高蛍光性含フッ素ポリイミド - 光吸収・蛍光特性のジアミン依存性 -

P1
高蛍光性含フッ素ポリイミド - 光吸収・蛍光特性のジアミン依存性 東京工業大学大学院理工学研究科物質科学専攻 〇脇田 潤史,安藤 慎治
F
O
F
O
[緒言]含フッ素酸二無水物と脂環式ジアミンからなる PI (P2FDA/DCHM)
(Scheme1-a)には,LE 及び CT 性光吸収/蛍光がそれぞれ 500 nm / 600 nm,600
a : P2FDA/DCHM
nm / 700 nm に観測される(Fig.1) [1]。また,低分子モデル化合物の高濃度溶液
において,P2FDA/DCHM 薄膜の LE 性遷移と同様な光吸収/蛍光ピークが観
測されることから,LE 性光吸収/蛍光が凝集体に起因することが示された[2]。
b : P2FDA/APMDS
しかし,モデル化合物では P2FDA/DCHM 薄膜に特徴的な分子間 CT 性光吸
Scheme1 Structures of PIs
収/蛍光が観測されないことから,凝集状態と光吸収/蛍光特性の関係は未だ
3
150
明らかではない。
そこで本研究では,
凝集状態の違いがP2FDA系PI (P2-PI) の
2.5
光吸収/蛍光特性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし,ジアミンの立
100
2
体構造が異なる P2FDA/DCHM 薄膜と P2FDA/APMDS 薄膜(Scheme 1-b) の
1.5
常圧及び高圧下における光吸収/蛍光スペクトルを観測し,考察を行った。
50
1
[実験] 測定に用いたP2FDA/DHCM, P2FDA/APMDS 薄膜はin situ シリル化法
0.5
[3]により合成したポリアミド酸シリルエステル溶液を石英基板上にスピン
0
0
400
500
600
700
800
Wavelength /nm
コートし,窒素雰囲気下での熱イミド化により得た。高静水圧下での光吸収
Fig.1 UV-Vis and fluorescence spectra
スペクトルは,分光器に取り付けた高圧光学セル(テラメックス社製)に試料
of P2FDA/DCHM (7.7 μm thick) and
を挿入し,高圧ハンドポンプを用いて 400 MPa まで加圧して測定した。圧力
P2FDA/APMDS(8.2 μm thick) thin
媒体には蒸留水を用い,
セル内の圧力はデジタル歪みゲージにより計測した。 film
2.5
[結果・考察] 常圧下における P2FDA/APMDS 薄膜の光吸収スペクトルには
2
500 nm 付近の LE 性光吸収ピークは観測されたが,CT 性吸収帯が存在する
1.5
402.1 MPa
と予測される 600 nm 付近には光吸収が観測されず,励起/蛍光スペクトルに
1
0.1
MPa
も CT 性蛍光ピークは観測されなかった(Fig.1)。この原因としては,
「CT 相
互作用の強さの違い」と「凝集状態の違い」の 2 つが可能性として挙げられ
0.5
る。P2FDA/DCHM と P2FDA/APMDS の CT 相互作用の強さを比較するため
0
400
500
600
700
800
Wavelength / nm
に密度汎関数法を用いて DCHM と APMDS のイオン化ポテンシャルを計算
Fig.2 Pressure dependence of
すると,DCHM (8.21 eV),APMDS (8.12 eV)であった。APMDS の電子供与性
absorption
spectra
of
が DCHM のそれよりも高いことから,CT 錯体が形成された場合,
P2FDA/DCHM thin film
P2FDA/APMDS の CT 相互作用がより強いと推定される。従って,CT 相互
(7.7 μm thick)
2.5
作用の強さの違いではなく,両者の凝集状態の違いが P2FDA/APMDS 薄膜に
おいて CT 遷移が観測されない原因と考えられる。ジアミンの分子構造がペ
2
リレンビスイミドの凝集状態に及ぼす影響については既報であり[4],アミン
1.5
末端が 2 級炭素の場合は 3 級炭素の場合と比較してジアミン部の立体障害が
1
411.7 MPa
小さいため,酸二無水物部同士のスタッキングが促進され,凝集体由来の光
0.5
0.1 MPa
吸収/蛍光が観測される。したがって,2 級アミン末端炭素を有する APMDS
0
400
500
600
700
800
Wavelength / nm
では立体障害が小さく,P2FDA 同士のスタッキング (すなわち PLP : preferred
Fig.3 Pressure dependence of
layer packing) が促進されるため P2FDA と APMDS 間での分子間 CT 錯体が
absorption
spectra
of
形成されないと考えられる。また,3 級アミン末端炭素を有する DCHM では
P2FDA/APMDS thin film
立体障害が大きく,P2FDA 同士のスタッキング構造が乱れ,部分的に P2FDA
(8.2 μm thick)
とDCHM同士の重なりが生じるため (MLP : mixed layer packing に相当) 分子
間 CT 錯体が形成されると考えられる。また,圧力印加による P2FDA/APMDS 薄膜の光吸収スペクトル変化と,
P2FDA/DCHM 薄膜のそれには差異が観測された(Fig.3)。P2FDA/APMDS 薄膜では圧力印加による LE 性吸収帯の
吸光度の大きな減少・半値幅の急激な増大が観測され,スペクトル変化は非可逆であった。同様のスペクトル変
化は P2FDA/DCHM 薄膜においては僅かしか観測されないことから,これらのスペクトル変化の違いも両者の凝
集状態の違いに起因すると考えられる。
結果として,
P2FDA/APMDS 薄膜は P2FDA/DCHM 薄膜よりも均一な PLP
構造をとっていることから,圧力印加によりスタッキング構造の大規模な破壊や乱れが生じ,大きなスペクトル
変化が観測されたと考えられる。一方,P2FDA/DCHM 薄膜の場合は,MLP 構造が散在する乱れた PLP 構造を有
することから,圧力印加によるスタッキング構造の破壊・乱れが小さく,スペクトル変化が小さいと考えられる。
以上のことから, P2-PI の光吸収/蛍光特性は,凝集状態に強く依存すると結論できる。また翻って,ジアミンの立
体構造の違いを用いた凝集構造の制御が P2-PI の光吸収/蛍光特性制御に有効であることがこれらの考察から明ら
かとなった。[1]Y. Urano, Y. Oishi, S. Ando, Polym. Prep. Jpn., 52(12), 3480 (2003). [2] J.Wakita, H.Sekino, S. Ando, Polym.
Prep. Jpn., 56(1), 1388(2007). [3] Y. Oishi, K. Ogasawara, H. Hirahara, K. Mori, J. Photopolym. Sci. Technol., 14, 37 (2001).
[4] E.E.Neuteboom, S.C.J.Meskers, E.W.Meijer, R.A.J.Janssen, Macromol.Chem.Phys., 205, 217(2004).
O
N
N
n
O
O
F
O
F
O
N
O
N
n
Abs (P2FDA/DCHM)
Abs (P2FDA/APMDS)
LE (P2FDA/APMDS)
Absorbance
Absorbance
Absorbance
CT (P2FDA/DCHM)
Intensity /arb.unit
LE (P2FDA/DCHM)