(4)『化学物質の安全情報の取得とその限界』 - 埼玉県

第8回埼玉県化学物質円卓会議
- 化学物質の安全情報の取得とその限界 -
財団法人化学物質評価研究機構
安全性評価技術研究所
石井 聡子
1
本発表について
化学物質などに関する基本的な知識についての共通理解
・ 情報の入手の仕方、活用の仕方
・ 安全情報の科学的根拠(精度や意味)
・ 有害性、暴露情報の提供のしくみ
分析
部門
化学物質の安全性を評価する機関として、
自主管理にむけた取り組みを支援
CERI
評価
部門
試験
部門
安全性情報をどのように入手し、評価し、発信しているかを
有害性評価を中心に紹介
2
1
化学物質のリスク管理
有害性評価
有害性評価
暴露評価
暴露評価
毒性試験
環境予測
環境予測
用量・反応確認
用量・反応確認
ヒトや環境中の生物
の無毒性量の決定
ヒトや環境中の生物
の暴露量の決定
リスク評価
リスク評価
法規制
法規制
リスクの低減対策
リスクの低減対策
自主管理
自主管理
3
NEDO1プロ初期リスク評価(H13~18年度)
実施機関: CERI、製品評価技術基盤機構(NITE)
PRTR対象物質のう
ち、排出量と毒性影
響の程度を考慮して
約150物質を選定
対象物質
選定
有害性データの収集
標的器官、エンドポイ
ント等の情報を整理
データ毎に用量-反応
関係に基づく検討を行
い、無毒性量等を推定
有害性情報
整備
有害性評価
暴露情報
整備
暴露評価
排出量データ、物理化学的
性状データ、環境中挙動に
係るデータ等、暴露評価に
必要な情報を収集・整理
初期リスク
評価
評価手法の
開発
4
2
NEDO 1プロ実施の背景
リスクの概念の導入
自主管理の促進
1996年
1992年
環境庁中央環境審議会の答申
環境庁中央環境審議会の答申
「有害大気汚染物質対策に対する
「有害大気汚染物質対策に対する
リスク評価の必要性」
リスク評価の必要性」
1996~1997年
「アジェンダ21」PRTRの位置
「アジェンダ21」PRTRの位置
づけ。OECDによる普及
づけ。OECDによる普及
1999年
化学物質排出把握管理促進法
化学物質排出把握管理促進法
(PRTR法)
(PRTR法)
ダイオキシン類のTDIの設定
ダイオキシン類のTDIの設定
(厚生省、環境庁)
(厚生省、環境庁)
化学物質のリスクを評価し、
適切に管理する社会システム、
技術体系の構築
2001年 NEDO 1プロ 開始
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有害性評価の要素
有害性評価書
化学物質の
化学物質の
同定情報
同定情報
一般情報
一般情報
物理化学的
性状等
物理化学的
物理化学的
性状
性状
有害性評価
水生生物
水生生物
への影響
への影響
生態
陸生生物
陸生生物
への影響
への影響
生体内
生体内
運命
運命
発生源
発生源
情報
情報
環境中
環境中
運命
運命
疫学調査
疫学調査
及び事例
及び事例
ヒト健康
実験動物に
実験動物に
対する毒性
対する毒性
6
3
有害性評価を実施する上での留意点
• PRTR対象物質の中から約150の物質を選定し、有害性に
関する既存情報を整備し、評価すること
• 限られた予算、時間の中で効率的に実施すること
• わが国のデータを含む既存の情報を収集し、独自の評価
方法を積み上げていくこと
• 行政の施策や企業の自主管理に資する評価書であること
初期リスク評価のための有害性評価であるため、
無毒性量 (または無影響濃度) の推定が最大の目的
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有害性評価の手順
対象物質の選定
有害性情報の整備
有害性の確認
用量反応相関
8
4
有害性評価の手順
対象物質の選定
有害性情報の整備
有害性の確認
用量反応相関
9
有害性情報の整備
スタート当初:
採用
文献検索
原著入手
個々の文献を査読して、評価書を作成したため、
非常に多くの時間を要した。
抜本的な見直しの必要性
10
5
有害性情報の整備
- 調査・収集方法の改良 平成14年度以降:
有害性情報の特徴
の把握
文献・データ
環境省
原著入手
BUA
IARC
EHC
EU
NICNAS
(反復投与毒性、
生殖・発生毒性、
発がん性に関する
データを中心に)
IRIS
OECD/HPV/
SIDS
採用
ACGIH
Canada
文献検索
最新の評価書発行年の2
年前から現在まで検索
諸外国の評価書
の調査と確認
関係省庁によるGHS
1)
1)
分類事業 の指針作りに大きく貢献
化学品の分類および表示に関する世界調和システム11
有害性情報の整備
- 採用方法の改良① 文献・データ
調査・収集
採用
信頼性の保証?
・ 信頼性判断・評価不明確
・ 信頼性を評価した記録がないため第三者が確認困難
諸外国の評価文書の信頼性評価の基準を調査
明確なデータの信頼性評価基準が定められていたのは、
OECD/HPV/SIDS (Klimisch code) のみ
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6
有害性情報の整備
- 採用方法の改良② 信頼性評価基準の明文化
信頼性
コード
信頼性あり
A1
A2
信頼性チェックシートの作成
反復投与毒性/発がん性試験
信頼性評価基準
・ 試験ガイドライン準拠
・ GLP対応
必ずしも、国際的に認められた試験ガイドラインで実施されて
いないまたはGLP対応ではないが、試験方法等について詳細
・ 同等の試験
に記述されており、その内容から判断して国際的に認められた
試験ガイドライン相当の充分に信頼に足るデータである。
なし
B
C
文献名
①採用可否判断
物質
国際的に認められたまたは妥当な試験ガイドラインで試験が実
施されており、かつGLP対応である。さらに、試験方法、結果等
ができるだけ詳細に記載されており、試験全体を通して問題に
なるような点はない。
国際機関等で非公開資料として評価の上、採用しているデータ
試験方法に問題がある、詳細が不明などの理由から信頼性が
なくリスク評価に用いるのに耐えうるデータではない。
信頼性チェックシート
化学物質名
CAS No.
文献 ID
①採用判断
動物種
投与経路
投与方法
文献の種類
採用可否
当該物質
記載あり(
記載あり(
記載あり(
当該物質ではない
)
)
)
原著
総論(既存の評価文書)、二次情報
採用
記載なし
記載なし
記載なし
学会等発表資料
採用不可
②信頼性評価
試験法ガイドライン
OECD、U.S. EPA(TSCA, FIFRA)、ASTM、APHA、DIN、
記載なし
UBA、AFNOR、EU、JIS、(
)の試験法
GLP
記載あり(
) 記載なし
被験物質の純度
記載あり(
) 記載なし
不純物と含量
用量段階
系統
記載あり(
記載あり(
記載あり(
) 記載なし
) 記載なし
) 記載なし
記載あり(
) 記載なし
投与期間 (投与時期)
記載あり(
) 記載なし
溶媒
1 群動物数
②信頼性評価
記載あり(
) 記載なし
性別
記載あり(
) 記載なし
週(月)齢
記載あり(
) 記載なし
血液学的検査
記載あり(
) 記載なし
血液化学検査
記載あり(
) 記載なし
器官重量
記載あり(
) 記載なし
剖検
記載あり(
) 記載なし
病理組織検査
記載あり(
) 記載なし
統計的手法
記載あり(
) 記載なし
特記事項
信頼性コード
1)
信頼できる
信頼できない
未公開データは原則として信頼性の判断はできない。
→ 国際機関等で非公開資料として評価の上、採用しているデータ
信頼性があるものとみなし、無毒性量を推定する際の重要なデータ
として採用できるようにした
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有害性評価の手順
対象物質の選定
有害性情報の整備
有害性の確認
用量反応相関
14
7
有害性の確認
(ヒトの健康への影響)
特殊毒性試験
・ 刺激性、感作性試験
・ 生殖・発生毒性試験
・ 遺伝毒性試験
・ 発がん性試験
試験動物種
(ラット、マウス等)
試験期間
(短期、長期等)
標的器官
(肝臓、腎臓等)
毒性の種類の確認
一般毒性試験
・ 急性毒性試験
・ 反復投与毒性試験
影響の種類
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用量反応相関
ヒトを対象とした
データ
動物試験データ
(反復投与毒性、長期)
データ毎に用量・反応関係に基づく検討
影響の重篤度、
作用メカニズムを考慮
無毒性量(NOAEL) 等 の推定
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8
有害性評価の実施例
- ホルムアルデヒド -
構造式
O
C
H
H
CAS登録番号
50-00-0
比重
0.815 (-20℃/4℃)
水への溶解度
55%
融点
-92℃
沸点
-19.5℃
蒸気圧
517 kPa(25 ℃)
・ フェノール樹脂や
接着剤に用いられる
ユリア樹脂及びメラミ
ン樹脂等の合成樹脂
原料
・ 揮発性有機化合物
(VOC)、室内空気汚
染(シックハウス)の
原因物質
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無毒性量 (NOAEL) の推定
慢性影響
動物試験
データ
(反復投与毒性、
長期)
ラットによる経口投与試験 (2年間)
(2年間)
ラットによる経口投与試験
前胃の乳頭状過形成、腺胃の慢性萎縮性胃炎
前胃の乳頭状過形成、腺胃の慢性萎縮性胃炎
NOAEL==260
260mg/L
mg/L(15
(15mg/kg/日相当)
mg/kg/日相当)
NOAEL
サルによる吸入暴露試験 (26週間)
(26週間)
サルによる吸入暴露試験
鼻甲介粘膜の扁平上皮化生
鼻甲介粘膜の扁平上皮化生
NOAEL== 0.2
0.2ppm
ppm(0.24
(0.24mg/m
mg/m33))
NOAEL
急性影響: ヒトの眼及び上気道への刺激、呼吸器系への影響
ヒトを
対象とした
データ
吸入暴露による上気道への刺激
吸入暴露による上気道への刺激
NOAEL==0.1
0.1mg/m
mg/m33
NOAEL
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有害性評価書作成体制と品質保証
有害性評価書ver.
ver.0.1
0.1
有害性評価書
(リスク評価書
ver.
0.1
)作成
(リスク評価書 ver. 0.1 )作成
有害性評価素案作成
有害性評価方針検討会
内部レビュー
有害性文献査読
有害性評価書ver.
ver.0.2
0.2
有害性評価書
(リスク評価書ver.
ver.0.2
0.2)作成
)作成
(リスク評価書
有害性評価最終検討会
有害性評価書案作成
リスク評価書案作成
リスク評価
検討会
初期リスク評価書
初期リスク評価書
公開
公開
産総研レビュー
有害性評価書ver.
ver.0.3
0.3
有害性評価書
(リスク評価書
ver.
0.3
)作成
(リスク評価書 ver. 0.3 )作成
外部レビュー
外部校正(外注)
有害性評価書 ver.
ver. 0.4
0.4
有害性評価書
安全評価管理小委員会
有害性評価書 ver.
ver. 1.0
1.0 公開
公開
有害性評価書
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成果の公表
〇有害性評価書 ver. 1.0
http://www.safe.nite.go.jp/data/sougou/pk_search_frm.html?search_type=list
〇初期リスク評価書、 評価指針、評価書作成マニュアル
http://www.safe.nite.go.jp/risk/riskhykdl01.html
有害性評価書
初期リスク評価書
20
10
有害性・初期リスク評価手法のまとめ
◎有害性・初期リスク評価手法を確立
⇒約150物質の有害性・初期リスク評価を実施
⇒評価方法及び評価書の作成方法を標準化
化学物質の適正管理への国際的、国内的潮流
リスク管理へ⇒リスク評価のための基盤情報の整備
・ SIDSレポート作成への国際協力
・ 国の化学物質管理施策への支援
・ 民間の自主管理、REACH対応等への支援
・ 教育用教材
例) LWWC注) 「化学・生物総合管理講座」の受講者への教材
注: お茶ノ水女子大学ライフワールドウォッチセンター
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化学物質総合安全管理の体制
リ
リス
スク
ク削
削減
減効
効果
果の
の相
相互
互理
理解
解
専門家
専門家
リ
リス
スク
ク削
削減
減対
対策
策の
の実
実施
施協
協力
力
消費者
消費者
リ
リス
スク
ク評
評価
価結
結果
果の
の相
相互
互理
理解
解
産業界
産業界
化学物質対策に関する
取組みが、社会的に
評価される仕組みづくり
が必要
企業が化学物質管理
に取組み、そしてその
努力を消費者、市民が
正しく理解する社会
行 政
政
行
化学物質安全管理に関する取組みを多方面から支援いたします。
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