名古屋都市河川・堀川の堆積ヘドロのサウンディングと曝気浄化に関する研究 指導教員 前田健一 助教授 星博之 1.はじめに 名古屋市内を南北に縦断する堀川は、多くの都市河川と同じように、水質悪化、ヘドロの堆積などの環境問題 を抱えている。しかし、ヘドロの堆積状況などの調査が乏しく、堀川の水質・底質の改善は根本的な解決には至 っていない。 本研究では、堀川におけるヘドロの堆積状況を調査し、サンプリングした試料を用いて力学的特性を把握する ための室内試験を行うとともに、ヘドロ直接曝気による浄化効果の検証を行った。 深度(cm) 深度(cm) 2.ヘドロのゲル化について ヘドロは地盤工学の分野では粘性土として認識されているが、化学分野ではゲルとして認 識されている。ゲルの状態になると、高分子鎖が網目構造をつくる事で網目構造内に多量の 水分が保有できるため、分子量に比して膨大な水分量が物質内に存在する事になる。そうす ると、ヘドロがゲル化することにより、透水係数が低下し、一種の非排水状態になることで、 沈降圧密の堆積過程や地盤としての強度に影響が出ることが予想された。 そこで、堀川で現場調査を行うとともに、現地で試料としてサンプリングし、実験室に持 ち帰り各種室内試験を行い、その各結果について検討を行った。 図 -1 網 目 構 造 を 持つ高分子ゲル 3.堀川現場調査 3.1 堀川におけるヘドロの計測とサンプリング 調査の目的は、堀川におけるヘドロの堆積状況を把握することと、室内試験に用いるヘドロを採取することで ある。堀川における調査の項目は次のとおりである。 ⅰ)堆積厚の計測(レッド) 、ⅱ)コーン貫入試験(ポータブルコーン、RIコーン) 、ⅲ)試料のサンプリング 3.2 調査の実施結果 200 0 図-2 は松重閘門南側中央部におけるコーン試験結果であり、 松重閘門ヘドロ ヘドロ上層 朝日橋船着場ヘドロ 図中にレッド計測結果も合わせて示している。深度 2.5~2.8m は緩やかにコーン貫入抵抗値が増加している。その後、3.0m 前 ヘドロ中層 100 ヘドロ下層 後で急激に抵抗値が増加し、3.5m を過ぎると抵抗値が一定にな 300 っている。 図-3 は松重閘門での結果であるが、1.4~2.5m までは図-1 と 200 同じように徐々に増加しており、堆積ヘドロが沈降圧密過程に 則して堆積していることがわかる。2.6m 付近で先端抵抗が急激 400 に増加しているが、この地点では間隙比が 10 を越える値を示し 300 松重閘門南側中央 ていた。この測定最深部の挙動は、通常の沈降圧密過程では説 0 100 200 0 100 200 300 明できない部分であるが、この地点はゲル化しているのではな 2 先端抵抗qt(k/m ) qc(kN/m2) いかと考えられた。 図-2 松重閘門南側 図-3 RI コーン結果(qt) 6 合流点(撹拌) 合流点(ゲル状態) 4 朝日橋サンプリング e 4.室内試験及び考察 室内試験は、堀川現地調査で採取したヘドロを用いて、ⅰ)液性限界試験、 ⅱ)圧密試験、ⅲ)強熱減量試験、ⅳ)粒度試験を行い、その結果について検 証した。 図-4 に圧密試験結果を示す。主成分の違いによって、初期間隙比が大きく 異なる。一般に間隙比が高い試料ほど、圧密は進行し圧密指数 Cc が高い値を 示す。有機質ヘドロ、砂質系ヘドロはその理論に則した挙動を示している。し かし、堀川・新堀川合流点のヘドロ試料は有機質ヘドロと同様の圧密沈下が想 定される間隙比であるのに、砂質系ヘドロのように非常に小さい圧密沈下を起 こしている。 砂質系ヘドロ 2 0 0 10 101 102 p(kN/m2) 図-4 圧密試験結果 103 104 堀川・新堀川合流点のヘドロは有機物含有量が多いことが、液性限界試験、強熱減量試験から明らかになって いるため、この現象には有機物の水分保持が大きく影響していると思われる。 堀川・新堀川合流点ヘドロを攪拌すると、高い耐圧密性は失われ有機物ヘドロと同じような沈下挙動となった。 よって土質試験の結果からも想定以上の強度を発揮するヘドロの存在が確認された。現場調査結果と共通する 点は、有機物がヘドロ内に多く含まれていることである。現場調査で確認された層も有機物が多く含まれており、 この高い耐圧密性を発揮しているヘドロと同じ有機物によるゲル化により強度を発現すると推測された。 BOD(mg/g) 5.ヘドロ直接曝気浄化実験 5.1.目的 都市河川におけるヘドロ除去は浚渫などによって行われるが、浚渫されたヘドロは産業廃棄物となりその処理 に問題があるため、浚渫以外の他のヘドロ除去方法を検討する必要がある。そこで代替案としてヘドロを直接曝 気する方法が考えられた。地盤工学分野でのヘドロの処理は、浚渫後に焼成や固化処理が行われているが、一生 物化学分野では、曝気によるヘドロ浄化は有効なヘドロ浄化方法に成り得るとされている。 堀川の浄化対策の一環として、曝気浄化効果を検証する基礎実験を実施したので、その結果を報告する。 5.2 実験概要 曝気による浄化効果の大半は、微生物の働きによるものである。光をエネルギー源としない微生物は、有機物 を用いて発酵あるいは呼吸を行ってエネルギーを得ている。つまり曝気は、ヘドロを含む水中を好気化し、好気 性生物によって有機物を分解することである。 実験は曝気効果を確認するために、曝気(Aeration)及び攪拌(Stir)を行った 試料(以下、CASE-AS)と、比較のために容器に入れ放置した(Control)試料(以 下 CASE-CN)の 2 種類の試料を用いた。各試料を保管庫にて 20℃暗所の状況下 で 1 週間、曝気攪拌を行う(図-1)。その後、化学的指標や物理的指標の測定を行い 実験前後の変化を調べた。また、曝気期間を延長した試験や曝気の空気量を増加さ せたケースも行い、曝気期間の差異や空気量が及ぼす影響についても検討した。 図-5 試験瓶の様子 5.3 実験結果及び考察 20000 CN CASE-AS と CASE-CN の BOD 測定結果について図-2 に示す。CASE-CN(1week) の最大値は約 17500mg/g に対し、CASE-AS は約 8300mg/g となり、曝気により 10000 AS(1week) 最大値が約半分となった。また、表-1 に示す強熱減量試験結果では、CASE-CN AS(3week) の 23.2%に対し CASE-AS(1week)の 20.4%と約 3%減っている。この結果から、 0 ヘドロの中の有機物が分解され、減少していることが分かる。 AS(8week) 0 1 2 3 4 5 また図-2 の中に曝気期間を延長した結果も合わせて示している。AS(3week) 図-6 BOD 結果(曝気期間変化実験) t(day) は BOD 値が 3511mg/g、AS(8week)は 1296mg/g となった。これにより浄化効果 表-1 強熱減量試験結果 は、曝曝気期間に比例した結果となった。曝気期間の増加により、浄化効果が 強熱減量率(%) 高まることが確認されている。 CASE-CN 23.2 CASE-AS 20.4 5.4 模型水路実験 理想条件下では浄化効果を確認することが出来た。しかし一方、実際の河川では「流れ」が生じているため、 河川における曝気浄化の有効性を検証するために、 「流れ」を再現した模型水路実により検証した。 水路実験により、1)曝気による浄化効果が示された、2)細粒分が巻き上がることが予想されたが、凝集剤により 濁りを抑えることが出来た、3)細粒分に多くの有機物が含まれる、以上が判明した。 したがって実際の河川でも、曝気による浄化効果が見られるのではないかと考えられる。 6.総論 都市河川におけるヘドロの堆積は、水理学上や生物学上において問題となっているが、今回の堀川現地調査や 室内試験の結果から、地盤工学的な観点からも問題となることが確認された。堆積層は深層部でゲル化された状 態になっており、これが地盤の強度に影響を及ぼしており、堆積層が厚くなることや、沈降せずに上層部で浮遊 してしまうなど、悪循環の要因となっている。 今回、曝気による浄化効果の検証実験も行ったが、この曝気による浄化法や、模型水路実験で用いた凝集剤な ど、いくつかの浄化法を組み合わせることで、効率よくヘドロを浄化することが都市河川の環境を浄化・維持す る上で重要と考えている。
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