開く - 東京電機大学

Annual Report
the Research Institute for Science and Technology
Tokyo Denki University
東京電機大学
総合研究所年報
炭素鋼における
炭素鋼における疲労破損域
における疲労破損域およびき
疲労破損域およびき裂
およびき裂の早期発見(Q04M-01)
Ready Detection of Fatigue Failing Area and Crack Initiation on CarbonCarbon-Steel
Stee
一瀬 謙輔,五味 健二,有川 秀一
東京電機大学工学部機械工学科
Kensuke ICHINOSE, Kenji GOMI and Syuichi ARIKAWA
Department of Mechanical Engineering, Tokyo Denki University
ABSTRACT: Two new methods for material testing have been developed. For one
thing, it is the method for the determination of the crack initiation life of steels
under low-cycle fatigue testing. For another, it is the method for the determination
and measuring of the fatigue failing area and its degree. The first one uses
characteristics of strain figures and hysteresis loops, and the second one is based on
ESPI (electronic speckle pattern interferometry). It has been discovered that the
crack initiation life is determined by the following two phenomena. The first one is
the first appearance of Lüders bands. For another, the first distortion of the
hysteresis loop tips under low-cycle fatigue testings. Moreover, it has been discovered
that the fatigue failing area and its degree are determined and measured by young’s
moduli distribution that is obtained using ESPI.
Keywords: Lüders bands, strain figures, hysteresis loop, low-cycle fatigue testing,
ESPI (electronic speckle pattern interferometry)
1. 緒論
どの影響により,材料の応力分布やひずみ分布は変化
現在広く使用されている炭素鋼の疲労破損域および
する.また,中間報告書において筆者らは,焼鈍した
疲労によるき裂を,正確かつ早期に特定することは,
S45C の降伏に伴うヤング率低下を電子スペックルパ
構造物の保守管理上極めて重要である.ゆえに,疲労
ターン干渉法(以下,ESPI)により観察できることに
過程を解析し疲労寿命を推定する努力がなされている.
言及した.これらのことから,材料のひずみ分布を高
き裂発生寿命はき裂伝播寿命と異なり,その実験値
精度に計測することが可能になれば,ヤング率の分布
が報告[1,2]により明らかに異なる.また,き裂発生寿
や降伏領域の分布が識別可能となり,破壊予測や非破
命の明確な定義方法の開発は,残された重要課題との
壊検査などに利用できると考えられる.
指摘がある[3].これらの解決には,疲労損傷の詳細な
本研究では,ループおよび表面観察によって,炭素
観察並びに繰返し荷重に対する材料の反応を表現する
鋼における疲労破損域の早期発見を試み,なおかつ,
応力-ひずみヒステリシスループ(以下, ループ)の解
疲労き裂発生の予知方法に言及する.さらに,ESPI
析が有効と考えた.炭素鋼では降伏点伸びに対応して
による降伏度合い評価の可否について議論する.
Lüders band(以下,LB)が発生する.破断前の局部
すなわち,具体的には,疲労破損域の早期発見およ
狭窄箇所の表面では Orange peel (以下,OP)が見える.
び疲労き裂予知法確立のために,低炭素鋼製帯板試験
これらの現象は繰返し荷重のもとでも単純荷重のとき
片に繰返し荷重を加え,表面状態の変化を直接観察し,
と同様に起こる[4].疲労損傷はこれらの現象を利用す
ループを求め,疲労破損およびき裂との関係に言及す
れば直接観察が可能となる.
る.
ところで,局所的な塑性変形が起こると残留応力な
また,円孔を有する試験片に対して降伏させない十
一瀬 謙輔,五味 健二,有川 秀一
分に低い荷重での引張り試験を行い,試験片表面の応
また,ESPI による実験では,上述の他に Fig.4 およ
力集中によるひずみ分布と,円孔近傍を降伏させた試
び 5 に示す光学系を利用した.ESPI 光学装置は Fig.4
験片におけるそれを ESPI により観測する.そしてこ
に示すように,光源から出力されたレーザを,対物レ
れらの比較から,降伏領域の ESPI による降伏度合い
ンズにより拡大,無偏光ビームスプリッタによって二
評価の可否を議論する.
分し,試験片にそれぞれ約 45°の角度で照射する.こ
2. 実験装置,
実験装置,方法および
方法および試験片
および試験片
の時,試験片表面からの拡散光が相互に干渉し,試験
2.1 実験装置
片正面を向いている CCD(charge coupled device)カメ
ループを求める実験では,試験片への荷重負荷に油
圧制御式変動負荷装置(EB10-40L)
(Fig.1 および 2)
,
ラの結像面にスペックル模様をつくる.この装置のひ
ずみ感度は,ターゲット面内における任意の方向にと
ひずみ測定には MTS 製伸び計(634.31.F-24)を用い
た(Fig.3).荷重および変位量は試験機に取付けられ
たロードセル,伸び計より出力されたアナログデータ
をデータロガへ転送しデジタル信号に変換して読み取
った.
Computer
Function generator
Data logger
Load cell
MTS
Extensometer
Light
Control unit
Feed back
Strain amp
Load amp
Stroke amp
Video camera
Fig.3 Photograph of an extensometer
Actuator
Monitor
Fig.1 A diagram of the material testing facility
Specimen
Mirror
Semiconductor
Beam
Upper
laser
splitter
chuck
Beam 1
α
Lower
chuck
Mirror
α
CCD
Beam 2
Beam expander
Dynamic load
Fig.4 The experimental setup
Fig.2 A photograph of the testing facility
Fig.5 Photograph of the setup
炭素鋼における疲労破損域およびき裂の早期発見(Q04M-01)
ることが可能である.本稿では,試験片の引張方向に
ひずみ感度を持つよう設定した.これは,試験片の長
手方向にほぼ直角で平行な縞を出現させることで,長
Table1
Material
SS400
S50C
Chemical composition on weight percentage
C
0.11
0.50
Si
0.24
0.26
Mn
0.58
0.76
P
0.15
0.19
S
0.16
0.15
Cu
0.09
Cr
0.11
Ni
0.06
手方向に平行な縞を出現させる場合に比して,より高
引 張試験 中に刻 々と変 化する スペッ クル模 様を
CCD カメラは連続撮影し,数枚間隔の2枚の画像間に
ついて計算器は演算を行う.計算器は,各画素の輝度
Material
SS400
S50C
Dimensions of the specimens
Eep. method
LB & Roop
ESPI
R (a)
(a)
20
80
(c)
25
20
(d)
9
3
(b)
(f)
出力する処理を行っている.この処理によりひずみ分
布を示す相関縞を得る[5].
(e)
12
30
(f)
2
3
(e)
データについての排他的論理和を計算し,再び画像に
2.2 実験方法
(b)
12
10
(c)
Table2
次の縞を観測できるよう配慮したことによる.
200
(d)
Fig.6 Shapes and dimensions of specimens
ループを求める実験では,ひずみ制御による両振り
試験を行った.引張圧縮のひずみの比は-1,周波数
は 0.5Hz とした.自作のプログラムにより,ひずみを
振幅 0.02%/cycle で 0.7%まで上昇させた後,ひずみ
0.7%の繰返しひずみが試験片に作用するように設定
した.試験中は試験片の片面上における状態変化をビ
デオカメラで連続撮影した.また,LB からき裂発生
までの寿命(以下,き裂発生寿命)を推定するために,
LB,き裂発生点,およびその前後におけるループを,
計測された応力,ひずみのデータから求め,それぞれ
の比較を行った.
ESPI による実験では,試験片全体に十分な塑性変
形が進むまで引張試験を行い,同時に ESPI により降
伏過程を観察するという予備実験を最初に行った.こ
の結果から以降に示す実験の荷重条件を決定した.す
なわち,(1)新たな試験片に対し降伏を起こさない低い
荷重までの引張試験を行い,同時に ESPI により試験
片表面のひずみ分布を観察する.(2)次にこの試験片の
円孔近傍を降伏させ,この降伏過程も ESPI により観
察し,降伏領域を確かめる.(3)除荷した後,再度この
試験片に低い荷重までの引張試験を行い,ESPI によ
り試験片表面のひずみ分布を観察する.(4)これら(1)
と(3)の実験から得られた降伏前後の相関縞を比較す
る,といった実験を行った.なお,引張速度は毎秒 25N
の荷重制御とし,CCD カメラの撮影速度は毎秒 2 枚で
行った.
2.3 試験片
ループを求める実験では,試験片材料に一般構造用
圧延鋼 SS400 を用いた.Table 1 の上段にその化学成
分を示す.Fig.6 および Table 2 の上段は試験片の形状
寸法で,それぞれの値は ASTM E-606 に準じて定めら
れている.き裂発生の把握を容易にするため,試験片
平行部中央に直径 2mm の円孔をあけた.材料は機械
加工に先立ち 900℃で焼鈍した.試験片表面を直接観
察する都合から一面をエメリー紙(#2000)で磨き、
鏡面に仕上げた.試験片のビッカース硬さは 125[HV]
であった.
ESPI による実験では,試験片は焼鈍した一般構造
用炭素鋼 S50C を用い,形状は ASTM 規格 5.2.2.1 に
準じて作製し,試験片平行部中央に直径3mm の円孔
をあけた.その形状寸法を Fig.6 および Table 2 の下
段に,化学成分を Table 1 の下段に示す.加工は焼鈍
した材料にフライスで形状を作り,両面を研削加工し
た後,片面は LB を肉眼で観察できるようエメリーペ
ーパーにより鏡面に近い状態に整えた.反対の面には
スペックルパターンを観察しやすくするために白ペン
キを噴霧した.
3. 実験結果および
実験結果および考察
および考察
まず,ループを求める実験の結果および考察に言及
する.疲労は繰返し荷重に基づく現象であることを考
慮し,繰返し応力-ひずみ図を求めて Fig.7 を得た.
一瀬 謙輔,五味 健二,有川 秀一
疲労寿命は繰返し回数で表されるので,Fig.7 の応力に
対応する繰返し数を知るため Fig.8 を求めた.Fig.9 は
Fig.7 を求めるとき同時に記録した試験片表面の状態
変化である.Fig.10~13 は,それぞれの繰返し数に対
応するループを示す.
(a) 8 cycles
(b) 26 cycles
(c) 31 cycles
(d) 44 cycles
返し数 8 回で上降伏点に到達し, そこで LB が発生し
(e) 97 cycles
(f) 196 cycles
(g) 217 cycles (h) 297 cycles
たことを示している.さらに Fig.10 から,LB が発生
Fig.9 The free surface state in relation to cycles
3.1 ループによる
ループによる疲労
による疲労の
疲労の始まりの
まりの定義
Fig.9(a)は LB 発生点,(b)(c)は LB が平行部全体に
伝播していく様子,(d)はき裂発生,(e)~(g)はき裂進展,
(h)は破断を示す.まず Fig7~9 は,ひずみ 0.09%,繰
したと同時にループが幅を持ち始め,塑性ひずみが生
繰返し応力-ひずみ図における上降伏点が疲労の始ま
りとなっていることを示唆している.従来,疲労の始
まりをいつからとするのかは不明確で,き裂発生寿命
を求めた報告でもその点は明らかでない.しかし,低
400
400
300
300
300
200
200
200
100
100
100
0
-0 .2 -0 .1
-1 0 0
0
0 .1
0 .2
0
-0 .2 -0 .1
-1 0 0
0
0 .1
0 .2
Stress [MPa]
(Fig.12),塑性ひずみは増大する.これらの結果は,
Stress [MPa]
て い く と 共 に ( Fig.9(b)(c)), ル ー プ の 幅 が 拡 大 し
400
Stress [MPa]
じたことがわかる.以降,LB が平行部全体に伝播し
0
-0 .2 -0 .1
-1 0 0
0
0 .1
-2 0 0
-2 0 0
-2 0 0
-3 0 0
-3 0 0
-3 0 0
-4 0 0
S train [ % ]
-4 0 0
S tra in [ % ]
-4 0 0
S train [ % ]
(a) 7 cycles
(b) 8 cycles
0 .2
(c) 9 cycles
Fig.10 Hysteresis loop on LB initiation
炭素鋼の場合,疲労の始まりは,繰返し応力-ひずみ
図における上降伏点からと考えることが妥当である.
400
400
400
400
300
300
300
300
200
200
200
100
100
100
0
-0.8
-0.6
-0.4
-0.2
0
-100
0.2
0.4
0.6
0.8
-200
0
-0 .6 -0 .3
-1 0 0
0
0 .3
0 .6
-400
0
0 .3
0 .6
0
-0 .6 -0 .3
-1 0 0
0
0 .3
-2 0 0
-2 0 0
-2 0 0
-3 0 0
-3 0 0
-3 0 0
-4 0 0
S tra in [% ]
-4 0 0
S tra in [% ]
-4 0 0
S train [% ]
(a) 30 cycles
-300
0
-0 .6 -0 .3
-1 0 0
Stress [MPa]
100
Stress [MPa]
Stress [MPa]
Stress [MPa]
200
(b) 31 cycles
0 .6
(c) 33 cycles
Fig.11 Hysteresis loop on crack initiation
Strain [%]
Fig.7 Cyclic stress-strain diagram
400
Number of
8
26
31
44
400
Stress [MPa]
300
Stress [MPa]
200
100
0
-100
1
10
100
1000
-0.8
-0.6
300
200
100
-0.4
0
-0.2
0
-100
0.2
0.4
0.6
0.8
-200
-300
-200
-400
-300
Strain [%]
-400
Number of cycles [cycles]
Fig.8 Stress in relation to cyclic number
Fig.12 Hysteresis loop on fatigue process
(Number of cycles 8~44)
炭素鋼における疲労破損域およびき裂の早期発見(Q04M-01)
3.2 ループによる
ループによる疲労
による疲労き
疲労き裂発生の
裂発生の定義
その後図 9(d)において,ひずみ 0.7%,繰返し数 44
回目で OP および微小き裂が目視された.しかし,目
きるか否かについて,ESPI による実験結果を以下で考
察する.
3.4 ESPI による降伏度合
による降伏度合い
降伏度合い評価の
評価の予備実験結果
視のみではき裂発生点を正確に判断することは困難で
まず,各実験条件を決定するための予備実験として,
ある.そこで,き裂発生点においてのループを求める
試験片全体に十分な塑性変形が進むまで引張試験を行
と,その一部分で歪んでいる箇所が観察できた.その
った結果,Fig.14 に示すような荷重-ストローク線図
様子を Fig.11 に示す.このループの歪みは,き裂が発
を得た.
生することで一時的に応力が低下しているためと考え
この時の ESPI の画像から次のことが観察できた.
られる.本実験では,ひずみ 0.45%,繰返し数 31 回
Fig.14 中の矢印①で示す所で試験片の円孔から平行部
目でループの右上端に歪みが入り始めた.従って,こ
側面にかけて降伏を示す局所ひずみ帯が発生した.そ
の点はき裂発生点と見なしてよいと考えられる.従来,
の後から矢印②にかけて円孔付近の降伏,塑性変形が
き裂発生は一結晶粒長さのき裂が発生したときとし,
進行した.矢印②から矢印③にかけて円孔から離れた
レプリカ上に見えるその長さを顕微鏡で測定し定めて
試験片平行部に局所ひずみ帯が発生,伝播した.その
いる.ル-プを利用する方法でその値を求めれば,従
後全体に塑性変形が進行した.
来の手法よりも的確かつ高精度の値になると考えられ
この実験の結果から,試験片を降伏させない低い荷
る.本実験の場合,LB 発生時の繰返し数が 8 回,き
重を①の荷重の約半分の荷重である 4kN とし,円孔近
裂発生時の繰返し数が 31 回であったため,き裂発生寿
傍を降伏させる際の荷重を①と②の中間の荷重である
命は差し引き 23 回となる.
11kN とした.
以上の結果は,Fig.7 で明らかなように,本稿の実
験条件である 0.7%の繰返しひずみに依存している.
400
Number of
97
196
217
297
すなわち,この繰返しひずみの値がより大きな実験条
Stress [MPa]
件では,き裂発生寿命は短くなり,小さいと長くなる.
き裂発生寿命の測定値が報告により異なるのは,この
繰返しひずみの値の大きさの違いによる影響が一因と
300
200
100
-0.8
-0.6
-0.4
0
-0.2
0
-100
0.2
0.4
0.6
0.8
-200
考えられる.
-300
3.3 LB とループの
ループの関係
-400
Strain [%]
Fig.8,および 13 より,き裂発生後,繰返し数約 150
回を超えると,応力は急激に低下していることがわか
Fig.13 Hysteresis loop on fatigue process
る.本実験では,繰返し数 297 回で破断に至った.
(Number of cycles 97~297)
Fig.9~13 の結果は,疲労は繰返し荷重が,繰返し
20
その時試験片表面には LB が現れ,この LB は負荷の
16
繰返しにつれて漸次 OP へと変化し,遂にはそこにき
裂が目視できることを示している.OP の見え始めは
Load (kN)
応力-ひずみ図における上降伏応力に達すると始まり,
12
11k
き裂発生点をすぎているため,表面観察のみでき裂発
4
生点を判断することは困難である.しかし,LB の発
0
①
0
生に留意することで,き裂の発生を回避するような表
③
②
8
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
1.4
1.6
Stroke (mm)
面観察の利用法が有効と考えられる. 目視およびルー
プに依らない,光学測定によってき裂の発生を予知で
Fig.14 Load-Stroke curve
1.8
2
一瀬 謙輔,五味 健二,有川 秀一
3.5 ESPI による
による降伏度合い
降伏度合い評価の
評価の実験結果と
実験結果と考察
新たな降伏させていない試験片に対し,4kN までの
引張試験を行った際の,ESPI により得られた相関縞
を Fig.15 に示す.この画像は試験片平行部を拡大した
もので,右が固定側,左が引張の向きになっている.
これに現れている相関縞は 1.5kN が負荷された際のひ
Fig.15
Interference fringes
(before the yielding)
ずみ分布を示したものである.縞の間隔が狭いほどそ
の部分のひずみが大きいことを示している.縞が直線
で等間隔な部分は試験片平行部の一様なひずみを示し,
円孔付近で縞の間隔が狭くなっていく様子は,応力集
中によるひずみの集中を示している.また,この相関縞
は縞が等間隔の部分では約 22µεのひずみがある事を
示している.
次にこの試験片に対し,円孔近傍を降伏させるため
Fig.16
11kN まで引張試験を行った際の相関縞を Fig.16 に示
Interference fringes
(after the yielding)
す.これは 11kN までの引張試験における最後の 50N
が負荷される間の塑性変形過程のもので,円孔近傍の
縞模様の領域が降伏し塑性変形が進行している様子を
示している.また縞模様以外の,色が一定になってい
る領域は降伏していない領域を示している.
この円孔近傍を降伏させた試験片を除荷した後,再
び 4kN までの引張試験を行い ESPI により Fig.17 に
Fig.17
示すような相関縞を得た.これも Fig.15 と同様 1.5kN
Interference fringes
(after the yielding)
が負荷される間のひずみ分布を示すものである.
Fig.15 の降伏させる前の相関縞と Fig.17 の降伏
させた後の相関縞をそのまま比較しても,はっきりと
した違いは判りにくい.そこで,判りやすくするため
にそれぞれの円孔近傍における相関縞の上に,最も黒
い部分をつなぐ線と最も白い部分をつなぐ曲線を同じ
数描いた.これらを Fig.18 と Fig.19 に示す.この曲
線群を比較すると,降伏前より降伏後の方が,曲線相
Fig.18
Lines of Interference fringes
(before the yielding)
互の間隔が狭くなっていることがわかる.これは,同
じ荷重で引張っているにもかかわらず,降伏前の試験
片(Fig.18)と,降伏後の試験片(Fig.19)とで,ひ
ずみの分布に明確な違いが現れることを示している.
このことより,ESPI による降伏域の識別は可能と考
えられる.また,疲労軟化あるいは硬化の度合いと,
破損度合いとの相互関係データが揃っている材料に関
しては,ESPI による降伏度合いの評価が可能となる
Fig.19
Lines of Interference fringes
(after the yielding)
炭素鋼における疲労破損域およびき裂の早期発見(Q04M-01)
ことを示唆している.
ここに記して謝意を表する.
4. 結論
参考文献
炭素鋼の疲労破損域および疲労によるき裂を,正確
[1] 村上・原田・谷石・福島・遠藤,微小き裂の伝ぱ則,
かつ早期に特定するために,ループを求める実験およ
低サイクル疲労法則およびマイナー則成立の相
び ESPI による降伏域の識別を試みた.その結果以下
互関係について,日本機械学会論文集, 49-447A,
49
の結論を得た.
p.1411 (1983).
(1) き裂発生寿命は応力-ひずみヒステリシスルー
[2] 山田・星出・藤村・真鍋,中炭素鋼の平滑材塑性疲
プ並びに試験片自由表面の状態変化を利用して
労における表面き裂の伝ぱ解析に基づく寿命則
精度良く知ることができる.
の検討,日本機械学会論文集, 49-440A,
p.441
49
(2) 繰返し荷重による試験片表面の変化を連続観察
することで,疲労き裂発生の回避が可能となる
(1983).
[3] 幡中, 低サイクル疲労とその寿命解析(2),機械
ことが明らかとなった.
の研究, 34-8, p.883 (1991).
(3) 降伏の前後における相関縞を比較することによ
[4] Ichinose, K., Gomi, K., Fukuda, K., Sano, M.,
り,試験片の円孔近傍の降伏によるひずみ分布
and Taniuchi, K.: Yield Strength in Relation
の変化を可視化することが可能であり,これを
to Cyclic Loading, ASTM J. of Testing &
利用して降伏の有無の識別,および降伏の度合
Evaluation, pp.529-534 (2001).
いを評価できると考えられる.
謝辞
本研究は東京電機大学総合研究所研究 Q04M-01 と
[5]
Yoshida,
S.,
Suprapedi,
Widiastuti,
R.,
Pardede, M., Hutagalomg, S., Marpaung, J. S.,
Muhardy, A. F. and Kusnowo, A.: Direct
して行った.ヒステリシスループおよび表面観察によ
Observation
of
る実験では,谷内聖教授(明治大学)に,ESPI によ
Deformation
and
る実験では吉田賛一郎助教授(Southeastern Louisiana
35,
Nondestructive Testing, J. Appl. Phys, Vol.35
35
Univ.)および豊岡了教授(埼玉大学)にご指導賜った.
pp.L854-L857 (1996).
Development
Its
Plastic
Application
to