核融合用大電力技術の波及効果 Spin-off Effects of Fusion Power Supply Development 嶋田 隆一 東京工業大学・原子炉工学研究所 SHIMADA Ryuichi Tokyo Institute of Technology Research Lab. for Nuclear Reactors 1. はじめに 電する構成となっている。このフライホイールは世界 核融合開発とは電力を巧みに用いて核融合反応を起 最大で、エネルギー4GJを充放電するため1000 こさせ、そこから入れた以上の電力を得るかの試みに トンのローターが周速200m/sで回転する巨大な 他ならない。1832年コックフォルトとウオルトン ハイテクフライホイールである。これはその後、パワ は彼らの名の付いた高圧発生回路を考案し、その高電 ーエレクトロニクスの進歩も加わり、同期電動機が可 圧でもってリチウム原子の標的に重水素イオンを加速 変速交流励磁発電機に変わったことにより、フライホ して衝突させベリリュウムと高速な中性子さらに イールの欠点であったエネルギー放出にともなう電気 3.4MeV のエネルギーの発生を確認し核融合による元 周波数の問題が無いため、新しい産業ニーズを産み出 素合成とエネルギーを得た。これは核分裂の連鎖反応 しつつある。そもそも核融合電力負荷の平準化のため をオットー・ハーンが見つける6年も前のことである。 に作られたのであるから、パルス負荷の産業用、周波 この話は、高電圧発生用電源の進展が鍵になっている 数が安定でない小規模電力系統に適用できる。この目 ことは容易に予想される。核融合開発の進展は装置の 的で フラ イホ イ ー ル 式電 力 周 波 数安 定化 装置 大型化によってなされたものであり、工学技術の進展 (ROTES)が沖縄で平成8年に設置され実際に運用 がそれを支えたのである。近年では、核融合開発もI されているのは重要なことである。なぜなら、沖縄の TERの規模になると、逆に核融合開発のニーズが工 電力負荷規模は日本では小さいが世界では平均的大き 学技術を引っ張る形になっている。 さであって、ここで役立つフライホイール技術は世界 私はJT−60の電源とその制御開発に係わったお 中でニーズがあると言える。 かげで、JT−60電源に電力分野で100年積み上 また、最近注目されている風力発電の安定化にフラ げた最高技術を思う存分使わせて頂いたことは開発者 イホイールが役立つと考えている。風力発電は風の脈 として最高の幸せであった。極限を超える性能を要求 動による変動電力は接続された配電線に電圧動揺や電 するJT−60核融合電源を工場技術者と共に開発し、 力不安定を起こすとして日本の電力会社は買い取りに 世界一の電源を作れたのは貴重な体験であり、今は大 乗り気ではない。これは水力発電比率の多い欧米との 学でその経験を若い世代に引き継ぐことを使命と思っ 違いではないかと思っている。そこで風力発電のロー ている。 カルで変動を緩和するためにフライホイールの利用が ここでは、私が大学に移ってから核融合技術も波及 考えられる。図は電力の安定化ばかりでなく風力運転 になればと研究した結果、産業 界で少しは話題になっている2 件を説明したい。 2. フライホイールの産業応用 JT−60はその運転にピー ク100万kWの電力を必要と する。そのためフライホイール 付き発電機を核融合分野ではめ ずらしくないが産業用には例の ない大型フライホイールを作る ことになった。トロイダル磁場 コイルの必要エネルギー8GJ はフライホイールによって半分 供給し、残りは系統から直接受 図1 ハイブリッド風力発電システム [email protected] 効率をも上げることのできるハイブリッドシステムの 概念図であるが、電力の安定ばかりでなく風力の効率 も上がる両者に利点のあるシステムと新聞にも取り上 げられ、その実用化が待たれている。 3. 電磁力平衡コイルの原理を用いたSMES トカマクプラズマは真空中に安定に保持されている。 これを磁気エネルギーで電気エネルギーを貯蔵する超 伝導磁気エネルギー貯蔵(SMES)コイルに応用す れば巨大な電磁力を低減できるのではないかと電磁力 平衡コイルが東京工業大学嶋田研で研究されている。 電力技術の開発で最も期待されながらまだ決め手が ないのが電力貯蔵技術で、規制緩和された電力市場の 価格決定権を持つに至ると言われている。SMESは 電力負荷平準化の有力な候補である。ITERでのモ デルコイル試験は技術的にこれが可能であることを示 したが、これも核融合技術の電力への波及の例であろ う。しかし、強大な磁気と大きな電流に起因する大き な電磁力が深刻な問題である。この問題に対処するた めに、我々は大型SMES用の電磁力平衡コイル(F BC)の概念を提案した。FBCは、ヘリカル巻線で 作ったトロイダル磁界コイルの一種である。このコン セプトを証明するために、すでに手作りの小型超伝導 コイルを作った。これはこの種の概念のコイルでの最 初の成功であり、定格2テスラの90%の励磁に成功 した。 新しいFBCは、大半径方向の力の平衡に加えて周 方向の転倒力を減少するように巻きピッチを工夫し、 さらに、ビリアル定理の概念を導入して圧縮力を排除 し、材料の利用率を極大にした構造により、最適な応 力分布にするピッチ構造を見いだした。このビリアル 定理の限界コイルは、50MWh級のSMESで、従 来のトロイダル磁界方式に比べ線材は 40%に、支持 部材は 25%になっている。 4.おわりに 核融合開発は人類究極のエネルギー源への挑戦であ るだけに夢を持って永続的にチャレンジし続ける必要 がある。その努力はその過程で多くの波及技術を生み 産業に役立つであろうことは戦争が技術の進展に多い に役立ったと言う説明よりもっと直接的で効果的であ ることは明白である。 1) 中村浩和、小柳明大、鈴木康慎、江口直也、佐藤義久、 嶋田隆一「風力発電におけるフライホイール蓄積容量に関 する研究」電気学会論文誌D、120−3,p247∼2 52、2002 2) Shinichi Nomura, Dabide Ajiki, Chisato Suzuki, Naruaki Watanabe, Etsuko Koizumi, Hiroaki Tsutsui, Shunji TsujiIio, Ryuichi Shimada “Design Considerations for ForceBalanced Coil Applied to SMES” IEEE Transactions on Applied Superconductivity 11 1 1920-1923 2001 3) 野村新一、渡辺成章、味川浩樹、筒井広明、佐藤義久、 飯尾俊二、嶋田隆一「電磁力平衡コイル用ヘリカル巻き線 機の開発とコイル製作技術」電気学会論文誌D、120− 3,p288∼293、2002 図2 電磁力平衡コイル巻線構造による応力σの違い、Qは最大応力の比を示す
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