幽霊写像

幽霊写像
1. 幽霊写像とは
ここでは、特に断らない限りすべての空間は基点を持ち、すべての
写像およびホモトピーは基点を保つものとする。基点は普通 ∗ で表さ
れる。また、空間はすべて CW 複体のホモトピ ー型を持つと仮定す
る。この仮定は、弱ホモトピー同値からホモトピー同値を導くために
必要である。
定義 1.1A. CW 複体 X から空間 Y への写像 f : X → Y が幽霊写
像であるとは 、f を X の各 n 切片 skn (X) に制限することにより得
られる写像 f|skn (X) : skn (X) → Y が零ホモトープであることをいう。
この定義によれば 、もし CW 複体 X が有限次元なら 、幽霊写像は
自明なものしか存在しない。したがって、幽霊写像を問題にするとき
は、必然的にド メイン空間 X が無限次元であるときを考えている。し
かし 、ターゲット空間 Y は無限次元である必要はない。上の定義から
明らかなように幽霊写像 f : X → Y の誘導する写像
f∗ : π∗(X) → π∗(Y ),
f∗ : H∗ (X) → H∗ (Y ),
···
などなどはすべて自明なものとなる。
Y の n 次 Postnikov 近似、つまり、Y の n + 1 次元以上のホモト
ピー群を消した空間を Y (n) と表し 、pn : Y → Y (n) を標準的な写像と
する。このとき、 f : X → Y が幽霊写像であるという条件は、合成
pn f : X → Y → Y (n)
がすべての n に対して、零ホモトープであるという条件に等しいこと
が 、以下に示す定理によって分かる。従って、一般のド メイン空間 X
に対しては 、この条件でもって、写像 f : X → Y が幽霊写像であると
定義する。
定理 1.2. CW 複体 X について、f : X → Y が幽霊写像である必
要十分条件は、合成 pn f : X → Y → Y (n) がすべての n に対して、零
ホモトープであることである。
1
証明. Y (n) の n + 1 次元以上のホモトピー群が消えていることから、
障害理論より自然な写像から誘導される次の写像
[X, Y (n) ] → [skn+1 (X), Y (n) ]
は全単射でる。従って 、幽霊写像 f : X → Y に対して、合成 pn f :
X → Y → Y (n) は零ホモトープである。
また、Y (n) は Y に n + 2 次元以上のセルを張り付けて得られるか
ら、自然な写像から誘導される次の写像
[skn (X), Y ] → [skn (X), Y (n) ]
は全単射でる。従って、pn f : X → Y → Y (n) が零ホモトープである
ならば 、 f|skn (X) : skn (X) → Y も零ホモトープである。
幽霊写像として次の定義を用いる人がいるので 、文献を読む場合は
注意が必要である。
定義 1.1B. 空間 X から空間 Y への写像 f : X → Y が幽霊写像で
あるとは、任意の有限複体 K と任意の写像 g : K → Y に対して合成
fg : K → Y が零ホモトープであることをいう。
定義 1.1A の意味における幽霊写像は、定義 1.1B の意味における幽
霊写像であるが 、その逆は必ずしも正し くない。しかし 、ド メイン空
間 X が CW 複体で各 n 切片が有限複体(このような CW 複体を有限
型の CW 複体という)であるときは 、逆が成り立ち、普通我々が取り
扱う空間に関しては両者の概念が一致するので問題は生じないと思う。
注意. f : X → Y を幽霊写像とするとき、f を 0 切片 sk0 (X) に制
限しても零ホモトープだから、f(X) は Y の1つの連結成分に含まれ
ている。従って、幽霊写像を考える限りにおいてはターゲット空間 Y
は連結であると仮定しても一般性を失うことがないので 、今後そのよ
うに仮定する。
2. 幽霊写像の lim1 表現
次の基点つき集合の間の短完全列が存在することが知られている( [2],
p.254-255)。
1
∗ → lim
←− [Σskn (X), Y ] → [X, Y ] → lim
←− [skn (X), Y ] → ∗,
1
(n)
(n)
∗ → lim
←− [X, ΩY ] → [X, Y ] → lim
←− [X, Y ] → ∗.
ただし 、第1の完全列において X は CW 複体である。また、ΩY (n) =
Ω(Y (n) ) であると約束する。また、基点付き集合の間の写像の列
f
g
A→B→C
2
が完全であるとは、f(A) = g −1 (∗) が成り立つことを言う。Ph(X, Y )
によって X から Y への幽霊写像のホモトピー類の作る基点つき集合
を表せば 、上の完全列より、基点つき集合として全単射
1
1
(n)
∼
Ph(X, Y ) ∼
= lim
←− [Σskn (X), Y ] = lim
←− [X, ΩY ]
が存在することが分かる。従って、ホモトピー論を展開する前に、lim1
についていろいろと知っておく必要がある。この説の目的は lim1 の定
義と基本的な性質、易しい具体例を述べることである。
1
lim
←− は逆極限を表し 、lim
←− はその第1次導来函手を表すが 、それは
以下のように定義される。集合とその間の写像からなる逆系
π
π
π
n
S1 ←1 S2 ←2 · · · ← Sn ←
···
に対して、
lim
←− Sn = {(sn ) ∈
Sn | sn = πn (sn+1 ) for all n}
と定義される。しかし 、その第1次導来函手は群とその間の順同型写
像からなる逆系に対してしか定義されない。
π
π
πn+1
π
n
G1 ←1 G2 ←2 · · · ← Gn ←
Gn+1 ← · · ·
を群の逆系とするとき、群
Gn は集合
Gn へ次の左作用
(gn ) · (xn ) = (gn xn (πn (gn+1 ))−1 )
を誘導するが 、この作用を用いて
1
lim
←− Gn =
Gn /action
1
と定義する。ここで注意することは 、lim
←− Gn は一般には単に基点つき
集合でしかない事である。しかし 、各 Gn がアーベル群のときは 、そ
れはアーベル群の構造を持つ。
すでに述べた次の基本的な定理の証明から始める。
定理 2.1. 次の基点つき集合の間の短完全列が存在する。
1
∗ → lim
←− [Σskn (X), Y ] → [X, Y ] → lim
←− [skn (X), Y ] → ∗,
1
(n)
(n)
∗ → lim
←− [X, ΩY ] → [X, Y ] → lim
←− [X, Y ] → ∗.
ただし 、第1の完全列において X は CW 複体である。
証明. まず、homotopy equalizer の定義を思い出す。f, g : X → Y
の homotopy equalizer とは 、次の図式で定義される pullback ファ イ
3
ブレーションの全空間 E = E(f, g) である。
ΩY
⏐
⏐
ΩY
⏐
⏐
E −−−→
⏐
⏐e
YI
⏐
⏐(j
0 ,j1 )
(f,g)
X −−−→ Y × Y
ただし 、j0 , j1 : Y I → Y は道の始点と終点を対応させる写像である。
そして、次の図式は homotopy pullback である。
e
E −−−→ X
⏐
⏐
⏐g
⏐e
f
X −−−→ Y
ここで、ファイブレーション ΩY → Y I → Y × Y における π1(Y × Y )
の π0(ΩY ) への作用を見ておく。π1 (Y × Y ) の元 ( 1 , 2 ) と π0(ΩY ) の
元 に対し て、 を始点とし て ( 1 , 2 ) のリフトを Y I の中に作る。
2
q
✻
q
✲q
✻
✲q
1
上の図より、右の下から上に行く道が ( 1 ,
ら、求める作用は
( 1, 2) · =
2
∗ ∗
2)
の
への作用であるか
−1
1
によって与えられる。
homotopy equalizer と双対な概念とし て、homotopy coequalizer が
ある。f, g : X → Y の homotopy coequalizer C = C(f, g) とは 、
X ∧I + ∪f,g Y である。つまり、X ∧I + の X × {0} を f により、X × {1}
を g により Y に同一視して得られる空間である。このとき、任意の
空間 Z に対して map∗ (C, Z) は f ∗ , g ∗ : map∗ (Y, Z) → map∗ (X, Z) の
homotopy equalizer である。この事実は後ほど 用いられる。実際、次
の図式が homotopy pullback であることは 、簡単に示すことができる。
4
map∗(C, Z) −−−→
⏐
⏐
map∗(X ∧ I + , Z) = map∗ (X, Z)I
⏐
⏐
(f ∨g)∗
map∗ (Y, Z) −−−→ map∗(X ∨ X, Z) = map∗ (X, Z) × map∗ (X, Z)
注意. 基点付き位相空間 X 、Y に対して map∗ (X, Y ) によって X
から Y への基点を保つ連続写像からなる集合を表し 、コンパクト開位
相と呼ばれる次のような位相を与えて位相空間とする。X の任意のコ
ンパクト集合 C と Y の任意の開集合 U に対して、
W (C, U) = {f ∈ map∗(X, Y ) | f(C) ⊂ U}
と定義し 、これらの全体を開集合の準基底とする位相をコンパクト開
位相と言う。
以上の準備の元に次の補題を示す。
補題 2.2. X を次の列のホモトピー逆極限とする。
pn
· · · → Xn+1 → Xn → · · · → X−1 = ∗
このとき、すべての i ≥ 0 に対して自然な次の短完全列が存在する。
1
∗ → lim
←− πi+1 (Xn ) → πi (X) → lim
←− πi (Xn ) → ∗.
pn
証明. 列 · · · → Xn+1 → Xn → · · · → X−1 = ∗ のホモトピー逆極限
は、Y = Xn と置くとき、写像 p = pn : Y → Y と id : Y → Y の
homotopy equlizer として定義される。従って、次のファイブレーショ
ンからなる可換図式が存在する。
ΩY
ΩY
⏐
⏐
⏐
⏐
X −−−→
⏐
⏐e
(p,id)
YI
⏐
⏐(j
0 ,j1 )
Y −−−→ Y × Y
全射 π0 (X) → lim
←− π0(Xn ) は明らかで、その核が π0(ΩY ) = π0(ΩXn )
の π1 (Y ) = π1 (Xn ) の作用による商集合で与えられる。その作用は
ファイブレーション ΩY → Y I → Y ×Y における π1(Y ×Y ) の π0(ΩY )
5
への作用の引き戻しだから、補題を述べる前に見たことより、この作
1
用は lim
←− を定義する際の作用と同じである。これで i = 0 のときの証
明は終わった。i > 0 のときも同じように証明できる。または 、列
pn
· · · → map∗ (S i , Xn+1 ) → map∗ (S i , Xn ) → · · · → map∗ (S i , X−1 ) = ∗
のホモトピー逆極限が 、map∗ (S i, X) に等しいことと 、今示した i = 0
のときの結果を使ってもよい。
定理 2.1 の証明の続き. 自然な写像から誘導される写像の列
· · · → map∗(skn+1 (X), Y ) → map∗ (skn (X), Y ) → · · · → map∗ (∗, Y ) = ∗,
· · · → map∗ (X, Y (n+1) ) → map∗ (X, Y (n) ) → · · · → map∗(X, ∗) = ∗
のホモトピー逆極限が両方とも map∗ (X, Y ) にホモトピー同値である
ことを示せば 、定理は補題 2.2 から導かれる。前者に関しては 、in :
Xn → Xn+1 を自然な包含写像とするとき、次の可換図式
id
skn (X) −−−→
⏐
⏐Ï i
n
i
skn (X) −−−→
skn (X)
⏐
⏐
i
X
がホモトピー pushout だから、つまり、X が id : skn (X) → skn (X)
と in : skn (X) → skn (X) の homotopy coequalizer であるから、
map∗ (X, Y )
⏐
⏐∗
i
map∗(
i∗
−−−→ map∗ ( skn (X), Y )
⏐
⏐ (Ï i )∗
n
skn (X), Y )
map∗ ( skn (X), Y )
がホモトピー pullback になることから分かる。
後者に関しては 、補題 2.2 より列 · · · → Y (n+1) → Y (n) → · · · → ∗
のホモトピー逆極限が Y にホモトピー同値であることが分かるので求
める結果を得る。
次の定理はアーベル群の時にはよく知られた定義である。一般の場
合も証明は計算だけである。
定理 2.3. 群の逆系の短完全系列
1 → {Hn } → {Gn } → {Kn } → 1
に対して、基点つき集合の完全系列
i
j
δ
i
j
1
1
1
∗ → lim
←− Hn → lim
←− Gn → lim
←− Kn → lim
←− Hn → lim
←− Gn → lim
←− Kn → ∗
6
が存在する。
証明. 群の完全系列の間の写像を、in : Hn → Gn , jn : Gn → Kn
とおく。また、逆系 {Hn }, {Gn }, {Kn } の構造写像は、すべて πn で
表す。
次の列が完全であることは、簡単なので省略する。
∗ → lim
←− Hn → lim
←− Gn → lim
←− Kn
さて、lim
←− Kn における完全性を証明するために 、
1
δ : lim
←− Kn → lim
←− Hn
を定義する。(kn ) ∈ lim
←− Kn に対して、各 n に対して jn (gn ) = kn とな
−1
る元 gn ∈ Gn を選ぶ。gn πn (gn+1
) ∈ Hn より
−1
δ((kn )) = [(gn πn (gn+1
))]
1
と定義する。この定義が元 gn の取り方によらず定まることは、lim
←− Hn
の定義より簡単に示される。また、δ◦j が自明な写像であることも簡単で
1
−1
))] = ∗ であると仮定する。lim
ある。さて、δ((kn )) = [(gn πn (gn+1
←− Hn の
−1
) = hn πn (h−1
定義より (hn ) ∈ Hn で gn πn (gn+1
n+1 ) となるものが存在す
−1
−1
る。これは、gn hn = πn (gn+1 hn+1 ) を意味し、jn (gn h−1
n ) = jn (gn ) = kn
1
−1
である。よって、(kn ) = j((gn hn )) である。これで、lim
←− Hn における
完全性が示された。
1
つぎに、lim
←− Hn における完全性を証明する。i ◦ δ が自明な写像に
1
なることは明らか。i ([(hn )]) = ∗ であると仮定すると 、lim
←− Gn の定
−1
Gn で in (hn ) = gn πn (gn+1
) となるものが 存在する。
義より (gn ) ∈
そこで、kn = jn (gn ) とおくと、πn (kn+1 ) = kn であること分かり、元
1
(kn ) ∈ lim
←−Kn を定める。また、δ((kn )) = [(hn )] であるから、lim
←− Hn
における完全性が示された。
残りの部分の完全性も同様に簡単に示されるので 、定理の証明を終
わる。
上の定理において、{Gn } や {Kn } が群の構造を持たない場合でも、
1
lim
←− が定義される所までの完全列は存在し 、時に非常に有効である。
以下そのような補題を2つ述べるが証明は計算だけであるので省略す
1
る。lim
←− が消える1つの十分条件は、逆系が Mittag-Leffler 条件を満
たすことであるが 、その証明はあとで行うことにして、補題を述べる
ために定義だけを先に与えておく。
定義. 集合の逆系 S = {S1 ← S2 ← S3 ← · · · } が Mittag-Leffler 条
(m)
件を満たすとは 、Sn = Image[Sn ← Sm ] と定義するとき各 n に対し
7
て集合の減少列
Sn = Sn(n) ⊃ Sn(n+1) ⊃ · · · ⊃ Sn(m) ⊃ Sn(m+1) ⊃ · · ·
が有限減少条件を満たす(ある番号から先が等しくなる)ことをいう。
π
π
πn
補題 2.4. 群の逆系 G1 ←1 G2 ←2 · · · ← Gn ← · · · と Gn の部分群
Hn で πn (Hn+1 ) ⊂ Hn となるものが与えられたと仮定する。このとき、
基点つき集合の完全系列
δ
1
1
∗ → lim
←− Hn → lim
←− Gn → lim
←− Gn /Hn → lim
←− Hn → lim
←− Gn
と群 lim
lim
←− Gn の集合 lim
←− Gn /Hn への作用が存在し、写像 δ : ←
− Gn /Hn →
1
lim
←− Hn のファイバーはこの作用による軌道である。さらに、集合の逆
1
系 {Gn /Hn } が Mittag-Leffler 条件を満たすならば 、写像 lim
←− Hn →
1
lim
←− Gn は全射である。
補題 2.5. 群の逆系 {Gn } と集合の逆系 {Xn } が与えられ 、各群 Gn
が各集合 Xn に自由に作用し 、その作用は構造写像と可換であると仮
定する。このとき、次の基点付きの集合の完全列が存在する。 1
∗ → lim
←− Gn → lim
←− Xn → lim
←− Gn \Xn → lim
←− Gn
さらに、集合の逆系 {Xn } が Mittag-Leffler 条件を満たすならば 、写
1
像 lim
←− Gn \Xn → lim
←− Gn は全射である。
また、逆系 {Gn } と {Gn \Xn } が Mittag-Leffler 条件を満たすなら
ば 、逆系 {Xn } も Mittag-Leffler 条件を満たす。
定理 2.6. ([18]) 群の逆系 {Gn } が Mittag-Leffler 条件を満たすとき、
1
lim
←− Gn = ∗ である。さらに、もしすべての群 Gn が可算群ならば 、逆
1
も成り立つ。また、すべての群 Gn が可算群で lim
←− Gn = ∗ ならば 、そ
れは非可算集合である。
定理 2.6 の証明. 定理の前半部分はよく知られた定理で、例えば 、日
本語で書かれたものとしては荒木 [1] の 212 頁にアーベル群の場合に証
明がある。その証明は一般の群に対してもそのまま通用する。従って、
後半の部分だけを証明する。つまり、群の逆系 {Gn } が Mittag-Leffler
1
条件を満たさなければ 、lim
←− Gn は非可算集合であることを示す( 以下
の証明を、McGibbon- Mφller [18] の元の証明と比べてみれば 、補題
2.4 の有効性がよく分かる)
。
群の逆系 {Gn } が Mittag-Leffler 条件を満たさないから、ある整数
m があって
Hn = Im(Gn → Gm ) ⊂ Gm
8
と定義するとき、無限個の異なる Hn が存在する。共終性を考慮すれ
ば 、m = 1 と仮定して一般性を失うことがない。このとき、群の逆系
の全射 {Gn } → {Hn } は集合の全射
1
1
lim
←− Gn → lim
←− Hn
1
を誘導するから、lim
←− Hn が非可算集合であることを示せばよい。ここ
で、H = H1 とおいて逆系の完全列
1 → {Hn } → {H} → {H/Hn } → 1
1
に補題 2.4 を適用すれば 、次の完全列を得る。もちろん 、lim
←− H = ∗
を用いた。
1
H → lim
←− H/Hn → lim
←− Hn → ∗
H は可算集合で lim
←− H/Hn は非可算集合だから求める結果を得る。
定理 2.6 の重要性は、可算群からなる逆系 {Gn } が与えられたとき、
1
lim
←− Gn = ∗ を示すのに 、それが Mittag-Leffler 条件を満たすことを
1
示せばよく、また、lim
←− Gn = ∗ ならばそれが Mittag-Leffler 条件を満
たすということである。Mittag-Leffler 条件は各 Gn の群構造によらな
い。つまり、群の構造を必要があれば変えても良いということである。
群の逆系 {Gn } で Mittag-Leffler 条件を満たすものとして、よく出
てくる例を挙げる。
(1) 各写像が全射である逆系。
(2) 各群が有限群である逆系。
(3) 有限次元ベクトル空間と線形写像からなる逆系。
これらの応用として、幽霊写像が消える十分条件をいくつか見てお
く。次の定理の(1)、
(2)、
(5)は空間 X, Y が有限型でなくても成
り立つ。ターゲット空間 Y が有限型であるとは 、すべてのホモトピー
。
群 πi (Y ) が有限生成であることである( Y は連結と仮定している)
命題 2.7. 有限型の CW 複体 X と有限型の空間 Y が次のいずれか
の条件を満たすとき、Ph(X, Y ) = ∗ である。
(1) X の次元が有限である。
(2) Y が Postnikov 空間、つまり、ある自然数 N が存在して、πn (Y ) =
0 for n ≥ N が成り立つ。
(3) Y のホモトピー群がすべて有限群である。
(4) H ∗ (X; Q) が自明である。
(5) ΣX ∨α Xα . ただし 、Xα はすべて有限次元の CW 複体である。
9
証明. (1) と (2) が十分条件になるのは明らか。(3) については 、
すべての n に対して、[Σskn (X), Y ] が有限群であることから分かる。
(4) については 、同様にすべての n に対して、[X, ΩY (n) ] が有限群で
あることより分かる。最後に (5) を示す。逆系 {[Σskn (X), Y ]} が逆系
{[∨dim Xα ≤n Xα , Y ]} と同値であり、後者の逆系において構造写像はすべ
て全射でることから、特に逆系 {[Σskn (X), Y ]} が Mittag-Leffler 条件
を満たすことが分かり、求める結果を得る。
例. 上の命題 2.7 の条件 (5) を満たすものとして、ΩΣK は代表的な
例である。ただし 、K は有限複体である。実際、ΣΩΣK ΣK ∨ ΣK ∧
K ∨ · · · となることはよく知られたことである。
1
Mittag-Leffler 条件を満たさないが 、lim
←− が消える重要な例は
命題 2.8. {Gn , πn } を各群がコンパクトかつハウスド ルフな位相群
の構造を持ち、各構造写像が連続な準同型写像である逆系とするとき、
1
lim
←− Gn = ∗ である。
証明. (xn ) を
Gn の任意の元とし 、(∗n ) を各群の単位元からなる
元とするとき、 (xn ) と (∗n ) が
Gn の作用に関して同じ軌道に属し
ていることを示せばよい。つまり、 Gn の元 (gn ) で各 n = 1, 2, 3, · · ·
に対して
gn · xn · πn (gn+1 )−1 = ∗n ,
つまり、
gn = πn (gn+1 ) · x−1
n
となるものを見つければよい。そこで 、fn : Gn+1 → Gn を fn (x) =
πn (x)x−1
n によって定義するとき、逆系 {Gn , fn } の逆極限が空集合で
ないことを示せばよい。
(∞)
(m)
さて、逆系 {Gn , fn } について考察する。Gn = ∩m Gn と定義す
るとき、各 Gn はコンパクトハウスドルフな位相空間で構造写像が連
(∞)
続より、Gn は空でない Gn の閉集合である。このとき、逆系
(∞) f1
G1
(∞) f2
← G2
(∞) f3
← G3
← ···
は、以下に示すように各構造写像が全射である逆系となり、その逆極
限は空集合ではないことが分かる。
(∞)
Gn の任意の元 yn をとれば 、定義より自然数 m に対して Gn+m の
元 yn+m で yn = fnm (yn+m) となるものが存在する。ただし 、
fnm = fn fn+1 · · · fn+m−1 : Gn+m → Gn
10
m−1
である。Gn+1 の点列 {fn+1
(yn+m )} は Gn+1 がコンパクトより収束
ik −1
する部分点列 {fn+1 (yn+ik )} を持つ。その極限を zn+1 とするとき 、
(∞)
ik
fn (zn+1 ) = −
lim
→ fn (yn+ik ) = yn であり、同様の議論から zn+1 が Gn+1
の元でもあることが分かる。 次に具体例を1つ取り上げたいが 、その前によく知られた記号を定
義しておく。素数 p に対して
n
∈ Q | (m, p) = 1},
m
2
3
Z∧p = ←
lim
−{Z/p ← Z/p ← Z/p ← · · · } ⊂
Z(p) = {
Z/pn .
n
また、
ˆ=
Z
all primes
Z∧p ∼
= lim
←−{Z/2! ← Z/3! ← Z/4! ← · · · }
ˆ がコンパクトかつハウスドルフなアー
と定義する。これより Z∧p と Z
ベル位相群であることが分かる。これを用いると、Mittag-Leffler 条件
1
を満たさないが 、lim
←− が消える逆系の例が簡単に作れる。次の逆系が
その例である。
p
p
p
Z∧p ← Z∧p ← Z∧p ← · · ·
さて、最も簡単と思われる群の逆系は
n
n
n
Z ←1 Z ←2 Z ←3 Z · · ·
であろう。形式的に
ni = ±
pkp
all primes
と定義する。各 kp は無限大の値をとることも許す。この逆系が Mittagni が有限の値をとるときであるが 、この
Leffler 条件を満たすのは
1
∼
ときは lim
Z
Z
で
lim
Z
=
0 である。そうでないときの構造を知る
=
←−
←−
11
ために次の逆系の短完全系列を考える。
0 −−−→ Z −−−→
⏐n
⏐ 1
ˆ −−−→ Z/Z
ˆ
Z
−−−→ 0
⏐n
⏐n
⏐ 1
⏐ 1
0 −−−→ Z −−−→
⏐n
⏐ 2
ˆ −−−→ Z/Z
ˆ
Z
−−−→ 0
⏐n
⏐n
⏐ 2
⏐ 2
0 −−−→ Z −−−→
⏐n3
⏐
..
.
ˆ −−−→ Z/Z
ˆ
Z
−−−→ 0
⏐n3
⏐n3
⏐
⏐
..
..
.
.
仮定から lim
←− Z = 0 である。また中央の列はコンパクトかつハウスド
1ˆ
ルフな位相群とその間の連続準同型写像からなる逆系より lim
←− Z = 0
ˆ が Q 加群の構造を持つ。これは、任意の素数 p に
である。また、Z/Z
ˆ
ˆ が全単射であることが 、簡単
→ Z/Z
対して、p を掛ける写像 p : Z/Z
ˆ
ˆ
→ Z/Z
な計算から分かるからである。従って、各 i について ni : Z/Z
が同型写像であることに注意すれば 、定理 2.3 より次の短完全系列を
得る。
1
ˆ
ˆ
0 → lim
←− Z → Z/Z → lim
←− Z → 0
Z(p) は Z∧p の部分加群であり、特に、p 以外の素数は Z∧p において可逆
である。この事実を使えば 、
ˆ
lim
←− Z =
pkp Z∧p
{p | kp <∞}
であることが分かり、これより次の同型を得る。
∼
lim
←− Z =
1
∧
{p | kp =∞} Zp
×
{p | kp <∞}
Z/pkp
Z
1
さらなる lim
←− の持つ性質を見る前に、1966 年に B. Gray によって
見いだされた幽霊写像の具体例を見ておく。
定理 2.9. Ph(CP ∞ , S 3 ) = ∗
証明. Ph(CP ∞ , S 3) を求めるのに次の同型を用いる。
1
n
3 ∼
1
n
3
Ph(CP ∞ , S 3) ∼
= lim
←− [ΣCP , S ] = lim
←− [CP , ΩS ]
12
各ホモトピー群 Gn = [CP n, ΩS 3 ] はアーベル群の構造を持つが 、それ
を有理化すると同型
[CP n , ΩS 3](0) ∼
= [CP n, K(Q, 2)] ∼
= H 2 (CP n ; Q) ∼
=Q
が存在するから、[CP n , ΩS 3 ] ∼
= Z ⊕ Tn であることが分かる。ここに 、
Tn は有限アーベル群を表す。逆系 {Gn } は次の短完全列
0 → {Tn } → {Gn } → {Z} → 0
1
1
∼
を誘導するが、Tn が有限群より lim
←− Tn = 0 である。従って、lim
←− Gn =
1
lim
←− Z である。そこで逆系 {Z} を、前と同じく
n
n
n
Z ←1 Z ←2 Z ←3 Z · · ·
と書き、同じく形式的に
ni = ±
pkp
all primes
と定義する。このとき、すべての素数 p について kp > 0 であること
が、Steenrod reduced power operation を使うことによって簡単に示せ
る。または次のように示しても良い。任意の写像 f : CP n → ΩS 3 に
対して、それが誘導する整係数コホモロジー群の写像
f ∗ : H ∗ (ΩS 3 ; Z) → H ∗ (CP n ; Z) ∼
= Z[x]/(xn+1)
を 考える 。s ∈ H 2 (ΩS 3 ; Z) を 生 成元とすれば 、H 2k (ΩS 3 ; Z) は
k
H ∗ (ΩS 3 ; Q) = Q[s] の部分群として、 sk! で生成されている。したが っ
て、f ∗ (s) = mx とすれば 、
mn n
sn
)=
x ∈ Z[x]/(xn+1 )
n!
n!
だから、mn /n! は整数でなければならない。従って、m は n 以下の素
数をすべて因子として含まなければならない。
f ∗(
ˆ
注意. Ph(CP ∞ , S 3) の群構造は具体的に分かっていて、それは Z/Z
に等しい。つまり、上の証明中の記号でいえば 、すべての素数 p に対
して kp = ∞ であるが 、これは Miller による Sullivan 予想の解決ま
ˆ
で待たなければならなかった。Ph(CP ∞ , S 3) ∼
を示したのは 、
= Z/Z
Zabrodsky [36] である。これについては McGibbon [16] を参照。
3. lim1 と局所化
1
前節で用いた方法を用いて、有限生成巾零群のなす逆系の lim
←− と
1
その有限生成巾零群を素数で局所化した逆系の lim
←− の関係を調べる。
まず、巾零群の定義から始める。
13
群 G の部分群の列
G = Γ0 G ⊃ Γ1 G ⊃ · · · ⊃ Γi G ⊃ · · ·
を、Γ0 G = G, Γi G = [G, Γi−1 G] for i ≥ 1 と帰納的に定義する。この
列を G の降中心列を言う。もし Γr G = 1 となる r が存在するとき、G
を巾零群という。
次に巾零群に対して、素数 p での局所化と完備化を定義したいが、こ
こでは、有限生成巾零群の圏から巾零群の圏への局所化函手 ( )(p)(また
は、有限生成巾零群の圏からコンパクトかつハウスドルフな位相を持つ
巾零群と連続な準同型写像の作る圏への完備化函手 ( )∧p )が存在して、
次の性質を持つものと仮定して議論を進める。詳しくは、Bousfied-Kan
[2] および下の注意を参照。
(1) 完全函手である。
(2) 有限生成アーベル 群 A に対し て、A(p) = A ⊗ Z(p) ( または 、
A∧p = A ⊗ Z∧p )である。
注意. 巾零群 G の完備化については次のように定義することがで
きる。
G∧p ∼
= lim
←− α G/Gα .
ただし 、Gα は G の正規部分群で G/Gα が p 巾となるものすべてを渡
る。局所化については
G(p) = {x ∈ G∧p | xn ∈ G for some n ∈ Z}
と定義することができる。
さて、巾零群 G に対して、
ˇ=
G
G(p)
all primes
と定義し 、G の局所拡大( local expansion )という。また、
ˇ=
e:G→G
G(p)
all primes
を、e と p 番目への射影の合成が局所化写像 G → G(p) であるような
写像とする。
ˇ はG
ˇ の
注意. (1) 巾零群 G とその( 正規)部分群 H に対して H
ˇ は単射である。
( 正規)部分群であり、e : G → G
証明. H が正規部分群なら 、短完全列 1 → H → G → G/H → 1 と
ˇ → 1 を得る。つ
ˇ →G
ˇ → G/H
局所化の完全性より、短完全列 1 → H
14
ˇがG
ˇ の正規部分群である事が分かる。一般の部分群について
まり、H
は、正規鎖を使えば 正規部分群の場合に帰着できる。
ˇ は単射である事を示す。G がアーベル群のときは
次に、e : G → G
明らか。一般の巾零群に対しては、中心拡大
1 → Γc G/Γc+1 G → G/Γc+1 G → G/Γc G → 1
ˇ c G) が単射であることが示され
を用いて、帰納的に e : G/Γc G → (G/Γ
ˇ は単射である。
る。十分大きな c に対して、Γc G = 1 より e : G → G
ˇ である。
( 2)巾零群 G とその部分群 H に対して、H = G ∩ H
証明. H が正規部分群ならば 、次の短完全列からなる可換図式より
明らか。
1 −−−→ H −−−→ G −−−→ G/H −−−→ 1
⏐
⏐
⏐
⏐
⏐
⏐
ˇ −−−→ 1
ˇ −−−→ G
ˇ −−−→ G/H
1 −−−→ H
一般の部分群については、再び正規鎖を使えば正規部分群の場合に帰
着できる。
( 3)以上のことは、完備化についても成り立つ。
以下では特に断らない限り、「巾零群」とは「有限生成巾零群」を
意味するものとする。
巾零群からなる逆系 {Gn } は自然な写像
1
1ˇ
e∗ : lim
←− Gn → lim
←− Gn
を誘導するが 、これが全射であることは古くから知られているが [31] 、
さらに次の定理が成り立つ。
1
定理 3.1. ([10]) 巾零群からなる逆系 {Gn } に対して、もし lim
←− Gn =
1
1 ˇ
∗ ならば 、e∗ : lim
←− Gn → lim
←− Gn は無限対1被覆である。
1
−1
注意. 上の定理おいて s lim
←− Gn = e∗ (∗) は可算無限のこともあれ
ば 、非可算のときもある。すでに考察した逆系
n
n
n
Z ←1 Z ←2 Z ←3 Z · · ·
の場合、同様の計算から
1ˇ ∼
lim
←− Z =
Z∧p /Z(p)
{p | kp =∞}
15
であることが分かり、従って、
∼
s lim
←− Z =
1
{p | kp =∞} Z(p)
×
{p | kp <∞}
Z/pkp
Z
であることが 分かる。上の群が 可算群である必要十分条件は 、集合
{p | kp > 0} 、つまり、{p | p|ni for some i} が有限集合である事であ
る。
この定理の証明を行う前に、この定理の幾何学的な意味を見ておき
1
たい。幽霊写像の lim
←− 表現
1
(n)
Ph(X, Y ) ∼
= lim
←− [X, ΩY ]
を使うためには、逆系 [X, ΩY (n) ] が上の定理の仮定を満たすことを確
かめておく必要がある。
π1
π1
命題 3.2. X と Y を連結な有限型の空間とする。G1 ← G2 ← · · ·
によって、逆系 [X, ΩY (n) ] を表すとすれば 、
(1) 各 Gn は有限生成の巾零群である。
(2) πn の核は、Gn+1 の中心に含まれる。
(3) πn の余核は有限アーベル群である。
注意. McGibbon は上の命題を証明するのに、空間が巾零空間である
ことを仮定しているがその必要はない。Whitehead [34] p.464 にあるよ
うに、X が連結な有限次元複体で Y を任意の空間とするとき、[X, ΩY ]
は巾零群になる。もちろん、上の命題においては同型
[X, ΩY (n) ] ∼
= [skn (X), ΩY (n) ]
を用いる。
これで定理 3.1 が適用できるのが分かった。巾零空間 Y に対しても
同じように、
Y(p)
Yˇ =
all primes
と
e : Y → Yˇ =
Y(p)
all primes
を定義すれば 、
e∗ : Ph(X, Y ) → Ph(X, Yˇ )
を誘導するが 、
SPh(X, Y ) = e−1
∗ (∗)
16
と定義し 、SPh(X, Y ) の元を特別な幽霊写像という。これは、X のす
べての切片に制限しても、すべての素数で局所化しても自明となるよ
1
うな写像である。定理 3.1 は幽霊写像の lim
←− 表現を使えば 、次の定理
を導く。
定理 3.3. ([10]) X, Y は連結な有限型の空間とする。もし 、Y が巾
零空間で Ph(X, Y ) = ∗ ならば
e∗ : Ph(X, Y ) → Ph(X, Yˇ ) = Ph(X,
Y(p) )
all primes
は、無限対1被覆である。とくに、SPh(X, Y ) は無限集合である。
定理 3.1 を証明するついでに、次の定理を証明するのに必要な代数
の定理も証明する。
定理 3.4. この定理においてはすべての空間は 、連結な有限型の空
間であると仮定する。ただし 、局所化が必要なところは、空間 Y が巾
零であることを仮定する。
( 1)写像 f : X → X が全射 f ∗ : H ∗ (X ; Q) → H ∗ (X; Q) を誘導
すれば 、
f ∗ : Ph(X , Y ) → Ph(X, Y ),
f ∗ : SPh(X , Y ) → SPh(X, Y )
はともに全射である。
( 2)写像 g : Y → Y が全射 g∗ : π∗ (Y ) ⊗ Q → π∗ (Y ) ⊗ Q を誘導
すれば 、
g∗ : Ph(X, Y ) → Ph(X, Y ),
g∗ : SPh(X, Y ) → SPh(X, Y ),
はともに全射である。
この定理からも分かるように、幽霊写像の研究において有理ホモト
ピー理論は重要な手段ではあるが 、有理ホモトピー理論では問題にな
らなかった写像の向きが問題となる。自明でない写像 f : S 3 → K(Z, 3)
は同型 f ∗ : H ∗ (K(Z, 3); Q) → H ∗ (S 3; Q) を誘導し 、
ˇ → Ph(S 3 , S 4) = ∗
f ∗ : Ph(K(Z, 3), S 4 ) ∼
= Z/Z
は全射であるが、全単射ではない。そして、逆向きの写像 K(Z, 3) → S 3
は自明なものしか存在しない。
17
4. 定理 3.1 の証明
1
1 ˇ
まず、Steiner [31] に従って、e∗ : lim
←− Gn → lim
←− Gn が全射である
ことを見ておく。
1
1 ˇ
命題 4.1. e∗ : lim
←− Gn → lim
←− Gn は全射である。
証明. 補題 2.4 を完全列
1 → Gn → Gˇn → Gˇn /Gn → 1
に適用すれば 、逆系 {Gˇn /Gn } が Mittag-Leffler 条件を満たすことを示
せば 証明が終わる。
ˇ
さて、各 Gn がアーベル群のときは 、Gˇn /Gn ∼
であり、
= Gn ⊗ Z/Z
ˇ
Gn が有限生成アーベル群で Z/Z が Q 加群の構造を持つから上のこと
は明らかである。
一般に、巾零群からなる短完全列 1 → K → G → H → 1 は、集合
の完全列
ˇ
ˇ
ˇ
∗ → K/K
→ G/G
→ H/H
→∗
ˇ もG
ˇ の中心に含
を導く。さらに K が G の中心に含まれるとき、K
ˇ
まれることが知られている。このことを使うと、このとき K/K
が集
ˇ
ˇ
合 G/G
に自由に作用しその商集合が H/H
であることが分かる。中
心拡大
1 → Γc Gn /Γc+1 Gn → Gn /Γc+1 Gn → Gn /Γc Gn → 1
と補題 2.5 を用いて帰納的に、逆系 {Hˇn /Hn } が Mittag-Leffler 条件
を満たすことが分かる。ただし 、Hn = Gn /Γc Gn である。各 n に対し
て十分大きな c をとれば 、Gn = Gn /Γc Gn より、結局、逆系 {Gˇn /Gn }
が Mittag-Leffler 条件を満たすことが分かる。
定理 3.1 をまずアーベル群の場合に証明する。この場合は McGibbon
[14] によって解決されている。そのためにまず、次の Jensen の公式を
導く。
命題 4.2. ([12]) {An } を有限生成アーベル群からなる逆系とすると
き、次の同型が存在する。
1
∼
lim
←− An = Ext(lim
−→ Hom(An , Z), Z)
証明. まず、各 An が自由ア−ベル群であると仮定して良いことを
示す。Tn を An の torsion 部分群とすれば 、短完全列
{Tn } → {An } → {An /Tn }
18
1
の lim
←− − lim
←− 完全列より、完全列
1
1
1
lim
←− Tn → lim
←− An → lim
←− An /Tn → 0
1
1
∼
を得るが、Tn は有限群より lim
←− Tn = 0 である。従って、同型 lim
←− An =
1
lim
←− An /Tn を得る。
また、明らかに Hom(An /Tn , Z) ∼
= Hom(An , Z) より、同型
∼
Ext(lim
−→ Hom(An , Z), Z) = Ext(lim
−→ Hom(An /Tn , Z), Z)
が存在する。この2つの同型より、各 An は自由ア−ベル群であると
仮定して良い。
逆系の短完全列
j
i
{An } → {Bn } → {Cn }
(1)
を次のように構成する。Bn =
i≤n
Ai = An ⊕ Bn−1 で構造写像 Bn →
i
Bn−1 は An 上では、写像 An → An−1 → Bn−1 と一致し 、Bn−1 上では
1
恒等写像である。特に、構造写像 Bn → Bn−1 は全射より、lim
←− Bn = 0
1
である。上の短完全列の lim
←− − lim
←− 完全列より
(2)
j∗
i∗
1
0 → lim
←− An → lim
←− Bn → lim
←− Cn → lim
←− An → 0
を得る。
次は、Hom( , Z) = ( )∗ を上の短完全列(1)に適用して、帰納的極
限をとれば 、各群は自由アーベル群と仮定しているから次の短完全列
を得る。
(3)
∗
∗
∗
0 ← lim
−→ An ← lim
−→ Bn ← lim
−→ Cn ← 0.
∗ ∼
lim
−→ Bn = ⊕An であることは簡単に分かり、それは自由アーベル群であ
る。さらに、D によって A, B または C を表すことにすれば 、Dn は
有限ランクの自由アーベル群より、自然な同型
∗
∼
Hom(lim
−→ Dn , Z) = lim
←− Dn
が存在する。従って、短完全列( 3)に Hom − Ext 完全系列を適用し
∗
て、lim
−→ Bn が自由アーベル群であることに注意すれば 、次の完全列を
得る。
(4)
j∗
∗
∗
0 → lim
←− An → lim
←− Bn → lim
←− Cn → Ext(lim
−→ An , Z) → 0
i
以上より、2つの完全列(2)と(4)を比較することによって、求め
る同型写像を得る。
19
上の証明から各素数 p に対して、次の可換図式が存在することが分
かる。
∗
Ext(lim
A∗ , Z) −−−→ Ext(lim
−→
−→⏐An , Z(p) )
⏐ n
⏐∼
⏐∼
=
1
lim
←− An
=
−−−→
1
lim
←− (An )(p)
従って、次の命題を証明すれば 、アーベル群の場合は証明できたこ
とになる。
ˇ の誘
命題 4.3. A を可算なねじれのないアーベル群とする。Z → Z
導する写像
ˇ ∼
Ext(A, Z) → Ext(A, Z)
=
Ext(A, Z(p) )
p
は常に全射で、Ext(A, Z) が自明でない限り、その核は自明でない整除
可能なアーベル群である。
証明. 短完全列
ˇ → Z/Z
ˇ
0→Z→Z
→0
が導く Hom − Ext 完全系列
e∗
ˇ
ˇ → Ext(A, Z/Z)
ˇ
Hom(A, Z/Z)
→ Ext(A, Z) → Ext(A, Z)
ˇ が Q-加群の構造を持つので 0 である。よっ
を考えれば、最後の群は Z/Z
ˇ は全射である。e∗ の核は Hom(A, Z/Z)
ˇ
て、e∗ : Ext(A, Z) → Ext(A, Z)
の像でそれは Q-加群の構造を持つので 、核が自明でないことを証明す
ればよい。
A は可算でねじれがないから、Stein の定理より同型
A∼
=B⊕F
が存在する。ここに、F は自由アーベル群で Hom(B, Z) = 0 である。
( Stein の定理の証明は簡単である。もし 、Hom(A, Z) = 0 であれば 、
全射 A → Z が存在するということで 、これを用いて A ∼
= B1 ⊕ Z と
分解できる。次に 、Hom(B1 , Z) = 0 であれば 、B1 について同じ様な
分解が存在する。これをどんどん行えばよいが 、きりがないので Zorn
ˇ =0よ
の補題などを使って処理すればよい。)Ext(F, Z) = Ext(F, Z)
20
り、次の可換図式が存在する。
ˇ
Ext(A, Z) −−−→ Ext(A, Z)
e∗
⏐
⏐
⏐∼
⏐∼
=
=
ˇ
Ext(B, Z) −−−→ Ext(B, Z)
e∗
従って、ker(e∗) = 0 であるための必要十分条件は ker(e∗) = 0 である。
そこで 、ker(e∗ ) = 0 であると仮定すれば 、Hom(B, ) − Ext(B, ) 完全
系列の次の部分
ˇ → Hom(B, Z/Z)
ˇ
Hom(B, Z) → Hom(B, Z)
→ Ext(B, Z)
において、最初の群は 0 で、最後の写像の像は仮定より 0 である。つ
まり、同型
ˇ ∼
ˇ
Hom(B, Z(p) ) ∼
= Hom(B, Z)
= Hom(B, Z/Z)
p
が存在するが 、後の群が Q-加群の構造を持つから、 p Hom(B, Z(p) )
も Q-加群の構造を持つことになる。各素数 p について Hom(B, Z(p) )
が Q-加群の構造を持つから、B は Q-加群の構造を持たなければなら
ない。ところが 、このことは
ˇ ∼
ˇ
Hom(B, Z)
=0
= Hom(B, Z/Z)
を意味する。しかし 、これは B = 0 でなければ起こり得ない。つまり、
ker(e∗) = 0 であるならば、Ext(A, Z) ∼
= Ext(B ⊕F, Z) ∼
= Ext(B, Z) = 0
となることが示され 、定理の証明が完成した。
アーベル群の場合を用いて、定理 3.1 の一般の場合を証明したいが 、
1
そのために、lim
←− Gn の他の表現を用いる。
巾零群の逆系 {Gn } は逆系の短完全列
ˆ n } → {G
ˆ n /Gn } → 1
1 → {Gn } → {G
1 ˆ
を導くが 、これに補題 2.4 を適用すれば 、lim
←− Gn = ∗ より、次の完全
列を得る。
1
ˆ
ˆ
1 → lim
←− Gn → lim
←− Gn → lim
←− Gn /Gn → lim
←− Gn → ∗.
これより、基点付き集合としての全単射
1
∼
ˆ
ˆ
lim
←− Gn \ lim
←− Gn = lim
←− Gn /Gn
1
を得る。これが lim
←− Gn の逆極限を用いた表現である。これを用いて
ˆ
ˆ
ˆ
ˆ ˇ
e∗ : lim
←− Gn \ lim
←− Gn /Gn → lim
←− Gn \ lim
←− Gn /Gn
21
が 、無限対1被覆であることを示せばよい。全射であることはすでに
見た。
ˆ
ˆ ˇ
ˆ
ˆ ˇ
e∗ : lim
←− Gn /Gn → lim
←− Gn /Gn と定義し 、lim
←− Gn \ lim
←− Gn /Gn の元
ˆ
[e∗(x)] 、ただし 、x = (xn Gn ) ∈ lim
←− Gn /Gn 、に対して、次の自然な全
単射が存在するをまず示す。
−1
∼
ˇ −1
ˇ −1
e−1
∗ ([e∗ (x)]) = lim
←− xn Gn xn \ lim
←− xn Gn xn /xn Gn xn .
ˆ
y = (yn Gn ) ∈ lim
←− Gn /Gn について、e∗(y) = e∗(x) となったとする。
ˇ n = xn G
ˇ n より yn ∈ xn G
ˇ n である。従って、全単射
yn G
−1
−1
ˇ −1
lim
←− xn Gn xn /xn Gn xn → e∗ (x)
は 、(ξ · xn Gn x−1
n ) → (ξxn Gn ) によって与えられる。また、[e∗ (y)] =
ˆ
ˇ
[e∗(x)] ならば 、(gn ) ∈ lim
←− Gn で gn yn ∈ xn Gn となるものが 存在す
ˇ n xn であることが分かり、求める全単射が得
る。これより、gn ∈ xn G
られた。
さて、次の図式は可換である。
Gn+1 −−−→ xn+1 Gn+1 x−1
⏐
⏐ n+1
⏐π
⏐πn
n
xn Gn x−1
n
Gn −−−→
ただし 、πn : Gn+1 → Gn は πn (xn+1 ) = xn gn とするとき、πn (x) =
gn πn (x)gn−1 によって与えられる。従って、逆系 {xn Gn x−1
n , πn } は、逆
系 {Gn , πn } に同型である。
写像 Gn (hn ) → (hn gn−1 ) ∈ Gn は、集合 Gn から集合 Gn
1
への作用と可換な全単射なので、これは lim
←− の全単射を導く。従って、
1
−1
1
条件 lim
←− xn Gn xn = ∗ と条件 lim
←− Gn = ∗ とは同値な条件である。以
上より、e−1
∗ ([e∗ (x)]) が無限集合であることを示すには次の命題を示せ
ばよいことが分かる。
命題 4.4. ([10]) {Gn } を有限生成な巾零群からなる逆系とする。も
1
し 、lim
←− Gn = ∗ ならば 、
1
ˇ
ˇ
s lim
lim
←− Gn = ←
− Gn \ lim
←− Gn /Gn
は、無限集合である。
上の命題を示すのにさらに補題が必要である。
補題 4.5. ([20]) {Gn } を可算な巾零群の逆系とする。このとき、
1
1
lim
←− Gn = ∗ である必要十分条件は、lim
←− Ab(Gn ) = ∗ である。
22
1
証明. lim
←− − lim
←− 完全列を
0 → Γ2 Gn → Gn → Ab(Gn ) → ∗
に適用して、完全列
1
1
lim
←− Gn → lim
←− Ab(Gn ) → 0
1
1
を得るが 、lim
←− Gn = ∗ なら、明らかに、lim
←− Ab(Gn ) = 0 である。
逆を示すために 、可算性の仮定より、{Ab(Gn )} が Mittag-Leffler 条
件を満たすとき、{Gn } もそうであることを示せばよい。
[33] の定理 3.1 より、任意の群 H と自然数 k に対して、自然な全射
準同型写像
φk
⊗k Ab(H) → Γk H/Γk+1 H
が存在する。ただし 、写像は
φk (x1 ⊗ · · · ⊗ xk ) = [· · · [[x1, x2], x3], · · · , xk ]
で与えられる。
さて、逆系 {Ab(Gn )} が Mittag-Leffler 条件を満たすと仮定する。n
を固定して、N を Ab(Gn )(m) = Ab(Gn )(N ) がすべての m ≥ N に対し
て成り立つように選ぶ。次の可換図式を考える。
m−n
⊗k Ab(πn
)
N −n
⊗k Ab(πn
)
⊗k Ab(Gm ) −−−−−−−→ ⊗k Ab(Gn ) ←−−−−−−− ⊗k Ab(GN )
⏐
⏐
⏐
⏐ k
⏐ k
⏐ k
φ
φ
−−−→
Γk Gm
Γk+1 Gm
Γk Gn
Γk+1 Gn
φ
←−−−
Γk GN
Γk+1 GN
上段において、仮定より両側の像は一致する。たての写像はすべて全射
より下段においても両側の像は一致しなければならない。従って、逆系
{Γk Gn /Γk+1 Gn }n=1,2,··· は Mittag-Leffler 条件を満たす。次の短完全列
0→
Γc Gn
Gn
Gn
→
→
→1
Γc+1 Gn
Γc+1 Gn
Γc Gn
1
1
1
に対する lim
←− − lim
←− 完全列より、lim
←− n Γc Gn /Γc+1 Gn = 0 と lim
←− Ab(Gn ) =
1
lim
←− Gn /Γ2 Gn = 0 を用いることによって、帰納的に
1 Gn
lim
←− n Γc Gn = ∗
がすべての、c について成り立つことが分かる。つまり、各 {Gn /Γc Gn }n=1,2,···
が Mittag-Leffler 条件を満たすことが分かる。n を固定するとき、十
分大きな c に関して Gn /Γc Gn = Gn より、元の逆系 {Gn } も MittagLeffler 条件を満たすことが分かる。
23
補題 4.6. 巾零群からなる群の逆系の短完全列
1 → {Kn } → {Gn } → {Hn } → 1
が存在するとき、基点付き集合の次の短完全列が存在する。
ˇ
ˇ
ˇ
∗ → lim
←− Kn /Kn → lim
←− Gn /Gn → lim
←− Hn /Hn → ∗
証明. 基点付き集合の短完全列
ˇ n /Kn → G
ˇ n /Gn → H
ˇ n /Hn → ∗
∗→K
ˇ
ˇ
が存在するから、lim
←− Gn /Gn → lim
←− Hn /Hn が全射であることを示せば
1 ˇ
よい。Kn が Gn の中心に含まれているとき、これは lim
←− Kn /Kn = ∗
を示せば 十分である。ところがこれは命題 4.1 の証明において示され
ている。一般の場合は次のように証明する。
G を巾零群で K をその正規部分群とする。G の部分群 Γc (K, G) を
次のように帰納的に定義する。
1. Γ1 (K, G) = K,
2. Γc+1 (K, G) = [G, Γc (K, G)] for c = 1, 2, · · · .
Γc (K, G) は G の正規部分群で Γc (K, G) ⊂ Γc G である。さらに、次の
ような中心拡大が存在する。
1 → Γc (K, G)/Γc+1 (K, G) → G/Γc+1 (K, G) → G/Γc (K, G) → 1
したがって、c を固定したとき逆系の中心拡大
1 → Γc (Kn , Gn )/Γc+1 (Kn , Gn ) → Gn /Γc+1 (Kn , Gn ) → G/Γc (Kn , Gn ) → 1
を得るが 、すでに示したことより
lim
←− n Gn /Γc+1 (Kn , Gn ) → lim
←− n Gn /Γc (Kn , Gn )
ˇ
は全射である。ただし 、巾零群 G に対して、G = G/G
と置く。逆系
{lim
←− n Gn /Γc (Kn , Gn )}c=1,2,··· において、各構造写像は全射より射影
ˇ
lim
lim
←− c lim
←− n Gn /Γc (Kn , Gn ) → lim
←− n Gn /Γ1 (Kn , Gn ) = ←
− n Hn /Hn
も全射である。ところが 、
∼
∼
ˇ
lim
←− Gn /Gn = lim
←− c Gn /Γc (Kn , Gn ) = lim
←− n Gn /Γc (Kn , Gn )
←− n lim
←− c lim
ˇ
ˇ
より、lim
←− Gn /Gn → lim
←− Hn /Hn が全射である事が示された。
定理 3.1 の証明. 補題 4.6 より
ˇ
ˇ
lim
←− Gn /Gn → lim
←− Ab(Gn )/Ab(Gn )
24
が全射であることが分かり、これより全射
ˇ
ˇ
ˇ
ˇ
lim
←− Gn \ lim
←− Gn /Gn → lim
←− Ab(Gn )\ lim
←− Ab(Gn )/Ab(Gn )
1
を誘導する。補題 4.5 より lim
←− Ab(Gn ) = ∗ だから、
1
1
ˇ
ˇ
ˇ
lim
←− Ab(Gn )\ lim
←− Ab(Gn )/Ab(Gn ) = ker[e∗ : lim
←− Ab(Gn ) → lim
←− Ab(Gn )]
はすでに示したよ うに無限集合である。その無限集合に全射がある
1
ˇ
ˇ
s lim
lim
←− Gn = ←
− Gn \ lim
←− Gn /Gn も無限集合である。
定理 4.7. Φ : {Gn } → {Hn } を( 必ずしも巾零群でない)群の逆系
とする。このとき、もし Φn (Gn ) が Hn の有限指数の部分群ならば
1
1
lim
←− Gn → lim
←− Hn
は全射である。さらにもし 、群がすべて有限生成巾零群ならば
1
1
s lim
←− Gn → s lim
←− Hn
も全射である。
証明. 写像 Φn : Gn → Hn は2つの短完全列、つまり、
1 → ker Φn → Gn → ImΦn → 1
と
1 → ImΦn → Hn → Hn /ImΦn → 1
1
を誘導する。最初の短完全列の lim
←− − lim
←− 完全列は全射
1
1
lim
←− Gn → lim
←− ImΦn → 1
で終わる。集合 Hn /ImΦn は有限集合より、集合の逆系 {Hn /ImΦn } は
Mittag-Leffler 条件を満たす。補題 2.4 を2つ目の短完全列に使えば 、
1
1
lim
←− ImΦn → lim
←− Hn
1
1
も全射であることが分かる。故に、lim
←− Gn → lim
←− Hn も全射である、
最後に、すべての群が有限生成巾零群であると仮定して、2つ目の
主張を示す。補題 4.6 を短完全列
1 → ker Φn → Gn → ImΦn → ∗
に使えば 、全射
ˇ
ˇ
lim
←− Gn /Gn → lim
←− ImΦn /ImΦn
ˇ n /ImΦn ∼
を得る。仮定より、ImΦn は Hn の指数有限の部分群より ImΦ
=
ˇ
Hn /Hn を示すのは難し くない。実際、もし Hn がアーベル群ならば 、
25
ˇ
ˇ n /Hn ∼
より上の事実は明らか。一般の場合は中心拡大を
H
= Hn ⊗ Z/Z
使って、帰納的に示せばよい。以上より、Φ は全射
ˇ
ˇ
lim
←− Gn /Gn → lim
←− Hn /Hn
を誘導することが分かった。商集合にうつって全射
ˇ
ˇ
ˇ
ˇ
lim
←− Gn \ lim
←− Gn /Gn → lim
←− Hn \ lim
←− Hn /Hn
を導く。これがすなわち示すべき事であった。
5. Gray 指数
f : X → Y が幽霊写像ならば 、その定義よりすべての k に対して
f|skk (X) ∗ である。従って、f は次のように分解する。
f
X
❅
❅
❘
❅
✲
✒
¯
f
Y
X/skk (X)
一般的に f¯ の取り方はたくさんある。
定義. 幽霊写像 f の Gray 指数とは 、f¯ が幽霊写像にとることので
きなくなる最小の整数 k のことである。このとき、G(f) = k と書き、
もしそのような整数が存在しないとき、G(f) = ∞ と約束する。
B. Gray は彼の Thesis で、f が自明でない限り、その Gray 指数は
有限であると主張したが 、その後その証明には誤りがあることが分か
り、実際、McGibbon と Strom [21] によって反例が構成された。しか
し 、その反例においてターゲット空間は有限型の空間ではないので、次
の予想が存在する。
予想. X と Y を有限型の空間とするとき、自明でない幽霊写像
f : X → Y の Gray 指数は有限である。
この予想を逆系 {[X, ΩY (n) ]} を使って攻めるために、Ha と Strom
[4] に倣って、dual Gray 指数を定義する。f : X → Y が幽霊写像なら
ば 、その定義よりすべての k に対して pk f
∗ : X → Y (k) である。
従って、f は次のように分解する。
26
Y k
✒
f˜ X
f
✲
❄
Y
一般的に f˜ の取り方はたくさんある。
定義. 幽霊写像 f の dual Gray 指数とは 、f˜ が幽霊写像にとること
のできなくなる最小の整数 k のことである。このとき、G (f) = k と
書き、もしそのような整数が存在しないとき、G (f) = ∞ と約束する。
2つの Gray 指数は本質的の同じであることをまず見ておく。
補題 5.1. 幽霊写像 f に対して、G (f) = G(f) + 1 である。
証明. まず、G(f) > k と仮定する。これはつまり、幽霊写像 f¯ :
X/skk (X) → Y で f の拡張となっているものが存在する。そこで 、f¯
は幽霊写像 f˜ : X/skk (X) → Y k+1 にリフトする事を示す。n > k+1
のとき、ファ イブレーション
ΩY (n) k + 1 → ΩY (n) → ΩY (k+1)
の底空間の k + 1 次元以上のホモトピー群は自明である。とくに 、
[X/skk (X), ΩY (k+1) ] = 1 である。よって、逆系の写像
{[X/skk (X), ΩY (n) k + 1 ]} → {[X/skk (X), ΩY (n) ]}
1
は全射でる。これは、lim
←− の全射、つまり、Ph(X/skk (X), Y k+1 ) →
Ph(X/skk (X), Y ) の全射を導く。次の可換図式より、G (f) > k + 1 を
うる。
X −−−→ X/skk (X)
X/skk (X)
⏐
⏐
⏐
⏐¯
⏐˜
⏐
f
Y
f
f
←−−− Y k + 1
Y
逆の不等号を証明するために 、完全列
[X/skk (X), ΩY (n) k + 1 ] → [X, ΩY (n) k + 1 ] → [skk (X), ΩY (n) k + 1 ]
を考える。最後の項は零より、逆系の全射
{[X/skk (X), ΩY (n) k + 1 ]} → {[X, ΩY (n) k + 1 ]}
を導く。従って、Ph(X/skk (X), Y k + 1 ) → Ph(X, Y k + 1 ) は全射
である。これを使えば逆の不等号も証明される。
27
Ph∞ (X, Y ) = {[f ] ∈ Ph(X, Y )|G(f) = ∞} と置くとき、上で示した
ことより
Ph∞ (X, Y ) = ∩k Im(Ph(X, Y k ) → Ph(X, Y ))
= ∩k Im(Ph(X/skk (X), Y ) → Ph(X, Y ))
であることが分かる。Ph∞ (X, Y ) = ∗ となる十分条件をいくつか与え
ると
命題 5.2. X, Y を有限型の空間とするとする。X または Y が次の
いずれかの条件を満たすとき、Ph∞ (X, Y ) = ∗ である。
(1) 十分大きなすべての i に対して、H i (X; Q) = 0 である。
(2) 十分大きなすべての i に対して、πi (Y ) ⊗ Q = 0 である。
(3) Y = ∨S nα
証明. (1) 十分大きなすべての i に対して、H i (X; Q) = 0 ならば 、十
分大きな整数 N に対して H ∗ (X/skN (X); Q) は自明である。命題 2.7
の (4) より Ph(X/skN (X), Y ) = ∗ である。
Ph∞ (X, Y ) = ∩k Im(Ph(X/skk (X), Y ) → Ph(X, Y ))
だから求める結果を得る。(2) についても同様に証明される。
1
(3) を証明するために 、Ph∞ (X, Y ) の lim
←− を用いた表現が必要で
ある。
(n)
Gn = [X, ΩY (n) ]( または [Σskn (X), Y ] )に対して Gk = Im(Gn →
Gk ) とおけば 、逆系の全射
(n)
{Gn } → {Gk }
は、全射
(n)
1
1
pk : lim
←− Gn → lim
←− n Gk
を誘導するが 、これは k に関して自然だから
(n)
1
1
lim
←− Gn → lim
←− k lim
←− n Gk
(∞)
も全射である。Gn
合の短完全列
(k)
=←
lim
− k Gn と置くとき、[2], p.256, によれば 、集
(n)
1 (∞)
1
1
∗ → lim
←− n Gn → lim
←− Gn → lim
←− k lim
←− n Gk → ∗
が存在する。
補題 5.3. Gn = [X, ΩY (n) ]( または [Σskn (X), Y ] )と置くとき
1 (∞)
Ph∞ (X, Y ) ∼
= lim
←− n Gn .
28
証明. Gn = [X, ΩY (n) ] の時に示す。他の場合も同様に証明される。
ファイブレーション
ΩY (n) k → ΩY (n) → ΩY (k)
より誘導される完全列
[X, ΩY (n) k ] → [X, ΩY (n) ] → [X, ΩY (k) ]
は、短完全列
(n)
1 → In → Gn → Gk → 1
と全射
[X, ΩY (n) k ] → In
1
を導く。lim
←− をとれば 、次の可換図式を得る。
Ph(X, Y k )
❍
❄
❍
❍❍
1
lim
←− In
❍
❥
❍
✲
Ph(X, Y )
✲
(n)
1
lim
←
− Gk
上の図において、横の列は完全列で、たての写像は全射である。こ
のことと、
Ph∞ (X, Y ) = ∩k Im(Ph(X, Y k ) → Ph(X, Y ))
より、求める結果を得る。
命題 5.2 (3) の証明. Gn = [Σskn (X), Y ] ∼
= [skn (X), ΩY ] とおいて、
1 (∞)
1 (∞)
lim
←− Gn = ∗ を示す。仮定より各 Gn は可算集合より、lim
←− Gn = ∗
(∞)
である必要十分条件は逆系 {Gn } が Mittag-Leffler 条件を満たすこ
(∞)
(∞)
とである。特に、これは Gn の群構造によらない。さらに、Gn も
Gn の群構造によらず定まる。従って、次の n に関して自然な全単射
Gn ∼
= [skn (X), ΩY ] ∼
= [skn (X),
ΩS mβ ]
β
∼
=
[skn (X), ΩS mβ ]
β such that mβ ≤ n + 1
29
が存在するから、全単射
∼
G(∞)
=
n
[skn (X), ΩS mβ ](∞)
mβ ≤n+1
1
mβ (∞)
を得る。この命題の (2) の結果より lim
= ∗ だか
←− [skn (X), ΩS ]
mβ (∞)
ら、逆系 {[skn (X), ΩS ] } が Mittag-Leffler 条件を満たすことが分
(∞)
かる。これより、Gn も Mittag-Leffler 条件を満たすことが分かり、
求める結果を得る。
補題 5.3 より、X, Y が有限型の時、Ph∞ (X, Y ) = ∗ という予想は、
1 (∞)
Gn = [X, ΩY (n) ]( または [Σskn (X), Y ] )に対して、lim
←− n Gn = ∗ と
いう予想と等しいことが分かる。 しかし一般の逆系に対して、必ずし
1 (∞)
も lim
←− n Gn = ∗ とは限らないことが知られている。
例 5.4. 自然数の列 m1, m2 , · · · , mk , · · · を
k
=0
k→∞ mk
lim
となるように選び 、逆系 {Hn , πn } を次のように定義する。
Hn =
Z
if n = 1,
Z ⊕ Z if n > 1.
そして、π1 : Z ⊕ Z → Z は第1因子への射影で、πn : Hn+1 → Hn を
πn (a, b) = (a, a + mn−1 b)
(∞)
によって定義する。 このとき、簡単な計算で H1 = H1 だが 、n > 1
(∞)
のとき Hn = 0 であることが分かる。つぎに、2以上の自然数の列
s1, s2 , · · · をえらび 、逆系 {Gn , pn } を次のように定める。
Gn = Hn ⊕ · · · ⊕ H1
で、pn : Gn+1 → Gn を
pn (hn+1 , hn , · · · , h2 , h1 ) = (πn (hn+1 ), πn−1 (hn ), · · · , π1(h2 ) + sn h1)
(∞)
と定める。以上のように定めると、Gn = Z でその間の写像は sn 倍
1 (∞)
で与えられることからすでに見たように、lim
←− Gn = 0 である。
30
6. ΩX からでる幽霊写像と有理ホモトピー同値
ここでは、ΩX からでる幽霊写像と有理ホモトピー同値について取
り上げる。まず、次の McGibbon の定理を証明する。今後 ΩX を考察
するときは、空間 X は常に単連結であると仮定する。
定理 6.1. ([13]) 有限型の CW 複体 X が
S 2nα −1 ×
P =
α
ΩS 2nβ +1
β
と同じ有理ホモトピー型をもつと仮定する。このとき、有理ホモトピー
同値写像 X → P が存在するための必要十分条件は、すべての n に対
して
Ph(X, S n ) = ∗
であることである。
注意. (1) P = α S 2nα −1 × β ΩS 2nβ +1 の位相については 、ここ
では弱積位相によって与えられていると仮定する。つまり、有限直積
の帰納的極限としての位相を与える。このような位相を与える理由は、
P が CW 複体になるようにするためであるが 、さらに任意の有限型の
空間 X に対して有理ホモトピー同値写像
S 2nα −1 ×
α
ΩS 2nβ +1 → ΩX
β
を作るためでもある。このためには、π∗(X) の偶数次元の生成元の集
合 {[gα ]} と奇数次元の生成元の集合 {[hβ ]} を 、それらが π∗(X) ⊗ Q
の基底となるように選ぶ。そして ΩX のループ 積を用いて、写像
Ωgα ×
α
ΩS 2nα ×
Ωhβ :
β
α
ΩS 2nβ +1 → ΩX
β
を作る。この写像を作るためには弱積位相でなければならない。あと
は、この写像に各 α に対して自然な写像 S 2nα −1 → ΩS 2nα を合成すれ
ば 、求める有理ホモトピー同値写像を得る。
有限型の空間 X に対し て、ΩX は上に示し たことにより適当な
2nα −1
× β ΩS 2nβ +1 と同じ 有理ホモトピー型を持つことが 分か
αS
る。従って上の定理は、すべての n に対して Ph(ΩX, S n ) = ∗ となる
必要十分条件は、逆向きの有理ホモトピー同値写像が存在することで
あると言っている。もちろんこのとき、すべての有限型の空間 Y に対
して、Ph(ΩX, Y ) = ∗ である。
(3) ΩX を考察するときは 、空間 X は常に単連結であると仮定し
たが 、より一般な有限複体についてもこの節の結果がそのまま成り立
31
つかど うかは知らない。必ずしも単連結でない有限複体 X に対して、
˜ × π0 (X) に同相であ
˜ とするとき、ΩX は ΩX
その普遍被覆空間を X
る。従って、ΩX からでる自明でない幽霊写像が存在するかど うかを
問題にする限り( Ph(ΩX, Y ) が自明でないとき、その構造を問題にす
˜ からでる幽霊写像を考えればよい。しか
るときは違うだろうが)、ΩX
˜ は有限複体にはなりえず、以
し 、一般に π1 (X) が有限でない限り、X
下の議論が同様に成り立つかは分からない。もちろん 、π1(X) が有限
ならば問題はない。
証明. ΣP は球面の1点和にホモトピー同値だから、命題 2.7 よりす
べての有限型の空間 Y に対して Ph(P, Y ) = ∗ である。とくに、すべ
ての n に対して Ph(P, S n ) = ∗ である。よって、有理ホモトピー同値
写像 f : X → P が存在すれば 、定理 3.4 より全射
f ∗ : Ph(P, S n ) = ∗ → Ph(X, S n )
が存在する。これより、すべての n に対して Ph(X, S n ) = ∗ である。
逆方向を示すために 、すべての m に対して
Ph(X, S m ) = ∗
であると仮定する。m = 2nβ + 1 のときの仮定を使って、写像
πβ : X → ΩS 2nβ +1
を、m = 2nα のときの仮定を使って、写像
πα : X → S 2nα −1
を、それぞれ以下の条件を満たすように作る。[g] ∈ π2n (X) (n = nβ )
を位数無限の元とするとき、πβ との合成
g
πβ
S 2n → X → ΩS 2n+1
が 、有理的に本質的であるように作る。同じ 様な条件を満たすように
πα も作ることができる。ここでは、以上を仮定して証明を先に進める。
π∗(X) の生成元の集合で、π∗(X) ⊗ Q の基底を与える集合を1つ選ぶ。
この選ばれた生成元に対して、写像 πβ と πα を上で述べたように作
る。もし 生成元の集合が有限集合ならば 、例えば g1 , · · · , gt が奇数次
元の生成元で h1, · · · , hs が偶数次元の生成元であるならば 、写像
X → ΩS 2n1 +1 × · · · × ΩS 2nt +1 × S 2m1 −1 × · · · × S 2ms−1
を
x → (π1 (x), · · · , πt(x), π1(x), · · · , πs (x))
によって定義すると、この写像は明らかに有理ホモトピー同値である。
もし π∗(X) ⊗ Q が無限次元ならば 、上の写像の帰納的極限をとればよ
いが 、そのためには、πβ : X → ΩS 2nβ +1 と πα : X → S 2nα −1 をそれぞ
32
れ πβ (sk2nβ −1 (X)) = ∗, πα(sk2nα −2 (X)) = ∗ となるようにとっておく
必要がある。このように選んでおけば 、写像が定義でき、ホモトピー
群は帰納的極限と可換だから、その写像は有理ホモトピー同値写像で
ある。
以上より、あと示すべきことは 、πβ と πα を上で述べた性質を持つ
ように構成できることである。Gq = [skq (X), ΩS 2n+1 ] と置くと、
1
Ph(X, S 2n+1 ) ∼
= lim
←− Gq
1
である。そして、各 Gq は可算群より lim
←− Gq = ∗ である必要十分条件
は、逆系 {Gq } が Mittag-Leffler 条件を満たすことである。従って、仮
定 Ph(X, S 2n+1 ) = ∗ より逆系 {Gq } は Mittag-Leffler 条件を満たす。
ここで次の Mittag-Leffler 条件の特徴付けを用いる。
補題 6.2. 群の逆系 {Gn } が Mittag-Leffler 条件を満たす必要十分条
件は、すべての n に対してある n0 = n0 (n) ≥ n で次の条件を満たす
ものが存在することである。
Im[Gn0 → Gn ] = Im[lim
←− Gn+i → Gn ]
補題 6.2 の証明. 十分条件であることは明らかなので 、必要条件で
あることを示す。
群の逆系 {Gn } が Mittag-Leffler 条件を満たすと仮定する。さて
x ∈ lim
←− Im[Gn+i → Gn ] ⊂ Gn
となる Gn の元を特性元と呼ぶことにする。群の逆系 {Gn } が MittagLeffler 条件を満たすなら 、各 n に対してある n0 = n0 (n) ≥ n で次の
条件を満たすものが存在するのは明らかである。
Im[Gn0 → Gn ] = ←
lim
− i Im[Gn+i → Gn ]
従って、各 n に対して Gn の特性元が Im[lim
←− Gn+i → Gn ] に含まれて
いることを示せばよい。
x ∈ Gn を特性元とする。特性元の定義より i > 0 なる各 i について
yn+i ∈ Gn+i で πnn+i(yn+i ) = xn となるものがある。m0 = n0 (n + 1) と
m0
(ym0 ) ∈ Gn+1 は特性元となる。従って特性元 xn+1 ∈ Gn+1
おくと πn+1
で πn (xn+1 ) = xn となるものが選べた。これを繰り返して、特性元の列
(xn , xn+1 , xn+2 , · · · ), xn+i ∈ Gn+i , πn+i (xn+i+1) = xn+i
が選べる。この列は元
x ∈ lim
←− Gn+1 ,
33
pn (x) = xn
を定める。ここに pn : lim
←− Gn+i → Gn は標準射影である。よって、証
明は終わった。
定理 6.1 の証明の続き. 命題 3.2 より構造写像 Gq+1 → Gq の像が
有限指数を持つことから、各 q について自然な写像 lim
←− Gj → Gq の像
も有限指数を持つことが上の補題より分かる。
さて、π2n (X) の無限位数の元 [g] に対して、sk2n+1 (X) は有限複体
より、写像
γ : sk2n+1 (X) → ΩS 2n+1
で、g との合成が π2n (ΩS 2n+1 ) の生成元の non-zero 倍になるようなも
のの存在が分かる。上に述べた注意より、γ の non-zero 倍が自然な写
2n+1
像 lim
] から lim
←− Gj → G2n+1 の像になっている。[X, ΩS
←− Gj への全
射が存在するから、写像 X → ΩS 2n+1 で sk2n+1 (X) に制限すれば 、γ
の non-zero 倍になっているものの存在が分かる。これが求める写像で
ある。
最後に、 πα を同じようにして構成する。仮定 Ph(X, S 2n ) = ∗ は、
逆系 {[skq (X), ΩS 2n ]} が Mittag-Leffler 条件を満たすことを意味する。
これを用いて上の議論と同様にして、π2n−1 (X) の無限位数の元 [g] に
対して、写像 f : X → ΩS 2n で合成
f
g
S 2n−1 → X → ΩS 2n
で、ボトム 2n − 1 セルで non-zero となるものの存在が分かる。ファ
イバー束 S 2n−1 → O(2n + 1)/O(2n − 1) → S 2n よりファイブレーショ
ン ΩS 2n → S 2n−1 → O(2n + 1)/O(2n − 1) を得るが 、このときの写像
i : ΩS 2n → S 2n−1 をボトム 2n − 1 セルに制限すれば 、degree が 2 で
あることが知られている。例えば 、[32], 補題 3.12 を参照。従って、合
成 i ◦ f : X → S 2n−1 が求める写像である。
ここで示したい定理は、次の定理である。
定理 6.3. X を単連結な有限複体とするとき、任意の有限型の空間
Y に対して、
Ph(ΩX, Y ) = ∗
である。
定理 6.1 より、これは次と同値である。
34
定理 6.3 . X を単連結な有限複体とするとき、有理ホモトピー同値
写像
S 2nα −1 ×
ΩX →
α
ΩS 2nβ +1
β
が存在する。
定理 6.3 を証明するのが目的であるが 、まず、空間の minimal Sullivan model の簡単な復習から始める。
単連結で有限型の有理空間 X が与えられたとき 、X はその Postonikov 系列
· · · → X (n+1) → X (n) → · · · → X (2) → ∗
1
のホモトピー逆極限として記述できる。有理化されているので 、lim
←−
は消える。また、ファ イブレーション
K(πn+1 (X), n + 1) → X (n+1) → X (n)
はその k-普遍量
X (n) → K(πn+1 (X), n + 2)
から完全に分かる。以上を記述するものとし て、minimal Sullivan algebra がある。
定義. minimal Sullivan algebra (ΛV, d) とは 、Q 上の可換な次数付
き微分代数で次の条件を満たすものである。
(1) V = {V p }p≥1 は、Q 上の次数付き加群で、ΛV は V で生成され
た可換な自由代数( free commutative algebra )を表す。
(2) V p の任意の元 x に対して、dx は decomposable である。
単連結な有限型の minimal Sullivan algebra の同型類と単連結な有
限型の空間の有理ホモトピー同値類が1対1に対応することはよく知
られた事実であるが、詳しくは [3] 等の本を見てほしい。ここでは主に
次の事実を使う。
単連結な有限型の X に対応する Sullivan model を (ΛV, d) とする
とき、
(1) V p ∼
= Hom (πp (X) ⊗ Q, Q) (n)
(2) V
= ⊕p≤n V p と置くとき、(ΛV (n) , d) は X の n-次 Postnikov
近似 X (n) の minimal model で d : V n+1 → ΛV (n) は k-不変量
k (n+2) : X (n) → K(πn+1 (X) ⊗ Q, n + 2) に対応している。
また、写像 f : X → Y が与えられ、(ΛV, d) を X の、(ΛW, d) を Y
の minimal model とするとき、f はこれらの間の写像を誘導するが 、
それを Λ(f ) : (ΛV, d) → (ΛW, d) で表す。
35
補題 6.4. X を単連結な有限複体で (ΛV, d) をその minimal Sullivan
model とする。x ∈ V が零でない偶数次元の元で dx = 0 を満たして
いるとき、単連結な有限複体 Y と有理ホモトピー同値写像
ΩX → ΩY × S |x|−1
が存在する。ただし 、|x| は x の次元を表す。Y の minimal Sullivan
¯ は、W = V/(x) で与えられ 、自然な次数付き微分加群
model (ΛW, d)
¯ が存在する。
の写像 (ΛV, d) → (ΛW, d)
証明. |x| = 2n とし α ∈ π2n (X) を x, H(α) = 0 となるホモト
ピー類とする。ただし 、 −, − は Kronecker 積を、H : π∗ (X) ⊗ Q →
H∗ (X; Q) を Hurewicz 写像とする。g : X → K(Z, 2n) を H 2n (X; Z)
の元 [g] と考えて、自然な写像 H 2n (X; Z) → H 2n (X; Q) で H 2n (X; Q)
へ移したとき x と unit だけ異なる写像とする。次の lifting 問題を考
える。
X
h ✒
g
✲
BU(n)
cn
❄
K(Z, 2n)
上の lifting 問題そのものは 、有限個の素数を可逆化するとき解ける
が、g そのものの lift を考えずに、0 でない適当な整数 k をとって、kg
の lift を探しても良いことになる。それは次のようにして解決される。
n
よく知られたように、BU(n)(0)
k≥1 K(Q, 2k) であるから、有理化
すれば上の問題は解ける。N を dim X と 2n より十分大きな自然数と
するとき、N 次 Postnikov 近似 BU(n)(N ) は 0 普遍であることが知ら
れている。つまり、写像 fi : BU(n)(N ) → BU(n)(N ) で写像の列
f1
f2
f3
BU(n)(N ) → BU(n)(N ) → BU(n)(N ) → BU(n)(N ) · · ·
(N )
のテレスコープが BU(n)(0) と成るものが存在する。ところが明らかに、
(N )
BU(n)(0)
BU(n)(0) より、有理化したときの解 f : X → BU(n)(0)
は、X が有限複体ならば適当な BU(n)(N ) を経由していることになる。
f を胞体写像にとっておけば 、N > dim X より f は BU(n) 自身を経
由していることが分かり、問題が解決された。
36
次にこの h でファイバー束 S 2n−1 → BU(n − 1) → BU(n) を引き戻
すことによって得られるファ イバー束から成る次の図式を考える。
S 2n−1
⏐
⏐j
S 2n−1
⏐
⏐
E
⏐
⏐r
−−−→ BU(n − 1)
⏐
⏐
X
−−−→
h
BU(n)
n = 1 のときは、どんな h に対しても E が単連結になるとは限らない
ので 、このときは h をうまくとる必要がある。π2(X) の直和成分とな
る Z の生成元 α をとり、合成
α
h
S 2 → X → BU(1)
が、π2 (BU(1)) ∼
= Z の生成元になるようにとれば 、E も単連結になる。
いずれの場合も E は明らかに、有限複体の胞体構造を持つが 、
ΩX
ΩE × S 2n−1
とは成ってくれない。そこで次のような工夫をする。ファイブレーショ
j
ン S 2n−1 → E → X に付随したホモトピー完全系列
j∗
· · · → π2n (X) → π2n−1 (S 2n−1 ) → π2n−1 (E) → · · ·
を考えると、j : S 2n−1 → E のホモトピー類の位数が有限であることが
分かる。k をその位数とすれば( j が零ホモトープのときは k = 1 、特
に、n = 1 のときは k = 1 )、j は写像 j : M 2n−1 (k) = S 2n−1 ∪k e2n → E
に拡張できる。E = E ∪j CM 2n−1 (k) とおいて、f : E → E を包含
写像とする。このとき、合成 fj : S 2n−1 → E → E は零ホモトープで
あり、次の可換図式を得る。
ΩE −−−→ ΩX −−−→ S 2n−1 −−−→ E −−−→ X
r
Ωr
j
⏐
⏐
⏐
⏐
⏐¯
⏐
⏐Ωf
⏐f
f
ΩE −−−→ ∗ −−−→ E
E
上の図式で得られた f¯ : ΩX → ΩE を用いて、有理ホモトピー同値
写像
ΩE
ΩX → ΩE × S 2n−1
を作ることができる。この E が求める Y である。
37
ni , i = 1, 2, · · · , m を正の奇数とする。次のような性質 (S) を持つ有
限複体 E = E(n1 , . . . , nm ) を考える。性質 (S):写像 fi : S ni → E, i =
1, · · · , m で合成
m
ΩS
ni
i=1
É Ωf
→
µ
i
ΩE → ΩE
m
がホモトピー同値となるものが存在する。ただし、µ はループ積である。
このような空間の例として、奇数次元の球面の積がある。E の minimal
model は、(Λ(x1, · · · , xm ), d) で与えられる。ここに、|xi | = ni である。
ただし 、d = 0 とは限らない。さて、x ∈ Λ(x1, · · · , xm ) を偶数次元の
decomposable element で dx = 0 であるとする。このコホモロジー類
を消して同じタイプの空間を次のようにして得る。
補題 6.5. E と x を上の通りとし 、|x| = 2n とおく。このときファ
イバーバンド ル
π
S 2n−1 → E → E
で次の2つの条件を満たすものが存在する。
(i) E の minimal model は
¯
(Λ(x1, · · · , xm , xm+1 ), d)
¯ i = di xi , i = 1, · · · , m であり、dx
¯ m+1 =
で与えられる。ただし、dx
x である。
(ii) Ωπ : ΩE → ΩE は切断を持つ。従って、合成写像
ΩS 2n−1 × ΩE → ΩE × ΩE → ΩE
はホモトピー同値である。ただし 、最初の写像は自然な包含写像
と切断のループ 写像で 、2つ目の写像はループ 積である。特に、
E も性質 (S) を持つ。
証明. x ∈ H 2n (E; Z) 、つまり、自然な写像 H 2n (E; Z) → H 2n (E; Q)
の像であると仮定してもこの補題を証明するには一般性を失わない。
写像 ∨fi : ∨S ni → E をコファイブレーションと仮定しても一般性
を失わないのでそのように仮定する。p : E → E/(∨S ni ) を自然なつぶ
す写像とする。このとき y ∈ H 2n (E/(∨S ni ); Z) で p∗ (y) = x となるも
のがある。補題 6.4 の証明と同様にして、写像
g : E/(∨S ni ) → BU(n)
で、g ∗ (cn ) = cy となるものがある。ここに、cn ∈ H 2n (BU(n) : Z) は
n 次 Chern 類で、c は零でない整数である。
38
再びファイバーバンド ル S 2n−1 → Bu(n − 1) → BU(n) を写像 g ◦ p :
E → BU(n) にそって引き戻してファイバーバンド ル
π
S 2n−1 → E → E
をうる。これが求めるものであることを以下に示す。
E の minimal model については 、適当に生成元を取り替えれば (i)
に記述したとおりである。
g ◦ p|∨S ni は零ホモトープだから、各 i について π : E → E の切断
si : S ni → E が存在する。合成写像
É Ωs
m
g
s : ΩE →
ΩS
→
ni
m
ΩS
i=1
ni
ΩE → ΩE
m
i=1
を考える。ただし 、g : ΩE →
i
m
i=1
ΩS ni は合成写像
É Ωf
→
i
ΩE → ΩE
m
のホモトピー逆写像である。このとき Ωπ ◦ d は恒等写像にホモトープ
である。被覆ホモトピー性質を使って Ωπ の切断を得る。
補題 6.6. X を単連結な有限複体で (Λ(x1, x2, · · · ), d) をその minimal model とする。ただし 、|xi | ≤ |xi+1| とする。もし 、|xi | が i =
1, · · · , m に対してすべて奇数で |xm | < |xm+1 | なら 、性質 (S) を持っ
た単連結な有限複体 E でその minimal model 、(Λ(y1, · · · , ym ), d) 、が
(Λ(x1, · · · , xm), d) に同型であり、写像 f : X → E で Λ(f )(yi ) = xi , i =
1, · · · , m となるものが存在する。特に
m
ΩS |xi |
Ωf : ΩX → ΩE
i=1
は、|xm | − 1 次元までの有理ホモトピー群の同型を導く。
証明. m に関する帰納法を用いて証明する。m = 1 のとき、写像
f : X → E = S |x1 | で Λ(f )(y1) = x1 となるものが存在することは簡単
に示すことができる。ただし 、y1 ∈ H |x1 | (S |x1 | ; Q) は適当な生成元で、
S |x1 | の minimal model の生成元と同一視した。
m ≥ 2 であり、そして、補題は m − 1 以下のとき成り立つと仮定す
る。さて、|dx −1 | < |dx | = · · · = |dxm | = 2n とおく。必要なら生成元
を取り替えて、x , · · · , xk−1 といくつかの decomposable elements が
Ker[d : Λ2n−1 V → Λ2n V ]
の基底となるようにとる。このとき、
E = E × S 2n−1 × · · · × S 2n−1
39
とおき、写像 f : X → E を用いて写像 f : X → E で求める条件を持
つものを作るのは 、m = 1 の場合と同じである。以下は記号を簡単に
するため、このようにして作られた複体 E と写像 f : X → E を E
と f : X → E と書く。
dxk を k-不変量とみなして次の図式を考える。
dx
X −−−→ X (2n−2) −−−k→ K(Q, 2n)
⏐
⏐
⏐
⏐f
⏐||
⏐f
dx
E −−−→ E (2n−2) −−−k→ K(Q, 2n) −−−→ BU(n)(0)
ただし 、dxk : E (2n−2) → K(Q, 2n) とは 、写像 f : X → E によって
dxk : X (2n−2) → K(Q, 2n) に対応するものである。この図式を用いて
補題 6.4 など の証明と同様にして、写像
g : E → BU(n)
で 、合成 g ◦ f 零ホモト ープで minimal model の間の写像とし て
Λ(f )Λ(g)(cn ) = cdxm 、ただし c は零でない有理数、となるものが存在
することが 証明できる。ファイバーバンド ル S 2n−1 → BU(n − 1) →
BU(n) を写像 g : E → BU(n) に沿って引き戻すと 、ファイバーバン
ドル
S 2n−1 → E → E
と f のリフト f˜ : X → E を得る。補題 6.5 とその証明から、E は単連
結な有限複体で性質 (S) をもち、その minimal model 、(Λ(y1 , · · · , yk ), d)
は (Λ(x1, · · · , xk ), d) に同型である。さて、
˜
dΛ(f˜)(yk ) = Λ(f)(dy
m ) = Λ(f )(dyk ) = dxk
˜ k ) − xk ) = 0 となる。つまり、Λ(f)(y
˜ k ) − xk は Ker[d :
より、d(Λ(f)(y
2n−1
2n
V → Λ V ] の元である。従って、yk を yk に y , · · · , yk−1 の一
Λ
˜ k ) − xk は indecompos次結合を加えてたものに 取り替えて、Λ(f)(y
˜ k ) − xk ∈
able と仮定してよい。従って 、次元の関係より z = Λ(f)(y
Λ(x1, · · · , x −1 ) である。つまり、z ∈ Λ(x1, · · · , x −1 ) で dz = 0 とな
˜ m ) = xm + z と表すことができる。
るものを用いて Λ(f)(y
˜ = Λ(f ) : (Λ(y1 , · · · , y −1 , d) → (Λ(x1, x2, · · · ), d)
Λ(f)
は (Λ(y1, · · · , y −1 , d) を (Λ(x1, · · · , x −1 , d) の上に同型に移すから z ∈
˜ ) = z となるものが存在する。従って、Λ(f)(y
˜ k−
Λ(y1, · · · , y −1 ) で Λ(f)(z
z ) = xk となる。さて、minimal model (Λ(y1, · · · , yk−1 , yk − z , d) が
求めるものである。yk+1 , · · · , ym についても同様にすればよい。
定理 6.3 の証明. (Λ(x1, x2 , · · · ), d) を X の minimal model とす
る。ただし 、すべての i に対して |xi | ≤ |xi+1| が成り立つものとす
40
る。さらに m = 0 の場合も含めて、1 ≤ i ≤ m のとき |xi| は奇数で、
|xm+1 | と偶数であると仮定する事ができる。補題 6.6 より、単連結な有
限複体 E0 で性質 (S) を持ちその minimal model 、(Λ(y1, · · · , ym ), d) 、
が (Λ(x1 , · · · , xm ), d) と同型であり、そし て、写像 f : X → E0 で
1 ≤ i ≤ m に対して f ∗ (yi) = xi となるものが存在する( m = 0 のとき
は、E0 = ∗ とすればよい)。奇数次元球面の1点和の偶数次元の有理
ホモトピー群は消えているので、|xm+1 | − 1 次元まで S |x1 | ∨ · · · ∨ S |xm |
を表す minimal model (Λ(y1, · · · , ym , z1, · · · , zs ), d) が存在する。ただ
し 、|zi| はすべて奇数である。補題 6.5 より切断を持ったファイバー束
の列
Es → · · · → Ek → · · · → E0
でその minimal model が (Λ(y1, · · · , ym , z1 , · · · , zk ), d) と同型になるも
のがある。このファイバー束の列を写像 f : X → E0 に沿って引き戻
すことにより、ファイバー束の列
Xs → · · · → Xk → · · · → X0 = X
で切断を持つものが得られる。Xs の minimal model は |xm+1 | − 1 次元
まで奇数次元の球面の1点和の minimal model に等しい。従って、Xs の
minimal model において decomposable element w で d(xm+1 + w) = 0
となるものがある。適当に minimal model の生成元を取り替えること
によって補題 6.4 が使え、単連結な有限複体 Y と有理ホモトピー同値
写像
ΩXs → ΩY × S |xm+1|−1
が存在する。Y の minimla model には X の xm+1 に対応するものが
なくなっている。さて、写像 Xs → X は切断を持つから、写像
ΩX → ΩXs
で有理ホモトピー群の単射を導くものがある。以上より、写像
ΩX → ΩY × S |xm+1|−1
で、有理ホモトピー群の単射を導くものがあり、Y の minimla model
には X の xm+1 に対応するものがなくなっている。この手法を繰り返
し用いて、与えられた正の整数 N に対して写像
ΩX → ΩX ×
S 2nα +1
nα ≤N
で有理ホモトピー群の単射を導くものが存在する。さらに X の偶数
次元の有理ホモトピー群は 2N + 2 次元まで消えている。補題 6.6 よ
り写像
ΩX →
ΩS 2nβ +1
nβ ≤N
41
で、2N + 1 次元までの有理ホモトピー群の同型を導くものが存在する。
このようにして写像
ΩX →
ΩS 2nβ +1 ×
nβ ≤N
S 2nα +1
nα ≤N
で、2N + 1 次元までの有理ホモトピー群の同型を導くものが存在する。
ここに N は任意だったので定理の証明は終わる。
Ωk0 X によって、X の k-重ループ空間の基点を含む連結成分を表す。
ある素数 p で局所化すれば 、写像 Ω2 S 2n+1 → S 2n−1 でボトム 2n − 1 セ
ルで写像度 p の写像が存在することが Cohen-Moore-Neisendorfer に
よって示されているので 、次の定理は定理 6.3 から直ちに導かれる。
定理 6.7. X を有限複体、k を自然数とするとき、p で局所化すれ
ば有理ホモトピー同値写像
S 2nα −1 ×
Ωk0 X →
α
ΩS 2nβ +1
β
が存在する。
系 6.8. X を有限複体、k を 2 以上の自然数とするとき、
(1) ある素数 p に対して、Ωk0 X が可縮でなければ 、Ph(Ωk0 X, Y ) = ∗
となる必ずしも有限型でない空間 Y が存在する。
(2) Ph(Ωk0 X, Y ) = ∗ となる有限型のターゲット空間が存在するため
の必要十分条件は、ある 2 以上の整数 q が存在して
πq (Ωk0 X) ⊗ Q = 0
となることである。このとき、ターゲット空間は球面にとれる。
(3) しかしながら、各素数で局所化すれば 、任意の有限型の空間 Y に
対して Ph(Ωk0 X, Y(p) ) = ∗ である。
位相空間 X と素数 p に対して、X の p-exponent とは π∗ (X) の
p-torsion 元の位数の上限であると定義する。それでは、この exponent
は有限であろうか?この疑問に対して、Moore は次のような予想を立
てた。
Moore 予想. X を単連結な有限複体とするとき、
(1) X が rationally elliptic ならば 、すべての素数 p について有限な
p-exponent をもつ。
(2) X が rationally hyperbolic, つまり、 n dim πn (X) ⊗ Q = ∞, な
らば 、すべての素数 p について p-exponent は無限である。
42
すべての素数に対して有限な exponent をもつ空間として、球面 S n
がある。これを用いて等質空間もすべての素数に対して有限な exponent
をもつことが分かる。
弱 Moore 予想. X を単連結な有限複体とするとき、
(1) X が rationally elliptic ならば 、有限個の例外を除いたすべての
素数 p について有限な p-exponent をもつ。
(2) X が rationally hyperbolic ならば 、有限個の例外を除いたすべて
の素数 p について p-exponent は無限である。
弱 Moore 予想 の(1)が成り立つことは、McGibbon-Wilkerson [22]
によって示されている。もちろんこの事実は定理 6.3 からも示すこと
ができる。 References
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