プラスチック成形品のレーザーマーキング

環境に配慮したプラスチック成形品への印刷・マーキング
プラスチック成形品のレーザーマーキング
環境重視、不滅性、非接触、版不要、内容変更容易
1. 緒言
最近プラスチック成形品への印刷において、環境への配慮から有機溶剤の使用削減への要求が増えていま
す。製品の使用環境が厳しく、通常の印刷では簡単に消えてしまうため、印刷技術が使用できない分野もあ
ります。製品の偽造防止や製造物責任の観点から、消えない印刷への要求も増えています。印刷対象となる
プラスチック材料はさまざまで、印刷ラベルや成形金型への彫り込みによる表示もあります。
本稿で紹介するレーザーマーキングの技術は、レーザーマーキング装置の進歩、精密塗装技術、カラーレ
ーザーマスターバッチの開発などで、このような印刷に対する要求に対応できるようになってきています。
最近は透明な成形品へのマーキングや、写真のマーキングも実現しており、印刷に代わる技術としての応用
が期待できます。
2. レーザーマーキングの特長
レーザーマーキングは、印刷とは異なる次のような加工上の特長を持っています。
・非接触で印字や加飾ができ、製品に摩耗や衝撃を与えることがない
・直接近づきにくい場所にもマーキングが可能である
・素材の応用範囲は広い
・絵柄や文字の変更やレイアウトの変更がデータのみで行え、新たに印刷のための版を作る必要がない
・製品毎に異なる内容のマーキングができる(シリアル番号、製造年月日、外部データの製品毎の取り込み)
・レーザーの照射条件データの変更で異なる素材に加工できる
・コンピュータ制御が容易である
・前処理は不要である
・インキや溶剤を使用しないので環境に与える影響が小さい
・原材料以外の付加的なコストがない
・生産ラインへの組み込みが容易である
・マーキングの物理的、化学的強度が高い(不滅性)
・ラインフォントを使用すると非常に高速でマーキングできる。
このような特長を生かして、以下のような用途にレーザーマーキングが応用されています。
・部品あるいは装置の特定(純正部品)
・製品の起源表示(製造年月日、賞味期限など)
・製品毎に印字や絵柄の変更が必要な用途
・オンデマンド印刷
・詐欺に対する保護(偽造防止)
・バックライトスイッチなどへの応用
・常に手に触れる部分やお湯の中、有機溶剤、油脂等に触れるなど厳しい環境で使用される製品
3. プラスチック成形品へのレーザーマーキングの種類と課題
レーザーマーキングのプラスチック成形品への応用は、
①プラスチック材料そのものをレーザービームで彫刻したり、変色させたりする方法と、②あらかじめ成形
品表面に印刷や塗装を行い、その後インキや塗料、金属皮膜をレーザービームで取り除く方法の 2 種類があ
ります。
成形品そのものに加工する方法に対する課題は以下のものが挙げられます。
・マーキングがさまざまな使用環境において、摩滅したり、溶け出したり、変色したりして消えない(不滅
性)
・基材に対して高いコントラストを持ち、視認性が高い(見やすい)
・フレキシブルに対応できる(素材、形状、場所、内容)
・素材への影響が少ない
・安価(材料、装置、加工)
インキや塗料、金属皮膜を取り除く方法では以下の課題が
あります。
・インキや塗料の厚みを再現性よく一定にする印刷や塗装
の技術
・インキや塗膜のマーキング特性が優れている
・インキや塗料の耐久性が高い(スイッチ類)
・基材に影響を与えないで、除去したい層を限定した厚み
で除去する
・金属の場合、彫刻だけでなく、表面を変色させる
Fig.1 レーザーマーキングユニット構成例
4. レーザーマーキング装置
使用するレーザー光としては、主に CO2 レーザーと、Nd:YAG レーザー、YVO4 レーザーなどがあり、Fig.
1 に示す構成から成っています。
レーザービーム反射のシステムにおいて、レーザー発生ユニットで生成されたレーザービームは、2 個の
ガルバノメーターミラーによって反射され、平面化レンズによって被マーキング素材表面に焦点を合わせる
ことによって、絵柄が描かれます。 2 個のガルバノメーターミラーは専用のコンピュータソフトウェアによ
って制御されます。ミラーは X 及び Y 軸方向に動くことによって、希望のパターンを描きます。
このシステムの特長はそのフレキシビリティと非常に大きなマーキング領域です。このシステムは原理的
にあらゆる素材に適用でき、レーザービーム反射の方法は工業的な用途において広く使用されています。
レーザー発生ユニットの構成例として、Fig. 2 にダイオードレーザー励起のユニットのレイアウトを示し
ます。従来、レーザー発生ユニットとしてはランプ励起のものが多く使われてきました。現在でも高いレー
ザー出力を必要とする用途においてはランプ励起のものが使われています。最近ではレーザー発生の効率が
高く、消費電力の少ないダイオードレーザー励起のものが増えています。レーザーの出力が比較的低いもの
では従来の水冷タイプでなく、空冷の装置が使われてきています。レーザーの増幅においても、反射ミラー
でなく、特殊な光ファイバーやディスクを使用したものも市販されています。
レーザーマーキング装置に必要とされるユニットのすべてを製造している装置メーカーはほとんど無く、
主要ユニットは専門メーカーが最終アセンブリメーカーの要求仕様に従って開発し、アセンブリメーカーは
ユニットを組み立て、ソフトウェアを開発して、独自
のレーザーマーキング装置を製造販売しています。
レーザーマーキングに使用されるレーザー発生ユ
ニットの進歩はめざましく、マーキングデータの作成
やレーザーを制御するソフトウェアの進歩も著しいも
のがあります。
工業用途のレーザーマーキングにおいては、さまざ
まな材質やマーキング内容に的確に対応できる経験も
重要な要素です。
Fig.2 ダイオードレーザー励起ユニットレイアウト
5. レーザーマ−キング装置
実際のレーザーマーキング装置の例を Fig.3 に示しま
す。基本となる装置はレーザー発生ユニットと制御ユニ
ットから成ります。
マーキングしようとする基材の種類、マーキングの内
容、加工ラインの速度などに合わせて、どのようなコン
ポーネントを選択するかが重要です。レーザーのモード
(マルチモード、モノモード)、発信形態(連続、パルス)
、
スポットの大きさ(直径)/μm、平均出力/W、パルス周波
数/kHz、パルス幅/μs、スキャン速度/mm s-1、ジャンプ
速度/mm s-1 など、コンポーネントが持つ本来の調整
要素の調整範囲が性能の指標になります。
精密なマーキングをするにはモノモードのパルス
レーザーでスポット径が小さく(10 μm)
、マーキング
に必要なパルス出力が、平均出力、周波数、幅、スキ
ャン速度の調整で得られることが重要で、調整範囲が
広いことが望まれます。
高速のマーキングを行うには、高速でスキャンして
も必要なレーザーのエネルギーが得られるほど平均出
力が大きく(100 W 以上)、スキャン速度の速いスキャ
ナー(例:12000 mm/s)を組み込むことが重要です。選
択されたコンポーネントが組み込まれた標準のレーザ
ーマーキング装置も市販されています。
製品の大きさに合わせて、自動で高さの設定ができ、
製品を回転テーブル上に載せて、次々とマーキングが
できる装置もあります(Fig. 4)。高さの調整はレーザ
ーの焦点を絞り、小さなレーザースポットで鮮明なマ
ーキング品質を得るためにも重要な要素です。
Fig.3 レーザーマーキング装置の基本ユニット
Fig.4 レーザーマーキング装置
6. レーザーマーキングのソフトウェア
レーザーマーキングにおいては、装置の他にもう 1 つの重要な要素があります。マーキングしようとする
デザインデータから、実際のマーキングデータを作成するソフトウェアです。
製造年月日や賞味期限など表示で広く使用されているインクジェットプリンタのように、ラインフォント
の形式でマーキングする場合は、システムに組み込まれたフォントを選択し、データを作成します(Fig.5)。
しかし、印刷に使われる TT フォントや、ロゴ、絵柄などのグラフィック製の高いマーキングをする場合、
アウトライン形式のデータにハッチングやスケーリングを掛け
て塗りつぶしを行うスキャンデータを作成する必要があります。
使用可能なフォントの制限やグラフィックデータの取り込み
方法、塗りつぶしデータの作成など、使用する装置によって、
異なる基本データやソフトウェアを使用しています。また、写
真データをマーキングデータに変換することも可能になってい
ます。
最近はほとんどのソフトウェアは Windows で作られており、
コンピュータにインスト
ールされているフォント
Fig.6 アウトライン(左上)とハッチング
Fig.5 ラインフォント
を使用してマーキングデ
ータを作成したり、CAD で作成した輪郭データやイラストレータで作成されたグラフィックファイルを変
換したりして、マーキングの基本データファイルを作る場合が多く、これに各メーカー独自の塗りつぶしソ
フトウェアを適用して、マーキング用のスキャンデータが作られます。実際にマーキングを行う場合、ソフ
トウェアの性能もマーキングの仕上がりに大きく影響します。
マーキング装置の制御は専用のコントロールパネルやパソコン画面から制御用ソフトウェアを使用して
直接行うものもあります。マーキングのソフトウェアと制御用のソフトウェアを一体化して、高さが異なる
場所(Z 軸サーボ制御)や表面の素材が異なる部品(レーザー制御データを絵柄毎に選択使用する)でも、一度に
マーキングできるシステムも開発されています。
インキジェットプリンタのように高速で移動する製品にマーキング(印字)できる専用ソフトウェアとオプ
ションユニットも実用化しています。行数や文字数にもよりますが、分速 100m の速度で移動する製品にも
マーキングが可能になっています。
7. 表面層を除去することによるレーザーマーキング
レーザーによって除去されるのは、成形樹脂そのもの、成形品に塗装(コーティング)された層、ホットス
タンプやスクリーン印刷、真空蒸着で付加されたインキや金属の層があります。
透明な成形樹脂は標準の Nd:YAG レーザーの波長ではほとんどレーザー光を吸収せず透過してしまうの
で、マーキングができません。CO2 レーザーでは吸収があるので、彫刻できる場合があります。
塗料やコーティング剤、インキ、金属蒸着層をレーザーで昇華させて除去する方法はバックライトスイッ
チなどで広く使われています。複数の層のうち、特定の層までを除去することによって、多色のマーキング
も可能になっています。
塗料やコーティング剤の厚みを再現性良く制御できる塗装技術(±1μm)や下地のプラスチックに影響を
与えることなく(焦がしたり、溶かしたりしない条件)、除去すべき層までを完全に昇華させるために、着色
とは関係のない下塗り層(例えば黒)を塗装する場合もあります。
除去しようとする層の色や材質に合わせて、適切なレーザーマーキングや塗りつぶしの条件を微妙に調整
し、鮮明なエッジを持つ仕上がりを実現できます。この点で調整が可能になるレーザーマーキング装置の性
能も重要な要素になってきます。
基材そのものにレーザーマーキング用添加剤を混合して、基材そのものを変色させるマーキング方法もい
ろいろな用途に使用されるようになってきています。添加剤は均一に分散するために、マスターバッチの形
で提供されることが多く、さまざまな素材に対して、適切な配合比率で添加剤と着色剤を、成形樹脂に適合
するキャリアー樹脂を使用して作るレーザーマーキング用マスターバッチが作られています。
現状では発色できる色には制限があり、
淡色系のバックグラウンドに対しては濃いグレーまたは黒発色が、
黒のバックグラウンドには白の他にピンクや水色、黄色、薄紫色、薄緑色の発色が実現しています。基材そ
のものが変色するので、マーキングの耐久性は非常に高
いものです。
最近、従来の印刷では十分な強度が得られない各種エ
ラストマーについても、レーザーマーキングが行われる
ようになってきています。また、ペットボトルのような
透明な素材でも、最近開発されたレーザー用マスターバ
ッチでは、透明性が失われることなく、レーザーマーキ
ングできるようになりました。
また、透明なプラスチックに影響を与えることなく、
内部のレーザー発色可能な樹脂にレーザーの焦点を結ば
せることが可能なので、製品を組み立てた後、透明な外 Fig.7 レーザーマーキングによる塗装除去の例
装を通してレーザーマーキングすることも可能です。
8. レーザーマーキングの応用例
以下に塗装された表面層を除去するレーザーマーキン
グの例を示します。
自動車のバックライト式のパネルや携帯電話のキー、
オーディオ関係のスイッチ類など、多くの使用例があり
ます。最近はメタリック塗装への応用や金属蒸着層への
マーキング例も増えています。
黒の表面層の下に赤や緑、
黄、青などの層をスクリーン印刷や塗装などを部分的に
行い、レーザーマーキングで多色のデコレーションを可
Fig.8 自動車関係スイッチ類
能にした応用も増えています(Fig. 8)。
レーザーマーキング用マスターバッチの応用例を以下に
示します。パソコンのキートップは一般によく知られてい
る応用例です(Fig. 9)。パッド印刷した上に文字や絵柄に
合わせて高強度の透明クリヤー層を印刷したものに比較し
て、多色印刷はできませんが、長く使用しても文字が消え
ないキートップがレーザーマーキングによって作られてい
Fig.9 パソコンのキーボード
ます。
ヘアードライヤーやシェーバーなどのよう
に洗剤や整髪料、お湯などに常に曝される製
品においても、インキによる印刷では十分な
強度が期待できず、金型に文字を加工する方
法から、レーザーマーキングによる発色に変
更する例も増えています(Fig. 10)。
Fig.11 ドライバーの柄
工具類などでは金属部分へのレーザーマー
キングの応用は古くから知られていますが、
グリップ部へのレーザーマーキングの例もあ
ります(Fig. 11)。
日用雑貨品においても曲げや伸縮に対す
る強度や耐摩耗性を要求する用途でレーザー
Fig.10 ヘアードライヤー
マーキングが採用されています(Fig. 12)。
Fig.12 固定用タイ
飲料水や医薬品のキャップ、医療分野の部
品などでも、人体に安全な添加剤
を使ったレーザーマーキングが使
用され、高速の移動型マーキング
装置も使用されています(Fig. 13、
14)。
Fig.13 キャップの内側/天面
Fig.14 キャップ用高速マーキング装置
(2005.7.28 ナビタス株式会社での講演内容)
お問合せ先(ナビタス株式会社 製造本部 海外商品開発プロジェクト 村田 重男 氏、
〒590-0823 大阪府堺市石津北 9-1
TEL: 072-243-1131、FAX: 072-243-1232、
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