法 制 執 務 概 論

法
第1
1
制
執
務
概
論
法制執務
法制執務とは
法制執務とは、立法事務に関係する人が法令の立案に当たって心得ておくべき原則や技術の
ことをいう。
2
立法技術の必要性
法令は、簡易かつ正確なものであるとともに、住民に分かりやすいものでなければならない。
この二つの目的を達成するために、立法の内容及び立法上の表現・形式の両面にわたりいろい
ろな技術が要求される。
3
法制執務の重要性
法制執務は、単に立法事務に関係する人に必要だというだけでなく、法令を運用する職員や
住民にとってもその理解に役立つものである。
第2
1
政策法務
政策形成
(1)
「政策」とは
公共的な解決手法を必要としている課題とそれを実現し解決する手段の組合せ
(2)自治体の政策の変化
ア
全国画一的な量的整備事業(今までの中心的な政策)
・国からの縦割り政策の実行が中心
イ
地域独自の質的なまちづくり(今後求められる政策)
・地域特性に合ったオリジナルな政策
※背景
・農村型社会から都市型社会へ
・法律の三大欠陥・・・①全国画一性
→
①地域個性
②地域総合
②省庁縦割り性
③時代遅れ性
③地域先導
(3)政策形成過程:Plan−Do−Seeのサイクル
ア
Plan
・課題の発生・・・地域住民の多様なニーズ
・政策研究・・・課題の発見・調査分析・解決方策の開発・理論研究
・政策立案・・・政策案の策定
・政策決定・・・首長による決定、議会の議決
-1-
イ
Do
・政策執行・・・決定された政策の執行
ウ
See
・政策評価・・・行政内部、議会、地域住民の評価
2
政策と法務
(1)自治体と法
ア
法治主義
イ
法律による行政の原理
(2)政策形成と法務
政策を実行に移すときには、法的ルール化が不可欠
3
政策法務の立案過程
(1)立法課題の認知
立法課題・・・自治体の政策課題のうち、条例等により対応しうるもの
ア
政策目標の明確化
イ
現状分析
(ア)法制度分析
・現行制度の仕組みと運用、政策目標達成への貢献度合いなど
(イ)組織分析
・担当職員の人数・能力、人件費・経費、事務処理システムなど
(ウ)環境分析
・当該法制度・運用に関わる自治体行政組織を取り巻く諸環境など
(エ)失敗分析
・今までなぜ改善できなかったのかの原因分析など
(2)立法課題の洗い出し
認知した立法課題に係る法的対応の有無、優先項目の順序づけの方針決定
→立法上の目標設定
(3)立法事実の確定
ア
立法事実とは
立法の基礎にあってその合理性を支える社会的・経済的・文化的な一般的事実
イ
立法事実論の重要性
・法律との抵触が問題となる条例の制定については、自治体としての立法事実を条例に即
して深化させていくことが重要
→条例制定法務、条例運用法務、訴訟法務の各場面
ウ
立法事実の確定
立法上の目標達成のために用いようとする法的手法・手段に対する必要性・合理性のテ
ストを経て確定
(ア)必要性のテスト
・規制による住民の不利益と規制によって実現する住民の利益との比較
・現行法制度の不備と住民ニーズの整備
-2-
(イ)合理性のテスト
・各法的手段によって達成されうる内容と規制による不利益とを比較し、立法上の目標
を達成する手段・手法のうち規制が最も弱いものを基調とする。
‥‥許可制、届出制、登録制等の選択など
エ
立法事実の記録
自律・規制型条例で法律との抵触が論点となるものについては、次の項目について立法
事実の文書による要約化が必要
(ア)政策目標の設定・明確化とその必要性・妥当性
(イ)現行法制度の仕組みと、それでは政策目標を達成できないこととその理由
(ウ)新条例の立法上の目標と設定理由
(エ)新条例の主要な内容とその法的手法・手段選定の理由
(オ)各種データ
(4)法形式の選択・条文化
条例で定めるべき事項、規則で定めるべき事項
・執行機関(自治体の長)に白紙委任することはできるだけ避けるべき。
住民にとって読みやすく、理解しやすい文章を心がける。
第3
★
自治立法
地方分権に係る地方自治法等の改正
「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」が平成11年7月に公布さ
れ、地方自治法をはじめとした関係法律の改正が行われ、平成12年4月1日から施行された。
これは、地方分権推進法に基づく地方分権推進委員会の勧告を踏まえて閣議決定された「地
方分権推進計画」に基づくものである。
地方自治法の改正では、国と地方公共団体との関係について、地方自治の本旨を基本とする
対等・協力の新しい関係を築くため、機関委任事務制度の廃止等が行われた。
1
総
説
(1)憲法における地方自治の保障
憲法は、「地方自治」の章(第92条∼第95条)を設け、地方自治を保障した。
その一つとして、第94条で「法律の範囲内で条例を制定することができる」と定め、地
方公共団体に自治立法権を保障している。
この「条例」には、地方公共団体の長が定める規則も含まれると解されている。
【憲法第94条】
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、
律の範囲内で条例を制定することができる。
-3-
(2)自治立法の法形式
ア
条
例
(地方自治法第14条第1項)
地方公共団体がその議会の議決を経て制定する条例
イ
地方公共団体の規則
(地方自治法第15条第1項)
地方公共団体の長がその権限に属する事項について制定する規則
ウ
地方公共団体の規則以外の地方公共団体の機関が定める規則
(地方自治法第138条の4第2項
等)
地方公共団体の執行機関たる委員会がその権限に属する事務について制定する規則そ
の他の規程
2
条
例、教育委員会規則、公安委員会規則、人事委員会規則
など
例
(1)条例の意義
条例は、地方公共団体のその自治立法権の発動として制定するものであって、国がその
統治権の発動として制定するものではない(法律が政府や府・省令にその機関として規定
すべき事項を委任するのと性質を異にする)
。
(2)条例の制定範囲
ア
条例の所管事項
条例の所管事項は、当該地方公共団体の事務である。分権一括法による地方自治法の
改正により地方公共団体の事務は平成 12 年4月1日から次のように変わった。
◎改正前
【条例制定が可能】
★公共事務(固有事務)→
★団体委任事務
→
【条例制定が不可】
地方自治の本旨に照らし地方公共団体の本来の存立目的と
★機関委任事務
認められる事務及び地方公共団体の存立自体に必要な事務
知事や市町村長が、国(都道府
本来国又は他の地方公共団体の事務であるもので、法律又
県)の行政組織として行う事務
は法律に基づく政令により地方公共団体に属する事務
★行政事務
→
公共事務(固有事務)及び団体委任事務のほか、その区域内におけるその他
の行政事務で国の事務に属しない事務。住民の福祉に対する侵害を防止し、
又は排除するために、住民の権利を制限したり、住民に義務を課したりする
ことを内容とする権力的作用に属する事務
◎改正後
自治体に存続する事務
【条例制定が可能】
★自治事務
※地方自治法2条
2項及び8項
自治体に存続しない事務
【条例制定が可能】
★法定受託事務
【条例制定が不可】
★国の直接執行事務
※地方自治法2条9項1号(第一号法定
受託事務)及び2号(第二号同)
-4-
又は
★事務自体の廃止
【条例で定めなければならないもの:地方自治法第14条第2項の改正】
◎改正前
◎改正後
★行政事務
(法律に特別の定めがないもの)
★「義務を課す」
「権利を制限する」
→
(法律に特別の定めがない場合)
「普通地方公共団体は、行政事務の処
理に関しては、法令に特別の定めがあ
「普通地方公共団体は、義務を課し、又
→
は権利を制限するには、法令に特別の定
るものを除く外、条例でこれを定めな
めがある場合を除くほか、条例によらな
ければならない。」
ければならない。」
イ
条例の所管事項の限界
(ア)憲法との関係(基本的人権)
条例による規制の限界は、公共の福祉による限界に帰することで法律の場合と異な
らない。公共の福祉のためであれば、条例で基本的人権に制約を加えることも可能で
ある(他の基本的人権との矛盾・衝突を調整する必要があるため)
。
a
財産権との関係(憲法第29条)
昭和38年6月26日最高裁判決(奈良県ため池条例違反事件)
「この条例は、ため池の堤とうを使用する財産上の権利の行使を著しく制限するものであ
が、それは公共の福祉のための社会生活上のやむを得ないものであって、憲法の保障する
産権の行使のらち外にあるものであるから、条例でこれを制限しても憲法に抵触しない。
」
b
法の下の平等(憲法第14条)
昭和60年10月23日最高裁判決(福岡県青少年保護育成条例違反事件)
「地方公共団体が青少年に対する淫行につき規制上格別に条例を制定する結果その取扱い
差異を生じることがあっても憲法第14条の規定に違反するものでない。
」
(憲法が各地方公共団体の条例制定権を認める以上、地域によって差別を生ずることは当
に予期されることであるから、かかる差別は憲法みずから容認するところであると解すべき
(→最判昭33.10.15参照)
)
c
職業選択の自由(憲法第22条第1項)
平成元年1月20日最高裁判決(大阪府公衆浴場法施行条例違反事件)
「公衆浴場法2条2項による適正配置規制の目的は、国民保健及び環境衛生の確保にある
ともに、・・・・既存公衆浴場業者の経営の安定を図ることにより、自家風呂を持たない国民
とって必要不可欠な厚生施設である公衆浴場自体を確保しようとすることも、その目的と
ているものと解されるのであり、前記適正配置規制は右目的を達成するための必要かつ合
的な範囲内の手段と考えられる。
」とし、憲法に抵触しないと判断
-5-
d
表現の自由(憲法第21条)
平成7年3月7日最高裁判決(泉佐野市民会館条例違反事件)
「市民会館の使用を許可してはならない事由として市条例の定める「公の秩序をみだすお
それがある場合」とは、右会館における集会の自由を保障することの重要性よりも、右会館
で集会が開かれることによって、人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわ
れる危険を回避し、防止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解すべきで
あり、その危険性の程度としては、単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足
りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要であり、そう解する
限り、このような規制は、憲法第21条に違反しない。
」
(イ)国の法令との関係
a
条例が法令に違反するかどうかの基準
昭和50年9月10日最高裁判決(徳島市公安条例違反事件)
「条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく
それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによっ
てこれを決しなければならない。例えば、ある事項について国の法令中にこれを規律する明
文の規定がない場合でも、当該法令全体の趣旨からみて、右規定の欠如が特に当該事項につ
いていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であると解されるときは、こ
れについて規律を設ける条例の規制は国の法令に違反することとなりうるし、逆に、特定事
項についてこれを規律する国の法令と条例が併存する場合でも、後者が前者とは別の目的に
基づく規律を意図するものであり、その適用によって前者の規定の意図する目的効果をなん
ら阻害することがないときや、両者が同一の目的に出たものであっても、国の法令が必ずし
もその規定によって全国的に一律に同一内容の規律を施す趣旨ではなく、それぞれの地方公
共団体において、その地方の実情に応じて、別段の規制を施すことを容認する趣旨であると
解されるときは、国の法令と条例との間にはなんらの矛盾抵触はなく、条例が国の法令に違
反する問題は生じえない。
」
昭和53年12月21日最高裁(高知市普通河川等管理条例違反事件)
「河川の管理について一般的な定めをした法律として河川法が存在すること、しかも同法
の適用も準用もない普通河川であっても、同法の定めるところと同程度の河川管理を行う必
要が生じたときは、いつでも適用河川又は準用河川として指定することにより同法の適用又
は準用の対象とする途が開かれていることにかんがみると、河川法は、普通河川については
適用河川又は準用河川に対する管理以上に強力な河川管理は施さない趣旨であると解される
から、普通地方公共団体が条例をもって普通河川の管理に関する定めをするについても(普
通地方公共団体がこのような定めをすることができることは、地方自治法2条2項、同条3
項2号、14条1項により明らかである。
)、河川法が適用河川等について定めるところ以上
に強力な河川管理の定めをすることは、同法に違反し、許されない。
」
-6-
(a)条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比する
のみでなく、 それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾
抵触があるかどうかによってこれを決しなければならない。
(b)条例で制定しようとする事項について国の法令に明文の規定がない場合
一般的には、国の法令との抵触関係は生じないと考えられるので、その事項が
地方公共団体の事務である限り、地方公共団体の自主的判断で条例を制定するこ
とができる。しかし、国の法令に規定がない理由が当該事項についてはいかなる
規制をも許さないという趣旨であるときには、条例による規定が国の法令に違反
することとなり得る。
・
「横出し条例」
国の法令において定める規制の対象とならない事項について規制を定める
条例である。その規制事務が地方公共団体の事務である限り、原則として条
例制定は可能である。
(c)特定事項を規律する国の法令と条例が併存する場合
ⅰ
条例の目的が国の法令と異なる場合
条例が国の法令と別の目的に基づく規律を意図するものであり、その適用に
よって国の法令の規定の意図する目的と効果を阻害することがないときは、国
の法令と条例との間には矛盾抵触はなく、条例は、国の法令に違反しない。
ⅱ
条例の目的が国の法令と同一の場合
国の法令と条例が同一の目的に出たものであっても、国の法令が必ずしもそ
の規定によって全国的に一律に同一内容の規律を施す趣旨ではなく、それぞれ
の地方公共団体において、その地方の実情に応じて、別段の規制を施すことを
容認する趣旨であると解されるときは、国の法令と条例との間にはなんらの矛
盾抵触はなく、条例は、国の法令に違反しない。
・
「上乗せ条例」
当該法律が、規制事項の性質と人権保障とに照らして、当面における立法
的規制の最大限までを規定していると解される法律(最大限規制法律)であ
る場合には、これを越えて規制しようとする条例は法律に違反することにな
ると解される。
(ウ)規則との関係
条例が議会の議決を経て制定される自治立法であるのに対し、規則は地方公共団体
の長が定める自治立法であり、両者は全く別個の立法形式であるから、いずれかが優
位というような関係ではない。
そもそも何が条例で規定すべき事項で、何が規則で規定すべき事項であるかについ
ては、いろいろな考え方があるが、地方自治法改正前の行政事務や公の施設の設置管
理などは、条例で定めることとされている条例の専属的所管事項であり、地方自治法
改正前の機関委任事務は、規則の専属的所管事項であった。
なお、機関委任事務に係る手数料については、規則において定められてきたが、機
関委任事務制度の廃止に伴い、地方公共団体の判断により条例で定められることとな
った。
-7-
(エ)都道府県条例と市町村条例との関係
都道府県条例と市町村条例とは、地方自治法改正前の固有事務及び委任事務につい
ては、規制の対象を異にし、相互に矛盾するということではないので、その形式的効
力の優劣の問題は生じない。
しかし、地方自治法改正前の行政事務については、規律する対象を同じくすること
があることから矛盾抵触する場合があり、その場合には、都道府県の条例が市町村の
条例に優先するものとされていた(改正前地方自治法第14条第4項)。
しかしながら、地方自治法の改正により都道府県と市町村が対等・協力の関係にな
ることから、当該規定は地方自治法から削除された。
また、地方自治法改正前の行政事務について一市町村のみが行政事務条例を制定し
てもその実効性が不十分であり、また、同一事務について個々の市町村ごとに規制の
態様が異なることがあれば住民の権利義務に関する権力的作用を営む以上好ましくな
い場合においては、都道府県は、市町村の行政事務について条例で必要な規定を設け
ることができた(「統制条例」改正前地方自治法第14条第3項)。しかしながら、
この規定についても地方自治法から削除された。
3
規
則
(1)規則の意義
普通地方公共団体の長は、法令に違反しない限り、普通地方公共団体の長の権限に属す
る事務に関して規則を制定することができる。
(2)規則の制定範囲
規則をもって規定することができるのは、長の権限に属する事務(改正後地方自治法第
148条)についてである。
ア
自治事務
地方公共団体が処理する事務のうち、法定受託事務を除いたもの
イ
法定受託事務
国(都道府県)が本来果たすべき役割に係る事務であって、国(都道府県)において
その適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に
定めるもの
ウ
権利義務規制
・法律又は条例による委任がある場合
・庁舎管理規則のように地方公共団体の長の庁舎管理権等に基づき私人に対する行為制
限が認められる場合
4
条例及び規則以外の法形式
(1)委員会の規則その他の規則・規程
・教育委員会規則、人事委員会規則、選挙管理委員会の規程、収用委員会の規程
(2)議会の規則
・会議規則(地方自治法第120条)
・傍聴人の取締りに関する規則(地方自治法第130条第3項)
-8-
など
(3)企業管理規程(地方公営企業法第10条)
-9-