AZ31 および AZ61 マグネシウム合金薄板溶接継手の成形性

AZ31 および AZ61 マグネシウム合金薄板溶接継手の成形性
日大生産工(院)
松
隆
一
日大生産工
朝比奈
敏
勝
茨城県工業技術センター
行
栄太郎
1.緒言
○中
武
い .AZ61 マ グ ネ シ ウ ム 合 金 は 成 形 性 で は
マグネシウム合金は実用金属中で最も
AZ31マ グ ネ シ ウ ム 合 金 に 劣 る も の の 1 ) ,強
比重が小さいため,比強度,比耐力が良
度 は AZ31マ グ ネ シ ウ ム 合 金 に 比 べ て 高 い
好で,寸法安定性,耐くぼみ性および減
という特徴があるので,今回の実験では
衰能などに優れる.さらに被削性および
主 に AZ61マ グ ネ シ ウ ム 合 金 溶 接 継 手 の 成
高温での加工性が良いという特性を有し
形性評価を行うことを目的とした.
ている.
2.供試材および実験方法
特にマグネシウム合金薄板構造材は携
供 試 材 に は 板 厚 1.0mm の AZ31 マ グ ネ シ
帯型電子機器筐体に適している.マグネ
ウ ム 合 金 お よ び 板 厚 0.6mm の AZ61 マ グ ネ
シウム合金の用途を拡大するためには,
シ ウ ム 合 金 を 幅 50mm, 長 さ 200mm に 機 械
異なる板厚および材質の板材を接合して
加工し,溶接直前に供試材の表面および
一体化した素材であるテーラードブラン
突合せ面を研磨後,ブタノンで脱脂洗浄
ク材の適用が考えられる.
して実験に供した.供試材の機械的性質
レーザ溶接は高いエネルギー密度を容
Table 1 Mechanical properties of base metals.
易に制御することができることより,高
Materials
Tensile
strength
(MPa)
Elongation
(%)
Hardness
(HK0.05)
パ ル ス YAG レ ー ザ は 断 続 的 に 供 試 材 を 加
AZ31
267.2
25.2
78.4
熱することから,連続発振のレーザに比
AZ61
278.4
8.0
50.9
速 か つ 精 密 な 溶 接 が 可 能 で あ る .さ ら に ,
べて溶落ちが少なく薄板の接合に適して
いる.
マグネシウムは稠密六方晶であるため
Table 2 Laser welding conditions.
Laser output
Q
(W)
200,500
Pulse width
PW
(ms)
5.0
に ,常 温 に お け る す べ り 変 形 は 臨 界 せ ん
Pulse frequency
f
(Hz)
20
断 応 力 の 低 い 底 面 (0001)に 頼 る こ と に な
Welding speed
V
(mm/min)
420
り,常温において他の金属に比べ著しく
成形性が劣ることが知られている.
そこで,本研究はマグネシウム合金薄
Gas
Assist
Ga
(l/ min)
30
flow rate
Backing
Gb
(l/ min)
20
Table 3 Plasma welding conditions.
板の突合せ溶接継手の成形性を検討した.
Welding current
I
(A)
25
ま た ,マ グ ネ シ ウ ム 合 金 の 溶 接 お よ び 成
Welding speed
V
(mm/min)
1000
形 性 の 研 究 は 主 に AZ31マ グ ネ シ ウ ム 合 金
Plasma gas flow rate
Shielding gas
Surface
flow rate
Stand off
Gp
(l/min)
0.5
Gs
(l/min)
10
L
(mm)
1.2
に つ い て の 研 究 報 告 が 多 く ,AZ61 マ グ ネ
シウム合金についての報告は少な
Formability of Welded AZ31 and AZ61 Magnesium Alloy Sheet.
Ryuichi NAKAMATSU, Toshikatsu ASAHINA and Eitarou YUKUTAKE
を Table 1 に 示 す .
溶 接 に は 最 大 平 均 出 力 550W( 最 大 パ ル
ス エ ネ ル ギ ー 70J )の パ ル ス YAG レ ー ザ
装置および交流プラズマ溶接機を使用し,
ルート間隔無しのI型突合せ溶接を圧延
方向に対して直角に行った.シールドガ
ス に は Ar ガ ス を 用 い た .予 備 実 験 に よ り
良好な継手を得ることができたパルス
YAG レ ー ザ 溶 接 ,プ ラ ズ マ 溶 接 の 溶 接 条 件
を そ れ ぞ れ Table 2, Table 3 に 示 す .た だ
し , AZ31 マ グ ネ シ ウ ム 合 金 の プ ラ ズ マ 溶
接継手はブローホールが多く発生して良
好な継手が得られなかったため,今回の
Fig.1 Size and shape of tensile test specimen.
Table 4 Results of drawing test of laser welded joints.
実 験 か ら は 除 い た . AZ31 マ グ ネ シ ウ ム 合
金 レ ー ザ 継 手 の 絞 り 試 験 は 直 径 55mm ∼
65mm の 範 囲 で ブ ラ ン ク を 作 成 し た . そ の
後 , 溶 接 残 留 応 力 の 除 去 を 目 的 と し 623K
で 1hr.の 焼 鈍 を 行 い , 大 気 中 で 冷 却 を し
△ : Cracked ×: Could not draw
た試験片と溶接のままの試験片の絞り加
工を室温で行った.絞り加工はポンチ直
径 40mm , ポ ン チ 速 度 は 7.5mm/min ,
15mm/min, 22.5mm/min の 3 通 り と し た .
AZ61 マ グ ネ シ ウ ム 合 金 は 直 径 70mm の
ブ ラ ン ク を 作 成 し ,室 温 で 溶 接 の ま ま お
よ び 焼 鈍 し た 試 験 片 の 試 験 を 行 い ,溶 接
の ま ま 材 の み , 更 に 373K, 423K, 473K,
523K, 573K で 温 間 加 工 を 行 っ た .絞 り 加
Fig.2 Appearances of drawing test specimen of
とした.
laser welded joints. (AZ31)
引 張 試 験 は Fig.1 に 示 す JIS6 号 試 験 片
30
300
た Type A お よ び 溶 接 部 を 引 張 方 向 と 直 角
に 平 行 と し た Type B の 2 種 類 を 行 っ た .
3.実験結果および考察
3.1
AZ31 マ グ ネ シ ウ ム 合 金 溶 接 継 手 の
成形性
著 者 ら が 行 っ た パ ル ス 周 波 数 を 20Hz に
固定した実験において最も高い引張強さ
Tensile strength / MPa
を使用し,溶接部を引張方向と直角とし
:Tensile strength
:Elongation
20
200
10
100
0
0
Type A
Type B
Base metal
を 示 し た 溶 接 条 件 (Q=500W)で 溶 接 し た 試
験 片 の 絞 り 試 験 結 果 を Table 4 に 示 す .直
径 60mm,65mm の ブ ラ ン ク で は 全 て の ポ ン
Fig.3 Results of tensile test of laser welded
joints. (AZ31)
Elongation / %
工 は ポ ン チ 直 径 50mm,ポ ン チ 速 度 6mm/min
か ら 割 れ が 発 生 し た .直 径 55mm の ブ ラ ン
ク で も ポ ン チ 速 度 15mm/min, 22.5mm/min
では同様に試験開始直後に割れが発生し
た .し か し ,Fig.2 に 示 し た ポ ン チ 速 度 7.5
mm/min の 条 件 で は 溶 融 凝 固 部 割 れ お よ び
肩部での割れが若干認められるものの十
分絞りが可能であった.
120
Hardness / HK0.05
チ速度で絞り試験開始直後に溶融凝固部
100
60
40
F.Z.
20
-4
Fig.3 に AZ31 マ グ ネ シ ウ ム 合 金 継 手 の
引 張 試 験 結 果 を 示 す . Type A で は , 母 材
と 比 較 し て 引 張 強 さ ,伸 び と も に 大 き く
B.M
80
-2
0
2
Distance from weld center / mm
4
Fig.4 Results of hardness test of laser welded
低 下 し た が , Type B で は 伸 び は 減 少 し た
joints. (AZ31)
ものの引張強さはほぼ同程度の値となっ
た.
Fig.4 に AZ31 マ グ ネ シ ウ ム 合 金 の 継 手
横断面板厚中央部のヌープ硬さ測定結果
を示す.熱影響部に比べて溶融凝固部は
若 干 硬 化 し た . AZ31 マ グ ネ シ ウ ム 合 金 溶
接継手の絞り加工性が悪いことは,溶接
欠陥であるアンダーフィルの発生ばかり
でなく,伸びの低下および溶接部の硬化
も原因であると考える.
3.2
Fig.5 Appearance of bead. (AZ61)
AZ61 マ グ ネ シ ウ ム 合 金 溶 接 継 手 の
成形性
得 ら れ た ビ ー ド 外 観 を Fig.5 に 示 す .レ
YAG laser
welded joint
0.5mm
ーザ溶接継手表面にはパルスの重なりを
溶接では表ビードに比べて裏ビードの幅
Plasma
welded joint
0.5mm
に差が認められた.
両溶接法による継手の横断面マクロ組
Fig.6 Macrostructures of welded joints. (AZ61)
織 を Fig.6 に 示 す .ど ち ら の 溶 接 法 に よ る
300
Fig.7 に 引 張 試 験 結 果 を 示 す . Type A,
Type B と も に プ ラ ズ マ 溶 接 に 比 べ て レ ー
ザ 溶 接 の 方 が 引 張 強 さ ,伸 び に お い て 高 い
値 を 示 し た . 特 に レ ー ザ 溶 接 の Type B で
は ,継 手 効 率 87%と 高 い 値 を 示 し た .
Fig.8 に AZ61 マ グ ネ シ ウ ム 合 金 の 継 手
Tensile strength / MPa
継手でもブローホールが若干観察された.
:Tensile strength
:Elongation
200
8
6
4
100
2
0
0
を 示 す .レ ー ザ 溶 接 継 手 ,プ ラ ズ マ 溶 接 継
Type A Type B Type A Type B Base
metal
Laser
Plasma
手ともに溶融凝固部が硬化した.このこ
Fig.7 Results of tensile test. (AZ61)
横断面板厚中央部のヌープ硬さ測定結果
10
Elongation / %
示 す リ ッ プ ル 線 が 観 察 さ れ た .プ ラ ズ マ
Hardness / HK0.05
100
Laser
Plasma
80
60
B.M
40
F.Z. (Plasma)
20
0
-6
F.Z. (Laser)
-4
-2
0
2
4
Distance from weld center / mm
6
Fig.8 Results of hardness test. (AZ61)
と は , AZ31 マ グ ネ シ ウ ム 合 金 に 比 較 し
て溶接による急加熱および急冷却の影
響が大きいためと考える.
パ ル ス YAG レ ー ザ 溶 接 継 手 を 用 い た
絞 り 試 験 後 の 試 験 片 外 観 を Fig.9 に 示
す .室 温 で は , 溶 接 の ま ま 材 ,焼 鈍 材 と
もに割れが発生して絞ることができな
か っ た .温 間 加 工 で は 373K で は 溶 融 凝
固部や母材肩部で割れが確認された.
423K で は 横 壁 で の 溶 融 凝 固 部 の 割 れ が
目 立 っ た .473K 以 降 で は 一 部 に 割 れ が
認められたものの良好な成形性を示し
た .図 に は 示 さ な い が ,プ ラ ズ マ 溶 接 継
手の絞り試験もほぼ同様の結果となった.
4.結言
AZ31 マ グ ネ シ ウ ム 合 金 溶 接 継 手 の 室
温での成形性は焼鈍することによって,
あ る 程 度 改 善 さ れ た . AZ31 マ グ ネ シ ウ
ム合金溶接継手に比べて成形性に劣る
と さ れ る AZ61 マ グ ネ シ ウ ム 合 金 溶 接 継
手の室温での成形性は焼鈍を行っても
あ ま り 改 善 さ れ な か っ た .し か し ,473K
以上での温間加工では成形性は飛躍的
に向上した.
参考文献
1) 古閑 伸裕, ラッチャニー パイサー
ン, 石原 直剛, 渡利 久規, 羽賀
俊 雄 :双 ロ ー ル キ ャ ス タ に よ り 作 製
したマグネシウム合金板の深絞り成形
性 軽 金 属 , 57 pp.141-145 (2007) .
Fig.9 Appearances of drawing test specimen of
laser welded joint. (AZ61)