福岡県工業技術センター 研究報告 No. 19 (2009) 水溶性テトラゾリウム塩を用いた微生物増殖アッセイ 塚谷 忠之 *1 末永 光 *1 樋口 智子 *1 赤尾 哲之 *1 石山 宗孝 *2 江副 公俊 *2 松本 清 *3 Colorimetric Cell Proliferation Assay for Microorganisms in Microtiter Plate Using Water-soluble Tetrazolium Salts Tadayuki Tsukatani*1, Hikaru Suenaga*1, Tomoko Higuchi*1, Tetsuyuki Akao*1, Munetaka Ishiyama*2, Takatoshi Ezoe*2 and Kiyoshi Matsumoto*3 本研究では,微生物によるメディエータ代謝活性を利用した水溶性テトラゾリウム塩還元法による微生物簡 易検出法の開発を試みた。発酵微生物 5 種類及び食中毒菌 6 種類を検出対象として,これらの微生物を培養した 標準培地に電子メディエータ(ベンゾキノン類,ナフトキノン類,アントラキノン類,フェナジン類)及び水溶 性テトラゾリウム塩(WST-1,4,5,8,9,XTT)を添加し,一定時間反応後,マイクロプレートリーダで吸光 度を測定した。検討の結果,微生物によるメディエータの代謝活性,電子メディエータとテトラゾリウム塩との 反応性,培地成分の影響を考慮して,2-methyl-1,4-naphthoquinone(NQ)及び WST-8 の組み合わせが最適であった。 2-Methyl-1,4-NQ/WST-8 系を用いた手法により各種微生物を定量的に検出することができた。 1 はじめに 準培地を用いて種々の菌体密度の菌懸濁液を作製した。 薬剤感受性試験や抗菌性物質スクリーニング,食中 次に96ウェルマイクロプレートに各密度の菌液を190 毒菌検査など微生物の生存率測定は様々な分野で注目 μlずつ分注した。さらに各ウェルへ検出試薬10μlを されている技術である。微生物の生存率測定は一般的 添加し,吸光マイクロプレートリーダで460nmにおけ にコロニー形成能で目視評価されるが,長い時間がか る吸光度を15分おきに24時間まで経時的に測定した。 かったり操作に熟練を要したりと煩雑な点が多い。そ O3S S O3 O3S こで,微生物の生存率を迅速かつ簡便に測定すること N N N N O2 Na H3C O を目的として,水溶性テトラゾリウム塩を用いた微生 S O3 N N N NH N H3C O N O2 N O2 WST-8 物検出法を開発し,各種微生物の増殖アッセイへ適用 N O2 Meadiator (Red.) Meadiator (Ox.) WST-8 formazan Orange color (λmax 460nm) した。 NADH, NADPH Microbial cell 2 研究,実験方法 NAD+, NADP+ 2-1 測定原理 図1 NADH(NADPH)はエネルギー代謝活動に関与する補酵 測定原理 素であり,生命体の活動をつかさどっている。微生物 はこの補酵素を利用することで外部から供給されたキ 3 結果及び考察 ノン化合物を還元し,ヒドロキノンを生成することが 3-1 最適条件の確立 できる。ここへ還元発色試薬である水溶性テトラゾリ 図 1 の測定原理を利用した微生物検出法の最適化を ウム塩が共存すると,生成したヒドロキノンにより還 行った。最適化については,①様々な微生物をオール 元を受けてホルマザン色素が生成する(図1)。この ラウンドに検出できること,②感度良く微生物を検出 一連の反応は微生物の代謝反応を介して起こることか できること,③培地成分の影響を受けないことを考慮 ら,生成した色素量は微生物の代謝活性に比例する。 して最適な電子メディエータと水溶性テトラゾリウム 2-2 増殖アッセイ 塩の組み合わせの選抜を行った。 まず,電子メディエータの選抜については,様々な 各種微生物を最適な培地,温度で18時間培養し,標 微生物をオールラウンドに検出できることを考慮して *1 生物食品研究所、 *2 ㈱同仁化学研究所 *3 九州大学 検討を行った。キノン類及びフェナジン類の誘導体27 - 127 - 福岡県工業技術センター 研究報告 No. 19 (2009) 種類の電子メディエータに対する各種微生物(発酵微 3-2 各種微生物の増殖アッセイ 生物5種類及び食中毒菌6種類)の代謝活性を比較した 本法を酵母3種類,グラム陽性菌9種類,グラム陰性 ところ,2-methyl-1,4-NQにおいてすべての微生物に 菌10種類の検出へ適用した。表1は1時間あるいは4時 良好な代謝がみられた。 間のインキュベーションで吸光度変化0.5を示すに必 水溶性テトラゾリウム塩の選抜については,感度と 要な菌体密度を比較したものである。グラム陽性菌は 精度の両面を考慮して検討を行った。水溶性テトラゾ グラム陰性菌に比べて1桁高い検出感度を示した。ま リウム塩としては同仁化学研究所製のWST-1,4,5,8,9 た,すべての菌種において検出時間と菌体密度の間に 及び市販品であるXTTを検討に用いた。感度について 直線関係が得られ,本法による定量性が確認された。 は電子メディエータ2-methyl-1,4-NQとの反応性が高 いことを指標に,精度については培地成分による非特 4 まとめ 異的な水溶性テトラゾリウム塩の還元,すなわちバッ 電 子 メ デ ィ エ ー タ と し て 2-Methyl-1,4-NQ, 水 溶 性 クグラウンドの上昇が抑えられることを考慮して選抜 テトラゾリウム塩としてWST-8を用いた測定法により, を行った。清酒酵母(真菌),サルモネラ菌(グラム 培地の影響を受けることなく,感度良く各種微生物を 陰性菌)及び黄色ブドウ球菌(グラム陽性菌)を用い, 定量的に検出することができた。本法は迅速な薬剤感 各種水溶性テトラゾリウム塩による発色度を比較した 受性試験や抗菌性物質のスクリーニングへ適用可能で ところ,WST-8及びXTTが高い発色を示すことがわかっ あると考えられる。 た(図2)。次に水溶性テトラゾリウム塩としてWST-8 及びXTTを用いて各種培地成分や種々の市販培地の影 表1 響を検討したところ,XTTではいくつかの培地成分や 特にペプトンと糖類から生成するメイラード反応物が XTTの 非 特 異 的 還 元 に 大 き く 関 与 し て い た 。 一 方 , WST-8では培地の共存成分による非特異的還元は低く 抑えられた。 2.0 Absorbance 1.5 1.0 0.0 Bacillus cereus Microorganism WST-1 図2 WST-4 WST-5 WST-8 WST-9 Yeast Candida utilis Saccharomyces cerevisiae Zygosaccharomyces rouxii NBRC0626 NBRC2347 NBRC0505 5.53×107 8.70×105 1.65×105 6.18×106 2.65×105 2.47×104 Gram-positive bacteria Bacillus cereus Bacillus subtilis Corynebacterium glutamicum Enterococcus faecalis Lactobacillus casei Listeria monocytogenes Micrococcus luteus Staphylococcus aureus Staphylococcus epidermidis NBRC13494 JCM1465 NBRC12168 JCM5803 NBRC15883 ATCC15313 NBRC13867 NBRC12732 NBRC12993 6.70×105 2.45×106 1.69×106 5.18×107 8.40×107 5.07×106 8.29×105 5.30×105 5.53×106 6.77×104 6.71×105 2.47×105 1.76×106 2.34×106 6.46×105 1.29×105 5.43×104 1.12×106 Gram-negative bacteria Acetobacter sp. NBRC3283 2.53×107 7.39×106 7 Escherichia coli NBRC3972 1.31×10 2.86×105 7 Klebsiella pneumoniae NBRC3512 1.76×10 5.59×105 Proteus mirabilis NBRC13300 7.42×106 1.35×106 8 Pseudomonas aeruginosa NBRC13275 1.76×10 1.78×107 7 Salmonella enteritidis NBRC3313 2.55×10 1.06×106 Salmonella typhimurium NBRC12529 1.73×107 2.60×106 Serratia marcescens NBRC102204 7.15×107 5.08×106 7 Vibrio parahaemolyticus NBRC12711 2.90×10 1.03×107 7 Yersinia enterocolitica JCM7577 1.92×10 5.46×106 a Viable cell density that gives the absorbance change of 0.5 during the reaction time of 1 and 4 h. 0.5 Salmonella enteritidis Cell density(CFU/ml)a 1h 4h Microorganism 市販培地においてバックグラウンドの上昇が見られた。 Saccharomyces cerevisiae 各種微生物に対する検出感度 XTT 水溶性テトラゾリウム塩の比較(代謝効率) 以上の結果より,電子メディエータ2-methyl-1,4- 5 掲載論文 NQと水溶性テトラゾリウム塩WST-8を用いる検出系が Journal of Microbiological Methods, Vol.75, 109–116 微生物検出に対する汎用性,感度及び精度の面から最 (2008). 適であることがわかった。 - 128 -
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