民間航空機用エンジン開発の動向 - 航空機国際共同開発促進基金

(財)航空機国際共同開発促進基金
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民間航空機用エンジン開発の最新の動向
1. 概要
二酸化炭素排出量削減に向けての議論がより活発になる中、燃料価格高騰の懸念から
も民間航空機用エンジンの燃料消費率低減に対する要求は今後さらに高まる傾向にある。
また、有害物質排出量規制や航空機騒音規制などの環境負荷低減の更なる強化や、整備
コスト削減要求の高まりなどにも同時に応えられる技術開発が必須となっている。
このような中、昨年末に初試験飛行に成功したボーイング社の次期中型機である 787
型機は順調に受注を伸ばしており早期の商用運行開始が切望されている。リージョナル
機市場では新しい機体の投入が計画されており、150 席機クラス市場でも将来の旺盛な
需要獲得を目指した技術開発・エンジン開発が加速されようとしている。
本稿では、H20 年度の同題の解説記事の続編として、次世代の民間航空機用エンジン
への適用に向けて進められている技術開発の最新動向について、また、それらの新しい
技術を盛り込み開発が進められている次世代民間航空機用エンジンの最新動向について
解説する。
2. 次世代の民間航空機用エンジンへの適用に向けた技術開発の動向
昨年度の解説記事でも紹介した通り、近年の民間航空機用エンジンでは、燃料消費率
(SFC:Specific Fuel Consumption)低減の為に、更なる高バイパス比化による推進効率
の向上とともに、熱効率を向上させている。 この為、エンジンの軽量化を実現しつつ、
全体圧力比を上げ、タービン入口温度を高温化し、各要素を高効率化する必要があり、
軽量かつ高効率のファン、高性能の圧縮機や高温に耐える高効率のタービン、そして低
環境負荷で効率の良い燃焼器などの開発が盛んに行なわれている。 以下では、これらの
開発を支える重要な技術開発要素の中から、エンジンの軽量化、タービン入口温度の高
温化、低環境負荷、要素効率の高効率化について最新の技術開発動向を紹介する。
2.1 エンジンの軽量化への対応
高バイパス比化に伴って相対的に径が増大していくファン部は勿論のこと、ファン部
以外でも重量削減を追及していくことは、エンジンの支持構造、さらには航空機全体の
重量削減にも繋がり、航空機の燃料消費量(Fuel Burn)改善に大きく貢献する。
2.1.1 ファン部への複合材適用の拡大
ファン回転部では、GE90 などの大型エンジンにて既に積層
タイプの複合材ファンブレードが実用化されて着実に運用実績
が蓄積されている。 一方、ファン径が小さくブレード長の短い
150席機クラスのエンジン用ファンブレードに複合材を適用
する際は、鳥吸い込み時の耐衝撃能力への要求レベルが相対
的に増し、より高強度の複合材が必要となる。 図 2-1-1-1 に
図 2-1-1-1 フ ァ ン ブ
示すようにカーボン繊維を3次元状に複雑に織り合わせてブ
レード用3次元繊維
レードの基本構造を形成し、その中に高速でエポキシ樹脂を
織物構造の概念図 1)
注入する、3D woven resin transfer molding と呼ばれる方法にて製造された新しいタ
1
イプの複合材製ファンブレードが仏スネクマ社で開発され、米国 GE 社との共同出資
会社である CFMI 社の次世代150席クラス機用エンジンへの適用を目指して各種評
価試験が続けられている。また、ファン静止部では、GEnx にて初めて全複合材製フ
ァンケースが採用され、今後、他のクラスのエンジン用ファンケースや他部品にも着
実に適用が広がっていくものと思われる。
我が国においても、日本航空機エンジン協会のもとで次世代エンジンへの適用を目
指して複合材ファンケース及びファンブレードの研究開発が進められている。
2.1.2 高温部への複合材の適用
ファン部同様、燃焼器、タービンなどの高温部でも大幅な重量軽減を可能にする材
料開発が切望されており、従来のニッケル基超合金に比べて密度が 1/3~1/4 と非常に
軽量で、かつニッケル基超合金の融点に近い温度域でも使用可能とされるセラミック
スマトリクス複合材(CMC:Ceramic Matrix Composites)が注目を集めている。
CMC材は耐熱性に優れたシリコンカーバイドなどの繊維束を3次元状に織り合わ
せ、その回りを低密度かつ耐熱性に優れたセラミックスを化学反応やポリマー含有・
焼成などの方法により覆い形状を生成するもので、これまで戦闘機用エンジンのアフ
ターバーナーフラップなどに用いられてきた。 近年、製造方法や耐熱性、疲労強度な
どの更なる向上により、燃焼器ライナーやタービン翼などのエンジン高温部主要部品
への適用拡大を目指した技術開発が活発に行なわれている。
我が国では「軽量耐熱複合材CMC技術開発」におい
て、タービンノズルへの適用を目指して複雑形状成型法
の開発や冷却構造の検討、構造成立性の評価が進められ
ている。2) 図 2-1-2-1 は、試作中のタービン翼である。
一方、GE 社では、約15年に渡る CMC 技術開発の積
み上げにより高温部主要部品への適用が具体化しつつあ
り、現在、次世代先進軍用エンジンの耐久試験に CMC
図 2-1-2-1 CMC 製
製の低圧タービンノズルを組み込み耐久性を確認中である。
試作タービン翼 2)
また、次世代150席クラス機用エンジンの高圧タービン
ノズルなどへの適用も視野に技術検討が進められている。3) CMC 適用により冷却空
気量を大幅に削減することも可能とされ、
効率改善への更なる貢献も期待されている。
今後の課題としては、冷却構造を含む複雑な形状を安価なコストで成型する製造方
法の確立や、シリコンを含むセラミックスが高温ガス中で減肉されることを防ぐ為に
耐環境コーティング(EBC:Environmental Barrier Coating)を最適化していくこと、
非破壊検査技術、品質管理基準の確立などが挙げられる。
2.2 タービン入口温度の高温化への対応
タービン入口温度の高温化は熱効率向上に有効な手段の一つであるが、タービン部の
冷却に大量の冷却空気が必要になることや、燃焼器内の火炎温度に対して指数関数的に
増加する NOx 排出量の大幅な規制強化などによりタービン入口温度の高温化は頭打ち
傾向にある。 このため、燃焼器の更なる環境負荷低減(2.3.1 項参照)と併せて、冷却空
2
気量削減による効率改善にも期待が寄せられており、優れた高温特性を持つ材料開発や
冷却技術の更なる向上、熱遮へいコーティングの性能向上、エンジン内部の冷却空気漏
洩低減のためのシール技術向上などがさらに重要性を増している。以下では熱遮へいコ
ーティング技術開発、タービン翼冷却技術開発、タービン翼用次世代ニッケル基超合金
開発の動向について解説する。
2.2.1 熱遮へいコーティングの開発動向
高圧タービン翼や燃焼器ライナーなどに広く適用されるようになった熱遮へいコ
ーティング(TBC:Thermal Barrier Coating)システムの性能向上は、近年のタービン
入口温度の上昇及び冷却空気の削減に大きく貢献している。
図 2-2-1-1 には、航空機エンジンのタービン入口
ガス温度と TBC システムの効果の変遷を示す。
TBC システムは、最外層(燃焼ガス側)に位置する
トップコートとその内側(基材側)に位置するボンド
コートにより構成される。トップコートは熱遮へい
効果を目的としたセラミックスコーティングで、イ
ットリア安定化ジルコニア(YSZ: Yttria-Stabilized
Zirconia)が最も一般的に用いられている。 製造プ
ロセスは大気プラズマ溶射が主流であったが、現在
では電子ビーム蒸着法(EB-PVD)が主流になりつつあ
る。さらには、YSZ よりも熱伝導率の低いセラミック
ス組成の探索も行なわれており、我が国においても、
図 2-2-1-1 航空機エンジンの
タービン入口ガス温度の変遷と
TBC システムの効果 4)
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)主導で進められた「ナノコーティング
技術プロジェクト」において先進の TBC 研究が行なわれ、ナノ(10-9 メートル)レベル
の構造制御による低熱伝導化、熱的安定性向上などの研究成果が報告されている。
一方、ボンドコートは耐酸化を目的とした金属コーティングで、プラチナ(Pt)を含
むアルミナイズ層で形成される Pt-Al コーティングがタービン翼向けには最も一般的
に用いられている。近年の更なる高温化に伴いボンドコートの劣化や剥離を防止する
目的で様々な元素を添加したものや、トップコート/ボンドコート界面にインターフェ
ース層としてアルミナ層を付与して界面制御する方法、基材(Ni 基超合金)とボンドコ
ート間の相互拡散を抑制してクリープ寿命低減を防ぐ研究などが行なわれている。
また、CMC 材向けコーティングの研究開発も盛んに行なわれており、約 1300℃と
される CMC 材の耐熱温度に対して、熱遮へい・耐環境コーティング(TEBC:Thermal
and Environmental Barrier Coating)により、1650℃/300 時間での熱サイクル試験に
て低熱伝導率の安定維持を確認した研究結果も報告されている。5)
2.2.2 タービン翼の冷却技術開発の動向
近年のタービン入口温度の大幅な上昇には冷却技術の高度化も大きく貢献してお
り、精密鋳造技術や放電・レーザー加工技術の飛躍的な発展も取り入れ、冷却効率の
更なる向上や冷却空気量の削減に向けた研究開発が進められている。タービン翼の冷
却技術は、内部冷却技術とフィルム冷却技術に大別され、現在実用化されている技術
3
は両者を組み合わせたものが最も多く採用されている。
内部冷却は、タービン翼を中空構造にしてその中空部を
冷却する手法で、最も古くから適用され、今日でもタービ
ン翼冷却の根幹を成す技術である。先進的な内部冷却技術
の例としては、図 2-2-2-1 に示す二重壁の内部冷却コンセ
プトがあり、翼の壁の中に小さなキャビティを設け二重構
造とすることにより冷却性能を向上させるものである。ア
イデアとしては 80 年代に特許が出されていたが、製法の
特許が出されたのは 90 年代に入ってからで、精密鋳造技
術の発展が大きく貢献している。この種の二重壁の内部伝
図 2-2-2-1 二重壁の内
熱促進法については様々なアイデアが提案され、インピン
部冷却コンセプト 6)
ジ孔、ピンフィン、フィルム冷却孔を最適な配置で組み合
わせ、冷却効率を向上する研究なども報告されている。
一方、フィルム冷却は翼表面の燃焼ガス流側に冷却空気を噴出して翼表面に薄い膜
状の低温層を形成するもので革新的な技術が続々と考案されており、主流との混合損
失を低減するため、また、より高い冷却効率を得るために穴形状や噴出し方法に様々
な工夫が加えられている。コンソール型フィルム冷却と呼ばれるものはその一例で、
孔形状を流れ方向に丸孔からスロット形状に変化させて
加速流を横方向の広がりを持たせつつ噴出させることで、
混合損失の低減とフィルム性能の向上を狙っている。
大幅な重量軽減を狙った斬新的な研究も見られるよ
うになっている。 図 2-2-2-2 に示すように翼腹側を大き
くえぐり、この部分に発生する剥離泡に擬似的な翼形状
の役割を持たせる形状も考案され、基礎試験段階で
図 2-2-2-2 航空エンジン用の
はあるが、コンセプトの検証が報告されている。
薄型軽量冷却翼のコンセプト 7)
2.2.3 タービン翼用次世代ニッケル基超合金開発の動向
現状、民間航空機用エンジンの高圧タービン翼材料に使用されているのは、GE 社
の Rene N5 や米国 P&W 社の PWA1484 に代表される第2世代単結晶材が主流で、さ
らに優れた高温特性を持ち、長時間の組織安定性を兼ね備えた材料として、GE 社の
MX4 や P&W 社の PWA1497 などの第4世代単結晶材が開発され、次世代先進軍用エ
ンジンへの適用を目指してエンジン試験などによる評価が続けられている。 また、
我が国に於いても、NIMS(物質・材料研究機構)などが第4世代単結晶材の TMS-138、
第5世代単結晶材の TMS-162 を開発し世界的に注目を集めている。
一方、これらの次世代超合金にはレニウムやルテニウムと呼ばれる生産量の非常に
少ない白金族の希少金属がそれぞれ約 5~6 重量%、約 2~6 重量%含まれており、希
少金属の供給問題への対応から、GE 社では第2世代単結晶材の Rene N5 をベースと
して、レニウム使用量を 1.5 重量%に抑えた Rene N515 材及びレニウム使用量をゼロ
にした Rene N500 材を非常に短期間で開発し、Rene N5 の代替材料として本格的に
民間航空機用エンジンへの適用を開始している。8) 今後のエンジン開発は、次世代単
4
結晶材の適用による効率や信頼性の向上と希少金属の供給確保とをバランスさせつ
つ発展していくものと思われる。
2.3 低環境負荷技術の動向
2.3.1 燃焼器の低環境負荷技術
ICAO (国際民間航空機関)の航空環境保全委員会である
CAEP (Committee on the Aviation Environmental Protection)では
NOx 排出量規制値をさらに厳格化することが議論されており、
ICAO の中・長期目標を意識した技術開発が必須となっている。
GE 社 が 開 発 し 、 GEnx エ ン ジ ン か ら 適 用 を 開 始 し た
TAPS(Twin Annular Premixing Swirler)燃焼器(図 2-3-1-1 )は希
薄予混合タイプの燃焼器で、ひとつの燃料噴射ノズル内にそれぞ
図 2-3-1-1 GEnx
の TAPS 燃焼器
9)
れパイロットスワーラとメインスワーラを有する二つのバーナを備えている。 二つ
のスワーラで生成された渦によって燃料と空気の混合をより均質化、希薄化し、通常
よりも大幅に低い温度での希薄燃焼を実現し、NOx 生成の大幅削減に加え、CO(一酸
化炭素)や HC(未燃焼炭化水素)などの不完全燃焼による排出物も大幅に低減している。
GE 社では第2世代の TAPSⅡ燃焼器を開発中で、ICAO の最新 NOx 規制基準である
CAPE/6 規制値に対して 60%程度のマージンを持たせることを目標としている。
一方、英国 RR 社では、従来の RQL(Rich Burn, Quick Quench, Lean Combustion:
部分過濃燃焼急速冷却燃焼方式)の改良と併行して、希薄予混合タイプを含む3種類の
燃焼器の研究開発を行なっており、また、P&W 社では RQL の改良タイプとして Pure
Power PW1000G エンジン(3.1 項参照)からの実機適用を目指して TALON X 燃焼器を
開発中である。 いずれも CAPE/6 の NOx 規制値に対して 60%程度のマージン確保
を目標としている。
2.3.2 騒音低減技術
図 2-3-2-1 に高バイパス比ターボファンエンジンに採用されている代表的なエンジ
ン騒音化策を示す。 加えて、排気ジェットの混合を促進しジェット騒音を低減する”
シェブロンノズル(図 2-3-2-2 上図) ”やファン動翼前縁に前進角をつけて衝撃波の発
生を抑える“スウエプト動翼”も近年実用され始めた技術である。
一方、新しい騒音低減化策の例としては、ファン静翼に後退角をつけた上で円周上
に傾けることによりファン動翼と静翼の空力干渉を弱める“スイープ・リーン静翼 10)”
やシェブロンノズルと同様の効果を狙った”ノッチノズル(図 2-3-2-2 下図)
10)“など
が挙げられる。 より将来的な技術としては、音源域となるファン静翼内にピエゾ素
子を埋め込み、それを能動的に振動・制御することにより動翼後流と静翼の空力干
渉音の発生を抑制する”アクティブ静翼
10)“、ファン動翼後縁から空気を噴出する
ことにより、動翼と静翼の空力干渉音のもととなる後流を弱める”動翼後縁噴流
10)
“、発生音と人工的な二次音とを強制的に干渉させて音同士の相殺をはかる”アク
ティブノイズコントロール 10)“などが挙げられ活発な研究が行なわれている。
また、近年の騒音低減化設計では、スウエプト動翼やシェブロンノズルなど形状が
5
複雑化していることもあり、CAA(Computational Aeroacoustics)と呼ばれる音響場
と流体の流れを結びつけた数値解析により最適解を探求する動きも広まりつつある。
取付け角/ストラット形状の最適化
ワイドコードファン動翼
インターナルミキサー
吸音ライナ
ファン動翼/静翼枚数比の最適化
ファン動翼/静翼軸間隔の拡大 図 2-3-2-1
吸音ライナ
タービン動翼/静翼枚数比の最適化
高バイパス比ターボファンエンジ
ンと代表的なエンジン騒音低減化策
10)
図 2-3-2-2
シェブロンノズル(上図)
とノッチノズル(下図) 10)
2.4 要素効率の高効率化 (高効率高圧圧縮機開発について)
高圧圧縮機の開発では、近年の燃料消費率低減要求の高まりから、高い圧力比を維持
しつつ、圧縮機効率の向上、サージ余裕などの安定作動性向上、重量軽減をバランス良
く達成する必要があり、翼列に適度な空力負荷を与え、段数、翼軸長や周速を最適化す
る取り組みが行なわれている。 翼設計には高度な3次元 CFD 技術が多用され、周辺キ
ャビティの実形状やシール性能の影響なども CFD にて忠実に模擬し、要素試験結果と
も合わせ込みを行ないつつ最適化設計が行なわれている。 一方、LFW(Linear Friction
Weld:線形運動式摩擦圧接法)などの製造技術の進歩により、Blisk と呼ばれる動翼とデ
ィスクの一体構造の適用範囲を拡大する傾向にあり、2次空気低減による効率向上や重
量軽減に大きく貢献している。
図 2-4-1 は、RR 社が推力
53~178kN(12~4
0klb)クラスの次世代2軸シ
ャフトエンジン用のスケール
ベースコアとして開発してい
る E3E コアエンジン用の9
段高圧圧縮機ロータで、圧力
比22:1、90%以上のポ
図 2-4-1 RR 社の E3E 9段
高圧圧縮機ロータ
11)
図 2-4-2
従来の2D 翼と
3D スウエプト翼の比較
11)
リトロピック効率、25%以上のサー
ジマージン確保を目標としている。1
~6段には重量軽減及び性能向上のた
めに Blisk を採用し、7~9段には鍛
造製 TiAl 動翼を採用する予定である。
また、翼設計には図 2-4-2 のような高
度な3次元スウエプト翼設計を採用し、
図 2-4-3
翼先端の漏れ流れ低減などにより圧力
6
MTU 社の小型機向け 7 段高圧圧縮機 12)
損失の大幅な低減を目指している。 図 2-4-3 は、推力44~80kN(10~18klb)
クラスの次世代小型機向けとして独 MTU 社より発表されている圧力比 11:1 の7段高圧
圧縮機の断面図で、重量低減、性能向上の為に全段に Blisk を採用し、最後段のディス
クとシャフトにはボルトレス結合の Tie-Shaft と呼ばれる設計コンセプトの採用により
圧縮機軸長の短縮化及び重量の更なる低減を目指している。 また、GE 社では“eCore”
と呼ばれる次世代コアエンジン開発の中で高性能の高圧圧縮機を開発中で、関連情報を
3.2 項に紹介した。
3. 次世代の民間航空機用エンジンの実用化に向けたエンジン開発の動向
各エンジン形態の燃料消費率低減への技術的アプローチや、その背景、技術課題など
については昨年度に概説しているので、以下では主に最新の開発動向について紹介する。
3.1 ギアードターボファンエンジンの開発動向
このタイプのエンジンは、P&W 社を中心に技術開発が進められ、Pure Power PW1000G
として三菱航空機の次世代リージョナル機である MRJ (Mitsubishi
Reginal Jet)およびカナダのボンバルディア社Cシリーズ機の搭載
エンジン向けに詳細設計を開始している。これまでのデモ飛行など
のデータ分析によると、低圧回転系に対してファン部を減速する遊
星歯車装置(図 3-1-1)によるエンジンオイルシステムの温度上昇や
歯車の磨耗量などは同社の想定の範囲内で、騒音についても、低
図 3-1-1 ギアードタ
速で回転するファンブレードによるファン騒音の低減などにより、 ーボファンエンジン
同社がターゲットとしていた FAR 36 ステージ 4 (米国連邦航空局
の遊星歯車装置 13)
の騒音規制値)に対して 20dB のマージンを達成可能であることも確認されている。14)
3.2 基本構造を維持しつつ燃料消費率のさらなる低減を追及するエンジンの開発動向
このタイプのエンジンを次世代150席クラス機に適用することを目指したエンジン
開発の例として、CFMI 社が CFM56 エンジンの後継機種として開発中の LEAP-X があ
る。 現在、圧力比 16:1 の 8 段高圧圧縮機と単段 HPT を組み合わせた試作型コアエン
ジン試験を GE 社の高空性能試験設備にて実施中。3) 2011 年には圧力比を 20:1 程度ま
で高めた 10 段高圧圧縮機と2段 HPT を組み合わせた試作型コアエンジンの性能確認も
行い、燃料消費率改善とメンテナンス費用のバランスなどを考慮して最終形態を決定す
る予定である。3),15) バイパス比も 10:1 程度まで大幅に高め、高効率のコアと組み合わ
せて大幅な燃料消費率低減を狙っている。3)
ファン部では最新の空力設計技術や複合
材 技 術 を 駆 使 し た 軽 量 化 フ ァ ン ブ レ ー ド (2.1.1 項 参 照 )を 採 用 し 、 翼 枚 数 も 現 行
CFM56-7B エンジンの 24 枚から 18 枚とすることにより重量やファン騒音を大幅に軽
減する予定である。16) 実物大のファンブレードを用いたファンデモエンジンにて横風確
認試験や音響確認試験も実施中である。16)
3.3 推進効率を大きく向上させるタイプの技術開発動向 (オープンロータ開発)
昨年度の記事でも紹介した通り、この形態のエンジンは、従来のターボプロップに対して高
7
速領域でも高性能の運用を可能とするタイプで、従来のターボファンエンジンよりも遥かに大
きなバイパス比により推進効率を大きく向上させて大幅な燃料消費率低減を狙っている。
一方で、ファンダクト無しにエンジン外側に配置された大径のファンブレードから発生する騒
音や、プロペラピッチ角や回転速度制御のための複雑な機構、ファン径増大に伴う機体への
搭載方法などが解決すべき技術課題である。
現在、150席クラスの次世代後継機への適用を念頭に、
欧州では RR 社を中心に各種技術検討を実施中で、また
エアバス社を中心とした機体メーカーも参加した EU の
NACRE (New Aircraft Concept Research)プログラムの中
で は 機 体 搭 載 も 含 め た 研 究 が 行 なわ れ て い る 。 図
3-3-1 は、U-Tail と呼ばれる尾翼構造と機体胴体後部で
図 3-3-1:NACRE で検討され
ノイズを遮へいするとともに、客室へ伝わる振動・騒音の
ている機体搭載案 17)
低減、大径ファンの搭載を考慮した案である。 米国でも NASA と GE 社が共同で風洞試験を
実施中で、最新の空力設計技術を駆使したファンブレードも用いて騒音低減効果などを確認
中である。18)
<<参考文献・出展>>
1) Engine Yearbook 2010、P68
2) 経済産業省 技術検討会資料より
3) Aviation Week、2009年3月9日、P36~38
4) 松永康夫、松本晃一、茂垣康弘、佐々正、松原秀彰:航空機ジェットエンジンシステム、セラミッ
クス 第39巻第4号 2004年4月 pp. 286-290
5) Dongming Zhu, et al. “Thermal and Environmental Barrier Coating Development for Advanced
Propulsion Engine Systems” NASA/TM-2008-215040
6) Hamblett M, et al. “Air Cooled Gas Turbine Airfoil”, US Patent 5562409, 1996
7) Okita Y, et al. “Film Cooling for Slot Injection in Separated Flows”, ASME GT2005-68119
8) Robert E. Schafrik :“Accelerated materials and process development” ISABE-2009-1167
9) GE Aviation社– Home Pageより
10) 大石勉、航空機の騒音低減,騒音制御 Vol.32 No.1 2008.2, P47-52, (社)日本騒音制御工学会
11) Holger Klinger, et al:“The Engine 3E Core Engine” GT2008-50679
12) Dr. W.Waschka, at al. ”ATFI-HDV:Design of a new 7 stage innovative compressor for 10-18
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ISABE-2005-1266
13) P&W 社- Home Page より
14) Engine Yearbook 2010、P32-34
15) Aviation Week Web Site、2008 年 7 月 13 日:Future eCore Foundation Plan Revealed
16) Engine Yearbook 2010、P46
17) Journal of Sound and Vibration :Aeroacoustic research in Europe:The CEAS-ASC report on 2008
18) Aviation Week、2009 年 12 月 14 日、P54~56
8