人工膝関節置換術

人 工膝 関節の 手術 を受 けら れる・ 受け られ た方 へ
膝関節とは
膝関節は、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)、そして
膝蓋骨(ひざのお皿)で構成されています。脛骨の外側には腓骨
が寄り添うように存在します。関節部分の脛骨はほぼ平らな形を
しています。その上を、凸状の大腿骨だいたいこつが転がりすべ
るようにして動きます。平らな板の上を丸いボールが転がるとこ
ろを想像すると、それはとても不安定であることがわかります。
そこで、膝ひざの関節を安定させるために、骨と骨をつなぐ靱帯
が重要な役割を果たします。
変形性膝関節症とは
正常の膝関節では関節の表面は軟骨で覆われています。弾力性に富んだ組織からなる軟骨は、衝
撃を和らげたり、関節の動きを滑らかにしたりしています。 また、滑膜から分泌される関節液は軟骨の
成分の 1 つであるヒアルロン酸を含んだ粘りのある液体で、膝関節がスムースに動く潤滑油と軟骨の
栄養の役割を果たしています。初期の変形性膝関節症では、軽度の関節軟骨の磨耗が生じますが自
覚的な症状はほとんどありません。軟骨の磨耗がある程度すすむと(中期)、膝の曲げ伸ばしや立ち上
がり、歩行時の膝にかかる負担の増加および軟骨、半月板の変性による刺激により関節炎が生じます。
関節炎では、膝を曲げ伸ばししたときの痛み(動作時痛)や曲げ伸ばしの制限(可動域制限:かどうい
きせいげん)が生じます。また、関節液が多量に分泌されて関節に「みず」がたまること(関節水腫:か
んせつすいしゅ)もありますが、関節内のヒアルロン酸は逆に減尐します。進行期の変形性膝関節症で
は、軟骨の磨耗がさらに進み関節の土台の骨(軟骨下骨:なんこつかこつ)が露出したり骨棘(こつきょ
く)といった骨そのものの変形が生じたりします。この状態では、膝を動かしたり立って歩いたりするた
びに硬い骨同士が直接ぶつかり合うため強い痛みを生じ、曲げ伸ばしの制限も高度となり日常生活に
おいて大きな障害となります。
人工膝関節とは
人工膝関節は、一般的に、金属製の大腿骨側のコンポーネントと
脛骨側のコンポーネント、そして、その間に入るプラスチック製(超
高分子ポリエチレン)のインサートで構成されます。必要に応じて
膝蓋骨(ひざの皿)のコンポーネントも置換します。
膝のいたんでいる部位や程度によって、膝関節の内側または外側の
どちらか一方だけを置換するための人工膝関節(片側置換)もあり
ます。
《手術の内容》
・皮膚切開
膝ひざの前面の皮膚を 12~15cm 前後切開しています。
・骨の切除
大腿骨を人工関節(大腿骨コンポーネント)の形状にあわせて切り、表面
をととのえます。脛骨を人工関節(脛骨コンポーネント)の形状にあわせて
切ります。必要に応じて、膝蓋骨(ひざの皿)をととのえます。
後十字じん帯を切らずにそのまま残しておく方法と、切除する方法がありま
す。
・人工関節の設置
大腿骨に人工関節(大腿骨コンポーネント)を設置します。
このとき、骨こつセメントを使用して固定する場合があります。
脛骨に人工関節を設置します。このとき、骨セメントやネジを使用して固定す
る場合があります。膝蓋骨を設置する場合も、骨セメントで固定することがあ
ります。
手術の後注意すること
深部静脈血栓症/肺塞栓症
深部静脈血栓症とは、下肢(太ももから足先まで)の静脈に血の塊(血栓けっせん)ができて
血管をふさいでしまうことです。血流が悪くなり、下肢がむくんだりふくらはぎが痛んだりしま
す。これは、飛行機などの乗り物で長時間足を動かさないでいるときにもおこります。いわゆる
エコノミークラス症候群です。この血栓が何かの拍子にはがれて、血流に乗って肺まで到達し、
肺の血管をふさいでしまうのが肺塞栓症です。肺の血管がふさがると、血液ガスの交換(二酸化
炭素と酸素の交換)がうまくおこなわれず、呼吸困難や胸の痛みを感じるようになります。時に
取り返しのつかない重篤な症状を引き起こす可能性があります。
予防のために、手術中から術後にかけて、一定の時間をおいて下肢の血管を圧迫する装置(間欠
的かんけつてき空気圧迫装置)を装着したり、あるいは血栓をできにくくする薬剤(ヘパリン)を投与した
りします。また、弾性ストッキングを着用する場合もあります。患者さん自身でできる予防法としては、
足首の曲げ伸ばし運動があります。
膝の熱感
理学療法を行っているとトレーニング後に膝に熱をもつことがあります。その場合にはアイシング(氷で
冷やすこと)を行います。
膝への負担軽減
動きによっては、人工関節に大きな負担をかけることがあります。無理をしないことが人工関節を長
くもたせる上で大切です。
・膝をねじらないようにしましょう。
・走ったり、飛び跳ねたりというような衝撃の強いことはやめましょう。
・転ばないように注意しましょう。
体重管理
体重が重いと、膝により多くの負担をかけることになります。起き上がったり、歩いたりすることが困難
になりますし、人工膝関節を長もちさせるためにも適切な体重を管理することは大切です。
標準体重(身長(cm) - 105)を大きく越えている方は減量の必要がありますが、適切な栄養の採取は
大事なことですから必要な場合は栄養士に指導してもらいましょう。
運動療法には2つの目的があります。1つ目は症状の緩和です。運動をすることによって血行をよくし患
部を温めて痛みを軽減させるほか、関節の動きをスムーズにする効果があります。2つ目は病気の根本的
な治療です。体を動かすと血流がよくなって、関節部分に栄養がいきわたります。すると、炎症の原因とな
る老廃物がどんどん排泄されますし、細胞の活動も活発になり病気の進行をとめたり再発を防いだり、さら
には治療効果まで期待できるというわけです。ただし、運動療法を始めるときには必ず医師によく相談して
から行うようにしてください。
筋肉の萎縮を防ぐ
筋力をつけることで、関節への負担を減らす。
体重のコントロール
肥満による関節への負担を減らす。
関節内の組織の新陳代謝がよ 膝周辺の組織へ栄養分がいきわたり、老廃物が排泄される。膝にた
くなる
まった水がなくなる。
関節の動きをよくし、膝が完全に曲がりきらない状態や、伸びきらな
関節の機能を回復する
い状態を防ぐ。
関節軟骨がすり減っていても、軟骨細胞の新陳代謝がよくなると、細
関節軟骨を再生する
胞が活性化し、繊維軟骨が再生されやすくなる。
理学療法トレーニングの実際
患者様の年齢や筋力、手術前の関節の状態などによって個人差はありますが、一般的に次のよう
な段階で経過します。
《手術日~術後 3 日目》
・CPM(自動膝曲伸機)を使用し膝の曲げ伸ばしの運動
・筋力トレーニング
・足上げ(SLR)
・膝を伸ばす運動(QF setting)
《術後4日目~6日目》
・CPM での曲げ伸ばし運動の継続
・筋力トレーニング
・平行棒内にて歩行練習開始
※歩行開始時よりしばらくは膝の安定のため装具を装着します
《術後2週間~》
・関節可動域運動
膝の曲がる角度、伸びる角度を増やす練習を行います。
・筋力トレーニング
ハーフスクワット
起立練習
・歩行練習
松葉杖、もしくは T 字杖での歩行練習開始
《術後3週~》
・退院に向け自宅で行える関節可動域運動、筋力トレーニングを行います
・階段の上り下り、床からの立ち上がりの練習を行います。
退院に向けて ~膝の負担を和らげるために~
膝を守る生活のポイントは3つ
1.生活環境の見直し
2.ふだんの動作の改善
3.補助具(杖等)を活用
いずれも小さな工夫で改善できることばかりです。膝を長持ちさせるために、できることから始めましょう。
1.生活環境の見直し
和式に生活から洋式の生活へ切り替える
和式の生活スタイルは、洋式に比べ膝にかかる負担が大きくなりがちです。
すでに膝に痛みがある人は、洋式の生活スタイルに替えましょう。
・洋式トイレを導入する
膝は深く曲げれば曲げるほと、負担が大きくなります。
和式トイレは膝を深く曲げてしゃがむため、膝への負担も大きくなります。
和式便器の上に置いて洋式便器として使える簡易洋式便座があるので、活用するとよいでしょう。
簡易洋式便座は、介護用品売り場などで購入することができます。
・正座、あぐらは禁止
・ベッドを使う
布団では、立っている姿勢から布団に横になるまでに、どうしても膝を深く曲げる必要が生じます。
また、布団を上げ下げするときには、体重に加えて布団の重さも、膝への負担になります。
ベッドを使うと、立ち座りも楽になって、膝にかかる負担は軽減されます。
2.ふだんの動作の改善
階段は 「1段2足」が原則、重心の片寄りにも注意
・階段は「1段2足」で
膝に痛みのある人は、階段よりもエスカレーターやエレベーターを利用するとよいでしょう。
階段を使う場合は、なるべく手すりをしっかり持って体重を支えます。
階段の上り下りは 「1段2足」で行います。
上るときには、まず痛みの尐ないほうの足で1段上り、反対側の足をそろえます。
逆に下るときは、痛みの強い方の足から1段下りて、もう片側の足をそろえるようにします。
上るとき
下りるとき
痛みの尐ないほうの足から
痛みのある足から1段下
1段上り、痛みのある足を
そろえる。
り、痛みの尐ないほうの
足をそろえる。
・荷物は左右均等に持つ
荷物を持つとき、ほとんどの人は左右どちらかに片寄って持つ癖があります。
これでは片側だけに重さがかかり、膝を痛める原因となります。
荷物は時々持ち替えて負担が片寄らないように気をつけてください。
荷物がいくつかあるときは、均等の重さになるよう、左右に分けて持つようにします。
キャスターつきのバッグなどを活用するのもよいでしょう。
自宅で行なえる運動
分からない事があればいつでもリハビリテーションスタッフにご相談下さい。