測度と積分

測度と積分
広島大学理学部数学科解析学 A 講義ノート
岩田耕一郎
2005 年 7 月 19 日
目次
1
概略–定義域の分割から値域の分割への転換
2
2
単関数の積分
6
3
非負値可測関数の積分
11
4
可積分関数とその積分
16
5
Lebesgue の収束定理
22
6
測度 0 の集合
26
7
有限加法的測度とそれが誘導する外測度
32
8
Carath´
eodory の外測度と可測集合
37
9
1 次元 Lebesgue 測度の存在
41
10 拡張の一意性とその応用
49
11 直積測度としての 2 次元 Lebesgue 測度
53
12 Dynkin 族定理と直積測度の構造
59
13 Fubini-Tonelli の定理と単調収束定理
70
14 Fubini の定理とその応用
75
15 部分積分とそれが開く世界
83
1
概略–定義域の分割から値域の分割への転換
1
積分とは、大ざっぱに言うと関数の値を長さ、面積、体積などにより重みを付けて連続的
に足しあわせる事である。今、“連続的に” という言葉を不用意に使ったが、ここがくせ者で
ある。Riemann 積分においては、関数の定義域を部分区間などへ分割し Riemann 和を定義
し、分割を細かくする極限移行を経由して、連続的な足しあわせを実行していたのである。
これで一応閉じた世界ができあがるわけで、happy!と言いたいところだが現実は甘くない。
例えば次の定理を Riemann 積分の世界にとどまって見通しよく証明するのは難しい。
fn を区間 [0, 1] 上の連続関数列で次を満たすものとする。
∃M < +∞ s.t. |fn (x)| ≤ M ∀n ∈ N ∀x ∈ [0, 1], lim fn (x) = 0 ∀x ∈ [0, 1]
n→∞
このとき数列
∫1
0
fn (x) dx は 0 に収束する。
✓
記号
✏
Z 整数全体、N 正の整数全体、R 実数全体、Q 有理数全体
✒
✑
状況を打開するには、視点を転換する必要があった。与えられた関数 f : Rd → R に応じ
て分割をとるのである。各 n ∈ N に対して次のような集合全体を考える。
(1.1)
{x ∈ Rd : (k − 1)/2n ≤ f (x) < k/2n } k ∈ Z
等分割されているのは、定義域でなくて値域の方である。上にでてきた集合たちは番号 k が
異なれば共通部分を持たない。さて長さ、面積、体積などには加法性という共通点がある。
即ち、ある領域を共通部分を持たない部分に分けたとき、全体の面積は各部分の面積の和に
なる等である。この性質を抽象化して測度という概念が生じる。
しかしながら、これは一方で数学における闇の世界を露呈させたのである。例えば R2 の
すべての部分集合の面積をはかることができるなら話は簡単なのだが、そうではないので面
積をはかることができる集合達を規定する必要がでてくる。ところがその規定というのがな
かなか正体をつかみにくい代物だから厄介なのである。
1.2 定義. B を Rd の部分集合の族とする(全体集合を一つ規定しておくことが必要)。それ
が次の条件を満たすとき、B は σ-加法族(σ-field) をなすという。
(i) ∅ ∈ B
(ii) A ∈ B ⇒ Ac ∈ B (Ac は全体集合 Rd に関する A の補集合を表す。)
∪
(iii) An ∈ B ∀n ∈ N ⇒ ∞
n=1 An ∈ B
(iii) において合併 (union) の対象となるのは 可算無限個(countably infinite) の集合達である
ことを注意してほしい。以後、“B は Rd 上の σ-加法族である” という表現を使う。
2
既にふれたように面積など内容豊富なもの扱うには量を測る対象としての B はある程度絞
り込む必要がある。そこで開集合や閉集合など重要なものだけを取り込むというスタンスに
なることを後に第 10 節などで解説する。
✓
記号
✏
R≥0 := {x ∈ R : x ≥ 0}, R := R ∪ {−∞, +∞}.
✒
✑
1.3 定義. Rd の部分集合の族 B と関数 µ : B → R について次の条件が成り立つとき、(B, µ)
(定義域 B を省略することも多い)は Rd 上の測度(measure) であるという。
(i) B は Rd 上の σ-加法族をなす
(ii) µ(A) ≥ 0 ∀A ∈ B (+∞ も許す)かつ µ(∅) = 0
∪
∑∞
(iii) An ∈ B ∀n ∈ N, An ∩ Am = ∅ n ̸= m ⇒ µ( ∞
n=1 An ) =
n=1 µ(An )
(iii) においては +∞ に発散する場合も許す。性質 (iii) を σ-加法性(σ-additivity) という。
今の段階では次のことを記憶にとどめて貰いたい。
✓
予告
✏
R2 上で B としては Jordan の意味で面積確定な集合をすべて含むものが設定で
きてかつ A を長方形とするとき µ(A) = 縦 × 横 となる測度 µ が一意的に存在
する。これが 2 次元ルベーグ測度 (Lebesgue measure) と呼ばれるものである。
✒
✓
前提
以下、(B, µ) を Rd 上の測度とする。
✒
✑
✏
✑
披積分関数となるのは (1.1) で提示した各集合が σ-加法族 B に属するものたちである。
1.4 定義. 次の条件を満たす関数 f : Rd → R は B-可測(measurable) であるという。
{x ∈ Rd : f (x) < a} ∈ B ∀a ∈ R.
このとき f を B-可測関数(measurable function) と呼ぶ。一方 σ-加法族 B に属する集合は B可測集合(measurable set) と呼ばれる。
1.5 定義. 次の条件を満たす関数 f : Rd → R を B-単関数(simple function) と呼ぶ。
B-可測、−∞, +∞ という値はとらない、像 f (Rd ) = {f (x) ; x ∈ Rd } は有限集合
✓
記号
✏
関数 f : Rd → R に対し Image f := f (Rd ), f −1 {y} := {x ∈ Rd : f (x) = y}
✒
✑
集合 f −1 {y} は y の g による逆像 (inverse image あるいは preimage) と呼ばれる。論理的に
は、先に進む前に次を確かめておく必要がある。
3
f : Rd → R B-可測 ⇒ f −1 {y} ∈ B ∀y ∈ R
これは量 µ(f −1 {y}) が定義可能であることにつながるのだが先を急ごう。
✓
記号
✏
関数 f , g : Rd → R に対し条件 g(x) ≤ f (x) ∀x ∈ Rd を g ≤ f と表記する。
✒
✑
1.6 定義. 関数 f : Rd → R を非負値(+∞ の値をとることも許す)かつ B-可測なものとす
る。つぎで定義される量(+∞ も許す)を f の µ についての積分(integral) と言う。
∫
∑
f µ := sup{
yµ(g −1 {y}) ; g 非負値 B-単関数, g ≤ f }
Rd
y∈Image g
g ≤ f なる非負値 B-単関数 g にたいして
∑
yµ(g −1 {y})
y∈Image g
は Riemann 積分で言うところの不足和に対応するものである。またそのような g について
の上限は、下積分に対応しているのであるが、f の B-可測性と µ の σ-加法性によりこれが自
動的に積分の定義となってしまうところが測度論的な積分の長所である。ここで、感じをつ
かむために次の演習問題を解いておこう。
1.7 演習問題. 単関数の数列版を単純数列と呼ぼう。すなわち bn が単純数列であるとは
bn は −∞, +∞ の値はとらない。像 {bn ; n ∈ N} は有限集合。
an を非負値の数列とする。次が成り立つことを示せ。
∞
∑
n=1
∞
∑
bn ; bn 非負値の単純数列, bn ≤ an ∀n}
an = sup{
n=1
数列の話がでたついでに正項級数および級数の絶対収束性について復習をしておこう。
∑n
∑
(i) 正項級数にたいして ∞
k=1 ak (+∞ も許す)
n=1 an = supn
(ii) 絶対収束級数は収束する。
(iii) 収束する優級数が存在するなら絶対収束する。
測度論的な積分は絶対収束の世界における産物である。関数 f : Rd → R に対して次が成
り立つことを思い出そう。
f (x) = max{f (x), 0} − max{−f (x), 0}, |f (x)| = max{f (x), 0} + max{−f (x), 0} ∀x ∈ Rd .
先に進む前に次を確かめておく必要がある。
f : Rd → R B-可測 ⇒ |f |, max{f, 0}, max{−f, 0} 非負値 B-可測
4
1.8 定義. 関数 f : Rd → R を B-可測なものとする。それが次の条件を満たすとき、f は µ可積分(integrable) であるという。
∫
∫
max{f, 0} µ < +∞,
max{−f, 0} µ < +∞.
Rd
Rd
µ-可積分であるときつぎで定義される量を f の µ についての積分と言う。
∫
∫
∫
f µ :=
max{f, 0} µ −
max{−f, 0} µ.
Rd
Rd
Rd
実は次が成り立つので次の節以降はこれが可積分性の定義となる。
B-可測関数 f : Rd → R が µ-可積分であるための必要十分条件は
∫
|f | µ < +∞.
Rd
(B, µ) を 2 次元ルベーグ測度とするとき次が成り立ち Riemann 積分と結びつく。
連続関数 f : R2 → R に対して
(i) f は B-可測である。
(ii) f の広義積分が絶対収束する ⇔
∫ f が µ-可積分
(iii) µ-可積分なとき、広義積分と
f µ は一致する。
R2
測度論的な積分の真価のひとつはルベーグの収束定理と呼ばれるものである。
f を Rd 上の µ-可積分関数、fn を Rd 上の µ-可積分関数列で次を満たすものとする。
∃g µ-可積分 s.t. |fn (x)| ≤ g(x) ∀n ∈ N ∀x ∈ Rd , lim fn (x) = f (x) ∀x ∈ Rd
n→∞
∫
このとき数列
Rd
∫
fn µ は
f µ に収束する。
Rd
1.9 例. f : R → R を有界連続関数とする。このとき
∫ +∞
n
f (x) 2 2
dx は n → ∞ の極限で πf (0) に収束する。
n x +1
−∞
証明. 変数変換により与えられた積分は次に等しい。
∫ +∞
f (x/n)
dx
2
−∞ x + 1
関数 f は連続なので、
lim f (x/n)/(x2 + 1) = f (0)/(x2 + 1) ∀x ∈ R.
n→∞
関数 f は有界なので、∃M < +∞ s.t. |f (y)| ≤ M ∀y ∈ R. g(x) := M/(x2 + 1) とおくと
関数 g は可積分かつ |f (x/n)/(x2 + 1)| ≤ g(x) ∀n ∈ N ∀x ∈ R.
∫ +∞
従ってルベーグの収束定理が適用できる。極限値は −∞ f (0)/(x2 +1) dx = πf (0) である。
5
級数の場合に関して演習問題を解いておこう。
1.10 演習問題. amn を数列で次を満たすものとする。
∃bm s.t. |amn | ≤ bm ∀m ∀n ∈ N,
∞
∑
m=1
このとき
∞
∑
bm < +∞, lim amn = 0 ∀m ∈ N
n→∞
amn は n → ∞ の極限で 0 に収束することを示せ。
m=1
単関数の積分
2
この節では単関数の積分についていくつか基本的な性質を明らかにしておく。
✓
前提
✏
(B, µ) を Rd 上の測度とする。
✒
✑
関数の可測性については定義 1.4 で規定したとおりだが、状況に応じて使いやすい形が違
うのでいろいろ言い換えてみよう。
2.1 補題. 関数 f : Rd → R について以下の 4 条件は同値である。
(i) f は B-可測である。
(ii) {x ∈ Rd : f (x) ≥ a} ∈ B ∀a ∈ R
(iii) {x ∈ Rd : f (x) ≤ a} ∈ B ∀a ∈ R
(iv) {x ∈ Rd : f (x) > a} ∈ B ∀a ∈ R
証明. (i) と (ii) の同値性は以下の関係と定義 1.2(ii) から分かる。
{x ∈ Rd : f (x) < a} と {x ∈ Rd : f (x) ≥ a} は互いに他方の補集合
条件 (i) が成り立つなら前者は B に属し、条件 (ii) が成り立つなら後者は B に属するからで
ある。(iii) と (iv) の同値性についても同様に議論できる。次に条件 (ii) が成り立つと仮定し
て、条件 (iv) が成り立つことを導こう。キ−となる以下の関係を示すのは演習問題に委ねる。
(2.2)
{x ∈ R : f (x) > a} =
d
∞
∪
{x ∈ Rd : f (x) ≥ a + 1/n}
n=1
条件 (ii) のもとでは、(2.2) 右辺の各集合は B に属する。それらの可算合併は、定義 1.2(iii)
により、B に属する。従って、条件 (ii) から条件 (iv) が導かれる。以下の関係
{x ∈ R : f (x) < a} =
d
∞
∪
{x ∈ Rd : f (x) ≤ a − 1/n}
n=1
を使って、条件 (iii) から条件 (i) を導くことも同様に議論できる。
6
(i) ⇔ (ii)
⇑
⇓
(iii) ⇔ (iv)
という論理の循環図式ができあがったので、4 条件は同値である。
2.3 演習問題. (2.2) を証明せよ。
ここでちょっとしたトリックにふれる。
2.4 補題. (i) Rd ∈ B.
(ii) A, B ∈ B ⇒ A ∪ B, A ∩ B ∈ B.
∩
(iii) An ∈ B ∀n ∈ N ⇒ ∞
n=1 An ∈ B.
証明. 定義 1.2(i), (ii) により Rd = ∅c ∈ B である。(ii) 前半を示すのに使うトリックは
A1 := A, A2 := B, An = ∅ n ≥ 3
とおくことである。このとき An ∈ B ∀n ∈ N であるから、定義 1.2(iii) により
A∪B =
∞
∪
An ∈ B.
n=1
(iii) を示すには集合演算のルールを使う。
∞
∩
n=1
An =
∞
(∪
(An )c
)c
n=1
定義 1.2(ii), (iii) を使うと、An ∈ B ∀n ∈ N という仮定のもと右辺が B に属することが導か
れる。(ii) 後半を (iii) から導くのに使うトリックは
A1 := A, A2 := B, An = Rd n ≥ 3
とおくことである。
2.5 系. 関数 f : Rd → R が B-可測なら、{x ∈ Rd : a ≤ f (x) < b} ∈ B ∀a < ∀b である。
証明. {x ∈ Rd : a ≤ f (x) < b} = {x ∈ Rd : f (x) < b} ∩ {x ∈ Rd : f (x) ≥ a} を使う。右辺の
各集合は補題 2.1 により B に属し、共通部は補題 2.4(ii) により B に属する。
2.6 補題. A, B ∈ B, A ∩ B = ∅ ⇒ µ(A ∪ B) = µ(A) + µ(B). 有限加法性(finite additivity)
証明. 補題 2.4 の証明と同じトリックを使って、定義 1.3(iii) から結論を引き出す。
✓
約束
✏
以後、測度の σ-加法性というときは有限加法性も込める。
✒
7
✑
2.7 定義. f : Rd → R を非負値 B-単関数とする。
∫
∑
f µ :=
yµ(f −1 {y}) 値としては +∞ も許容
Rd
y∈Image f
もし 0 ∈ Image f かつ µ(f −1 {0}) = +∞ の場合にはそれらの積は 0 と約束をしておく。
✓
約束および警告
✏
R≥0 := {x ∈ R : x ≥ 0} における加法および乗法を R≥0 ∪ {+∞} にまで拡張してお
こう。問題なのは 0 と ∞ の積であるがこれを 0 と約束する。重要なのは分配則
a(x + y) = ax + ay ∀a∀x∀y ∈ R≥0 ∪ {+∞}
が生き残るところである。だが調子に乗って ∞ − ∞ = (1 − 1)∞ = 0∞ = 0 という
類の計算をしてはいけない。分配法則の運用は慎重になる必要がある。
✒
✑
2.8 補題. 非負値 B-単関数の積分は非負であり、恒等的に値 0 をとる関数の積分は 0 である。
証明. 定義 2.7 から直ちに分かる。
2.9 補題. g : Rd → R を Image g が有限集合であるような関数とする。このときその B-可測
性は条件 g −1 {y} ∈ B ∀y ∈ Image g と同値である。
証明. 論理図式 g B-可測 ⇒ g −1 {y} ∈ B ∀y ∈ Image f を示すには次の関係を使う。
g −1 {y} = {x ∈ Rd : g(x) = y} = {x ∈ Rd : g(x) ≤ y} ∩ {x ∈ Rd : g(x) ≥ y}
g の可測性により右辺の各集合は B に属する。それらの共通部としてあらわされる g −1 {y} も
B に属する。逆向きの論理図式 g −1 {y} ∈ B ∀y ∈ Image g ⇒ g B-可測を示すには関係
∪
{x ∈ Rd : g(x) < a} =
g −1 {y}
y∈Image g:y<a
を使えば良い。Image g は有限集合であるから右辺は有限合併である。
2.10 注意. 補題 2.9 の同値性は Image g が可算無限であるという前提のもとでも成り立つ。
✓
記号
✏
集合 A に対しその要素の個数を ♯A と表記する。
✒
✑
2.11 補題. f, g : Rd → R を B-単関数、φ : R2 → R を関数(可測性などは要求しない)とす
る。合成関数 h : Rd → R, x → φ(f (x), g(x)) も B-単関数である。
証明. まず関数 h の像が有限集合であることを確かめる。次の関係が決定的である。
(2.12)
Image(f, g) := {(f (x), g(x)) ; x ∈ Rd } ⊂ {(y, z) ; y ∈ Image f, z ∈ Image g}.
8
(左辺の方が右辺より真に小さい集合でありうる。具体例を与えてみよ。)従って
♯ Image(f, g) ≤ ♯ Image f ♯ Image g
他方、関数 h の像については
Image h = {φ((f (x), g(x)) ; x ∈ Rd } = {φ(y, z) ; (y, z) ∈ Image(f, g)} = φ(Image(f, g))
という関係が成り立つ。以上により
♯ Image h ≤ ♯ Image(f, g) ≤ ♯ Image f ♯ Image g < +∞
関数の B-可測性のチェックポイントとしては補題 2.9 にあるものを使おう。(2.12) により
∪
(2.13) {x ∈ Rd : φ(f (x), g(x)) = t} =
{x ∈ Rd : f (x) = y, g(x) = z}
y∈Image f,z∈Image g:φ(y,z)=t
右辺の各集合は f −1 {y} ∩ g −1 {z} と表現でき、補題 2.9 と補題 2.4 により、B に属すること
がわかる。右辺はそのような集合の有限合併であるからやはり B に属する。
2.14 系. B-単関数 f, g と a, b ∈ R に対し 1 次結合 af + bg と積 f g も B-単関数である。
証明. φ(y, z) = ay + bz あるいは φ(y, z) = yz として補題 2.11 を適用する。
2.15 補題. h : Rd → R を非負値 B-単関数、A を R≥0 の有限部分集合とする。
∫
∑
Image h ⊂ A ⇒
hµ =
tµ(h−1 {t})
Rd
t∈A
証明. 右辺の方が余分に加えていることになるが、実際は t ̸∈ Image h なら h−1 {t} = ∅ であ
る。測度の性質により µ(∅) = 0 だから、余分に足しているところは影響しない。
2.16 定理. f, g : Rd → R を B-単関数、φ : R2 → R を非負値関数とする。合成関数 h : Rd → R,
x → φ(f (x), g(x)) は非負値 B-単関数であって
∫
∑
φ(f, g) µ =
φ(y, z)µ(f −1 {y} ∩ g −1 {z})
Rd
y∈Image f,z∈Image g
証明. h が単関数であることはすでに補題 2.11 で示した。さて (2.13) を書き直すと
∪
h−1 {t} =
f −1 {y} ∩ g −1 {z}
y∈Image f,z∈Image g:φ(y,z)=t
次が最大のポイントである。
右辺の集合たちは B に属しかつ互いに交わらない。
9
有限合併であるから補題 2.6 を適用できる。したがって
∑
tµ(h−1 {t}) =
tµ(f −1 {y} ∩ g −1 {z})
y∈Image f,z∈Image g:φ(y,z)=t
∑
=
φ(y, z)µ(f −1 {y} ∩ g −1 {z})
y∈Image f,z∈Image g:φ(y,z)=t
ただし両辺に t を掛けてある。ここで (2.12) によれば
Image h = φ(Image(f, g)) ⊂ {φ(y, z) ; y ∈ Image f, z ∈ Image g} =: A
補題 2.15 を念頭に置いて、t について A 上で足しあわせよう。
∑
∑
∑
(⋆)
tµ(h−1 {t}) =
φ(y, z)µ(f −1 {y} ∩ g −1 {z})
t∈A
t∈A y∈Image f,z∈Image g:φ(y,z)=t
有限集合 A の選び方により、右辺は次に一致する。
∑
φ(y, z)µ(f −1 {y} ∩ g −1 {z})
y∈Image f,z∈Image g
他方、補題 2.15 により (⋆) の左辺は h の積分と等しい。
2.17 系. f, g : Rd →
∫ R を非負値 B-単関数とする。
∫
∫
(i) a, b ∈ R≥0 なら
(af + bg) µ = a
fµ+b
g µ. (右辺においては 0∞ = 0)
Rd
Rd
Rd
∫
∫
(ii) g ≤ f なら
gµ ≤
f µ.
Rd
Rd
∫
∫
(iii) max{
h µ ; h 非負値 B-単関数, h ≤ f } =
f µ.
Rd
Rd
証明. まず φ(y, z) = a max{y, 0} + b max{z, 0} として定理 2.16 を適用する。非負値 B-単関
数 af + bg に対してつぎの関係が得られる。
∫
∑
(af + bg) µ =
(ay + bz)µ(f −1 {y} ∩ g −1 {z})
Rd
y∈Image f,z∈Image g
右辺を変形するためにさらに φ(y, z) = max{y, 0} として定理 2.16 を適用してみよう。
∫
∑
fµ=
yµ(f −1 {y} ∩ g −1 {z})
Rd
y∈Image f,z∈Image g
同様にして次も導くことができる。
∫
gµ =
Rd
∑
zµ(f −1 {y} ∩ g −1 {z})
y∈Image f,z∈Image g
以上を組み合わせると (i) がわかる。さて系 2.14 により f − g も B-単関数である。非負値で
あるからその積分は補題 2.8 により非負値である。そこで (i) を適用して
∫
∫
∫
∫
∫
fµ=
(f − g + g) µ =
(f − g) µ +
gµ ≥
gµ
Rd
Rd
Rd
となる。よって (ii) が示せた。(iii) は (ii) から直ちに従う。
10
Rd
Rd
✓
記号
✏
Rd の部分集合 A に対しその定義関数(indicator function) を 1A と表記する。
1A (x) :=
{
1 x∈A
0 x ∈ Ac
✒
✑
2.18 補題. R の部分集合 A に対し、同値性 A ∈ B ⇔ 1A B-可測 が成り立つ。
d
2.19 演習問題. 補題 2.18 を証明せよ。
2.20 補題. A1 , A2 , . . . , An ∈ B, b1 , b2 , . . . , bn ∈ R≥0 とする。このとき
B-単関数であって次が成り立つ。
∫ ∑
n
n
∑
bi 1Ai µ =
bi µ(Ai ).
Rd i=1
∑n
i=1 bi 1Ai
は非負値
i=1
2.21 演習問題. 補題 2.20 を証明せよ。
3
非負値可測関数の積分
この節では非負値可測関数の積分についていくつか基本的な性質を明らかにしておく。
✓
前提
✏
(B, µ) を Rd 上の測度とする。
✒
✑
積分を測度論の設定で述べるのは、解析の現場で直面する極限の交換操作が柔軟に行え、
しかもその判定条件が簡潔であるという大きなメリットがあるからである。その中心となる
のが単調収束定理であり、定義 1.6 の中に最初から組み込まれている。再確認しよう。
関数 f : Rd → R を非負値かつ B-可測なものとする。
∫
∫
f µ := sup{
g µ ; g 非負値 B-単関数, g ≤ f } 値としては +∞ も許容
Rd
Rd
系 2.17(iii) により単関数から可測関数への拡張はシ−ムレスである。
3.1 補題. 非負値 B-可測関数の積分は非負値である。
証明. 非負値 B-単関数の積分は非負値であることから従う。
✓
約束および再警告
✏
0 と +∞ の積、0 と −∞ の積はともに 0 とする。だが調子に乗っ
て limn→∞ n1 n2 = limn→∞ n1 limn→∞ n2 = 0∞ = 0 という類の計算
をしてはいけない。極限操作の運用は慎重になる必要がある。
✒
11
✑
3.2 補題. B-可測関数 f : Rd → R と a ∈ R に対して af も B-可測である。
3.3 演習問題. 補題 3.2 を示せ。
✓
記号
✏
R≥0 := {x ∈ R : x ≥ 0}, R>0 := {x ∈ R : x > 0}.
✒
✑
3.4 補題. f, g :∫Rd → R を非負値
B-可測関数とする。
∫
∫
∫
(i) a ∈ R≥0 ⇒
af µ = a
f µ. (ii) g ≤ f ⇒
gµ ≤
f µ. 積分の単調性
Rd
Rd
R∫d
Rd
1
f µ. Markov の不等式
(iii) A ∈ B, b ∈ R>0 , b ≤ f (x) ∀x ∈ A ⇒ µ(A) ≤
b Rd
証明. (i), (ii) は演習問題とする。補題 2.20 によれば、b1A は非負値 B-可測関数で
∫
b1A µ = bµ(A)
Rd
がなりたつ。一方 b1A ≤ f が満たされる。よって (ii) を適用して
∫
∫
b1A µ ≤
fµ
Rd
Rd
を得る。b > 0 で割ることにより結論 (iii) に至る。
3.5 演習問題. 補題 3.4(i), (ii) を示せ。
3.6 系. f : Rd → R を非負値
B-可測関数とする。
∫
(i) f −1 {+∞} ∈ B. (ii)
Rd
f µ < +∞ ⇒ µ(f −1 {+∞}) = 0.
∩∞
証明. (i) は関係 f −1 {+∞} = n=1 {x ∈ Rd : f (x) ≥ n} から導かれる。(ii) を示すには
A = f −1 {+∞} として補題 3.4(iii) をを適用する。
単調収束定理を次の命題に帰着させて証明する。そのさい測度の σ-加法性が重要になる。
3.7 補題. an , bn 非負値単調増加列 ⇒ supn∈N (an + bn ) = supn∈N an + supn∈N bn .
3.8 演習問題. 補題 3.7 を示せ。ただし数列 an , bn は値 +∞ を取りうることに注意せよ。
✓
記号
✏
集合 A, B に対し A ⊂ B の場合に B \ A := {x ∈ B : x ̸∈ A} と表記する。
✒
3.9 補題. (i) A, B ∈ B, A ⊂ B ⇒ µ(A) + µ(B \ A) = µ(B), µ(A) ≤ µ(B).
(ii) A, B ∈ B, A ⊂ B, µ(A) < +∞ ⇒ µ(B \ A) = µ(B) − µ(A).
証明. B \ A = B ∩ Ac ∈ B, A ∩ (B \ A) = ∅ なので有限加法性が適用できる。
12
✑
∪
3.10 補題. (i) An ∈ B ∀n ∈ N, An ⊂ An+1 ∀n ∈ N ⇒ supn∈N µ(An ) = µ( ∞
n=1 An )
∩
(ii) An ∈ B ∀n ∈ N, An ⊃ An+1 ∀n ∈ N, µ(A1 ) < +∞ ⇒ inf n∈N µ(An ) = µ( ∞
n=1 An )
証明. (i) B1 := A1 , Bn := An \ An−1 for n ≥ 2 とおく。このとき
n
∪
(3.11)
∞
∪
Bk = An ∀n ∈ N,
k=1
Bk =
k=1
∞
∪
Ak
k=1
Bn ∈ B ∀n ∈ N, Bn ∩ Bm = ∅ if n > m
(3.12)
(3.11) を示すのは演習問題とする。(3.12) 後半は Bn ⊂ (An−1 )c と Bm ⊂ Am ⊂ An−1 を使う
と確かめられる。µ の σ-加法性を適用すると次が得られる。
µ(An ) = µ(
n
∪
k=1
Bk ) =
n
∑
µ(Bk ) ∀n ∈ N,
k=1
∞
∑
µ(Bk ) = µ(
k=1
An = A1 \ Bn ,
(3.13)
An = A1 \
Bk ) = µ(
k=1
∪∞
従って supn∈N µ(An ) = µ( k=1 Ak ) である。
(ii) 今度は Bn := A1 \ An for n ∈ N とおく。このとき
∞
∩
∞
∪
∞
∪
∞
∪
Ak )
k=1
Bn
n=1
n=1
ここで重要な仮定 µ(A1 ) < +∞ を使う。補題 3.9(i) により
µ(Bn ) ≤ µ(A1 ) < +∞ ∀n ∈ N, µ(
∞
∪
Bn ) ≤ µ(A1 ) < +∞
n=1
である。よって補題 3.9(ii) により
µ(An ) = µ(A1 ) − µ(Bn ), µ(
∞
∩
An ) = µ(A1 ) − µ(
n=1
∞
∪
Bn )
n=1
さて Bn ∈ B ∀n ∈ N, Bn ⊂ Bn+1 ∀n ∈ N なので (i) を適用できる。すなわち supn∈N µ(Bn )
∪∞
∩∞
は µ( n=1 Bn ) に等しい。従って inf n∈N µ(An ) は µ( n=1 An ) に一致する。
3.14 演習問題. (3.11), (3.13) を示せ。
˙ 測関数
˙
3.15 補題. fn を非負値 B-可
Rd → R の列、A ∈ B, b ∈ R>0 とする。
∫
fn ≤ fn+1 ∀n ∈ N, b ≤ sup fn (x) ∀x ∈ A ⇒ bµ(A) ≤ sup
fn µ.
n∈N
n∈N
Rd
証明. 0 < r < b とする。条件 fn ≤ fn+1 から次が従う。
{x ∈ Rd : fn (x) > r} ⊂ {x ∈ Rd : fn+1 (x) > r}.
さて fn たちの B-可測性により、上の各集合は B に属する。よって補題 3.10(i) が適用でき
sup µ({x ∈ R : fn (x) > r}) = µ(
d
n∈N
∞
∪
n=1
13
{x ∈ Rd : fn (x) > r}).
各 x ∈ A に対して supn∈N fn (x) > r 即ちある番号 n が存在して fn (x) > r であるので
A⊂
∞
∪
{x ∈ Rd : fn (x) > r}
n=1
が分かる。従って補題 3.9(i) により
(⋆)
∞
∪
µ(A) ≤ µ(
{x ∈ Rd : fn (x) > r}) = sup µ({x ∈ Rd : fn (x) > r}).
n∈N
n=1
集合 {x ∈ Rd : fn (x) > r} と関数 fn の組に補題 3.4(iii) を適用すると
∫
d
rµ({x ∈ R : fn (x) > r}) ≤
fn µ
Rd
従って (⋆) とあわせて
∫
rµ(A) ≤ sup rµ({x ∈ R : fn (x) > r}) ≤ sup
d
n∈N
Rd
n∈N
fn µ
が導かれる。r は 0 < r < b であれば任意なので結論を得る。
3.16 系. fn を非負値 B-単関数 Rd → R の列、g : Rd → R を非負値 B-単関数とする。
∫
∫
d
fn ≤ fn+1 ∀n ∈ N, g(x) ≤ sup fn (x) ∀x ∈ R ⇒
g µ ≤ sup
fn µ.
Rd
n∈N
Rd
n∈N
証明. y ∈ Image g, y > 0 とする。記号の煩雑を避けるため適宜 A = g −1 {y} とかく。関数
1A fn も系 2.14 により B-単関数である。また非負であることは明らか。
1A fn ≤ 1A fn+1 ∀n ∈ N, y = g(x) ≤ sup 1A (x)fn (x) ∀x ∈ A
n∈N
なので補題 3.15 を適用できる。従って
∫
−1
yµ(g {y}) = yµ(A) ≤ sup
n∈N
Rd
∫
1A fn µ = sup
n∈N
Rd
1g−1 {y} fn µ
上は y = 0 の場合も成り立つ。ここで 1A fn ≤ 1A fn+1 を再び使う。補題 3.4(ii) により
∫
∫
0≤
1g−1 {y} fn µ ≤
1g−1 {y} fn+1 µ ∀n ∈ N ∀y ∈ Image g
Rd
Rd
よって y についての和に対して補題 3.7 を適用できる。
∫
∑
∑
−1
yµ(g {y}) ≤
sup
1g−1 {y} fn µ = sup
y∈Image g
y∈Image g
n∈N
Rd
n∈N
∑
y∈Image g
∫
左辺は定義より
g µ である。従って
Rd
∫
Rd
g µ ≤ sup
n∈N
∑
y∈Image g
14
∫
Rd
1g−1 {y} fn µ
∫
Rd
1g−1 {y} fn µ
あとは各 n ∈ N に対して次の等式の成立を言えば証明が完結する。
∫
∑ ∫
1g−1 {y} fn µ =
fn µ.
Rd
y∈Image g
Rd
各 1g−1 {y} fn は非負値 B 単関数であり系 2.17(i) の前提条件は満たされている。
∑
1g−1 {y} (x)fn (x) = fn (x) ∀x ∈ Rd
y∈Image g
であるので上の等式が成立することを得る。
✓
記号
✏
各 n ∈ N に対して次の関数 φn : R → R を導入する。


0
y < 1/2n


φn (y) :=
(k − 1)/2n



n
(k − 1)/2n ≤ y < k/2n , k = 2, 3, . . . , 2n n
y≥n
✒
✑
3.17 補題. (i) φn (y) ≤ φn+1 (y) ≤ y ∀n ∈ N ∀y ∈ R. y < z ⇒ φn (y) ≤ φn (z).
(ii) f : Rd → R を非負値 B-可測関数とする。このとき gn : Rd → R, x → φn (f (x)) は非負値
B-単関数であり、列 gn は gn ≤ gn+1 ∀n ∈ N, supn∈N gn (x) = f (x) ∀x ∈ Rd を満たす。
証明. (i) のチェックは演習問題とする。(ii) (1.1) で登場した分割を考える。
A(n, k) := {x ∈ Rd : (k − 1)/2n ≤ f (x) < k/2n } k = 2, 3, . . . , 2n n
A(n, ∞) := {x ∈ Rd : f (x) ≥ n}
系 2.5 により上にあげた集合はいずれも B に属する。gn が非負値 B-単関数であるのは
n2
∑
k−1
n
gn =
k=2
2n
1A(n,k) + n1A(n,∞)
よりわかる。あとは supn∈N φn (y) = max{y, 0} ∀y ∈ R を使えばよい。
次は単調収束定理(monotone convergence theorem) と呼ばれる。
3.18 定理. fn を非負値 B-可測関数 Rd → R の列、f : Rd → R を非負値 B-可測関数とする。
∫
∫
d
fn ≤ fn+1 ∀n ∈ N, sup fn (x) = f (x) ∀x ∈ R ⇒ sup
fn µ =
f µ.
n∈N
n∈N
Rd
Rd
証明. まず各 fn は非負値 B-可測関数で fn ≤ f を満たすから、補題 3.4(ii) より
∫
∫
∫
∫
fn µ ≤
f µ ∀n ∈ N 従って sup
fn µ ≤
f µ.
Rd
Rd
n∈N
15
Rd
Rd
他方 fn ≤ fn+1 であるから補題 3.17(i) より
φn (fn (x)) ≤ φn+1 (fn (x)) ≤ φn+1 (fn+1 (x)) ∀x ∈ Rd ∀n ∈ N.
k ∈ N をひとまず固定する。k ≤ n なる番号 n ∈ N に対して fk ≤ fn であるから
φn (fk (x)) ≤ φn (fn (x)) ∀x ∈ Rd
補題 3.17(ii) より fk (x) = supn∈N φn (fk (x)) ∀x ∈ Rd であるから
fk (x) ≤ sup φn (fn (x)) ∀x ∈ Rd ∀k ∈ N 従って sup fk (x) ≤ sup φn (fn (x)) ∀x ∈ Rd
n∈N
n∈N
k∈N
ここで g : Rd → R を非負値 B-単関数で g ≤ f を満たすものとしよう。
g(x) ≤ f (x) = sup fk (x) ≤ sup φn (fn (x)) ∀x ∈ Rd
n∈N
n∈N
合成関数 x → φn (fn (x)) は非負値 B-単関数なので系 3.16 により
∫
∫
g µ ≤ sup
φn ◦ fn µ
Rd
n∈N
Rd
が得られる。さて φn (fn (x)) ≤ fn (x) であったので補題 3.4(ii) より
∫
∫
∫
g µ ≤ sup
φn ◦ fn µ ≤ sup
fn µ
Rd
n∈N
Rd
n∈N
Rd
g : Rd → R は非負値 B-単関数で g ≤ f であれば任意なので、積分の定義より
∫
∫
f µ ≤ sup
fn µ
Rd
n∈N
Rd
これと証明冒頭で述べたことを合わせて結論を得る。
4
可積分関数とその積分
可積分な可測関数とその積分についていくつか基本的な性質を明らかにする。
✓
前提
(B, µ) を Rd 上の測度とする。
✒
✏
✑
積分と呼ばれるには相応しい性質が備わっていなければならぬ。その一つが補題 3.4(ii) で
述べた単調性で、もう一つは線形性である。ただし、関数のとる値として +∞, −∞ も許し
ているので少々注意が必要である。∞ − ∞ を回避するために次のように取り決める。
✓
約束
✏
関数 f, g : Rd → R に対して条件 {x ∈ Rd : f (x) = +∞, g(x) = −∞} = ∅,
{x ∈ Rd : f (x) = −∞, g(x) = +∞} = ∅ が成立するときに限って和 f + g を考える。
✒
16
✑
次にはっきりさせておくべきは可測性である。
4.1 補題. f, g : Rd → R を B-可測関数とする。和が定義可能なら f + g も B-可測である。
証明. 次の関係を使えばよいがその検証は演習問題に委ねる。
∪
(4.2)
{x ∈ Rd : f (x) + g(x) > a} =
{x ∈ Rd : f (x) > b, g(x) > a − b}
b∈Q
ここで、有理数全体 Q の可算性により、右辺は可算無限合併である。
4.3 演習問題. (4.2) を示せ。
4.4 定理. f, g : Rd → R を非負値 B-可測関数とする。和 f + g も非負値 B-可測であって
∫
∫
∫
(f + g) µ =
fµ+
g µ. 積分の線形性
Rd
Rd
Rd
証明. 関数 f , g に対して補題 3.17(ii) の手続きで構成される非負値 B 単関数の列をそれぞれ
fn , gn とする。このとき非負値 B 可測関数の列 fn + gn は fn + gn ≤ fn+1 + gn+1 ∀n ∈ N を
満たし、さらに補題 3.7 により
sup(fn (x) + gn (x)) = sup fn (x) + sup gn (x) = f (x) + g(x) ∀x ∈ Rd
n∈N
n∈N
n∈N
従って列 fn + gn に定理 3.18 を適用して
∫
∫
(f + g) µ = sup
(fn + gn ) µ
Rd
n∈N
Rd
fn , gn は非負値 B 単関数であるから右辺は系 2.17(i) により次に等しい。
∫
∫
∫
∫
sup(
fn µ +
gn µ) = sup
fn µ + sup
gn µ
n∈N
Rd
Rd
n∈N
Rd
n∈N
Rd
∫
∫
ここで再び補題 3.7 を適用したわけだが、事前に fn ≤ fn+1 なので Rd fn µ ≤ Rd fn+1 µ で
あると確認するのを怠ってはいけない。列 fn , gn それぞれに定理 3.18 を適用して得られる
∫
∫
∫
∫
sup
fn µ =
f µ, sup
gn µ =
gµ
n∈N
Rd
Rd
n∈N
Rd
Rd
の和をとったものがまさに示そうとしていた等式の右辺である。
4.5 補題. f : Rd → R を B-可測関数とする。このとき |f |, max{f, 0}, max{−f, 0} はいずれ
も非負値 B-可測関数であって次の同値性が成り立つ。
∫
∫
∫
|f | µ < +∞ ⇔
max{f, 0} µ < +∞,
max{−f, 0} µ < +∞.
Rd
Rd
Rd
17
証明. 関数 max{f, 0} の B-可測性を確かめる。それは以下の関係から分かる。
{
{x ∈ Rd : max{f (x), 0} < a} =
∅
if a ≤ 0
{x ∈ R : f (x) < a} if a > 0
d
同様にして max{−f, 0} の可測性も導ける。さて |f | = max{f, 0} + max{−f, 0} である。定
理 4.4 を使うと |f | の可測性と次の等式を得る。
∫
∫
∫
|f | µ =
max{f, 0} µ +
max{−f, 0} µ.
Rd
Rd
Rd
従って同値性が得られた。
補題 4.5 をふまえて定義 1.8 を再確認しておこう。
f : Rd → R を B-可測関数とする。f が µ-可積分であるとは
∫
|f | µ < +∞
Rd
が成り立つことをいう。このとき f の µ についての積分を次で定義する。
∫
∫
∫
f µ :=
max{f, 0} µ −
max{−f, 0} µ.
Rd
Rd
Rd
非負値関数については max{−f, 0} = 0 であるから、非負値可測関数から
一般の可測関数への拡張はやはりシ−ムレスである。
✓
約束
✏
B-可測かつ µ-可積分な関数を今後は (B, µ)-可積分関数(integrable function) と言うことにする。
✒
✑
次は可積分性判定(integrability criterion) を優関数により行う手順で、非常に有効である。
4.6 演習問題. f, g : Rd → R を B-可測関数とする。|f | ≤ g (従って g は非負値) でありかつ
∫
g µ < +∞ であるなら f は µ-可積分であることを示せ。
Rd
以下、可積分な可測関数とその積分について基本的な性質を列挙していくわけだが、とり
わけ定理 4.7、定理 4.9 および定理 4.10 に提示される不等式は多くの場面で登場する重要な
ものである。
✓
約束と再警告
✏
0 と +∞ の積、0 と −∞ の積はともに 0 とする。だが調子に乗って
∞ − ∞ = (1 − 1)∞ = 0∞ = 0 という類の計算をしてはいけない。
分配法則の運用は慎重になる必要がある。
✒
18
✑
4.7 定理. f : Rd → R を (B, µ)-可積分関数とする。 ∫
∫
(i) a ∈ R に対して af も (B, µ)-可積分関数であって
af µ = a
f µ.
Rd
∫
∫
∫
∫ Rd
|f | µ が成り立つ。
fµ ≤
|f | µ = 0 ⇒
(ii) 不等式
fµ=0
Rd
Rd
Rd
Rd
4.8 演習問題. 定理 4.7 を示せ。
次の定理は積分の単調性を可積分関数について述べている。
∫
4.9 定理. f, g : R → R を (B, µ)-可積分関数とする。g ≤ f ⇒
∫
d
Rd
gµ ≤
f µ.
Rd
証明. g ≤ f なので条件
max{g, 0} ≤ max{f, 0}, max{−f, 0} ≤ max{−g, 0}
が成り立ち、補題 3.4(ii) が適用できる。すなわち
∫
∫
∫
∫
max{g, 0} µ ≤
max{f, 0} µ,
max{−f, 0} µ ≤
Rd
Rd
Rd
max{−g, 0} µ.
Rd
各積分は有限の値であるから、辺々たしあわせて移項すると求める不等式に至る。
次の定理は積分の線形性を可積分関数について述べている。
4.10 定理. f, g : Rd → R を (B, µ)-可積分関数とする。和が定義可能なら f + g も (B, µ)-可
積分であり次が成り立つ。
∫
∫
∫
∫
∫
∫
|f + g| µ ≤
|f | µ +
|g| µ,
(f + g) µ =
fµ+
gµ
Rd
Rd
Rd
Rd
Rd
Rd
証明. 和が定義可能なので f + g も B-可測である。さらに |f + g| ≤ |f | + |g| であるから、補
題 3.4(ii) と定理 4.4 を適用して最初の不等式が得られる。従って f + g も µ-可積分である。
さて f (x) = +∞, g(x) = −∞ となる x ∈ Rd は存在しない。また f (x) = −∞, g(x) = +∞
となる x ∈ Rd も存在しない。よって
max{f + g, 0} + max{−f, 0} + max{−g, 0} = max{−f − g, 0} + max{f, 0} + max{g, 0}
という関係が成り立ち、定理 4.4 が適用できる。すなわち
∫
∫
∫
max{f + g, 0} µ +
max{−f, 0} µ +
max{−g, 0} µ
Rd
Rd
Rd
∫
∫
∫
=
max{−f − g, 0} µ +
max{f, 0} µ +
max{g, 0} µ
Rd
Rd
Rd
各積分は有限の値であるから、移項して整理すると
∫
∫
max{f + g, 0} µ −
max{−f − g, 0} µ
Rd
Rd
∫
∫
∫
∫
=
max{f, 0} µ −
max{−f, 0} µ +
max{g, 0} µ −
Rd
Rd
Rd
Rd
左辺は f + g の積分であり、右辺は f , g それぞれの積分の和である。
19
max{−g, 0} µ
4.11 注意. 定理 4.10 ではいちいち和が定義可能ならという前提がつくのが何とも煩わしい。
これから逃れるには、測度 0 という概念を導入して少し議論する必要がある。
✓
記号
✏
∫
B-可測関数 f : R → R に対し ∥f ∥1 :=
d
Rd
L1 セミノルム(semi-norm) という。
|f | µ を f の
✒
✑
L1 セミノルムは補題 3.4(i) と定理 4.10 により以下に述べる性質を持つ。
∥f ∥1 ≥ 0, a ∈ R に対し ∥af ∥1 = |a|∥f ∥1 , f + g が定義可能なら ∥f + g∥1 ≤ ∥f ∥1 + ∥g∥1
∥ ∥1 を L1 ノルムではなく L1 セミノルムと呼ぶ理由は次の補題で説明される。
4.12 補題. f : Rd → R を B-可測関数とするとき以下は同値である。
∫
|f | µ = 0 ⇔ µ({x ∈ Rd : f (x) ̸= 0}) = 0.
∫
証明. まず
Rd
Rd
|f | µ = 0 と仮定しよう。補題 3.4(iii) によれば各 n ∈ N に対して
∫
µ({x ∈ R : |f (x)| ≥ 1/n}) ≤ n
d
Rd
|f | µ = 0
が成り立つ。ところで {x ∈ Rd : |f (x)| ≥ 1/n} ⊂ {x ∈ Rd : |f (x)| ≥ 1/(n + 1)} かつ
∞
∪
{x ∈ Rd : |f (x)| ≥ 1/n} = {x ∈ Rd : |f (x)| > 0} = {x ∈ Rd : f (x) ̸= 0}
n=1
である。よって補題 3.10(i) により
µ({x ∈ Rd : f (x) ̸= 0}) = sup µ({x ∈ Rd : |f (x)| ≥ 1/n}) = 0.
n∈N
次に µ({x ∈ Rd : f (x) ̸= 0}) = 0 と仮定する。非負値 B-単関数 g で g ≤ |f | を満たすものを
ひとまず固定する。y ∈ Image g, y > 0 としよう。
0 < y = g(x) ≤ |f (x)| ∀x ∈ g −1 {y} 従って g −1 {y} ⊂ {x ∈ Rd : f (x) ̸= 0}
即ち g −1 {y} は µ-測度 0 の集合に包含されるので補題 3.9(i) より、
∫
従って
Rd
y ∈ Image g, y > 0 ⇒ µ(g −1 {y}) = 0
∫
g µ = 0 となり、積分の定義より
|f | µ = 0 を得る。
Rd
20
4.13 演習問題. B-可測関数 f : Rd → R (R でないことに注目)であって条件
µ({x ∈ Rd : f (x) ̸= 0}) = 0
を満たすもの全体は線形空間をなすことを示せ。
4.14 補題. B-可測関数 f, g : Rd → R に対して積 f g も B-可測である。
証明. 関数の値として +∞, −∞ も許すので少し面倒である。a > 0 とする。
{x ∈ Rd : 0 < f (x)g(x) < a}
∪
=
{x : 0 < f (x) < b, 0 < g(x) < a/b} ∪
b∈Q:b>0
∪
{x : b < f (x) < 0, a/b < g(x) < 0}
b∈Q:b<0
というように可算無限合併で表わせ、さらに
{x ∈ Rd : f (x)g(x) ≤ 0} = {x : f (x) ≥ 0, g(x) ≤ 0} ∪ {x : f (x) ≤ 0, g(x) ≥ 0}
である。従って a > 0 のとき
{x ∈ Rd : f (x)g(x) < a} = {x : 0 < f (x)g(x) < a} ∪ {x : f (x)g(x) ≤ 0} ∈ B.
次に
{x ∈ Rd : f (x)g(x) < 0} = {x : f (x) > 0, g(x) < 0} ∪ {x : f (x) < 0, g(x) > 0} ∈ B.
残っているのは a < 0 の場合である。このときは {x ∈ Rd : f (x)g(x) < a} が
∪
∪
{x : f (x) > b, g(x) < a/b} ∪
{x : f (x) < b, g(x) > a/b}
b∈Q:b>0
b∈Q:b<0
に等しいことを使えばよい。
よって B-可測関数 f : Rd → R と A ∈ B に対して 1A f は B-可測である。
4.15 定義. f : Rd → R を B-可測関数、A ∈ B とする。1A f が µ-可積分のとき f は可測集合
A 上で µ-可積分という。f が A 上で非負値または µ-可積分のとき
∫
∫
f µ :=
1A f µ.
Rd
A
を f の可測集合 A 上での積分という。
4.16 注意. 0 と ∞ の積は 0 という約束により 1A (x)f (x) = 0 ∀x ∈ Ac である。
A ∈ B とする。
4.17 補題. f : R∫d → R を∫B-可測関数、
∫
(i) f 非負値 ⇒
fµ=
fµ+
f µ.
Rd
Ac
A
(ii) f は µ-可積分 ⇔ f∫は A 上で∫µ-可積分かつ
Ac 上で µ-可積分
∫
(iii) f は µ-可積分 ⇒
fµ=
fµ+
f µ.
Rd
A
Ac
21
証明. f = 1A f + 1Ac f なので定理 4.4 を適用して (i) が導ける。また |f | に (i) を適用して (ii)
を得る。(iii) は定理 4.10 と (ii) を適用して導ける。
4.18 系. f : Rd → R を B-可測関数、A ∈∫B とする。
(i) µ(A) = 0 ⇒ f は A 上で µ-可積分かつ
f µ = 0.
∫
∫
c
(ii) f µ-可積分(あるいは非負値)、µ(A ) = 0 ⇒
fµ=
f µ.
A
Rd
A
証明. (i) {x ∈ Rd : 1A (x)f (x) ̸= 0} ⊂ A であるから補題 3.9(i) より、
µ({x ∈ Rd : 1A (x)f (x) ̸= 0}) ≤ µ(A) = 0
である。従って補題 4.12 を適用して
∫
Rd
|1A f | µ = 0
∫
を得る。とくに 1A f は µ-可積分である。さらに定理 4.7(ii) より
(ii) µ(Ac ) = 0 なので補題 4.17 と (i) を適用して結論を得る。
f µ = 0 が従う。
A
次は増加集合列により可積分性判定をするもので演習問題 4.6 とセットで効力が強化され
る。証明のポイントは単調収束定理の使い方にあり、次の節の主題と大いにつながる。
4.19 演習問題. f : Rd → R を B-可測関数、An ∈ B n ∈ N を
An ⊂ An+1 ∀n かつ
∞
∪
An = Rd
n=1
であるような集合列とする。このとき次の同値性を示せ。
∫
f µ-可積分 ⇔ sup
|f | µ < +∞
n∈N
5
An
Lebesgue の収束定理
この節では測度論的な積分の長所のひとつである収束定理の明解さを紹介する。その根元
にあるのが定理 3.18 すなわち単調収束定理である。
✓
前提
✏
(B, µ) を Rd 上の測度とする。
✒
✑
5.1 補題. fn を B-可測関数 Rd → R の列とする。以下の関数はすべて B-可測である。
x → sup fn (x), x → inf fn (x), x → lim sup fn (x), x → lim inf fn (x)
n∈N
n∈N
証明. {x ∈ Rd : supn∈N fn (x) > a} =
n→∞
∪∞
n=1 {x
n→∞
∈ Rd : fn (x) > a} などを示せばよい。
22
5.2 演習問題. 補題 5.1 を示せ。
˙ 負値
˙
5.3 演習問題. fn を非
B-可測関数 Rd → R の列とする。関数 x →
測であることを示せ。
∑∞
n=1
fn (x) は B-可
次は項別積分定理 (term-by-term integration) であるが、非負性に留意せよ。
˙ 負値
˙
5.4 補題. fn を非
B-可測関数 Rd → R の列とする。このとき
∞ ∫
∑
n=1
∞
∑
証明. 正項級数については
∫
Rd
an = sup
fn µ =
n
∑
∞
∑
Rd n=1
fn µ.
ak であるから定理 4.4 と定理 3.18 に帰着する。
n∈N k=1
n=1
˙ 負値
˙
5.5 定理. f : Rd → R を非
B-可測関数とする。
∫
(i) 関数 ν : B → R, A → A f µ は測度である。積分の σ-加法性
(ii) 任意の非負値 B 可測関数 g : Rd → R に対して次が成り立つ。
∫
∫
gν =
gf µ. 絶対連続測度による積分
Rd
Rd
証明. (i) An ∈ B n ∈ N かつ An ∩ Am = ∅ n ̸= m とする。A :=
∑∞
n=1 1An f = 1A f であるから、補題 5.4 を適用して
∞
∑
ν(An ) =
n=1
∞ ∫
∑
n=1
∪∞
n=1
An とかくと
∫
fµ=
An
f µ = ν(A)
A
を得るが、これは σ 加法性に他ならない。
(ii) まず g が単関数である場合を考える。このとき補題 3.4(i) と定理 4.4 により
∫
∫
∫
∑
∑
∑
−1
gν =
yν(g ({y})) =
y
fµ=
y1g−1 ({y}) f µ
Rd
y∈Image g
y∈Image g
g −1 ({y})
Rd y∈Image g
となるが、右辺の被積分関数はちょうど gf である。一般には補題 3.17(ii) により非負値 B-単
関数 Rd → R の列 gn で gn ≤ gn+1 ∀n ∈ N, supn∈N gn (x) = g(x) ∀x ∈ Rd を満たすものが存
∫
∫
在する。各 n ∈ N に対して Rd gn ν = R gn f µ なので定理 3.18 を適用して結論に至る。
次は Fatou の補題と呼ばれるが、事実上は定理と冠されるに相応しい内容を持つ。
˙ 負値
˙
5.6 定理. fn を非
B-可測関数 Rd → R の列とする。
∫
∫
lim inf fn µ ≤ lim inf
fn µ.
Rd
n→∞
n→∞
23
Rd
証明. 非負値 B-可測関数列 inf k≥n fk に定理 3.18 が適用できるので
∫
∫
∫
lim inf fn µ =
sup inf fk µ = sup
inf fk µ
Rd
n→∞
Rd n∈N k≥n
n∈N
を得る。他方、補題 3.4(ii) より
∫
∫
∫
inf fk µ ≤
fk µ ∀k ≥ n 従って
Rd k≥n
Rd k≥n
∫
inf fk µ ≤ inf
Rd k≥n
Rd
k≥n
Rd
fk µ
以上を組み合わせて結論に至る。
次の定理は Lebesgue の優収束定理(Lebesgue dominated convergence theorem) あるいは単
に Lebesgue の収束定理と呼ばれ、測度論的な積分に関しては一つの頂点である。
5.7 定理. f : Rd → R を (B, µ)-可積分関数、fn を (B, µ)-可積分関数 Rd → R の列で
∃g (B, µ)-可積分 s.t. |fn (x)| ≤ g(x) ∀n ∈ N ∀x ∈ Rd , limn→∞ fn (x) = f (x) ∀x ∈ Rd
∫
∫
を満たすものとする。このとき数列
fn µ は
f µ に収束する。
Rd
Rd
証明. A := {x ∈ Rd : g(x) < +∞} とおく。系 3.6 より A ∈ B かつ µ(Ac ) = 0 である。
系 4.18(ii) を適用して次が分かる。
∫
∫
∫
∫
(⋆)
fn µ =
1A fn µ,
fµ=
1A f µ
Rd
Rd
Rd
Rd
さて |fn | ≤ g かつ g(x) < +∞ ∀x ∈ A なので 1A g + 1A fn は定義可能で、非負値である。
1A g + 1A f についても同様のことがいえる。定理 5.6 より
∫
∫
lim inf (1A g + 1A fn ) µ ≤ lim inf
(1A g + 1A fn ) µ.
Rd
n→∞
n→∞
Rd
仮定より lim inf n→∞ (1A g + 1A fn ) = 1A g + 1A f なので定理 4.10 も考慮に入れて
∫
∫
∫
(∫
)
1A g µ +
1A f µ ≤ lim inf
1A g µ +
1A fn µ
Rd
n→∞
Rd
Rd
Rd
を得る。各積分は有限の値であるから移項してさらに (⋆) とあわせて
∫
∫
f µ ≤ lim inf
fn µ
n→∞
Rd
Rd
が導ける。1A g − 1A fn についても同様の考察をすることにより
∫
∫
lim sup
fn µ ≤
fµ
n→∞
∫
が示せるので、
Rd
∫
fn µ は
Rd
Rd
f µ に収束する。
Rd
24
Fatou の補題と Lebesgue の収束定理を組み合わせて次の形で利用することも多く LebesgueFatou の補題と呼ばれる。その証明はかなり重複するが、あえて省略せずに述べておく。
5.8 定理. fn を (B, µ)-可積分関数 Rd → R の列で次を満たすものとする。
∫
lim inf
fn µ < +∞, ∃g (B, µ)-可積分 s.t. fn (x) ≥ g(x) ∀n ∈ N ∀x ∈ Rd .
n→∞
Rd
∫
このとき lim inf n→∞ fn は (B, µ)-可積分で、
Rd
∫
lim inf fn µ ≤ lim inf
n→∞
n→∞
Rd
fn µ が成り立つ。
証明. A := {x ∈ Rd : |g(x)| < +∞} とおく。系 3.6 より A ∈ B かつ µ(Ac ) = 0 である。さ
て fn ≥ g かつ g(x) ̸= +∞, −∞ ∀x ∈ A なので 1A fn − 1A g は定義可能で、非負値である。
1A lim inf n→∞ fn − 1A g についても同様である。定理 5.6 により次が成り立つ。
∫
∫
lim inf (1A fn − 1A g) µ ≤ lim inf
(1A fn − 1A g) µ
Rd
n→∞
n→∞
Rd
µ(Ac ) = 0 なので系 4.18(ii) が適用できる。定理 4.10 も考慮に入れて次を得る。
∫
∫
(∫
)
(1A lim inf fn − 1A g) µ ≤ lim inf
1A fn µ −
1A g µ
n→∞
n→∞
Rd
Rd
Rd
∫
∫
(⋆)
= lim inf
fn µ −
1A g µ < +∞
n→∞
Rd
Rd
これは非負値関数 1A lim inf n→∞ fn − 1A g の (B, µ)-可積分性を意味する。従って
1A lim inf fn = (1A lim inf fn − 1A g) + 1A g は (B, µ)-可積分である
n→∞
n→∞
ことが定理 4.10 を適用して導ける。さらに (⋆) から
∫
∫
1A lim inf f µ ≤ lim inf
Rd
n→∞
n→∞
Rd
fn µ
が導ける。µ(Ac ) = 0 なので、補題 4.17 と系 4.18(i) により lim inf n→∞ fn は (B, µ)-可積分で
ありかつ左辺はその積分に等しいことを得る。
いわゆる極限と積分の順序交換に関しては、以下に述べる命題が手助けとなる。
5.9 補題. Rp の部分集合 E ̸= ∅, a ∈ E と関数 f : E → R に対して次の同値性が成り立つ。
f は a で連続 ⇔ 任意の a に収束する E の点列 an に対して f (an ) は f (a) に収束する。
5.10 定理. E を Rp の空でない部分集合、f : E × Rd → R を次のような関数とする。
各 x ∈ E に対して関数 Rd → R, y → f (x, y) は B 可測、
各 y ∈ Rd に対して関数 E → R, x → f (x, y) は連続、
∃g (B, µ)-可積分 s.t. |f (x, y)| ≤ g(y) ∀x ∈ E ∀y ∈ Rd
∫
このとき関数 E → R, x →
f (x, y) µ(dy) は連続である。
Rd
25
5.11 演習問題. 補題 5.9 および定理 5.10 を証明せよ。
5.12 ∫演習問題. f : Rd → R を B 可測関数とする。µ(Rd ) < +∞ であるなら関数 R → R,
˙ 様連続であることを証明せよ。
˙
x→
cos(xf (y)) µ(dy) は一
(議論にひと工夫必要)
Rd
5.13 注意. うっかりすると見過ごしてしまうが、演習問題 5.12 を考察する際に y → cos(xf (y))
が B 可測であることを検証する必要がある。一般に g : R → R を連続関数とするとき合成関
数 y → g(f (x)) も B 可測である。しかしながらこのような一般命題を証明するにはまだ準備
不足なので、cos という関数の特殊性を利用した議論を下に与えておく。それは
cos(xf (y)) =
∞
∑
(−1)n x2n
n=0
(2n)!
f 2n (y)
という無限級数表示が決め手である。有限和の段階では次の関数が現れる。
y→
k
∑
(−1)n x2n
n=0
(2n)!
f 2n (y)
この B 可測性は補題 3.2、補題 4.1 と補題 4.14 により保証される。よって補題 5.1 を適用し
て極限関数であるところの y → cos(xf (y)) が B 可測であることを得る。
6
測度 0 の集合
この節では測度論的な積分においてキーとなるほとんどいたるところという概念を紹介す
る。また σ 加法性から導かれる重要な成果の一つである L1 空間の完備性を証明する。
✓
前提
✏
(B, µ) を Rd 上の測度とする。
✒
✑
˙ 負値
˙
6.1 補題. fn を非
B-可測関数 Rd → R の列とする。
∫
fn ≤ fn+1 ∀n ∈ N, sup
fn µ < +∞ ⇒ µ({x ∈ Rd : sup fn (x) = +∞}) = 0.
n∈N
Rd
n∈N
証明. 定理 3.18 により次が成り立つ。
∫
∫
sup fn µ = sup
Rd n∈N
n∈N
Rd
fn µ < +∞
ゆえに系 3.6 を適用して結論を得る。
6.2 定義. 次の条件を満たす Rd の部分集合 A を (B, µ) 零集合(null set) とよぶ。
∃B ∈ B s.t. µ(B) = 0, A ⊂ B
補集合 Ac の方は (B, µ)-a.e. 集合とよぶ。またある性質の成立する集合が (B, µ)-a.e. 集合で
あるとき、その性質は測度 (B, µ) に関しほとんどいたるところ(almost everywhere) 成立す
るという。通常 µ-a.e. と略記する。
26
6.3 例. 補題 4.12 および補題 6.1 はそれぞれ次のように表現される。
∫
d
• B 可測関数 f : R → R に対して
|f | µ = 0 は f = 0 µ-a.e. と同値である。
Rd
∫
• 非負値 B 可測関数 R → R の列 fn が条件 fn ≤ fn+1 ∀n ∈ N, sup
d
Rd
n∈N
たすなら supn∈N fn < +∞ µ-a.e. である。
fn µ < +∞ を満
6.4 注意. B が (B, µ) 零集合すべてを含む場合、測度 (B, µ) は完備(complete) であるという。
(B, µ) 零集合は必ずしも B に属していないので次の補題が意味を持つ。
6.5 補題. A ∈ B である場合は A が (B, µ) 零集合とは µ(A) = 0 に他ならない。
証明. (B, µ) 零集合であれば µ(B) = 0, A ⊂ B を満たす B ∈ B が存在する。A ∈ B であるか
ら補題 3.9(i) を適用して 0 ≤ µ(A) ≤ µ(B) = 0 と推論できる。
6.6 補題. f, g : Rd → R を B 可測関数とする。このとき以下のいずれの集合も B に属する。
{x ∈ Rd : f (x) < g(x)}, {x ∈ Rd : f (x) ≤ g(x)}, {x ∈ Rd : f (x) = g(x)}.
∪
証明. {x ∈ Rd : f (x) < g(x)} = a∈Q {x ∈ Rd : f (x) < a ≤ g(x)} などを示せばよい。
6.7 演習問題. 補題 6.6 を示せ。ただし f − g が定義可能とは限らないので補題 4.1 に帰着さ
せようとしてもだめである。
6.8 定理. f, g : Rd → R を B-可測関数とする。
∫
∫
(i) g 非負値かつ |f | ≤ g µ-a.e. ⇒
|f | µ ≤
g µ ∀A ∈ B.
A∫
∫
(ii) f , g µ-可積分かつ f ≤ g µ-a.e. ⇒
fµ≤
g µ ∀A ∈ B.
A
A
A
証明. (i) B := {x ∈ R : |f (x)| ≤ g(x)} とおく。µ(B c ) = 0 なので系 4.18(ii) を適用して
∫
∫
∫
∫
∫
∫
|f | µ =
1A |f | µ =
1A |f | µ ≤
1A g µ =
1A g µ =
g µ ∀A ∈ B
d
Rd
A
B
Rd
B
A
を得る。まん中の不等号は集合 B の決め方により |1B 1A f | ≤ 1B 1A g だから補題 3.4(ii) を適
用して導かれる。(ii) についても同様の議論である。
6.9 演習問題. 定理 6.8(ii) を示せ。
6.10 注意. 定理 6.8(i) は以下の可積分性判定手順を提供する。
f, g : R → R を B 可測関数とする。g が非負値、|f | ≤ g µ-a.e. かつ
∫
d
であるなら f は µ 可積分である。
g µ < +∞
Rd
6.11 系. f, g : Rd → R を B 可測関数とする。
∫
∫
(i) f , g 非負値かつ f = g µ-a.e. ⇒
g µ ∀A ∈ B.
∫
∫
(ii) g µ 可積分かつ f = g µ-a.e. ⇒ f µ 可積分かつ f µ =
g µ ∀A ∈ B.
fµ=
A
A
A
27
A
6.12 演習問題. 系 6.11 を示せ。
次の定理は L1 空間の完備性を述べるもので測度論的設定が大成功を納めた典型例である。
更に Lp 空間と呼ばれる対象まで一般化でき、それは Riesz-Fischer の定理と呼ばれる。
6.13 定理. ∥ ∥1 を L1 セミノルムとする。fn を (B, µ) 可積分関数 Rd → R (R でないことに
注目)の列で Cauchy の条件 limm,n→∞ ∥fm − fn ∥1 = 0 をみたすものとする。このとき (B, µ)
可積分関数 f : Rd → R が存在して limn→∞ ∥f − fn ∥1 = 0 が成り立つ。
証明. Cauchy の条件により任意の ε ∈ R>0 と K ∈ N に対してある m ∈ N で m ≥ K かつ
∥fn − fm ∥1 < ε ∀n > m を満たすものが存在する。従って帰納的に自然数列 α(k) で
α(k) < α(k + 1) ∀k ∈ N, ∥fn − fα(k) ∥1 < 1/2k ∀n > α(k) ∀k ∈ N
∑k
を満たすものが構成できる。非負値 B 可測関数 gk := i=1 |fα(i+1) − fα(i) | について
∫
Rd
gk µ =
k ∫
∑
i=1
Rd
|fα(i+1) − fα(i) | µ =
k
∑
∥fα(i+1) − fα(i) ∥1 ≤
k
∑
1/2i ≤ 1
i=1
i=1
gk ≤ gk+1 であるから補題 6.1 を適用すると
µ(A ) = 0 ただし A := {x ∈ R :
c
x ∈ A なら級数
d
∞
∑
|fα(k+1) (x) − fα(k) (x)| < +∞} ∈ B
k=1
∑∞
k=1 (fα(k+1) (x)
− fα(k) (x)) は絶対収束し、その部分和について
第 k 部分和 = fα(k+1) (x) − fα(1) (x)
である。Rd 全体で対応するため次の B 可測関数を導入する。
f : x → 1A (x) lim inf fα(k) (x)
k→∞
可測性は補題 4.14 と補題 5.1 を使って確認できる。∀k ∈ N をひとまず固定する。x ∈ A なら
級数和は f (x) − fα(1) (x) に等しいので
|f (x) − fα(k) (x)| ≤
∞
∑
|fα(i+1) (x) − fα(i) (x)| ∀x ∈ A
i=k
µ(Ac ) = 0 に着目して定理 6.8(ii) と補題 5.4 を適用する。
∫
∫ ∑
∞
∞ ∫
∞
∑
∑
1
1
= k−1
|f − fα(k) | µ ≤
|fα(i+1) − fα(i) | µ =
|fα(i+1) − fα(i) | µ ≤
i
2
2
d
Rd
Rd i=k
i=k R
i=k
n ∈ N かつ n > α(k) とする。∥fn − fα(k) ∥1 < 1/2k であったので
∫
∫
∫
∥f − fn ∥1 =
|f − fn | µ ≤
|f − fα(k) | µ +
|fα(k) − fn | µ ≤
Rd
Rd
Rd
最初の不等号は定理 4.10 による。よって ∥f − fn ∥1 は 0 に収束する。
28
1
2k−1
+
1
3
= k
k
2
2
次は項別積分定理である。以前の補題 5.4 と異なり被積分関数に非負値性は要求しないが
その代わりとなる条件が付いている点に注意されたい。
∞ ∫
∑
d
6.14 定理. fn を B-可測関数 R → R (R でないことに注目)の列で
|fn | µ < +∞ を
Rd
n=1
みたすものとする。このとき以下が成り立つ。
n
∞
n
∑
∑
∑
(i)
|fn | < +∞ µ-a.e., lim inf
fk と lim sup
fk は µ-可積分
(ii)
n→∞
n=1
∞ ∫
∑
n=1
Rd
k=1
∫
fn µ は絶対収束かつ
証明. 非負値関数
∑∞
n=1
lim inf
Rd
n→∞
n
∑
n→∞
k=1
fk µ =
∞ ∫
∑
Rd
n=1
k=1
∫
fn µ =
lim sup
Rd
n→∞
n
∑
fk µ.
k=1
|fn | は (B, µ) 可積分である。なぜなら補題 5.4 を適用すると
∫
∞
∑
Rd n=1
|fn | µ =
∞ ∫
∑
Rd
n=1
|fn | µ < +∞.
従って系 3.6 により関数項級数は µ-a.e. 絶対収束している。しかも次が成り立つ。
n
∑
fk (x) ≥ −
k=1
∞
∑
∫
|fk (x)| ∀x ∈ R ∀n ∈ N,
Rd k=1
k=1
よって定理 5.8 を適用して lim inf n→∞
∫
lim inf
Rd
n→∞
n
∑
d
n
∑
∑n
k=1
n→∞
k=1
を得る。同様の議論により lim supn→∞
lim sup
n→∞
k=1
n
∑
Rd k=1
∑n
n ∫
∑
k=1
fk µ = lim inf
n→∞
Rd
|fn | µ ∀n ∈ N.
n ∫
∑
k=1
Rd
fk µ
fk の µ 可積分性と
∫
Rd
n=1
fk の µ 可積分性と
∫
fk µ ≤ lim inf
fk µ ≤
∞ ∫
∑
fk µ ≤
lim sup
Rd
n
∑
n→∞
fk µ
k=1
を得る。さて次の包含関係が成り立ち、前者は (B, µ)-a.e. 集合である。
{x ∈ R :
d
∞
∑
|fn (x)| < +∞} ⊂ {x ∈ R : lim inf
d
n→∞
n=1
n
∑
k=1
fk (x) = lim sup
n→∞
n
∑
fk (x)}
k=1
ゆえに系 6.11(ii) を適用して結論に至る。
6.15 演習問題. 定理 6.14 において
∞ ∫
∑
n=1
Rd
fn µ は絶対収束することを示せ。
まだ、Lebesgue 測度の存在およびその微積分の基本定理との関係を調べていないので、項
別積分定理などを具体例に応用はできないのであるが、それではあまりに味気ないので先取
りしておく。次の例を Riemann 積分の世界にとどまって証明するには煩わしい前提条件を
チェックする必要がある。
29
∫
π
6.16 例.
−π
1 − r2
dθ = 2π, 0 ≤ ∀r < 1.
1 − 2r cos θ + r2
証明. 以後 r は条件を満たすものを固定する。直接計算により
(6.17)
∞
∑
1 − r2
1+
2r cos nθ =
∀θ ∈ [−π, π],
1 − 2r cos θ + r2
n=1
∫
π
n
−π
2rn cos nθ dθ = 0 ∀n ∈ N.
0 ≤ r < 1 なので左の関数項級数は絶対収束している。一方
∞ ∫ π
∞ ∫ π
∑
∑
4πr
n
2rn dθ =
|2r cos nθ| dθ ≤
< +∞
1−r
n=1 −π
n=1 −π
が成り立つ。従って定理 6.14 により
∫
π
∞
∑
n
2r cos nθ dθ =
−π n=1
∞ ∫
∑
n=1
π
2rn cos nθ dθ.
−π
故に (6.17) を考慮して結論に到達する。
6.18 演習問題. (6.17) を示せ。
この節を閉じるにあたって (B, µ) 零集合の重要な性質を述べる。またそれらの典型的な適
用例についてもふれる。まずその定義から直ちに分かることは次の通り。
(i) A (B, µ) 零集合、B ⊂ A ⇒ B (B, µ) 零集合
(ii) A (B, µ)-a.e. 集合、A ⊂ B ⇒ B (B, µ)-a.e. 集合
∑∞
∪
6.19 補題. An ∈ B ∀n ∈ N ⇒ µ( ∞
n=1 µ(An ). 劣加法性(subadditivity)
n=1 An ) ≤
∪∞
証明. B := n=1 An とおくと次の関係が成り立つ。
1B ≤
∞
∑
1An
n=1
よって補題 3.4(ii) と補題 5.4 を適用して結論を得る。
∪
6.20 系. (i) An (B, µ)-零集合 ∀n ∈ N ⇒ ∞
n=1 An (B, µ)-零集合
∩∞
(ii) An (B, µ)-a.e. 集合 ∀n ∈ N ⇒ n=1 An (B, µ)-a.e. 集合
6.21 演習問題. 系 6.20 を示せ。
˙ 負値
˙
6.22 例. 単調収束定理の拡張。fn を非
B-可測関数 Rd → R の列とする。
∫
∫
fn ≤ fn+1 µ-a.e. ∀n ∈ N ⇒
sup fn µ = sup
fn µ.
Rd n∈N
30
n∈N
Rd
∩∞
証明. A := n=1 {x ∈ Rd : fn (x) ≤ fn+1 (x)} ∈ B である。関数列 1A fn に対して定理 3.18 が
適用できるので
∫
∫
∫
1A sup fn µ =
sup 1A fn µ = sup
1A fn µ.
Rd
Rd n∈N
n∈N
Rd
n∈N
系 6.20(ii) によれば A は (B, µ)-a.e. 集合である。従って系 4.18 を使って結論を得る。
6.23 補題. f, g, h を B-可測関数 Rd → R とする。このとき
(i) f ≤ g µ-a.e., g ≤ f µ-a.e. ⇒ f = g µ-a.e. (ii) f ≤ g µ-a.e., g ≤ h µ-a.e. ⇒ f ≤ h µ-a.e.
証明. (i) µ-a.e. 集合 {x ∈ Rd : f (x) ≤ g(x)} と {x ∈ Rd : g(x) ≤ f (x)} の共通部で表される
{x ∈ Rd : f (x) = g(x)} は系 6.20(ii) により µ-a.e. 集合である。
6.24 演習問題. 補題 6.23(ii) を示せ。
6.25 定理. f, g : Rd → R を (B, µ) 可積分関数とする。
∫
∫
fµ≤
g µ ∀A ∈ B ⇒ f ≤ g µ-a.e.
A
A
証明. 仮定されているのは f , g の可積分性と
∫
A
fµ≤
∫
A
g µ ∀A ∈ B である。系 3.6 より
B := {x ∈ Rd : |f (x)| < +∞} ∈ B かつ µ(B c ) = 0
また B ⊂ {x ∈ Rd : 1B (x)f (x) = f (x)} である。従って 1B f = f µ-a.e. なので系 6.11 により
∫
∫
∫
1B f µ =
fµ≤
g µ ∀A ∈ B.
A
A
A
A = {x ∈ Rd : 1B (x)f (x) > g(x)} とえらぶ。max{1B f − g, 0} = 1A (1B f − g) なので、
∫
∫
∫
∫
0≤
max{1B f − g, 0} µ = (1B f − g) µ =
1B f µ −
g µ ≤ 0.
Rd
A
A
A
上の2番目の等号では 1B f , g ともに µ 可積分であることが重要である。従って補題 4.12 に
より max{1B f − g, 0} = 0 µ-a.e. である。さて
max{1B (x)f (x) − g(x), 0} = 0 ⇔ 1B (x)f (x) ≤ g(x)
であるから、1B f ≤ g µ-a.e. が得られる。一方すでに確かめたように f = 1B f µ-a.e. なの
で補題 6.23 を考慮に入れて結論 f ≤ g µ-a.e. を得る。
6.26 系. f, g : Rd → R を (B, µ) 可積分関数とする。
∫
∫
fµ=
g µ ∀A ∈ B ⇒ f = g µ-a.e.
A
A
6.27 演習問題. 系 6.26 を示せ。
31
7
有限加法的測度とそれが誘導する外測度
区間の長さを有限加法的測度としてとらえて議論を行う。外面積の考えを拡張して外測度
を定式化しさらにそれの持つ性質を公理化して測度の構成へとつなげる。
✓
記号
✏
記号 I は左半開区間の全体に空集合 ∅ を付加した集合族を表す。ここで左半開区間
とは R の部分集合で (a, b], 但し a, b ∈ R は a < b をみたす、と書けるものをいう。
✒
✑
7.1 定義. 互いに共通部を持たない部分集合からなる族を非交叉族(disjoint family) という。
7.2 補題. (i) ∅ ∈ I. A, B ∈ I ならば A ∩ B ∈ I である。
(ii) A, B ∈ I, B ⊂ A, A ̸= B ならば有限な非交叉族 I1 , . . . , In ∈ I で Ik ̸= ∅ ∀k = 1, . . . , n
∪n
かつ A \ B = k=1 Ik をみたすものが存在する。
証明. (i) 左半開区間どうしの共通部は左半開区間であるかまたは ∅ である。
(ii) B = ∅ の場合は非交叉族として A だけからできるものをとればよい。そこで a < b,
B = (a, b] としよう。その補集合は (−∞, a] と (b, +∞) の二つの部分からなる。従って求め
る非交叉族はこれらと左半開区間 A との共通部で空でないものから構成される。
✓
約束
✏
Rd の部分集合の族 C が指定されたとき C に属する集合を C-集合とよぶ。
✒
✑
たとえば、R の部分集合については I-集合とは左半開区間あるいは ∅ のことである。
7.3 定義. A を Rd の空でない部分集合とする。A の分割(partition) とは Rd の空でない部分
∪
集合からなる非交叉族 ∆ であって J∈∆ J = A を満たすものをいう。特に部分集合の族 C が
指定されている場合 C-集合から構成されているものを C-分割という。
7.4 補題. ∆ を空でない I-集合からなる有限な非交叉族とし A ∈ I とする。
∪
∪
∪
(i) J∈∆ J ⊂ A, J∈∆ J ̸= A なら A \ ( J∈∆ J) の有限な I-分割が存在する。
∪
(ii) J∈∆ J ∪ A の有限な I-分割 Λ であって ∆ ⊂ Λ を満たすものが存在する。
証明. (i) 数学的帰納法を使う。まず ∆ がひとつの集合 B からできているときを考える。仮
定より B ∈ I である。従って補題 7.2(ii) により A \ B の有限な I-分割が存在する。すなわ
ち ♯∆ = 1 のとき (i) は成り立つ。
k ∈ N かつ ♯∆ ≤ k のとき (i) が成り立つと仮定する。
そこで ♯∆ = k + 1 とし、族 ∆ からひとつ集合 B を取り去る。すると ♯(∆ \ {B}) = k なので
∪
A \ ( J∈∆:J̸=B J) の有限な I-分割 Φ が存在する。B に含まれるか否かで分類する。
{I ∈ Φ : I ∩ B = I}, Φ0 := {I ∈ Φ : I ∩ B ̸= I}.
32
各 I ∈ Φ0 に対して I ∩ B ∈ I, I ∩ B ⊂ I, I ∩ B ̸= I なので補題 7.2(ii) により I \ (I ∩ B) の
∪
有限な I-分割 Λ(I) が存在する。これらを集めたもの Λ := I∈Φ0 Λ(I) が求める有限な I-分
割である。
∪
(ii) A ⊂ J∈∆ J なら ∆ 自身が求める有限な I-分割であり、A ̸= ∅ かつ J ∩ A = ∅ ∀J ∈ ∆
なら Λ := ∆ ∪ {A} が求めるものである。そうでない場合は ∆0 := {J ∈ ∆ : J ∩ A ̸= ∅} と
おき (i) を {J ∩ A ; J ∈ ∆0 } と A の組に適用することができる。従って
∪
A \ J∈∆0 (J ∩ A) の有限な I-分割 Λ0 が存在する。
これと既存の非交叉族 ∆ をあわせたもの Λ := Λ0 ∪ ∆ が求める有限な I-分割である。
∪
7.5 系. A ∈ I, A ̸= ∅, C1 , C2 , . . . , Cn ∈ I とする。A ⊂ ni=1 Ci なら A の有限な I-分割 ∆ で
∪n
あって ∆ = i=1 {J ∈ ∆ : J ⊂ Ci } を満たすものが存在する。
∪n
∪n
証明. A = i=1 (Ci ∩ A) かつ Ci ∩ A ∈ I なので A = i=1 Ci と仮定してもかまわない。即
ち次の命題を証明すればよい。
∪
C1 , C2 , . . . , Cn ∈ I とする。C1 ̸= ∅ なら ni=1 Ci の有限な I-分割 ∆
∪n
であって ∆ = i=1 {J ∈ ∆ : J ⊂ Ci } を満たすものが存在する。
n = 1 のときは C1 のみからなる族 {C1 } が求めるものである。あとは補題 7.4(ii) を随時適
用して n に関しての帰納法により証明できる。その実行は演習問題とする。
7.6 演習問題. 系 7.5 を示せ。
補題 7.4 および系 7.5 は集合族 I に対して補題 7.2 の結論 (i), (ii) が成り立つという事実
にのみ基づいて証明されている。そこで一般の集合族 C について公理化を行う。
✓
補題 7.2 の公理化
✏
(i) ∅ ∈ C. A ∈ C, B ∈ C ⇒ A ∩ B ∈ C.
(ii) A ∈ C, B ∈ C, B ⊂ A, A ̸= B ⇒ A \ B の有限な C-分割が存在する。
✒
✓
約束
✑
✏
いちいち断るのも煩わしいので、これから先は A が空集合である場合
その分割とは空な族のことと理解する。
✒
✑
次に面積などの持つ性質を公理化する。
7.7 定義. C を Rd の部分集合の族、m を関数 C → R とする。それが次の条件を満たすとき、
(C, m) は Rd 上の有限加法的測度(finitely additive measure) であるという。
(i) C に対して補題 7.2 の公理化が成り立つ。
(ii) m(A) ≥ 0 ∀A ∈ C, m(∅) = 0.
∑
(iii) A ∈ C とその有限な C-分割 ∆ に対して m(A) = J∈∆ m(J).
33
˙ 算無限な
˙
性質 (iii) を有限加法性(finite additivity) という。(iii) が任意の可
C-分割についても
成り立つとき m は σ-加法的(σ-additive) であるという。
7.8 演習問題. Rd 上の測度 (B, µ) は σ-加法的な有限加法的測度であることを確認せよ。
7.9 例. v : R → R を非減少関数とする。このとき
I → R, J → v(sup J) − v(inf J)
は R 上の有限加法的測度である。但し空集合 ∅ に対しては値 0 を割り当てる。
証明. 左半開区間 (a, b] の有限な I-分割は次のように表現できる。
(ci , ci+1 ] i = 1, 2, . . . , n. 但し a = c1 < c2 < · · · < cn < cn+1 = b
v(b) − v(a) =
∑n
i=1 {v(ci+1 )
− v(ci )} であるから有限加法性が成り立つ。
7.10 定義. 例 7.9 で述べた有限加法的測度を非減少関数 v が誘導する有限加法的測度という。
✓
記号
✏
非減少関数 v が誘導する R 上の有限加法的測度を (I, dv) と表す。
✒
✓
前提
✏
以下 (C, m) を Rd 上の有限加法的測度とする。
✒
✑
✑
7.11 定義. Rd の部分集合 A に対して次の量を A の有限加法的測度 m が誘導する外測度(outer
measure) という。
γ(m; A) := inf
∞
{∑
m(Cn ) ; Cn ∈ C, A ⊂
∪∞
n=1
}
Cn .
n=1
n=1
但し A ⊂
∞
∪
Cn を満たす C-集合列 Cn が存在しないときは γ(m; A) = +∞ と約束する。
✓
記号
✏
˙ 体の族を
˙
Rd の部分集合全
Sbset(Rd ) という記号で表す。
✒
✑
関数 γ(m; ·) : Sbset(Rd ) → R の性質を調べる。
7.12 定義. A ⊂
∪∞
n=1
Cn を満たす C-集合列 Cn を集合 A の可算 C-被覆(covering) と呼ぶ。
7.13 補題. (i) γ(m; A) ≥ 0 ∀A, γ(m; ∅) = 0.
(ii) A ⊂ B ⇒ γ(m; A) ≤ γ(m; B).
∑∞
∪
(iii) γ(m; ∞
n=1 γ(m; An ).
n=1 An ) ≤
∑
(iv) A の有限 C-被覆 C1 , C2 , . . . , Cn に対して γ(m; A) ≤ ni=1 m(Ci ).
34
証明. (i) m の非負値性により γ(m; A) ≥ 0 である。次に ∅ ∈ C, m(∅) = 0 であるから Cn := ∅
∀n ∈ N という可算 C-被覆により γ(m; ∅) = 0 が実現されることが分かる。
(ii), (iv) は演習問題とする。
∑∞
∑
(iii) ∞
n=1 γ(m; An ) < +∞ の
n=1 γ(m; An ) = +∞ なら不等式は自明に成立するので、
場合を考察する。ε > 0 とする。各 n ∈ N について、γ(m; An ) < +∞ なので An の可算 C-被
覆 Cnk k ∈ N であって
∞
∑
m(Cnk ) ≤ γ(m; An ) + ε/2n
k=1
を満たすものが存在する。さて N × N は可算集合であり、
∞
∪
An ⊂
n=1
∞
∞ ∪
∪
Cnk ,
n=1 k=1
が成り立つ。集合列 Cnk は
∪∞
n=1
∞
∞ ∑
∑
m(Cnk ) ≤
n=1 k=1
∞
∑
γ(m; An ) + ε
n=1
An の可算 C-被覆であるから次の不等式が導かれた。
∞
∪
γ(m;
An ) ≤
n=1
∞
∑
γ(m; An ) + ε.
n=1
この段階では ε > 0 はまったく任意なので結論を得る。
7.14 演習問題. (i) 補題 7.13(ii),(iv) を示せ。
(ii) N × N は可算集合であることを示せ。
7.15 定理. ∆ を空でない C-集合からなる有限な非交叉族、A, B, C1 , C2 , . . . , Cn ∈ C とする。
∪
∑
∪
(i) J∈∆ J ⊂ A なら J∈∆ m(J) + γ(m; A \ J∈∆ J) ≤ m(A) である。
∪
∑
(ii) B ⊂ ni=1 Ci なら m(B) ≤ ni=1 m(Ci ) が成り立つ。特に B ⊂ A なら m(B) ≤ m(A).
∑
∪
∑
∪
(iii) J∈∆ J ⊂ ni=1 Ci なら J∈∆ m(J) ≤ ni=1 m(Ci ) である。
∪
証明. (i) 補題 7.4(i) によれば A \ ( J∈∆ J) の有限な C-分割 Λ が存在する。従って
∑
∪
∑
∑
m(J) + γ(m; A \
J) ≤
m(J) +
m(I) = m(A)
J∈∆
J∈∆
J∈∆
I∈Λ
が補題 7.13(iv) と m の有限加法性により導かれる。
∪
(ii) 系 7.5 によれば B の有限な C-分割 Λ であって Λ = ni=1 {J ∈ Λ : J ⊂ Ci } を満たすも
のが存在する。m の有限加法性と非負値性により
m(B) =
∑
m(J) ≤
n
∑
∑
m(J)
i=1 J∈Λ:J⊂Ci
J∈Λ
が成り立つ(ダブルカウント分だけ右辺が大きい)。γ(m; ·) の非負値性と (i) を使うと
∑
∑
∪
m(J) ≤
m(J) + γ(m; Ci \
J) ≤ m(Ci )
J∈Λ:J⊂Ci
J∈Λ:J⊂Ci
J∈Λ:J⊂Ci
故に求める不等式が得られる。
35
(iii) J ∈ ∆ とする。J ∩ Ci i = 1, 2, . . . , n は J の有限な C-被覆であるから (ii) により
m(J) ≤
n
∑
m(J ∩ Ci ).
i=1
i = 1, 2, . . . , n とする。J ∩ Ci J ∈ ∆ は C-集合からなる有限な非交叉族であるから (i) により
∑
∑
m(J ∩ Ci ) =
m(J ∩ Ci ) ≤ m(Ci ).
J∈∆:J∩Ci ̸=∅
J∈∆
従って2重和の順序交換
∑
∑n
J∈∆
i=1
··· =
∑n ∑
i=1
J∈∆
. . . により結論を得る。
7.16 補題. C-集合の列 Cn n ∈ N に対して集合族の列 ∆n n ∈ N であって
∪
∆n は nk=1 Ck の有限 C-分割、∆n ⊂ ∆n+1 ∀n ∈ N.
を満たすものが存在する。
7.17 演習問題. 補題 7.16 を示せ。(補題 7.4(ii) を考慮に入れて帰納法を適用せよ。)
7.18 系. 任意の A ∈ Sbset(Rd ) に対して次が成り立つ。
{∑
}
γ(m; A) = inf
m(J); ∆ 非交叉な A の可算 C-被覆 .
J∈∆
非交叉可算 C-被覆が存在しないなら右辺は +∞ と約束する。
証明. Cn n ∈ N を集合 A の可算 C-被覆とする。それに対し集合族の列 ∆n n ∈ N を補題 7.16
で述べられたものとする。このとき定理 7.15(iii) によれば、各 n ∈ N に対して
∑
である。さて ∆ :=
∪∞
n=1
∑
m(J) ≤
J∈∆n
n
∑
m(Ck )
k=1
∆n は非交叉な A の可算 C-被覆である。さらに次が成り立つ。
m(J) = sup
n∈N
J∈∆
∑
m(J) ≤ sup
n∈N
J∈∆n
n
∑
m(Ck ) =
k=1
∞
∑
m(Ck ).
k=1
即ち可算 C-被覆が存在するなら効率を落さずに非交叉可算 C-被覆を選ぶことができる。
inf
{∑
}
m(J); Λ 非交叉な A の可算 C-被覆 ≤
J∈Λ
∞
∑
m(Ck ).
k=1
Cn n ∈ N は集合 A の可算 C-被覆である限り任意なので
{∑
}
inf
m(J); Λ 非交叉な A の可算 C-被覆 ≤ γ(m; A).
J∈Λ
さて A が可算 C-被覆をもたない場合は γ(m; A) = +∞ なので、不等号は自明に成り立つ。
逆向きの不等号の理由付けは演習問題とする。
7.19 演習問題. 系 7.18 の証明を完成させよ。
36
8
Carath´
eodory の外測度と可測集合
この節では補題 7.13 で述べられた有限加法的測度が誘導する外測度の性質 (i), (ii), (iii) を
公理化して議論し、それによる測度の構成方法を紹介する。これは単なる一般化ではない。
必ずしも有限加法的測度に由来しない外測度も応用上重要だからである。
8.1 定義. Sbset(Rd ) を定義域にもつ関数 θ : Sbset(Rd ) → R が次の条件を満たすとき、θ は
Rd 上の Carath´eodory 外測度であるという。
(i) θ(A) ≥ 0 ∀A, θ(∅) = 0. 非負性(non-negativity)
(ii) A ⊂ B ⇒ θ(A) ≤ θ(B). 単調性(monotonicity)
∪
∑∞
(iii) θ( ∞
n=1 An ) ≤
n=1 θ(An ). 可算劣加法性(countable subadditivity)
✓
前提
✏
以下 θ を Rd 上の Carath´eodory 外測度とする。
✒
✑
8.2 定義. A ∈ Sbset(Rd ) が Carath´eodory 外測度 θ に関して可測(measurable)、略して θ 可
測、であるとは次が成り立つことをいう。
θ(B) = θ(B ∩ A) + θ(B ∩ Ac ) ∀B ∈ Sbset(Rd ).
✓
記号
✏
θ 可測な Rd の部分集合全体の族を Mble(θ) とあらわす。
✒
✑
8.3 補題. A ∈ Mble(θ), B1 ⊂ A, B2 ∩ A = ∅ ⇒ θ(B1 ∪ B2 ) = θ(B1 ) + θ(B2 ).
証明. (B1 ∪ B2 ) ∩ A = B1 , (B1 ∪ B2 ) ∩ Ac = B2 を使う。
8.4 補題. M を Rd の部分集合の族とする。次が成り立つなら M は σ-加法族である。
(i) ∅ ∈ M. (ii) A ∈ M ⇒ Ac ∈ M. (iii) A, B ∈ M ⇒ A ∪ B ∈ M.
∪
(iv) An ∈ M ∀n ∈ N, An ∩ Am = ∅ n ̸= m ⇒ ∞
n=1 An ∈ M.
8.5 演習問題. 補題 8.4 を示せ。
8.6 補題. Mble(θ) は σ-加法族であり、θ は Mble(θ) 上で σ-加法的である。
証明. B ∈ Sbset(Rd ) とする。B ∩ ∅ = ∅, B ∩ ∅c = B, θ(∅) = 0 であるから
θ(B ∩ ∅) + θ(B ∩ ∅c ) = θ(∅) + θ(B) = θ(B) ∀B ∈ Sbset(Rd ).
従って ∅ ∈ Mble(θ) である。
A ∈ Mble(θ) とする。(Ac )c = A であるから
θ(B ∩ Ac ) + θ(B ∩ (Ac )c ) = θ(B ∩ A) + θ(B ∩ Ac ) = θ(B) ∀B ∈ Sbset(Rd ).
37
従って Ac ∈ Mble(θ) である。
A1 , A2 ∈ Mble(θ) とする。次の関係に着目する。
(8.7)
{B ∩ (A1 ∪ A2 )} ∩ A1 = B ∩ A1 , {B ∩ (A1 ∪ A2 )} ∩ (A1 )c = B ∩ (A1 )c ∩ A2 ,
B ∩ (A1 ∪ A2 )c = B ∩ (A1 )c ∩ (A2 )c .
まず A1 の θ-可測性を適用し次に A2 の θ-可測性、再び A1 の θ-可測性を使うと
θ(B ∩ (A1 ∪ A2 )) + θ(B ∩ (A1 ∪ A2 )c )
∀B ∈ Sbset(Rd ).
= θ(B ∩ A1 ) + θ(B ∩ (A1 )c ∩ A2 ) + θ(B ∩ (A1 )c ∩ (A2 )c )
= θ(B ∩ A1 ) + θ(B ∩ (A1 )c ) = θ(B)
従って A1 ∪ A2 ∈ Mble(θ) である。
An ∈ Mble(θ) ∀n ∈ N, An ∩ Am = ∅ n ̸= m とする。
B ∩ An+1 ⊂ An+1 , B ∩
n
(∪
)
Ak ∩ An+1 = ∅
k=1
であるから An+1 の θ-可測性に着目して補題 8.3 を使うと次が得られる。
θ(B ∩
( n+1
∪
)
Ak ) = θ(B ∩ An+1 ) + θ(B ∩
n
(∪
k=1
)
Ak ) ∀n ∈ N.
k=1
従って帰納法を適用し、その後 θ の単調性を使うと
n
∑
θ(B ∩ Ak ) = θ(B ∩
n
(∪
k=1
)
Ak ) ≤ θ(B ∩
∞
(∪
k=1
)
Ak ) ∀n ∈ N.
k=1
各項は非負値なので
∞
∑
θ(B ∩ Ak ) = sup θ(B ∩
n
(∪
n∈N
k=1
)
Ak ) ≤ θ(B ∩
k=1
∞
(∪
)
Ak ).
k=1
他方、θ は可算劣加法性を持つので逆向きの不等号も成立している。よって
(8.8)
θ(B ∩
∞
(∪
∞
n
)
(∪
)
∑
θ(B ∩ Ak ) = sup θ(B ∩
Ak ) =
Ak ) ∀B ∈ Sbset(Rd ).
さてすでに証明されたことにより
θ(B) = θ(B ∩
n
(∪
n∈N
k=1
k=1
)
∪n
k=1
Ak ) + θ(B ∩
Ak ∈ Mble(θ) である。従って各 n ∈ N に対して
n
(∪
k=1
k=1
)c
Ak
) ≥ θ(B ∩
n
(∪
k=1
)
Ak ) + θ(B ∩
k=1
ここで不等号は θ の単調性による。(8.8) をつかって
θ(B) ≥ θ(B ∩
∞
(∪
)
Ak ) + θ(B ∩
k=1
∞
(∪
k=1
38
)c
Ak
) ∀B ∈ Sbset(Rd ).
∞
(∪
k=1
)c
Ak
).
θ は劣加法性を持つので逆向きの不等号も成立する。したがって
θ(B) = θ(B ∩
∞
(∪
)
Ak ) + θ(B ∩
∞
(∪
)c
Ak
) ∀B ∈ Sbset(Rd )
k=1
k=1
∪∞
であるから k=1 Ak ∈ Mble(θ) が導かれた。
以上で集合族 Mble(θ) について補題 8.4 の前提条件がすべて確かめられたことになるので、
Mble(θ) は σ-加法族である。また (8.8) において B = Rd の場合が θ の Mble(θ) 上における
σ-加法性にほかならない。
8.9 演習問題. (8.7) を確認せよ。
補題 8.6 の結論を言い換えてみよう。
8.10 定理. 外測度 θ の Mble(θ) 上への制限は Rd 上の測度である。
ここで有限加法的測度が誘導する外測度についての議論に戻る。
✓
前提
✏
以下 (C, m) を Rd 上の有限加法的測度とする。
✒
✓
記号
✑
✏
Mble(γ(m; ·)) を単に Mble(m) と書き γ(m; ·) の Mble(m) への制限を m⋆ と書く。
✒
✑
このとき (Mble(m), m⋆ ) は Rd 上の測度である。これと (C, m) との関係を調べる。
8.11 定理. すべての C-集合は γ(m; ·)-可測である。すなわち C ⊂ Mble(m) である。
証明. A ∈ C とする。B ∈ Sbset(Rd ) に対しその可算 C-被覆が存在するならその一つを Cn
n ∈ N とする。Cn ∩ A n ∈ N は集合 B ∩ A の可算 C-被覆であるから
γ(m; B ∩ A) ≤
∞
∑
m(Cn ∩ A).
n=1
他方、外測度 γ(m; ·) の単調性と可算劣加法性により
γ(m; B ∩ A ) ≤ γ(m;
c
∞
∪
(Cn ∩ A )) ≤
c
n=1
∞
∑
γ(m; Cn ∩ Ac ).
n=1
さて Cn ∩ Ac = Cn \ (Cn ∩ A) であるから定理 7.15 (i) によると
m(Cn ∩ A) + γ(m; Cn ∩ Ac ) ≤ m(Cn ) ∀n ∈ N
が成り立つ。従って以上を組み合わせると
γ(m; B ∩ A) + γ(m; B ∩ A ) ≤
c
∞
∑
n=1
39
m(Cn ).
これがあらゆる B の可算 C-被覆について満たされる。よって
γ(m; B ∩ A) + γ(m; B ∩ Ac ) ≤ γ(m; B) ∀B ∈ Sbset(Rd ).
さて B が可算 C-被覆をもたない場合は γ(m; B) = +∞ なので、不等号は自明に成り立つ。
γ(m; ·) は劣加法性を持つので逆向きの不等号も成立し A ∈ Mble(m) が導かれた。
8.12 定理. 以下はすべて同値である。
(i) γ(m; A) = m(A) ∀A ∈ C.
(ii) m は σ-加法的
∑
(iii) A ∈ C とその可算 C-被覆 ∆ で非交叉族であるものに対して m(A) ≤ J∈∆ m(J).
証明. 定理 8.11 により C ⊂ Mble(m) である。従って定理 8.10 により
∪
∑
C-集合からなる可算非交叉族 ∆ に対して γ(m; J∈∆ J) = J∈∆ γ(m; J).
これは ∆ が C-集合の可算 C-分割になっている場合も含む。よって論理図式 (i) ⇒ (ii) が成り
立つ。次に A および ∆ を (iii) の前提にあるようなものとする。{J ∩ A ; J ∈ ∆, J ∩ A ̸= ∅}
は A ∈ C の可算 C-分割であるから、m が σ-加法的なら
∑
∑
∑
m(A) =
m(J ∩ A) =
m(J ∩ A) ≤
m(J).
J∈∆:J∩A̸=∅
J∈∆
J∈∆
ここで不等号は定理 7.15(ii) による。よって論理図式 (ii) ⇒ (iii) が成り立つ。系 7.18 によれ
ば (iii) が成り立つなら m(A) ≤ γ(m; A) ∀A ∈ C. 他方、補題 7.13(iv) によれば逆向きの不等
号も成り立っている。よって残りの論理図式 (iii) ⇒ (i) が導かれた。
8.13 定義. 有限加法的測度 (C, m) に対して測度 (B, µ) が存在して C ⊂ B かつ µ(A) = m(A)
∀A ∈ C が成り立つとき (B, µ) は有限加法的測度 (C, m) の測度への拡張という。
m が σ-加法的なら定理 8.11 と定理 8.12 により測度 (Mble(m), m⋆ ) は (C, m) の拡張である。
その逆も正しいことの確認は演習問題とする。
8.14 演習問題. 測度に拡張可能な有限加法的測度は σ-加法的であることを示せ。
以上は次の形にまとめて表現され Hopf の拡張定理と呼ばれる。
8.15 定理. 有限加法的測度が測度に拡張されるための必要十分条件はそれが σ-加法的なこ
とである。
測度論的構造が別の数学的構造と融合しているとき、それが測度論的性質に反映すること
が当然期待される。それを引き出すときに、集合族 C に着目する構造が取り込まれていると
いう状況のもと、次の定理がよく利用される。
8.16 定理. m は σ-加法的であるとする。A ∈ Mble(m) かつ m⋆ (A) < +∞ なら、任意の
ε ∈ R>0 に対して有限個の C 集合 C1 , C2 , . . . , Ck が存在して
∫
Rd
|1A −
k
∑
1Cn | m⋆ < ε.
n=1
40
証明. Mble(m) 可測集合 A に対してその外測度をもって m⋆ (A) を決めるというのが定義で
あった。仮定より外測度 m⋆ (A) は有限値であるから、C 集合列 Cn が存在して次を満たす。
A⊂
∞
∪
∞
∑
Cn ,
m(Cn ) < m⋆ (A) + ε/2.
n=1
n=1
定理 8.12 より m(Cn ) = m⋆ (Cn ) である。補題 5.4 を考慮して定義関数を使って表現すると
1A (x) ≤
∞
∑
∫
1Cn (x) ∀x ∈ R ,
∑∞
n=1
∫
Rd
他方
1A −
∑∞
n=1
⋆
1Cn m =
Rd n=1
n=1
関数 1A ,
∞
∑
d
∞ ∫
∑
∫
Rd
n=1
ε
1A m ⋆ + .
2
Rd
⋆
1Cn m <
1Cn はともに m⋆ 可積分なので定理 4.10 を適用して
∞
∑
∫
∞
(∑
⋆
1Cn m =
n=1
Rd
)
∫
1Cn − 1A m =
∞
∑
⋆
n=1
Rd n=1
∫
1Cn m −
⋆
ε
1A m ⋆ < .
2
Rd
m(Cn ) < +∞ であるから、ある k ∈ N が存在して
∫
∞
∑
∞ ∫
∑
⋆
Rd n=k+1
1Cn m =
n=k+1
⋆
Rd
1Cn m =
∞
∑
m(Cn ) < ε/2.
n=k+1
定理 4.10 を適用して以上を組み合わせると
∫
Rd
1A −
k
∑
∫
1Cn m ≤
⋆
n=1
Rd
1A −
∞
∑
∫
⋆
1Cn m +
n=1
∞
∑
Rd n=k+1
1Cn m⋆ < ε.
集合 C1 , C2 , . . . , Ck が求めるものである。
9
1 次元 Lebesgue 測度の存在
この節では 1 次元 Lebesgue 測度の存在を示し、その重要な応用例として 1 次元区間上の
連続関数には必ず原始関数が存在することおよび微積分の基本定理を証明する。
✓
前提
✏
以下 I は左半開区間の全体に空集合 ∅ を付加した集合族を表し、
(I, m) を R 上の有限加法的測度とする。
✒
✑
9.1 補題. m は条件 inf δ>0 m((a, a + δ]) = 0 ∀a ∈ R を満たすとする。このとき左半開区間の
列 (an , bn ] n ∈ N と ε > 0 に対して次を満たすような正の実数列 δn が存在する。
∞
∑
m((an , bn + δn ]) ≤ ε +
n=1
∞
∑
n=1
41
m((an , bn ]).
証明. m に対する条件により
∀n ∈ N ∃δn > 0 s.t. m((bn , bn + δn ]) < ε/2n .
有限加法性により m((an , bn + δn ]) = m((an , bn ]) + m((bn , bn + δn ]) であるから
∞
∑
∞
∑
m((an , bn + δn ]) ≤
{m((an , bn ]) + ε/2n }.
n=1
n=1
従って δn n ∈ N が求めるものである。
9.2 補題. K を有界な閉区間、Jn n ∈ N を開区間の列とする。K ⊂
を満たすような k ∈ N が存在する。
∪∞
n=1
Jn なら K ⊂
∪k
n=1
Jn
9.3 演習問題. 補題 9.2 を示せ。
9.4 補題. 条件 inf δ>0 m((a, a + δ]) = 0 ∀a ∈ R が成り立てば、(I, m) は σ-加法的である。
証明. 定理 8.12 によれば、A ∈ I とその可算 I 被覆 ∆ に対して
∑
m(A) ≤
m(J)
J∈∆
が成り立つことを示せばよい。記号の複雑化を避けるために A = (0, 1] として話を進める。
また可算 I 被覆 ∆ は左半開区間の列 (an , bn ] n ∈ N で表されるとしよう。ε > 0 とする。補
題 9.1 の前提は満たされるので、次のような正の実数列 δn を見つけることができる。
∞
∑
∞
∑
m((an , bn + δn ]) ≤ ε +
m((an , bn ]).
n=1
n=1
他方、m((0, δ]) < ε を満たすような δ > 0 も存在する。(an , bn ] ⊂ (an , bn + δn ) であるから
[δ, 1] ⊂ (0, 1] ⊂
∞
∪
(an , bn ] ⊂
∞
∪
(an , bn + δn ).
n=1
n=1
補題 9.2 によれば、次を満たす k ∈ N が存在する。
[δ, 1] ⊂
k
∪
(an , bn + δn ).
n=1
従ってこのような k に対して
(0, 1] = (0, δ) ∪ [δ, 1] ⊂ (0, δ] ∪
k
∪
(an , bn + δn ].
n=1
右辺は左半開区間の有限合併であるから、定理 7.15(ii) により
m((0, 1]) ≤ m((0, δ]) +
k
∑
n=1
42
m((an , bn + δn ]).
各項は非負値なので右辺は次でおさえられる。
m((0, δ]) +
∞
∑
m((an , bn + δn ]).
n=1
従って
m((0, 1]) ≤ 2ε +
∞
∑
m((an , bn ]).
n=1
ε は ε > 0 である限り任意なので求める不等式を得た。
付帯条件を付けると補題 9.4 の逆も正しい。
9.5 演習問題. (I, m) は条件 ∀a ∈ R ∃δ > 0 s.t. m((a, a + δ]) < +∞ を満たすとする。この
とき (I, m) が σ-加法的なら inf δ>0 m((a, a + δ]) = 0 ∀a ∈ R が成り立つことを示せ。
ここで R 上の有限加法的測度で重要な例を思い出そう。
✓
再確認
✏
非減少関数 v : R → R の誘導する R 上の有限加法的測度 dv とは
I → R, J → v(sup J) − v(inf J).
但し空集合 ∅ に対しては値 0 を割り当てる。
∞
∞
{∑
}
∪
γ(dv; A) := inf
(v(bn ) − v(an )) ; A ⊂
(an , bn ] A ∈ Sbset(R).
n=1
n=1
Mble(γ(dv; ·)) を単に Mble(dv) と書く。
✒
✑
9.6 定理. v : R → R を右連続な非減少関数とする。このとき
(a, b] ∈ Mble(dv) かつ γ(dv; (a, b]) = v(b) − v(a) ∀a < ∀b.
即ち v の誘導する有限加法的測度 dv は測度に拡張される。
証明. 定理 8.15 によれば、v の誘導する有限加法的測度の σ-加法性を確かめればよい。補題
9.4 に述べられている条件は次のように表せる。
inf {v(a + δ) − v(a)} = 0 ∀a ∈ R.
δ>0
これは v の右連続性に他ならない。
9.7 定義. v : R → R を右連続な非減少関数とする。このとき R 上の測度
dv ⋆ : Mble(dv) → R, A → γ(dv; A)
を v の誘導する Lebesgue-Stieltjes 測度、また γ(dv; ·) を Lebesgue-Stieltjes 外測度と呼ぶ。
43
9.8 演習問題. v : R → R を右連続な非減少関数とする。このとき任意の a ∈ R に対して {a}
が dv ⋆ 零集合であることと v が連続であることは同値であることを示せ。
✓
約束
✏
関数 v : x → x が誘導する Lebesgue-Stieltjes 測度(外測度)を 1 次元 Lebesgue 測度
(外測度)と呼ぶ。またこのとき Mble(dv)-集合を Lebesgue 可測集合といい、σ 加法
族 Mble(dv) に関して可測な関数は Lebesgue 可測関数と呼ぶ。
✒
✓
記号
✑
✏
λ は 1 次元 Lebesgue 測度を表す。
✒
✑
定理 9.6 によりたしかに Lebesgue 測度は存在する。しかし Lebesgue 可測集合の正体が今
ひとつはっきりしない。はたして連続関数は可測か?
9.9 補題. v : R → R を非減少関数とする。連続関数 f : R → R は Mble(dv)-可測である。
証明. x ∈ R に対して [x] := max{n ∈ Z : n < x} とおく。n ∈ N とする。関数
fn : R → R, x → f ([nx]/n)
について議論する。定理 8.11 により I 集合は可測であるから次が成り立つ。
∪
Image fn = {f (k/n) ; k ∈ Z}, (fn )−1 {y} =
(k/n, (k + 1)/n] ∈ Mble(dv).
k∈Z:f (k/n)=y
Image fn は可算集合なので補題 2.9 とその後の注意より fn は Mble(dv) 可測である。f は連
続なので fn は f に各点収束する。よって補題 5.1 により f も Mble(dv)-可測である。
9.10 定義. v : R → R を右連続な非減少関数、f を Mble(dv) 可測関数また A ∈ Mble(dv) と
する。f (あるいは 1A f ) が Lebesgue-Stieltjes 測度 dv ⋆ に関して可積分であるとき積分
∫
∫
⋆
f dv あるいは
f dv ⋆
R
A
を f の v による Lebesgue-Stieltjes 積分(Lebesgue-Stieltjes integral) と呼ぶ。
次は内容的に第 5 節で取り上げるべきものであるが、連続関数の可測性など題材がそろっ
ていなかったのがここに登場する理由である。
9.11 演習問題. 右連続な非減少関数 v : R → R はある c ∈ R に対して次を満たすとする。
∫
e−cx dv ⋆ (x) < +∞.
∫
[0,+∞)
(i) 各 t > c に対して [0,+∞) e−tx dv ⋆ (x) < +∞ であることを示せ。
∫
(ii) [c, +∞) 上の関数 t → [0,+∞) e−tx dv ⋆ (x) は連続であることを示せ。
∫
∫
−tx
⋆
(iii)
e dv (x) = v(0) − sup v(−δ) +
e−tx dv ⋆ (x) を示せ。
δ>0
[0,+∞)
(0,+∞)
∫
(iv) 極限 t → +∞ において [0,+∞) e−tx dv ⋆ (x) は収束することを示せ。
44
つぎの補題 9.13 および定理 9.14 は定理 6.13 の協力をうけて関数空間論において決定的な
役割を果たす。関数解析的な取り扱いでよく登場する空間を導入しておこう。
9.12 定義. 連続関数 f : Rd → R に対して {x ∈ Rd : f (x) ̸= 0} の閉包を f の台(support) と
いう。台が有界な連続関数全体の集合を C0 (Rd ) という記号で表すことが多い。
9.13 補題. v : R → R を右連続な非減少関数、A ∈ Mble(dv) とする。dv ⋆ (A) < +∞ なら、
任意の ε ∈ R>0 に対してその台が有界な連続関数 f : R → R が存在して
∫
|1A − f | dv ⋆ < ε.
R
証明. 関数 v は右連続であるから、定理 9.6 が適用できる。Mble(dv) 可測集合 A に対してそ
の外測度をもって dv ⋆ (A) を決めるというのが定義であった。仮定より外測度は有限である
から、定理 8.16 により有限個の区間 (an , bn ], n = 1, 2, . . . , k が存在して次を満たす。
∫
1A −
(⋆)
R
k
∑
1(an ,bn ] dv ⋆ < ε/2.
n=1
関数 v は右連続であったのである δ ∈ R>0 が存在して
k
∑
ε
(v(an + δ) − v(an ) + v(bn + δ) − v(bn )) < .
2
n=1
必要なら δ を取り替えることにより以下も満たすようにできる。
an + δ < bn ∀n = 1, 2, . . . , k.
ここで次の連続関数を導入する。
fn (x) := min{max{x − an , 0}/δ, max{bn + δ − x, 0}/δ, 1} n = 1, 2, . . . , k.
連続関数の可測性は補題 9.9 で保証されている。定理 4.10, 補題 3.4(ii) と定理 9.6 により
∫
k
∑
R
≤
=
1(an ,bn ] −
n=1
k
∑∫
n=1
k
∑
R
k
∑
fn dv ⋆
n=1
|1(an ,bn ] − fn |dv ≤
⋆
k ∫
∑
n=1
R
(1(an ,an +δ] + 1(bn ,bn +δ] )dv ⋆
(v(an + δ) − v(an ) + v(bn + δ) − v(bn )) <
n=1
ε
.
2
従って定理 4.10 を適用して (⋆) と組み合わせると
∫
R
関数
1A −
∑k
n=1
k
∑
n=1
∫
fn dv ≤
⋆
R
1A −
k
∑
∫
⋆
1(an ,bn ] dv +
n=1
R
k
∑
n=1
1(an ,bn ] −
k
∑
fn dv ⋆ < ε.
n=1
fn は区間 [min an , max bn + δ] の外で値 0 なので、これが求めるものである。
45
次の定理は、通常 L1 空間における連続関数の稠密性というキーワードで引用される。
9.14 定理. v : R → R を右連続な非減少関数、f : R → R を Mble(dv) 可測かつ dv ⋆ 可積分
とする。任意の ε ∈ R>0 に対してその台が有界な連続関数 g : R → R が存在して
∫
|f − g| dv ⋆ < ε.
R
証明. 補題 3.17 によれば、非負値 Mble(dv) 単関数列 fn が存在して
fn ≤ fn+1 ∀n ∈ N, supn∈N fn (x) = max{f (x), 0} ∀x ∈ Rd
定理 3.18 を適用すると
∫
sup
n∈N
∫
∫
⋆
R
fn dv =
max{f, 0} dv ≤
⋆
R
よってある k ∈ N が存在して
∫
R
|f | dv ⋆ < +∞.
∫
⋆
max{f, 0} dv <
R
R
fk dv ⋆ + ε/4.
h := fk とおくとこれは dv ⋆ 可積分な Mble(dv) 単関数で
∫
∫
∫
⋆
⋆
0 ≤ h ≤ max{f, 0},
(max{f, 0} − h) dv =
max{f, 0} dv − h dv ⋆ < ε/4.
R
R
R
次の不等式から z ∈ Image h かつ z > 0 なら dv ⋆ (h−1 {z}) < +∞ であることがわかる。
∫
⋆ −1
zdv (h {z}) ≤
h dv ⋆ < +∞.
R
Image h の要素の個数は有限であるが、それを N とおく。補題 9.13 により z ∈ Image h, z > 0
に対してその台が有界な連続関数 gz : R → R が存在して
∫
ε
|1h−1 {z} − gz | dv ⋆ <
.
4N z
R
∑
関数 g+ := z∈Image h,z>0 zgz は連続かつその台は有界である。定理 4.10 を適用して
∫
∫
∑
∑
∑
ε
⋆
z1h−1 {z} −
zgz dv ≤
z |1h−1 {z} − gz | dv ⋆ < .
4
R z∈Image h,z>0
R
z∈Image h,z>0
z∈Image h,z>0
上の左辺は
∫
R
∫
|h − g+ | dv ⋆ に等しいので
∫
∫
⋆
⋆
| max{f, 0} − g+ | dv ≤ (max{f, 0} − h) dv + |h − g+ | dv ⋆ < ε/2.
R
R
R
関数 −f に対して以上の議論が適用できる。よって連続関数 g− : R → R であって
∫
| max{−f, 0} − g− | dv ⋆ < ε/2
R
を満たしかつその台が有界なものが存在する。関数 g := g+ − g− が求めるものである。
46
✓
約束
✏
f : R → R を Lebesgue 可測関数とする。f が Lebesgue 可積分(Lebesgue integrable) とは Lebesgue 測度 λ に関して可積分であることをいう。このとき
∫
∫
f λ あるいは
f λ (ただし A は Lebesgue 可測集合)
R
A
を f の Lebesgue 積分(Lebesgue integral) と呼ぶ。
✒
✑
次の定理の応用範囲は、単に具体的にできる積分の評価にとどまらない。
9.15 定理. a, b ∈ R, a < ∫b かつ関数 f : (a, b) → R は連続かつ Lebesgue 可積分とする。
(i) 関数 (a, b) → R, x →
f λ は f の原始関数である。原始関数の存在
(a,x]
(ii) 関数
∫ f の原始関数の一つを F : (a, b) → R とすると極限 limx→a F (x), limx→b F (x) が存
在し
f λ = lim F (x) − lim F (x) が成り立つ。微積分の基本定理
(a,b)
x→a
x→b
証明. (i) c ∈ (a, b) における微分可能性を議論しよう。任意に ε > 0 が与えられたとする。連
続性により ∃δ > 0 s.t. |y − c| < δ ⇒ |f (y) − f (c)| < ε となる。さて c ≤ x < b のとき
∫
∫
∫
fλ−
f λ − f (c)(x − c) =
(f − f (c)) λ
(a,x]
(a,c]
(c,x]
より、定理 4.7(ii) を適用して c ≤ x < min{c + δ, b} なら
∫
∫
∫
|f − f (c)| λ ≤ ε|x − c|
fλ−
f λ − f (c)(x − c) ≤
(a,x]
(c,x]
(a,c]
が成り立つことを得る。
∫ ε|x − c| で抑えるという評価は max{c − δ, a} < x ≤ c であっても有効
である。よって x →
f λ は c において微分可能であり、微分係数は f (c) に等しい。
(a,x]
9.16 演習問題. 定理 9.15(ii) を示せ。Lebesgue 可積分という条件が重要である。
原始関数の正体がよく分かっているときは次の事実に基づいて可積分性判定を行う。その
効力は演習問題 4.6 と協調して発揮されることが多い。是非次の演習問題を解いてみてほし
い。但し定理 9.15 より何も議論せずに分かるというわけではない。
9.17 演習問題. f : R → R を連続関数とする。
(i) f は原始関数をもつことを示せ。
(ii) f は非負値としまたその原始関数の一つを F : R → R とする。次の同値性を示せ。
f Lebesgue 可積分 ⇔ F 有界
9.18 例. 関数 R → R, x → e−x は Lebesgue 可積分である。
2
47
証明. そのものの原始関数がよく分からないときは、優関数でなじみのあるものを見つける
というのが常套手段である。さて 2|x| ≤ x2 + 1 ∀x であるから
e−x ≤ e−2|x|+1 ∀x ∈ R
2
x → e−2|x|+1 の原始関数の一つは次で与えられ、それは明らかに有界である。
{
e − e−2x+1 /2 x ≥ 0
x→
e2x+1 /2
x≤0
演習問題 9.17(ii) にある同値性により、関数 x → e−x は可積分な優関数を持つ。演習問題
4.6 にある判定法によりそれ自身も可積分である。
2
9.19 演習問題. 関数 R → R, x → 1/(1 + |x|3/2 ) は Lebesgue 可積分であることを示せ。
9.20 演習問題. f : R → R を Lebesgue 可測関数であって区間 (−π, π) 上で Lebesgue 可積分
なものとする。0 ≤ r < 1 のとき次の級数が収束すること及び等号の成立を示せ。
∫
∫
∫
∞
∑
1 − r2
n
fλ+
2r
λ(dx)
f (x) cos nx λ(dx) =
f (x)
1 − 2r cos x + r2
(−π,π)
(−π,π)
(−π,π)
n=1
9.21 補題. v : R → R を右連続な非減少関数、f : R → R を連続関数、a ∈ R, c ∈ R>0 とす
る。このとき f は (a, a + c] 上 (Mble(dv), dv ⋆ ) 可積分であって次が成り立つ。
lim
n→∞
n−1
∑
∫
f (a + kc/n){v(a + (k + 1)c/n) − v(a + kc/n)} =
f dv ⋆ .
(a,a+c]
k=0
証明. 記号の複雑化を避けるために a = 0, c = 1 として話を進める。Mble(dv) 可測性は補題
9.9 で確認済みである。さて supx∈(0,1] |f (x)| < +∞ かつ dv ⋆ ((0, 1]) = v(1) − v(0) < +∞ で
ある。従って注意 6.10 にある判定手順により dv ⋆ 可積分性が分かる。補題 9.9 で登場した関
数列 fn を再び利用する。ここで M := supx∈(0,1] |f (x)| に対して次が成り立つ。
|1(0,1] fn (x)| ≤ M 1(0,1] (x) ∀n ∈ N ∀x ∈ R, lim 1(0,1] fn (x) = 1(0,1] f (x) ∀x ∈ R.
n→∞
∫
∫
⋆
従って定理 5.7 が適用できるので
1(0,1] fn =
n−1
∑
f dv ⋆ に収束する。一方、
fn dv は
(0,1]
(0,1]
f (k/n)1(k/n,(k+1)/n] , dv ⋆ ((k/n, (k + 1)/n]) = v((k + 1)/n) − v(k/n)
k=0
であるから
∫
⋆
fn dv =
(0,1]
n−1
∑
f (k/n){v((k + 1)/n) − v(k/n)}.
k=0
よって結論が導かれる。
48
9.22 例. v : R → R を連続な全単写で非減少なもの、f : R → R を連続関数、a, b ∈ R, a < b
とする。このとき次が成り立つ。但し右辺は Riemann 積分である。
∫
∫ v(b)
⋆
f dv =
f (v −1 (x)) dx.
(a,b]
v(a)
証明. 記号の複雑化を避けるために a = 0, b = 1 として話を進める。記号 [·] を補題 9.9 の証
明で登場したものとし、関数列 gn : x → f ([nv −1 (x)]/n) n ∈ N について議論する。このとき
∫
gn λ =
(v(0),v(1)]
n−1
∑
f (k/n){v((k + 1)/n) − v(k/n)}.
k=0
あとは補題 9.21 と平行した論法により証明ができる。
9.23 演習問題. 例 9.22 の証明を完成させよ。
9.24 演習問題. Riemann 可積分関数 f : R → R に対して以下を示せ。
(i) f は Lebesgue 可測である。
∫
∫ b
(ii)
fλ=
f (x) dx ∀a ∀b ∈ R a < b. 但し右辺は Riemann 積分である。
(a,b]
a
(iii) f が Lebesgue 可積分 ⇔ f∫の広義積分が絶対収束する
(iv) Lebesgue 可積分なとき、 f λ は広義積分に一致する。
R
拡張の一意性とその応用
10
Hopf の拡張定理によれば、σ-加法的な有限加法的測度は必ず測度に拡張される。この節
では拡張の一意性について議論し、その応用として Lebesgue 測度の平行移動不変性を導く。
✓
✏
前提
(C, m) を Rd 上の σ-加法的な有限加法的測度とする。
✒
✑
(Mble(m), m⋆ ) は Rd 上の測度で (C, m) を拡張する。さて B を Rd 上の σ-加法族で C を含
むもの、(B, µ1 ), (B, µ2 ) を Rd 上の測度で (C, m) を拡張するものとする。問題はいつ µ1 = µ2
がいえるかである。そのための条件は、(C, m) および B 両方に関わることになる。
10.1 定義. (C, m) が σ-有限(σ-finite) であるとは Rd の可算 C-被覆 Cn n ∈ N で m(Cn ) < +∞
∀n ∈ N をみたすものが存在することをいう。
10.2 演習問題. m⋆ (Rd ) < +∞ であれば、m は σ-有限であることを示せ。
10.3 補題. (C, m) が σ-有限なら Rd の可算 C-分割 ∆ で m(J) < ∞ ∀J ∈ ∆ をみたすものが
存在する。
49
証明. Cn n ∈ N を σ-有限性の定義にあるもの、それに対し集合族の列 ∆n n ∈ N を補題 7.16
で述べられたものとする。定理 7.15(iii) によれば、各 n ∈ N に対して
∑
m(J) ≤
J∈∆n
従って Rd の可算 C-分割 ∆ :=
∪∞
n=1
n
∑
m(Ck ) < +∞.
k=1
∆n は m(J) < ∞ ∀J ∈ ∆ をみたす。
10.4 補題. (B, µ) を Rd 上の測度で (C, m) を拡張するものとする。即ち A ∈ B, µ(A) = m(A)
∀A ∈ C. このとき (C, m) が σ-有限なら µ(A) = m⋆ (A) ∀A ∈ B ∩ Mble(m) が成り立つ。
証明. 先ず次の不等式が成り立つことを示す。
µ(A) ≤ γ(m; A) ∀A ∈ B.
(⋆)
Cn n ∈ N を A の可算 C-被覆とする。Cn ∈ B, µ(Cn ) = m(Cn ) である。補題 6.19 により
µ(A) ≤
∞
∑
µ(Cn ) =
n=1
∞
∑
m(Cn ).
n=1
よって不等式 (⋆) が成り立つ。σ-有限性により補題 10.3 にあるような Rd の可算 C-分割 ∆ が
存在する。J ∈ ∆ としよう。J ∈ B, µ(J) = m(J) < +∞ であるから
µ(A ∩ J) = µ(J) − µ(Ac ∩ J) ≥ m(J) − γ(m; Ac ∩ J) ∀A ∈ B.
ここで不等号は (⋆) を Ac ∩ J ∈ B に適用して導かれている。さらに A ∈ Mble(m) も仮定す
る。定理 8.11 と定理 8.12 により J ∈ Mble(m), m⋆ (J) = m(J) < +∞ であるから
m(J) − γ(m; Ac ∩ J) = m⋆ (J) − m⋆ (Ac ∩ J) = m⋆ (A ∩ J).
以上と µ, m⋆ 双方の σ-加法性により
∑
∑
µ(A) =
µ(A ∩ J) ≥
m⋆ (A ∩ J) = m⋆ (A) ∀A ∈ B ∩ Mble(m).
J∈∆
J∈∆
さて A ∈ B ∩ Mble(m) に対しては (⋆) の右辺は m⋆ (A) に等しいので結論を得る。
補題 10.4 ではふたつの σ-加法族の共通部 B ∩ Mble(m) が現れた。実はそのようなものは
σ-加法族である。例えば有限加法的測度を複数扱うとなるとそれに応じて σ-加法族も複数現
れることになるので一般的な定式化を行う。
∩
10.5 補題. Rd 上の σ-加法族たち Bα に対してそれらの共通部 α Bα も σ-加法族である。
∩
証明. (i) ∅ ∈ Bα ∀α であるから、∅ ∈ α Bα である。
∩
(ii) A ∈ α Bα とする。これは A ∈ Bα ∀α を意味する。各 Bα は σ-加法族なので、Ac ∈ Bα
∩
である。これが任意の α について成り立つので Ac ∈ α Bα が導かれる。
∩
(iii) An ∈ α Bα ∀n ∈ N とする。これは An ∈ Bα ∀n ∈ N ∀α を意味する。各 Bα は σ-加
∩
∪∞
∪∞
法族なので、 n=1 An ∈ Bα である。α は任意なので n=1 An ∈ α Bα が導かれる。
50
10.6 系. Rd の部分集合の族 A に対して次の条件を満たす集合族がただ一つ存在する。
(i) B は Rd 上の σ-加法族かつ A ⊂ B である。
(ii) 条件 (i) を満たす任意の集合族 B ′ に対して B ⊂ B′ である。最小性
証明. 先ず A を内包する Rd 上の σ-加法族は存在する。実際、Sbset(Rd ) がそうである。そ
こで条件 (i) を満たす任意の集合族たちすべての共通部をとれば、それは補題 10.5 により σ加法族である。しかもそれは条件 (ii) も満たす。一意性の確認は読者にゆだねる。
10.7 定義. Rd の部分集合の族 A に対し系 10.6 で規定される σ-加法族を記号 σ(A) で表し、
これを A で生成される σ-加法族(σ-field generated by A) と呼ぶ。
次の定理は有限加法的測度の測度への拡張の一意性を述べるもので、考察の対象となる測
度の性質を調べたり逆にそれを利用して測度を特定したりするのにきわめて有効である。
10.8 定理. σ-有限な (C, m) の σ(C) への測度としての拡張は一意的である。すなわち Rd 上
の測度 (σ(C), µ) が (C, m) を拡張するなら µ(A) = m⋆ (A) ∀A ∈ σ(C) が成り立つ。
証明. σ(C) ⊂ Mble(m) であるから、補題 10.4 より直ちに導かれる。
✓
約束
✏
以下 I は左半開区間の全体に空集合 ∅ を付加した集合族を表す。
✒
✑
10.9 定義. R 上の σ-加法族 σ(I) を Borel 集合族(Borel σ-field) と呼び記号 B(R) で表す。
B(R)-集合を Borel 集合(Borel set) という。B(R) 可測な関数は Borel 可測関数とも呼ばれる。
また B(R) を定義域とする R 上の測度を Borel 測度(Borel measure) という。さらに R 上の
Borel 測度 µ で条件 µ(J) < +∞ ∀J ∈ I を満たすものを Radon 測度(Radon measure) という。
次の定理は Lebesgue-Stieltjes 測度の一意性を主張している。
10.10 定理. v : R → R を右連続な非減少関数とする。このとき v の誘導する LebesgueStieltjes 測度 dv ⋆ の B(R) への制限は、次を満たす唯一の R 上の Borel 測度である。
µ((a, b]) = v(b) − v(a) ∀a < ∀b.
証明. 関数 v の誘導する有限加法的測度は
dv((−n, n]) = v(n) − v(−n) < +∞ ∀n ∈ N
を満たすので σ-有限である。よって定理 9.6 と定理 10.8 をくみあわせて結論を得る。
Borel 集合族の重要性のもう一つの側面は次に述べるものである。
10.11 補題. 連続関数 f : R → R は B(R) 可測である。
証明. 補題 9.9 の証明がここでもそのまま通用する。
51
10.12 補題. µ を R 上の Borel 測度、t ∈ R とする。
(i) A + t ∈ B(R) ∀A ∈ B(R) が成り立つ。ただし A + t := {x + t ; x ∈ A}.
(ii) B(R) → R, A → µ(A + t) は R 上の測度である。
証明. (i) 次が成り立つから集合族 B := {A ∈ Sbset(R) : A + t ∈ B(R)} は σ-加法族である。
(10.13)
∅ + t = ∅, Ac + t = (A + t)c ,
∞
(∪
∞
)
∪
(An + t).
An + t =
n=1
n=1
また (a, b] + t = (a + t, b + t] であるから B は I を含む σ-加法族である。B(R) はそのような
ものの最小であったので B(R) ⊂ B 即ち A ∈ B(R) ⇒ A + t ∈ B(R) が導かれる。
(ii) σ-加法性を確かめればよいがこれは演習問題とする。
10.14 演習問題. (10.13) を示せ。また補題 10.12(ii) を示せ。
補題 10.12(i) の証明ポイントが理解できたかを試すには次の問題を解くとよいだろう。
10.15 演習問題. B を Rd 上の σ 加法族、f : Rd → R を B 可測関数とする。
(i) 集合族 {A ∈ Sbset(R) : f −1 (A) ∈ B} は σ-加法族であることを示せ。
(ii) f −1 (A) ∈ B ∀A ∈ B(R) が成り立つことを示せ。
1 次元 Lebesgue 測度の著しい特徴は平行移動不変性(translation invariance) である。それ
だけでなく平行移動不変性な R 上の測度は実質上 Lebesgue 測度だけなのである。以上が定
理 10.16 の内容である。この性質ゆえ Lebesgue 測度は解析学において特別な役割を果たす。
その典型例が定理 9.15 で述べた微積分の基本定理である。
10.16 定理. λ を 1 次元 Lebesgue 測度、µ を R 上の Radon 測度とする。
(i) λ(A + t) = λ(A) ∀A ∈ B(R) ∀t ∈ R.
(ii) µ(A + t) = µ(A) ∀A ∈ I ∀t ∈ R ⇒ µ(A) = µ((0, 1])λ(A) ∀A ∈ B(R).
証明. (i) 補題 10.12 で見たように B(R) → R, A → λ(A + t) は R 上の測度である。しかも
λ((a, b] + t) = λ((a + t, b + t]) = b − a ∀a < ∀b.
ゆえに定理 10.10 を適用して (i) を得る。
(ii) (0, +∞) 上の関数 t → µ((0, t]) は右連続である。さらに有限加法性と仮定により
µ((0, t + s]) = µ((0, t]) + µ((t, t + s]) = µ((0, t]) + µ((0, s]) ∀t > 0 ∀s > 0.
よって µ((0, t]) = µ((0, 1])t ∀t > 0 が導けるがその実行は演習問題 10.17 に委ねる。これを
使うと
µ((a, b]) = µ((0, b − a]) = µ((0, 1])(b − a) ∀a < ∀b.
再び定理 10.10 を適用して (ii) を得る。
10.17 演習問題. 関数 f : (0, +∞) → R は条件 f (t + s) = f (t) + f (s) ∀t ∀s を満たしかつ右
連続であるとする。このとき f (t) = f (1)t ∀t であることを示せ。
52
直積測度としての 2 次元 Lebesgue 測度
11
この節では測度の直積とその一意性について議論する。その応用として 2 次元 Lebesgue
測度の存在を示しさらに Lebesgue 測度の平行移動および回転不変性を導く。また直積測度
は確率論における独立性の概念と密接に結びついている。
✓
前提
✏
(C1 , m1 ) を Rd(1) 上の有限加法的測度、(C2 , m2 ) を Rd(2) 上の有限加法的測度
とする。また d = d(1) + d(2) とする。
✒
✓
記号
✑
✏
Rd(1) 上の部分集合族 C1 と Rd(2) 上の部分集合族 C2 に対して Rd 上の部分集
合族を以下で導入する。
C1 × C2 := {A × B ; A ∈ C1 , B ∈ C2 }
集合族 C1 × C2 に属する集合を C1 , C2 長方形集合(rectangular set) という。
✒
✑
11.1 補題. Rd 上の集合族 C1 × C2 に対し補題 7.2 の公理化が成り立つ。
証明. まず ∅ = ∅ × ∅ ∈ C1 × C2 である。次に A1 , B1 ∈ C1 , A2 , B2 ∈ C2 とする。このとき
(A1 × A2 ) ∩ (B1 × B2 ) = (A1 ∩ B1 ) × (A2 ∩ B2 ) ∈ C1 × C2 .
よって集合族 C1 × C2 に対し補題 7.2 の公理化 (i) が成り立つ。他方 A1 × A2 ⊂ B1 × B2 かつ
A1 × A2 ̸= ∅ と仮定しよう。このとき A1 ⊂ B1 , A2 ⊂ B2 および
(B1 × B2 ) \ (A1 × A2 ) = (A1 × (B2 \ A2 )) ∪ ((B1 \ A1 ) × B2 )
が成り立ち、右辺は非交叉な合併である。さて B1 \ A1 の有限な C1 -分割 ∆1 と B2 \ A2 の有
限な C2 -分割 ∆2 が存在する。
{A1 × J ; J ∈ ∆2 } ∪ {I × B2 ; I ∈ ∆1 }
が補題 7.2 の公理化 (ii) を成立させる有限な C1 × C2 -分割である。
✓
記号
✏
proj1 : Rd → Rd(1) , proj2 : Rd → Rd(2) は次で定義される写像を表す。
✒
proj1 : (x1 , x2 ) → x1 , proj2 : (x1 , x2 ) → x2 .
✑
11.2 補題. A ∈ C1 × C2 ⇒ proj1 A ∈ C1 , proj2 A ∈ C2 , A = (proj1 A) × (proj2 A).
53
証明. A1 ∈ Sbset(Rd(1) ), A2 ∈ Sbset(Rd(2) ) とする。このとき次が成り立つ。
{
{
A2 if A1 ̸= ∅
A1 if A2 ̸= ∅
.
, proj2 (A1 × A2 ) =
proj1 (A1 × A2 ) =
∅
if A1 = ∅
∅
if A2 = ∅
A1 × ∅ = ∅, ∅ × A2 = ∅ であるから結論を得る。
✓
記号
✏
m1 × m2 : C1 × C2 → R は約束 0∞ = 0 のもと次で定義される関数を表す。
A → m1 (proj1 A)m2 (proj2 A)
✒
✑
11.3 補題. m1 , m2 ともに σ-加法的なら、関数 m1 × m2 : C1 × C2 → R は σ-加法的な Rd 上
の有限加法的測度である。
証明. (i) まず補題 11.1 により集合族 C1 × C2 に対し補題 7.2 の公理化が成り立つ。
(ii) 定義より (m1 × m2 )(A) = m1 (proj1 A)m2 (proj2 A) ≥ 0 ∀A ∈ C1 × C2 である。また
(m1 × m2 )(∅) = m1 (∅)m2 (∅) = 0 である。
(iii) ∆ を A ∈ C1 × C2 の可算な C1 × C2 -分割とする。このとき補題 11.2 により
1A (x, y) = 1proj1 A (x)1proj2 A (y), 1J (x, y) = 1proj1 J (x)1proj2 J (y) J ∈ ∆
であるから次が成り立つ。
1proj1 A (x)1proj2 A (y) =
∑
1proj1 J (x)1proj2 J (y) ∀x ∈ Rd(1) ∀y ∈ Rd(2) .
J∈∆
σ-加法性により Rd(2) 上の測度 (Mble(m2 ), m⋆2 ) は (C2 , m2 ) を拡張する。各 x ∈ Rd(1) に対し非
負値な Mble(m2 )-可測関数
Rd(2) → R, y → 1proj1 A (x)1proj2 A (y)
の m⋆2 についての積分を補題 5.4 を適用して評価すると
∑
1proj1 A (x)m⋆2 (proj2 A) =
1proj1 J (x)m⋆2 (proj2 J) ∀x ∈ Rd(1)
J∈∆
を得る。m⋆2 (I) = m2 (I) ∀I ∈ C2 を使って両辺を次のように書き換える。
∑
m2 (proj2 A)1proj1 A (x) =
m2 (proj2 J)1proj1 J (x) ∀x ∈ Rd(1) .
J∈∆
他方、Rd(1) 上の測度 (Mble(m1 ), m⋆1 ) は (C1 , m1 ) を拡張する。非負値な Mble(m1 )-可測関数
Rd(1) → R, x → m2 (proj2 A)1proj1 A (x)
の m⋆1 についての積分を再び補題 5.4 を適用して評価すると
∑
m2 (proj2 A)m⋆1 (proj1 A) =
m2 (proj2 J)m⋆1 (proj1 J).
J∈∆
= m1 (I) ∀I ∈ C1 および m1 × m2 の定義により左辺は (m1 × m2 )(A) に等しく右辺は
J∈∆ (m1 × m2 )(J) に等しい。よって σ-加法性も確かめられた。
m⋆1 (I)
∑
54
11.4 系. m1 , m2 ともに σ-加法的なら、Rd 上の測度 (Mble(m1 × m2 ), (m1 × m2 )⋆ ) は有限加
法的測度 (C1 × C2 , m1 × m2 ) を拡張する。
証明. 定理 8.15 と補題 11.3 による。
✓
記号
✏
λ を 1 次元 Lebesgue 測度とする。
✒
✑
一般に測度は σ-加法的な有限加法的測度でもあるので、R2 上の σ-加法的な有限加法的測
度 (Mble(λ) × Mble(λ), λ × λ) に対して、系 11.4 が適用できる。これをふまえて
11.5 定義. R2 上の測度 (Mble(λ × λ), (λ × λ)⋆ ) を 2 次元 Lebesgue 測度、Mble(λ × λ)-集合
を 2 次元 Lebesgue 可測集合という。
✓
記号
✏
λ(2) を 2 次元 Lebesgue 測度とする。
✒
✑
系 11.4 によりたしかに 2 次元 Lebesgue 測度は存在するが、やはり Lebesgue 可測集合の正
体がつかみきれない。そこで σ-有限性のもとでの一意性を論じる。
11.6 定理. (C1 , m1 ), (C2 , m2 ) はともに σ-加法的かつ σ-有限とする。このとき σ(C1 × C2 ) で
定義された Rd 上の測度 µ であって、条件
µ(A) = m1 (proj1 A)m2 (proj2 A) ∀A ∈ C1 × C2
を満たすものは (Mble(m1 × m2 ), (m1 × m2 )⋆ ) の σ(C1 × C2 ) 上への制限に等しい。
証明. (C1 × C2 , m1 × m2 ) は σ-有限となるので定理 10.8 より直ちに導かれる。
実用上よく利用される直積測度の一意性(uniqueness of product measure) についてのべる。
11.7 定義. B1 を Rd(1) 上の σ-加法族、B2 を Rd(2) 上の σ-加法族とする。このとき Rd 上の σ加法族 σ(B1 × B2 ) を直積 σ-加法族(product σ-field) と呼び記号 B1 ⊗ B2 で表す。また B1 を
定義域とする Rd(1) 上の測度 µ1 と B2 を定義域とする Rd(2) 上の測度 µ2 について (µ1 × µ2 )⋆
の B1 ⊗ B2 への制限を直積測度(product measure) と呼び µ1 ⊗ µ2 で表すことが多い。
11.8 注意. Mble(λ) ⊗ Mble(λ) ⊂ Mble(λ × λ) であることは定義から直ちに分かる。両者は
一致しないことが知られている。
11.9 系. (B1 , µ1 ) を Rd(1) 上の σ-有限な測度、(B2 , µ2 ) を Rd(2) 上の σ-有限な測度とする。こ
のとき B1 ⊗ B2 で定義された Rd 上の測度 µ であって、条件
µ(A) = µ1 (proj1 A)µ2 (proj2 A) ∀A ∈ B1 × B2
を満たすものがただひとつ存在し、それは直積測度 µ1 ⊗ µ2 である。
55
✓
約束
✏
以下 I は左半開区間の全体に空集合 ∅ を付加した集合族を表す。
✒
✑
11.10 定義. R 上の σ-加法族 σ(I × I) を 2 次元 Borel 集合族(2-dimensional Borel σ-field)
と呼び記号 B(R2 ) で表す。B(R2 )-集合を 2 次元 Borel 集合という。B(R2 ) 可測な関数は Borel
可測関数とも呼ばれる。また B(R2 ) を定義域とする R2 上の測度を Borel 測度という。さら
に R2 上の Borel 測度 µ で条件 µ(J) < +∞ ∀J ∈ I × I を満たすものを Radon 測度という。
(一般の Rd でも同様のものを考えるが詳細は省略する。)
2
2 次元 Lebesgue 測度の一意性(uniqueness of Lebesgue measure) は次のように表現できる。
11.11 定理. 2 次元 Lebesgue 測度 λ(2) の B(R2 ) への制限は、
µ((a1 , b1 ] × (a2 , b2 ]) = (b1 − a1 )(b2 − a2 ) ∀a1 < ∀b1 ∀a2 < ∀b2
を満たす唯一の R2 上の Borel 測度である。
証明. 系 11.4 によれば、2 次元 Lebesgue 測度 λ(2) は
λ(2) (A) = λ(proj1 A)λ(proj2 A) ∀A ∈ Mble(λ) × Mble(λ)
を満たす。I ⊂ Mble(λ) であったので、λ(2) の B(R2 ) への制限は所定の条件を満たす。従っ
て存在が分かる。次に µ を所定の条件を満たす R2 上の Borel 測度としよう。また、m を 1 次
元 Lebesgue 測度 λ の I への制限で与えられる有限加法的測度としよう。ともに R2 上の σ-有
限な有限加法的測度 (I × I, m × m) を拡張するので
µ(A) = (m × m)⋆ (A) = λ(2) (A) ∀A ∈ σ(I × I) = B(R2 ).
が定理 11.6 により成り立つ。
Lebesgue 測度と平行移動との結びつきは高次元の場合にも強固である。多次元において
は回転が重要な役割を果たすのでまとめて議論するために少し一般的に設定する。次の補題
は、次節以降で述べる Fubini の定理の応用に際しても重要である。
11.12 補題. (i) Rd(1) の可算 C1 被覆と Rd(2) の可算 C2 被覆が存在するなら Rd 上の σ 加法族
σ(C1 × C2 ) と σ(C1 ) ⊗ σ(C2 ) は一致する。
(ii) m1 , m2 はともに σ-加法的かつ σ-有限とする。µ1 を m⋆1 の σ(C1 ) への制限、µ2 を m⋆2 の
σ(C2 ) への制限とすると µ1 ⊗ µ2 は (m1 × m2 )⋆ を σ(C1 × C2 ) に制限したものである。
証明. (i) まず C1 × C2 ⊂ σ(C1 ) × σ(C2 ) ⊂ σ(C1 ) ⊗ σ(C2 ) である。右辺は C1 × C2 を含む σ-加
法族であるがそのようなものの最小が σ(C1 × C2 ) なので σ(C1 × C2 ) ⊂ σ(C1 ) ⊗ σ(C2 ) を得る。
次の集合族 B が Rd(1) 上の σ-加法族であることを示すのは演習問題に委ねる。
B := {A ∈ Sbset(Rd(1) ) : A × Rd(2) ∈ σ(C1 × C2 )}.
A ∈ C1 について A × Rd(2) ∈ C1 × C2 はいえないかもしれないが、Rd(2) の可算 C2 被覆が存在
するので、A × Rd(2) ∈ σ(C1 × C2 ) は真である。従って B は C1 を含む σ-加法族となるが、そ
のようなものの最小が σ(C1 ) なので σ(C1 ) ⊂ B である。すなわち
56
A ∈ σ(C1 ) ⇒ A × Rd(2) ∈ σ(C1 × C2 ).
同様に B ∈ σ(C2 ) ⇒ Rd(1) × B ∈ σ(C1 × C2 ) も成り立つ。以上より
A ∈ σ(C1 ), B ∈ σ(C2 ) ⇒ A × B = (A × Rd(2) ) ∩ (Rd(1) × B) ∈ σ(C1 × C2 ).
従って σ(C1 ) × σ(C2 ) は σ-加法族 σ(C1 × C2 ) に含まれる。σ(C1 ) × σ(C2 ) で生成される σ-加法
族が σ(C1 ) ⊗ σ(C2 ) なので σ(C1 ) ⊗ σ(C2 ) ⊂ σ(C1 × C2 ) を得る。
(ii) (i) により µ1 ⊗ µ2 は定理 11.6 の条件を満たす。
11.13 演習問題. 補題 11.12 の証明に登場した集合族 B は σ-加法族であることを示せ。
11.14 系. (i) B(R2 ) = B(R) ⊗ B(R).
(ii) m を λ の B(R) への制限とするとき m ⊗ m は λ(2) を B(R2 ) に制限したものである。
証明. 補題 11.12 から直ちに分かる。
✓
警告
✏
A ∈ B(R) × B(R) なら proj1 A ∈ B(R), proj2 A ∈ B(R) であるが、一般には
A ∈ B(R) ⊗ B(R) から proj1 A ∈ B(R) や proj2 A ∈ B(R) は従わない。
✒
✑
11.15 補題. R2 の開部分集合全体で生成される σ-加法族は B(R2 ) と一致する。
証明. R の開区間全体を U とあらわす。次に着目する。
(a, b] =
∞
∩
(a, b + 1/n) ∈ σ(U), (a, b) =
n=1
∞
∪
(a, b − 1/n] ∈ σ(I) = B(R)
n=1
左から B(R) ⊂ σ(U) が分かり、右から σ(U) ⊂ B(R) が分かる。よって
σ(U) = B(R).
ここで補題 11.12 と系 11.14 を適用して
σ(U × U) = σ(U) ⊗ σ(U) = B(R) ⊗ B(R) = B(R2 ).
次に R2 の開部分集合全体を O とあらわす。(U × U)-集合はすべて O-集合であるから、
B(R2 ) = σ(U × U) ⊂ σ(O).
他方、次が成り立つので任意の O-集合は σ-加法族 σ(U × U) に属する。
(11.16)
任意の R2 の開部分集合は (U × U)-集合の可算合併である。
したがって σ(O) の定義により σ(O) ⊂ σ(U × U ) = B(R2 ) を得る。
11.17 演習問題. (11.16) を示せ。
57
11.18 補題. 連続関数 f : R2 → R は B(R2 ) 可測である。
証明. a ∈ R とする。連続性より {x ∈ R2 : f (x) < a} は開集合である。従って補題 11.15 を
適用して {x ∈ R2 : f (x) < a} ∈ B(R2 ) が導ける。
11.19 補題. µ を R2 上の Borel 測度、ϕ : R2 → R2 を連続写像とする。
(i) ϕ−1 (A) ∈ B(R2 ) ∀A ∈ B(R2 ) が成り立つ。任意の B(R2 ) 可測関数 f : R2 → R に対して
合成関数 f ◦ ϕ : R2 → R も B(R2 ) 可測である。
(ii) B(R2 ) → R, A → µ(ϕ−1 (A)) は R2 上の測度である。
証明. (i) 次の集合族が R2 上の σ-加法族であることを示すのは演習問題に委ねる。
B := {A ∈ Sbset(R2 ) : ϕ−1 (A) ∈ B(R2 )}.
ϕ の連続性と補題 11.15 により
U R2 の開部分集合 ⇒ ϕ−1 (U ) 開集合 ⇒ ϕ−1 (U ) ∈ B(R2 )
従って任意の開部分集合は σ-加法族 B に属する。補題 11.15 によれば開部分集合全体が B(R2 )
を生成するので B(R2 ) ⊂ B を得る。すなわち
A ∈ B(R2 ) ⇒ ϕ−1 (A) ∈ B(R2 )
つぎに f の可測性により {y ∈ R2 : f (y) < a} ∈ B(R2 ) ∀a ∈ R である。よって
{x ∈ R2 : f (ϕ(x)) < a} = ϕ−1 ({y ∈ R2 : f (y) < a}) ∈ B(R2 ) ∀a ∈ R
が導かれる。すなわち f ◦ ϕ も B(R2 ) 可測である。(ii) を示すのは演習問題とする。
11.20 演習問題. (i) 補題 11.19 の証明で登場した B は σ-加法族であることを示せ。
(ii) 補題 11.19(ii) を示せ。
次に述べるように 2 次元 Lebesgue 測度は平行移動不変性を持ち、逆に平行移動不変な R2
上の測度は実質上 2 次元 Lebesgue 測度だけなのである。
11.21 定理. µ を R2 上の Radon 測度とする。
(i) λ(2) (A + t) = λ(2) (A) ∀A ∈ B(R2 ) ∀t ∈ R2 .
(ii) µ(A + t) = µ(A) ∀A ∈ I × I ∀t ∈ R2 ⇒ µ(A) = µ((0, 1] × (0, 1])λ(2) (A) ∀A ∈ B(R2 ).
証明. (i) 補題 11.19 により B(R2 ) → R, A → λ(2) (A + t) は R2 上の測度である。さて
proj1 (J + t) = proj1 J + t1 , proj2 (J + t) = proj2 J + t2 ∀J ∈ I × I
である。よって各 J ∈ I × I に対して
λ(2) (J + t) = λ(proj1 J + t1 )λ(proj2 J + t2 ) = λ(proj1 J)λ(proj2 J) = λ(2) (J).
ゆえに定理 11.11 を適用して (i) を得る。(ii) を示すのは演習問題とする。
58
11.22 演習問題. 定理 11.21(ii) を示せ。
(ヒント 関数 f : (0, +∞) → R, t → µ((0, t] × (a, b])
は右連続かつ f (t + s) = f (t) + f (s) ∀t, ∀s を満たすことをまず示せ。)
平行移動はユークリッド距離を保存する。これが Lebesgue 測度の平行移動不変性を導くの
だが、その観点からの証明は更に高度な概念に依存するのでここでは割愛する。さて高次元
空間では別のタイプの距離を保存する変換が存在する。それは回転である。2 次元 Lebesgue
測度が回転不変(rotation invariant) であることを平行移動不変性と関連づけて示そう。
11.23 定理. 2 次元直交写像 ϕ に対して λ(2) (ϕ−1 (A)) = λ(2) (A) ∀A ∈ B(R2 ) が成り立つ。
証明. R2 上の測度 A → λ(2) (ϕ−1 (A)) は Radon 測度である。他方
ϕ−1 (A + t) = ϕ−1 (A) + ϕ−1 (t)
であるから定理 11.21(i) を適用して
λ(2) (ϕ−1 (A + t)) = λ(2) (ϕ−1 (A)) ∀A ∈ B(R2 ) ∀t ∈ R2
を得る。従って定理 11.21(ii) の仮定が満たされる。よって
∃c ≥ 0 s.t. λ(2) (ϕ−1 (A)) = cλ(2) (A) ∀A ∈ B(R2 ).
特に、∥ · ∥ をユークリッドノルムとするとき、開集合 A = {x ∈ R2 : ∥x∥ < 1} については
ϕ−1 (A) = A, 0 < λ(2) (A) < +∞
(11.24)
なので c = 1 を得る。
11.25 演習問題. (11.24) を示せ。
Dynkin 族定理と直積測度の構造
12
直積測度の構造をその断面から観察するのが Fubini の定理である。それに向けてのお膳立
てを行うのがこの節の目的である。可測性に関する概念が多変数になることにより込み入っ
たものになるが、結局は直積という概念から逸脱するものではないことが判明する。この節
の最重点は補題 12.11 である。通常は、単調族の概念を利用することが多いが、ここでは確
率論において様々な場面で利用される Dynkin 族定理を紹介する。
✓
前提
✏
(B1 , µ1 ) を Rd(1) 上の σ-有限な測度、(B2 , µ2 ) を Rd(2) 上の σ-有限な測度と
する。また d = d(1) + d(2) とする。
✒
✓
再確認
✑
✏
記号 B1 ⊗ B2 は直積 σ-加法族を表す。このとき直積測度 µ1 ⊗ µ2 は次の
条件を満たす (Rd , B1 ⊗ B2 ) 上の一意的な測度である。系 11.9 を参照
(µ1 ⊗ µ2 )(A × B) = µ1 (A)µ2 (B) ∀A ∈ B1 ∀B ∈ B2 .
ここでは 0 と ∞ の積は 0 と約束している。
✒
59
✑
12.1 補題. A ∈ B1 ⊗ B2 とする。
(i) 各 x ∈ Rd(1) に対して関数 Rd(2) → R, y → 1A (x, y) は B2 -可測である。
(ii) 各 y ∈ Rd(2) に対して関数 Rd(1) → R, x → 1A (x, y) は B1 -可測である。
証明. (i) 次が Rd 上の σ-加法族でしかも B1 × B2 を含むことを示すのは演習問題とする。
B := {A ∈ Sbset(Rd ) : y → 1A (x, y) B2 -可測 ∀x ∈ Rd(1) }.
そのようなものの最小が B1 ⊗ B2 なので B1 ⊗ B2 ⊂ B すなわち
A ∈ B1 ⊗ B2 ⇒ y → 1A (x, y) B2 -可測 ∀x ∈ Rd(1)
を得る。(ii) を示すには x, y の役割を入れ替えればよい。
12.2 演習問題. 補題 12.1 の証明に登場した B が B1 × B2 を含む σ-加法族であることを示せ。
12.3 系. A ∈ B(R2 ) とする。
(i) 各 x ∈ R に対して関数 R → R, y → 1A (x, y) は B(R)-可測である。
(ii) 各 y ∈ R に対して関数 R → R, x → 1A (x, y) は B(R)-可測である。
証明. 系 11.14(i) と補題 12.1 から従う。
今までの経験からすると次の集合族は B1 × B2 を含む σ-加法族であるように思われる。
∫
{A ∈ B1 ⊗ B2 : x →
1A (x, y) µ2 (dy) は B1 -可測 }.
Rd(2)
しかしこれがかなり手強いしろものでその証明を与える補題 12.11 は Fubini の定理において
中心をなすものとなる。見通しよく議論するのには新しい概念を導入する必要がある。
12.4 定義. D を Rd の部分集合族とする。それが条件
(i) ∅ ∈ D.
(ii) A ∈ D, B ∈ D, A ⊃ B ⇒ A \ B ∈ D.
∪
(iii) An ∈ D ∀n ∈ N, An ⊂ An+1 ∀n ∈ N ⇒ ∞
n=1 An ∈ D.
を満たすとき Dynkin 族(Dynkin system) をなすという。
任意の Rd 上の σ-加法族は Dynkin 族である。付帯条件を付けると逆も正しい。
12.5 補題. D を Rd 上の Dynkin 族とする.
(i) Rd ∈ D かつ A ∩ B ∈ D ∀A ∈ D ∀B ∈ D なら D は σ-加法族である。
(ii) 任意の B ∈ Sbset(Rd ) に対して {A ∈ Sbset(Rd ) : A ∩ B ∈ D} は Dynkin 族である。
証明. (i) Rd ∈ D と Dynkin 族の条件 (ii) より
A ∈ D ⇒ Ac = Rd \ A ∈ D.
次に上のことと仮定 A ∩ B ∈ D ∀A ∈ D ∀B ∈ D より
60
A ∈ D, B ∈ D ⇒ A ∪ B = (Ac ∩ B c )c ∈ D.
∪n+1
∪n
∪n
従って A1 , A2 , . . . , An ∈ D ⇒ k=1 Ak ∈ D である。他方 k=1 Ak ⊂ k=1 Ak が成り立つの
で、Dynkin 族の条件 (iii) より
An ∈ D ∀n ∈ N ⇒
∞
∪
An =
n=1
∞ (∪
n
∪
n=1
)
Ak ∈ D.
k=1
(ii) まず ∅ ∩ B = ∅ ∈ D である。次に A1 ∩ B ∈ D, A2 ∩ B ∈ D, A1 ⊃ A2 とすると
(A1 \ A2 ) ∩ B = (A1 ∩ B) \ (A2 ∩ B) ∈ D
である。最後に An ∩ B ∈ D ∀n ∈ N, An ⊂ An+1 ∀n ∈ N とすると
∞
(∪
∞
)
∪
(An ∩ B) ∈ D
An ∩ B =
n=1
n=1
が導かれる。よって Dynkin 族の条件がすべて確認できた。
補題 10.5 でのべたように Rd 上の σ-加法族たちの共通部は σ-加法族である。これと同じこ
とが Dynkin 族についてもいえる。
∩
12.6 補題. (i) Rd 上の Dynkin 族たち Dα に対しそれらの共通部 α Dα も Dynkin 族である。
(ii) Rd の部分集合の族 A に対し A を含む Rd 上の Dynkin 族たちに最小のものが存在する。
証明の実行は補題 10.5 のそれと同じすじなので演習問題とする。
12.7 演習問題. 補題 12.6 を示せ。
12.8 定義. A を Rd の部分集合の族とする。A を含む Rd 上の Dynkin 族で最小のものを A
で生成される Dynkin 族と呼ぶ。
12.9 補題. C を Rd の部分集合族で次の条件を満たすものとする。
A ∩ B ∈ C ∀A ∈ C ∀B ∈ C.
C で生成される Rd 上の Dynkin 族を D とすると A ∩ B ∈ D ∀A ∈ D ∀B ∈ D が成り立つ。
証明. D は Dynkin 族なので補題 12.5(ii) および補題 12.6(i) により
∩
D1 := {A ∈ Sbset(Rd ) : A ∩ B ∈ D ∀B ∈ C} =
{A ∈ Sbset(Rd ) : A ∩ B ∈ D}
B∈C
は Rd 上の Dynkin 族である。C に対する条件と関係 C ⊂ D により
A ∈ C ⇒ A ∩ B ∈ C ∀B ∈ C ⇒ A ∩ B ∈ D ∀B ∈ C.
従って集合族 D1 は C を含む Dynkin 族である。D は C で生成される Dynkin 族であるから
D ⊂ D1 すなわち A ∈ D ⇒ A ∩ B ∈ D ∀B ∈ C を得る。これは次と同値である。
A ∈ D, B ∈ C ⇒ A ∩ B ∈ D.
61
A, B の役割を入れ替えてみよう。
A ∈ C ⇒ A ∩ B ∈ D ∀B ∈ D.
よって次の集合族は C を含む。
D2 := {A ∈ Sbset(Rd ) : A ∩ B ∈ D ∀B ∈ D}.
しかも D1 に対するのと同じ根拠により集合族 D2 は Dynkin 族である。D は C で生成される
Dynkin 族であるから D ⊂ D2 すなわち A ∈ D ⇒ A ∩ B ∈ D ∀B ∈ D を得る。
次は Dynkin 族定理と呼ばれる。
12.10 定理. Rd の部分集合族 C が条件 A ∩ B ∈ C ∀A ∈ C ∀B ∈ C を満たすとする。このと
き集合族 C ∪ {Rd } で生成される Rd 上の Dynkin 族は σ-加法族 σ(C) に等しい。
証明. 集合族 C˜ := C ∪ {Rd } も条件 A ∩ B ∈ C˜ ∀A ∈ C˜ ∀B ∈ C˜ を満たす。従って補題 12.9 に
より C˜ で生成される Rd 上の Dynkin 族 D は条件
A ∩ B ∈ D ∀A ∈ D ∀B ∈ D
を満たすことになる。しかも Rd ∈ D なので補題 12.5(i) により D は σ-加法族である。また
それは C を含む。σ(C) は C で生成される σ-加法族であるから σ(C) ⊂ D を得る。
他方、σ-加法族は Dynkin 族である。よって σ(C) は C ∪ {Rd } を含む Dynkin 族となる。D
は C ∪ {Rd } で生成される Dynkin 族であるから D ⊂ σ(C) を得る。
✓
記号
✏
proj1 : Rd → Rd(1) , proj2 : Rd → Rd(2) は次で定義される写像を表す。
✒
✓
警告
proj1 : (x1 , x2 ) → x1 , proj2 : (x1 , x2 ) → x2 .
✑
A ∈ B1 × B1 なら proj1 A ∈ B1 , proj2 A ∈ B2 , A = (proj1 A) × (proj2 A) であるが、
一般には A ∈ B1 ⊗ B2 から proj1 A ∈ B1 や A = (proj1 A) × (proj2 A) は従わない。
✒
∫
12.11 補題. A ∈ B1 ⊗ B2 なら関数 Rd(1) → R, x →
Rd(2)
µ2 (J) < +∞ ∀J ∈ ∆
を満たすものが存在する。次の集合族を考察する。
∫
D := {A ∈ B1 ⊗ B2 : x → 1A (x, y) µ2 (dy) B1 -可測 ∀J ∈ ∆}.
62
✑
1A (x, y) µ2 (dy) は B1 -可測である。
証明. (B2 , µ2 ) は σ-有限であるから補題 10.3 により Rd(2) の可算 B2 -分割 ∆ で
J
✏
A ∈ B1 × B2 としよう。このとき補題 11.2 により
1A (x, y) = 1proj1 A (x)1proj2 A (y) ∀x ∈ Rd(1) ∀y ∈ Rd(2) かつ proj2 A ∈ B2
であるから
∫
∫
1A (x, y) µ2 (dy) = 1proj1 A (x)
J
Rd(2)
1J 1proj2 A µ2 = 1proj1 A (x)µ2 (J ∩ proj2 A) ∀x ∈ Rd(1) .
∫
従って proj1 A ∈ B1 より各 J ∈ ∆ に対し x →
1A (x, y) µ2 (dy) は B1 -可測である。即ち
J
B1 × B2 ⊂ D.
次に A ∈ D, B ∈ D, A ⊂ B としよう。このとき 1B − 1A = 1B\A である。さて
∫
∫
0 ≤ 1A (x, y) µ2 (dy) ≤ 1B (x, y) µ2 (dy) ≤ µ2 (J) < +∞ ∀J ∈ ∆
J
J
であるから定理 4.10 を適用して
∫
∫
∫
1B\A (x, y) µ2 (dy) = 1B (x, y) µ2 (dy) − 1A (x, y) µ2 (dy) ∀J ∈ ∆
J
J
J
を得る。右辺の各項は A ∈ D, B ∈ D より x に関して B1 -可測である。従って
A ∈ D, B ∈ D, A ⊂ B ⇒ B \ A ∈ D.
∪∞
最後に An ∈ D ∀n ∈ N, An ⊂ An+1 ∀n ∈ N, A := n=1 An とすると定理 3.18 より
∫
∫
∫
1A (x, y) µ2 (dy) = sup 1An (x, y) µ2 (dy) = sup 1An (x, y) µ2 (dy) ∀J ∈ ∆
J
∫
J n∈N
n∈N
J
が導かれる。各関数 x →
1An (x, y) µ2 (dy) は An ∈ D より B1 -可測である。よって補題 5.1
J
∫
∪
により関数 x →
1A (x, y) µ2 (dy) (A := ∞
n=1 An ) の B1 -可測性を得る。従って
J
An ∈ D ∀n ∈ N, An ⊂ An+1 ∀n ∈ N ⇒
∞
∪
An ∈ D.
n=1
以上より D は B1 × B2 をふくむ Dynkin 族である。他方、集合族 B1 × B2 は定理 12.10 の条
件を満たしかつ Rd ∈ B1 × B2 であるから
σ(B1 × B2 ) = B1 × B2 で生成される Dynkin 族
従って B1 ⊗ B2 = σ(B1 × B2 ) ⊂ D すなわち
∫
A ∈ B1 ⊗ B2 ⇒ x → 1A (x, y) µ2 (dy) B1 -可測 ∀J ∈ ∆.
J
A ∈ B1 ⊗ B2 とする。∆ は R
の可算 B2 -分割なので定理 5.5 を適用して
∫
∑∫
1A (x, y) µ2 (dy) =
1A (x, y) µ2 (dy) ∀x ∈ Rd(1)
d(2)
Rd(2)
∫
を得る。従って x →
Rd(2)
J∈∆
J
1A (x, y) µ2 (dy) は B1 -可測である。
63
∫
12.12 系. A ∈ B(R ) なら関数 R → R, x →
2
R
1A (x, y) µ2 (dy) は B(R)-可測である。
証明. 系 11.14(i) と補題 12.11 から従う。
次は Fubini の定理で骨格を形成するが、これを述べるには補題 12.11 が不可欠である。
∫
(∫
)
12.13 定理.
1A (x, y) µ2 (dy) µ1 (dx) = (µ1 ⊗ µ2 )(A) ∀A ∈ B1 ⊗ B2 .
Rd(1)
Rd(2)
証明. 補題 12.11 のおかげで関数 µ : B1 ⊗ B2 → R を次で定義することができる。
∫
(∫
)
µ(A) :=
1A (x, y) µ2 (dy) µ1 (dx).
Rd(1)
Rd(2)
その定義から直ちに µ(A) ≥ 0 ∀A ∈ B1 ⊗ B2 かつ µ(∅) = 0 である。∆ を A ∈ B1 ⊗ B2 の可
算 B1 ⊗ B2 -分割とする。このとき
∑
1A (x, y) =
1J (x, y)
J∈∆
である。まず補題 5.4 を適用して
∫
∑∫
1A (x, y) µ2 (dy) =
Rd(2)
Rd(2)
J∈∆
を得る。もう一度補題 5.4 を適用して
∫
(∫
)
∑∫
1A (x, y) µ2 (dy) µ1 (dx) =
Rd(1)
Rd(2)
J∈∆
Rd(1)
1J (x, y) µ2 (dy)
(∫
Rd(2)
)
1J (x, y) µ2 (dy) µ1 (dx)
が導かれる。即ち µ は σ-加法的である。ゆえに
(B1 ⊗ B2 , µ) は Rd 上の測度である。
次に A ∈ B1 × B2 としよう。このとき補題 11.2 より
proj1 A ∈ B1 , proj2 A ∈ B2 , 1A (x, y) = 1proj1 A (x)1proj2 A (y) ∀x ∈ Rd(1) y ∈ Rd(2)
であるから次が成り立つ。
∫
(∫
)
1A (x, y) µ2 (dy) µ1 (dx) = µ1 (proj1 A)µ2 (proj2 A) = (µ1 ⊗ µ2 )(A).
Rd(1)
Rd(2)
(B1 , µ1 ), (B2 , µ2 ) は σ-有限であるから系 11.9 により µ = µ1 ⊗ µ2 が導かれる。
✓
記号
✏
λ を 1 次元 Lebesgue 測度、λ(2) を 2 次元 Lebesgue 測度とする。
✒
∫ (∫
12.14 系.
R
R
)
1A (x, y) λ(dy) λ(dx) = λ(2) (A) ∀A ∈ B(R2 ).
64
✑
証明. 系 11.14 と定理 12.13 から従う。
定理 12.13 の典型的な応用例をあげる。まずはおなじみの縦線領域の面積公式である。
12.15 例. f : Rd → R を B 可測関数、µ を (Rd , B) 上の σ-有限測度とするとき次が成り立つ。
A := {(x, y) ∈ Rd × R : 0 < y < f (x)} ∈ B ⊗ B(R) かつ
∫
(µ ⊗ λ)(A) =
max{f, 0} µ
Rd
証明. A ∈ B ⊗ B(R) であることは次により確認できる。
∪
{(x, y) ∈ Rd × R : 0 < y < f (x)} =
({x : f (x) > q} × (0, q])
q∈Q:q>0
あとは 1A (x, y) = 1(0,f (x)) (y) に注意して定理 12.13 を適用すればよい。
系 11.14(i) により B(R2 ) = B(R) ⊗ B(R) であることを確認しておこう。
12.16 例. µ を (R, B(R)) 上の σ-有限測度で条件 µ({x}) = 0 ∀x ∈ R を満たすものとする。
このとき集合 D := {(x, y) ∈ R2 : x = y} は B(R2 ) に属しかつ (µ ⊗ µ)(D) = 0 である。
証明. Dc は R2 の開集合であるから補題 11.15 により Dc ∈ B(R2 ) である。D の定義により
1D (x, y) = 1 ⇔ x = y であるから
∫
1D (x, y) µ(dy) = µ({x}) = 0 ∀x ∈ R.
R
定理 12.13 を適用して (µ ⊗ µ)(D) = 0 を得る。
補題 11.19(i) より、連続写像 ϕ : R2 → R2 と B(R2 ) 可測関数 f : R2 → R の合成 f ◦ ϕ は
B(R2 ) 可測であることを思い出そう。
∫
12.17 補題.
1A (x + cy, y) λ(2) (dxdy) = λ(2) (A) ∀c ∈ R ∀A ∈ B(R2 ).
R2
証明. 任意に c ∈ R を固定して、写像 ϕ : (x, y) → (x + cy, y) を導入する。このとき
1A (x + cy, y) = 1ϕ−1 (A) (x, y).
A ∈ B(R2 ) と仮定する。補題 11.19(i) より ϕ−1 (A) ∈ B(R2 ) であるから
∫
∫
(2)
(⋆)
1A (x + cy, y) λ (dxdy) =
1ϕ−1 (A) (x, y) λ(2) (dxdy) = λ(2) (ϕ−1 (A))
R2
R2
と議論が展開する。補題 11.19(ii) によれば右辺は B(R2 ) 上の測度を定義する。他方、系 12.14
を中辺に適用すると
∫
∫ (∫
)
(2)
µ(A) :=
1A (x + cy, y) λ (dxdy) =
1ϕ−1 (A) (x, y) λ(dx) λ(dy).
R2
R
65
R
B(R2 ) 上定義された測度 µ を λ(2) と比較するというのがこれからの方針である。このままで
は先に進まないので、A に簡単な形を仮定する。1 次元半開区間 I, J に対し
1ϕ−1 (I×J) (x, y) = 1I×J (x + cy, y) = 1I (x + cy)1J (y) = 1I−cy (x)1J (y).
よって
µ(I × J) =
∫ (∫
R
∫
)
1I−cy (x)1J (y) λ(dx) λ(dy) =
λ(I − cy)1J (y) λ(dy).
R
R
定理 10.16 よれば λ(I − cy) = λ(I) と評価される。従って
µ(I × J) = λ(I)λ(J)
となり B(R2 ) 上の測度 µ は定理 11.11 の仮定を満たす。よって
∫
1A (x + cy, y) λ(2) (dxdy) = µ(A) = λ(2) (A)
R2
が任意の A ∈ B(R2 ) に対して成り立つことが導けた。
12.18 例. B ∈ B(R) が λ 零集合なら {(x, y) ∈ R2 : x + y ∈ B} は λ(2) 零集合である。
証明. B を λ 零集合とする。c = 1, A = B × R として補題 12.17 を適用する。
∫
1B×R (x + y, y) λ(2) (dxdy) = λ(2) (B × R) = λ(B)λ(R).
R2
このとき 1B×R (x + y, y) = 1 ⇔ x + y ∈ B であり λ(B) = 0 であるから
λ(2) ({(x, y) ∈ R2 : x + y ∈ B}) = 0.
したがって {(x, y) ∈ R2 : x + y ∈ B} は λ(2) 零集合である。
定理 11.23 によれば 2 次元 Lebesgue 測度は回転不変である。もう少し一般に 2 次元 Lebesgue
測度を保存する線形写像について調べよう。以下に述べるように行列式が 1 または −1 であ
るような正則線形写像に関して 2 次元 Lebesgue 測度は不変である。
12.19 定理. 2 次元正則線形写像 ϕ に対して次が成り立つ。
∫
(2)
−1
λ (ϕ (A)) =
1A (ϕ(x, y)) λ(2) (dxdy) = λ(2) (A)/| det ϕ| ∀A ∈ B(R2 ).
R2
証明. 基本変形を使うと 2 次正則行列は次の3タイプの行列の積で表すことができる。
)
) (
) (
(
0 1
c 0
1 c
ただし c ̸= 0
1 0
0 1
0 1
66
写像 ϕ が上の何れかの表現行列を持つ場合に命題を示せばよいのだがその理由付けは演習問
題に託す。さてそれぞれの行列式は 1, c, −1 であるから証明すべきは
∫
1A (x + cy, y) λ(2) (dxdy) = λ(2) (A),
2
∫R
1A (cx, y) λ(2) (dxdy) = λ(2) (A)/|c|,
2
∫R
1A (y, x) λ(2) (dxdy) = λ(2) (A).
R2
第1番目はまさに補題 12.17 である。第 2 番目について検討しよう。方針は 2 次元 Lebesgue
測度の一意性への帰着である。A に簡単な形を仮定する。1 次元半開区間 (a, b] と J に対し
{
1(a/c,b/c] (x)1J (y) c > 0
.
1(a,b]×J (cx, y) = 1(a,b] (cx)1J (y) =
1[b/c,a/c) (x)1J (y) c < 0
c > 0 なら λ((a/c, b/c]) = (b − a)/c であり c < 0 なら λ([b/c, a/c)) = (b − a)/|c| である。い
ずれにしても次が成り立つ。
∫
|c|
1(a,b]×J (cx, y) λ(2) (dxdy) = λ((a, b])λ(J).
R2
∫
定理 11.11 を測度 A → |c| R2 1A (cx, y) λ(2) (dxdy) に適用して
∫
|c|
1A (cx, y) λ(2) (dxdy) = λ(2) (A) ∀A ∈ B(R2 ).
R2
第3番目については演習問題とする。
12.20 演習問題. 定理 12.19 の証明を完結させよ。とくに3タイプの表現行列を持つ場合に
帰着できる理由を重点的に考察せよ。
次に述べる平行四辺形の面積公式は、直積測度の構造をその断面から観察するという Fubini
の定理が生み出す帰結のうちでも典型的なものである。
12.21 例. 独立ベクトルの組 t (a, c), t (b, d) ∈ R2 のはる平行四辺形の面積は |ad − bc| である。
証明. 独立性により ad − bc ̸= 0 である。組 t (a, c), t (b, d) のはる平行四辺形は
A := {t (x, y) : ∃s ∈ (0, 1]∃t ∈ (0, 1] s.t. x = sa + tb, y = sc + td}
)
(
a b
を持つ線形写像 R2 → R2 を ϕ とすると
と表せる。ここで表現行列
c d
A = ϕ((0, 1] × (0, 1])
が成り立つ。ϕ は単写であることに注意して定理 12.19 を適用する。
λ(2) (A)/| det ϕ| = λ(2) (ϕ−1 (A)) = λ(2) ((0, 1] × (0, 1]) = 1.
det ϕ = ad − bc であるから λ(2) (A) = |ad − bc| が導かれた。
67
この節では Dynkin 族定理を直積測度の構造を調べるのに活用したが、それ以外にも広い
応用例を持つ。一意性証明への適用が典型的であるので、その一つを紹介しておく。
12.22 定理. C を Rd の部分集合族で条件 A ∩ B ∈ C ∀A ∈ C ∀B ∈ C を満たすもの、µ を
σ(C) 上の測度、f, g : Rd → R を (σ(C), µ) 可積分関数とする。このとき次が成り立つ。
∫
∫
∫
∫
fµ=
g µ ∀A ∈ C,
fµ=
g µ ⇒ f = g µ-a.e.
A
Rd
A
Rd
証明. 仮定により次の集合族は C ∪ {Rd } ⊂ D を満たす。また ∅ ∈ D は自明である。
∫
∫
D := {A ∈ σ(C) :
fµ=
g µ}.
A
A
A ∈ D, B ∈ D, A ⊂ B としよう。このとき 1B − 1A = 1B\A である。定理 4.10 を適用して
∫
∫
∫
∫
∫
∫
fµ=
fµ−
fµ=
gµ−
gµ =
gµ
B\A
B
A
B
A
B\A
即ち B \ A ∈ D を得る。次に An ∈ D ∀n ∈ N, An ⊂ An+1 ∀n ∈ N とすると定理 5.7 より
∫
∫
∫
∫
1A f µ = lim
1An f µ = lim
1An g µ =
1A g µ,
Rd
n→∞
n→∞
Rd
Rd
Rd
∪∞
∪∞
ここで A := n=1 An とした、即ち n=1 An ∈ D が導かれる。以上より D は C ∪ {Rd } をふ
くむ Dynkin 族である。定理 12.10 より
σ(C) = C で生成される Dynkin 族 ⊂ D
関係 σ(C) ⊂ D は次を意味する。
∫
∫
g µ ∀A ∈ σ(C).
fµ=
A
A
系 6.26 を適用して f = g µ-a.e. を得る。
次の例 12.25 に述べる命題は変分法の基本補題と呼ばれることがある。幾分の準備をする。
12.23 定義. f : R → R を B(R) 可測関数とする。各 a ∈ R に対して δ ∈ R>0 が存在して f が
区間 (a − δ, a + δ) 上で λ 可積分となるとき f は局所可積分(locally integrable) であるという。
連続関数 R → R は補題 10.11 により B(R) 可測である。また局所可積分でもあることを注
意しておこう。
✓
記号
✏
台が有界な連続関数 R → R 全体の集合を C0 (R) という記号で表す。
✒
✑
12.24 演習問題. (B(R), λ) 局所可積分関数 f : R → R は任意の有界閉区間上で λ 可積分で
あり従って任意の φ ∈ C0 (R) に対し積 f φ は (B(R), λ) 可積分であることを示せ。
68
12.25 例. f, g : R → R を (B(R), λ) 局所可積分関数とする。このとき次が成り立つ。
∫
∫
fφ λ =
gφ λ ∀φ ∈ C0 (R) ⇒ f = g λ-a.e.
R
R
証明. a, b ∈ R, a < b とする。次のような関数列を導入する。
φn (x) := min{n max{x − a, 0}, n max{b − x, 0}, 1}
すぐ分かるように φn ∈ C0 (R), 0 ≤ φn ≤ φn+1 , supn∈N φn = 1(a,b) が成り立つ。他方、
f φn = 1(a,b) f φn , gφn = 1(a,b) gφn であることにも着目しよう。仮定により
∫
∫
f φn λ =
gφn λ ∀n ∈ N
R
R
である。さて 1(a,b) f および 1(a,b) g は可積分であるので、これらを優関数に選んで定理 5.7 を
適用すると次のように収束することが分かる。
∫
∫
∫
∫
∫
f φn λ =
lim
f 1(a,b) λ =
gφn λ =
f λ, lim
g λ.
n→∞
R
R
n→∞
(a,b)
R
(a,b)
従って、各 k ∈ N に対して次が導ける。
∫
∫
∫
∫
f 1(−k,k) λ =
fλ=
g λ = g1(−k,k) λ ∀I 有界開区間、∅ または R
I
I∩(−k,k)
I∩(−k,k)
I
有界開区間全体で生成される σ 加法族は B(R) に等しくまた開区間どうしの共通部は開区間
または空集合であるので、定理 12.22 により f 1(−k,k) = g1(−k,k) λ-a.e. を得る。ここで
{x ∈ R : f ̸= g} =
∞
∪
{x ∈ R : f 1(−k,k) ̸= g1(−k,k) }.
k=1
右辺は λ 零集合の可算合併であるから、系 6.20(i) を適用して λ 零集合であることが分かる。
従って λ({x ∈ R : f ̸= g}) = 0 即ち f = g λ-a.e. が結論づけられる。
✓
記号
✏
C0r (R) := {f ∈ C0 (R) : R 上で C r 級 }
✒
✑
12.26 演習問題. f, g : R → R を (B(R), λ) 局所可積分関数、r ∈ N とする。このとき
∫
∫
fφ λ =
gφ λ ∀φ ∈ C0r (R) ⇒ f = g λ-a.e.
R
R
が成り立つことを例 12.25 の証明法を改良して示せ。ヒント:次で定義される関数 ψ は C r
∫
級である。ただし B(r + 1, r + 1) := (0,1] y r (1 − y)r λ(dy) とおいている。


x<0

∫0


1
y r (1 − y)r λ(dy) 0 ≤ x ≤ 1
ψ(x) :=
B(r
+
1,
r
+
1)

(0,x]



1
x>1
a < b が与えられたとして関数列 φn (x) := ψ(n(x − a)) ψ(n(b − x)) を考察せよ。
69
Fubini-Tonelli の定理と単調収束定理
13
非負値可測関数について Fubini の定理を紹介する。ここでは単調収束定理が果たす役割を
中心に考察を進めていく。
✓
前提
✏
(B1 , µ1 ) を Rd(1) 上の σ-有限な測度、(B2 , µ2 ) を Rd(2) 上の σ-有限な測度とする。
また d = d(1) + d(2) とする。特別な場合として λ を 1 次元 Lebesgue 測度、λ(2)
を 2 次元 Lebesgue 測度とする。
✒
✓
再確認
✏
✑
記号 B1 ⊗ B2 は直積 σ-加法族を表す。このとき直積測度 µ1 ⊗ µ2 は次
の条件を満たす (Rd , B1 ⊗ B2 ) 上の一意的な測度である。
(µ1 ⊗ µ2 )(A × B) = µ1 (A)µ2 (B) ∀A ∈ B1 ∀B ∈ B2 .
ここでは 0 と ∞ の積は 0 と約束している。
✒
✑
13.1 補題. 関数 f : Rd → R は B1 ⊗ B2 -可測とする。
(i) 各 x ∈ Rd(1) に対して関数 Rd(2) → R, y → f (x, y) は B2 -可測である。
(ii) 各 y ∈ Rd(2) に対して関数 Rd(1) → R, x → f (x, y) は B1 -可測である。
証明. (i) a ∈ R を任意に固定する。B1 ⊗ B2 可測性により
A := {(x, y) ∈ Rd : f (x, y) < a} ∈ B1 ⊗ B2 .
ここで x ∈ Rd(1) を固定する。補題 12.1(i) により y → 1A (x, y) は B2 -可測であるから
{y ∈ Rd(2) : f (x, y) < a} = {y ∈ Rd(2) : 1A (x, y) ≥ 1} ∈ B2 .
よって y → f (x, y) は B2 -可測である。(ii) を示すには x, y の役割を入れ替えればよい。
13.2 系. 関数 f : R2 → R は B(R2 )-可測とする。
(i) 各 x ∈ R に対して関数 R → R, y → f (x, y) は B(R)-可測である。
(ii) 各 y ∈ R に対して関数 R → R, x → f (x, y) は B(R)-可測である。
証明. 系 11.14 と補題 13.1 から従う。
非負値可測関数については Fubini の定理、Tonelli の定理あるいは Fubini-Tonelli の定理と
呼ぶべきかもしれない、は非常に明解である。
˙ 負値かつ
˙
13.3 定理. 関数 f : Rd →∫ R は非
B1 ⊗ B2 -可測とする。
d(1)
(i) 関数 R
→ R, x →
f (x, y) µ2 (dy) は B1 -可測である。
Rd(2)
∫
∫
(∫
)
(ii)
f (x, y) µ2 (dy) µ1 (dx) =
f µ1 ⊗ µ2 .
Rd(1)
Rd(2)
Rd
70
証明. まず、f が非負値 B1 ⊗ B2 単関数である場合を検討する。このとき
∑
f=
z1f −1 {z}
z∈Imagef
と書け、右辺は有限和である。定理 4.4 により
∫
∫
∑
f (x, y) µ2 (dy) =
z
Rd(2)
z∈Imagef
Rd(2)
1f −1 {z} (x, y) µ2 (dy).
補題 12.11 によれば、右辺は B1 -可測関数の有限和を定義する。従って補題 4.1 より関数
∫
d(1)
f (x, y) µ2 (dy)
R
→ R, x →
Rd(2)
の B1 -可測性を得る。定理 4.4 と補題 12.13 を適用して
∫
∫
(∫
)
(∫
∑
f (x, y) µ2 (dy) µ1 (dx) =
z
Rd(1)
Rd(2)
Rd(1)
z∈Imagef
∑
=
Rd(2)
z (µ1 ⊗ µ2 )(f
)
1f −1 {z} (x, y) µ2 (dy) µ1 (dx)
−1
∫
{z}) =
z∈Imagef
Rd
f µ1 ⊗ µ2 .
これで単関数の場合の証明が完成した。一般の場合の議論に移る。補題 3.17 によれば
fn ≤ fn+1 ∀n ∈ N, sup fn (x, y) = f (x, y) ∀(x, y) ∈ Rd .
n∈N
を満たす非負値 B1 ⊗ B2 単関数の列 fn が存在する。単関数についての考察から
∫
d(1)
fn (x, y) µ2 (dy)
R
→ R, x →
Rd(2)
は B1 -可測である。よって定理 3.18 と補題 5.1 を適用して関数
∫
∫
d(1)
R
→ R, x → sup
fn (x, y) µ2 (dy) =
f (x, y) µ2 (dy)
n∈N
Rd(2)
Rd(2)
の B1 可測性を得る。µ1 についての積分に定理 3.18 を適用して
∫
∫
∫
(∫
(
)
)
sup
fn (x, y) µ2 (dy) µ1 (dx) = sup
fn (x, y) µ2 (dy) µ1 (dx).
Rd(1)
n∈N
Rd(2)
n∈N
Rd(1)
Rd(2)
∫
単関数についての考察から右辺の累次積分は Rd fn µ1 ⊗ µ2 に等しい。従って
∫
∫
∫
(∫
)
f (x, y) µ2 (dy) µ1 (dx) = sup
fn µ1 ⊗ µ2 =
f µ1 ⊗ µ2 .
Rd(1)
Rd(2)
n∈N
もちろん2番目の等号は定理 3.18 から導かれる。
71
Rd
Rd
2
˙ ˙
13.4 系. 関数 f : R2 →
∫ R は非負値かつ B(R ) 可測とする。
(i) 関数 R → R, x →
f (x, y) λ(dy) は B(R) 可測である。
R
∫ (∫
∫
)
(ii)
f (x, y) λ(dy) λ(dx) =
f λ(2) .
R
R
Rd
証明. 系 11.14 と定理 13.3 から従う。
定理 13.3 の証明に用いた論法、すなわち単関数について証明できればあとは単調収束定理
によって処理できるという手順、は非常に有効なものであり、スタンダードマシン(standard
machine) と呼ぶ研究者もいる。じつは定理 5.5(ii) の証明においてこの論法が既に登場して
いたのである。是非確認しておこう。論法に慣れるため更にいくつか例をあげておく。
まず線形写像に対する変数変換公式(change of variable formula) を証明する。ここで連続
写像 R2 → R2 と B(R2 ) 可測関数 R2 → R の合成は B(R2 ) 可測であることを思いだそう。つ
いでに言うと連続写像 R → R と B(R) 可測関数 R → R の合成は B(R) 可測である。補題
11.19(i) の理解度を試すために上を証明してみるとよいだろう。
˙ 負値かつ
˙
13.5 定理. 非
B(R2 ) 可測な関数 f : R2 → R に対して次が成り立つ。
∫
∫
1
(2)
f (ϕ(x, y)) λ (dxdy) =
f λ(2) ∀ϕ : R2 → R2 正則線形
| det ϕ| R2
R2
特に行列式が 1 または −1 であるような正則線形写像は Lebesgue 積分を保存する。
証明. まず、f が非負値 B(R2 ) 単関数である場合を検討する。このとき
∑
∑
f=
z1f −1 {z} , f ◦ ϕ =
z1f −1 {z} ◦ ϕ
z∈Imagef
z∈Imagef
と書け、右辺は有限和である。定理 4.4 により
∫
∫
∑
(2)
f (ϕ(x, y)) λ (dxdy) =
z
R2
z∈Imagef
Rd(2)
右辺に定理 12.19 を適用して
∫
∑
z
1f −1 {z} (ϕ(x, y)) λ(2) (dxdy) =
z∈Imagef
Rd(2)
1f −1 {z} (ϕ(x, y)) λ(2) (dxdy).
∑
zλ(2) (f −1 {z})/| det ϕ|.
z∈Imagef
よって次が導出でき単関数の場合の証明が完成した。
∫
∫
1
(2)
f λ(2) .
f (ϕ(x, y)) λ (dxdy) =
|
det
ϕ|
2
2
R
R
一般の場合を考察する。補題 3.17 によれば
fn ≤ fn+1 ∀n ∈ N, sup fn (x, y) = f (x, y) ∀(x, y) ∈ R2 .
n∈N
を満たす非負値 B(R ) 単関数の列 fn が存在する。単関数についての考察から
∫
∫
1
(2)
fn (ϕ(x, y)) λ (dxdy) =
fn λ(2) .
|
det
ϕ|
2
2
R
R
2
両辺に定理 3.18 を適用して結論が導かれる。
72
定理 13.5 の証明ポイントが確認できたかを試すために次を解いてみよ。
˙ ˙
13.6 演習問題. λ を 1 次元 Lebesgue
∫ 測度とする。非負値かつ
∫ B(R) 可測な関数 f : R → R
1
と a, c ∈ R ただし c ̸= 0 に対して
f (cx + a) λ(dx) =
f λ が成り立つことを示せ。
|c| R
R
13.7 定理. 関数 f : Rd(1) → R は B1 -可測、関数 g : Rd(2) → R は B2 -可測とする。
(i) 関数 Rd → R, (x, y) → f (x)g(y) は B1 ⊗ B2 -可測である。
(ii) f , g ともに非負値であるなら
∫
∫
∫
f (x)g(y) µ1 ⊗ µ2 (dxdy) =
f µ1
g µ2
Rd
Rd(1)
Rd(2)
証明. (i) まず関数 Rd → R, (x, y) → f (x) が B1 ⊗ B2 -可測であることを確かめる。関数 f の
B1 -可測性により {x ∈ Rd(1) : f (x) < a} ∈ B1 ∀a ∈ R である。よって B1 ⊗ B2 の定義により
{(x, y) ∈ Rd : f (x) < a} = {x ∈ Rd(1) : f (x) < a} × Rd(2) ∈ B1 × B2 ⊂ B1 ⊗ B2 ∀a ∈ R.
同様にして関数 Rd → R, (x, y) → g(y) の B1 ⊗ B2 -可測性もわかる。従って補題 4.14 を適用
して (x, y) → f (x)g(y) が B1 ⊗ B2 -可測であることが導かれる。
(ii) (i) と定理 13.3 から従う。
13.8 系. 関数 f : R → R, g : R → R はともに B(R)-可測とする。
(i) 関数 R2 → R, (x, y) → f (x)g(y) は B(R2 ) 可測である。
(ii) f , g ともに非負値であるなら
∫
∫
∫
(2)
f (x)g(y) λ (dxdy) =
f λ g λ.
R2
R
R
証明. 系 11.14 と定理 13.7 から従う。
補題 11.18 により連続関数 R2 → R は B(R2 ) 可測であることを確認しておこう。
∫
(∫
)2 ∫
1
−x2
−x2 −y 2 (2)
13.9 例.
e
λ(dx) =
λ(dy).
e
λ (dxdy) =
2
R
R2
R 1+y
証明. 左の等号は系 13.8 から従う。演習問題 13.6 によれば、x ̸= 0 に対して次が成り立つ。
∫
∫
1
2
2
−x2 −x2 y 2
e
λ(dy) =
e−x −y λ(dy)
|x| R
R
λ({0}) = 0 であるから、系 4.18(ii) により
∫ (∫
∫ (∫
)
)
2
2 2
−x2 −y 2
e
λ(dy) λ(dx) =
|x|e−x −x y λ(dy) λ(dx)
R
R
R
R
いよいよ系 13.4 を適用する。右辺は次に等しい。
∫
∫ (∫
)
−x2 −x2 y 2 (2)
−x2 −x2 y 2
|x|e
λ (dxdy) =
|x|e
λ(dx) λ(dy)
R2
R
73
R
x → |x|e−x
2 (1+y 2 )
の原始関数の一つは次で与えられ、それは明らかに有界である。

2
2
1 − e−x (1+y )


x≥0

2(1 + y 2 )
x→
2
2

e−x (1+y ) − 1


x≤0
2(1 + y 2 )
演習問題 9.17(ii) にある判定条件と定理 9.15(ii) により累次積分が
∫ (∫
∫
)
1
−x2 (1+y 2 )
λ(dy)
|x|e
λ(dx) λ(dy) =
2
R
R
R 1+y
と評価される。
Fubini の定理というテーマからはずれるが単調収束定理の有効利用という意味で例 13.9 と
関連して円の面積の一つの表現を見ておこう。
∫
2
2
(2)
2
2
2
13.10 例. λ ({(x, y) ∈ R : x + y ≤ 1}) =
e−x −y λ(2) (dxdy).
R2
証明. t ∈ R>0 に対して A(t) := {(x, y) ∈ R2 : 0 < x2 + y 2 ≤ t} とおく。線形写像 (x, y) →
√
√
(x/ t, y/ t) に定理 12.19 を適用することにより次を得る。
√
λ(2) (A(t)) = λ(2) ( tA(1)) = tλ(2) (A(1)).
したがって s, t ∈ R>0 ただし s < t に対して
λ(2) ({(x, y) : s < x2 + y 2 ≤ t}) = λ(2) (A(t)) − λ(2) (A(s)) = (t − s)λ(2) (A(1)).
(⋆)
次に n, k ∈ N に対して B(n, k) := {(x, y) : (k − 1)/2n < x2 + y 2 ≤ k/2n } とおく。
fn (x, y) :=
∞
∑
e−k/2 1B(n,k) (x, y) は n について非減少かつ sup fn (x, y) = e−x
n
2 −y 2
n∈N
k=1
が (x, y) ̸= (0, 0) である限り成り立つ。λ(2) ({(0, 0)}) = 0 なので
∫
∫
2
2
(2)
sup
fn λ =
e−x −y λ(2) (dxdy)
n∈N
R2
R2
が単調収束定理(例 6.22)により得られる。さて (⋆) を使うと
∫
∞
∞
∑
∑
n
n 1
fn λ(2) =
e−k/2 λ(2) (B(n, k)) =
e−k/2 n λ(2) (A(1))
2
R2
k=1
k=1
単調収束定理を右辺に適用すると原始関数によって評価できる積分が得られる。
∫
∞
∑
−k/2n 1
sup
e
=
e−x λ(dx) = 1.
n
2
n∈N
(0,+∞)
k=1
∫
e−x
2 −y 2
従って
λ(2) (dxdy) = λ(2) (A(1)) である。λ(2) ({(0, 0)}) = 0 により結論を得る。
R2
74
13.11 注意. 本来、例 13.10 は極座標(polar coordinate) との関連で論じるのが自然な題材で
ある。しかしながら必ずしも線形でない写像に関する変数変換公式はきわめて厄介である。
その遺漏のない証明を与えるには十分な段取りを整える必要があるので別の機会へ回すこと
にしたい。その一方、非負値 Borel 可測関数 f : [0, +∞) → R に対して
∫
∫
2
2
(2)
(2)
2
2
2
f (x + y ) λ (dxdy) = λ ({(x, y) ∈ R : x + y ≤ 1})
fλ
R2
[0,+∞)
が成り立つのを示すのはそれほど難しくはない(連続写像 ϕ : R2 → R と A ∈ B(R) に対し
て ϕ−1 (A) ∈ B(R2 ) が成り立つという補題 11.19(i) の類似命題を使う)。
脱線ついでに例 13.9 の関連事項として次の演習問題にふれておく。解析学においてきわめ
て重要な役割を果たすので是非解いておくことを勧める。
13.12 演習問題. f : R → R を有界な B(R) 可測関数であって
a ∈ R において連続なものと
∫
√
√
2
する。このとき t > 0 が 0 に近づく極限において f (x)e−(x−a) /t λ(dx)/ t は πf (a) に収
R
束することを示せ。
Fubini の定理とその応用
14
ここでは almost everywhere の概念との関わりを中心に考察を進めていく。
✓
前提
✏
(B1 , µ1 ) を Rd(1) 上の σ-有限な測度、(B2 , µ2 ) を Rd(2) 上の σ-有限な測度とする。
また d = d(1) + d(2) とする。特別な場合として λ を 1 次元 Lebesgue 測度、λ(2)
を 2 次元 Lebesgue 測度とする。
✒
✓
再確認
✏
✑
記号 B1 ⊗ B2 は直積 σ-加法族を表す。このとき直積測度 µ1 ⊗ µ2 は次
の条件を満たす (Rd , B1 ⊗ B2 ) 上の一意的な測度である。
✒
✓
警告
(µ1 ⊗ µ2 )(A × B) = µ1 (A)µ2 (B) ∀A ∈ B1 ∀B ∈ B2 .
上では 0 と ∞ の積は 0 と約束しているが図に乗って limn→∞ n1 n2 =
limn→∞ n1 limn→∞ n2 = 0∞ = 0 とか ∞ − ∞ = (1 − 1)∞ = 0∞ = 0 と
してはいけない。極限操作や分配法則の運用は慎重になる必要がある。
✒
✑
✏
✑
非負値(あるいは非正値)ではない可測関数については Fubini の定理はかなり難解で勘違
いをしやすい面がある。これは上の警告で述べた点に原因がある。状況を具体例で見よう。
75
14.1 例. 関数 f : R2 → R を次で定義する。


0
f (x, y) :=
xy
 2
(x + y 2 )2
(x, y) = (0, 0)
otherwise
以下の計算は定理 9.15 の応用でありすべて演習問題とする。

2




∫
 x(x2 + 4)
max{f (x, y), 0} λ(dy) =
0

[−1,2]

−1



2x(x2 + 1)

(14.2)
1



 2x(x2 + 1)
∫

max{−f (x, y), 0} λ(dy) =
0

[−1,2]

−2



x(x2 + 4)
x>0
x=0
x<0
x>0
x=0
x<0
が成り立つ。 ここで f (x, y) = max{f (x, y), 0} − max{−f (x, y), 0} なので、各 x ∈ R に対し
て関数 y → f (x, y) は [−1, 2] 上で λ-可積分であり
∫
3x
∀x ∈ R.
f (x, y) λ(dy) =
2(x2 + 1)(x2 + 4)
[−1,2]
∫
(14.3)
(∫
)
1
8
f (x, y) λ(dy) λ(dx) = log .
4
5
[0,1]
[−1,2]
ところが
1
1
2
2
≥
∀x ∈ [0, 1],
≥
∀x ∈ [0, 1] なので
2
2
2|x|(x + 1)
4|x|
|x|(x + 4)
5|x|
∫
(∫
)
max{f (x, y), 0} λ(dy) λ(dx) = +∞
[0,1]
[−1,2]
∫
(∫
)
max{−f (x, y), 0} λ(dy) λ(dx) = +∞
[0,1]
[−1,2]
である。従って差し引きして累次積分を求めることはできない。また 関数
∫
y→
f (x, y) λ(dx)
[0,1]
は [−1, 2] 上で λ-可積分でないから累次積分の順序交換も許されない。
14.4 演習問題. (14.2), (14.3) を示せ。
そこで積分が絶対収束していることを要求して解決を図る。次の補題およびその系は定理
13.3 のきわだって重要な応用例であり、非負値とは限らない関数に Fubini の定理を適用する
場合にその前提として可積分性判定が必要だがその手順として非常に有用である。例 14.15
および例 14.17 においてその真価が分かるであろう。
76
14.5 補題. 関数 f : Rd → R は B1 ⊗ B2 -可測とする。以下の同値性が成り立つ。
∫
(∫
)
f µ1 ⊗ µ2 -可積分 ⇔
|f (x, y)| µ2 (dy) µ1 (dx) < +∞
Rd(1)
Rd(2)
証明. 定理 13.3(ii) から直ちに従う。
14.6 系. 関数 f : R2 → R は B(R2 ) 可測とする。以下の同値性が成り立つ。
∫ (∫
)
(2)
f λ -可積分 ⇔
|f (x, y)| λ(dy) λ(dx) < +∞
R
R
証明. 系 11.14 と補題 14.5 から従う。
14.7 補題. 関数 f : Rd →∫R は (B1 ⊗ B2 , µ1 ⊗ µ2 )-可積分とする。
∫
d(1)
(i) 関数 R
→ R, x →
max{f (x, y), 0} µ2 (dy) と x →
max{−f (x, y), 0} µ2 (dy)
Rd(2)
Rd(2)
はともに (B1 , µ1 )-可積分であって次が成り立つ。
∫
∫
(∫
)
f µ1 ⊗ µ2 =
max{f (x, y), 0} µ2 (dy) µ1 (dx)
d(2)
Rd
Rd(1)
∫ R (∫
)
−
max{−f (x, y), 0} µ2 (dy) µ1 (dx).
Rd(1)
Rd(2)
∫
(ii) {x ∈ R
d(1)
:
Rd(2)
|f (x, y)| µ2 (dy) < +∞} ∈ B1 は µ1 -a.e. 集合である。
証明. (i) 非負値な B1 ⊗ B2 -可測関数 max{f, 0} : Rd → R に定理 13.3 を適用して関数
∫
d(1)
(⋆)
R
→ R, x →
max{f (x, y), 0} µ2 (dy)
Rd(2)
の B1 -可測性と次の等式を得る。f は µ1 ⊗ µ2 -可積分なので右辺の積分は有限である。
∫
∫
(∫
)
max{f (x, y), 0} µ2 (dy) µ1 (dx) =
max{f, 0} µ1 ⊗ µ2 < +∞.
Rd(1)
Rd(2)
Rd
従って関数
(⋆) は µ1 -可積分となる。関数 −f について議論することにより関数 Rd(1) → R,
∫
x→
max{−f (x, y), 0} µ2 (dy) の (B1 , µ1 )-可積分性と等式
Rd(2)
∫
Rd(1)
(∫
Rd(2)
∫
)
max{−f (x, y), 0} µ2 (dy) µ1 (dx) =
Rd
max{−f, 0} µ1 ⊗ µ2 < +∞
が導かれる。得られた等式を差し引きして
(i) に関する考察を終わる。
∫
(ii) 補題 14.5 を適用して x →
|f (x, y)| µ2 (dy) の (B1 , µ1 )-可積分性を得る。従って系
3.6 により結論が導かれる。
Rd(2)
ここで ∞ − ∞ を回避するために行った和に関する取り決めを思い出そう。
77
✓
再確認
✏
関数 f, g : Rd → R に対して条件 {x ∈ Rd : f (x) = +∞, g(x) = −∞} = ∅,
{x ∈ Rd : f (x) = −∞, g(x) = +∞} = ∅ が成立するときに限って和 f + g を考える。
✒
累次積分を行う際に次の事態が起こりうる。
∫
∫
max{f (x, y), 0} µ2 (dy) = +∞,
Rd(2)
Rd(2)
✑
max{−f (x, y), 0} µ2 (dy) = +∞.
補題 14.7(ii) がその処理策を与える。それによると上のいずれかであるような x ∈ Rd(1) 全体
は µ1 -零集合をなす。従って µ1 -a.e. 集合上では ∞ − ∞ は回避されるわけである。
✓
記号
✏
B1 ⊗ B2 -可測関数 f : Rd → R に対して
∫
∫

f (x, y) µ2 (dy)
f (x, y) µ2 (dy) :=
Rd(2)

Rd(2)
+∞
∫

∫
Rd(2)
f (x, y) µ2 (dy) :=
∫
if
Rd(2)
|f (x, y)| µ2 (dy) < +∞
otherwise
∫
Rd(2)
f (x, y) µ2 (dy)

−∞
if
Rd(2)
|f (x, y)| µ2 (dy) < +∞
otherwise
✒
✑
14.8 補題. f : Rd → R を
∫ B1 ⊗ B2 -可測関数とする。
(i) 関数 Rd(1) → R, x →
f (x, y) µ2 (dy) は B1 -可測である。
d(2)
R
∫
∫
(ii)
f (x, y) µ2 (dy) = −
− f (x, y) µ2 (dy) ∀x ∈ Rd(1) .
Rd(2)
Rd(2)
∫
∫
(iii)
f (x, y) µ2 (dy) ≤
|f (x, y)| µ2 (dy) ∀x ∈ Rd(1) .
Rd(2)
Rd(2)
証明. a ∈ R とする。定理 13.3(i) により次の集合はいずれも B1 に属する。
∫
d(1)
{x ∈ R
:
|f (x, y)| µ2 (dy) < +∞}
d(2)
∫R
∫
d(1)
{x ∈ R
:
max{f (x, y), 0} µ2 (dy) <
max{−f (x, y), 0} µ2 (dy) + a}
Rd(2)
Rd(2)
それらの共通部がまさに
∫
{x ∈ R
d(1)
:
Rd(2)
f (x, y) µ2 (dy) < a}
であるからやはり B1 に属する。よって (i) が導けた。(ii) は定義から直ちに従う。(iii) を示
すには定理 4.7(ii) を適用すればよい。
78
ついに Fubini の定理にたどり着いた。µ1 -a.e. という概念を避けてこの定理を語ることは
できない。まさにそこが最大の見どころである。
14.9 定理. 関数 f : Rd → R は (B1 ⊗ B2 , µ1 ⊗ µ2 )-可積分とする。
∫
∫
(i)
f (x, y) µ2 (dy) =
f (x, y) µ2 (dy) µ1 -a.e. x ∈ Rd(1) .
Rd(2)
Rd(2)
∫
d(1)
(ii) B1 -可測関数 g : R
→ R が g(x) =
f (x, y) µ2 (dy) µ1 -a.e. x ∈ Rd(1) を満たせば、
Rd(2)
それは µ1 -可積分であり次が成り立つ。
∫
∫
f µ1 ⊗ µ2 =
Rd
Rd(1)
g µ1 .
証明. (i) 補題 14.7(ii) により次の集合は B1 に属しかつ µ1 -a.e. 集合である。
∫
d(1)
A := {x ∈ R
:
|f (x, y)| µ2 (dy) < +∞}.
Rd(2)
二つの関数は A 上で等しいので (i) が成り立つ。
(ii) 仮定と補題 14.8(iii) により次が成り立つ。
∫
|g(x)| ≤
|f (x, y)| µ2 (dy) µ1 -a.e. x ∈ Rd(1) .
Rd(2)
従って定理 6.8(i) と定理 13.3(iii) を適用して
∫
∫
|g| µ1 ≤
|f | µ1 ⊗ µ2 < +∞
Rd(1)
Rd
を得る。すなわち g は µ1 -可積分である。次の集合も B1 に属しかつ µ1 -a.e. 集合である。
∫
B := {x ∈ R
d(1)
: g(x) =
Rd(2)
f (x, y) µ2 (dy)}.
系 6.20 によれば、A ∩ B も µ1 -a.e. 集合である。さらに次が成り立つ。
∫
∫
g(x) =
max{f (x, y), 0} µ2 (dy) −
max{−f (x, y), 0} µ2 (dy) ∀x ∈ A ∩ B.
Rd(2)
Rd(2)
各項は µ1 -可積分なので定理 4.10 により
∫
∫
(∫
)
g µ1 =
max{f (x, y), 0} µ2 (dy) µ1 (dx)
d(2)
A∩B
A∩B
∫ R (∫
)
−
max{−f (x, y), 0} µ2 (dy) µ1 (dx).
A∩B
Rd(2)
を得る。ここで A ∩ B は Rd(1) の µ1 -a.e. 集合なので系 4.18(ii) により A ∩ B 上での積分は
Rd(1) 上でのものに等しい。最後に補題 14.7(i) と組み合わせて結論を得る。
79
14.10 系. 関数 f : R2 → R は (B(R2 ), λ(2) ) 可積分とする。
∫
∫
(i) f (x, y) λ(dy) = f (x, y) λ(dy) λ-a.e. x ∈ R
R
R
∫
(ii) B(R)-可測関数 g : R → R が g(x) = f (x, y) λ(dy) λ-a.e. x ∈ R を満たせば、それは λ可積分であり次が成り立つ。
R
∫
f λ
∫
(2)
=
R2
g λ.
R
証明. 系 11.14 と定理 14.9 から従う。
∫
14.11 演習問題. B1 ⊗ B2 可測関数 f : Rd(1) × Rd(2) → R が Rd(2) |f (x, y)| µ2 (dy) < +∞
∫
∀x ∈ Rd(1) を満たすなら Rd(1) → R, x → Rd(2) f (x, y) µ2 (dy) は B1 可測であることを示せ。
∫
14.12 注意. 具体的な計算例では R |f (x, y)| λ(dy) < +∞ ∀x ∈ R がしばしば成り立つ。その
ようなときは、演習問題 14.11 の結論により、系 14.10 における補助的な関数 g として関数
∫
x → R f (x, y) λ(dy) を選ぶことができる。このような事情があるので、Fubini の定理を次
のようにあっさりと表現していることもある。
∫
∫ (∫
)
(2)
f λ =
f (x, y) λ(dy) λ(dx).
Rd
R
R
しかしこれは a.e. 集合の役割を見えなくする危険性をはらんでいる。
次の定理は確率論における独立性の取り扱いに関して決定的な役割を果たす。
14.13 定理. 関数 f : Rd(1) → R は (B1 , µ1 )-可積分、関数 g : Rd(2) → R は (B2 , µ2 )-可積分と
する。このとき関数 Rd → R, (x, y) → f (x)g(y) は (B1 ⊗ B2 , µ1 ⊗ µ2 )-可積分であり
∫
∫
∫
f (x)g(y) µ1 ⊗ µ2 (dxdy) =
f µ1
g µ2 .
Rd
Rd(1)
Rd(2)
証明. 定理 13.7 と定理 14.9 から従う。
14.14 系. 関数 f : R → R, g : R → R はともに (B(R), λ)-可積分とする。このとき関数
R2 → R, (x, y) → f (x)g(y) は (B(R2 ), λ(2) )-可積分であり
∫
∫
∫
(2)
f (x)g(y) λ (dxdy) =
f λ g λ.
R2
R
R
証明. 系 11.14 と定理 14.13 から従う。
Fubini の定理を応用した計算例を挙げる。連続関数 Rd → R は B(Rd ) 可測であることを確
認しておこう。(d = 1 の場合は補題 10.11 の論法が簡明である。他方、補題 11.18 の論法は
一般化できる。)
∫
∫
1
sin x −tx
e λ(dx) =
λ(dy).
14.15 例. t > 0 に対して
2
(t,+∞) y + 1
(0,+∞) x
80
証明. λ を 1 次元 Lebesgue 測度とする。定理 3.18 と定理 9.15(ii) により
∫
∫
e−tx − e−nx
e−tx
−xy
e
λ(dy) = sup
e−xy λ(dy) = sup
=
∀x > 0.
x
x
n∈N:n>t (t,n]
n∈N:n>t
(t,+∞)
上の結果から、変数の役割を取り替えるなどして、関数 x → e−tx が (0, +∞) 上で λ 可積分
であることも読みとれる。さて | sin x| ≤ x ∀x > 0 より
∫
(∫
)
e−xy | sin x| λ(dy) λ(dx)
(0,+∞)
(t,+∞)
∫
=
(0,+∞)
e−tx
| sin x| λ(dx) ≤
x
∫
e−tx λ(dx) < +∞.
(0,+∞)
系 14.6 により関数 (x, y) → 1(0,+∞)×(t,+∞) (x, y)e−xy sin x に系 14.10 が適用できる。
∫
(0,+∞)
e−tx
sin x λ(dx) =
x
∫
e−xy sin x λ(2) (dx, dy)
∫(0,+∞)×(t,+∞)
(∫
=
−xy
e
(t,+∞)
)
sin x λ(dx) λ(dy).
(0,+∞)
残っているのは右辺の評価であるが、これは演習問題 14.16 にゆだねる。
∫
1
14.16 演習問題. y > 0 に対して
e−xy sin x λ(dx) = 2
を示せ。
y +1
(0,+∞)
同様にして次の広義積分を評価することができる。
∫
∫
sin x
1
14.17 例. lim
λ(dx) =
λ(dy).
2
R→+∞ (0,R] x
(0,+∞) y + 1
証明. R > 0 とする。今度は関数 (x, y) → 1(0,R]×(0,+∞) (x, y)e−xy sin x に Fubini の定理を適
用する。そのためには、以下の検証が不可欠である。
∫
1
e−xy λ(dy) = ∀x > 0.
x
(0,+∞)
∫
∫
(∫
)
1
−xy
e | sin x| λ(dy) λ(dx) =
| sin x| λ(dx) < +∞.
(0,R]
(0,+∞)
(0,R] x
従って系 14.6 により (x, y) → 1(0,R]×(0,+∞) (x, y)e−xy sin x に系 14.10 が適用できる。
∫
∫
(∫
)
1
sin x λ(dx) =
e−xy sin x λ(dy) λ(dx)
(0,R] x
(0,R]
(0,+∞)
∫
(∫
)
−xy
=
e
sin x λ(dx) λ(dy).
(0,+∞)
(0,R]
さて微分すればすぐわかるように、x → e−xy sin x の原始関数の一つは
x → −e−xy
y sin x + cos x
y2 + 1
81
である。よって定理 9.15(ii) により
∫
e−xy sin x λ(dx) =
(0,R]
y2
1
y sin R + cos R
− e−Ry
∀y > 0.
+1
y2 + 1
変数 y の関数として右辺の各項はいずれも λ 可積分であるから、以上をまとめて
∫
∫
∫
sin x
1
y sin R + cos R
λ(dx) =
λ(dy) −
λ(dy).
e−Ry
2
y2 + 1
(0,R] x
(0,+∞) y + 1
(0,+∞)
右辺第 2 項を処理するために、Schwarz の不等式を使って
|y sin R + cos R| ≤
√
√
√
y 2 + 1 (sin R)2 + (cos R)2 = y 2 + 1 ∀y > 0
と評価する。よって以下に示すように R → +∞ のとき 0 に収束する。
∫
∫
∫
e−Ry
1
−Ry y sin R + cos R
√
e
λ(dy) ≤
e−Ry λ(dy) = .
λ(dy) ≤
2
2
y +1
R
y +1
(0,+∞)
(0,+∞)
(0,+∞)
0 に収束することを示すだけなら、Lebesgue の収束定理を使ってお手軽にできる。
14.18 演習問題. 上で述べた Lebesgue の収束定理を使ったお手軽な証明法を与えてみよ。(定
理 5.7 だけでなく定理 5.10 も念頭に置いて考察せよ。)
14.19 注意. 絶対収束しない広義積分には Legesgue の収束定理は適用できないので、以下の
ような変形は直接的には許されない。
∫
∫
sin x −tx
sin x
lim
e λ(dx) = lim
λ(dx).
R→+∞ (0,R] x
t↓0 (0,+∞) x
しかしながら各 R > 0 に対して区間 (0, R) 上の関数 x → | sin x|/x は λ-可積分である。従っ
てこれを優関数として定理 5.7 が適用できるので
∫
∫
sin x −tx
sin x
lim
e λ(dx) =
λ(dx)
t↓0 (0,R] x
(0,R] x
と変形するのは許される。また例 14.15 と定理 3.18 から
∫
∫
∫
sin x −tx
1
1
lim
e λ(dx) = lim
λ(dy) =
λ(dy).
2
2
t↓0 (0,+∞) x
t↓0 (t,+∞) y + 1
(0,+∞) y + 1
積分の区間に対する加法性を考慮して組み合わせると
∫
∫
1
sin x
λ(dy)
−
λ(dx)
2
(0,+∞) y + 1
(0,R] x
∫
∫
∫
sin x −tx
sin x −tx
sin x −tx
= lim
e λ(dx) −
e λ(dx) = lim
e λ(dx) .
t↓0
t↓0
(R,∞) x
(0,∞) x
(0,R] x
82
部分積分を用いて右辺を評価する (測度論的部分積分については定理 15.3 を見よ)。
∫
e−tx
e−tR
sin x
λ(dx) = (cos R − 1)
x
R
(R,+∞)
∫
( e−tx te−tx )
+
+
λ(dx) ∀R > 0 ∀t > 0.
(1 − cos x)
x2
x
(R,+∞)
さて 0 ≤ 1 − cos x ≤ 2 ∀x ∈ R を使うと右辺の積分の値は非負でありかつ
∫
( 2e−tx 2te−tx )
2e−tR
+
λ(dx)
=
x2
x
R
(R,+∞)
で抑えられる。従って次が成り立つ。
∫
2
cos R − 1 −tR
cos R + 1 −tR
2
sin x −tx
− ≤
e
≤
e λ(dx) ≤
e
≤
∀R > 0, ∀t > 0.
R
R
R
R
(R,+∞) x
以上をまとめて
∫
(0,+∞)
1
λ(dy) −
2
y +1
∫
(0,R]
2
sin x
λ(dx) ≤ ∀R > 0.
x
R
これは例 14.17 の別証明になっている。
部分積分とそれが開く世界
15
部分積分公式は計算技法として役立つだけでなく理論上もきわめて重要である。測度論的
観点から部分積分を定式化し、その背後にある豊かな大地を垣間見ることにしよう。
✓
前提
✏
B(R) を 1 次元 Borel 集合族、λ を 1 次元 Lebesgue 測度とする。
✒
✑
15.1 演習問題. f : R → R を (B(R), λ) 局所可積分関数とする。
(i) 関数 F : R → R であって次を満たすものが存在することを示せ。
∫
F (b) − F (a) =
f λ ∀a ∈ R, ∀b ∈ R 但し a < b.
(a,b]
(ii) (i) の条件を満たす関数 F は連続であることを示せ。
(iii) (i) の条件を満たす関数 F , G に対して c ∈ R が存在して F (x) − G(x) = c ∀x ∈ R が成
り立つことを示せ。
15.2 定義. f : R → R を (B(R), λ) 局所可積分関数とする。f の不定積分(indefinite integral)
とは演習問題 15.1(i) の条件を満たす関数 F をいう。
83
15.3 定理. a, b ∈ R, a < b, f, g : R → R を (B(R), λ) 局所可積分関数とする。f , g それぞれ
に対して不定積分を F , G とするとき次が成り立つ。
∫
∫
F g λ = F (b)G(b) − F (a)G(a) −
fG λ
(a,b)
(a,b)
これを部分積分公式(integration by parts formula) という。
証明. 集合 A := {(x, y) ∈ R2 : a < x < y < b} ∈ B(R2 ) を導入する。 A ⊂ (a, b) × (a, b)
なので (x, y) → 1(a,b) (x)|f (x)|1(a,b) (y)|g(y) は (x, y) → 1A (x, y)f (x)g(y) の優関数であり、系
14.14 によれば前者は λ(2) 可積分である。従って注意 6.10 にある判定手順により後者の λ(2)
可積分性が確認され系 14.10 が適用できる。各 x ∈ R に対して
{
1(x,b) (y) a < x < b
1A (x, y) =
0
x ≤ a または x ≥ b
であるから次が得られる。
∫
∫
(2)
(⋆)
f (x)g(y) λ (dx, dy) =
A
(∫
(a,b)
)
f (x)g(y) λ(dy) λ(dx)
(x,b)
さて演習問題 15.1(i) の条件及び λ({b}) = 0 という事実により
∫
∫
g(y) λ(dy) = G(b) − G(x),
f (x) λ(dx) = F (b) − F (a)
(x,b)
(a,b)
ゆえに (⋆) の右辺は次に等しい。
∫
∫
f (x)(G(b) − G(x)) λ(dx) = (F (b) − F (a))G(b) −
(a,b)
f (x)G(x) λ(dx).
(a,b)
x, y の役割を入れ替えて同様の議論をすると次のように変形できる。
∫
∫
(2)
f (x)g(y) λ (dx, dy) =
F (y)g(y) λ(dy) − F (a)(G(b) − G(a)).
A
(a,b)
得られた二つの表式を比較して部分積分公式に到達する。
✓
記号
✏
台が有界な C r 級関数 R → R 全体の集合を C0r (R) と表す。
✒
✓
約束
✑
✏
以後、(B(R), λ) 局所可積分のことを単に局所可積分という。
✒
✑
15.4 補題. 局所可積分関数 f : R → R とその不定積分 F に対して次が成り立つ。
∫
∫
′
F φ λ = − f φ λ ∀φ ∈ C01 (R). ただし φ′ は φ の導関数
R
R
84
証明. φ ∈ C01 (R) とする。定理 9.15(ii) により φ は φ′ の不定積分である。定理 15.3 によれば
∫
∫
′
F φ λ = F (n)φ(n) − F (−n)φ(−n) −
f φ λ ∀n ∈ N.
(−n,n)
(−n,n)
φ の台が区間 (−n, n) に含まれるように n を選ぶことにより結論に至る。
もし f が連続関数であるならその不定積分 F は f の原始関数である。そうでないなら一
般には F の微分可能性はでないが、補題 15.4 の観点からは、f が F の導関数の役割を果た
しているといえよう。そこで次の概念が生じた。
15.5 定義. F : R → R を局所可積分関数とする。ある局所可積分関数 f : R → R が存在して
∫
∫
′
F φ λ = − f φ λ ∀φ ∈ C01 (R)
R
R
が成り立つとき F は弱い意味で微分可能(weakly differentiable) であるといい、f を F の弱
い意味での微分あるいは弱微分(weak derivative) という。
Fubini の定理は累次積分の順序を交換するためだけに使われるのではない。その先にある
世界を弱微分の概念を題材に紹介する。次の問題を解いて a.e. 集合の定義を確認しておこう。
15.6 演習問題. (B(R), λ)-a.e. 集合は空集合でないことを示せ。
15.7 演習問題. 連続関数 f : R → R に対し f = 0 λ-a.e. ⇒ f (x) = 0 ∀x であることを示せ。
15.8 演習問題. F : R → R を弱微分可能な局所可積分関数とする。f , g を F の弱微分とす
ると f = g λ-a.e. であることを示せ。
15.9 補題. f : R → R を B(R) 可測関数とする。各 y ∈ R に対し f (· + y) = f λ-a.e. 即ち
λ({x ∈ R : f (x + y) ̸= f (x)}) = 0 であれば、ある a ∈ R が存在して f = f (a) λ-a.e. である。
証明. 集合 A := {(x, y) ∈ R2 : f (x + y) ̸= f (x)} は B(R2 ) に属する。系 12.14 を適用して
∫
λ({y ∈ R : f (x + y) ̸= f (x)}) λ(dx)
R
∫
(2)
= λ (A) =
λ({x ∈ R : f (x + y) ̸= f (x)}) λ(dy) = 0
R
を得る。補題 4.12 により {x ∈ R : λ({y ∈ R : f (x + y) ̸= f (x)}) = 0} は (B(R), λ)-a.e. 集合
である。演習問題 15.6 で調べたようにそのようなものは空集合ではない。従ってある a ∈ R
が存在して次が成り立つ。
λ({y ∈ R : f (a + y) ̸= f (a)}) = 0.
さて {y ∈ R : f (a + y) ̸= f (a)} + a = {y ∈ R : f (y) ̸= f (a)} であるから定理 10.16 により
λ({y ∈ R : f (y) ̸= f (a)}) = 0
即ち f = f (a) λ-a.e. が導かれた。
85
次の問題を解くには補題 5.9 および定理 5.10 が参考になるであろう。
15.10 演習問題. f : R → R を局所可積分関数、φ ∈ C01 (R) とする。このとき
∫
y→
f (x)φ(x − y) λ(dx)
R
は微分可能でありその導関数は以下であることを示せ。
∫
y → − f (x)φ′ (x − y) λ(dx)
R
15.11 定理. f : R → R を局所可積分関数、r ∈ N とする。このとき次が成り立つ。
∫
f φ′ λ = 0 ∀φ ∈ C0r (R) ⇒ ∃ c ∈ R s.t. f = c λ-a.e.
R
証明. φ ∈ C0r (R) とする。各 y ∈ R に対して関数 x → φ(x − y) も C0r (R) に属しその導関数
は x → φ′ (x − y) である。従って仮定より
∫
f (x)φ′ (x − y) λ(dx) = 0 ∀y ∈ R.
R
左辺は演習問題 15.10 で調べたように次の関数の微分係数に − 符号を付けたものである。
∫
y→
f (x)φ(x − y) λ(dx)
R
その導関数が恒等的に 0 である R 上の関数は定数関数であるので
∫
∫
f (x)φ(x − y) λ(dx) =
f (x)φ(x) λ(dx) ∀y ∈ R.
R
∫
R
演習問題 13.6 で調べたことから左辺は R f (x + y)φ(x) λ(dx) に等しいので
∫
∫
f (x + y)φ(x) λ(dx) =
f (x)φ(x) λ(dx) ∀y ∈ R ∀φ ∈ C0r (R).
R
R
各 y ∈ R に対して局所可積分関数 x → f (x + y) と f を対象に演習問題 12.26 で調べた命題
を適用して
f (· + y) = f λ-a.e. ∀y ∈ R
を得る。補題 15.9 によればある a ∈ R が存在して f = f (a) λ-a.e. ということになるが、ま
だ f (a) = ∞ という可能性が排除できていない。ところが f の局所可積分性により f (a) = ∞
では矛盾が生じるので、結論に到達する。
従って弱微分可能かつ弱微分が消える局所可積分関数 R → R は Lebesgue 零集合上で修正
すれば定数関数と見なせる。これは微分可能かつ導関数が消える関数 R → R は定数関数で
あるという周知の事実に符合している。つぎは補題 15.4 と関連づけて解くとよいだろう。
86
15.12 演習問題. f, g : R → R を局所可積分関数、r ∈ N とする。このとき f の不定積分 F
に対して次が成り立つことを示せ。
∫
∫
′
gφ λ = − f φ λ ∀φ ∈ C0r (R) ⇔ ∃ c ∈ R s.t. g(x) = c + F (x) λ-a.e. x
R
R
演習問題 15.12 は局所可積分関数 f : R → R が与えられたときに弱微分が f に等しいよう
な局所可積分関数 g : R → R を決定する問題といえよう。そこで次の概念が生じる。
15.13 定義. 局所可積分関数 f : R → R に対し弱微分可能な局所可積分関数 g : R → R で
あってその弱微分が f に等しい、すなわち
∫
∫
′
gφ λ = − f φ λ ∀φ ∈ C01 (R)
R
R
を満たすものを微分方程式 g ′ = f の弱解(weak solution) であるという。
演習問題 15.12 で調べたことによれば、与えられた局所可積分関数 f に対して微分方程式
g = f は弱解を持ち、また任意の弱解は Lebesgue 零集合上で修正すれば f の不定積分(原
始関数は存在しないかもしれない)と見なせる。
不定積分と原始関数の間にはギャップがある。次の定理とその証明(局所有界という条件
の果たす役割が大事)を注意深く読むとその違いが見えて来るであろう。
′
15.14 定理. g : R → R を微分可能関数とし、その導関数を f とする。
(i) 関数 f は B(R) 可測である。
(ii) 導関数 f が局所有界、すなわち各 a ∈ R に対して δ ∈ R>0 が存在して f が区間 (a−δ, a+δ)
上で有界であるなら、関数 f は g の弱微分であり、また関数 g は f の不定積分である。
証明. (i) 各 n ∈ N に対して関数 x → n(g(x + 1/n) − g(x)) は連続ゆえ、補題 10.11 より B(R)
可測である。各 x ∈ R に対して f (x) = lim supn→∞ n(g(x + 1/n) − g(x)) が成り立つので、
補題 5.1 を適用して f の B(R) 可測性を得る。
(ii) 関数 f は (i) より B(R) 可測であり、したがって局所有界性とあわせて、局所可積分で
あることが分かる。また関数 g も局所可積分であることを注意しておく。ここで φ ∈ C01 (R)
を任意に固定し、a, b ∈ R, ただし a < b, を φ の台が区間 (a, b) に含まれるように選ぶ。平均
値の定理を適用して次を得る。
|n(g(x + 1/n) − g(x))| ≤
sup |f (y)| ∀x ∈ (a, b) ∀n ∈ N.
a≤y≤b+1
ここで関数 f の局所有界性より M := supa≤y≤b+1 |f (y)| < +∞ である。従って可積分関数
M |φ| を優関数として定理 5.7 を適用できるので
∫
∫
n(g(· + 1/n) − g)φ λ は
f φ λ に収束する。
R
R
また演習問題 13.6 で調べたことから次のように変形できる。
∫
∫
(∫
)
n(g(· + 1/n) − g)φ λ = n
g φ(· − 1/n) λ − gφ λ .
R
R
87
R
∫
右辺の極限は演習問題 15.10 で検証したように − R gφ′ λ である。以上より
∫
∫
′
gφ λ = − f φ λ ∀φ ∈ C01 (R).
R
R
すなわち g は弱微分可能であり、関数 f は g の弱微分である。さらに演習問題 15.12 で述べ
たことによれば、f のある不定積分 F が
g = F λ-a.e.
を満たす。さて g は微分可能ゆえ連続であり、F は不定積分ゆえ連続である(演習問題 15.1)。
よって演習問題 15.7 で調べたことから g(x) = F (x) ∀x ∈ R を導くことができる。
定理 15.11 の高階導関数版も成立し、それを定理 15.16 として紹介する。基本となる論法
は前者の証明中に登場しているが、見通しよく進めるには少し下ごしらえが必要である。後
で証明する補題 15.24 と補題 15.26 を組み合わせてまとめたものが次の命題である。
15.15 補題. 与えられた n ∈ N と g1 , . . . , gn : R → R に対して次を導入する。
G(a, b, x) :=
n−1 i+1
∑
b − ai+1
i=0
i+1
gn−i (x) a, b ∈ R ただし a < b
任意の a, b に対して
x → G(a, b, x) が連続かつ G(a, b, x + y) = G(a + x, b + x, y) + G(a, b, x) ∀x∀y ∈ R
なら各 gi は高々i 次の多項式関数であり次が成り立つ。
gn (x + y) =
n−1
∑
xj gn−j (y) + gn (x) ∀x∀y ∈ R
j=0
15.16 定理. 局所可積分関数 f : R → R と n, r ∈ N ただし n + 1 ≤ r に対し次が成り立つ。
∫
f φ(n+1) λ = 0 ∀φ ∈ C0r (R) ⇒ ∃ g 高々n 次の多項式関数 s.t. f = g λ-a.e.
R
証明. n に関する帰納法により証明する。定理 15.11 は n = 1 の場合に
∫
f 局所可積分, n ≤ r, f φ(n) λ = 0 ∀φ ∈ C0r (R)
R
⇒ ∃ g 高々n − 1 次の多項式 s.t. f = g λ-a.e.
の成立を主張している。そこで 1 ≤ n とし上の命題の成立を前提とする。
∫
f 局所可積分, n + 1 ≤ r, f φ(n+1) λ = 0 ∀φ ∈ C0r (R)
R
と仮定する。定理 15.11 の証明と同じ議論を繰り返して
∫
∫
(n)
f (x + y)φ (x) λ(dx) =
f (x)φ(n) (x) λ(dx) ∀y ∈ R ∀φ ∈ C0r (R).
R
R
88
各 y ∈ R に対して局所可積分関数 x → f (x + y) − f (x) を対象に前提命題を適用して
(⋆)
∃g1 , . . . , ∃gn : R → R s.t. f (x + y) − f (x) =
n−1
∑
gn−i (y)xi λ-a.e. x ∀y ∈ R.
i=0
a < b とする。区間 (a, b) 上で積分して次を得る。
∫
(f (· + y) − f ) λ =
(a,b)
n−1 i+1
∑
b − ai+1
i=0
i+1
gn−i (y) ∀y ∈ R.
左辺を G(a, b, y) とおくとこれは補題 15.15 の条件を満たす(検証は演習問題に託す)。よって
n−1
∑
gn−i (y)xi = gn (x + y) − gn (x) ∀x∀y ∈ R
i=0
が成り立ち、しかも gn は高々n 次の多項式関数である。(⋆) を考慮にいれて
f (· + y) − f = gn (· + y) − gn 即ち f (· + y) − gn (· + y) = f − gn λ-a.e. ∀y ∈ R
ゆえに補題 15.9 よれば、ある a ∈ R が存在して f − gn = f (a) − gn (a) λ-a.e. が成り立つ。
よって gn + f (a) − gn (a) が求める多項式関数である。
15.17 演習問題. f : R → R を局所可積分関数とし次を導入する。
∫
G(a, b, x) :=
(f (· + x) − f ) λ a, b ∈ R ただし a < b, x ∈ R.
(a,b)
(i) 任意の a, b に対して x → G(a, b, x) は連続であることを示せ。
(ii) 任意の a, b に対して G(a, b, x + y) = G(a + x, b + x, y) + G(a, b, x) が成り立つことを示せ。
定理 15.16 でも定理 15.11 と同じ現象が起こっている。弱解の概念を使って整理しておく。
15.18 定義. F : R → R を局所可積分関数、n ∈ N とする。ある局所可積分関数 f : R → R
が存在して
∫
∫
(n)
n
F φ λ = (−1)
f φ λ ∀φ ∈ C0n (R) (φ(n) は φ の n 階導関数)
R
R
が成り立つとき F は弱い意味で n 回微分可能(n-times weakly differentiable) であるといい、
f を F の弱い意味での n 階微分(n-th order weak derivative) という。
15.19 注意. 微積分学では高階微分を帰納的に定義する。従って 1 階導関数を述べずに 2 回微
分可能性を云々することはできない。ところが弱い意味での n 回微分可能性は低階の微分を
経由せずに定義できる。よって n 回微分可能性からそれより低階の微分可能性を導き出すこ
˙き
˙な
˙ いのである。これが定理
˙
とは直ちにはで
15.16 を証明するのに手間がかかる一因である。
89
15.20 定義. 局所可積分関数 f : R → R と n ∈ N に対し局所可積分関数 g : R → R であっ
てその n 階弱微分が f に等しい、すなわち
∫
∫
(n)
n
gφ λ = (−1)
f φ λ ∀φ ∈ C0n (R)
R
R
を満たすものを微分方程式 g (n) = f の弱解(weak solution) という。
定理 15.16 によれば微分方程式 g (n) = 0 の弱解は Lebesgue 零集合上で修正すれば高々n − 1
次の多項式関数と見なせる。後者は微分方程式 g (n) = 0 の通常の意味での解、古典解(classical
solution) という、である。このような性質をもつ微分方程式は準楕円的(hypoelliptic) である
という。微分方程式の準楕円性を主張する命題の典型は Laplace 方程式に関する Weyl の補
題(つぎの定理 15.21)であり多方面で重要な役割を果たす。
15.21 定理. D を R2 の開部分集合とする。D 上の Laplace 方程式の弱解はある D 上の調和
関数(Laplace 方程式の古典解)に λ(2) -a.e. の意味で等しい。
この定理の証明は開部分集合上の方程式に関する弱解の定義などもこめてまだ準備不足な
のでここでは紹介できない。なお、n = 1 のとき定理 15.16 は定理 15.21 の 1 変数バージョン
とも見なせる。
15.22 演習問題. n ∈ N とする。局所可積分関数 f : R → R に対して微分方程式 g (n) = f は
弱解を持つことを示せ。また g, h をふたつの弱解とするとき差 g − h はある高々n − 1 次の
多項式関数に λ-a.e. の意味で等しいことを示せ。
以上は壮麗な景色の一こまに過ぎない。しかしながらことは入門の域をすでに超えている。
これから先の展開は別の機会に委ねることにしてひとまず筆を置くこととしたい。
補題 15.15 の証明
補題 15.15 の証明は積分論の主題からは外れるように思われるので、別枠として取り出し
ておく。なお、定理 15.16 にはもっと汎用性の高い証明方法がある。
15.23 補題. b1 , . . . , bn を 0 でない実数でかつ相異なるとき次は逆行列を持つ。


b1 b21 · · · bn1
 b2 b2 · · · bn 
2
2


 .. .. . .
.
. .
. .. 
bn b2n · · ·
証明. 行列式は
∏n
i=1 bi
∏
i<j (bj
bnn
− bi ) に等しい。
✓
記号
✏
✒
✑
( )
n
n!
:=
k ≤ n なる非負整数 k, n に対して
2項係数
k
k!(n − k)!
90
15.24 補題. 与えられた n ∈ N と g1 , . . . , gn : R → R に対して次を導入する。
G(a, b, x) :=
n−1 i+1
∑
b − ai+1
i+1
i=0
gn−i (x) a, b ∈ R ただし a < b
このとき以下の同値性が成り立つ。
(i) g1 , . . . , gn が連続 ⇔ 任意の a, b に対して x → G(a, b, x) が連続
)
i−1 (
∑
n+j−i j
x gi−j (y) + gi (x)
(ii) 任意の i = 1, 2, . . . , n に対して gi (x + y) =
j
j=0
⇔ 任意の a, b に対して G(a, b, x + y) = G(a + x, b + x, y) + G(a, b, x)
証明. (ii) 2項定理を適用したのち和の順序を交換して G(a + x, b + x, y) を変形する。
)
n−1
i (
n−1
∑
∑
(b + x)i+1 − (a + x)i+1
1 ∑ i+1
(bk+1 − ak+1 )xi−k gn−i (y)
gn−i (y) =
i+1
i + 1 k=0 k + 1
i=0
i=0
n−1 ( )
n−1 ∑
∑
bk+1 − ak+1
i i−k
x gn−i (y)
=
k
k+1
k=0 i=k
()
( i+1 )
/(i + 1) = ki /(k + 1) を使っている。従って補題 15.23 によれば
ここで k+1
n−1 ( )
gn−k (x + y)
gn−k (x)
1 ∑ i i−k
x gn−k (y) +
=
∀k = 0, 1, . . . , n − 1
k+1
k + 1 i=k k
k+1
は G(a, b, x + y) = G(a + x, b + x, y) + G(a, b, x) ∀a < ∀b と同値である。分母の k + 1 を払っ
て変形すると求める関係式が得られる。(i) は補題 15.23 から直ちに分かる。
15.25 補題. n ∈ N と α0 , . . . , αn−1 ∈ R が与えられたとする。このとき
)
(
i−1
∑
n − k i−k
ψi (x) :=
x
i = 1, 2, . . . , n, x ∈ R
αk
i−k
k=0
で定義される多項式関数は任意の x, y ∈ R に対して次の関係を満たす。
)
)
(
i−2
i−1 (
∑
∑
n−k
n+j−i j
((x + y)i−k − xi−k − y i−k ) i = 2, . . . , n.
x ψi−j (y) =
αk
i
−
k
j
j=1
k=0
)
(
i−1
∑ n+j−i
xj ψi−j (y) = ψi (x + y) − ψi (x) i = 1, 2, . . . , n.
j
j=0
証明. 2項係数の定義より
i−k−1
∑ (
j=1
(n+j−i)(
j
n−k
i−j−k
)
=
(n−k)(i−k)
i−k
j
である。2項定理により次を得る。
)
) i−k−1 (
)
(
)(
n − k ∑ i − k j i−k−j
n−k
n+j−i
j i−j−k
xy
xy
=
j
i − k j=1
i−j−k
j
)
(
n−k
((x + y)i−k − xi−k − y i−k ).
=
i−k
91
和の順序を交換し以上の関係を使うと1番目が導かれる。2番目は i = 1 の場合を除いて1
番目を少し変形すれば出てくる。また i = 1 の場合は直接容易に検証できる。
15.26 補題. 連続関数 g1 , . . . , gn : R → R に対して次は同値である。
gi (x + y) =
)
i−1 (
∑
n+j−i
j
j=0
xj gi−j (y) + gi (x) ∀x, ∀y ∈ R, ∀i = 1, . . . , n
⇔ ∃α0 , . . . , ∃αn−1 ∈ R s.t. gi (x) =
i−1
∑
(
αk
k=0
)
n − k i−k
x
∀x ∈ R, ∀i = 1, . . . , n
i−k
証明. ⇐ は補題 15.25 の2番目の関係から直ちに従う。⇒ を帰納法により示そう。i = 1 の
とき条件式は g1 (x + y) = g1 (y) + g1 (x) ∀x, ∀y ∈ R である。連続性が仮定されているので演
習問題 10.17 で調べたことが適用できる。従って g1 (x) = g1 (1)x である。α0 = g1 (1)/n と選
べばよい。さて m < n とし次が示せていたとしよう。
∃α0 , . . . , ∃αm−1 ∈ R s.t. gi (x) =
i−1
∑
(
αk
k=0
)
n − k i−k
x
∀x ∈ R, ∀i = 1, . . . , m.
i−k
i = m + 1 のとき条件式を少し変形すると
)
m (
∑
n+j−m−1 j
x gm+1−j (y) + gm+1 (y) + gm+1 (x)
gm+1 (x + y) =
j
j=1
である。補題 15.25 の1番目の関係から右辺の
m−1
∑
(
αk
k=0
∑m
j=1
に関する項は
)
n−k
((x + y)m+1−k − xm+1−k − y m+1−k )
m+1−k
∑m−1 ( n−k ) m+1−k
x
は g1 と同じ条件式を満
に等しい。よって連続関数 x → gm+1 (x) − k=0 αk m+1−k
たすことが知れる。よってある αm ∈ R が存在して
gm+1 (x) −
m−1
∑
k=0
(
αk
)
(
)
n−m
n−k
m+1−k
x ∀x ∈ R.
x
= αm
1
m+1−k
以上により i = m + 1 のときも正しい。
92
索引
σ-加法的な有限加法的測度, 34
σ-有限, 49
弱微分, 85
弱解, 90
縦線領域の面積, 65
準楕円的微分方程式, 90
一意性定理, 51
a.e., 26
a.e. 集合, 26
L1 空間の完備性, 28
L1 空間における連続関数の稠密性, 46
L1 セミノルム, 20
円の面積, 74
スタンダードマシン, 72
生成される σ-加法族, 51
生成される Dynkin 族, 61
積分, 4, 18
積分の σ-加法性, 23
積分の線形性, 17, 19
積分の単調性, 12, 19
絶対連続測度による積分, 23
外測度に関して可測, 37
回転不変性, 59
拡張の一意性, 51
可算 C-被覆, 34
可算劣加法性, 37
可積分, 5, 18
可積分関数, 18
可積分性判定, 18, 22, 27, 47, 76
可測, 3
可測関数, 3
可測集合, 3
可測集合上で可積分, 21
可測集合上の積分, 21
可測部分集合全体の族, 37
Carath´eodory 外測度, 37
完備, 27
測度, 3
測度に関しほとんどいたるところ, 26
台, 45
単関数, 3
単調収束定理, 15, 22
長方形集合, 53
直積 σ-加法族, 55
直積測度, 55
直積測度の一意性, 55
極限と積分の順序交換, 25
極座標, 75
局所可積分, 68
定義関数, 11
Dynkin 族, 60
Dynkin 族定理, 62
原始関数の存在, 47
項別積分定理, 23, 29
古典解, 90
Tonelli の定理, 70
C-集合, 32
C-分割, 32
σ-加法性, 3
σ-加法族, 2
σ-加法的, 34
非減少関数が誘導する有限加法的測度, 34
非交叉族, 32
微積分の基本定理, 47
左半開区間, 32
微分方程式の古典解, 90
微分方程式の弱解, 87, 90
93
Lebesgue 測度, 44, 55
Lebesgue 測度の回転不変性, 59
Lebesgue 測度を保存する線形写像, 66
Lebesgue 測度の平行移動不変性, 52, 58
Lebesgue 測度の一意性, 56
Lebesgue の収束定理, 24
Lebesgue の優収束定理, 24
Lebesgue-Fatou の補題, 25
Fatou の補題, 23
不定積分, 83
Fubini-Tonelli の定理, 70
Fubini の定理, 64, 70, 79
部分積分公式, 84
分割, 32
平行移動不変性, 52, 58
平行四辺形の面積, 67
変数変換公式–線形な場合, 72
変分法の基本補題, 68
零集合, 26
劣加法性, 30
Weyl の補題, 90
Hopf の拡張定理, 40
ほとんどいたるところ, 26
Borel 可測関数, 51, 56
Borel 集合, 51, 56
Borel 集合族, 51, 56
Borel 測度, 51, 56
Markov の不等式, 12
有限加法性, 7, 34
有限加法的測度, 33
有限加法的測度の測度への拡張, 40
有限加法的測度が誘導する外測度, 34
弱い意味での微分, 85, 89
弱い意味で微分可能, 85, 89
Radon 測度, 51, 56
Laplace 方程式, 90
Riesz-Fischer の定理, 28
Lebesgue 外測度, 44
Lebesgue 可積分, 47
Lebesgue 可測集合, 44, 55
Lebesgue 可測関数, 44
Lebesgue-Stieltjes 測度, 43
Lebesgue-Stieltjes 外測度, 43
Lebesgue-Stieltjes 積分, 44
Lebesgue-Stieltjes 測度の一意性, 51
Lebesgue 積分, 47
Lebesgue 積分を保存する線形写像, 72
94