タビューで、業績悪化にあえぐ日本企業が経営モデルを欧米に求めている点について、次のように語った。 1 ゼネラル・エレクトリック︵ＧＥ︶前ＣＥＯのジャック・ウェルチは、二〇〇一年一一月六日、日経産業新聞のイン埋め込まれていれば、世代交代が進んでも、人材は払拭せず、活力は失われない﹂成果を出している企業には非常に興味がある。要は永続性のメカニズムが埋め込まれているかどうか、である。それがトヨタ自動車とソニーである。私は五年間急成長する企業には驚かないが、二〇年、三〇年にわたって継続的に優れた事業家がいなくなった後にどのように組織を永続させるかである。この点でお手本になる格好の企業が日本に二社ある。﹁私はＧＭ中興の祖アルフレッド・スローンの﹃ＧＭとともに﹄を座右の書としている。ここで重要なのは、天才的な基調演説をした︵﹃日経ビジネス﹄二〇〇一年一月一日︶。マイクロソフトのビル・ゲイツは、二〇〇〇年一一月一二日に米ラスベガスで開かれたハイテク見本市で次のようないる。〝世界の製造工場〟中国の追い上げにもあっており、二一世紀の世界における日本の位置づけが危ぶまれる。廃業率が逆転して年々日本の企業数は減少している。リストラによる人員整理が恒常化し、失業率の記録更新も続いて日本の経済情勢は、〝失われた一〇年〟の尾を引きずりながら二一世紀に突入し、いまだもって出口が見えない。開１、トヨタ研究のねらい序章総論 price book 縦軸のパフォーマンス︵ＰＢＲ︶とは、企業の資本市場における取引株価を反映した﹃純資産倍率︵動車企業の一九九四年から二〇〇〇年にかけてのファイナンス的なポジショニングの変遷が示されている。図０︱１は、マッキンゼー・アンド・カンパニーが作成した﹃自動車業界の戦略コントロール・マップ﹄である。自るかがわかる。トヨタは一〇年前も一位であり、この結果からして、トヨタがいかに永続性を持った企業基盤・収益基盤を有してい三位武田薬品工業存続余力一八三〇億円存続可能利益四五〇億円二位武富士存続余力一九三一億円存続可能利益二七〇億円一位トヨタ自動車存続余力三七八〇億円存続可能利益二〇七〇億円存続余力のランキングは、次のような結果であった。リスク料＝使用総資本利払い前事業利益率の過去一〇年間の標準偏差 × 総資本︵期首・期末平均︶存続可能利益＝配当金＋役員賞与＋法人税＋支払い利息・割引料＋リスク料存続余力＝実際の利払い前事業利益︱存続可能利益出している。果たした上で、収益の変動リスクにも耐えられる利益を生み出しているかどうかを見る指標であり、次のようにして算日経産業新聞︵二〇〇二年一月一日︶は、企業の存続余力ランキングを発表した。存続余力とは、納税などの義務をて繁栄できる可能性がある。手本が横たわっているのである。そのお手本から学ぶことによって、日本は二一世紀において再び、世界から抜け出しビル・ゲイツやジャック・ウェルチがいうように、われわれの足元には永続成長のメカニズムが埋め込まれたよいおれば︶日本が景気低迷を打開する道が見つかる﹂リコーやキヤノンも米ゼロックスをしのぐような実績をあげてきた。︵国内にある﹃勝ち組﹄の改革の手法を参考にす﹁まずトヨタ自動車などの経営手法に勝者の条件を学ぶべきだ。日本にはトヨタやソニーのような優れた企業がある。 2 序章総論図0-1 自動車業界の戦略コントロール・マップ（1994年∼2000年）パフォーマンス（PBR） 9 ハーレーダビットソン 1994年12月末 2000年12月末イノベーター 8 ポルシェ 7 時価総額︵ 10 億ドル︶ BMW 6 5 4 リーダーホンダ 3 フォルクスワーゲン 150 トヨタフォード 100 2 ルノー 1 日産自動車 50 三菱マツダ自動車ダイムラー・クライスラー GM インテグレーターインカンベント 0 0 10 20 30 10 40 50 規模（株主資本の簿価、10億ドル）出典：「二極化時代の勝者の条件」『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー』2001年3月 3 本ものづくり・人づくり・質革新機構﹄などの活動を通じることはできないことを認識し、﹃中部産業連盟﹄や﹃日る。トヨタ自身も、日本沈没のなかでトヨタだけが生き残広く日本の企業が使えるようにすることが必要になってい模倣されにくいコア・コンピタンスを一般化・普遍化して、によって日本沈没の危機にある現代においては、トヨタのコンピタンス﹄とされてきた。しかし中国の追い上げなどける秘密は、それ自体が模倣されにくいトヨタの﹃コア・トヨタが、どのような環境にあってもしぶとく成長を続に比べて見劣りのする﹃インテグレーター﹄の位置にいる。のの、その成果や戦略的な有効性が問われており、トヨタダイムラー・クライスラーは、規模は明らかに拡大したものタイヤ問題以降はどうなっているかわからない。ＧＭとりつつあったが、二〇〇一年に発生したファイヤストーンいる。フォードもＰＢＲを高めて﹃リーダー﹄の一角に入して業界の﹃インダストリー・リーダー﹄の位置を占めてこの図でわかるように、トヨタは、他社を大きく引き離双曲線として表わすことができる。軸︶の乗数である﹃企業の時価総額﹄は、二軸に挟まれた ratio て、トヨタの経営システムを標準化し、普及しようとして︶﹄である。その結果、純資産︵横軸︶とＰＢＲ︵縦Ａ社は、Ｋ先生指摘の問題の構図から脱却できず、業界生き残り競争にも負けて、人員整理にも手をつけざるをえなくこのようにしてＡ社のＴＱＣ活動はセレモニック的に推移し、そのうちに尻すぼみとなってやめてしまった。その後かわらずである。ゃないか﹂と、事務局員を厳しく叱りつけた。Ｋ先生の語録のなかに﹃Ａ社は視野が狭い﹄という指摘があったにもかところがＡ社のＴＱＣ担当役員は、﹁おまえは何を考えているのか、こんなものを配ったら社内の活性が低下するじに配付した。その語録を連関図風に整理すると、図０︱２のようになる。であり、全社員が謙虚に耳を傾ける必要があると考えて、Ｋ先生の断片的な言葉を﹃Ｋ先生語録﹄としてまとめ、社内のたびに、Ａ社の問題点を手厳しく指摘した。Ａ社のＴＱＣ事務局は、Ｋ先生の指摘は世間水準から見た客観的な批評Ａ社はかつてＴＱＣを導入するために、ＴＱＣの権威であるＫ先生を招き、指導を仰いだことがある。Ｋ先生は指導２、トヨタ成長の構図種・業態にも適用できる。経営の基本機能は企業規模にかかわらず同じであるから、規模の大・小にも関係しない。メカニズムを自社に埋め込むことができる。自動車という製品を各企業のアウトプットに置き換えて考えれば、どの業本書が対象とする企業は、業歴、業種、規模を問わない。経営革新の意欲があればどの世代の経営者でも永続成長のができるのかの要点を抽出・解明し、一般の企業でもトヨタ並になれることを目標として展開する。本書は、外部からトヨタを眺め、外部の状況や外部のレベルとの対比において、なぜトヨタが永続成長を続けることの企業にとっては最初から距離がありすぎてついていくことができないことがある。の企業があることを知らないために、トヨタの発想は〝中の下〟から始まる。だから、トヨタが提案する方法は、一般しかし、組織のなかにいる者がその組織を客観的に評価することは難しいといわれる。トヨタは、世の中に〝下の下〟いる︵終章参照︶。 4 序章総論図0-2 A社の問題の構図なぜ経営が成り立つのか理解できない品質・コストで負け、タイミングが悪い市場導入結果系技術力が上がらない PDCAがまわらない（プラン、プランだけ）経営陣によるリーダーシップがない管理者によるシステム改善がないマネジメント力が弱いマネジメント技術を知らない経営者・管理者不在上から下まで腕のいい職人の集団原因系対立的である組織的な仕事のやり方になっていない（属人的）やることがセレモニック的である機能する組織標準がない傲慢で視野が狭い田舎にある悪さが出ている（閉鎖性） 5 ドキュメントによるコミュニケーションの風土がない語り部の集団である図0-3 企業成長の構図売れて儲かる会社品質・コストで勝ち、タイミングがよい市場導入結果系技術力が上がる PDCAがまわる（結果を見届けて積み上げる）経営陣によるリーダーシップがある管理者によるシステム改善があるマネジメント力が強いマネジメント技術を知っている経営者・管理者が役割・機能を発揮する経営者・管理者が経営のプロである原因系協調的である組織的な仕事のやり方になっているやることが本質的である機能する組織標準がある謙虚で視野が広い田舎にあるよさが出ている（愚直性）ドキュメントによるコミュニケーションの風土がある文書と記録で受け継ぐ集団である 6 序章総論ンフラストラクチャ︶である。本書では、図０︱４に示すように、下部構造をさらに階層化した全体的企業モデルをト 7 力と、世間からの評価である企業のブランド力である。そして、それらを決定しているのは水面下にある下部構造︵イあ体企るのト業。一ヨ経部タ営分生はで産よあ方くり式氷、に山部関に分すたをると取書えり籍ら出・れし文るて献。移は水植数面し多上よいにうが現と、わしそれてれてもをい機うる能ま部不く分全取はをり、起入企これ業すたのの企最で業終あは的る非な。常アだにウか少トらなプ全いッ体とトをいで取わありれる入る製れ。品る部の必分商要は品が全３、企業分析の視点てくると思われる。タの経営の状態を透かしてみることによって、企業が図０︱３に示す企業成長の構図へ転ずるための法則や原理が見えいる︵愚直性︶﹄などに原因を求めたら、どうにもならない。何か、普遍的な経営のフレームワークを視点としてトヨしかし構図の下部にある原因系はどのようなやり方でつくり上げたらよいのかがわからない。﹃田舎にあるよさが出て図０︱３の構図は因果関係を示しているので、﹃売れて儲かる会社﹄になるためのだいたいの枠組みは読み取れる。Ｋ先生が、Ａ社を指導する際に無意識のうちに念頭に置いていた構図であると考えられる。図０︱３をしげしげと眺めると、これはトヨタ成長の構図そのものに見えてくる。トヨタの内部状況にも詳しかった図０︱２の表現を裏返してみよう。それを図０︱３に示す。えてこないからである。表現に満ちた断片的な語録だけでは、自分たちにはどんな問題があって、それを改善するにはどうすればよいのかが見なＡっ社たは。おそらくいまだもって、なぜ自分たちが転落し、負けたのかが理解できないでいるであろう。Ｋ先生の否定的図0-4 企業モデル上部構造結果として決まる製品の質、サービス、およびブランド力商品力・ブランド力製品企画、設計開発、製造、販売などの現業機能生産機能システム品質、原価、財務、情報などの経営管理機能経営機能システム下部構造全社員共有の経営観、仕事観、人間観パラダイム DNAで継承される企業独自の遺伝子遺伝子・DNA り、少しの風が吹いただけであちこちに吹き飛ばされてし下部構造が薄っぺらな企業は発泡スチロールと同じであ部構造までまんべんなく濃い企業にした。的に下部構造を濃くすることから経営を開始し、いまや上トヨタの姿であり、不動の勝ち組みである。トヨタは歴史淡い企業になってしまった。全体的に濃い企業が、現在の部構造を濃くする努力を怠った結果、いまや上部も下部も業であるが、上部構造を濃くすることにのみ力を入れて下前述のＡ社は、かつて技術力を売り物にして成長した企成果を出す企業﹄としての資質を持った企業である。の姿であり、﹃二〇年、三〇年にわたって継続的に優れたに上部構造は淡いが下部構造が濃い企業は、初期のトヨタったがいまは経営破綻している企業は、この例である。逆営破綻している可能性が大きい。かつては時代の寵児であ売れているだけであり、一〇年、二〇年単位で見ると、経る。たまたま時流に乗って、もしくは二番手戦略で製品がル・ゲイツが驚かないといった﹃五年間成長﹄の企業であ示している。上部構造は濃いが下部構造が淡い企業は、ビごとに濃淡が出てくる。その濃淡が企業の成長力の程度を図０︱４の企業モデルで各企業を透かしてみると、構造ヨタの経営システムの分析の視点に据えることにした。 8 序章総論 9 ム改善努力と社員の現場改善努力を引き出す経営機能システムをつくり出すことによって、全社的な品質改善、原価低事、情報、事務などの経営基本機能を司るシステムである。経営陣の意図を全社に迅速・的確に伝え、管理者のシステタを分析する。経営機能システムとは、企業内の全組織に存在する共通機能、すなわち、品質、原価、技術、標準、人第３章﹃トヨタ経営機能システム﹄では、企業モデルの真ん中に位置する﹃経営機能システム﹄という視点からトヨ経営観、仕事観、人間観などを紐解き、パラダイム形成の原理を明らかにする。かうので、保有資源以上の強力な経営ができる。トヨタの成長遺伝子から影響を受けて形成されたトヨタの風土、文化、殺されて外部に向かうことがなく、早晩経営が破綻する。企業パラダイムがあれば、全社員のエネルギーが一方向に向品力・ブランド力を決定する。明確な企業パラダイムがなければ、経営陣をはじめとする全員のエネルギーが社内で相する。企業のパラダイムは先人の遺伝子から影響を受け、経営機能システム → 減、人材開発、情報活用などを可能にする。トヨタでは、経営陣がトヨタ・パラダイムに基づきリーダーシップを発揮生産機能システムを経由して最上位の商第２章﹃トヨタ・パラダイム﹄では、企業モデルの下から二番目に位置する﹃パラダイム﹄に着目してトヨタを分析遺伝子媒体のＤＮＡのつくり方と成長遺伝子をつくることができる人材の発見・育成の仕方の原理を示す。子をつくったのは誰か、遺伝子を伝承するＤＮＡはどのようにしてつくられたのかを歴史的に明らかにするとともに、様に、劣性遺伝子は淘汰され、成長遺伝子のみが企業の遺伝子として世代を超えて蓄積・進化していく。トヨタの遺伝かに優れた遺伝子も次の世代に継承されることがなく、一代限りで消滅する。ＤＮＡさえあれば、生物進化の法則と同着目してトヨタを分析する。ＤＮＡとは、遺伝子そのものではなく、﹃遺伝子の媒体﹄である。ＤＮＡがなければ、い第１章﹃トヨタの遺伝子・ＤＮＡ﹄では、図０︱４に示す企業モデルの最下部に位置する﹃遺伝子﹄と﹃ＤＮＡ﹄に４、各章の概要まう。下部構造がしっかりしている企業は氷山と同じであり、少々の風が吹いてもびくともしない。の原理の確からしさを検証する。眺望し、トヨタは二一世紀においてもまちがいなく成長を続けるであろうという心証を得ることによって、永続的成長終章﹃トヨタの二一世紀経営﹄では、トヨタが二一世紀ではどのような戦略を持って経営をしようとしているのかをヨタの﹃遺伝子・ＤＮＡ﹄から﹃生産機能システム﹄までの下部構造の有効性を確認する。ブランド力を述べる。権威ある第三者によるトヨタの製品やサービス及びブランド力の評価結果をいくつか紹介し、ト第５章﹃トヨタの商品力・ブランド力﹄は、以上の活動の結果として決まるトヨタの製品の質、サービスのレベル、テムを分析し、効果的な生産機能システムの構築の原理を明らかにする。を著わしているので、本書ではこの領域には多く触れず、製品の企画、設計領域に重点を置いてトヨタの生産機能シス糸で各生産機能を統御している関係になる。なお、﹃トヨタ生産システム﹄の研究はたくさんの先達がすばらしい成果し、製造し、販売するといった一連の現業機能をいう。生産機能システムを縦糸とするならば、経営機能システムが横ステム﹄の視点からトヨタを分析する。ここでいう生産とは、経営機能システムが立てた目標にしたがって製品を設計第４章﹃トヨタの生産機能システム﹄では、最上位に位置する商品力・ブランド力を直接的に左右する﹃生産機能シ明らかにする。うに機能するシステムをどのようにつくり上げたのかを解明し、〝機能する〟経営機能システムをつくる上での原理をし、管理者が経営陣の意図に沿うようなシステムを開発し、全社員が現場改善を粛々と行なっている。トヨタはこのよ 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