研究課題 脳脊髄液減少症の診断・治療法の確立に関する研究 課題番号

研究課題
脳脊髄液減少症の診断・治療法の確立に関する研究
課題番号
H22−
神経・筋−
一般−
018
研究代表者
国立がん研究センター 理事長/山形大学医学部 脳神経外科 教授
嘉山 孝正
1.研究目的
脳脊髄液減少症(低髄圧症候群)は、70年以上も前に提唱された疾患であるが、近年、本
症が頭頸部外傷後に続発すると報告されたことに端を発し、あたかも「むち打ち症」の患者の
全てが脳脊髄液減少症であるかのごとく誤解され、交通事故の後遺障害として法廷で争われる
など、社会問題化している。その理由は、医師の間での診断基準が科学的でなく、独自の診断
基準を使っているためである。本研究は、まず①文献的考察から脳脊髄液減少症とされた臨床
概念を検証し、その臨床像を規定する。②近年発達してきたMRI画像所見等と脳脊髄液減少症
のこれまで髄液漏の根拠とされていた画像診断所見の疾患特異性、髄液漏と症状の因果関係を
検討することによって、脳脊髄液減少症の科学的根拠に基づく診断基準を作成、新たな診断基
準による本症の臨床像の把握を行う。更にブラッドパッチも含めた治療法の検証を行い、治療
法を確立し、
「不確実な診断・治療による合併症発生の回避」を最終目的としている。
2.研究方法
まず本症の診断に関する文献レビューを行い、臨床像を検討し、診断プロトコールを作成す
る。次に、作成した新たな診断プロトコールによる前方視的解析を行い、診断基準を確立する。
その後、新たな診断基準により脳脊髄液減少症と診断された患者に対して治療法の検討をおこ
ない、最終的には治療も含めた診療ガイドラインを作成する。診療ガイドラインの作成に際し
ては、本疾患に関連する学会間の垣根を取り払い、誰がみても納得できる診療指針(ガイドラ
イン)を作成する。
3.研究結果・考察
平成19年度に文献レビューの結果をもとに、臨床研究のためのプロトコールを作成した。そ
のプロトコールによる臨床研究を、各研究者所属施設の倫理委員会の承認を経て平成20年度に
開始し、平成22年8月登録症例100例の時点で、解析が行われた。その結果に基づき脳脊髄液減
少症の中核を成すのは「脳脊髄液の漏出」であると規定し、平成23年10月、関連学会の承認を
得て「脳脊髄液漏出症」の画像判定基準・画像診断基準を公表した。今後は、治療法の検討を
行う新たな臨床研究を行う予定である。また、周辺病態の検討も継続予定である。
4.まとめ
関連学会の承認を受けた画像判定基準・診断基準を公表できたことにより、少なくとも今回
中核病態と規定した「脳脊髄液漏出症」に関しては、広くコンセンサスが得られた。そのこと
により、治療に関して「先進医療」制度を活用した臨床研究の可能性が生まれ、現在申請中で
あり、当初の目的の診療ガイドラインの策定に向けて、平成 22、23 年度は大きな進展があっ
たものと考えている。