詳細版PDF - 国際漁業資源の現況

平成 21 年度国際漁業資源の現況
38 アオザメ 全水域
アオザメ
(Shortfin Mako, Isurus oxyrinchus)
最近一年間の動き
9 月に韓国の釜山で開催された第 8 回 CCSBT 生態関連
種作業部会において、ミナミマグロ漁場における日本のオブ
ザーバー調査によって収集されたさめ類混獲データから一般
トンと大部分を占めており、流し網が続いて多かった。この
期間では特に目立った増減傾向は無く、さめ類の合計値に占
める割合は 4 〜 8%であった ( 図 1)。
生物学的特性
化線形法(GLM)で標準化して得られた CPUE の経年変化は、 【分布】
1992 年から 2007 年にかけての 16 年間で変動が見られるも
のの、顕著な増減傾向は認められなかった事を紹介した。
本種は全世界の熱帯から温帯の沿岸から外洋まで広く分布
し ( 図 2、Compagno 2001)、温帯域での分布豊度が比較的高く、
ヨシキリザメと同様に温帯域出現種と考えられている ( 中
利用・用途
野 1996)。系群構造については、ほとんど知られていないが、
肉はソテーやみそ漬け、鰭はフカヒレ、脊椎骨は医薬・食
品原料、皮は革製品に利用される。
繁殖周期が大洋の南北で逆になるので、南北太平洋で 2 系群、
南北大西洋で 2 系群と考えるのが妥当であろう。そこで、今
回はインド洋 1 系群を加え 5 系群が存在すると仮定して解析
漁業の概要
を進めた。しかし、分布の連続性を考慮すると、南半球では
アオザメは全世界の熱帯から温帯にかけて生息し、沿岸か
系群が 1 つである可能性も否定はできない。
ら外洋まで普通に見られる種である。まぐろはえ縄漁業や流
し網漁業によって混獲されている。さめ類の中では肉質が良
いので商品価値が高く、遠洋はえ縄漁船も投棄せずに持ち
帰ってくる場合が多い。したがって、他のさめ類とは異なり、
漁獲量と漁港への水揚量に大きな違いは無いものと推測され
る。水揚は宮城県の気仙沼港を中心に行なわれ、肉、鰭、脊
椎骨、皮が食用や工芸用に利用されているが、肉の大部分は
欧米向けに輸出されていると考えられる。まぐろはえ縄漁業
等による日本の主要漁港へのさめ類の種別水揚量について
は、水産庁による調査が行われており、それによると 1992
〜 2008 年におけるアオザメの日本の漁港への水揚量は 800
図 2. アオザメの分布(Compagno 2001)
〜 1,500 トンで、その内はえ縄漁業による水揚量が 700 〜 1,300
【産卵・回遊】
本種の繁殖様式は卵食・共食い型の胎生であり、産仔数の
範囲は 4 〜 16、出生時の全長は約 70 cm (Stevens 1983) で
ある。回遊についての知見は乏しいが、幼魚は北太平洋の場
合、亜寒帯境界付近を生育場にすると推測されている ( 中野
1996)。
交尾期、交尾場、出産場等についての知見も乏しいが、出
産期は晩冬から盛夏にかけてである (Compagno 2001)。
【成長・成熟】
脊椎骨に形成される輪紋から年齢が推定されており、その
結果に基づいて Cailliet and Bedford (1983)、Senba et al. (in
図 1. 日本の主要漁港へのアオザメ水揚量
press) が太平洋から、Natanson et al. (2006) が大西洋で報告
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している。以下に求められた成長式を示す。また、図 3 はこ
れまでに報告されている成長式の比較を行ったものである
て異なった物を摂餌しており、特に選択的ではなく、生息域
Cailliet and Bedford (1983):全長
主としてまぐろ・かつお類やいか類を食べる ( 川崎ほか
1962、谷内 1984、Strasburg 1958)。海域、成長段階等によっ
(Senba et al. in press)。
【食性・捕食者】
-0.072(t-(-3.75))
雌雄:Lt=321.0(1-e
)
Senba et al. (in press):尾鰭前長 ( 表 1)
に豊富に分布している利用しやすい動物を食べる日和見的な
食性を示している。成魚に対する捕食者は知られていないが、
雌:Lt= 60+248.6(1-e(-0.090t))
幼魚はホホジロザメによる捕食が知られている (Compagno
雄:Lt= 60+171.3(1-e(-0.156t))
2001)。
Natanson et al. (2006):尾叉長
雌:Lt=366-278e(-0.087t)
雄:Lt=253-181e(-0.125t)
資源状態
【資源の動向】
雌は全長約 280 cm、雄は全長約 195 cm で成熟すると報
北太平洋系群については、地方公庁船 ( 都道府県の実習船
告されており (Stevens 1983)、年齢では 7 〜 8 歳と推定され
や試験船 ) 及び調査船が実施したまぐろはえ縄調査によって
る。また、寿命に関しては明らかではないが、18 歳以上は
得られたさめ類混獲データを解析し、資源豊度の指数であ
生きるとされている (Cailliet and Bedford 1983)。
る CPUE (1000 鈎当たりの漁獲尾数 ) の経年変化を一般化線
形法 (GLM) で、季節、海域、漁具等の要因の影響を取り除
表 1. アオザメの年齢と尾鰭前長 ( 仙波 in press)
くことにより、標準化して求めた。その結果、1992 年から
2007 年の動向をみると、アオザメの CPUE は 1996 年以前よ
りも、それ以降の方が少し高い傾向にあった ( 図 4)。
図 4. 北太平洋におけるアオザメの標準化した CPUE
南北大西洋系群に関しては、日本、米国、スペイン、ウル
グアイ、ブラジルのまぐろはえ縄漁船の漁獲データから標準
化された CPUE が得られている (ICCAT 2008)。図 5 はこれ
らをまとめたもので、北部では 2000 年頃まで漸減傾向が認
められていたが以後増加傾向に転じ、南部で全体として増加
傾向が見られている ( 図 5)。また様々なモデルを使った資源
解析が試みられており、北系群ではモデルによって結果が一
定では無かったが、やはり前回の解析と同様に現在の資源量
が MSY を生じる資源量以下のレベルであり、漁獲死亡率も
MSY を達成するレベル以上であるという可能性を否定し難
い状況にある。南系群に関しては結論を得る事が出来なかっ
た(ICCAT 2008)
。前回と比べて使用するデータの質量共
に向上したとは言え、未だ使用可能なデータが不足している
ため多くの仮定に基づいている状況に変わりは無かった。ま
た漁獲成績報告書から報告率で選別したデータを使って、大
西洋における日本のはえ縄漁船による漁獲量の推定が行われ
ている (Matsunaga 2008)。それによると、1994 年から 2006
年にかけて、3,400 〜 13,900 ( 平均 6,700) 尾、120 〜 640 ( 平
均 270) トンのアオザメが漁獲され、その少なからぬ部分が
図 3. アオザメの年齢と成長(尾鰭前長)オス(上)、メス(下)
放流されていたものと推定された。
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管理方策
北大西洋において現在の資源量が MSY を生じる資源量以
下のレベルであり、漁獲死亡率も MSY を達成するレベル以
上であるという可能性を否定し難い状況にあり、資源の動向
には注意を要する。今後、保護・管理に対する特別な勧告が
必要となってくる可能性がある。しかし、資源評価のための
種別漁獲量の統計資料が不十分であるのが最大の問題であ
る。水産庁では近年、まぐろはえ縄漁業における漁獲成績報
告書の提出フォームを変更し、6 種のさめ類の漁獲量を報告
するようになっているが、さめ類を漁獲しても正確に記入さ
れていない場合があり、種別投棄量も含め実態を把握するこ
とが困難である。まぐろはえ縄漁船で漁獲されるさめ類の種
類、
あるいは投棄量を正確に推定するためには、
オブザーバー
プログラム等の、漁業者に依存しない方法での資料収集の推
図 5. 大西洋におけるアオザメの標準化された CPUE(上:北大
西洋、下:南大西洋)
インド洋系群については、南アフリカ沖やオーストラリ
進を含め、今後、資料収集方法の改善を検討していく必要が
ある。
執筆者
ア沖のミナミマグロ漁場においてオブザーバー調査によっ
まぐろ・かつおグループ
て収集されたさめ類混獲データから、GLM で標準化された
混獲生物サブグループ
CPUE の経年変化が得られている。その結果は図 6 に示した
遠洋水産研究所 混獲生物研究室
ように、1992 年から 2007 年にかけての 16 年間で CPUE に
松永 浩昌
変動が見られるものの、顕著な増減傾向は認められなかった
遠洋水産研究所 熱帯性まぐろ研究室
( 松永・余川 2009)。
仙波 靖子
以上の結果をまとめると、1992 年以降、日本の漁港におけ
まぐろ・かつおグループ
る水揚量及び北太平洋とミナミマグロ漁場、南北大西洋にお
温帯性まぐろ資源部
いて標準化した CPUE に顕著な増減傾向が認められないこと
中野 秀樹
から、この 15 年余りでこれらの海域におけるアオザメの資
源は安定的に推移していたものと推定された。しかしながら
長期的な傾向は不明であり、資源の動向には注意を要する。
参考文献
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図 6. ミナミマグロ漁場におけるアオザメの標準化した CPUE
Matsunaga, H. 2008. Estimation of catches for blue shark
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【資源水準・動向】
in the Atlantic Ocean, 1994-2006. SCRS/2008/150.
資源水準については何れの系群に関しても不明である。資
松永浩昌・余川浩太郎 2009 ミナミマグロ漁場で漁獲される
源動向は、北太平洋とインド洋、大西洋では横ばい傾向であ
主要な外洋性サメ類 3 種の CPUE の経年変化の更新(1992
ると考えられる。
− 2007)CCSBT-ERS 提出文書.
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アオザメの資源の現況(要約表)
北太平洋
北大西洋
南大西洋
インド洋
資
源
水
準
調査中
調査中
調査中
調査中
資
源
動
向
横ばい
横ばい
横ばい
横ばい
世 界 の 漁 獲 量
(最近 5 年)
調査中
我が国の漁獲量
(最近 5 年)
管
調査中
調査中
調査中
調査中
検討中
検討中
検討中
検討中
資 源 の 状 態
検討中
B2007/BMSY:0.95-1.65
検討中
検討中
モニタリング
モニタリング
モニタリング
モニタリング
IATTC、WCPFC
ICCAT
ICCAT
IOTC、CCSBT
理
目
平均:1,040 トン
1.7 〜 3.0 千トン
平均:2.6 千トン
標
管
理
910 〜 1,140 トン(水揚量)
3.1 〜 5.1 千トン
平均:3.7 千トン
措
置
管理機関・関係機関
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