DNAフラグメント多型解析法による食中毒事例等 離 Bacillus cereus

道衛研所報 Rep. Hokkaido Inst. Pub. Health, 57, 69-72(2007)
DNA フラグメント多型解析法による食中毒事例等
Bacillus cereus 菌株の系統 析
離
DNA Fragment Length Polymorphism Analysis of Bacillus cereus Isolates
from Several Food Poisoning Outbreak
山口 敬治
間 明美
森本
洋
池田 徹也
Keiji YAMAGUCHI, Akemi KUZUMA, Yo M ORIMOTO and Tetsuya IKEDA
;PFGE(パルスフィールドゲル電気泳動)
;RAPD-PCR;
Key words:Bacillus cereus(セレウス菌)
repetitive sequence-based PCR(繰り返し配列 PCR)
セレウス菌 Bacillus cereus はグラム陽性通性嫌気性芽
胞形成桿菌であり,土壌,塵埃,河川などの自然環境中に
れらの PCR フラグメント解析は RAPD-PCR 法と同様に
存在している .セレウス食中毒は,これら自然環境から
PCR 法が基礎となっているため,短時間に結果を得るこ
とができる.
農畜産物等を介してセレウス菌芽胞が食品を汚染し,加熱
平成 18年北海道内で嘔吐毒産生セレウス菌による食中
により芽胞を形成しない菌が死滅するなどの条件が整った
毒が発生し,疫学的に起源が同一と えられる食品・患者
場合に増殖し,それにより発生すると えられる.しかし, 由来の菌株が
セレウス食中毒は事例数が少なく ,食中毒発生時に行う
B.cereus 株を併せて,DNA フラグメント多型解析法を
用いて,菌株の識別を行い,有用性の比較検討を行ったの
細菌検査において,食品から検出されない場合が多い.
セレウス食中毒発生時の原因究明調査では,H血清型及
で報告する.
びファージ型を指標として原因菌の由来の特定が行われ
る .しかし,これらを
一般の検査機関では用いられていない.
法
1.試験材料
子疫学解析が
10株の B.cereus を 用した.嘔吐毒産生株として5株,
盛んになってきた.その中で RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)法 の 一 種 で あ る パ ル ス
すなわち,平成 18年食中毒事例原因食品由来1株(No.
フィールドゲル電気泳動(PFGE)法は事実上の標準法と
1株(No.5).下痢毒産生株として5株,すなわち,検食
からの 離株1株(No.6)
,自然環境由来1株(No.7)
,
して,
離菌株の疫学解析に多用されており ,セレウス
食中毒事例も,
▶
組
注
意
方
用できる機関は一部にとどまり,
近年,遺伝子型を様々な手法で 析する
離されたことから,当所に保存してあった
1)
,同患者由来株3株(No.2,3,4)
,嘔吐毒産生対照株
離株について PFGE 法を用いて
析さ
食中毒事例の食品由来1株(No.8),同事例患者由来2株
.PCR(Polymerase Chain Re- (No.9,10)であった.
2.PFGE 法及び PCR-DNA フラグメント多型解析法
action)法を基礎とした方法は,DNA を抽出した後迅速
れ る よ う に なった
に試験が行える利点があり,中でも Randomly amplified
B.cereus 菌株の系統を識別するため,次の 5 種 類 の
polymorphic DNA (RAPD)-PCR 法は過去に多用された . DNA フ ラ グ メ ン ト 多 型 解 析 法 を 用 い た.す な わ ち,
現在,繰り返し配列を利用した PCR 法を用いた 子疫学
PFGE 法 ,RAPD-PCR 法 ,REP-PCR ,BOX-PCR
解析が利用されはじめている
.それらには Repetitive
Extragenic Palindromic sequence (REP)-PCR,Enterobacterial Repetitive Intergenic Consensus (ERIC)-PCR,
BOX element (BOX)-PCR,M ultiple-Locus Variablenumber tandem repeat Analysis (MLVA) 等がある.こ
及び(GTG) -PCR である.
1)PFGE 用プラグ作成ならびに DNA の抽出
コロニーから釣菌し,LB ブロス(Difco,USA)に接種
後 37℃で一夜培養した.2本のマイクロチューブに培養
液を1mL ずつ無菌的に
取し,1本を PFGE プラグ作
成用,他の1本を DNA 抽出用とした.PFGE 用プラグ
は Liu et al. に従い作成した.制限酵素は Not I,Sma I
小 市保 所 康増進課
69
(New England Biolab, UK)を用い,それぞれ 50U/plug
の濃度で 37℃,6時間消化した.一方,DNA の抽出精製
間泳動した.泳動後,ゲルを臭化エチジウム(1μg/
mL) で 染 色 し た . 泳 動 像 は , UV 照 射 下 で
PHOTODYNE を用いて TIFF ファイル化し保存した.
は DNeasy Tissue Kit(QIAGEN, Germany)を用いて
用説明書に従った.
4)繰り返し配列 PCR 法
2)PFGE 法
REP-PCR 法 , BOX-PCR 法 ,( GTG) -PCR 法
は,それぞれの PCR mixture に DNA 鋳型を添加し,次
PFGE の条件は,1%PFC アガロースゲルを担体とし,
0.5×TBE(Tris-Borate-EDTA)緩衝液下にて,電圧6
の PCR 増幅条件で行った .まず 95℃で7 間反応させ,
V/cm,液温 14℃で 18時間泳動とした.スイッチタイム
は Not I では1∼50秒間,Sma I では1∼35秒間とした.
その後 90℃で 0.5
間,45℃で1
間,65℃で5
泳動後,ゲルを臭化エチジウム(1μg/mL)で染色した.
た.1%PFC ア ガ ロース ゲ ル を 泳 動 用 担 体 と し,1×
UV 照射下で泳動像を PHOTODYNE(Atto, Tokyo)に
て TIFF ファイル化し,次い で BioNumerics ver. 3.0
TBE 緩衝液下で Subcell 192 システム(BioRad, USA)
を用いて,100V で 90 間泳動した.泳動後,ゲルを臭
(Applied M aths, Belgium)を用いて Dice 法により解析
した.なお,クラスター 析には,Tolerance 1.5%の条
化エチジウム(1μg/mL)で染色した.泳動像は,UV
照射下で PHOTODYNE により TIFF ファイル化し保存
サイクルを 30回行い,最後に 70℃で 10
件で Unweighted Pair Group M ethod with arithmetic
Average 法を用いた.
間の
間の反応とし
した.
結果及び
3)RAPD-PCR 法
RAPD-PCR には,牧野 による AP40,AP41,AP42,
AP43,AP45,AP47 の6 種 類 の プ ラ イ マーを 用 い た.
察
PFGE 法により解析した B.cereus 10株の結果を Fig.
1a 及び 1b に示した.Fig. 1a は制限酵素として Not I を
PCR の反応条件は,94℃で5 間,36℃で5 間,72℃
で5 間のサイクルを4回行い,その後 94℃で1 間,
泳 動 像 は A(No.1∼4),B(No.5)
,C(No.6),D(No.
36℃で1
間のサイクルを 30回行い,最
7)
,E(No.8)
,F(No.9,10)の6種類のタイプに識別
後に 72℃で 10 間の反応とした.2% GTG アガロース
ゲルを泳動用担体とし,1×TAE 緩衝液下で 100V,90
された(Table 1)
.嘔吐毒産生株では,原因食品 離株
(No.1)と患者由来株(No.2∼4)が同じタイプに識別さ
間,72℃で2
用した泳動像及び菌株間の相同性を表す樹状図である.
Fig.1a Phylogenic Tree of PFGE Pattern by Not I Digestion
The electrophoresis patterns were emphasized by a computer software.
Fig.1b Phylogenic Tree of PFGE Pattern by Sma I Digestion
The electrophoresis patterns were emphasized by a computer software.
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れた.一方,下痢毒産生株では,患者由来の菌株(No.9,
RAPD-PCR 法によるそれらと異なる結果を示した.すな
わち,(GTG) -PCR では食中毒由来株(No.1∼4)と嘔
10)が同じグループに識別された.Fig.1b は Sma I 処理
によるものを示したが,泳動パターンは Not I のものと同
吐毒産生対照株(No.5)が識別不能であり,REP-PCR,
BOX-PCR では食中毒由来株(No.1,3,4)と嘔吐毒産
様の結果が得られた.下痢型食中毒事例の食品ならびに患
者から
離された菌株(No.8ならびに No.9,10)は,
PFGE 型が異なる(タイプEとタイプF)のみならず生
化学性状も異なった(データは示さない)
.従って,No.8
は食品残品から 離されたものの食中毒原因菌でないこと
が,遺伝子型からも証明されたと
よる系統
▶
組
注
意
えられる.PFGE に
類を行う場合,菌の種類によって用いる制限酵
素を選択しなければならない.例えば Salmonella Enteritidis では以前 Xba I が用いられていたが,現在は識別能
の良い Bln I が用いられている.Liu et al. は8種類の制
限酵素を検討し,B.cereus の PFGE には Sma I が最も適
しており,Bln I は識別能が低いとしている.今回の結果
は Not I,Sma I 共に良好な識別能を示したことから,山
口らの報告に示されているように ,どちらの制限酵素も
セレウス食中毒発生時の 子疫学解析に利用できると え
られる.
Fig.2a Fragment Pattern by RAPD-PCR
with Primer AP41
RAPD-PCR 法により増幅した DNA フラグメントの泳
動像を Fig.2a 及び Fig.2b に示した.6 種 類 の プ ラ イ
マーを
用したなかで,AP41 及び AP42 の結果を示した.
この2種のプライマーを 用した場合,PFGE と同様に,
試験に供した B.cereus 10株を6種類のタイプに識別する
こ と が で き た(Table 1)
.RAPD-PCR は PFGE 法 に 比
較して,はるかに迅速に遺伝子解析が可能である.このこ
とから,AP41 及び AP42 プライマーによる RAPD-PCR
は,
離した B.cereus 菌株の識別に有効な手段の一つで
あると えられた.
REP-PCR 法,BOX-PCR 法 及 び(GTG) -PCR 法 に
より得た泳動像をそれぞれ Fig.3∼5に示した.下痢毒産
生性セレウス食中毒患者菌株(No.9,10)は同一グルー
プとして識別されたが,嘔吐毒産生性 B. cereus 菌株の泳
動像は,PFGE 法,AP41 や AP42 プライマーを 用した
Fig.2b Fragment Pattern by RAPD-PCR
with Primer AP42
Table 1 Bacillus cereus Isolates and Their Groups by PFGE, RAPD-PCR
and rep-PCR Based on the Fragment Pattern
No.
RAPD-PCR
PFGE
Origin
rep-PCR
Sma I Not I AP40 AP41 AP42 AP43 AP45 AP47
REP-PCR (GTG) -PCR BOX-PCR
1
food
2
feces
3
feces
4
feces
5 emetic toxin strain
fried rice
patient 1
patient 2
patient 3
A
A
A
A
B
A
A
A
A
B
A
A
A
A
A
A
A
A
A
B
A
A
A
A
B
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
G
A
A
B
A
A
A
A
A
A
G
A
A
B
6
7
8
9
10
cabbage
sand
spinach
patient 1
patient 2
C
D
E
F
F
C
D
E
F
F
C
D
E
F
F
C
D
E
F
F
C
D
E
F
F
C
D
E
F
F
C
D
E
F
F
C
D
E
F
F
C
D
E
F
F
C
D
E
F
F
C
D
E
F
F
food
environment
food
vomit
feces
No.1-5:Cereulide producing Bacillus cereus
No.6-10:Enterotoxin producing Bacillus cereus
rep-PCR:Repetitive sequence based PCR
71
Fig.3 Fragment Pattern by REP-PCR
Fig.5 Fragment Pattern by (GTG) -PCR
文
Fig.4 Fragment Pattern by BOX-PCR
生対照株(No.5)が識別できるものの,食中毒由来株の
中で No.2が他の株と異なる泳動像を示した.このことは,
REP-PCR 法,BOX-PCR 法 及 び(GTG) -PCR 法 を B.
cereus 菌株の識別に活用するためには,識別指標とする
DNA 領域を新たに設定する必要があることを示唆してい
ると えられる.
今回実施した B.cereus 菌株の DNA フラグメント多型
解析では,PFGE 法や RAPD-PCR 法が系統 類に有効
であることが示された.しかし,PFGE 法では,操作の
煩雑さとともに試験に時間を要する.また RAPD-PCR
法は,菌株の同定
や種内変異
の検討に
用されてい
るものの,再現性に問題があることが指摘されている .
行政検査には,迅速簡 さに加えて高い再現性が求められ
る.今 後,迅 速・簡
で再現性の高い結果が得られる
PCR-増幅 DNA フラグメント多型解析法を検索していく
ことが重要であろう.
72
献
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白石廣行,後藤つね子,日野久美子,氏家雪乃,小林妙
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