軽やかな建築 - 東海大学工学部建築学科

軽やかな建築
アンバランスバランスによる空間の揺らぎを用いた祝祭塔
指導教員 吉松 秀樹 教授 0BCBM011 上村 拓 1. 研究の背景と目的
2. 軽やかさと建築
1-1. 生け花で感じた軽やかな空間性への興味
2-1. 軽やかさの要素 生け花の重力を感じさせない、軽そうで動いているよう
芸術やファッション、スポーツなどにみられるアンバラ
に見える空間性に魅力を感じた。複数の非対称な釣り合い
ンスバランスな状態は「少ない接地面」と「輪郭線の歪み」
の同時存在に、軽やかな空間性の仕組みがあるのではない
によって、実際の重さと視覚的に想像する重さとの間にズ
か(Fig.1)。
レを作り出している(Fig.4)。
重心位置のずれ
非対称な長さ
大きさ
方向性の釣り合いの重なり
ポワント
線同士が接するか接しないかで
構成される
中心軸
>>
重心
>>
各要素の運動A
接触面が少ない
毛先
垂直水平方向を認識
出来る僅かな歪み
Fig4. 軽やかさの要素の抽出
B
B
要素全体の運動
直線と歪んだ部分が
作る対比
曲線美を活かす
歪み
最小限の接地面
A
A
エアリーヘアー
フランク・O・ゲーリー_スケッチ
反発
助長
C
Fig.1 生け花に見られる軽やかな空間性
2-2. 現代建築における軽やかさ
1-2. 建築におけるアンバランスバランスと空間の揺らぎ
軽やかに見える建築を分析すると、壁面の部分的な操作
アンバランスバランスは、安定や不安定になる瞬間の状
によって空間の輪郭が綻び、認識的な空間の繋がりを作り
態を示し、部分的には崩れていながらも全体として釣り合
出している(Fig.5)。
いを保つことで、静止したものに動きを与えていくことが
A_ 少ない接地面
B_ 垂直水平からの歪み
A+B
A
出来る(Fig.2)。
全体では安定
B
全体 安定になる瞬間
不安定になる瞬間
45
桝谷本店 / 平田晃久
部分的に見れば不安定
安定
部分
( 形態を維持出来るの許容域 )
不安定
Fig2. アンバランスバランスの概念
少ない接地面は、想像する
重さにずれを作り出してい
るが、壁面の変動に対比関
係がない。
アルバロ・シザ / サンタマリア教会
ル・コルビジェ / ロンシャンの礼拝堂
一部の壁面がわずかに歪み、 二つの要素が組合わさる事
空間の差異を認識できるが、 で生まれた屋根や壁面の隙
視覚的に想像する重さにズレ 間が人の意識を引き込む媒
は生まれない。
体となっている。
Fig5. 現代建築における軽やかさ
建築空間における安定を、垂直水平で構成された空間と
3. 軽やかな空間の作成
した時、安定した空間を想起させるズレの連続が空間認識
建築の分析から、壁面の角を操作すると「意識を向かせ
に揺らぎを作り出していると捉え、建築に軽やかさを付加
る方向や視覚的な軽さ」を多様に変化させていくことが出
していく(Fig.3)。
来る(Fig.6)。
1
2
>>
3
建築を巡る中で
連続させていく
>>
原型の形を想起させる
ズレを体験出来る空間
4
>>
原型
1カ所
3
3カ所
1
2
4
1
2カ所
1
2
空間認識が揺らいでいく
3
4カ所
1
3
1
2
2
4
垂直水平
バランスは取れ
ているが動きは
ない状態
安定になる瞬間
バランス/垂直や水平
本修士設計は、アンバランスバランスが作り出す空間認
識の揺らぎに着目し、不透明で安定しているにもかかわら
ず、動きや軽さを感じさせる「軽やかな建築」の設計を目
的とするものである。
Airy architecture
Urban ceremony tower using fluctuation of space by unbalanced balance
不安定になる瞬間
原型が消失した
アンバランスな
状態
より軽さや動きを作り出す
対比
アンバランス/歪み
平面の繋がり
A→B
1
Fig3. アンバランスバランスによる空間の揺らぎ
1-3. 目的_軽やかな建築空間の設計 より意識を引く
C
断面の繋がり
A
B
B→C
少ない接地面
1
1
断片的な空間認識による、
空間のつながり
1
よりずれた方向
へ意識を引く
2
3
他方向に空間が繋がる
Fig.6 軽やかな空間の作成
KAMIMURA Taku
4. 建築への応用
4-3. 軽やかな建築
4-1. 銀座 × 祝祭行事の核としての祝祭塔
壁面の角を操作し空間に方向性を与えることで、エント
軽やかな空間は、前後の空間に余韻や気配を作り出すこ
ランスや空間同士が動線となって繋がる場所では、次の空
とが出来るため、非日常空間へと気持ちの切り替えが必要
間へ誘引していく。その過程で、壁面に安定から不安定と
となる都市型祝祭場(祝祭塔)を提案する。
なる瞬間を認識させ、実際の建築の重さを感じさせない空
高密度地区である銀座は、透明なファサードであっても
間体験を可能とした。(Fig.9)。
ラウンジ
高層部の内部が把握できないため、重く窮屈な都市体験と
なっている。限られた敷地に軽やかな空間を立体的に展開
小宴会場
させることで、周辺の建築との対比関係を作り出し、都市
的にも軽やかな建築としていく (Fig.7)。
祝祭場から祝祭塔へ
式場
エントランス
受付
>>
断面的にも他の空間の余韻や、
気配を感じ取ることが出来る
JR 有楽町 大宴会場
若者向けのファッション街
ラウンジ
高級ブティックゾーン
public
移動の合理性から平面に
展開されてきた祝祭場。
晴
海
通
り
空間の余韻や気配を感じ
ながら徐々に非日常空間へ
誘っていく。
中央通り
重心
祝祭都市へ
site
多目的
スペース
master plan
N
披露宴場
中ラウンジ
1900∼1950 年
1951∼2000 年
2001∼2011 年
2012∼20XX 年
ceremony
中宴会場
不安定になる瞬間とし
周囲に余韻を与えていく
光や空気や都市との繋がり
視線や意識上での繋がり
行き来が可能な機能的な繋がり
Fig7. 銀座と軽やかな祝祭塔
通りを歩いていながらも、高
層部の内部の様子を把握
エントランス
ホール
安定になる瞬間とし
都市から人を引き込む
4-2. 設計プロセス
敷地は中央通りに面した角地にあり、中央通り側にはス
ケールが大きく、人の動きが激しい挙式や披露宴場を、背
ホワイエ
接地面を少なくし、心理的にも
軽そうな外観
機械室
Fig9. 垂直方向へ展開されていく、祝祭のアクティビティ
割りの部分には裏方や控え室などの諸室を配置する構成と
5. 結び
する。街路を引き込むようにして外壁を歪ませたエントラ
本設計方法によって、物理的に透明にすることなく、空
ンスを入ると、空間の輪郭が綻んでいる場所から上下階の
間認識に触れ幅を与え、軽やかな建築を作成することが出
様子を伺うことが出来る。意識を向かせる度合いや方向性
来た (Fig10)。
を操作していくとによって外部から建築内の高層部まで、
不安定になる瞬間の
壁面操作を用いた軽そうに見える外観
連続した空間体験を与える (Fig.8)。
静的
至 東銀座
認識上は透明な
軽やかな建築
small
軽やかな祝祭塔
対比
site
780㎡
認識情は不透明
で重い都市空間
余韻や気配を感じさせながら
上層階へと誘っていく
large
軽やかな祝祭堂ラウンジ
足元に設けた
パブリックスペースに
引きこまれていく
搬出入/収蔵スペース
街路を引き込む
壁面の揺らぎ
街路を引き込んだエントランス
レストラン
9F
ラウンジ
8F
式場・着付け
厨房・控え室
大宴
フロント
パブリック
交流ゾーン
軽やかな祝祭堂
Fig10. 軽やかな建築
EV
6F
小宴
5F
EV
情報/案内ゾーン
軽やかな外観
少ない接地面
7F
EV
中宴
EV
EV
EV
( 注 .1) 不均斉:形が崩れている。すなわち、均斉が取れておらず歪んでいるということ。
*1) 禅と禅芸術としての庭 桝野俊明 毎日新聞社
4F
*2) 八つの日本の美意識 黒川雅之 講談社
3F
*3) 建築家の講義 サンチャゴ・カラトラバ 丸善株式会社
EV
EV
2F
EV
[ 注釈 / 参考文献 ]
EV
1F
*4) 空間 建築 身体 / 矢萩喜従郎 / 株式会社エクスナレッジ /2004*
*5) 造形論・人間の視覚 ボリス・ヘルベルト・クライアント 京都書院
*6) 生け花の美学 吉村貞司 泰流社
搬出入
ホール
エントランスに向かう前に
内部の様子が見える隙間
不安定になる瞬間
周囲に余韻や気配を感じさせる
至 新橋
晴
海
通
り
動的
安定になる瞬間
人の行動を促す
site
中央通り
至 日本橋
意識上で境界が開閉していく空間構成
文化/展示ゾーン
6丁目
5丁目
祝祭行事の核となる
歩行者天国時
祝祭のアクティビティが都市ににじみでる
B1F
機械/設備室・・・・・・・ B2F
1日3組の挙式が可能
(大中小の披露宴にて)
Fig8. 都市と繋がる配置計画と導入空間
*7) 尾上優奇/土居義岳 著 / サンティアゴ・カラトラバの「人体」から建築への変換について レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿と比較しながら - 日本建築学会九州支部研究報告第 49 号 2010
年3月
*8) 多視点同時空間把握モデルを用いた建築設計手法 ( 坂田 顕陽 修士設計 2008 年 3 月)
2011 年度修士設計梗概集 東海大学工学研究科建築学専攻