い~な あまみ 中 央 しらさぎ さくら 大阪+知的障害+地域+おもろい=創造 知の知の知の知 社会福祉法人大阪手をつなぐ育成会 社会政策研究所情報誌通算 1960 号 2014.6.13 発行 ============================================================================== 読売新聞 7 回連載の「反転授業」をまとめてお届けします。関連記事とともにどうぞ【kobi】 反転授業 (1)端末で予習、授業で深く理解 読売新聞 2014 年 05 月 29 日 自宅で動画教材を使って予習し、基本的な事柄を学ん だ上で、学校ではさらに理解を深める学習を実施する 「反転授業」に注目が集まっている。 これまでの学習の流れを逆転することで、主体性の育 成や学力の向上に結びつくと期待される。先進的な取り 組みを取材し、効果や課題を探った。 「今日は予習を踏まえて授業します。(自宅で取り組 んだ)小テストの答えをタブレット端末で送信してください」 5月中旬、佐賀県武雄市の市立武内小学校。5年生の算数授業の冒頭、担任の峯慎一郎 教諭(42)が呼びかけると、児童25人がそれぞれ端末(7インチ型)の「プリントを ていしゅつ」ボタンを押した。無線LANを通じて峯教諭の端末に児童の答えが届き、集 計結果が示された。 児童らは、直方体の高さと体積の関係を動画で解説した約7分の教材を学校で端末にダ ウンロードし、前日に自宅で学習。その上で、理解度を測る小テスト2問を解いていた。 家庭で教材を使って学ぶところから始まる「反転授業」。学校では基本を復習し、グルー プ学習で協力して問題を解決する力を育んだりする。タブレット端末やパソコンを使うこ とで、児童の学習状況を教員が正確に把握できるメリットもある。 全国初の一斉実施…佐賀・武雄の全市立小 同市は今年度、市立の全11小学校で反転授業を導入する。全児童約3000人に端末 を無償で貸与し、今月から、3年生は算数、4年生以上は理科も加えた2科目で始めた。 自治体が全公立小で取り組むのは全国初。きっかけは2010年度、武内小など2校の 4~6年生にタブレット端末を配ったことだ。当初は児童が端末に打ち込んだ内容を、電 子黒板に映し出すなどして活用。端末配布を全校に広める際、もっと有効な活用法はない かと検討し、アメリカで広がりをみせる反転授業にたどり着いた。 同市は今夏から、民間の学習塾のノウハウを取り入れた授業も試行する。反転授業と組 み合わせた新たな教育手法も視野に入れており、注目度も高い。 授業のスピード速い…高い可能性 5年生の算数授業では、端末の集計結果を確認した峯教諭が、正答率が低い問題を中心 に丁寧に説明を始めた。児童が一通り勉強しているだけに、授業のスピードも速い。開始 から約20分で「まとめ」に。その後は端末を使わず練習問題を解く時間に充てると、児 童らは次々と手を挙げ、答えの導き方を発表していった。 峯教諭は授業後、 「質問への反応が良く、児童が自信を持って臨んでいた」と振り返った。 児童の受け止めもまずまず。犬塚千晴さん(10)は「予習時間は20分くらい。家で 勉強していたので授業がよく分かった」と話し、水上創太君(10)も「楽しく勉強でき た。お母さんも『一人で予習できるね』と言ってた」と笑顔を見せた。 授業を見た代田昭久校長(49)は「今後に可能性を感じた」と評価する一方、「問題を 解くスピードにばらつきがあった。もっと時間と端末を有効に使えば、児童一人ひとりの 理解度に応じて伸ばすことができる」と指摘していた。 ICT発達とともに誕生 学校で教わり、家で復習するという従来のやり方を逆転させた反転授業。情報通信技術 (ICT)が発達し、パソコンやタブレット端末が普及する中で生まれた新しい授業の形 だ。 従来型では、基礎的な内容の説明に授業時間の多くを割かれ、発展的な内容に取り組む 時間を確保しにくいという現場教員の声を受け、誕生した。反転授業では、グループ学習 などを積極的に取り入れることで、応用力の育成やコミュニケーション力向上といった効 果を狙う。自宅での学習習慣が身に付くといった効果も報告される。 ICT先進地のアメリカでは、2000年代からオンライン講義を活用した反転授業が 普及。日本でも最近、各地の学校で導入が進むが、ICT機器の整備や教材づくり、教員 の指導力養成などが課題になっている。 (2) 「促す」指導、試行錯誤の教員 読売新聞 2014 年 05 月 30 日 タブレット端末の使い方の研修を受ける教員ら(4月24日、佐 賀県武雄市 で) 「期待に 応えたいと は思うが、 正直、不安 でいっぱい」 今年度、全ての公立小学校でタブレット端 末を使った反転授業をスタートさせる佐賀県 武雄市。4月下旬、教員向けに開かれた端末の機能や操作方法を学ぶ研修会の後、30歳 代の女性教諭が打ち明けた。 反転授業では、家で端末の動画教材を見て勉強し、学校では理解を深める。教員側にと っても、学校で教え、自宅での復習を求めるというこれまでの指導法が一変する。 教員から児童への一方通行の教育ではなく、グループ学習などを通し、知恵を出し合っ て問題を解決する力を育むことを重視する。教員の役割は「教える」から「促す」に変わ り、児童の主体性を引き出す技術を高める必要がある。教員に過度な負担になるとも懸念 される。 タブレット操作、動画教材づくり… 機器の扱いも負担だ。女性教諭は「端末は、スマートフォンのように使いながら慣れる しかない。機器が苦手な年配の先生は特に大変だろう」と気遣う。反転授業が始まった学 校では、端末をうまく操作できない児童もいる。 動画教材づくりが重荷になる教員もいる。現在、 「割り算」や「小数同士のかけ算」とい った項目ごとに各校に割り振られ、教員が製作会社と協力して作っている。図や写真、文 字に音声を組み合わせ、完成すれば全校で共有する仕組みだ。 ただ当初は、5~7分の教材を一つ作るのに、製作会社と30回もメールをやり取りす るケースもあったという。20歳代の男性教諭は「手間がかかるし、面白く、子どもが興 味を持つ教材を作るのは難しい」と話す。 市教委は「負担は当然で、教員にも意識改革が求められる。子どもの力を伸ばすためな のだから」と強調。その上で「より良い方法を考えていかなければならない」と話す。 保護者も反転授業への期待と不安が交錯する。市教委が行ったアンケートでは、学力向 上や家庭学習の定着を願う一方、視力への悪影響、端末の目的外使用を懸念する声が上が った。 市教委は16日、有識者や教科書会社などを交え、反転授業の効果や課題を検証する研 究会を設置した。浦郷究教育長は「本当に試行錯誤している。検証を重ね、客観的に子ど もたちの力が付いたと分かるよう市全体で取り組みたい」と力を込めた。 (3)動画繰り返し再生、学習時間増えた 読売新聞 2014 年 06 月 04 日 4月下旬、札幌市中央区の北星学園女子中学高校。 4年生(高1)の数学の授業で、生徒が4人1組で問題に取り組んでいた。先に答えが 分かった生徒が、悩む生徒に寄り添って教える。 「なるほど、そうすれば答えが出るのか!」。 教室のあちこちで声が弾んだ。 生徒らは授業までに教材会社が作った動画を見て基礎学習しているため、授業では時間 に余裕が生まれ、グループでじっくり応用問題に取り組める。つまずいている生徒も友人 から教えられて理解できるようになり、授業が活発になったという。数学科の小西理介教 諭(34)は「質問が飛び交い、授業に活気が出てきた。生徒の理解も早い」と手応えを 感じる。 「先生の話が分からなくても授業は巻き戻せないけど、動画なら自分のペースで聞き直 せる。解けるようになると数学は楽しい」と話すのは、数学が苦手だったという久保田梨 予さん(15) 。自宅での予習が習慣になり、難問でもあきらめずに挑戦するようになった。 自宅で事前に学習し、学校で応用問題に取り組む反転授業。家庭学習の時間が1・5倍 に増えたというデータもある。 調査したのは、宮城県富谷町立東向陽台小学校の佐藤靖泰教諭(45)。東北学院大学の 稲垣忠准教授(38)との共同研究として2年前から、担任クラスの算数で反転授業に取 り組んできた。 佐藤教諭が使うのは自作の教材。動画は自身も登場するなどして教科書を説明する。タ ブレット端末に取り込まれたその動画で、児童は授業前日に自宅で学習。分からなかった 点などをノートにまとめることも求める。その後の授業では、端末も使いながら、数人の グループで応用問題を解いたりしている。 1年目の一昨年。10月に6回の反転授業を行った時のアンケートでは、児童、保護者 双方が、この期間中の家庭学習の時間は、普段の約1・5倍に増えたと回答した。反転授 業で学んだ「比例」のテストの平均点は96・6点で、80点台後半が多い普段より高い 結果も出た。 「ただ動画を見るのでなく、ノートづくりと組み合わせたのが良かった」と佐藤教諭は 振り返る。初めに「動画は何回見てもいいよ」と説明しているため、ノートづくりのため に児童が動画を繰り返し見て、学習時間が伸びたとみる。 翌年に反転授業を約10回行った際、動画の視聴記録を分析すると、児童の半数程度が 繰り返し見ていた。 「普通の授業は巻き戻したり、一時停止したりできない。動画ならでは の良さ」と佐藤教諭は説明する。 動画や授業づくりには手間がかかる。しかし、効果を実感した佐藤教諭は「全てを反転 授業にすることはできないが、子どもの学ぶ意欲を高め、成績向上も期待できるので、取 り組む価値はある」と話している。 (4)動画教材作りが負担 業者活用も 読売新聞 2014 年 06 月 05 日 佐野日大中等教育学校の 津久井教諭が作った動画 の一場面(ユーチューブ より) タブレット端末を使った 動画づくりを試す東向陽 台小の佐藤教諭(宮城県 富谷町で)=冨田大介撮 影 「みなさんこんにちは。日本史講義の時間です」 動画投稿サイト「ユーチューブ」にアップされた動画の中で、中高一貫の佐野日大中等 教育学校(栃木県佐野市)で地歴科を担当する津久井薫教諭(28)が、ヤマト政権の政 治制度について解説を始めた。 4月下旬にあった5年生(高2)の授業では、生徒らは、この動画を含む4本の中から 1本を選び、事前に見て臨んでいた。グループに分かれ、それぞれが見た動画の要点を発 表することで、見ていない動画の内容も学ぶ。渡辺慎太郎君(16)は「これまでと違う 授業で、新鮮」とやりがいを感じる。 動画教材を使った家庭学習を前提に、学校の授業を設計する反転授業。家庭学習の時間 が増えるなどの効果が上がっているが、動画を自作する教員の負担は小さくない。 津久井教諭は放課後、誰もいない教室にビデオカメラを設置。動画を見る生徒を意識し ながら、授業風景を撮影している。動画は1本約20分だ。 反転授業を始めた昨年度は30本、今年度は既に8本作った。 「予習をふまえた展開にす るように、授業の構成を考え直す必要もあり、業務量は増えた。負担に感じる人もいるだ ろう」と津久井教諭は話す。 2年前から算数で反転授業に取り組み、動画を自作する宮城県富谷町立東向陽台小学校 の佐藤靖泰教諭(45)も、 「動画は保護者も見るので、いつも授業参観のよう。嫌がる教 員もいるだろうが、授業を見直す機会にもなる」と話す。 高2の英語と数学を反転授業で教える近畿大学付属高校(大阪府東大阪市)も、教諭2 人が教科書の解説動画を製作。休日に自宅で収録することもあるが「負担と引き換えに授 業時間を有効に使える。教員の反転授業に対する考え方とやる気の問題だ」と語る。 一方、今年度、全公立小で反転授業を導入する佐賀県武雄市は、各校にテーマを割り振 って製作会社と協力して動画を作り、完成分を全校で共有することで負担を減らす。 教材会社のオンライン動画を活用する学校も。アニメのキャラクターが質問を投げかけ る動画を提供する教材会社「すららネット」は「児童生徒の集中力を切らさないよう工夫 をしており、教員の負担なしに反転授業を導入できる」とアピール。今年度は、新たに4 校が同社のサービスを使って反転授業を進めるという。 (5)予習の習慣で学ぶ意欲アップ 読売新聞 2014 年 06 月 06 日 5月7日夜、大阪市北区に住む近畿大学付属高校2年、灰野なつ子さん(17)は、大 阪府東大阪市にある学校から帰宅すると、バッグからタブレット端末を取り出し、机に置 いた。 電源を入れ、インターネット上の同校のサイトを開き、翌日の数学授業で学ぶ「三角関 数 和と積の公式」の動画教材を選んで再生。画面には教科書が映し出され、数学担当の 芝池宗克教諭(48)が解説していった。 灰野さんは動画を見ながら、要点や理解できなかったことをノートに書き留めた。「5~ 10分の動画でも、何度も聞き直したりするので予習に2時間かかることもある」という。 反転授業では、一つのテーマを初めて学ぶのが、自宅になる。その分、予習は大切だ。 芝池教諭が反転授業を始めたのは昨年度。1年だった灰野さんは当初、予習をおろそか にして成績が下がり、慌てて真剣に取り組むようになった。今では「予習は大変だが、ど こが分かり、どこが分からないかを把握でき、役立っている」と話す。 翌日の数学授業ではグループ学習が行われた。予習で基礎を済ませているのが前提だ。 各グループでは、予習で取り組んだ問題ごとに担当者を置き、他のメンバーに解き方を解 説。理解力や説明力、コミュニケーション力などを養っている。 灰野さんは「人前で説明することへの苦手意識がなくなり、友達にも気軽に相談できる ようになった」と話す。母の雅子さん(54)も「人と接するのが不得手な子だったが、 反転授業で改善した」と感じる。芝池教諭は「反転授業を通じ、学ぶ意欲や学力だけでな く社会で生き抜く力も育みたい」と強調する。 同校では、中西洋介教諭(51)が担当する英語でも、昨年度から反転授業を行う。単 語や文法は家で予習、学校では速いスピードで英文を読んだり、話したりする練習を繰り 返す。2年の米田興生君(16)は「予習するからこそ、実用的な英語を学べている」と 話す。 反転授業の効果を保護者に尋ねた東向陽台小(宮城県富谷町)の佐藤靖泰教諭(45) のアンケートでは、保護者の8割が反転授業を好意的に受け止め、「家庭学習の時間がのび た」 「親子間の話題が増えた」といった意見が目立った。 一方で、家庭の事情や意欲不足などで予習してこない児童生徒への対策は、反転授業に とって最大の課題だ。 佐藤教諭は、授業前の空き時間を活用して予習させたり、児童が互いに教え合う方法で 理解させたりと工夫してサポート。全公立小で反転授業を導入する佐賀県武雄市では、放 課後や土曜日を活用し、予習できない子どもに、大学生や地元住民がボランティアで教え る仕組みづくりを進めている。 (6)DVD・スマホでも動画見て予習 読売新聞 2014 年 06 月 07 日 「Hi Amy.How are you today?(エイミー、きょうはご機嫌 いかがですか) 」 5月下旬、兵庫県篠山市立篠山東中学校。ビデオカメラに向かい、英語の山内大輔教諭 (26)が外国語指導助手のエイミー・グラソーさん(23)と英会話を始めた。6月に 3年生向けに予定する反転授業の動画づくりだ。 同中では学力向上策として昨年度から反転授業の研究を始めたばかり。これまで1~3 年生に英語と数学で数回、試行した。研究を行うにあたり、予習の動画を生徒に見せる方 法として活用したのがDVDだ。 学校のホームページなどを通じてインターネットで見てもらおうにも、パソコンなどが 自宅になく、ネットに接続できない生徒がいた。1人1台のタブレット端末はすぐに用意 はできない。そこで思いついたのがDVD。市の施設で一度に大量コピーが可能だったこ ともあり、予習用DVDを作って生徒全員に配る方法を採用した。 同中は今年度は5教科で最低1回ずつ実施するという。赤井敏博校長(56)は「動画 で予習すると授業にすんなり入っている。タブレット端末などがなくても反転授業は可能 と分かった。研究を続けたい」と話す。 全児童にタブレット端末を貸し出す佐賀県武雄市。端末は動画を見るだけでなく、小テ ストの結果集計も瞬時に可能。ネットを使った調べ学習にも使える。ただ、同市では導入 に約1億2000万円をかけた。他の自治体がすぐにマネできるわけではない。情報通信 機器などの環境整備は、反転授業を実施するための大きな課題となる。 自分のパソコンやスマートフォンを持つ生徒が多い高校や大学では、動画教材をネット で見てもらうところも多い。 広尾学園中学高校(東京都港区)の堀内陽介教諭(32)は今年度、高校1年生の一部 クラスの数学で、ネット上の無料動画を予習用の動画として使い、反転授業を行っている。 事前に確認すると、自宅でネットに接続できない生徒はいなかったため、導入可能と判断 した。 昨年度から反転授業に取り組む早稲田大商学部(新宿区)の大鹿智基教授(38)は今 年度、予習用の動画をスマホでも見られるようにした。昨年度は受講生だけが見られるサ イトで公開したが、スマホには対応していなかった。動画で予習する学生は授業のスター ト時は約75%に上ったが、徐々に落ち込み、最後は20%強で、学生からは「スマホで 見られるようにしてほしい」との要望もあったという。 大鹿教授は「スマホを使うことで、休み時間や電車の中などでも予習できるようになっ た。学生には少しでも多く勉強してほしい」と話している。 (7)大学生が受け身脱却、活発に議論 読売新聞 2014 年 06 月 12 日 問題ごとに学生たちがイスを自由に動かし、数人のグループを作る。 頭を寄せ合っては分からない所を教え合い、問題に取り組んでいた。 5月中旬、山梨大学で行われた工学部3年生向けの必修授業「情報通信1」。反転授業を 実施しており、利点を生かそうと、グループ学習向けに新設された教室が利用された。最 新の情報通信機器も試験的に導入する。 「では解答を入れてください」 。塙雅典教授(46) が出した問題に、スマートフォンを持っている学生がアプリを使って答えを入力すると、 すぐ電子黒板に表示された。 塙教授が反転授業を始めたのは2年前。学生が昔に比べて受け身になっているのを感じ、 昔ながらの講義スタイルの授業が限界に来ていると考えた。ただ、知識として覚えなけれ ばならないことも多く、講義も必要。そのため、グループ学習などで学生が主体的に学ぶ 時間を作ろうと、反転授業を取り入れた。 今や高校生の半分が大学に進学する時代。川村隆明副学長(66)は「学ぶ意欲の高く ない学生もいるが、主体的に学ぶ姿勢を身につけてほしい」と話す。新しい教室を作った のも、学生を導こうという姿勢からだ。今は塙教授ら工学部での試みだが、大学全体に広 がるように支援していく方針だ。 帝京大学でも、より早い段階で主体的に学ぶ姿勢を身につけてもらおうと、昨年12月、 AO(アドミッション・オフィス)入試や推薦入試で合格した高校生を集めて、入学前に 反転授業を実施した。 テーマには、東京・六本木のクラブで男性客が人違いで集団に襲撃され、死亡した事件 を選んだ。受講生約150人は、事前に動画教材で事件について学び、当日は適用される 刑法などを活発に議論した。 企画した同大高等教育開発センター長の土持ゲーリー法一教授(69)は今年度、担当 する「一般教養セミナー」でも反転授業をスタート。学生らは日米の大学を比較し、教養 教育の重要性について理解を深める。大学内に設置されたパソコンなどで予習する学生も いるという。授業の大半は議論で、学生がノートを取ることはない。 経済学部1年、加藤勇人さん(18)は「意見を聞く力や批判的な思考力、議論して説 得力のある発表をする力など、社会で必要な力が養われる」と話す。 土持教授は今年度の教育力向上の研修会で、教員に反転授業を体験してもらう演習を取 り入れる。 「反転授業は授業設計に工夫が求められる。教員と学生の質を高め、大学活性化 につなげたい」と力を込めた。 (8)対面のメリット最大限、公立小中で課題も 読売新聞 2014 年 06 月 13 日 学校と家庭の学習を逆転させる反転授業は、果たして広がるのだろうか。 反転授業を日本に紹介した東京大学の山内祐平准教授(教育工学)と、宮城県の小学校 教諭と共同研究してきた東北学院大学の稲垣忠准教授(情報教育)に聞いた。 教員の力量あれば小学高学年でも…山内祐平・東京大准教授 従来は、子どもが学校で先生の説明を聞いて知識を習得、家 で宿題をすることでそれを身につけていた。反転授業はこれを 逆にし、家で動画を見て知識を得ることを前提に、学校では子 どもは応用問題を解き、教員は個別指導などが可能になる。教 員と子どもが対面で行う授業のメリットを最大限に生かした 授業方法だ。 反転授業の形態は二つある。授業で主に応用問題を解かせ、 教員が補助する形と、グループ学習で難しい課題を協力して解 決させる形だ。前者は全員を一定水準に、後者はグループの力 で高い能力を育てるのが目標だ。動画でほぼ講義の代わりとな ることがポイントなので、配ったプリントで予習させるのは反転授業にはあたらない。 アメリカでは落第率が激減した高校や、授業の出席率が上がった大学など、効果が出て いる。一方で課題は、動画の用意や、情報通信技術(ICT)機器などの動画を見る手段 の確保、教員の授業方法の変革だ。特に、教員はこれまでの講義型の授業を変えなくては いけないので抵抗感があると思う。 反転授業は一人で知識を習得するので、主に高校や大学が適している。教員の力量があ れば小学校高学年でも可能だ。あくまで一つの教育手法で、目標と一致するなら、教員に とって役立つ方法だろう。 教員に負担、家庭のネット環境が前提…稲垣忠・東北学院大准 教授 小学校の授業を見て、教える内容が増えて授業時間が45分 では足りず、無理が生じていると思った。そこで、基礎・基本 の導入を授業の外に出し、授業では児童の十分な理解の定着や 発展的な学習に時間をかけられないかと、宮城県富谷町立東向 陽台小の佐藤靖泰教諭と共同で反転授業の研究を行ってきた。 3年目だが、授業で話し合いの時間をたっぷり取れることや、 動画で予習してくるので授業で何を学ぶかを児童が把握でき ていることなど、効果を感じている。力のある教員が行えば効 果が上がるのは間違いない。 佐賀県武雄市の取り組みで全国的に注目が集まり、関心ある学校や自治体も多いと思う。 ただ、公立の小中学校で広く実施するには課題もある。 予習のための動画づくりや授業の設計など、教員の手間がかかる。また、家庭で動画を 見るにはインターネット回線やタブレット端末などのICT環境が前提となる。家庭で子 どもたちが学習できないと成り立たない指導法なので、保護者の理解も必要だ。 (この連載は名倉透浩、桜木剛志が担当しました) 反転授業“使いどころ”適切に判断を 先駆者アーロン・サムズ氏が講演 教育家庭新聞 2014 年 6 月 2 日 PCやタブレット端末で授業の動画を見て自宅で予習してから学校の授業で知識の定着 や応用的な学習を行う「反転授業」が新しい授業のスタイルとして注目されている。その 「反転授業」の先駆者がアーロン・サムズ氏だ。氏は現在アメリカの神学校でデジタル学 習の主任を務めており、このほど著書「反転授業」を上梓。それに伴い講演会並びにワー クショップが5月22日・立命館大学(京都)、24日・東京大学(東京)で開催された。 サムズ氏 サムズ氏は「反転授業」開始のきっかけについて、 「教師が一方 的に知っていることを語り、生徒は教師の話を理解していない状態 で聞くだけ。帰宅してから教わったことを定着させるという最も難 しい作業に自力で取り組まなければならない。こうした従来の授業 のあり方に疑問を持った。授業の内容を動画で見て、知識を身に付 けてから教室で授業を受けることで時間を有効に活用できる」と語 る。 「反転授業」ではビデオ動画で学習することが注目されがちだが、 その後の教室で生徒と対面した授業で何を教えるかが重要だとい う。実際の対面授業では、新たな状況を設定して課題を解決するなど応用的な学習にまで 踏み込んだ。その際に教師は専門性に裏打ちされた経験豊かなナビゲーターとなって、生 徒を上のステップへと押し上げることが求められる。 そうした「反転授業」にも様々な課題があるとサムズ氏は語る。 例えば、デジタルデバイド。インターネットにアクセスできない生徒が学習面で不利に ならないよう、ビデオ動画をUSBメモリ、DVDなどで渡すなどの対応が求められる。 また、動画を見てこない生徒もいるため、事前学習をせずに授業を受ける生徒のことも考 えなければならない。 評価についても同様だ。反転授業では、生徒を評価する形成的評価が従来の授業と比べ て大きく変わる。対面授業において、教師は教室内で生徒と会話を交わしながら、どれぐ らい学習内容を理解しているのか、常に形成的評価を行う。そこで誤解や誤認を発見した ら、軌道修正することも欠かせない。 「すべての授業を反転授業にする必要はありません。反転授業の使いどころを適切に判 断することで、より良い授業スタイルが生み出されるでしょう。反転授業を行うことが最 終的な目的ではなく、教師中心の授業から学習者中心の授業へと移行するための手法であ ることを忘れないで」と語って講演を締め括った。 講演会後のワークショップではサムズ氏が進行役となり、ビデオ動画を作成する際に便 利なアプリケーションを紹介。ワークショップ参加者は、アプリをダウンロードして、ク オリティの高いビデオ教材が簡単に作成できることを体験した。 ■書籍「反転授業‐ 基本を宿題で学んでから、授業で応用力を身につける」 著者がアメリカで取り組んできた「反転授業」の誕生の経緯から、反転授業を薦める理由、 反転授業の実施方法を紹介。さらに次のステップとして反転学習と完全習得学習を組み合 わせた「反転型完全習得授業」についても取り上げている。 ジョナサン・バーグマン、アーロン・サムズ/著、山内祐平、大浦弘樹/監修、上原裕美 子/訳、オデッセイ コミュニケーションズ、1620 円(税込) 月刊情報誌「太陽の子」、隔月本人新聞「青空新聞」、社内誌「つなぐちゃんベクトル」、ネット情報「たまにブログ」も 大阪市天王寺区生玉前町 5-33 社会福祉法人大阪手をつなぐ育成会 社会政策研究所発行
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