⑧ガイガーミュラー

8.ガイガーミュラーカウンターによるβ線の測定
目的
ガイガーミューラーカウンターを用いて放射性元素から放出されるβ線を測定し,その特性を理解する.
概要
自然界に存在する放射線には大きく分けてα,β,γの3つの種類が知られている.このうちα線はヘリウムの原
子核(2 個の陽子と 2 個の中性子), β線は電子, γ線は波長の短い光子が,自然界では元素崩壊や核反応などによ
り放出される.これらの放射線のうちβ線は, 原子核内の電子が元素崩壊に伴い大気中に飛び出してきた,いわゆる
電子線である.これはたとえて言うなら,原子から大気中に出てくる稲妻であり,また電子線が大気中でなく固体中
を流れると,いわゆる電流となる. 電子線は身近な所では, ブラウン管テレビのドット表示などに使われている.本
実験では,空気とアルミニウムで放射性元素のβ線源を遮蔽した際に,1 分間に放射性元素から放出されるβ線の放
出数(cpm:count per minute)をガイガーミュラーカウンターにより測定し,その値を式(1)に代入することでβ線
の吸収係数μm を求め, β線の特性を理解する.なお放射線物理の分野では SI 単位への移行が進んでおらず、一般的
にg,cm などの cgs 単位系が現在でも広く使われているので,本実験の単位系はそれに合わせた.
N m = N 0 exp(− μ m d m )
式(1)
Nm:自然計数補正をした任意の距離でのβ線のカウント数
[cpm]
N0:d=0.00[cm]の時のβ線のカウント数 [cpm]
Nm =
N m'
μm:吸収係数[cm2 /mg]
− n0
式(2)
dm:β線の遮蔽物質の密度にその厚さをかけたもの
[mg/cm2 ]
Nm’:任意の距離での実際の測定によるβ線のカウント数
実験装置
[cpm]
n0:自然計数(β線源以外からのβ線のカウント数)[cpm]
β線検出管
裏
測定台
表
β線源(90Sr-90Y)
保管容器
ガイガーミュラーカウンター
保管庫
ピンセット
測定台
アルミ板
マイクロメータ
実験方法 1
(1) ガイガーミュラーカウンターの電源を
入れ,電圧を 440.0[V]にセットする.
(2) ガイガーミュラーカウンターのカウン
ト時間の切り替えスイッチが 1min(cpm)に
なっているのを確認した後,スタートボタ
ンを押すと,部屋に自然に発生しているβ
線を 1 分間カウントしはじめる.測定が終
わったらその値を自然計数 n0 として記録す
る. なお[cpm] は,count per minute(1 分
当たりの放射線のカウント数)を表す.
(3)リセットボタンを押してカウント数を
一度ゼロにしてから,同様な測定を合計 10
回行って n0 の平均値を求める.
(4)β線源を保管庫から取り出してピンセ
ットで測定台にセットし,測定台の試料を
セットする棚を 30mmとする.この状態で
スタートボタンを押し, β線源から発生し
ているβ線の 1 分あたりのカウント数の測
30mm へ
定を行う.なお 30mm の場合のみ,β線をカ
ウントしていくと,一度カウンターが 10000
カウントで振り切れて,測定途中でゼロか
らはじまるので,この振り切れた回数を記
録しておく.さらに最終的なカウント数の
表示にこのカウント数を加算し,その値を
Nm’とする.この値から,(2)-(3)で測定した自
然放射能の測定値の平均値を引いた値を,
自然計数補正をしたβ線のカウント数 Nm
とする.
(5)
棚の位置(空気の厚さ)を 30mmから
40,60,80,90,100,120,150 m m と変 化さ せ ,
その都度 Nm’を測定する.これらのデータを
用いて, 横軸に空気の厚さ[cm],縦軸を
Nm[cpm]としたグラフを普通方眼紙に作図
する. なお測定をしない時は,装置の電圧
を下げておくこと.
注意:
β線源をセットする際は,必ず表側を上にし,かつβ線源の表側
の表面のアルミ箔をピンセットで触らないこと.アルミ箔が破
けると被爆します!同様に手などでβ線源の表面のアルミ箔
も触らないこと!
実験方法 2
(1)
棚の位置を 60mmにセットし, アル
ミ板を番号順にβ線源の上に重ねていき,
その際のβ線のカウント数 Nm’ [cpm]を各
10 回測定する.この値から (2)で求めた n0
の平均値を引いた値を Nm として表に記入
する.なお,この実験の N0 は,アルミ板を乗
せない時の Nm の値とする.
(2)
作業中に, マイクロメータを用いて
No.5のアルミ板の,中心付近の厚みを 10
回測定する.なおマイクロメータでアルミ
板を挟み込む際は,マイクロメータの測定
部分がアルミ板に軽く触れた時点で,ラチ
ェットを 2,3 回して値を測定する.マイクロ
メータのネジを閉めすぎると,破損するの
で注意する!マイクロメータの詳しい使用
方法は,補足説明を参照のこと.このアルミ
板の厚さの平均値をそれぞれのアルミ板の
厚さとし,重ねた枚数分だけこの値を足し
合わせ,アルミの厚さとする.
(3)これらのデータを用いて,縦軸に Nm [cp
m],横軸にアルミニウムの厚さ[cm]をとっ
たグラフを普通方眼紙に作図する.さらに
縦軸に Nm [cpm],横軸を dm(アルミニウム
密度[mg/cm3]にアルミの厚さ[cm]をかけた
値)としたグラフを片対数用紙に作図する.
また式(3)より各測定値から吸収係数μm を
求め,表に記入する.
(4)式(4)より吸収係数μm の理論値を計算し,
測定値の実験誤差を求めよ.また式(5)より
アルミニウムと空気がβ線を完全に遮蔽す
る厚さを計算せよ.
(6) 式(6)
,(7)より,最大エネルギーを持
つβ線の速度とドプロイ波長(電子を波と
して考えた時の波長)を計算せよ.
0
補足説明 1 マイクロメータの読み方
マイクロメータは主尺と副尺からな
り,最少目盛りが 0.01mm でさらに目測
で 0.001mm の精度まで測定が可能で
ある.したがってノギスの 20 倍の測定
ラチェット
精度を持つ測定が可能である.測定方
法を以下に示す.
(1)マイクロメータを時計回りにゆ
っくりまわし,回らなくなったらラチ
図のゼロ点補正は-0.003mm.したがって測定値に
0.003mm を足した値が真の測定値となる
ェットを 2,3 回カチカチ音を立てて回
す.なおマイクロメータは,力を入れて
無理に回すといくらでも回転するの
で,回らなくなったら回転は止める事.
(2)マイクロメータの主尺の横線が
示す副尺の目盛りの読みを,0.001mm
の単位で読み取る.物体が入っていな
い状態でのこの読みがプラス側であっ
通常は,測定物を挟んでいない状態での読みはゼロに
なるが,使い方が荒いとゼロ点がずれるので,あらかじ
めこの値を読み取って記録しておく.
たら,測定値からこの値を引いたもの
が測定の真値となるので,この値を記
録しておく.この作業をゼロ点補正と
いう.
(3)マイクロメータを反時計回りに
回して,円柱状の測定面を広げ,測定物
を測定部の中に通す.測定物を通した
ら,今度はマイクロメータを時計回り
に 回 し て ,測 定 物 を 挟 み 込 み , 最 後 は
主尺主目盛り
主尺 5.5mm+副尺
(1)と同様に操作を行う.
1mm 刻み
0.255mm=5.755mm
(4)副尺の端が示す主尺の主目盛り
副尺目盛り
の値が最初の測定値となる.図では 5~
1 回転 0.5mm.
6 の間なので“5”となる.次に主尺の副
最少目盛りは
目盛りの読みが 0.5mm の目盛りを超
0.01mm.読み取
えている場合は,読みに 0.5mm を加え
りは 0.001mm.
るのでこの場合の主尺の読みは
5.5mm となる.次に主尺の横線が示す
主尺副目盛り
副尺の読みを最少目盛り 0.01mm の
0.5mm 刻み
1/10 の 0.001mm まで目測で読み取る.
さらに測定値にゼロ点補正の値を加算
又は減算して,測定の真値を算出する.
データ整理に使用する公式
N m = N 0 exp (− μ m d m )
式(1)
N m = N m' − n 0
式(2)
μm =
⎛ N
1
ln ⎜⎜ 0
dm ⎝ Nm
注意
exp (x)=e(x) ln(x) = loge(x)
Nm:自然計数補正をした任意の距離でのβ線のカウント数
[cpm]
2
N0:自然計数補正をした dm=0.00[mg/cm ]のβ線のカウント数
[cpm]
実験 2 ではアルミ板を乗せない時の Nm を N0 として計算する。
⎞
⎟
⎟
⎠
式(3)
μm:吸収係数[cm2 /mg]
dm:β線の遮蔽物質の密度にその厚さをかけたもの
[mg/cm2 ]
Nm’:任意の距離での実際の測定によるβ線のカウント数
μ m = 0 .017 E −1 .43
式(4)
n0:自然計数(β線源以外からのβ線のカウント数)[cpm]
E:β線の最大エネルギー
R = 542 E − 133
式(5)
[cpm]
2.280[M eV]
E’:ジュール換算したβ線の最大エネルギー
3.6526×10-13
[J]
R:β線の飛程(β線を完全に遮蔽する物質の密度×厚さ) [mg/cm2 ]
v = c 1−
m 2c 4
E' 2
式(6)
e:電子の電荷
1.602176462×10-19 [C]
m:電子の静止質量
v:電子の速度
hc
λ=
E
'2
式(7)
−m c
2
[kg]
[m/s]
λ:電子のドプロイ波長(電子を波として考えた時の波長)[m]
h:プランク定数
4
9.10938188×10-31
6.62606876 ×10-34 [J・s]
c:光速度 2.99792458×108 [m/s]
アルミニウムの密度ρ:2.6989×103 [mg/cm3]
空気の密度ρ(窒素 79.1%+酸素 20.9%):1.2879 [mg/cm3]
β線源の壊変図式
90
Sr
0.5406MeV
β − 半減期28.74年
90
Y
2.280MeV
β − 90
半減期64.10 時間
Zr
実験誤差
実験値の理論値からの誤差。通常は数%程度の値をとる。
実験誤差=
実験値-理論値
×100 [%]
理論値
式(8)
密度のデータは理科年表第 78 冊物 21(367),2005 より.式(1),(4),(5),β線源の壊変図式は,アイソトープ手帳 10 版卓
上版,(社)日本アイソトープ協会,丸善,p5,p36,p79,2002 より.
8 ガイガー
実験結果 1
自然計数 n0 の測定
[cpm]
[cpm]
[cpm]
[cpm]
[cpm]
[cpm]
[cpm]
[cpm]
[cpm]
[cpm]
平均値 n0
表1
[cpm]
空気のβ線吸収特性
空気の厚さ[cm]
Nm’[cpm]
Nm[cpm]
空気の密度ρ(窒素 79.1%+酸素 20.9%):1.2879 [mg/cm3]
アルミニウム板の厚さ(No5 を測定し,他の番号の板も厚さもこのデータを使用する)
[mm]
[mm]
[mm]
[mm]
[mm]
[mm]
[mm]
[mm]
[mm]
[mm]
平均値
[mm]
平均値
[mm]
+ゼロ点補正値(+
-)
[mm]
→
平均値
[cm]
アルミ板を番号順に重ねていった場合の累積の厚さ
①
①+②+③+④+⑤
[cm]
①+②
[cm]
[cm]
アルミニウムの密度ρ:2.6989×103 [mg/cm3]
①+②+③
[cm]
①+②+③+④
[cm]
8 ガイガー
実験結果 2
表2アルミのβ線吸収特性
アルミの枚数
0 枚目
1枚目
2枚目
3 枚目
4 枚目
5 枚目
厚さ[cm]
dm[mg/cm2 ]
1 回目 Nm’ [cpm]
2 回目 Nm’ [cpm]
3 回目 Nm’ [cpm]
4 回目 Nm’ [cpm]
5 回目 Nm’ [cpm]
6 回目 Nm’ [cpm]
7 回目 Nm’ [cpm]
8 回目 Nm’ [cpm]
9 回目 Nm’ [cpm]
10 回目 Nm’ [cpm]
Nm’ 平均値[cpm]
[cpm]
Nm
2
μm[cm /mg]
μm 実験誤差[%]
μm の平均値
[cm2 /mg]
[m]
空気がβ線を完全に遮蔽する厚さ:
アルミニウムのμm 理論値:
実験誤差の平均値
×10-3 [cm2 /mg]
アルミニウムがβ線を完全に遮蔽する厚さ:
[mm]
β線源の最大エネルギーを持つβ線の速度:
×108 [m/s]
β線源の最大エネルギーを持つβ線のドブロイ波長:
×10-13[m]
課題
(1) 実験1及び実験2で求めた2つのグラフの物理的意味を考察せよ.
(2) μm の実験値および実験誤差より,この実験の誤差の原因について考察せよ.
ヒント:データ公式のβ線の壊変図式によれば,β線は 2 種類放出されている.
考察
その他分かったこと,さらに調べた事があれば記せ.
[%]