単層耐震壁の最大強度に関する研究 - 工学院大学

工学院大学建築系学科小野里研究室 2002 年度卒業論文梗概
単層耐震壁の最大強度に関する研究
D2-99092
渡辺
慎吾
および縦横補強筋から構成される。軸力バネは引張域で
1.はじめに
鉄筋コンクリート造耐震壁の最大強度の評価は,多く
引張側主筋を,圧縮域で圧縮側主筋と柱断面の半分のコ
の場合,上下梁が剛強として扱うことのできる連層耐震
ンクリートを表し,それぞれ主筋重心位置にある。また
壁を対象としている。しかし,耐震壁が連層ではなく中
完全弾塑性則にしたがうものとする[2]。
間層に配置されることは設計上少なくないのにもかかわ
N
らず,上下梁が剛強として扱うことのできない単層耐震
M
上梁剛体
Q
壁についての研究は数が少ない。そこで本研究は,単層
縦引張補強筋
横引張補強筋
せん断バネ
耐震壁に対して弾塑性解析モデルを用いて最大強度の評
h'
価を行うことを目的としている。
側柱
側柱
⊿h
剛体
θ
2.連層耐震壁と単層耐震壁
下梁剛体
軸力バネ
2.1 連層耐震壁
圧縮ストラット
D
連層耐震壁は,図-1 のように耐震壁が複数の層にわた
って連続して配置されているもので,全体が非常に大き
図-3
D
l '
上下梁を剛体と扱った弾塑性解析モデル
図2 弾塑性解析モデル
な 1 個の構造体となる。靱性を確保することが容易で,
上梁
縦補強筋
横補強筋
h'
側柱
きるため単層耐震壁に比べて高い精度で最大強度を予測
せん断バネ
⊿h
できる。
側柱
場合,耐震壁は上梁と下梁が剛強であるという扱いがで
BD
地震力に対する剛性と強度を高めることができる。この
2.2 単層耐震壁
剛体
要素
単層耐震壁は,図-2 のように耐震壁が連続しておらず,
BD
θ
設計の段階で周囲と比べて構造上弱い部分などに配置さ
れる。耐震壁の上下関係が考慮されずに配置されている
ため,上梁・下梁が剛強でない場合が多く,また配置に
下梁
圧縮ストラット
'
CD
⊿
CD
図-4
軸力バネ
上下梁を分割した弾塑性解析モデル
よっては柱・梁フレームの破壊にもとづく脆性破壊を起
こしやすい。単層耐震壁は連層耐震壁に比べて設計上の
自由度が高いが信頼性は低下してしまう。
4.単層耐震壁における弾塑性解析モデルの妥当性
表-1 に試験体の形状と解析結果の一覧を示す。対象と
した試験体は,上下梁の断面が柱と同程度またはそれ以
下のもの 17 体である。圧縮ストラットの傾斜角は,柱梁
の拘束に応じて変化する。このため,上下梁が剛強の場
合に相応する元モデルによる角度を元モデルの角度,柱
梁の拘束が小さい場合に観測されたひび割れから,柱梁
フレームの対角線と等しい角度を対角線の角度と設定し
解析を行うこととした。元モデルについては文献[3]に詳
図-1
連層耐震壁
図-2
単層耐震壁
細に述べられている。表-1 の解析結果から,圧縮ストラ
ットの角度を対角線の角度と設定したときにより高い解
3.弾塑性解析モデルの概要
析精度を得られることがわかる。
図-3 に上下梁を剛体と扱った弾塑性解析モデルを示す。
このモデルは剛体要素,軸力バネ,せん断力バネ,圧縮
ストラット,縦横補強筋で構成される[1]。
5.上下梁の主筋量をパラメータとした弾塑性解析
連層耐震壁においては,上下梁が剛強であるという扱
図-4 に上下梁を分割した弾塑性解析モデルを示す。弾塑
いができる。しかし単層耐震壁の場合,剛強であるとい
性解析モデルは,剛体要素とこれと連結する軸力バネ,
う扱いができないため,上下梁の強度について考慮する
せん断力バネからなる両側柱と上下梁,圧縮ストラット,
必要がある。そこで上下梁の主筋量をパラメータとし,
D2-99092
表-1
試験体の形状と解析結果
σB
ps
h’
t
’
Cgσy
Bgσy
sσy 梁のN0
破壊
Cpg
Cpw
Bpg
Bpw
pg
cgσy 2Bpg
ps
N0
σB
No. 試験体名
t
実験値 2
解析値
Cb
CD
Bb
BD
Bgσy
s2σy
' h'
2
強度係数
No. 試験体名 (mm)
形式
(mm) (mm) C (%)
(mm)
(mm)
(mm)
(%)
(%)
(%)
(%)
(kN)
(mm)
(N/mm
)
(N/mm
)
(N/mm
)
(N/mm
2
2
2
2
Qexp(kN) )元モデルの角度 対角線の角度
(mm) (mm) (mm) (mm) (mm) (mm) (mm) (%) (N/mm ) (%) (N/mm ) (%) (N/mm ) (kN) (N/mm )
C
WSL
1 0.35FW-1
0.35 19.1
167.7 0.14
33.3
0.35FW-1
65 100
65 100 630 420
20 1.74 383.5 1.74 383.5 0.35 167.7
99.4
0.0
94.6
98.2
WSL
2 10.35FW-2
0.35FW-2
65 100
65 100 630 420
20 1.74
99.4
0.14
93.5
98.2
WSL
1.74 383.5
383.51.740.62383.5
1.74 0.35
383.5167.7
0.62 0.0
3 20.7FW-1
0.70 19.1
0.70FW-1
65 100
65 100 630 420
20 1.74 383.5 1.74 383.5 0.70 191.2
19.1
109.0
0.0
107.4
111.6
WSL
191.2 0.14
35.5
4 31.05FW-1
1.05 19.1
1.05FW-1
65 100
65 100 630 420
20 1.74 383.5 1.74 383.5 1.05 191.2
116.3
0.0
0.15
113.5
111.5
WSL
5 41.05FW-2
65 100
65 100 630 420
20
1.74
19.1
116.3
5 1.05FW-2
1.74
383.5
383.5
1.05
191.2
0.0
0.15
116.6
111.5
BSF
20
6 20W-0.2F-1
0.20393.3 0.35 217.4
0.20 0.0
20W-0.2F-1
65 100
65 100 630 420
20 1.97 393.3 1.97
19.1
107.0
0.18
90.6
101.0
BSF
7 620W-0.2F-2
65 65 100
420 20 1.97 259.4 1.97 393.3 0.35 217.4 0.0
0.0
20W-0.2F-2
100 6565 100
100 630
630 420
19.1
107.0
0.18
95.4
101.0
WSL
8 720W-0.6F-1
393.3 1.970.60393.3 0.35
393.3217.4
0.60 0.0
32.3
20W-0.6F-1
65 100
65 100 630 420
20 1.97 259.4
19.1
107.0
0.18
95.0
101.0
WSL
9 820W-0.6F-2
20W-0.6F-2
65 100
65 100 630 420
20 1.97 196.2 1.97 393.3 0.35 217.4
107.0
0.0
93.8
101.0
WSL
1.97
1.97
0.35 32.6
217.4 0.18
10 920W-1.2F-1
1.20393.3 0.35 217.4
1.20 0.0
20W-1.2F-1
65 100
65 100 630 420
20 1.97 196.2 1.97
32.6
107.0
0.18
110.6
101.0
WSL
111020W-1.2F-2
20W-1.2F-2
65 100
65 100 630 420
20 1.97 196.2 1.97 393.3 0.35 217.4
32.6
107.0
0.18
114.6
101.0
BSF
121135W-0.5F-1
0.48
0.48 0.0
28.5
35W-0.5F-1
65 100
65 100 630 420
35 1.97 196.2 1.97 394.8 0.35 217.4
32.6
139.5
0.12
122.2 BSF,WSL
137.8
35
394.8 0.76
394.8 0.76 0.0
131235W-0.8F-1
25.6
35W-0.8F-1
65 100
65 100 630 420
35 1.97 180.1 1.97 394.8 0.35 217.4
24.6
132.3
0.13
119.1
131.1
WSL
141335W-1.2F-1
1.24
1.24 0.0
21.0
35W-1.2F-1
65 100
65 100 630 420
35 1.97 180.1 1.97 394.8 0.35 217.4
24.6
120.6
0.0
110.6
115.2
BSF
15140.20-0.0-RCW
0.20 217.4 0.16
34.8
0.20-0.0-RCW
120 120 100 120 1080 600
40
24.6
370.3
0.08
180.1
BSF
1.98 180.1
403.92.370.66403.9
2.37 0.20
403.9217.4
0.6642.4
42.4 265.0
16150.35-0.0-RCW 120 120 100 120 1080 600 40 1.98
0.35
33.5
198.6 0.08
120 120 100 120 1080 600
40 1.98 180.1 2.37 403.9 0.35 198.6 42.4
24.6
364.9
16 0.35-0.0-RCW
288.1
200.5
WSL
17 0.70-0.0-RCW
0.70
30.5
Cb
17 0.70-0.0-RCW
【記号】Cb:柱幅
CD
120
120
Bb
100
CD:柱せい
Cpg:柱全主筋比
BD
120 1080
Bb:梁幅
600
40 1.98
BD:梁せい
Cgσy:柱主筋降伏強度
208.6 2.37
403.9
0.70
198.6
42.4
0.10
30.3
271.1
246.3
’
:壁板の内法幅 h’
:壁板の内法高さ t:壁板の厚さ
Cpw:帯筋比
Bpg:梁全主筋比
Bgσy:梁主筋降伏強度
Bpw:あばら筋比
ps:壁補強筋比 sσy:壁補強筋の降伏強度 N0:柱 1 本あたりの軸力 σB:コンクリート 1 軸圧縮強度
BSL:梁のせん断破壊 WSL:壁板のスリップ破壊
表-2
349.0
平均
標準偏差
変動係数
主筋量を変化させた解析値/元モデルの算定値
弾塑性解析を行う。表-2 に解析の対象として設定した試
験体モデルの形状と解析結果を示す。試験体モデルは上
下梁の断面が柱の断面以下であるとして設定する。解析
方法は,圧縮ストラットの傾斜角を元モデルから得られ
る角度と,対角線の角度の間の角度を用いて解析を行う。
また上下梁の強さの指標として,梁の強度係数 C を設定
する。C は次式から算定される。
C=M u/M s
M u=0.9at・σ y・d
M u :梁の曲げ強度
0.96
0.95
0.96
1.02
1.05
0.90
0.94
0.94
0.93
1.10
1.14
0.89
0.91
0.96
1.47
1.44
1.10
1.038
0.173
0.167
対角線の角度
0.95
0.94
0.98
0.98
1.00
0.85
0.89
0.89
0.88
1.03
1.07
0.88
0.90
0.92
0.72
0.79
0.78
0.908
0.093
0.103
解析の対象として設定した試験体モデル
cgσy
ps
σB
b
h'
t
実験値 元モデル
''
Cpg
B pg
Bgσy
sσ y
CD
Bb
BD
No. C
(kN)
(mm) (mm) (mm) (mm) (mm) (mm) (mm) (%) (N/mm2) (%) (N/mm2) (%) (N/mm2) (N/mm2) (kN)
1 300 300 200 300 2400 1600
60 0.88 279.5 1.33 279.5 0.18 279.5
16.7
956.2
948.5
ここで,
解析精度
元モデルの角度
M s=w・  '2 /8
破壊形式
壁のせん断
元モデル
M s :梁の曲げ応力
at
:梁の引張主筋断面積
σ y :主筋の降伏強度
d
:梁の有効せい
'2 :梁の内法高さ
w
:壁板が梁にあたえる単位長さあたりの垂直力
=(0.63σ B/2-p s・ sσ y)t
強度係数C
図-5
No.1 の試験体の解析結果
6.まとめ
図-5 は圧縮ストラットの傾斜角を,対角線の角度から
本研究では次のことを示した。
元モデルの角度まで用いて解析した結果を示したもので
1)
ある。図中の縦軸は主筋量を変化させ得られる解析値と
対角線の角度を用いた弾塑性解析モデルは,単層
耐震壁の最大強度を比較的精度よく評価できる。
元モデルの算定値の比をとったもので,横軸は強度係数
2)
単層耐震壁の最大強度の解析を精度よく行うこと
C をとったものである。強度係数 C=0.1~0.5 の間で解析
のできる圧縮ストラットの傾斜角は,強度係数 C
値が最大となる角度は変化している。強度係数の小さい
が小さい領域では対角線の角度である。また,強
範囲では対角線の角度が最大の解析値となり,強度係数
度係数 C が大きくなるにつれて元モデルの角度へ
が大きい範囲では元モデルから得られる角度を用いた解
と移行する。
析が最大の値となっている。このことから,圧縮ストラ
ットの傾斜角を,対角線の角度からから元モデルの角度
[1]
の間の角度とした解析値は,対角線の角度と元モデルの
角度を用いて得られる解析曲線の折れ曲がり点を結んだ
[2]
直線状にあることがわかる。
[3]
D2-99092
参考文献
鈴木章司他:連層耐震壁のスケルトンカーブの解析(その 2),日本
建 築 学 会 大 会 学 術 講 演 梗 概 集 ( 東 北 ) , C , 構 造 Ⅱ , 2992 ,
pp.397-398,1991.9
小野 里憲 一他 : マク ロモ デル によ る 単独 耐震 壁の 弾塑 性 解析 ,コ
ンクリート工学年次論文報告集,Vol.12,No.2,pp575~580,1990
望月 洵他 :連 層 耐震 壁の マク ロモ デ ルと その 解析 法, コ ンク リー
ト工学論文集,Vol.1,No.1,pp121~132,1990.1