カプセル内視鏡

岡山医学会雑誌 第120巻 December 2008, pp。 351-352
カプセル内視鏡
山下晴弘
国立病院機構岡山医療センター 消化器科
Capsule endoscopy
Haruhiro Yamashita
Department of Gastroenterology and Hepatology、 National Hospital Organization Okayama Medical Center
はじめに
カプセル内視鏡の実際
近年まで小腸は「消化管の暗黒大
陸」といわれ,消化管診断学の中で
最も遅れた領域であった.ところが
2000年に大きな転機が訪れた.雑誌
に世界で初めてカプセル内
視鏡による小腸内視鏡像が掲載され
たのである 1).カプセル内視鏡は従
来の内視鏡のイメージとは全く異な
り,被検者は小型カプセル形状の内
視鏡を飲み込むだけで以後は自動的
に検査が進行する.開発を行ったイ
スラエルの GIVEN Imaging 社によ
れば全世界で既に65万件以上の検査
が行われている.
翌2001年には本邦においてダブル
バルーン小腸内視鏡(double-balloon
enteroscopy:DBE)が 開 発 さ れ
た2).カプセル内視鏡(video capsule
endoscopy:VCE)と DBE,この2
つの検査が開発されたことを契機に
小腸に対する内視鏡診断学が飛躍的
な進歩を遂げることになった.VCE
は本邦においては2007年10月より原
因不明の消化管出血に対する検査と
して保険適応になっている.
VCE 本体(図1)は長さ26㎜,直
径11㎜,重さ3。45gで,0号カプセル
より若干大きい程度である.標準稼
働可能時間は約8時間,毎秒2フレ
ームの撮影を行い無線で画像を送信
する.
被検者は検査開始10時間前より絶
食,15分前に simeticone を内服す
る.腹部に画像受信用のセンサーア
レイを貼り付けた後にデータレコー
ダーを収納したベストを装着する.
その後 VCE を嚥下するが,嚥下後
は特に行動に大きな制限はない.
VCE 嚥下2時間後より飲水可,4時
間後より食事可能である.
VCE 嚥下8時間後に機器を取り
外して検査を終了する.その後はワ
ークステーションにデータを転送し
画像の読影および解析を行う.
VCE 本体は使い捨てのため被検
者自身がトイレでの排泄を確認する
ことにはなるが,自覚に乏しい場合
もあるため当院では排泄が確認され
ない場合には2週間をめどに腹部単
純X線写真にて排泄を客観的に確認
するようにしている.
機能として1。 類似する画像を1つ
の画像に重ね合わせるオートマチッ
クモード,2。 特徴ある画像を自動
的にサンプリングしてプレビューす
る機能であるクイックビュー,
3。 出血部位等を推定する赤色領域
推定表示,4。 小腸内視鏡アトラス
が備わっている.ただしクイックビ
ューや赤色領域推定表示は自動的に
診断をしているわけではないので,
これだけで読影を終了させると誤診
につながる可能性がある.あくまで
診断支援と割り切るべきである.
カプセル内視鏡の有用性
1. 原因不明の消化管出血
(Obscure
gastrointestinal bleeding:OGIB)
最も VCE が得意とする領域であ
る.その診断率は70∼80%といわれ
ており,顕性出血の場合は特に有用
性が高い.腸管運動を制限する薬剤
を使用せず順行性でかつ生理的な環
RAPID ソフトウエアによる読影・
解析
平成20年9月受理
〒701ン1192 岡山市田益1711ン1
電 話:086ン294ン9911
FAX:086ン294ン9255
Eンmail:haruymst@okayama3。hosp。go。jp
約50,000枚もの画像を効率よくチ
ェックするにはソフトウエアによる
診断支援が不可欠である.RAPID
ソフトウエア(図2)には診断支援
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図1 わずか26㎜のカプセルを飲み込む
だけで検査ができる
壁である可能性が高い 4).今後の機
器の進歩に期待する.
カプセル内視鏡の問題点と今後の展
望
図2 マルチウインドウ・クイックビュ
ーモード+
境下で施行される検査であるため出
血部位の同定は比較的容易である.
当院の症例を図3に示す.本邦で普
及している DBE との比較では有意
な差が認められないという報告が多
く,むしろお互いの役割分担を明確
にし,OGIB に対する診断アルゴリ
ズムを確立する方向性が示されてい
る3).
2。 腫瘍性疾患
腫瘍性疾患の診断においては未だ
一定のコンセンサスは得られていな
い.有用であったという報告がある
反面,見逃し例も多数報告されてい
る.当院の経験でも病変の全体像は
とらえられず一部のみで存在診断を
施行した例や VCE で全く視認しえ
なかった症例も経験している.海外
からの報告を検討してみても現状の
VCE の性能では乗り越えられない
図3 小腸
からの出血
1。 内視鏡画面の視認性の問題
前処置が不要な検査であるがゆえ
に腸管内の残渣等による観察能の低
下が報告されている.また,通常の
内視鏡と異なりレンズの洗浄機能を
有さないためレンズ表面への付着に
より診断に支障をきたす場合も認め
られる.これらの問題の解決策とし
ては polyethylene glycol を前処置
として内服することで大腸内視鏡検
査同様に腸管内の洗浄効果により視
認性・診断能が向上するとの報告が
ある 5).しかしながら,視認性を追
求するあまり過度な前処置を被検者
に強いることは,この検査の本来の
存在意義からかけ離れており議論が
分かれる点である.
2。 全小腸観察率の問題
VCE で必ずしも全小腸が観察で
きるわけではない.胃からの排出遅
延や小腸内での停滞等により,全小
腸の観察率は75∼80%程度であると
いう報告が多い.当院でも全小腸観
察率は75%程度であり他の報告と同
様である.現在全小腸観察率を向上
させるために種々の工夫が試みられ
ている.Metoclopromide 内服によ
り全小腸観察率の向上を計れたとい
う報告もある6)が preparation および
prokinetics の使用に関する明確な
エビデンスはないのが現状であ
る7).
3。 今後の展望
VCE は被検者にとって非常に低
侵襲な検査方法であり,今後急速に
普及が進むと考えられる.海外では
食道用8)や大腸用9)の VCE も開発さ
れており,ますます VCE の用途は
広がる可能性を秘めている.
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文
献
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