海藻類養殖における病虫害発生機構に関する研究

研
研
究
究
分
課
題
野
ⅰ-2生産性の高い増養殖技術の開発
部 名
増養殖部
名
(6)海藻類養殖における病虫害発生機構に関する研究
予
算
区
分
試験研究実施年度・研究期間
担
当
県単
平成 18 年度~平成 22 年度
(主)武田 啓一
(副)藤原 孝行
協 力 ・ 分 担 関 係
田老町漁協、大槌町漁協、越喜来漁協、普代村漁協、
各地方振興局水産部普及チーム、養殖わかめ対策協議会
<目的>
ワカメ、コンブは本県を代表する養殖種目である。これらの養殖種は、病虫害の発生により減産や品質低下
し大きな被害を及ぼす年があるが、有効な防除手段が確立されていない状況にある。そこで、多種多様な病虫
害の発生機構や診断基準を明らかして、養殖生産の安定化に資する。
<試験研究方法>
1 養殖ワカメの性状調査
宮古市田老真崎地先(以下田老)
、大槌町吉里吉里地先(以下吉里吉里)及び大船渡市三陸町越喜来地先(以
下越喜来)において、平成 20 年 1 月から 5 月上旬にわたり隔週で、養殖綱 1mに着生している養殖ワカメ
を全量採取した。採取したワカメは本数及び全重量を測定し、そこから大型 30 個体を抽出して測定し、そ
の形態的特徴と生長を把握した。また、田老及び越喜来においては、次回計測用の養殖綱 1m中のワカメか
ら大型藻体 30 個体を選び、船上において櫛葉端から 40cm 離れた葉状部に直径 5mm のパンチ孔を開け、2
週間後にその位置を測定し日間生長量(mm/day)を求めた。
2 養殖ワカメの病虫害発生状況調査
上記の性状調査で測定に用いた大型 30 個体について、病虫害の発生状況を調査した。
3 コンブ黒斑点発生状況調査
普代村堀内地先で、平成 19 年 2 月から 7 月にわたり、1 ヶ月に 1 回の間隔で、養殖コンブ 1 株を採取し
た。採取したコンブは、本数及び全重量を測定後、大型の 30 個体を抽出して、その形態的特長、生長及び
湯通し塩蔵コンブ製品で品質低下をもたらす黒斑点の発生状況を調査した。
<結果の概要・要約>
1 養殖ワカメの性状調査
葉長の平均値は、調査開始時(田老:1月10日、吉里吉里:1月16日、越喜来1月15日)には、田老は50.7cm
(図1)
、吉里吉里は46.1cm(図2)
、越喜来は43.9cm(図3)であり、田老は平成18、19年産並、吉里吉
里は平成18年産並み、越喜来は平成18、19年産よりも低めの値であった。その後の生長は、田老は調査終了
時(5月9日)まで平成18、19年産並みの値で推移した。吉里吉里は、3月下旬まで平成18、19年産よりも低
めであったが、その後調査終了時(4月23日)には平成18年産並みになった。越喜来は、3月上旬までは平成18、
19年産よりも低めの値であったが、その後は調査終了時(4月16日)には平成18、19年産並みの値となった。
葉重の平均値は、調査開始時には、田老は 12.3g(図4)
、吉里吉里は 13.5g(図5)
、越喜来は 16.2g(図
6)であり、全地点で平成 18、19 年産よりも低い値であった。その後の生長は、田老は調査終了時まで平
成 18、19 年産並みの値で推移した。吉里吉里は 3 月下旬までは平成 18、19 年産よりも低めの値であった
が、その後調査終了時には例年並となった。越喜来は 3 月上旬までは平成 18、19 年産よりも低めの値であ
ったが、調査終了時には平成 18、19 年産並みの値となった。
養殖綱 1m当たりの生産量は、調査開始時には、田老は 0.8kg/m(図7)
、吉里吉里は 0.5kg/m(図8)
、
越喜来は 0.6kg/m(図9)であり、全地点で平成 18、19 年産よりも低い値であった。その後の増重は、田
老は調査終了時まで平成 19 年産と同様に推移した。吉里吉里は 3 月下旬までは平成 18、19 年産よりも低め
の値であったが、その後調査終了時には例年並となった。越喜来は調査終了時まで低い値で推移した。また、
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一般的に養殖綱 1m当り生育量が 15kg/m 以上になると収穫可能であるとされているが、平成 20 年は田老で
は 3 月上旬、吉里吉里では 3 月下旬、越喜来では 3 月中旬に 15kg/m 以上に達した。
日間生長は、田老では 1 月 24 日から約 2 週間おきに計 8 回の計測を行った。計測開始時の日間生長は平
均 22.7mm/day、2 月上旬には 27.8mm/day であったが、その後は減少傾向を示し、5 月 9 日の計測終了時
の値は 16.7mm/day であった(図10)
。越喜来では 1 月 29 日から約 2 週間おきに計 6 回の計測を行った。
計測開始時の日間生長は平均 27.6mm/day、2 月上旬には 28.8mm/day であったが、その後は減少傾向を示
し、4 月 16 日の計測終了時には 17.0mm/day となった(図11)
。
2 養殖ワカメの病虫害発生状況調査
(1) タレストリス
田老で 3 月上旬、吉里吉里で 1 月下旬、越喜来で 2 月下旬以降に確認されたが、漁場内でこれらが蔓
延することはなかった。
(2) ワカメヤドリミドロ
田老で 2 月中旬、
越喜来で 1 月下旬以降に確認されたが、
漁場内でこれらが蔓延することはなかった。
(3) 斑点性先腐れ症
田老で 3 月上旬、吉里吉里で 3 月中旬、越喜来で 2 月下旬以降に確認された。
3 コンブ黒斑点発生状況調査
調査開始時(2 月 9 日)には黒斑点の発生は認められなかったが、3 月の調査時には黒斑点が確認される
ようになり、以後調査終了時(7 月 23 日)まで黒斑点の確認は認められた。
また、黒斑点の発生が著しく、出荷に適さない個体(
「発生」
)は 5 月から 7 月の間で認められるようにな
った。
(図12)
<主要成果の具体的なデータ>
300
250
200
200
150
H18
100
H19
50
H20
葉長( cm)
葉長(cm)
250
2月
3月
4月
5月
H19
H20
0
6月
1月
調査時期
2月
3月
4月
5月
6月
調査時期
図1 田老地先におけるワカメの葉長
図2 吉里吉里地先におけるワカメの葉長
250
800
200
600
150
H18
100
葉重(g)
葉長(cm)
H18
100
50
0
1月
150
H19
50
400
H18
H19
200
H20
H20
0
0
1月
2月
3月
4月
5月
1月
6月
2月
3月
4月
5月
調査時期
調査時期
図3 越喜来地先におけるワカメの葉長
図4 田老地先におけるワカメの葉重
-59-
6月
800
600
600
400
葉重(g)
葉重(g)
800
H18
H19
200
400
H18
H19
200
H20
H20
0
0
1月
2月
3月
4月
5月
1月
6月
60
60
50
50
40
30
H18
20
H19
10
生産量( kg/m)
生産量(kg/m)
4月
5月
6月
図6 越喜来地先におけるワカメの葉重
H20
40
30
H18
20
H19
10
H20
0
0
1月
2月
3月
4月
5月
1月
6月
調査時期
60
2月
3月
4月
調査時期
5月
H18
H18
50
日間生長(cm/日)
H19
40
6月
図8 吉里吉里地先におけるワカメ養殖綱1mあたりの生産量
図7 田老地先におけるワカメ養殖綱1mあたりの生産量
生産量(kg/m)
3月
調査時期
調査時期
図5 吉里吉里地先におけるワカメの葉重
H20
30
20
10
0
4
H19
3
H20
2
1
0
1月
2月
3月
4月
5月
6月
調査時期
4
H18
H19
H20
3
2
1
0
1月
2月
3月
4月
5月
1月
2月
3月
4月
5月
調査時期
図10 田老地先におけるワカメの日間生長
図9 越喜来地先におけるワカメ養殖綱1mあたりの生産量
日間生長(cm/day)
2月
6月
調査時期
図11 越喜来地先におけるワカメ日間生長
-60-
6月
100%
80%
60%
40%
20%
月
6
月
4
2
月
0%
図12 黒斑点発生状況(平成19年)
発生
発生を確認
発生なし
<今後の問題点>
1 養殖ワカメに発生する多種多様な病虫害についての発生機構が解明されていない。
2 コンブ黒斑点の発生機構についてはモニタリング調査のみであり、発生の現象面の把握に限られている。
<次年度の具体的計画>
1 養殖ワカメ養成期間中、隔週で宮古市田老および大槌町吉里吉里の 2 漁場で病虫害発生状況を調査すると
ともに、県下全域を対象とした病虫害発生状況の情報収集を行う。
2 普代村堀内地先を定点として、モニタリング調査に加えて、異なる養殖密度(5 本/株、20 本/株、無調整
株)で養殖したコンブの生育状況と黒斑点の発生状況を観察する。調査は 2 月に密度設定を行なった後、
6 月に観察を実施する。
<結果の発表・活用状況等>
1 浅海増養殖技術検討会
2 わかめ代表者研修会
3 水産技術センター出前フォーラム
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