( ) ( ) (3.3.1) vt R it = ⋅ ( ) ( ) (3.3.1) V s R I s = ⋅

3.3 線形電気回路
線形電気回路の
回路のSFGモデル
SFGモデル
3.2では抵抗器だけで構成された直流回路に限定し、SFG を使って電気回
路をシステムとして入力出力関係で捉える手法を紹介してきました。これらは、
一般形の電気回路に対しては3つの法則を SFG で表現した原型 SFG から信号
間の因果関係を導く原理的なモデリング手法、格子型回路のような簡単な回路
には因果関係に直接注目するモデリング手法として大別しました。
この節では、抵抗器以外にコンデンサ、コイル、変成器で構成される過渡現
象を伴う回路(動的線形電気回路)に上述の手法を拡張することを考え、また
シミュレーションの種類に適した SFG モデルの変形について述べます。
ここでは、時間(t)領域で表現される回路をラプラス変換によって複素数
(s)領域で表現される回路に変換するという方法を導入することで、3
3.2の
内容を拡張していきます。以下、時間
時間(t)
時間(t)領域
(t)領域での
領域での表現
での表現を
表現を表回路、複素数
表回路 複素数(
複素数(s)
領域での
領域での表現
での表現を
表現を裏回路と呼ぶことにします。
裏回路
3.3.1 回路素子の
回路素子の裏回路表現とその
裏回路表現とその SFG
通常の電気回路図は表回路に相当します。以下、各回路素子の裏回路表現と
その SFG を求めてみます。
(1)抵抗器 (抵抗: R )
抵抗 R に対する電流 i (t ) と電圧 v (t ) との関係は表回路表現として
v (t ) = R ⋅ i(t )
(3.3.1)
となります。この裏回路は上式をラプラス変換することにより、
V ( s) = R ⋅ I (s )
(3.3.1')
で表現されます。 Fig. 3.3.1
Fig. 3.3.1(a))
3.3.1 はこれらをそれぞれ表回路(Fig.
3.3.1(a) 、裏回
路(Fig.
Fig. 3.3.1(b))として表したものです。
3.3.1(b)
3-16
I ( s)
R
i (t )
R
V (s)
v(t )
(a) 表回路
(b) 裏回路
Fig. 3.3.1 抵抗器の回路表現
さらに、(3.3.1
(3.3.1’
(3.3.1’) 式に従い、 I ( s ) を入力信号、 V ( s ) を出力信号とすると Fig.
3.3.2 の SFG が導かれます。
Fig. 3.3.2 抵抗の SFG
C)
(2) コンデンサ(容量:
コンデンサ
Fig. 3.3.3(a)
3.3.3(a) の表回路によるコンデンサについて電流/電圧関係は次のよう
に表されます。
v (t ) =
∴ v (t ) =
1 t

 ∫ i (τ )d τ + i (−1) (0)


0
C
1 t

 ∫ i (τ )d τ  + v (0)


C 0
(3.3.2)
裏回路表現は上式のラプラス変換により次式となります。
V (s) =
1
1
I ( s ) + v (0)
Cs
s
(3.3.2')
これに従ってコンデンサの裏回路は Fig. 3.3.3(b)
3.3.3(b) で表されます。
v(0)
1
i(t )
C
I ( s)
s
Cs
+
v(t )
V (s)
(a) 表回路
(b) 裏回路
Fig. 3.3.3 コンデンサの回路表現
コンデンサの回路表現
3-17
-
表回路に対する裏回路では過渡
過渡インピーダンス
過渡インピーダンス
1
と、これにさらに電流の
Cs
反対方向を正とする直流電源 v (0) / s(時間領域では v (0) ⋅ u (t ) 、u (t ) は単位ステ
ップ関数)が付け加わるのが特徴です。このように裏回路での受動回路素子は
とくに断らない限り過渡インピーダンスの形で表現しますが、必要がある場合,
過渡インピーダンスの場合: Z ( s ) =
1
Cs
過渡アドミッタンスの場合: Y ( s ) = Cs
として区別します。抵抗の場合と同様、(3.3.
(3.3.2
(3.3.2’) 式に従って I ( s ) を入力信号、
V ( s ) を出力信号とすると Fig. 3.3.4 の SFG が得られます。
Fig. 3.3.4 コンデンサの SFG
図では、コンデンサの初期電圧 v (0) (一定値)がラプラス変換形 v (0) / s で表
されています。
(3) コイル(インダクタンス:
L)
コイル
Fig. 3.3.5(a) の表回路のコイルに対してコンデンサと同様な手続きで裏回路
(同(b)
(b)図)が次のように導かれます。
(b)
i(t )
I (s)
L
Ls
Li (0)
-
v(t )
V (s)
(a) 表回路
(b) 裏回路
Fig. 3.3.5 コイルの回路表現
コイルの回路表現
3-18
+
表回路表現: v (t ) = L
di(t )
dt
(3.3.3)
裏回路表現: V ( s ) = Ls ⋅ I ( s ) − Li (0)
(3.3.3')
(b)図に示すように、この場合の過渡インピーダンスは Ls であり、これに直列
に電流方向にインパルス電圧 Li (0)(時間領域では Li (0) ⋅ δ (t ) 、δ (t ) は単位イン
パルス関数)が付加されています。
(3.3.3’) 式から Fig. 3.3.6 のように SFG が得られます。これに対して
Fig. 3.3.6 コイルの SFG
Fig. 3.3.7
3.3.7 コイルの SFG
(過渡インピーダンスとして)
(過渡アドミッタンスとして)
Fig. 3.3.6 で V(s)から I(s)へのアークの反転を行うと、Fig.3.3.7 のように過渡ア
ドミッタンス型として表現することもできます。これは Fig. 3.3.4 のコンデンサ
の SFG と同じ形になっています。
3.3.2 SFGにおける
SFGにおける線形
における線形アークの
線形アークの基本形
アークの基本形
以上、抵抗器、コンデンサ、コイルの回路要素の SFG は Fig. 3.3.2, Fig. 3.3.4,
Fig. 3.3.6 のよう導かれました。これらの図で、入力(電流)ノードから出力(電
圧)ノードへのアークのトランスミッタンスに注目すると次の3種類があるこ
とがわかります。
抵抗器 → 比例:R
コンデンサ → 積分:
1 1
⋅
C s
コイル → 微分: L ⋅ s
3-19
これらは信号間
信号間の
信号間の線形関係を
線形関係を数学的に
数学的に表す基本形ということができます。そ
基本形
してこのような関係は電気回路に限らず、広く物理現象で見出せるものです。
例えば、最も身近な場合としては直線運動での力と速度の関係として摩擦、質
量、バネ、回転運動でのトルクと回転速度の関係として回転摩擦、慣性モーメ
ント、ねじりバネも同様です。したがって、SFG は電気回路に限らず、より広
い範囲で原因結果の因果関係を表現できるツールとすることができます。
そこで、比例を表すアークを定数
定数アーク
積分アーク
定数アーク、積分を表すアークを積分
アーク
積分 アーク、
アーク
微分を表すアークを微
微分アークと呼ぶことにします。
アーク
Fig. 3.3.8 SFG の基本アーク
なお、Fig.
Fig. 3.3.8 には無駄時間
無駄時間アーク
z 変換が適用される離散値システ
無駄時間アークおおび
アーク
ムのための単位遅延
単位遅延アーク
単位遅延アークも基本アークとして挙げています。
アーク
ところで、通常、動的システムのシミュレーションでは演算精度を上げるた
め、モデリングでは純粋な微分アークは出来るだけ避けます。したがって、コ
ンデンサについてはインピーダンス表現、インダクタンスについてはアドミッ
タンス表現が望ましいということができます。
3.3.3 線形回路の
線形回路の SFG モデル作成手順
モデル作成手順
法則型方法により線形回路から SFG モデルを作成する手順は次のように纏め
ることができます。
3-20
(1) 全ての初期値を零と仮定して表回路から裏回路に変換する(これによっ
て初期値電源の付加が省略され裏回路から SFG への変換が簡単になる)。
(2) これに基づいて原型 SFG を得た後、パラメータ調整を行う場合を想定
して積分および微分アークは中継ノードを介して係数を分離表示する。
(3) 経路反転により、因果関係にもとづく SFG モデルを形成する。その際、
①積分アークの反転は行わない、②微分アークの反転を行う、ことを条件
とする。
(4) 積分アークの到着ノード信号に該当する初期値ノードを追加し、これを
トランスミッタンス1の定数アークを通して前記到着ノードへ接続する。
(5) 注目する出力信号のノードをシンクとして設定し SFG に含まれる変数
ノードと出力信号との線形関係に基づいて各変数ノードから定数アークを
通して上記シンクで出力信号を合成する。
以下、 Fig. 3.3.9
3.2.1で 示した法則型方法で SFG
3.3.9 の回路を適用例として3
モデルを求めてみます。なお、以下では、ラプラス変換された変数信号の文字
記号(例えば I R1 ( s ),VR1 ( s ) )は簡略化して小文字
iR1 , vR1 で記入することにし
ます。また、全ての初期値を零とします。
vR1
R1
iR1
E
s
①
iL
vR 3
vL
②
sL
R3 ③
iR 3
iR 2
c2
c1
R2
vR 2
ic
1
Cs
Fig. 3.3.9 解析対象の
解析対象の回路例
3-21
vc
vo
電流則:
電流則
節点①
iR1 − iL = 0
節点②
iL − iR 2 − iR 3 = 0 (2)
節点③
iR 3 − iC = 0
(1)
(3)
電圧則:
電圧則
閉路 c1
E − vR1 − vL − vR 2 = 0 (4)
閉路 c2
vR 2 − vR 3 − vC = 0 (5)
オーム則
オーム則:
vR1 = R1 ⋅ iR1
(6)
vL = Ls ⋅ iL
(7)
vR 2 = R2 ⋅ iR 2
(8)
vR 3 = R3 ⋅ iR 3
(9)
vC =
1
⋅ iR 2
Cs
(10)
《SFG モデル形成過程
モデル形成過程》
形成過程》
(1) 原型 SFG
上式から Fig. 3.3.10 の原型 SFG を形成します。
Fig. 3.3.10 原型 SFG
3-22
この例では、回路素子の各パラメータを
R1 = R2 = R3 = 1 [Ω]
L = 1 [H ]
C = 1 [F ]
とします。
(2) シンク/ソース間の経路反転 (Fig.
Fig. 3.3.11 参照)
Fig. 3.3.11 シンク/ソース間の経路反転
(i) “微分アークは反転して積分アークに変換し、積分アークは反転しない”
という拘束条件を与えると、必然的に Fig. 3.3.10 のアーク(vL, c1)と(iC,
③)が反転対象となり図のように反転する(以下、赤アークで表示)。
(ii)
この結果、①からの反転可能なアークは(iR1, ①)だけ残るのでこれを
反転対象とする(c1 と①を廻るループ形成に注目。システム内部での
因果関係が成立したことになる)。
(iii) 同様な考えで、②’から iR2 への反転、および、c2’から vR3 を経て iR3
までの反転を行う。後者の場合、抵抗 R3 はその逆数すなわちコンダク
タンス G3 とし、反転アークのトランスミッタンスとする。
(なお、②’から iR3 への反転、および、c2’から vR2 を経て iR3 まで
の反転を選択することも可能。
)
3-23
(3) ノードの消去(Fig.
Fig. 3.3.12 参照) VMM では定数アークのみ接続するノー
ドの消去は容易に実行できます。Fig. 3.3.11 でノード①’、②’、③’、c1’、c2’
は定数アークの中継ノードであり、
まずこれらを消去して Fig. 3.3.12 の SFG
モデルが得られます。
Fig. 3.3.12 Fig. 3.3.9 の SFG モデル(その一)
《SFG モデルのシミュレーション利用
モデルのシミュレーション利用》
利用》この段階で得られた結果は図からわ
かるように、回路中の各パラメータ、もしくはその逆数がそれぞれ独立に定数
アークのトランスミッタンスとして示されています。この SFG をどのようなシ
ミュレーションに利用するかは目的によって、このまま、あるいは変形を経る
ことになります。
(1) 周波数応答 VMM で用意されたソフトウエアを利用して、そのままソー
Fig. 3.3.13
3.3.13 回路の入力電源二端子から出力 Vo 二端子までの周波数応答
3-24
ス→シンクの周波数応答
周波数応答を
周波数応答 Fig. 3.3.13 のように求めることができます。
(2) 過渡応答
Fig. 3.3.12 の SFG からこれは代数方程式
代数方程式と
代数方程式と微分方程式の
微分方程式の混
合型(いわゆる代数微分方程式)になっていることがわかります。ここで
合型
は iR2, vR2, vR3, iR3 のノードを通る無遅延ループが存在するのでコンピ
ュータシミュレーションでは一般にはこの部分の代数方程式を解いた後
の処理になります。いま、Fig.
Fig. 3.3.12 からこの部分を Fig. 3.3.14(a)
3.3.14(a) の
ように抽出し、上述のノード群を消去すると同
同(b)図
(b)図のようになります。こ
れは Mason の公式によって求めることができますが、ここでは VMM に
よるノード消去メニューを用います。
(a) 代数方程式の部分
(b) (a)図の簡略化
Fig. 3.3.14 代数方程式部分の抽出のその簡略化
以上の結果、Fig.
Fig. 3.3.12
3.3.12 は下図の過渡応答計算可能な SFG モデルが得られま
す。Fig.
Fig. 3.3.16 はこれを用いたシミュレーション結果です。
Fig. 3.3.15 入力・状態・出力形式への変形
3-25
Fig. 3.3.16 出力電圧 Vo ,入力電流 iR1 の過渡応答
3.3.4 変成器とその
変成器とその SFG モデル
変成器(変圧器)は先に述べた回路素子と比較して、より電気工学に偏るか
もしれませんが、ここでは SFG を使うことで変成器の解析が容易にできること
を示します。さらに、ここで得られる概念を一般化し回路の変更や拡張を SFG
モデル上で直接に行う方法へ適用することができます
《変成器の
変成器の基本式と
基本式と裏回路》
裏回路》 Fig.3.3.17 に示すように一次コイル1と二次コイ
ル間の電磁的な結合(電磁誘導)を利用した二端子対の回路要素を変成器(電
力機器としては変圧器)と呼んでいます。一次側および二次側の電圧、電流を
それぞれ v1 、 i1 、 v2 、 i2 としその
その向
その向きを図
きを図の矢印のように定めます。またコイ
矢印
ルに付けられた
ふつう、コイルの巻き方の向き(ふ
i 印をコイルの極性
をコイルの極性とよび、
極性
つう、右巻き)に合わせます。このような条件で変成器には次のような関係式
が成り立ちます( M の前の符号に注意)
。
di1
di
−M 2
dt
dt
di
di
v2 = M 1 − L2 2
dt
dt
v1 = L1
(3.3.4)
(3.3.5)
3-26
ここで L1 、L2 はそれぞれ一次コイル、二次コイルの自己インダクタンス、n1、
n2 は一次コイル、二次コイルの巻き線数、 M をコイル間の相互インダクタン
スで、図のコイルの極性の場合、M の値は正値、逆の場合、負値となります。
•
i2
M
•
i1
v2
v1
L2
巻き数比 n1 : n2 = 1 : N
L1
Fig. 3.3.7 変成器
また、一方のコイルで発生した磁束が全て他方のコイルに鎖交する場合
M
L
= 2
L1 M
(3.3.6)
が成り立ちます。これを密結合と呼んでいます。また
k=
|M |
L1L2
(3.3.7)
を結合係数と呼んでいます。密結合の場合、 k = 1
となります。
(3.3.4),(3.3.5)式をラプラス変換すると次式になります。ただし、初期値を零
と仮定します。
I1 ( s)
I 2 ( s)
sL2
sL1
V2 ( s )
V1 ( s )
+
+
Ms ⋅ I 2 ( s)
Ms ⋅ I1 ( s )
-
-
Fig. 3.3.8 変成器の裏回路
3-27
V1 ( s ) = L1s ⋅ I1 ( s ) − Ms ⋅ I 2 ( s)
(3.3.4')
V2 ( s) = Ms ⋅ I1 ( s ) − L2 s ⋅ I 2 ( s )
(3.3.5')
これによって変成器の裏回路表現は Fig. 3.3.8 となります。
《変成器の
変成器の SFG モデル》
モデル》
(3.3.4’), (3.3.5’)両式に基づき直接、SFG を描くと Fig. 3.3.9(a)となります。
(c) (b)の簡略化 SFG
(a) 原型 SFG
(b) i1→v1 を v1→i1 に反転
(c)
(c) 変成器の SFG モデル
Fig. 3.3.9 原型 SFG とその変形過程
(a)
(a)密結合変成器 N : 巻数比(n2/n1)
(b)
(b) 理想変成器
Fig. 3.3.10
3.3.10 密結合変成器と理想変成器の SFG モデル
トランスミッタンスが零のアークは省略可
次に、一次側に電圧を印加することを入力と見なすために、(b)図のように v1
3-28
から i1 へ経路反転(赤線表示)を行い、これを(c)図のように整理します。なお、
図で k は結合係数を指します。
密結合変成器の場合、k = 1 となるので i2 から v2 への経路途中でトランス
ミッタンスが零となります。したがってこの図から次式が得られます。
v2 = N ⋅ v1
i1 = N ⋅ i2 +
(3.3.6)
1
⋅ v1 (3.3.7)
L1s
このように、密結合変成器では、二次電圧 v2 は一次電圧 v1 の N (巻き線比)
倍、一方、一次電流 i1 は二次電流 i2 の N 倍に励磁電流
1
⋅ v1 が付け加わります。
L1s
さらに、磁心の透磁率が無限大とすると Fig. 3.3.10
3.3.10 (a)で
(a) L1 が無限大になるので
Fig. 3.3.10 (b)のように
v1 から i1 への途中のトランスミッタンスが零となり
(b)
v2 = N ⋅ v1
(3.3.8)
i1 = N ⋅ i2
(3.3.9)
が成り立ちます。ここでは先の密結合変成器
密結合変成器と比較して一次コイル側に励磁電
密結合変成器
流がないことが分かります。また、上式は前にも述べたように
V2 ( s) = N ⋅ V1 ( s )
(3.3.8')
I1 ( s) = N ⋅ I 2 ( s)
(3.3.9')
を簡略したものですが、これらをラプラス逆変換して表回路で表現し直すと
v1 (t ) ⋅ i1 (t ) = v2 (t ) ⋅ i2 (t )
(3.3.10)
が成り立ちます。この関係式は、全ての時点で一次側から供給された瞬時電力
はすべて二次側から送り出され、従ってこの変成器での電力消費は零であるこ
とを意味します。このような変成器を理想変成器
理想変成器と呼んでいます。
理想変成器
3-29
1
:
N
Fig. 3.3.11 理想変成器の図記号
理想変成器は現実には存在しませんが、変成器の解析などに等価回路の一部
として利用されます。また機械系とのアナロジーとして歯車やてこがこれに相
当します。歯車の場合、一次歯車
一次歯車と
二次コイル
一次歯車と二次歯車の歯数の比が変成器の二次
二次歯車
二次コイル
と一次コイル
N に相当します。
一次コイルの巻き線数の比
コイル
《変成器を
変成器を含む簡単な
簡単な回路例》
回路例》
簡単な応用例として Fig. 3.3.12 のように先に述べた変成器の一次側に内部抵
抗 Rin を含む電圧源 ein を、また二次側に抵抗 RL の負荷を接続した回路の SFG モ
デルを作成します。
Rin
i1
+
•
M
•
i2
v2
v1
ein
RL
-
L1
L2
Fig. 3.3.12 負荷抵抗と電源が接続された変成器
既に求めた Fig. 3.3.9(c )を Fig. 3.3.13(a) のように少し変形し、その右側と左
側にそれぞれ Fig. 3.3.12 の負荷側および電源側の回路方程式
1
v2
R1
(1)
v1=ein − Rini1
(2)
i2 =
の SFG を付け加えることになります。その結果、Fig.
Fig. 3.3.13(b
3.3.13(b)
(b)が得られます。
3-30
(a) 変成器の SFG モデル
(b) 変成器と負荷および
電源の結合
Fig. 3.3.13 変成器を含む回路の SFG
上の結果を見て分かるように、Fig. 3.3.13(a)で見られる右端のノード対(ソ
ースとシンク)と左端のノード対(シンクとソース)によって SFG モデルが鎖
のように接続されています。これは2端子対回路に共通な性質に基づくもので
す。この性質を利用して線形回路の SFG モデル構築の実用的な手法を導いてみ
ます。
3.3.5 鎖型 SFG モデル
Fig. 3.3.13(b) の SFG を Fig. 3.3.14 のように書き換えると上で述べたことが
明確になります。
3-31
Fig. 3.3.14
すなわち、
Fig. 3.3.13 の変形(3個の SFG ブロックの鎖接続)
この SFG では二端子対回路に相当する三個のおなじ形の SFG
モデルが順に接続した形になっています。このモデルは左側に入力電圧をソー
ス、その結果としての入力電流をシンク、右側にはその結果としての出力電圧
をシンク、この出力電圧を外部に接続した場合に負荷効果としての流出電流を
ソースとする2端子対の形をしています。そして、入力としての電圧の因果関
係が左から右へ、これに対してリアクションとしての電流の因果関係が右から
左に伝わっています。これを一般式で表現すると次の式のように表現されます。
 v2   a12 −z22   v1 
 =
 
 i1   y11 a21   i2 
(3.3.11)
この式を Fig. 3.3.13(a
3.3.13(a)
(a)の変成器の SFG モデルに当てはめると
a12 =
M
L1
z22 = L2 s ⋅ (1 − k 2 )
(3.3.12)
(3.3.13)
y11 =
1
L1s
(3.3.14)
a21 =
M
L1
(3.3.15)
となります。ここで現れる行列はある種のハイブリッド行列になっていますが、
これは下記のような回路理論でよく用いられる縦続行列(K 行列)表現
3-32
 v1   A B   v2 
 =
 
 i1  C D   i2 
(3.3.16)
から次のようにして導びかれます。まず、これを Fig. 3.3.15(a)のように
SFG で
3.3.15(a)
表現し、このうえで同(b)図のように v1 → v2 の経路反転を行います。さらにこれ
に経路の短縮を行って、Fig. 3.3.16 (a)のハイブリッド行列表現が得られます。
(a) 縦続行列表現の SFG
(b) ノード v1, v2 間の経路反転
Fig.3.3.15
縦続行列表現の SFG から鎖型 SFG の導出過程
(a) 一般形(縦続行列パラメータ)
(b) 一般形(鎖型行列パラメータ)
(c) 受動回路( AD − BC = 1 が成立する。)
Fig.3.3.16
鎖型 SFG モデル
3-33
この構造の SFG モデルを鎖
鎖型 SFG モデル(chain-type
SFG models)1)
モデル
、
(3.3.11)式のハイブリッド行列を鎖型
鎖型行列
鎖型行列と呼ぶことにします。
行列
また、L,C,R, 変成器 など受動素子だけで構成される線形回路(受動回路)
では
AD − BC = 1
(3.3.17)
が成り立つことが知られています。この条件を使うと受動回路
受動回路のための
受動回路 のための鎖
のための 鎖 型
SFG モデル Fig. 3.3.16(b)
3.3.16(b) が得られます。
鎖型行列((3.3.11)式)と縦続行列(
(3.3.16)式)とを対比すると
a12 = 1/ A
(3.3.18)
z22 = B / A
(3.3.19)
y11 = C / A
(3.3.20)
a21 = D − BC / A (3.3.21) 一般線形回路
a21 = 1/ A
(3.3.21')
受動線形回路
の関係が得られます。とくに受動回路の場合、
a12 = a21
(3.3.22)
が成り立つという性質は重要です。一方、演算増幅器(オペアンプ)を含む能
動回路では電流のリアクションを零( a21 = 0 )とすることができます。
Table 3.3.1 は代表的な受動回路の鎖型(SFG)ユニットを表にしたものです。
表で Z, Y はそれぞれ過渡インピーダンス、過渡アドミッタンスを意味します。
また、Table
Table 3.3.2 は代表的な能動回路であるオペアンプ回路の鎖型ユニット
を表にしたものです。
後者の 鎖型ユニットでは i2 ノードからのリアクション経路が断絶されている
ところが特徴です。
1)この講座で回路の縦続接続との混同を避けるために用いた用語であり、正式の名称ではありま
せん。鎖型行列も同様です。
3-34
Table 3.3.1 基本二端子対回路と鎖型 SFG ユニット(受動回路)
i1
直路型
i2
Z
v1
v2
分路型
Y
逆Γ型
Z
Y
Γ型
Z
Y
M
変成器
•
•
L2
L1
1: N
理想
変成器
(無印アークのトランスミッタンスは“1”とする。
3-35
Table 3.3.2 基本二端子対回路と鎖型 SFG ユニット(オペアンプ回路;能動回路)
i1
反転
R2
R1
-
+
v1
増幅器
i1
C
R
積分器
-
+
v1
-
+
非反転
増幅器
v1
v2
v2
R1
v2
R2
註1:無印アークのトランスミッタンスは“1”とする。
註2:赤点線部は省略可。
3.2.2 でのべた因果型方法での SFG モデルの構成にはここで述べた鎖型 SFG
ユニットを利用することができます。また、既に構成されたシステムの SFG モ
デルの修正や拡張にも利用することができます。Fig. 3.3.14 は Table 3.3.1 を参
照すると一致が確かめられます。
《問題》
問題》Fig. 3.2.1 の回路の SFG モデルを Table 3.3.1 の鎖型ユニットを使って
求める。
《研究》
研究》オペアンプ回路の正確な SFG モデルを求め、これにオペアンプの特性
を考慮して Table 3.3.2 の結果を導くこと。
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