Progress of Digestive Endoscopy Vol. 78 No. 2 (2011) ● 〈症例〉 内視鏡にて止血し得た 小腸出血の1例 白井 告 阿部浩一郎 久山 泰 磯野朱里 安食 元 三科友二 山本貴嗣 江波戸直久 石井 太郎 帝京大学医学部/内科 〔 〕小腸出血,内視鏡的止血 はじめに 近年の各種デバイスの開発によって,小腸出血が 様々な病変によって生じることが明らかになってきた。 特に balloon assisted endoscopy(以後 BAE)は診断の みでなく治療にも有効であり,施行症例も増加傾向で ある1)。今回我々は,毛細血管拡張による出血に対して BAEにより診断し,治療し得た症例を経験したので報 告する。 症 例 患者:8 0歳代,女性。 主訴:食思不振,黒色便。 既往歴:高血圧,脳梗塞,心不全。 現病歴:平成2 1年1 2月より1カ月間,うっ血性心不 全,僧帽弁閉鎖不全症,腹部大動脈瘤のため当院入院。 同時期より貧血を指摘されていた。便潜血陽性であり 内視鏡検査を勧めたが,本人が拒否したため施行せず 退院となった。平成2 2年4月に食思不振,黒色便で当 院受診。血液検査にて Hb:42 . g/dlと低下していたた め,精査加療目的で入院となった。 入 院 時 身 体 所 見:身 長1 50cm,体 重6 4kg。血 圧 1 2 2/6 0mmHg,脈拍8 8/分,体温366 . ℃。眼瞼結膜の貧 血。胸部聴診にて心尖部最強点の汎収縮期雑音あり。 腹部は膨満,軟で臍部に膨隆あり。 入院時血液検査:Hb 42 . g/dlと著明な貧血を認め, BUN 6 91 . mg/dl,Cr 18 . 3mg/dlと腎機能障害を認めた。 他に NTproBNP 1 8 2 2pg/mlと高値であり,心不全の増 悪が示唆された。 上部消化管内視鏡:食道・胃粘膜接合部に毛細血管 拡張,胃体中部小彎にポリープを認めた。 下部消化管内視鏡:S状結腸にポリープを認めた。 腹部 CT:腹部大動脈瘤を認めた。破裂や周囲の血 腫は認めなかった。他に腸管内に貧血の原因は認めな かった ( ) 。 消化管出血シンチグラフィ:右下腹部腸管への集積 The computed tomography revealed abdominal aortic aneurysm. Bleeding was not found. を認めた( )。 BAE:上部空腸に毛細血管拡張による Yano―Yamamoto分類 Type 1bの出血性病変を認めた1)( )。 経 過 入院後上部・下部消化管内視鏡を施行したが,明ら かな出血源は認めなかった。しかしその後も持続的に ヘモグロビンの低下を認めていた。臨床症状,採血結 果により消化管の出血は明らかであり,原因不明消化 管出血と判断し,消化管出血シンチグラフィを施行し たところ,右下腹部腸管に集積を認めた。小腸肛門側 からの出血を疑い経肛門的に小腸内視鏡を施行したが, 出血源の同定はできなかった。続いて経口的 BAEを施 行したところ,上部空腸に毛細血管拡張による出血性 病変を認め( ),同部位に対し argon plasma coagulation (以後 APC) にて止血した( )。入院後 は頻回な輸血にて対応していたが,内視鏡的止血術後 は貧血の進行はなく,輸血をすることはなかった。 考 察 小腸出血は,急性の消化管出血のうち約5%とされ ている2)。小腸出血の原因疾患として,小腸悪性腫瘍, 炎症性腸疾患,小腸静脈瘤,虚血性小腸炎,小腸潰瘍, 小腸毛細血管拡張症,小腸憩室などが考えられ,本症 例では毛細血管拡張によるものであり,Yano―Yamamoto分類 Type 1bであった1)。今回は Type 1bに対し で推奨されている治療方法である APCを選択し,止血 を得ることができた。 小腸出血を疑った場合,まず前処置が必要ない経口 ルートを選択するのが一般的である。しかし本症例で は,事前に行った消化管出血シンチグラフィにおいて, 下部小腸からの出血が疑われたため,まず経肛門的に BAEを施行した。消化管出血シンチグラフィは小腸出 症 例 3)大宮直木,中村正直,本田亘,他:小腸出血診断のアルゴリ ズム.胃と腸,43:410―416,2008. 〈カラーは9頁に掲載〉 Tsuguru Shirai Yuji Mishina Koichiro Abe Takatsugu Yamamoto Yasushi Kuyama The sintigraphy indicated hemorrhage of the small intestine(arrow). 血に対する所見陽性率は47%と高いが3),00 . 5ml/min 以上の出血のみが検出されるだけであり,核種の逆流 などにより出血源の大まかな推定しかできない。従っ て,消化管出血シンチグラフィの結果を評価する際に は,出血部位の同定が難しいことを念頭に置く必要が あると考える。 文 献 1)Yano T, Yamamoto H, Sunada K et al:Endoscopic classification of vascular lesions of the small intestine. Gastrointest Endosc, 6 7:1 6 9―72,2 00 8. 2)矢野智則,砂田圭二郎,西村直之,他:小腸出血性疾患に対 する内視鏡治療の現状と展望.胃と腸,4 5:3 99―4 0 5,2 01 0. Akari Isono Tadahisa Ebato Hajime Anjiki Taro Ishii The development of new technique against the gastrointestinal tract has revealed that various hemorrhagic lesions exist in the small intestine. Single― or double balloon endoscopy(balloon assisted endoscopy)is essential for the treatment of the lesions as well as making a diagnosis. Here we report on a case of hemorrhagic vascular ectasia successfully treated by single―balloon endoscopy. A 85―year―old female with history of chronic heart failure was admitted to our hospital due to severe anemia. Although the upper and lower gastrointestinal endoscopy did not show any lesion causing bleeding, the sintigraphy implicated hemorrhage from the small intestine. Consequently, we performed single―balloon endoscopy which demonstrate hemorrhagic vascular ectasia. Hemostasis was immediately achieved using argon―plasma coagulation, and anemia had not been found after the treatment. Department of Internal Medicine, Teikyo University School of Medicine.
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