秀才 は ハ ー バ ードを目指す 毎年 30人超が直接海外大 へ

日本の秀才たちが選ぶ
東大よりハーバード大
経済のグローバル化を背景に、米国のビジネススク
ール(経営大学院)でMBA(経営学修士号)取得を目
指す動きがビジネス界を中心に広がっている。日本か
らも優秀な学生が国内の有力大学を素通りして直接
進学を目指すケースも増えている。大学世界ランキ
ングで首位を独走する米ハーバード大を中心に、米国
が、米国の学生の方が能力的にすぐ
れているというわけではない。やる
気さえあれば乗り越えられる」と振
力大学のハーバード大だった。
選んだのは東大ではなく、米国の有
進むものと期待されていた。だが、
は、学業成績も優秀で、当然東大に
ンプリで上位5人に入った北川さん
市)を卒業した。全国高校化学グラ
研究機会が与えられ、多様な興味を
した。教育の質が高く、学部生にも
ビーリーグの名門、エール大に進学
妻も卒業生に名を連ねる米東部アイ
大統領父子やクリントン前大統領夫
卒業した井口信人さんは、ブッシュ
昨春、麻布高校(東京都港区)を
り返る。
高校1年時に1年間の米国留学を
持った学生が集まる米国の大学に引
合格したが、「人間として成長できる
経験したことが転機になった。帰国
大へ行くのもいいが、どうせなら最
環境に自分を置くことが大切」とエ
かれたという。京都大学理学部にも
高の環境で学びたい」と考えるよう
ールを選んだ。
めた。結局、
日本の大学は受験せず、
らうなど、抜群の行動力で準備を進
考えを持った人と知り合い、視野が
ール大で半年を過ごし「いろいろな
が世界に目を向けさせたという。エ
親の仕事でドイツに1年住んだ経験
ハーバードとともに、プリンストン
飛躍的に広くなったように感じる。
井口さんの場合も、中学生の時に
大、マサチューセッツ工科大(MI
将来は米国のメディカルスクールに
灘高の先輩でノーベル化学賞受賞者
T)
、シカゴ大にも合格し、ハーバー
進学し、医学研究することも考えて
これまでは日本の大学に入学し、
いる」と目を輝かす。
い、社会や両親からのサポートが受
卒業あるいは就職したうえで米国の
北川さんは「英語や受験制度の違
ドに進んだ。
の野依良治教授に推薦状を書いても
になった。独力で出願方法を調べ、
し、大学受験の時期を迎えると「東
大学への進学で名高い灘高校(神戸
北川拓也さんは2004年、東京
い」││。
「世界中の面白いやつらに会いた
30
けられないといったハンディはある
2007.3.27
エコノミスト
91
Bloomberg
秀才はハーバードを目指す
毎年 人超が直接海外大へ
高等教育機関の競争力の秘密を探る。
人が進んでいる。
もあり、増減状況は明らかでない。
古いものや直近の状況が不明の学校
把握している範囲のデータのため、
ールに進みたいとコンタクトして来
森田正康さんは「米国のトップスク
援サイトを運営するアルク取締役の
(アルク刊)の著者で、
海外進学者支
『東大よりハーバードに行こう 』
人と推移している。あくまで各校が
なかった裕福な家庭の子女だった。 ただ言えるのは、1校からの進学
目指すのは、日本の大学に合格でき
者は最大でも年7人で、まだまだ少
た人は 〜 人いる。ハーバードも
大学院を目指すのが留学のパターン
北川さんや井口さんのように日本の
数にとどまることだ。またその一方
灘高生2人が狙って準備している」
だった。
一流大学を飛び越え、米国を目指す
で、各校とも組織的な指導はしてい
と話す。
一方、高校から直接米国の大学を
のは例外的なのだろうか。
ないのに、平均すると各校とも毎年
!?
ったアンケートでは、回答のあった
数上位の主要進学校 校を対象に行
当編集部が東大、京大への合格者
いた。ハーバード、MITに3人ず
一部にはアジアの大学に進んだ人も
残りは英国やドイツなどの欧州で、
進学先は、圧倒的に米国が多く、
加え、成績上位2〜3割で政治家や
語学学校に行ってからという生徒に
いで日本の教育が肌に合わないので
かれる。成績は下から3分の1くら
では「海外進学する生徒は2層に分
者を出す海城高校(東京都新宿区)
校から 年以降の7年間に207
つ、プリンストン2人、エール1人
人が海外の大学へ直接進学している
ことが分かった。年平均 人で、
専門職志向が一因に
こうした学生の意識変化と並ん
修の機会も設けており、春田教諭は
英語指導や、ホームステイ・語学研
いないというが、外国人講師による
海外進学向けに特段の指導はして
資格によって就職が確保できる医療
崩れつつある。国内の大学受験でも
進学が生涯を保障するという神話が
ものになったことで、有名大学への
雇用制の崩壊や、起業が当たり前の
で、経済環境の変化も大きい。終身
海外で学ぶことに生徒が違和感を持
福祉関係の学部の志願者が増えてい
っては、願書の入手も簡単だ。海外
一さんも「インターネット世代にと
てきた教育ジャーナリストの中井浩
海外進学する高校生の声を取材し
生徒も出てきている」と話す。将来
先端の分野を米国で学びたいという
ている。その一方、理工系などで最
医学部志願者の増加という形で表れ
田孫博教頭は、「学生の専門職志向は
る。北川さんを送り出した灘高の福
で活躍する野球やサッカー選手の存
結論が、米国留学になっているとい
設計を踏まえ進学先を真剣に選んだ
ている」と解説する。
在もあり、意識の上で壁がなくなっ
とみる。
たなくなっていることが背景にある
習指導部長)
。
マスコミといった明確な目標を定め
例外的ケースとも言えない。
1人は海外に出ている計算になり、 米国の名門大へ毎年のように進学
80
など、英『タイムズ』紙の世界大学
校207人が海外へ
70
る生徒も出てきている」(春田裕之学
(注)2006年の入試合格者数で東京大学の上位30校、京都大学の上位15校
の計42校(重複3校を除く)
にアンケートを行い、
32校から回答を得た。対象
は2000∼06年の進学者のうち判明分。
( )
のないものは米国
(出所)
『エコノミスト』
アンケート
Bloomberg
独力でハーバードに挑む学生も
12
ランキング(100㌻参照)で東大
06
年 人、 年 人、 年 人、 年
( 位)
を上回る米国トップ 校に計
11
2人
25 30
人、 年 人、 年 人、 年
19
ネブラスカ大学
カリフォルニア州立大学
ウィスコンシン大学
オクラホマ州立大学
テキサス大学アーリントン校
ノーステキサス大学
ハーバード大学
マサチューセッツ工科大学
セントアンドリュース大学(英)
カールスルーエ大学(独)
プリンストン大学、
ミシガン大学、
ロンドン大学(英)、
ダブリン大学(アイルランド)他
42
45
02
05
27
00
進学者数
9人
5人
4人
4人
4人
4人
3人
3人
3人
3人
00
38
01
04
03
25
主な進学先
92
エコノミスト
2007.3.27
32
32
12
進学者数
23人
21人
19人
18人
15人
13人
12人
11人
11人
10人
207人
海外進学者の多い主要進学校
(奈良・私立)
西大和学園
(大阪・府立)
北野
(東京・私立)
海城
(神奈川・私立)
桐蔭学園
(東京・国立)
東京学芸大付
(東京・私立)
女子学院
(岐阜・県立)
岐阜
(東京・私立)
武蔵
(大阪・私立)
四天王寺
渋谷教育学園幕張(千葉・私立)
32校判明分 計
35
主要進学校2000∼06年の海外進学状況
東大よりハーバード大
価で、世界中から多様な学生を集め
ことも重要になる。こうした総合評
あふれる人が世界中から集まるソフ
北川さんは「ハーバードには才能
ロソフト創業者のビル・ゲイツ氏と
ナンキ議長、中退ではあるがマイク
うわけだ。
では、米国の大学のどこが優秀な
バードの門をくぐった。
の仕組みもあり、やる気さえあれば
日本からは1980年代後半以
いった世界経済を動かす人物もハー
はオリジナルで特殊な人間が求めら
何でもできる。やる気のある人はこ
降、MBA(経営学修士号)取得の
トパワーがあり、奨学金などの援助
クの森田さんは自らも中学時代に米
れる。多様な意見をぶつけ合い、文
こが好きでたまらなくなるが、何を
ためビジネススクールに企業や官庁
ている。森田さんは「ハーバードで
国へ移住し、カリフォルニア大バー
化が混ざり合うなかで世界で戦える
していいか分からない人は広すぎて
学生を引きつけるのだろうか。アル
クレー校からハーバード大学院、英
力が身に付く」と語る。
から年 人前後が送り込まれるよう
ケンブリッジの大学院へという華麗
途方に暮れることになる」とその魅
大では学力テストはひとつの要素に
する日本の大学に対し、ハーバード
偏差値という単一基準で輪切りに
観の多様性にあると考えるからだ。
めるのは、その教育力の源泉が価値
入学できたとしても、
膨大な勉強量、
ト不足といった問題が残る。さらに
違い、語学の壁、親や学校のサポー
ではないことも事実だ。入学条件の
なってきたが、安易に踏み出せる道
門大学が日本の大学と並ぶ選択肢に
つつあり、国際評価が高い米国の名
このように海外進学の環境は整い
ハンデではなくなりつつある。
外資系企業が増え、海外大学出身は
を見据えた学生たちに、論文引用数
てのことだ。だが、世界で戦うこと
の秀才が流出していく状況を危惧し
な能力と意欲を備えたトップクラス
国に奪われ、さらに北川さんのよう
に掲げる。海外の優秀な留学生を米
ぞって「国際競争力の強化」を課題
慶応大などの日本のトップ大学はこ
争が激化するなか、東大、早稲田大、
大学全入時代を迎えて生き残り競
生総数約2万人(うち学部生は約6
大学のホームページによると、学
官らを輩出している( ㌻参照)
。
院)も有名で、塩崎恭久内閣官房長
んだ。ケネディスクール(行政大学
三木谷浩史社長といった経済人が学
の三村明夫社長や、近年では楽天の
ビジネススクールでは新日本製鉄
う。
個人で挑戦する人が増えているとい
企業派遣が大幅に減ったが、近年は
グローバル化の進展で、就職先も
過ぎない。エッセイや面接では自己
クラスでの積極的発言、文化や生活
やノーベル賞獲得を増やすことを目
700人)のうち、海外からの留学
な経歴を持つ。彼が米国の大学を勧
分析力やコミュニケーション能力が
スタイルの違いといったハードルを
標に掲げるような大学に魅力を感じ
生は約2割の3821人。日本人は
になった。バブル経済の崩壊以降は
求められる。ボランティアや課外活
乗り越えて卒業するのも容易ではな
てもらうのは至難だろう。
力と厳しさを熱く語る。
動など学業以外で秀でた実績を残す
い。
130人で、ビジネススクールが
人、ケネディスクールが 人、学部
本にないという人は考えてみるべき
いい。ただ、自分の求めるものは日
開花できる人はそちらを選んだ方が
ンルのものだ。日本の大学で才能を
国のトップスクールは全く違うジャ
ハーバードだと言う人がいるが、米
(経営大学院)
の出身だ。さらに数多
ッシュ大統領もビジネススクール
り出してきた。現職のジョージ・ブ
ケネディをはじめ6人の大統領を送
リン・ルーズベルト、ジョン・F・
呼ばれる。その卒業生からフランク
ーバード大は世界最高峰の大学とも
る経営力にも注目が集まっている
米国のトップスクールの強さを支え
トン、スタンフォードなどを含めた
ードと並ぶ名門・エールやプリンス
バードの教育内容、さらにはハーバ
世界から教授や学生を集めるハー
生は4人(いずれも 年度)
。
だ」と話す。日本の大学より米国の
( 〜 ㌻参照)
。
連邦準備制度理事会)のベン・バー
くのノーベル賞学者や、FRB(米
来て、
東大なんて誰でも入れるから、 世界中の学生が熱い視線を送るハ
アルクの森田さんは「全入時代が
23
94
24
名門大学を出る方が箔が付くという
考え方は通用しないようだ。
99
(乾 達・編集部)
06
2007.3.27
エコノミスト
93
20
* * *
海外の大学が現実的な選択肢に
98
日本を動かすハーバード大卒業生
MBA(経営学修士号)を目指すビジネススクールに
は毎年10〜20人の日本人が留学している。卒業生は
国内企業だけでなく、外資系企業のトップやベンチャー
ビジネスの創業者など多士済々で、日本経済を牽引す
る人材を輩出している。MBA以外でも政界や学術分
野で数々のハーバード出身者が活躍している。
(注)
カッコ内は卒業した学部・大学院と卒業年
国内企業
槙原 稔
三菱商事相談役
(政治、54年)
中原伸之
元東燃社長、元日銀政
策委員
(経済院、59年)
正田 修
日清製粉グループ本社
会長
(MBA、
70年)
伊佐山建志
日産自動車副会長
(行政院、71年)
政界
三村明夫
新日本製鉄社長
(MBA、
72年)
エアバス・ジャパン社長
(MBA・法科院、82年)
ティエリー・ポルテ
新生銀行社長
(MBA、
82年)
=日本同窓会長
鹿島昭一
辺見芳弘
新浪剛史
ローソン社長
(MBA、
91年)
東ハト顧問
(MBA、
87年)
宗方 謙
ソニー・ピクチャーズエンタテインメン
ト社長
(MBA、
89年)
中川勝弘
トヨタ自動車副会長
(行政院、
71年)
堂山昌司
東芝EMI社長
(MBA、
90年)
南場智子
DeNA社長
(MBA、
90年)
大石佳能子
メディヴァ社長
(MBA、
88年)
2007.3.27
内閣官房長官
(行政院、
82年)
=ケネディスクール日本同窓会長
宮沢洋一
衆議院議員
(行政院、78年)
茂木敏充
衆議院議員
(行政院、83年)
林 芳正
内閣府副大臣
(行政院、
94年)
学者
藤井清孝
鶴見俊輔
ルイ・ヴィ
トン・ジャパング
ループ社長
(MBA、
86年)
樋口泰行
三菱UFJリサーチ&コン
サルティング理事長、
多
摩大学学長
(経済院、
73年)
蒲島郁夫
東京大学教授
(行政院、
79年)
国領二郎
慶応大学教授
(MBA、
88年)
皇族
皇太子妃雅子さま
楽天社長
(MBA、
93年)
(経済、
85年)
堀 義人
グロービス・グループ代表
(MBA、
91年)
東京大学教授
(経済院、
79年)
中谷 巌
マイクロソフト日本法人
COO
(MBA、
91年)
三木谷浩史
伊藤隆敏
哲学者
(哲学、
42年)
御立尚資
ドリームインキュベータ
会長
(MBA、
80年)
塩崎恭久
柴田拓美
NOK社長
(MBA、77年)
野村アセットマネジメント社長
=ビジネススクール日本
(MBA、
82年)
同窓会長
ボストンコンサルティンググループ日
本代表
(MBA、
92年)
ベンチャー
堀 紘一
衆院議員
(政治院、
67年)
鹿島相談役
(建築院、
75年)
鶴 正登
外資系
グレン・フクシマ
加藤紘一
茂木賢三郎
キッコーマン副会長
(MBA、
73年)
国際機関
幸田シャーミン
石坂信也
ゴルフダイジェスト・オンライン社長
(MBA、
99年)
エコノミスト
国連広報センター所長
(行政院、92年)
法曹
本林 徹
元日弁連会長
(法科院、
69年)
建築
槙 文彦
建築家
(建築院、54年)
谷口吉生
建築家
(建築院、64年)
94