種々のマグネシウム合金における AE によるき裂進展

日本金属学会誌 第 78 巻 第 10 号(2014)381
387
種々のマグネシウム合金における
AE によるき裂進展検出と破壊じん性評価
武 藤 有 輝1
松 元 光 輔2
白岩隆行
榎 学
東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻
J. Japan Inst. Met. Mater. Vol. 78, No. 10 (2014), pp. 381
387
 2014 The Japan Institute of Metals and Materials
Detection of Crack Propagation by AE and Evaluation of Fracture Toughness
in Various Mg Alloys
1, Kousuke Matsumoto
2, Takayuki Shiraiwa and Manabu Enoki
Yuki Muto
Department of Materials Engineering, School of Engineering, The University of Tokyo, Tokyo 1138656
The simple method for evaluation of fracture toughness in Mg alloys was examined by AE. In this study, fracture toughness
(KIAE) in AZ31 (Mg9Al1Zn), AZ91 (Mg9Al1Zn), and LA141 (Mg
14Li1Al) was investigated. Specimens (LS, TS)
were machined from asrolled AZ31, LA141, and ascast AZ91. Fourpointbending tests were conducted according to ASTM
E399 with AE measurement, and the crack pass was observed by microscope during the testing. KIC was supposed to be the
value of KI when the crack initiates from the tip of the precrack. KIAE was defined as the value of KI when the RMS voltage of
AE indicated the maximum value before ultimate load. The crack propagation was observed by microscope at the time of RMS
peak. The values of KIAE were 12.415.0 (AZ31), 11.511.7 (AZ91), and 24.728.0 (LA141) [MPa m1/2]. Compared with reference data, the fracture toughness in Mg alloys estimated by KIAE was adequate. The possibility of the simple method for evaluation of fracture toughness in Mg alloys by AE was demonstrated. [doi:10.2320/jinstmet.JAW201401]
(Received April 17, 2014; Accepted July 14, 2014; Published October 1, 2014)
Keywords: acoustic emission, fracture toughness, magnesium alloy, twinning
実際に使われるような表面き裂などが存在する場合の使用に
1.
序
論
おいて,表面き裂などが存在する場合,板厚に関係なく平面
ひずみ応力状態となるため,薄板で用いられる場合において
近年,限られたエネルギの有効利用,環境問題などから,
輸送機器の燃費改善などのための軽量化および各種機器のリ
も破壊力学的な観点から材料の評価を行うことが重要とな
る5).
サイクル可能率向上が求められている.それらを達成する材
この破壊じん性値を評価する実験方法としては,クリップ
料として,軽量な Mg 合金が注目されている.しかし Mg
ゲージ変位と荷重との傾きを用いて算出する一般的な KIC
合金は HCP 結晶構造であるため,室温での力学特性の低さ
試験法をはじめ, R 曲線法,ストレッチゾーン( SZ )法,除
が問題となっている.ここで結晶構造が HCP から BCC へ
荷コンプライアンス法,電位差法,アコースティック・エミ
Mg Li 合
ッション(AE)法,超音波法などがあげられている6,7).これ
金においては原子量の小さい Li を添加することでより軽量
ら各々の方法には長所および短所がそれぞれ存在するため,
遷移する Mg Li
合金が注目されている1,2) .この
化される.一方で Li 添加に伴い,耐腐食性が低くなること
どの方法を用いるかは慎重に選択する必要がある.例えば一
が問題視されており,その改善のため Al を添加した LA 系
般的な KIC 試験法では,降伏応力が低い Mg 合金に対して
の実用化が進められている3).
は,多くの試験法において有効な破壊じん性を評価するため
ここ で Mg 合 金 を 輸 送機 器 や構 造 物 など に 利 用す る 場
には大きな試験片が必要であるといった問題点があった.そ
合,高い信頼性が求められる.その信頼性を評価する 1 つ
こで佐々木ら8)および染川ら915)は,SZ 法を用いて Mg 合金
の指標として破壊じん性があげられる.一般に長いき裂が入
の破壊じん性の評価を行ってきた.SZ とは疲労予き裂の先
っている場合,薄板においては平面応力状態となり見かけの
端において予き裂とき裂間の組織が引き伸ばされたようなて
破壊じん性値は高い値となるためが,他の金属に比べて Mg
無特徴の非常にき裂近傍の領域のことを指し破面状態になっ
合金の破壊じん性値を調べた研究報告は多くない4).しかし
ている領域のことを示し,この範囲では板厚に関係なく平面
ひずみ状態を仮定することができるとして試験片サイズの問
1 東京大学大学院生 (Graduate Student, The University of
Tokyo)
株 (Graduate Student, The
2 東京大学大学院生,現在スズキ
University of Tokyo, Present address: Suzuki Motor Corp.)
題を克服した.しかし SZ 法は観測方法に手間がかかるに時
間を要すること,同条件下の試験でも SZ が観測される場合
と観測されない場合があることなども問題であるといえる.
382
第
日 本 金 属 学 会 誌(2014)
そこで本研究においては AE 法を用いた破壊じん性評価に
着目した.AE 法を用いた破壊じん性試験は,塑性変形や破
壊に伴って放出される AE 信号を計測し,その変化から安定
78
巻
とした.
2.3
四点曲げ試験
破壊の開始を検出する方法である.AE 信号は内部の破壊を
島津製作所製オートグラフ AG 5000C を用いて四点曲げ
感度よく検知することができるため,試験片サイズによらず
試験を行った.共和電業製 DPM700B クリップゲージを用
有効な破壊じん性の評価を行えることが期待される.そこで
い,治具降下速度は 8.33 × 10-3 mm /s とした.ロードセル
本研究においては,AZ 系および LA 系といった Mg 合金に
とクリップゲージから得られる電圧を KEYENCE 製データ
対して,AE 法を用いた簡便な破壊じん性の評価方法を検討
ロガー NR2000 を用いて 200 ms 間隔で連続的に記録し,変
することを目的とした.
位応力拡大係数曲線を作成した.なお,本実験において,
より一般的な三点曲げ試験ではなく四点曲げ試験を行ったの
実 験
2.
2.1
方 法
は,治具と試験片の摩擦によって生じうる AE 信号がき裂進
展近くで発生するのを防ぐためである.また試験中,き裂が
試料
実 際 に 進 展 す る 様 子 を KEYENCE 製 マ イ ク ロ ス コ ー プ
本研究では,大阪富士工業製 AZ31(Mg
3Al
1Zn)圧延材,
AZ91(Mg9Al1Zn)鋳造材,三徳製 LA141(Mg14Li1Al)
圧延材を用いて実験を行った.それぞれの試料の化学組成を
Table 1 に示す.
2.2
VHX600 によって観察した.
2.4
微視組織観察
各 々 の 試 料 の き 裂 進 展 の 側 面 部 分 を JEOL 製 JSM 
6510LA によって観察した.表面の析出物や第二相の同定を
試験片
するために EDX 分析を行い,含まれる元素およびその割合
圧延材に対して,圧延方向と試験片の長手方向との角度が
を求めた.分析には JEOL 製 JET2300 Analysis Station を
, 90°
となるよう試験片を作製した.また,鋳造材に対し
0°
用いた.また試験後の試験片に対してき裂進展付近を切り出
て,試料の長手方向と試験片の長手方向との角度が 0 °
,
した後,酸化しやすい Mg 合金の特性を考慮し,断面試料
となるよう試験片を作製した.ここで鋳造材の試料は直
90°
作製装置( CP )を用いて真空中で Ar ビームによる研磨を行
方体であり,その長辺の方向を長手方向とした.これらを以
った.その後,試験片のき裂進展の側面から,試験後のき裂
下, L S 試験片, T S 試験片と呼ぶ.試験片は ASTM E 
付近の微視構造を観察するために電子線後方散乱回折法
399 破壊じん性試験法曲げ試験法16)に記されている三点曲げ
(EBSD)解析を行った.
試験を参考に作製した.また加えて,クリップゲージをつけ
るための治具をノッチ近くに接着した.試験片の寸法は
2.5
AE 解析法
Fig. 1 に示す.疲労予き裂は三点曲げ疲労試験によって導入
四点曲げ試験前中に 2 つの AE センサを試験片の両サイ
した.荷重の条件は AZ31 においては DK=7.0 MPa m1/2, R
ド端に接着し,AE 信号の計測を行った.接着には研磨紙で
= 0.1, AZ91 および LA141 においては DK = 5.8 MPa m1/2,
試験片表面を粗研磨した後,コニシ社製アロンアルファスー
R = 0.1 とした.ノッチと予き裂の長さの合計は 9 ~ 11 mm
パーセットを用いた.計測した AE センサからの信号はプリ
アンプで増幅し,波形を連続的に計測することができる
Table 1
Alloy
Al
Zn
AZ31
3.2
1.08
AZ91
8.91 0.64
Chemical composition of Mg alloys.
(mass)
Mn
Si
Fe
Cu
Ni
Ca
Li
Mg
0.42 0.0024 0.0022
0.002
0.0007
―
―
Bal.
0.18 0.034 0.0035
0.002
<0.001
―
―
Bal.
LA141 0.96 0.005 0.002 0.017 <0.003 <0.001 <0.001 0.29 13.56 Bal.
Continuous Wave Memory を用いて記録した.RMS 電圧は
時定数を 200 ms として計測を行った.ここで破壊じん性試
験においてはき裂が進展し始めるイニシエーションの検知が
最も重要であるため,感度の高い富士セラミックス社製共振
型 AE センサ M304A を用いて実験を行った. AE 計測はサ
ンプリングレート 10 MHz で行い,測定レンジは±5 V とし
た.
また,一般に力学試験に際しては,試験機の振動によるノ
イズが発生する.このノイズは材料内での現象を発生源とす
る AE よりも低い周波数を持つため,周波数フィルタにより
除去することができる.本研究では,周波数フィルタとして
STFT フィルタを用いた.次の式( 1 )のように, STFT で
時間周波数特性を求め,この数値データのうち特定の周波
数成分を 0 にしてから,逆 STFT で波形を再生成した17).
0
 W 1( f, t )
W2( f, t )=
for f<f1, f>f2
for f1<f<f2
(1)
計測した AE 信号は機械的振動による低周波ノイズの低減の
ため 100 kHz のハイパスフィルターをかけた.
Fig. 1
Geometry of specimen.
ここで AE の周波数は AE 源の特徴を反映している.本研
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第
号
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種々のマグネシウム合金における AE によるき裂進展検出と破壊じん性評価
究では,ウェーブレット変換を用いて個々の AE 事象の時
示された.これらの析出物は数 mm ほどの微細粒であった.
間・周波数特性を求めた. AE 事象が始まってから(最初に
また一方, AZ91 の第二相は Mg と Al の金属間化合物であ
しきい値を超えてから)160 ms の波形に対してウェーブレッ
ることが示された.この金属間化合物は Mg17Al12 であると
ト変換を行い,その中で最も強度が高い点の,周波数と強度
考えられる3).この金属間化合物はラメラ状であった.また,
をパラメータとして抽出した.その後位置標定を行い,き裂
EBSD 解析を行った AZ31 および AZ91 の粒径はそれぞれ 5
進展が生じる試験片中心から左右 2.5 mm で生じた AE 信号
~15 mm, 100~300 mm 程度であった.
の強度を 2 乗して AE エネルギを求め,それらを実験開始
さらに AZ31 および AZ91 のき裂進展付近に対して EBSD
から特定の時刻まで足し合わせることで,AE エネルギの累
解析を行った結果を Fig. 3 に示す. 10 mm オーダーの小さ
積値を算出した18).
な粒径の AZ31 では,き裂進展付近に双晶が生じていること
結 果 と 考 察
3.
3.1
Table 2
Fig. 2.
微視組織観察
各試料に対して EDX による析出物の元素解析を行った.
また, AZ91 に対しては第二相領域の存在が確認されたた
め,その部分に対しても元素解析を行った(Fig. 2).結果を
Table 2 に示す.AZ31 および AZ91 では主に Al と Mn の金
属間化合物,LA141 では Ca の酸化物が析出していることが
Fig. 2
Fig. 3
Result of EDX analysis: ad are corresponding to
(mol)
Measurement point (alloy)
Mg
Al
O
a (AZ31)
8.85 48.86 3.94
b(AZ91)
Si
Mn
2.29 36.05
Zn
Ca
―
―
62.56 35.17
―
―
―
2.26
―
c (AZ91)
2.34 50.87
―
―
46.79
―
―
d(LA141)
13.90
56.68
―
―
―
29.42
―
SEM images of surface: (1) AZ31, (2) AZ91 and (3) LA141.
SEM images and EBSD analysis: (a) AZ31, (b) AZ31 EBSD, (c) AZ91 and (d) AZ91 EBSD.
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が確認された.また一方,100 mm オーダーの大きな粒径の
板厚(mm),w は板幅(mm),a はき裂長さ(mm)である.こ
AZ91 では,き裂進展付近により多くの双晶が生じているこ
こで AZ31 などの Mg 合金の破壊機構は染川ら14,15)によって
とが確認された.これらの双晶は{ 101 ˜2 }双晶であると考え
粒径が大きい場合と小さい場合に分けて考えられている.粒
られ,双晶率はそれぞれ 1.5, 3.2であった.またこれに加
径が大きい場合は,まずき裂先端付近に形成される塑性域に
えて, EBSD 解析を行った範囲における SEM 画像におい
引張双晶が生じる.その双晶と母相の界面に転位の累積が生
て,上記の析出物の割れも確認することができた.
じ,それによってき裂はこの界面に沿って進展をする.一方
3.2
粒が小さい場合は,双晶の生成に対して析出物などの微小粒
AE 計測結果
子を起源としたボイドの生成が先行し,き裂の開口が生じ
各試験片において発生した AE 信号の RMS 電圧を,応力
る.その後ボイドの成長と共にミクロスケールの双晶がき裂
拡大係数とともに Fig. 4 に示す.応力拡大係数は以下の式
先端周辺に生成する.この双晶の界面をたどってき裂が進
(2
)を用いて算出した19).
K I=
み,近傍のボイドと合体する.この繰り返しによってき裂進
展が生じる.本実験においても 3.1 で述べたようにき裂進展
3Pl
・ pa×10-3/2×fIM(a )×fIP(a )
Bw 2
付近において双晶および析出物の割れが生じたことが確認さ
fIM(a )=1.122-1.121a+3.740a 2+3.873a 3-19.05a 4
れている.これらの双晶,析出物の割れおよびき裂の進展が
生じた際に大きな AE 信号が計測されると考えられる.一般
+22.55a 5
a= a / w
に引張試験において与応力が降伏応力に達するの直前に
(2)
RMS 電圧が最大値を示すことがよく知られている20).そこ
ここで P は付加荷重( N ), l は下部スパン長さ( mm ), B は
でここで RMS 電圧が最大値を取った時の応力拡大係数の値
fIP(a )=1.01
を Table 3 の上部にまとめた.ただし,本研究においてはき
裂の進展開始時における応力拡大係数を調べるため,応力拡
大係数が最大値を取る前までの RMS 電圧についてのみ考え
ることとした.またこれに加えて,マイクロスコープにより
き裂進展を観察し,その結果を Fig. 5 に示した.(a), (b)お
よび(c )はそれぞれ AZ31, AZ91 および LA141 を示してい
る.また,(1)~(3)はそれぞれ Fig. 4 の図中の( 1)~( 3)に
対応しており,(1)は実験開始直後の荷重がほとんどかかっ
ていない時刻,(2)は RMS 電圧が最大値となった時刻,(3)
はき裂が不安定破壊を開始した後の時刻における図である.
(1)においては予き裂の先端を丸で囲んで示した.(1)と(2)
のき裂先端の位置を比較しわずかにき裂が進んでいることが
確認できた.したがって本研究においては, RMS 電圧が最
大の値を取った際の応力拡大係数を KIAE として定義した.
3.3
破壊じん性値の推定
本実験で算出した KIAE およびこれまで Mg 合金に対して
求められてきた破壊じん性値を Table 3 にまとめた. AZ31
および LA141 においては各試験片方向の試験片に対して各
2 本試験を行い,算出した KIAE の値がそれぞれの KIAE の平
均値から 5ほどの差であった.また一方,AZ91 において
は鋳造材であるので試験片方向による異方性がないためと仮
定すると,実質的には 3 本試験を行ったと考えられ,算出
した KIAE の値は 1程の差であった.これより KIAE の実験
Table 3
Fracture toughness in Mg alloys (MPa m1/2).
Fracture toughness
Fig. 4 Timestress intensity factor curve and timeRMS
curve: (a) AZ31 TS, (b) AZ91 TS and (c) LA141 LS.
AZ31
AZ91
LA141
S
L
13.6, 12.4
11.5
25.6, 28.0
T
S
15.0, 13.8
11.5, 11.7
26.6, 24.7
Ref.
16.7(d=18 mm)8)
18.4(d=28 mm)8)
16.5(d=15 mm)8)
15.9 10)
22.0 10)
21.7 11)
14.214.5(KIC)4)
13.215.1(SR)4)
―
第
10
号
種々のマグネシウム合金における AE によるき裂進展検出と破壊じん性評価
385
Fig. 5 Images of crack propagation, the numbers are corresponding to Fig. 4: (a) AZ31 TS, (b) AZ91 TS and (c) LA141 LS:
(1) time that load is almost zero, (2) time of RMS peak and (3) time after crack propagation.
値 に 再 現 性 が あ る こ と が 確 認 さ れ た . ま た AZ31 お よ び
近傍における平面ひずみ状態の破壊を検知できる7).このこ
4,8,10,11)
とから本実験において AE 法を用いて算出した KIAE は有効
を比較すると, KIAE の値は AZ91 および AZ31 の 4 つの文
な破壊じん性値に近いものであると考えることができる.こ
献値(16.7, 18.4, 16.5, 15.9 MPa m1/2)より 15~35程小さ
れらのことから KIAE によって Mg 合金の破壊じん性をより
いことが示された.また一方,AZ31 のその他 2 つの文献値
簡便に求めることの可能性を示すことができた.
AZ91 について,実験値 KIAE の平均値と文献値 KIC
( 22.0, 21.7 MPa m1/2 )より 55 ~ 65 程小さいことが示され
た.ここで破壊じん性値は物性値ではなく工学的な値であ
り,き裂がどの程度進んだ時の応力拡大係数を破壊じん性値
3.4
AE エネルギと破壊機構
各試験片に対して RMS 電圧がピークとなる時刻までの
と定義するかによって値は変わってきてしまう.本研究では
AE 信号に対してウェーブレット変換行い最も強度の大きい
AE 信号が試験片内部の破壊や変形を感度よく検知するた
波形を抽出した.それらの強度を 2 乗した AE エネルギの
め,一般的な KIC 試験で破壊靭性を定義するき裂進展長さ
累積を算出し,双晶率との関係を Fig. 6 に示した.ここで
に比べ,き裂進展長さが短い時点で KIAE を評価した( Fig.
LA141 に対しては,高電圧をかけると組織が破壊されてし
5 ).したがってこの破壊じん性は安全側の指標になってい
まうため EBSD 解析をすることはできなかった.しかし
る.またここで,この試験で求めた KIAE が有効な値になっ
LA141 は BCC 結晶構造であることから双晶変形はあまり生
ているか考える必要がある.破壊じん性の実験値は板厚の影
じ て い な い と 考 え る こ と が で き る . Mukhopadhyay ら21)
響を受け,板厚が小さい場合平面応力状態となることによ
は,双晶変形が活発でないと予想される SA333 Gr.6 steel
り,大きな値が算出されてしまう可能性があるためである.
に対して破壊靭性試験を行い,AE 信号の計測を行った.彼
そのようなことを防ぐために ASTME399 破壊じん性試験
らは破壊靭性試験中に生じた AE 信号はき裂先端における塑
法16) では塑性域の大きさと試験片の大きさについての条件
性域の形成,き裂の進展開始およびき裂の進展によるもので
式である式( 3 )を設けている.
あると結論付けている.本研究において,LA141 では 40 秒
(3)
付近で高い RMS 電圧を計測した.これは応力拡大係数の立
これによって十分に平面ひずみの寄与が大きくなるような条
ち上がりの付近なので治具との摩擦によるものと考えられ
件を定めて,有効な破壊じん性値の算出方法としている.し
る.次に 80 秒付近で一度高い RMS 電圧を示し,その後,
W-a2.5×(KQ/sys)2
かしながら Mg 合金のような降伏応力が低い材料の場合こ
低い RMS 電圧値をは連続的に低い値を示した後,ピークと
の条件を満たすためには非常に大きな試験片を用いる必要が
なる高い値を計測した(Fig. 4(c)).また RMS 電圧がピーク
ある.一方 AE 法による破壊じん性計測ではき裂先端のごく
となったこの時刻においてき裂先端に変形が観察された
386
第
日 本 金 属 学 会 誌(2014)
78
巻
全体的に高い値を示していた(Fig. 4(b)).また,RMS 電圧
がピークとなった時刻においてき裂先端に変形は観察されな
かった( Fig. 5( b )( 2)).またしかしながら,き裂進展付近
に双晶の発生が確認されており,これらの双晶は成長してい
たことが確認できた(Fig. 3(d)).これらのことから 55 秒付
近でき裂先端付近において塑性域が形成され,双晶や析出物
の割れが生じ,続いて RMS 電圧のピーク前後でき裂進展開
始およびき裂進展が生じたと考えられる.その後は双晶の成
長やき裂の進展によって低い RNMS 電圧が続いたと考えら
れる.上記で算出した RMS ピーク時刻までの AE エネルギ
の積算値は双晶率に正の相関を示していた.双晶の発生によ
って高い AE エネルギが生じることを踏まえると,この結果
は双晶がき裂進展に先行して生じるという機構とよく合う結
果である.
3.5
添加元素の破壊じん性への影響
AZ31 に比べ Al の含有量が多い AZ91 は, Mg17Al12 など
といった Mg と Al の金属間化合物が第二相として生じてい
た. Mg17Al12 の体積分率は約 5 であった.この影響によ
り AZ91 の KIAE は AZ31 と比較して 0.9 ~ 3.5 MPa m1/2 小
さい値を示した.このことより Al の添加量の増加によって
Mg 合金は破壊じん性値が低下するという傾向が確認され
た.また一方,Li を多く添加することで結晶構造は HCP 構
造から BCC 構造へと変化する.HCP 構造である AZ31 にお
Fig. 6 (a) Material and integration of AE energy until RMS
peak, and (b) Twin fraction and integration of AE energy until
RMS peak.
いて 3.2 の双晶が発生したのに対して,すべり系の多い
BCC 構造においては双晶の発生が抑えられた.き裂進展の
経路となる双晶の発生が抑えられたことによって, LA141
は AZ31 と比較して, 9.7 ~ 15.6 MPa m1/2 大きな KIAE の値
( Fig. 5 ( c )( 2 )).このことから, LA141 では 80 秒付近で
を示した.このことより Li の添加によって Mg 合金は破壊
き裂先端に塑性域が形成され,その後連続的な転位運動によ
じん性値が向上するという傾向が確認された.
って変形が生じ, RMS 電圧がピークとなった付近でき裂の
安富ら22)および松元ら23)は
結
4.
進展が生じたと考えられる.
論
AZ31 の双晶の挙動を AE 信号
によって in situ に解析を行った.彼らによると双晶の発生
本実験では,様々な Mg 合金に対して AE 信号を用いた
が支配的な領域では大きな振幅の AE 信号が多く発生した
破壊じん性の評価を行った.これにより以下のような結果を
が,成長が支配的な領域ではほとんど発生しなかったとして
得た.
いる.本研究において,AZ31 では RMS 電圧がピークを示


微視構造の観察から,AZ 系のき裂進展付近において
す 15 ~ 20 秒程前から鋭く立ち上がり,ピーク後も 10 ~ 15
双晶変形が発生していることおよび析出物の割れが確認され
秒程高い値を示し,それ以降は低い値が続いていた( Fig. 4
た.
( a )).また, LA141 と同様に RMS 電圧がピークとなった


AE の RMS 電圧がピークとなった時刻における応力
時 刻 に お い て き 裂 先 端 に 変 形 が 観 察 さ れ た ( Fig. 5 ( a ) 
拡大係数 KIAE は文献値 KIC と比較し得る値を示し, Mg 合
( 2 )).また加えて,き裂進展付近に双晶の発生が確認され
金の破壊じん性をより簡便に求められることの可能性を示す
た( Fig. 3 ( b )).これらのことおよび 3.2 で前述した染川ら
ことができた.
の破壊機構を踏まえて考えると,RMS 電圧が立ち上がった
付近でき裂先端における塑性域形成が形成され,その後転位
運動,析出物の割れやミクロスケールの双晶が生じ,続いて
RMS 電圧のピーク前後でき裂進展開始およびき裂進展が連
続的に生じたと考えられる.その後の低い RMS 電圧はき裂
の進展に対応していたと考えられる.
AZ91 の RMS 電 圧 は 55 秒 付 近 か ら 急 激 に 高 く な り ,
ピークを挟んで 95 秒付近で急激に小さくなった.それ以降
は低い値が続いていた.RMS 電圧の絶対値は AZ31 に比べ


RMS 電圧がピークとなる時刻までの AE エネルギの
累積値は,双晶率と正の相関を示した.


き裂の進展機構を AE 信号を用いて in situ に評価で
きる可能性を示すことができた.


Al の添加量が増加すると破壊じん性値が低下し, Li
の添加量が増加すると破壊じん性値が向上するという傾向が
示された.
第
文
10
号
種々のマグネシウム合金における AE によるき裂進展検出と破壊じん性評価
献
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