本文PDF 第52号林試だより - 群馬県

ISSN 0915 8626
Gunma prefectural Forestry Experiment Station Report
林 試 だより
第 52 号
平成 19 年3月1日
発 行/ 群 馬 県 林 業 試 験 場 TEL 027-373-2300
URL http://www.pref.gunma.jp/
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FAX 027-373-1036
E-mail [email protected]
<研究報告> 水土環境保全林の施業に関する研究…………………………………………1
<研究報告> 県産スギ材による準不燃材料の開発…………………………………………2
<研究報告> きのこ類におけるイオンビーム照射を利用した新品種開発………………2
<研究報告> 機能性きのこハタケシメジ生産技術の確立…………………………………4
<トピックス> 歴史を引き継ぐ県指定天然記念物「境高校のトウカエデ」の後継樹…5
<シリーズ>
野生きのこ紹介………………………………………………………………6
研 究 報 告
水土環境保全林の施業に関する研究
∼土壌侵食量から環境にやさしい施業を考える∼
( 平成 14 ~ 18 年度 )
森林科学グループ 伊藤 英敏
群馬県民有林において樹種別ではスギは面積が最も多く、その蓄積量でも3千万m3を上回
り、民有林全体の蓄積量の過半数を超えています。また、その齢級構成を見ると 36 年生以上
の伐採して利用可能な時期を迎えようとしているスギ林は8割にも上ります。
一方で、水土環境を保全するという立場から考えると、伐採する際には森林の土壌が攪乱され、
森林からの土壌の流亡や大雨後の濁水など環境面への負荷が懸念されています。
そこで今回、森林所有者にも受け入れられやすいと考えられる帯状の伐採 ( 更新 ) を行い、伐
採後の土壌侵食量を調べることにより、環境保全機能について検討を行いました。
安中市と渋川市 ( 旧小野上村 ) にある当林業試験場実験林内のスギ林分を 20 ∼ 30 m幅で帯状
伐採を行いました。
(伐採後には、ヒノキ苗を 2,000 本 /ha で植栽しました。)
こうして設けた調査区に、
侵食されて移動した土砂を補足するための箱 (25 ㎝× 15 ㎝× 20 ㎝ )
をいくつか設置して、箱に入ってきた土砂を定期的に回収し、土壌 (2 ㎜以下 )、礫 (2 ㎜より大
きい )、リター ( 葉や枝等の有機物 ) の3つに分けて乾燥後に重量を計測しました。
図は、小野上実験林で調査を開始してからこれまでに回収した土壌全部の内訳です。伐採区・
林縁 ( 伐採区内の幅2m部分 )・林内に分けて比較したものですが、調査結果からは林内と林縁
がともに 30%を超え、伐採区は最も少ないという結果になりました。安中実験林における調査
でも、やはり伐採区が最も少ないという同様の結果
となりました。今回調査したスギ林では、スギの樹
冠が無くなった伐採区においても、伐採後の下層植
生がまだ豊かでない時期に表面のリターの層が侵食
から土壌をある程度守ってくれることが確認されま
した。
「伐採すると、木がある状態よりも土壌がたくさ
ん流出してしまう」と、
単純には言えないようです。
林試だより 第 52 号
1
研 究 報 告
県産スギ材による準不燃材料の開発 (平成 14 ~ 18 年度)
木材きのこグループ 小黒 正次
1 はじめに
平成 12 年の建築基準法の改正に伴い、従来の防火材料の評価方法が大幅に変更され、保育
園や病院など不特定多数の人が利用する建物でも一定の性能を満たせば木材の使用が認められ
るようになりました。
しかし、難燃処理木材について、国土交通大臣認定の準不燃木材の中で表面塗装されている
ことが明らかなものは3件のみで、他は無塗装で認定されています。何らかの現場塗装が行わ
れた場合、本来の防火性能が発揮されるか懸念されます。そこで、、環境負荷が少なく安全性の
高い難燃薬剤によるスギ準不燃材料の開発を行ないました。
2 方 法
供試した難燃薬剤 SKO-3000 は無機リン酸、窒素系の水溶性であるため、高湿度下において
薬剤が析出する欠点があります。この防止策として、塗付タイプの表面処理剤で析出を防止す
る方法を検討しました。用途として、屋内で使用する内装用と外壁などに使用する外装用に分
けました。なお、塗料はシックハウス症候群の原因とされるホルムアルデヒド、トルエン、キ
シレン等を含有しないものを対象とし、ISO-5560-1 コーンカロリーメータによって発熱性能を
評価しました。
3 結 果
平 成 16 年 2 月 12 日 付 で、 厚 さ 10 か ら
50mm まで準不燃材料として国土交通大臣認定
を取得しました。また、塗装した製品も同様の性
能を有していることを確認して特許出願するとと
もに、商品化に向けて「ヒヨケール」の名称で商
標登録を行いました。
なお、ヒヨケールは工場で塗装を行っているた
め、現場での塗装は不要です。特長として、湿潤
図−1 内装用タイル
時の寸法変化がスギ無垢材の 2 分の 1 以下であ
ること、曲げ強度性能が向上すること、及び腐り
にくいことなどの性能を有しています。タイルの
施工例を図−1に示します。
一方、
外装用の塗装は、
エポキシ樹脂系シーラー
と木材保護塗料の組み合わせや、弾性型塗料の使
用により一般の外装用塗料と同程度の耐候性が付
与できました(図−2)
。外装用については、引
き続き試験を継続する予定です。
図−2 外装用壁面
研 究 報 告
2
きのこ類におけるイオンビーム照射を利用した新品種開発
木材きのこグループ (平成 14 ~ 18 年度)
川島 祐介
林試だより 第 52 号
1.はじめに
近年、植物育種における新しい変異原として、イオンビーム照射の利用が花卉をはじめ果樹、
野菜などに広まり、成果がみられつつあります。しかし、きのこ類においては紫外線やガンマ
線を変異原とした報告はいくつかみられるものの、イオンビームを照射した例はシイタケにお
ける報告のみです。
そこで、きのこ類の育種にイオンビーム照射を利用して、突然変異を誘発することにより新品
種を開発し、中山間地域のきのこ産業の活性化に寄与することを目的として研究を行いました。
2.研究内容
イオンビームの照射は、日本原子力研究開発機構(高崎市)にあるイオン照射施設「TIARA」
の AVF サイクロトロンを用いて行いました。
当場保有の野生ヒラタケ菌株の胞子及び組織分離によって得られた2核菌糸体を供試体と
して用いました。胞子の発芽率は 400 ∼ 500 グレイ (Gy) *にかけて急激な低下がみられ、
600Gy 以上において発芽は認められませんでした。胞子の致死線量は 500 ∼ 600Gy 前後であ
ることが推察されました。これは、イネやカーネーションなどの高等植物(5∼ 50Gy 程度)
に比べてたいへん高い数値です。
イオンビームを照射した2核菌糸体による栽培試験の結果、栽培日数は 100 ∼ 400Gy に
ついては対照区とほぼ同様でしたが、500Gy を照射した試験区においては長くなる傾向がみ
られました。収量については、ばらつきが多くはっきりとした傾向はつかめませんでしたが、
500Gy 照射区においてやや増加していました。子実体の形状は、100Gy 照射区においては子実
体の生育する方向が一定ではないものが認められました。また、500Gy 照射区においては、菌
傘が漏斗形となり菌柄が太くなる傾向が認められました。これらの現象からイオンビームの照
射が突然変異を誘発する可能性が示唆されました。
3.おわりに
本研究においては、ヒラタケにおける致死線量が把握されました。また、子実体の形状に突
然変異と思われる変化が認められました。
きのこ類の生産は群馬県などの中山間地域の主要な産業のひとつです。しかし、大手企業の
参入、消費者ニーズの多様化、輸入量の増加などによりきびしい状況にあります。
今回のイオンビームを利用した新たな試みにより、新品種開発に弾みがつくことを期待します。
※グレイ(Gy)
:電離放射線により1物質に与えられた単位質量当たりのエネルギー量。グレイは組織内に放出
されたエネルギーの総量で、技術的に言えば、組織1㎏に付き1ジュールのエネルギーです。人が自然界や、
医療および職業上発生する放射線を浴びる量は、年間平均2ミリグレイ(0.002Gy)前後と推定されています。
ヒラタケの突然変異(100Gy)
ヒラタケの突然変異(500Gy)
林試だより 第 52 号
3
研 究 報 告
機能性きのこハタケシメジ生産技術の確立 (平成 17 ~ 18 年度) 木材きのこグループ 松本 哲夫
1.はじめに
ハタケシメジは味、歯ごたえに優れた食用菌であり、さらに、生活習慣病の改善について効
果があるとして注目されています。林業試験場が開発したハタケシメジは、高崎健康福祉大学
との共同研究により皮膚疾患抑制及び高血圧症抑制に効果があることがわかりました。一方で、
ハタケシメジの栽培に用いられているバーク堆肥は、粘性が高く機械に詰まる、殺菌がしにくい、
高価であるといった問題を抱えており、これに替わる材料と栽培方法の開発が待ち望まれてい
ます。そこで、堆肥化したマイタケ廃菌床、及び、通常のきのこ菌床栽培で使われている広葉
樹やスギのオガコを用いて栽培試験を行いました。さらに、収穫されたきのこについては機能
性評価試験を行いましたので、その概要を報告します。
2.結 果
堆肥化したマイタケ廃菌床を用いた栽培試験では、栽培期間の短縮、収量の増加が認められ
ました。発生したきのこの形状も整っており ( 図−1)、機能性についてもバーク堆肥で栽培し
たものと、ほぼ同等の効果を示していま
した。
ブナオガコによる栽培試験では、培地
基材であるバーク堆肥の 80% ( 容積比 )
をブナオガコに置換して栽培したところ、
栽培期間は延長し、収量も減少しました
が、発生したきのこの形は整っていまし
た。機能性についてもバーク堆肥で栽培
したものと、ほぼ同等の効果を示してい
ました。
スギオガコによる栽培試験では、ブナオ
ガコの場合と同様にバーク堆肥の 80%を
図−1 堆肥化したマイタケ廃菌床による栽培
置換して栽培しました。やはり栽培期間
は延長していましたが、収量については、
培地添加物に生コメヌカを用いると、バー
ク堆肥で栽培した場合と同等かそれ以上
の結果が得られました。また、きのこの
形状についても整っていました ( 図−2)。
他の培地添加物としては、脱脂コメヌカ、
フスマ、コーンブラン、ホミニーフィー
ドを使用しました。機能性については、
生コメヌカとコーンブランの場合のみ評
価試験を行っていますが、バーク堆肥で
栽培したものと、ほぼ同等の効果を示し
ていました。
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林試だより 第 52 号
図ー2 スギオガコ、バーク堆肥と生コメヌカによる栽培
3.おわりに
本研究の結果から、堆肥化したマイタケ廃菌床はハタケシメジ栽培の培地基材として十分利
用可能であり、また、ブナオガコやスギオガコは、バーク堆肥と混合することで培地基材とし
て利用できることがわかりました。この結果が栽培の現場に生かせたらと願っています。
トピックス
歴史を引き継ぐ県指定天然記念物「境高校のトウカエデ」の後継樹
森林科学グループ 金澤
好一・竹内 忠義
林業試験場で増殖した県指定天然記念物「境高校のトウカエデ」の後継樹が伊勢崎高校敷地
内に植樹されました。
「境高校のトウカエデ」は境高校敷地内にあり、推定樹齢 180 年、樹高 23 m、幹周 3.2 mの
大きさで、みごとな樹型を示し、平成4年に県指定天然記念物に指定されています。境高校の
象徴的な存在であり、生徒や卒業生を始め、地域の人達からも親しまれている樹木です。
林業試験場では、県指定天然記念物を中心に貴重な樹木の後継樹の増殖、保存を行っています。
「境高校のトウカエデ」も平成 10 年に増殖を行い、後継樹を場内に保存してあります。 境高校は、統合に伴い本年3月に閉校し、100 年に及ぶ
歴史は新高校である伊勢崎高校に引き継がれることになりました。そこで林業試験場では、場
内に保存してあった境高校の象徴的な存在である「境高校のトウカエデ」の後継樹の利用につ
いて高校関係者に提案しました。その結果、境高校の歴史を引き継ぎ、更なる発展を目指す新
高校のシンボルとして、後継樹を伊勢崎高校内に
植樹することになりました。
「境高校のトウカエデ」の後継樹は、統合する両
校の校長先生、同窓会の代表者らの手により正門
わきに植栽されました。
境高校のトウカエデ
植栽された後継樹
お知らせ
春の林業試験場一般公開 1000 株のツツジが
と き:平成 19 年5月6日 ( 日 ) 午前9時 30 分∼午後3時
見ごろを迎えます
ところ:北群馬郡榛東村大字新井2935
林試だより 第 52 号
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シリーズ
木材きのこグループ 野生きのこ紹介
松本 哲夫
№7:エノキタケ <食 用> キシメジ科エノキタケ属
晩秋から春にかけて、広葉樹の枯れ木や切り
株に生えるきのこです。低温を好むため、真冬
の雪の中でも発生が見られます。人工栽培が盛
んに行われ、有名なきのこであるにもかかわら
ず、野生のものは栽培品と色、形が全く異なる
ため、エノキタケとわからないことも多いよう
です。野生では褐色ですが、栽培品種は真っ白
で、ひょろりと細長い柄をしたきのこです。こ
れは、選抜された白色系の品種を、周りに紙を
巻いたり、光をほとんどあてることなく栽培し
ているためです。栽培種もおいしいきのこですが、野生種は味、旨味、香り、全てにおいて格
段に優れています。特有の香りを持っているので、鑑定の際にはこの香りも手がかりとなります。
是非とも食べてみてほしい、おすすめの野生きのこです。
栽培は長野県や新潟県などが盛んで、また、人工栽培されているきのこでは、日本で一番生
産量の多いきのこです。鍋料理などには欠かせないきのこの一つですが、今年は暖冬のため鍋
料理の人気が低く、エノキタケの売れ行きも今ひとつだとか。暖冬はこんなところにも影響し
ているようです。
№8:イモタケ <食可?> イモタケ科イモタケ属
イモタケは子のう菌という仲間に分類される
きのこで、ジャガイモを白くしたような形の、
子のう果と呼ばれるものを林内地中に形成しま
す。日本全国に分布し、群馬県内でも採取さ
れています。地中にできるきのこであるため発
見されることが少なく、地域によってはレッド
データブックにも記載されている珍しいきのこ
です。その独特の形状から、発見者の多くは「ト
リュフだ!」と思うようです。しかも表面は白
色で、大きいものは大人の握り拳大かそれ以上
となるため、
「でっかい白トリュフだ!売ったらいくらになるだろうか?」とまで考える人もい
るようです。しかし、残念ながらイモタケには、現時点では、トリュフのような価値は無いよ
うです。トリュフも、イモタケと同じ子のう菌の仲間ではありますが、両者は全く別の種類です。
図鑑への記載例が少なく、さらに食用と明示されている例も少ないのですが、中にはこのき
のこを食べている人もいるようです。また、中毒例も今のところ無いようなので、ここでは食可?
としました。トリュフと思いこんで食べれば、ひょっとするとおいしいのかも・・・・・。
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