Highly Efficient Catalytic Transformations of Unsaturated

KURENAI : Kyoto University Research Information Repository
Title
Author(s)
Citation
Issue Date
Highly Efficient Catalytic Transformations of Unsaturated
Compounds via Ligand-Induced Selective Addition of Copper
Species( Abstract_要旨 )
Semba, Kazuhiko
Kyoto University (京都大学)
2013-03-25
URL
http://hdl.handle.net/2433/174888
Right
許諾条件により要旨・本文は2013-10-01に公開
Type
Thesis or Dissertation
Textversion
author
Kyoto University
京都大学
博士(工学)
氏名
仙波 一彦
Highly Efficient Catalytic Transformations of Unsaturated Compounds
論文題目
via Ligand-Induced Selective Addition of Copper Species
(銅化学種の配位子制御による選択的付加を鍵とする不飽和化合物の触媒的高効率分
子変換反応)
(論文内容の要旨)
本 論 文 は 、 銅錯体の反応性を配位子により制御し、その選択的付加を鍵とした不飽和化合物の
高効率分子変換反応の開発に関する結 果 を ま と め た も の で あ っ て 、 7 章 か ら な っ て い る 。
序論では、精密有機合成における位置、立体および化学選択性の重要性について触
れ 、そ の 制 御 法 と し て 遷 移 金 属 触 媒 が 強 力 な 手 法 で あ る こ と を 具 体 例 と と も に 示 し た 。
また本研究において用いる銅ヒドリドおよびボリル銅の歴史的背景およびその有機合
成への応用例を具体的に示し、その問題点および研究の指針について示した。
第1章では銅ヒドリドを用いるアルキンの部分還元反応の開発を行った。銅ヒドリドはマイケル
受容体やカルボニル化合物などの分極した多重結合の触媒的還元反応には広く応用されてきた。そ
の一方でアルキンやアルケンなどの比較的分極の小さな多重結合の還元反応への応用例は限られて
いた。例えばアルキンの部分還元反応を行う場合には過剰量の銅ヒドリドが必要であり、触媒的還
元の報告例は無かった。申請者は、かさ高く電子供与能の低い配位子を用いることで、銅ヒドリド
を用いたアルキンの部分還元反応を触媒的に進行させることに成功した。また反応機構解析の結果、
銅ヒドリドがアルキンへと位置及び立体選択的に挿入することによって生じるビニル銅が鍵中間体
であることを明らかにした。
第2章では銅ヒドリドとアルキンから発生するビニル銅を鍵中間体として用い、銅
触媒によるヒドロシランおよび二酸化炭素を用いたアルキンのヒドロカルボキシル化
反応の開発を行った。これまでに報告されている炭素‐炭素不飽和化合物のヒドロカ
ル ボ キ シ ル 化 反 応 は ZnEt 2 や AlEt 3 な ど の 空 気 に 不 安 定 な 試 薬 を 用 い な け れ ば な ら な
く 、 ヒ ド ロ シ ラ ン な ど の 温 和 な 還 元 剤 を 用 い る こ と が 望 ま れ て い た 。 検 討 の 結 果 、 N-
複 素 環 カ ル ベ ン (NHC)配 位 子 を 有 す る フ ッ 化 銅 錯 体 を 用 い る こ と で 反 応 が 良 好 に 進 行
することを見出した。さらに量論反応を検討し、ビニル銅の二酸化炭素への求核攻撃
の段階が律速段階であることを明らかにした。
第3章では非対称内部アルキンの位置選択的なヒドロホウ素化反応の開発を行っ
た 。 炭 素 -炭 素 不 飽 和 結 合 の ヒ ド ロ ホ ウ 素 化 反 応 は 有 機 ホ ウ 素 化 合 物 を 合 成 す る 最 も 直
接 的 か つ 効 率 的 な 方 法 の ひ と つ で あ る 。 炭 素 -炭 素 不 飽 和 結 合 の ヒ ド ロ ホ ウ 素 化 反 応 に
おいて位置および立体選択性の制御は重要であり、新たな方法論の開発は極めて重要
である。本研究では銅ヒドリドおよびボリル銅という異なる活性種を使い分けること
で、非対称内部アルキンのヒドロホウ素化反応においてその位置選択性を高度に制御
できることを見出した。このようなヒドロメタル化反応とボリルメタル化反応を明確
に使い分けることは、ヒドロボランの酸化的付加を経由して反応が進行するロジウム
触媒などでは困難であり、銅触媒に特有の反応であり、興味深い結果である。
氏
名
仙波 一彦
第4章ではアルキンのヒドロホウ素化反応で用いた位置選択性制御の手法をアレン
へと適応し、アレンの位置選択的なヒドロホウ素化反応の開発を行った。遷移金属触
媒を用いたアレンのヒドロホウ素化反応はこれまでに2つの報告例が存在するが、い
ずれの場合も基質適応範囲に問題があった。本研究において申請者は銅ヒドリドを活
性 種 と し て 用 い る こ と で ( E )-体 の ア リ ル ホ ウ 素 化 が 高 い 選 択 性 で 得 ら れ 、 ま た ボ リ ル
銅 を 活 性 種 と し て 用 い た 場 合 に は 適 切 な NHC 配 位 子 を 使 い 分 け る こ と で 、2 種 類 の ビ
ニルホウ素化合物がそれぞれ高い選択性で得られることを見出した。反応機構解析の
結 果 、 ボ リ ル 銅 と ア レ ン か ら 選 択 的 に ( Z )- σ -ア リ ル 銅 が 生 成 す る こ と を 見 出 し 、 そ の
アリル銅のプロトン化が配位子および温度によって制御され、2種類のビニルホウ素
が 得 ら れ る こ と を 明 ら か に し た 。ま た 、( Z )- σ -ア リ ル 銅 に つ い て は そ の 構 造 を 単 結 晶 X
線構造解析により、その構造を決定した。
第 5 章 で は ア レ ン の ア リ ル ホ ウ 素 化 反 応 の 開 発 を 行 っ た 。不 飽 和 化 合 物 の カ ル ボ ホ ウ
素 化 反 応 は 複 雑 な 有 機 ホ ウ 素 化 合 物 を 合 成 す る 強 力 な 手 法 で あ る 。こ れ ま で に 報 告 さ れ
て い る 例 は ア ル キ ン を 用 い る も の が ほ と ん ど で あ り 、他 の 不 飽 和 成 分 へ と 適 応 し た 例 は
2 例 の み で あ っ た 。本 研 究 で は 、ボ リ ル 銅 と ア レ ン か ら 選 択 的 に 生 じ る ア リ ル 銅 を 鍵 中
間 体 と し て 用 い 、ア リ ル リ ン 酸 エ ス テ ル を 求 電 子 剤 と し て 用 い る こ と で ア レ ン の ア リ ル
ホウ素化反応が進行することを見出した。
第 6 章 で は 銅 触 媒 を 用 い た 2-ボ リ ル -1,3-ブ タ ジ エ ン 類 の 合 成 反 応 の 開 発 を 行 っ た 。
2-ボ リ ル -1,3-ブ タ ジ エ ン 類 は 天 然 物 に も 広 く 見 ら れ る 1,3-ジ エ ン 構 造 と 様 々 な 官 能 基
変換が可能なホウ素官能基を有するため、有機合成化学上、有用な合成中間体となる
こ と が 期 待 さ れ る 。 し か し 、 こ れ ま で に 2-ボ リ ル -1,3-ブ タ ジ エ ン 類 の 合 成 例 は ほ と ん
どなく、報告されている例においても基質適応範囲が狭いという問題点があった。本
研 究 に お い て は 、 銅 触 媒 に よ る ジ ボ ロ ン と α -ア ル コ キ シ ア レ ン を 基 質 と し て 用 い た 2ボ リ ル -1,3-ブ タ ジ エ ン 類 の 選 択 的 合 成 法 の 開 発 に 成 功 し た 。 本 反 応 は 基 質 で あ る ア レ
ン の 置 換 基 に 対 応 し て 、 様 々 な 置 換 形 式 の 2-ボ リ ル -1,3-ブ タ ジ エ ン 類 縁 体 を 合 成 す る
ことが可能であり、これまでの系に比べ非常に有用な系である。
第7章では半球型ホスフィン配位子を有する銅ヒドリドを用いたかさ高いケトンの
ヒドロシリル化反応の開発を行った。かさ高いケトンのヒドロシリル化反応はケトン
の反応性の低さゆえに、有効な触媒系はこれまでに2例しか報告されておらず、新た
な触媒系の開発は望まれていた。本研究では半球型ホスフィン配位子を有する銅ヒド
リドが、かさ高いケトンのヒドロシリル化反応において従来にない高い触媒活性を示
す こ と を 見 出 し た 。また半球型ホスフィン配位子を有する銅ヒドリド触媒は、ケトンの立体が増
すに従い反応が加速するという極めて特徴的な反応性を持つことを見出した。さらに本触媒系がア
ルデヒド共存下において、かさ高いケトンを優先して還元するという従来にない反応性を有するこ
とを明らかにした。
氏 名
仙波 一彦
(論文審査の結果の要旨)
本学位論文は、銅錯体の反応性を配位子により制御し、その選択的付加を鍵とした不飽和化合
物の高効率分子変換反応の開発に関する研究結果をまとめたものである。主な成果の概要は下記
の通りである。
( 1 ) 銅ヒドリド錯体の反応性を配位子の電子的および立体的効果によって制御することで、
アルキンへの選択的な挿入が可能となることを見出した。この反応により生じるビニル銅を鍵中
間体として用い、アルキンの(Z)-アルケンへの部分還元反応およびヒドロカルボキシル化反応の
開発に成功した。
( 2 ) 炭素-炭素不飽和化合物のヒドロホウ素化反応において、銅ヒドリドまたはボリル銅と
いう活性種を使い分けることによってそれぞれ異なる位置選択性が発現することを見出し、非対
称内部アルキンならびにアレンの位置選択的ヒドロホウ素化反応を達成した。また本手法を用い
ることで、他の遷移金属触媒を用いたヒドロホウ素化反応では実現することができなかった選択
性が発現することを見出した。
( 3 )ボリル銅とアレンの反応から選択的にσ-アリル銅が得られることを見出し、その構造を
単結晶 X 線構造解析によって同定した。得られたアリル銅を鍵中間体とし、求電子剤としてアリ
ルリン酸エステルを用いることでアレンのアリルホウ素化反応が高い位置および立体選択性で進
行することを見出した。
( 4 ) ボリル銅を触媒として用い、α-位に脱離基としてエーテル部位を有するアレンを基質
として用いることで、それまでは合成することが困難であった 2-位の位置にホウ素官能基が導入
された 1,3-ブタジエン誘導体が選択的に合成可能であることを見出した。
( 5 )半球型ホスフィン配位子を有する銅ヒドリド触媒がかさ高いケトンのヒドロシリル化反
応において極めて高活性であることを見出した。また半球型ホスフィン配位子を有する銅ヒドリ
ド触媒はケトンの立体が増すに従い反応が加速するという極めて特徴的な反応性を持つことを見
出した。さらに本触媒系がアルデヒド共存下においてかさ高いケトンを優先して還元するという
従来にない反応性を有することを明らかにした。
以 上 の よ う に 本 論 文 は 、 銅錯体の反応性を配位子により高度に制御し、その選択的付加を
鍵とした不飽和化合物の高効率分子変換反応の開発に関するものであり 、 学 術 上 、 実 際 上 寄
与するところが少なくない。よって、本論文は博士(工学)の学位論文として価値あ
るものと認める。また、平成25年1月21日、論文内容とそれに関連した事項につ
い て 試 問 を 行 っ て 、申 請 者 が 博 士 後 期 課 程 学 位 取 得 基 準 を 満 た し て い る こ と を 確 認 し 、
合格と認めた。