊じんの全ベータ放射能測定地点でラドン濃度の連続測定を行い,全ベータ放射能の季節変動に
及ぼす遠方起源ラドンとの関係について検討した結果,以下のことがわかった.
①
定点測定地点の刈羽局における浮遊じんの全ベータ放射能直後濃度,5 時間後濃度及びラドン濃
度のいずれも夏から秋に高く,冬に低い値となる季節変動が認められた.
②
冬季は大陸で発生したラドンがシベリア寒気団とともに日本に飛来するため,ラドン濃度及び全
ベータ放射能直後濃度に大きく影響するラドン崩壊生成物濃度のいずれも夏季に低く冬季に高くな
る傾向が一般的とされているが,本調査の結果はこれとは異なる傾向となった.
③
日本海側の福井県で観測されたラドン崩壊生成物濃度の季節変動は,陸上では刈羽局と同じ傾向
を示し,海上では夏低く冬高い結果となっていることから,冬季に日本海上空で高い濃度であった
ラドン崩壊生成物が降雨,降雪による除去作用により陸域では低濃度となったものと考えられる.
④
浮遊じんの全ベータ放射能 5 時間後濃度とラドン濃度の相関関係から,冬季におけるラドンの遠
方起源成分の割合は 26∼33%と見積もられた.
文
1) 山
献
興樹他:新潟県放射線監視センター年報, 3, 21-30 (2005).
2) 文部科学省:全ベータ放射能測定法(昭和 51 年改訂), (1977).
3) Kimura H., et al.:Proceedings of the International Symposium on Radioecology and Environmental
Dosimetry, Rokkasho, Aomori , pp. 427-432 (2003).
4) 石川徹夫他:RADIOISOTOPES, 53, 133-140 (2004).
5) 財団法人原子力安全研究協会環境放射線モニタリングテキスト編集委員会:環境放射線モニタリン
グ, p.102 (1987).
6) 阿部道子, 阿部史朗:生活環境におけるラドン濃度とそのリスク, 実業公報社, p.79-88 (1989).
7) 藤波直人, 湊進:大気中のラドン族と環境放射能, 日本原子力学会, p.99-105 (1985).
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9) 西川正嗣, 青木正義, 岡部茂:大気中のラドン族と環境放射能, 日本原子力学会, p.107-114 (1985).
10) 西川正嗣, 岡部茂, 青木正義:同上, p.139-148 (1985).
11) 山
興樹, 鈴木斉:新潟理化学, 20, 56-57 (1994).
12) 吉野正敏監修, 気候影響・利用研究会編:日本の気候Ⅰ, 二宮書店, p.14-15 (2002).
13) 藤波直人:JCAC, 23, 38-43 (1993).
14) 岡部茂:大気中のラドン族と環境放射能, 日本原子力学会, p.1-24 (1985).
15) 池辺幸正,山西弘城,東条啓司,飯田隆夫:日本原子力学会誌, 35, 735-738 (1993).
16) Fujinuma, Y. (Ed.), CGER-M04-2003, Center for Global Environmental Research, National Institute for
Environmental Studies, Japan. (http://cgermetex.nies.go.jp/metex/index_jp.html).
17) 山
興樹:新潟理化学, 32 (2007), 投稿中.