高濃度海水による濃度差発電用膜モジュールの流動シミュレーション The

高濃度海水による濃度差発電用膜モジュールの流動シミュレーション
701
The flow simulation of the membrane module for concentration difference power
by high concentration sea water.
○学 小柳 勝敬(長崎大) 正 林 秀千人(長崎大) 正 佐々木 壮一(長崎大)
Koyanagi KATSUHIRO, Nagasaki University, 1-14 Bunkyo-machi, Nagasaki
Hidechito HAYASHI, Graduate School of Engineering, Nagasaki University, 1-14 Bunkyo-machi, Nagasaki
Soichi SASAKI, Graduate School of Engineering, Nagasaki University, 1-14 Bunkyo-machi, Nagasaki
Key Words : osmosis, diffusion, power generation, membrane module, flow simulation
1,はじめに
今日、私たちのエネルギー源として核エネルギーや化石燃
料が大部分を占めているが、安全性や環境への影響、化石
燃料枯渇を考えるとクリーンエネルギーの必要性が高まっ
てきている。クリーンエネルギー発電は様々な研究がなさ
れ実用化しているが、数多くの問題も抱えている。例えば、
風力発電は騒音の問題や電力の不安定さが挙げられ、水力
発電は大規模な施設が必要であり、設置可能な場所が限ら
れている、といったことが挙げられる。このような問題を
解決するために濃度差発電が S.Loeb によって起案された。
[1]
海水と真水のように濃度の異なった溶液を半透膜で仕切
ると、溶媒は低濃度溶液側から高濃度溶液側に向かって浸
透を始め、高濃度側の水位が上昇し、低濃度溶液側が低下
する。このとき、溶媒は高濃度溶液側の水圧に逆らって浸
透する抗圧浸透状態にあり、濃度差エネルギーが水圧と浸
透水の積として機械的エネルギーに変換される。濃度差発
電とは、このエネルギーをタービンで軸出力に換え発電す
るものである。
Fig.1 は濃度差発電の全体図である。海水タンクからは海
水ポンプを使って高濃度海水をモジュール内へ供給し、淡
水タンクからは淡水ポンプを使って淡水をモジュール内へ
供給する。モジュール内で淡水は高濃度海水側へ浸透し、
浸透圧が発生する。その浸透圧でタービンを回し発電する。
一方で未浸透海水はそのまま淡水排出され、希釈された海
水は海に戻される。
濃度差発電は自然条件に作用されず、常に一定の発電を
行うことができる。また、基本的に騒音の発生もなく、人
口が密集する大都市にも設置でき、送電ロスも抑えること
ができる。
これまでには、本多教授により新たに提案された海底設
置型とタンク切り替え型の出力特性を検討するため中空糸
膜を用いた 2 分割型浸透装置を試作し、発電模擬実験が行
われた。 [2] 従来の海水加圧型に比べて 4 倍程度増加し、
膜面積当りに比出力は約 0.5W/m2 淡水供給流量当り比出力
は約 0.1kWh/m3 を得ている。庵原昭夫らによって(1)海水流
量内の境界層を考慮した塩分濃度差発電性能を予測する方
法の提示 (2)膜面に沿う海水の流れがあると濃度低下の
影響を軽減することが可能であること (3)真水浸透量の
理論値と実験値の傾向の一致 (4)日本における主要河川
水量における発電所数台分に相当する 等の基礎研究が行
われてきた。[3] また、これらに基づいて 2002 年には海水
淡水化施設の濃縮海水に着眼して、出力 2kW の試験を行い
有効出力 0.5kW を得たが、浸透水量の不足により商業的に
成立する有効出力を実現できなかった。 [4] 浸透水量改善
は、心臓部である正浸透膜モジュールの濃度分極対策と高
分子膜へのファウリング防止に尽きると考えられている。
またこれまでの我々の研究により、中空糸内部を流れる真
水の圧力と中空糸膜の径の間には最適となる値が存在する
ことが分かった。
現在、半透膜モジュール内部の流動の様子は解明されて
おらず、現状では性能の評価が十分にはできない。本研究
ではその様子を数値シミュレーションによって解析した。
2,モジュール内流動解析理論
2.1 浸透流量の測定方法
現状では正浸透用のモジュールは開発されていないため、
モデルは海水淡水化施設で使用されている逆浸透用モジュ
ールを対象とした。Fig.2 はモジュール全体図である。高濃
度海水は中心の管から流入し、モジュール内の中空糸エレ
メント全体に広がる。淡水は直径百数十マイクロメートル
の中空糸が編みこまれたエレメントから浸透し、高濃度海
水は希釈され排出される。
Outlet
Fig.1
Center pipe
Osmotic power system
Hollow fiber
Fig.2
Simulation model of module
Inlet
Fig.3
Section of hollow fiber
エレメントにおける浸透現象で生じる浸透圧はファン
ト・ホッフの式に従う。
π = MRT・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
ここで、π:浸透圧[Pa] M:モル濃度[kmol/m3] R:気体定数
[kg・m2 /s2・kmol・K] T:温度 [K] である。
浸透流量 Jw[kg/s]は次の式に従う。
Jw = A(ΔP − Δπ)・a ・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
ここで、A:水透過係数[m/s・MPa] ΔP:塩水と真水の差圧
[MPa] Δπ:塩水と真水間の浸透圧[MPa] a:膜面積[m2] で
ある。
2.2 海水側流れの基礎方程式
モジュール内の海水の流れ、淡水の流れは、連続の式、
N-S 方程式、拡散方程式で表される。
∂ρ
∂t
+
∂ρUi
∂t
∂(ρΦ)
∂t
∂
∂x j
+
∂
�ρUj �=0・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
∂xj
�ρUi Uj � = −
∂p
∂xi
+
+ ∇(ρUΦ) = ∇ �(ρDϕ +
∂p
∂xj
µt
Sct
�τ ij − ρui uj � + SM ・・・(4)
)∇Φ � + SΦ ・・・・・・・(5)
ここで、ρ:密度[kg/m3] Ui,j:速度ベクトル[m/s] P:圧力[Pa]
τ:分子応力テンソル[kg/m・s2 ] ρ uiuj :レイノルズ応力
SM:運動量ソース[kg/m2・s2] φ:単位体積あたりの保存量
[kg/m3] Φ=φ/ρ:単位質量あたりの保存量(濃度)[ ] SΦ:単
位体積および単位時間あたりの保存料を単位とする体積ソ
ース項 Dφ:スカラー拡散係数 Sct:乱流シュミット数 0.9
μt:乱流粘度[kg/m・s] である。
(4)式の SM 項には中空糸膜を海水が透過するときの損失
を表す(6)式を代入する。
SM,i = −
μ
Κperm
ρ
Ui − Κ loss |U|Ui ・・・・・・・・・・・・(6)
2
ここで、μ:粘性係数[kg/m・s] Κ perm:透過係数[m2] Κ loss:
損失係数[1/m] Ui:各方向速度成分[m/s] |U|:速度の大きさ
[m/s] である。
3,解析条件設定
解析は ANSYS-CFX を使って行う。計算領域の Mesh は
非構造格子で 32 万点、要素数は 152 万要素であった。
入口での流量は 0.325[kg/s]で 20℃、塩分濃度は 7%で
ある。出口は静圧 3[MPa]としている。エレメントは抵抗損
失を設定した。
抵抗損失における透過係数、損失係数はそれぞれΚ
2
Κ loss=1[1/m] としている。このシミュ
perm=0.0000001[m ]
レーションでは流速が遅いため(6)式後部の慣性損失項よ
りも前部の粘性損失による損失が大きいと考えたためであ
る。
4,シミュレーション結果
Fig.4 にモジュール内部速度ベクトル図、Fig.5 に塩濃度
図を示す。全体を見てみると、流入した高濃度海水がセン
ターパイプ奥へ到達する前にエレメント部分へ拡散かつ浸
透した淡水により希釈され出口方向へ向かって流れている。
エレメント部分では流速が 0.004[m/s]と大変遅く流れがあ
まり見られないが、出口流速は 3.7[m/s]となり出口近傍で
加速しているのがわかる。エレメントでの塩分濃度を見て
みると、海水入口側では塩分濃度が 4%と大変下がってお
り、浸透流量が多いことがわかる。出口側では出口に近付
くにつれて、塩分濃度が 7%から徐々に下がっていき、最
終的な塩分濃度は 6%程度となる。これより、淡水の浸透
はモジュール各部分でムラがあることが分かる。エレメン
ト全体の浸透流量は 0.4[kg/s]で浸透圧は 3.5[MPa]~6[MPa]
だった。出口流量(塩水+真水)に対する湧き出し流量の割
合は 0.12 であり、湧き出し流量は全体の流量に比べて小さ
いように思われる。
Fig.4
Fig.5
The vector diagram in a module
The vector diagram in a module
4,おわりに
ANSYS-CFX を使っての塩分濃度差発電用膜モジュールの
流動シミュレーションを通して、以下の結果が得られた。
(1) 塩分濃度差発電用膜モジュール内の流動様子を提示
した。
(2) モジュール内エレメント部分では流体の速度が非常
に遅い。
(3) エレメント部分では浸透流量が場所により大きく異
なる。
(4) エレメントでの浸透流量はモジュール全体の流量の 1
割程度である。
参考文献
[1]S.Loeb,“Pressure-Retuded Osmosis Revisited:The prospects
for Osmotic Power at the Dead sea.proceeding of
Euromembrane ‘ 95 ’ Vol.2 ” ,University of Bath,September
(1995),pp.Ⅱ-3-Ⅱ-11.
[2]本多武夫、著“新しい濃度差発電システムの実験的検討”
日本海水学会誌 第 44 巻 第 6 号(1990)P65-73
[3]塩野章彦、安ヶ平和一、庵原昭夫、著“海水と真水との
間の浸透圧を利用した水力発電の基礎的研究”第 20 回エネ
ル ギ ー シス テム 経 済 ・環 境コ ン フ ァレ ンス 講 演論 文集
(2004) P501-504
[4]独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、著
“濃度差発電の阻害要因である高分子膜性能と濃度分極に
関する技術的可能性の調査 成果報告書” 平成 19 年度研
究技術シーズ育成調査委託業務 成果報告書 (2007)
702 非設計点におけるプロペラファンの空力騒音に関する研究
A Study of Aerodynamic Noise in the Off-design Point of a Propeller Fan
○学
藤川基(長崎大)
,学
山口遼(長崎大)
,正
佐々木壮一(長崎大)
,正
林秀千人(長崎大)
Motoki FUJIKAWA, Nagasaki University, 1-14 Bunkyo-machi, Nagasaki
Soichi SASAKI, Graduate School of Engineering, Nagasaki University, 1-14 Bunkyo-machi, Nagasaki
Ryo YAMAGUCHI, Nagasaki University, 1-14 Bunkyo-machi, Nagasaki
Hidechito HAYASHI, Graduate School of Engineering, Nagasaki University, 1-14 Bunkyo-machi, Nagasaki
Key words: Turbomachinery, Aerodynamic Noise, Flow Measurements, Wake
1,はじめに
建設機械などに搭載されるディーゼルエンジンには,
NOx や PM などの大気汚染物質の排出規制が適用されてい
る.エンジン冷却用のプロペラファンには,この規制によ
って生じる熱排気効率の悪化を改善するために更なる風量
の増加が求められている (1).しかし,冷却ファンの風量の
増加はそれに伴うファン騒音の増大につながる.このため、
エンジン冷却ファンにはその空力特性と騒音を加味した総
合的な性能向上が求められている.深野ら (2)は,低圧軸流
送風機から発生する乱流騒音に関する実験において,送風
機に流入する流れの乱れが小さい場合の乱流騒音が主とし
て羽根車の後流に起因することを提唱している.同研究で
は乱流騒音の音響エネルギが後流特性に基づいて予測でき
ることが示されている.Tokushige ら (3)は,羽根車の離散周
波数騒音と後流との関係を解析し,弦節比の大きな羽根車
のファンの静圧が最高効率点近傍で上昇すること,その流
量近傍のファン騒音の支配的因子が離散周波数騒音である
ことなどを明らかにしている.しかし,エンジン冷却用フ
ァンでは,ラジエーターやエンジンなどの抵抗が羽根車の
前後に配置されるために,そのファンは必ずしも最高効率
点近傍で運転されないことがある.そこで本研究では,深
野らの理論に立脚し,非設計点におけるプロペラファンの
空力騒音を羽根車の後流特性に基づいて解析した.
2,実験装置および解析方法
図 1 は供試羽根車の外観写真を示したものである.羽根
車の直径は 613mm,ハブ径は 260mmである.三種類の羽
根車の設計寸法は羽根枚数を除いて同じである.以下の説
明では,羽根枚数 7 枚,14 枚および 21 枚の羽根車による
ファンが,それぞれ P7,P14,P21 と表記されている.図 2
にはプロペラファンの性能試験装置と騒音の測定方法が示
されている.装置の全長はおよそ 4m,矩形ダクトの断面
は 1m×1m の正方形である.ファンの流量は送風機出口側
のダンパによって調整される.羽根車の取り付け基準位置
から 600mm 上流側の動圧がピトー管によって測定され,
送風機の流量はその動圧によって決定される.なお,流量
測定位置における速度分布を測定した結果,排除効果によ
る流量係数は 0.842 であった.ファンの静圧の測定位置は
送風機出口から 400mm 前方の位置である.軸動力が送風
機の主軸に直接取り付けられたトルク計により算出され,
理論動力との関係から効率を求めることができる.ファン
の内部流動は熱線流速計により測定される.ファン騒音は
羽根車から 1m 上流側にある精密騒音計に取り付けられた
マイクロフォンによって測定される.精密騒音計から出力
された信号は FFT アナライザへと入力され,その音圧レベ
ルはフーリエ変換によって周波数分析される.深野らは (2),
(社)日本機械学会 九州学生会
第 42 回卒業研究発表講演会(No.118-2)論文集 2011/3/11
軸流送風機から発生する空力騒音の音響エネルギを式(1)
として与えている.
ΔE
=
Bπρ0
∫ Z DW 6 dz
1200α 03
(1)
ここで,D は後流の幅,W は相対速度である.
3,実験結果および考察
図 3 には,三種類のプロペラファンの空力特性が比較さ
れている.プロペラファンの効率はいずれもφ=0.3 近傍で
最大となった.最高効率点近傍では P21 の静圧が最も高く
なるが,同作動点での P21 と P14 の効率には大きな違いが
見られなかった.ここでは文献(1)を参考にして,エンジン
(a) P7
(b) P14
Fig. 1 Test impeller
Torque
Strut Meter
(c) P21
Motor
Impeller
Damper
(a) Experimental apparatus
1000
(b) Measurement method of fan noise
Fig.2 Experimental apparatus and measurement method
0.6
Lp , dB
0.5
100
P7 ( B=7 )
P14 ( B=14 )
P21 ( B=21 )
N = 1200 rpm
ψs
0.4
P7 (B =7)
P14 (B=14)
P21 (B=21)
Predicted Noise Level
80
60
0.3
BPF ( n=1 )
f = 420 Hz
N =1200rpm
40off-design point (φ=0.2)
0.2
101
0.1
φ=0.2
0
0
0.1
102
φ=0.3
0.2
φ
103
104
f ,Hz
0.3
0.4
0.5
Fig.5 Spectral distribution of sound pressure level
Table 1 Summary on fan noise of P21
Fig.3 Aerodynamic characteristics
Measurement
Lp , dB
Prediction
Lp , dB
Error
| ⊿Lp | , dB
Off-design Point
89.8
89.3
0.5
η max Point
76.9
90.6
13.7
P21
100
P7
P14
P21
90
0.2
0.3
0.4
0.5
φ
Fig.4 Noise characteristics
冷却ファンの作動点をφ=0.2 に設定する.以下の説明では,
この作動点(φ=0.2)を非設計点と呼ぶことにする.
図 4 は流量係数と音圧レベルの関係を示したものである.
最高効率点では P7 の音圧レベルが最も大きく,P14,P21
の順に小さくなる.一方,非設計点では,P21 の音圧レベ
ルが最も大きくなった.図 5 は非設計点における音圧レベ
ルのスペクトル分布が示されている.図中の凡例(○印)
は式(1)によって予測された非設計点における音圧レベル
のスペクトルである.P21 の実測値の音圧スペクトルには,
翼通過周波数(420Hz)とは異なる周波数帯域で乱流騒音
が発生している.P21 の予測値の空力音のスペクトルは実
測値の乱流騒音を表すことができた.表 1 は P21 の実測値
の騒音レベルと式(1)の予測値を整理したものである.尚,
実測値の音圧レベルからは高調波で発生する離散周波数騒
音が差し引かれている.非設計点の P21 の予測値の騒音レ
ベルは実測値と一致する.従って,P21 の非設計点では羽
根車の後流に渦が放出され,これが空力騒音を上昇させる
原因となることがわかる. 図 6 は P21 の音圧と後流特性
のスパン方向の分布を整理したものである.(a)が音圧の分
布であり,(b)と(c)がそれぞれ後流の幅と相対速度の分布で
ある.音圧レベルは翼端近傍(r / R=0.87~1.00)で最大と
なり,この位置の音圧レベルが実測値と一致する(図 5 参
照).従って,後流渦音の音源は翼端近傍に存在すると考え
られる.一方,最高効率点と非設計点の相対速度と後流の
幅には大きな違いが生じなかった.また,最高効率点にお
ける予測値の騒音レベルは実測値を表すことができなかっ
た.最高効率点から発生する空力騒音の支配的因子は離散
周波数騒音であり(図省略),同作動点でのファン騒音は離
散周波数騒音と流れとの関係を慎重に解析する必要がある.
Lp , dB
80
0.1
φ=0.3
D ,mm
φ=0.2
W , m/s
Lp , dB
N =1200rpm
100P21
90 N = 1200 rpm
80
70 hub
60
80
60
40hub
20
0
50
40
φ=0.2
φ=0.3
(a) sound pressure
level
tip
φ=0.2
φ=0.3
(b) width of wake
tip
φ=0.2
φ=0.3
(c) relative
velocity
30 hub
20
0.2
tip
0.4
0.6
0.8
r/R
1
1.2
Fig. 6 Span-wise distribution of the noise and wake
characteristics of P21
4,おわりに
三種類のプロペラファンの空力騒音をその後流特性に基
づいて解析した.羽根枚数 21 枚のプロペラファン(P21)
の作動点が最高効率点から非設計点へ変化すると,そのフ
ァンの音圧レベルは約 7dB 上昇した.後流特性に基づいて
ファン騒音を予測した結果,非設計点で運転される P21 か
らは後流渦の放出に伴う空力騒音が発生することが明らか
になった.さらに,非設計点における空力騒音の音源は翼
先端近傍に形成されることがわかった.
参考文献
(1) 坪田,コマツ技報 , 53 (159), pp. 2-9, 2007.
(2) Fukano, T., et al., J. of Sound and Vib., 50(1), pp. 63-74,
1977
(3) Tokushige, T., et al, Proc. of Interr noise 2011, CD-ROM,
2011
801
制御領域の拡大を目的とした能動音響制御
Active Noise Control for Expanding Quiet Zone
○学 谷口 敏郎(九州大) 正 木庭 洋介(九州大)
正 石川 諭(九州大) 正 雉本 信哉(九州大)
Toshiro TANIGUCHI, Kyushu University, moto-oka 744, nishi-ku, Fukuoka
Yosuke KOBA, Kyushu University,
Satoshi ISHIKAWA, Kyushu University and Shinya KIJIMOTO, Kyushu University
Key Words : Active Noise Control, Multi Channel ANC, Glocal Control, Quiet Point, Noise Passing Point
1. 緒論
私たちの身の回りには,交通騒音や工場騒音などの様々
な騒音が存在しており,問題となることが多い.これら騒
音を小さくすることで,私たちの生活はより快適になると
考えられる.本研究では,このような騒音に対して,能動
音響制御(Active Noise Control, ANC)を行うことを考える.
Filtered-x LMS アルゴリズムなどの従来法では,制御領域
が誤差マイクロホンの近傍に限定されるという問題点があ
った.
本論文では,人間の動きに対応できるよう消音領域の拡
大について考える.そのために,複数の 2 次音源と誤差マ
イクを用いるマルチチャンネル ANC の考え方を採り入れ,
さらにマルチチャンネル ANC のひとつであるグローカルコ
ントロール (1)にも着目する.これらの方法を用いて,誤差
マイクの配置という観点から研究を行う.
この制御方法は,誤差マイクを置いた地点全てで一次音源
の音を打ち消す制御である.
グローカルコントロールは通常のマルチチャンネル ANC
と異なり,2 種類のマイクを用いる.1つは,一次音源の
音を低減させるための誤差マイクである.もう1つは,複
数の二次音源からの音を互いに打ち消しあうことで,一次
音源の音をそのまま透過させる誤差マイクである.前者は
静粛点,後者は透過点と名付ける.透過点の特徴としては,
その位置での制御音の和を打ち消す効果がある.したがっ
て, i 番目の誤差信号 ei (n) は,静粛点のとき式(3),透過
点のとき式(4)で表現できる.
M
ei (n)  Wi x(n)   Gi , p y p (n)
(3)
p 1
M
ei (n)   Gi , p y p (n)
(4)
p 1
2. マルチチャンネル ANC とグローカルコントロール
マルチチャンネル ANC とは,複数の二次音源と複数の誤
差マイクを用いて制御する ANC である.マルチチャンネル
ANC のブロック線図を図 1 に示す.このとき,参照信号を
x(n) ,一次経路特性群を W ,事前測定した二次経路特性
ˆ , 誤差信号群を e(n ) ,適応フィルタ群を C(n) と
群を G
している.マルチチャンネル ANC の制御器内部での更新式
は次のようになる.
ˆ )T x(n)
(1)
C(n  1)  C(n)   (e(n)T G
ただし,  はステップサイズパラメータである.また,誤
差信号群 e (n ) は,所望信号群 d (n) と制御信号群 y (n) を
用いて次式のようになる.
ˆ T y(n)
(2)
e(n)  d(n)  G
ここで, L は二次音源の数である.
3. 誤差マイクの配置条件
ANC で制御する時,一次音源の音と制御音は同振幅,逆
位相の関係にならなければならない.
図 2 のように一次音源 1 つ,二次音源を 2 つ用意し,原
点に静粛点 Qo を置く.一次音源の音には周波数 f の純音
を用いる.2 つの二次音源が静粛点 Qo を制御しているとき,
同様に一次音源の音と二次音源の音が逆位相になっている
点 Q1 を 0.4[m]四方内に考える.点 Q1 で,一次音源の音と
p 番目  p  1,2  の二次音源との位相差 p は,原点の位相
を基準として幾何学的に次式のように書ける.
 p  2 ( x1  X p   y1  Y p   X p  Y p )
2
2
2
2
 2( x1 )  
Fig.1 Block diagram of Multi Channel ANC
Fig.2 Experimental arrangement in anechoic chamber
(5)




ただし, X p , Yp は,p 番目 p  1,2 の 2 次音源の座標,
音速を c ,  (  c / f ) を波長としている.この位相差 p
について整数 n を用いて,静粛点 Qo と点 Q1 が同じ状態と
なる時,次式の関係が成り立つ.
(6)
 p    2n
したがって,式(6)を満たす位置か満たさない位置かで制御
に違いがみられるのではないかと考えた.
4. シミュレーション比較
図 2 と同じ配置で,式(6)の位相差を満たすような点 Q1
の軌跡を考えた.図 3 は,一次音源と各制御音源との間に
おける点 Q1 の軌跡について,式(6)の整数 n を変化させて
プロットしたものである.プロット範囲は図 2 の制御領域
である.プロットの際,1 次音源の音は 3400[Hz]純音を平
面波とし,音速は 340[m/s]と仮定した.この図における 2
曲線の交点は,二次音源 1,2 と一次音源の音が同時に静粛
点 Qo と同じ条件になっている点である.
図 3 から,ほぼ交点の位置である点 R  0.14,0.06 ,
交点から離れた点 S  0.14,0.12 について,次の 4 つの
制御条件で制御効果を比較した.
条件 A:点 R を静粛点として制御
条件 B:点 R を透過点として制御
条件 C:点 S を静粛点として制御
条件 D:点 S を透過点として制御
制御効果の比較には次式のような推定誤差 EE を用いる.
(7)
EE  20 log 10 (e(n) / d (n)) [dB]
推定誤差は所望信号 d (n) と誤差信号 e(n ) の比を用いる.
これは,値が小さいほど制御効果が高いといえる指標であ
る.推定誤差は,制御領域内で 2cm 間隔にとった 441 点で
計算した.そのうち-6[dB]以下の点を消音成功点,4[dB]
以上の点を劣化点とした.
シミュレーション条件は表 1 に示す.シミュレーション
結果を,図 4 に示す.また,表 2 はシミュレーション後の
推定誤差の比較と,制御時間中で最後の 0.1 秒間における
制御音の振幅を 2 乗平均で示した.条件 A,C を比較すると,
やはり初めに置いた静粛点 Qo と同じ位相状態の位置に静
粛点を置く方が,制御効果をうまく出せることが分かる.
条件 B,D を比較すると,消音成功点数は条件 D の方が良い
ことが分かる.条件 B は,初めの静粛点と同じ位相状態で
あるはずの位置に透過点を置いてしまったため,矛盾が生
まれたからではないかと言える.条件 A,B を比較すると,
透過点を入れる方が極端に制御効果の劣化する点を生み出
さずに済むことが分かる.したがって,初めの静粛点に対
して同じ位相状態の位置には静粛点を,違う位相状態の位
置には透過点を置くとよいことが分かる.前者は局所制御
に向いており,後者は広域制御に向いていると言える.



Fig.3 Phase differences between primary source
and each secondary source

5.結論
グローカルコントロールを導入したマルチチャンネル
ANC について,シミュレーションによって誤差マイクの位
置の違いによる消音領域の違いを確認した.局所的に制御を
行いたい場合は,初めの静粛点と同じ状態となる点に静粛点
を置くと制御効果は高くなる.しかしながら,制御領域全体
の制御を考える場合には,初めの静粛点と異なる位相状態の
位置に透過点を配置するとよいことが分かった.
Fig.4 Control effect
Table 1 Conditions of multi channel ANC
Sampling frequency [kHz]
10
Adaptive filter length [-]
256
Step-size parameter
0.000005
Input signal
Simple tone (3400[Hz])
Experimental time[s]
2
Condition
A
B
C
D
Condition
A
B
C
D
Table 2 Comparison of control effect 1
Noise reduction point
Degradation point
60/441
173/441
36/441
44/441
0/441
0/441
43/441
59/441
Amplitude 1
Amplitude 2
The sum
0.270
0.111
0.381
0.146
0.077
0.223
0.034
0.049
0.083
0.154
0.082
0.236
文 献
1)
盛 奈緒,尾本 章,アクティブコントロールの応用に関する
研究
–制御点の移動を考慮したグローカルコントロールの
実現に向けて-,信学技報 IEICE Technical Report,
EA2008-108(2008-12),pp.43-47
802
根軌跡を用いた船舶の制御系設計
Ship Control System Design Using the Root-locus Technique
○学 村上 卓也(鹿児島高専) 正 岩本 才次(鹿児島高専)
Takuya MURAKAMI, Kagoshima National College of Technology, shinko 1460-1, hayato-cho, kirishima-shi,
Kagoshima
Seiji IWAMOTO, Kagoshima National College of Technology
Key Words: Root-locus Technique, Control System, Ship, Design
1. 緒言
船舶の自動操縦制御において,衝突回避の観点から,目標
値に対してオーバーシュートがないこと,更に応答速度を
なるべく速くすることは重要な検討課題である.
本研究では,船舶の非線形操縦運動方程式から線形方程
式を導き,根軌跡を用いて上述の制御仕様を満足する最良
のゲインを設計することを目的とする.
その結果,舵で回頭角を制御する 1 入力 1 出力系に関して
制御仕様を満足するゲイン決定法についていくつかの知見
を得たので報告する.
Fig. 1 Coordinate systems
2. 操縦運動方程式
船舶の非線形操縦運動方程式と回頭角 ψ は Fig. 1 の座標
系を用いて,次式のように定式化される.



  m  my  r  sin   X 


 L  U

  m  my     sin    cos  

 U  U


  m  mx  r  cos   Y  

2

L U
U 
 I ZZ  iZZ     r   r    N 

L 
U   L


U
  r

L


L  U
  cos    sin  
U
U
 

 m  mx  
3. 制御仕様と極配置
制御システムに関して次のような制御仕様を定めた.
1) 目標値に対してオーバーシュートしないこと
2) 応答速度をなるべく速くすること
ただし,m,Izz は船の質量および z 軸回りの慣性モーメント,
mx,my,izz は船の x 軸方向,y 軸方向の付加質量および z 軸回
りの付加慣性モーメント,L,U は船長と船速,r,β は回頭角
速度と横流れ角,X,Y,N は船体に働く外力の x,y 軸方向成
分および z 軸回りのモーメントであり,MMG モデルの考え
に従っている.“・”は時間に関する変数の 1 回微分を,添
え字の“´”は無次元数を表す.
また,ある船速 U0 での船舶運動の微小変位を仮定し,(1)
式を線形化すれば次式になる.ただし, r  = r L / U0 である.
  a11  a12 r   b11 

r   a21r   a22   b21 
  a31r 
 0 
Fig. 2 Skeleton-diagram of root loci
(1)
(2)
考慮するシステムでは零点がすべて負の実部を持ち複素
数の零点を持たないため,1)を満足するための制御システ
ムの特性根(極)が満たすべき条件は,
[1] 実零点 zi に対して,極 λi をそれより大きい負の値に
配置すること
[2] 残りの極は任意の実の負に値に配置すること
である 1).なお 2)も同時に満足するには,[1],[2]を満足しか
つ代表根の実数部の値をできるだけ小さくしなければなら
ない.以上の条件を満足するゲイン K は,Fig. 2 に示すよう
な根軌跡を有するシステムでは,実軸上の分離点 A におけ
るゲインである.分離点の位置は特性方程式を K=f(s)の形
で表せば(3)式の根として求めることができる.
dK
0
ds
(3)
4. フィードバック制御システム
KD:larger
0.15
K =5
KP
s
δ
+
+
KD
ψ
P
Ship
Imaginary
ψd +
-
Fig. 3 Block diagram of ship maneuvering motion control
system
 s
 a31  b21s  a11b21  a22b11 
 3
 ( s ) s   a11  a21  s 2   a11a21  a12a22  s
-0.15
ψ(deg)
<1>のシステムの伝達関数は次式で与えられる.
K PG  s 
1  K PG  s 
(5)
( K P  K D s )G  s 
( K P  K D s )G  s 
1  K PG  s 
G2  s  

sG  s 
1  K PG  s   K D sG  s 
1 KD
1  K PG  s 
(6)
となり,KD をフィードバックゲインとした場合の一巡伝達
関数は KDsG(s)/(1+KPG(s))と考えることができる.この場合
KP→∞
Imaginary
0.05
KP=0
-
-0.05
zero
point
of system
-
Fig. 6 Transient response of P and PD action
KP,KD は同時に設定することはできないため,一例として
KP を 5 および 10 に設定し,KD の値を 0 から∞まで変化させ
たときの根軌跡を Fig. 5 に示す.
KP=5 および KP=10 の場合では根軌跡のパターンが異な
り,KP=5 の場合は分離点が 1 個,KP=10 の場合は 3 個生じる.
これらのパターンの移行は KP=7.52 近傍で生じる.
いずれの場合も制御仕様を満足する微分ゲイン KD は,シ
ステムの零点より大きい分離点での値となる.また,この値
は船速に比例する定数 KD=C/U0 として表される.ただし,C
は定数である.
P 制御と PD 制御の場合について設計されたゲインによ
る回頭角の過渡応答の比較を Fig. 6 に示す.計算条件は船
速 12kt,目 標 回 頭 角 10deg の ス テ ッ プ 入 力 と し た .た だ
し,PD 制御の場合は P 点と Q 点で求められるゲインを用い
た 2 通りの場合を示している.P 点のゲインを用いた場合は,
応答速度は速くなるが,3.の条件[1]を満足しないためオー
バーシュートが生じている.
KP:larger
6.
KP=0-
KP=0
-
KP:larger
0
-0.05
Real
Fig. 4 Root loci of P control (U0=12kt, KD=0)
結言
本研究の結果,安定な1入力1出力系において制御仕様
を満足するフィードバックゲインを根軌跡を用いて一意に
かつ理論的に決定できることが分かった.
文 献
KP→∞
-0.1
1):(KP=0.1175)
2):QI(KP=10,KD=334)
2):PB(KP=10,KD=96.6)
0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000
t(sec)
この場合の一巡伝達関数は KPG(s)であり,その場合の根
軌跡を Fig. 4 に示す.制御仕様を満足する比例ゲイン KP は
分離点での値となる.また,この値は船速に関係しない値で
ある.
次に<2>のシステムの伝達関数は,
0
Q
zero point
- system
of
-0.1
11
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
(4)
P 制御(比例ゲイン KP のみ)
PD 制御(比例ゲイン KP と微分ゲイン KD)
KP:larger
to zero -point
of system
-0.05
0
Real
Fig. 5 Root loci of PD control (U0=12kt, KP=5,10)
3.に示した制御仕様を満足するゲイン設計について,次
の場合について検討をする.
G1  s  
0
KP=10
-P
-
-0.15
5. ゲインの設計とシミュレーション
<1>
<2>
KP=5
-
KD:larger
Fig. 3 に示す舵で回頭角を制御するフィードバックシス
テムを考える.制御対象船(Ship)は船長 175m の SR108 コン
テナ船である.ψd は目標回頭角,KP は比例ゲイン,KD は微分
ゲイン,s は微分要素を示す.舵角から回頭角までの伝達関
数は(2)式から次式のように求められる.
G s 
KP=10
1)
小川原陽一,小山清文,宮崎 進,岩本才次,船舶の操縦
運動制御システムの新しい設計方法の試み,西部造船
会会報 第 94 号,(1997)平成 9 年 8 月,pp.101-109
804
能動的遮音壁による騒音低減
Noise Reduction Using Active Noise Shielding
○学 伊藤 冬馬(九州大) 正 木庭 洋介(九州大)
正 石川 諭(九州大) 正 雉本 信哉(九州大)
Touma ITOU, Kyushu University, moto-oka 744, nishi-ku, Fukuoka
Yosuke KOBA, Kyushu University
Satoshi ISHIKAWA, Kyushu University
Shinya KIJIMOTO, Kyushu University
Key Words : Adaptive Noise Control (ANC), Least Mean Square (LMS) Algorithm, Virtual Microphone System (VMS)
1. 緒言
騒音を低減する手法の 1 つとして,著者らは受動的音響制
御と能動的音響制御を組み合わせた制御手法(以下,能動的
遮音壁)を提案しており,有効性を確認している.能動的遮
音壁に,Elliott らが提案した評価点にマイクを置かない制
御手法である仮想マイク法 (1)を応用させることで,コンパ
クトかつ高い制御効果を有するシステムを実現できる.
このシステムにおける仮想マイク法のブロック線図を図
1 に示す.図中,W は騒音源から制御点までの音響特性 (一
次経路特性) ,Wref は騒音源から参照マイクまでの音響特性,
G は制御音源から制御点までの音響特性 (二次経路特性) ,
C は制御用適応フィルタ, は事前に同定する二次経路特性
の推定値,D は事前に同定する参照マイクから制御点までの
音響特性の推定値を表す.このシステムにおいて事前同定が
必要な音響特性は と D の 2 つである.このうち は制御音
源と制御点の位置が変化しなければ一定なので,オフィスな
どで用いる際,模様替えを行わない限り変わらないと考えら
れる.一方,D は騒音源の位置によるため,頻繁に変わるこ
とを考慮する必要がある.しかし D が変化する度にその同定
を行うのはとても面倒であり,実用化においては大きな課題
の 1 つと言える.
本論文では,能動的遮音壁に仮想マイク法を適用させるこ
とを考える.その際,騒音源が移動した場合でもその配置に
おける音響特性を推定できるようにすることで,実用化に障
害となる音響特性の事前同定の手間を省く手法を提案する.
また,提案法の有効性をシミュレーションおよび実験で確
認する.
性の推定に有利なシステムだと言える.
図 2 のハイブリッドシステムをもとに,各音響特性を測
定したときの配置を図 3 に示す.図からもわかるように,
研究を進める上で初めから任意の騒音に対して制御を行う
のは困難なので,いくつか条件を設定した.1 つ目に,反
射を防ぐために遮音壁のない状態を考えること.2 つ目に,
騒音はマイク 2(FF 制御の参照マイクとする)を中心とす
る円弧上を移動すると考えることである.この条件の下,
θが 0 度のときの D を測定するだけで,θが 0~45 度のと
きの D を予測し制御できるようになることを目標とする.
Fig.2 Hybrid system
Fig.3 Configuration for simulation
Fig.1 Block diagram of VMS
2. ハイブリッドシステム
仮想マイク法を適用させるシステムとして,王らが提案
しているハイブリッドシステム (2)を考える.ハイブリッド
システムの略図を図 2 に示す.このシステムは,フィード
バック制御とフィードフォワード制御を組み合わせたユニ
ットを用いており,高い制御効果が確認できている.また,
制御範囲を広げる目的でフィードバックシステムのユニッ
トを 3 つ用いているため,誤差マイクも 3 つあり,音響特
3. 時間遅れの幾何学的調整法
無響室で図 3 の配置で音響特性 D を測定すると,θが増
加するに従い騒音が出てからマイク 2 に到達するまでの時
間遅れが短くなっていた.これは,θの増加に伴い W の長
さが短くなることで,D の時間遅れ(W - Wref)も短くなっ
たためである.そこで,0 度のとき測定した D の時間遅れ
と,任意の騒音配置(0~45 度)における D の時間遅れと
の差を算出し,その時間遅れの差分を用いて D を調整する
ことを考える.
時間遅れ算出の手順を図 4 に示し,以下に述べる.
マイク 1 と 3 の時間遅れの差 T1 から,相互相関関数
を用いてθを算出する.
2.
マイク 2 と 3 の時間遅れの差 T2 と,1 で求めたθか
ら,騒音源からマイク 2 までの距離 a を求める.
3.
a を用いて幾何学的関係から,D の時間遅れの差 T を
求める.
この算出過程の手順 1 において,相互相関関数でθを求
める際に音を二次元波と仮定しているため,角度が大きく
なるほどθが実際より小さな値となり,最終的に求められ
る T にも若干の誤差がある.
1.
るものの制御効果が得られることが確認できた.角度が増加
するのに従い制御効果が悪化しているのは,無響室内に置か
れていた様々な実験機具の影響で,多少の反射があり,音響
特性 D の推定が騒音の伝達時間差だけを考慮するのでは不
十分だったためだと考えられる.
Table.1 Calculation of samples
Angle
Difference<Target>
Difference<Simulation>
Difference<Experiment>
0
-
-
-
5
0
0
0
10
0
0
0
15
1
1
1
20
1
2
2
25
2
2
2
30
4
3
3
35
5
5
4
40
6
6
6
45
8
8
7
5
30 degrees
45 degrees
15 degrees
00 degrees
0
4.シミュレーションと実験
3 章で説明した方法により算出した時間遅れを用いて,0
度のときの D を時間領域でずらし,5 度から 5 度刻みずつ
45 度までの D を作り,作った D を用いて 0~45 度の騒音に
対する制御シミュレーションを行なった.なお,時間領域
で調節する際にサンプリング周期毎にしかずらすことがで
きないため,算出した時間遅れの差を,調節可能な最も近
い時間差に丸めて調節している.シミュレーションでは,
θは算出値ではなく実際の配置角度を用いているため,理
論的には正確な時間遅れが算出されている.その後,実験
において制御効果を確認した.実験配置はシミュレーショ
ンと同様で図 3 に示された通りである.実験ではθも相互
相関関数 (3)で算出している.
シミュレーションと実験の条件は基本的に同じで,制御
システムのサンプリング周波数を 20kHz,制御用フィルタ
の長さを 512,予測フィルタの長さを 512 とした.適応ア
ルゴリズムは LMS を採用し,騒音源は 4kHz までの白色騒音
を用いている.無響室の室温だけ異なり,シミュレーショ
ンでは 20.0℃(音速 343.7[m/s]),実験では 12.0℃(音速
338.8[m/s])である.
0 度と他の角度の,D の時間遅れの差を表 1 に示す.表 1
では,実際に 0~45 度まで測った D の時間遅れの差を目標
値(Target)と書いている.実験において角度が増加するに従
い時間遅れの差が 1 少なく算出されているのは,前述した
ように手順 1 の誤差によるものだと考えられる.
シミュレーションによる制御結果と実験による制御結果
を図 5 と表 2 に示す.この図と表では評価量として推定誤
差(Estimation Error, EE)を用いており,値が小さくなるほど高
い制御効果が得られたことを示している.図 5 では制御開始
時から 5 秒間の EE を示している.一方,表 2 では実験の都
合上,収束後 5 秒間における EE の平均値を示している.図
5 から,シミュレーションにおいて,提案した時間遅れの幾
何学的調整法で制御効果が得られることが確認できた.また
表 2 から,実験においても,シミュレーションよりは劣化す
EE[dB]
Fig.4 Calculation of time delay
-5
-10
-15
-20
0
2
4
6
Iteration[-]
8
10
4
x 10
Fig.5 Simulation result
Table.2 Experiment result
Angle[deg]
EE[dB]
0
-9.71
15
-5.68
30
-3.84
45
-1.03
5. 結言
本論文では,誤差マイクを必要としない仮想マイク法に
おいて必要となる,音響特性の事前測定を省く手法を提案
した.そしてシミュレーションと実験において,提案法で
騒音が低減できることが確認できた.今後,時間遅れの推
定精度の向上や,時間遅れ以外の推定方法について検討す
る必要がある.
文 献
1)
S. Elliott,A. David,A virtual microphone arrangement for local
active sound control , In Proceeding of the 1st International
Conference on Motion and Vibration control in Yokohama,1992,
pp. 1027-1031.
2)
王循,雉本信哉,松田浩一,木庭洋介,日本機械学会 Dynamics
and Design Conference 2011 CD-ROM 論文集,2011,No628.
3)
近藤大介,雉本信哉,松田浩一,木庭洋介,日本機械学会九
州支部講演論文集 No.118-1,2011,pp.175-176.
組合せ磁石を用いた高性能磁気ダンパの研究 −立方体磁石列から構成された磁気ダンパ− 805 Research on High Performance Magnetic Damper Using a Combined Magnet
-Magnetic Damper Consisting of Cube Magnet Arrays-
○学 中村 諒太郎(九州大) 正 高山 佳久(九州大) 正 木村 貴裕(九州大)
正 雉本 信哉(九州大) 正 石川 諭(九州大)
Ryotaro NAKAMURA, Kyushu University, moto-oka 744, nishi-ku, Fukuoka
Yoshihisa TAKAYAMA, Kyushu University,Takahiro KIMURA,Kyushu University,
Shinya KIJIMOTO,Kyushu University,Satoshi ISHIKAWA,Kyushu University


Key Words : Magnetic Damper, Eddy Current Damper, Halbach Magnet Array, Faraday’s Law, Lorentz Force,

Biot-Savart’s Law
1
V
∫
1
c1 = − σ
2
V
Bz (x, y, z)dV ∫
V
[Bz (x, y, z)2 − Bz20 ]dV



























Fig.1 Magnet and conductor










Fig.2 Halbach magnet array
(1) ここで,V は導体板の体積,Bz0 は導体板中の平均磁束
密度,c1 は磁気ダンパの減衰係数であり Bz0, c1 は次式で
表される. Bz 0 =




1
F = − σ v ∫ [Bz (x, y, z)2 − Bz20 ]dV = −c1v V
2


1. 緒言 機械には振動がつきものであり,激しい振動は機械の
破壊の原因となる.ほとんど全ての振動に対して,ダン
パ(減衰器,制振器)による対策が有効な手段となる.本
研究では,ハルバッハ配列 (1)と呼ばれる磁石の配列を応
用した磁気ダンパを取り扱う.磁気ダンパは,ローレン
ツ力を利用し,導体と磁石の相対運動により非接触で減
衰力を発生させることができる.しかし,他のダンパと
比較して減衰力が小さいという欠点がある.これまでの
研究により,磁気ダンパに適した磁場の分布を利用する
と,減衰力を大きくすることができることがわかってい
る (2).さらに,ハルバッハ配列を利用すると,片面だけ
で減衰力の大きな磁気ダンパが設計可能になる (3).本研
究では,このハルバッハ配列を拡張し,より高い減衰性
能が得られるかどうかを検討する. 2. 理論 2.1 磁気ダンピング力の導出 図 1 のように静止した磁石とそれに対して相対運動す
る導体板を考える.導体板と平行な平面上に x 軸,y 軸
を定め,導体板に垂直な方向を z 軸と定めて,静止座標
系 O-xyz をとる.磁石による導体板中の任意の点(x,y,z)
における z 軸方向の磁束密度を Bz(x,y,z)とする.導体板
が磁界中を図のように相対速度 v で横切るとき,導体板
に作用する磁気ダンピング力 F は次式で表される (4)-(6). (a) Upper side of Halbach magnet array
(2) (3)
式(1)より,磁気ダンピング力が導体板の運動方向と逆
向きに作用し減衰力として作用していることがわかる.
また,磁気ダンピング力を大きくするためには,導体板
中の磁束密度の絶対値を大きくし,平均磁束密度を 0 に
近くすればよい.
2.2 ハルバッハ配列について ハルバッハ配列とは図 2 のように磁石を配置したもの
(b) Under side of Halbach magnet array
Fig.3 Magnetic density of Halbach magnet array
である.図 2 の磁石列の上面では磁束密度を強め合い,
下面では磁束密度を弱め合う磁場が分布する.図 2 の磁
石列の上面および下面の磁石表面から 1 mm の位置の磁
束密度分布例を図 3(a)および(b)に示す.図 3 より,この
磁石列で磁気ダンパを構成した場合,式(3)で示したよう
に,磁束密度の絶対値が大きくなっており,平均磁束密
度が小さくなるので,減衰力を大きくすることができる
ことがわかる. 2.3 拡張ハルバッハ配列 この節では,図 4 に示すように,ハルバッハ配列の両
側にそれぞれ上下方向磁石を追加し拡張したハルバッハ
配列(以下,この配列を拡張ハルバッハ配列と呼び,図 2
の配列を基本ハルバッハ配列と呼ぶ)を使って,より高い
減衰性能が得られるかどうか検討する.この拡張ハルバ
ッハ配列は,基本ハルバッハ配列における両端の横向き
の磁石が補助的な役割であると考え,上下方向磁石を追
加して磁場の山と谷の数を同数とすることで高い減衰性
能が得られるのではないかと考えて検討することにした. 3. 解析条件 磁石を一辺 18 mm の立方体ネオジム磁石とし,ビオ•
サバールの法則より導体板中の磁束密度を解析する.導
体板は,磁場が有効に使えるように,縦 220 mm,横 220
mm,厚さ 2 mm とする.以後の解析では,この立方体磁
石と銅板を使って,減衰性能を調べることにする. 4. 解析結果と考察 図 5 に,図 2 に示した磁石が 5 個の基本ハルバッハ配
列,図 4 に示した磁石が 7 個の拡張ハルバッハ配列,導
体板に全て N 極を向けた 5 個の磁石を使った磁気ダンパ
の減衰係数を,磁石 1 個あたりに換算した値を示す.図
から,基本ハルバッハと拡張ハルバッハのどちらも,全
て N 極を向けたものよりも磁石 1 個あたりの減衰係数が
大きくなっていることがわかる.また,拡張ハルバッハ
配列を使った磁気ダンパは,基本ハルバッハ配列を使っ
た磁気ダンパに比べ磁石 1 個あたりの減衰係数が大きく
なることもわかる.これは 2.3 節で述べたように,磁場
の山と谷が多くできるため,磁束密度の絶対値を大きく
でき,また,磁場の山と谷が同数なので平均磁束密度を
0 に近づけることができているからだと思われる. 次に,拡張ハルバッハ配列を使った磁気ダンパを実際
に制作することを検討する.実際の製作では,磁石列同
士を接近させると接着が困難であることが予想されるの
で,磁石列の幅と同じ幅のスペーサを磁石列の間に入れ
た磁気ダンパを製作する.図 6 に配列例を示す.図 6(a)
は基本ハルバッハ配列 3 列で構成された磁石列を示し,
(b)は拡張ハルバッハ配列 2 列で構成された磁石列を示す.
図 7 にこれらの磁石列を使った磁気ダンパの減衰係数の
解析結果を示す.図のように,図 6(a)と(b)の磁石列を使
った磁気ダンパの減衰係数の値はほぼ変わらない結果と
なった.しかし,図 6(b)の磁石列の場合,図 6(a)の磁石
列に比べて,磁石の個数を少なくでき,かつスペーサを
含めた磁石列の面積を狭くできるので,効率的であると
わかる. 5. 結言 立方体磁石を 5 個使った基本ハルバッハ配列から構成
される磁気ダンパに対して,立方体磁石を両側に 1 個ずつ
増やして 1 列 7 個の立方体磁石から構成される拡張ハルバ
ッハ配列を使った磁気ダンパの減衰力の解析を行い,基本
ハルバッハ配列を使った磁気ダンパと減衰性能の比較•検
討を行った.その結果,拡張ハルバッハ配列を用いた場合,
磁石と導体板が近いほど磁石 1 個あたりの減衰係数が大き
Fig.4 Extended Halbach magnet
array
Fig.5 Magnet damping coefficient per a cube magnet
(b) Extended Halbach 2line
(a) Halbach
Fig.6 Two-dimensional array
3line
Fig.7 Magnet damping coefficient
くなることがわかった.また,基本ハルバッハ配列の磁石
列と拡張ハルバッハ配列の磁石列を 2 列以上使って磁気
ダンパを構成した場合,拡張ハルバッハ配列を使用した磁
気ダンパの方が効率的であることを示した.今後,拡張ハ
ルバッハ配列を用いた磁気ダンパの実験を行い,解析結果
との比較検討を行う. 文 献
1)
2)
3)
4)
5)
6)
K.Halbach,“ Design of permanent multipole magnets with oriented
rare earth cobalt material”,Nuclear Instruments and Methods,
169(1),1-10.
高山佳久,近藤孝広,木村貴裕,他 2 名,“組合せ磁石を用
いた磁気ダンパの研究”,D&D 講演論文 2010
木村貴裕,他 4 名,
“ 組合せ磁石を用いた磁気ダンパの研究(一
次配列を用いた磁気ダンパ)”,D&D 講演論文 2011
高山佳久,末岡淳男,近藤孝広,長井直之,“磁気ダンピン
グ力に起因した回転体の不安定振動”,日本機械学会論文集 C
編,665(2002),pp.16-23
高山佳久,末岡淳男,近藤孝広,“円形磁石回転型磁気ダン
パによる回転体の制御効果(磁気ダンピング力に起因した不
安定振動の不発生)”,日本機械学会論文集 C 編,696(2004),
pp.2195-2202
Takayama, Y.,Sueoka, A., and Kondou, T., “ Modeling of
Moving-Conductor Type Eddy Current Damper ” ,Journal of
System Design and Dynamics,series C,No.5(2008),pp.1148-1159.
集中系モデルによる 2 次元音響解析 806 Two-dimensional Acoustic Analysis by Concentrated Mass Model
○学 森 裕樹(九州大) 正 雉本 信哉(九州大) 正 石川 諭(九州大)
正 木庭 洋介(九州大)
Yuuki MORI, Kyushu University, moto-oka 744, nishi-ku, Fukuoka
Satoshi ISHIKAWA, Kyushu University, Shinya KIJIMOTO, Kyushu University,
Yousuke KOBA, Kyushu University
Key Words : Concentrated Mass Model, Equation of Motion, Ordinary Differential Equetion, Runge-Kutta Method
1. 緒言 現在,音響空間を解析する手法としては,差分法,境界
要素法を用いて波動方程式を解く方法などがある.しかし,
波動方程式を差分法で解く場合は,時間と空間の領域で差
分化する必要があり,取扱いが煩雑になるという問題があ
る.そこで,本研究では,音響空間をばね・質点で構成さ
れる 2 次元の多自由度集中系でモデル化することにより,
計算時間が短く,取扱いの容易な音響解析手法の確立を目
的とする.本報では,音響空間の 2 次元集中系モデルを提
案し,時間領域における解析結果の周波数特性を理論値と
比較することで,モデルの妥当性を検証する.
2. 2 次元集中系モデル 本研究では,2 次元音響空間に対して図 1 のようなば
ね・質点系でモデル化を行う. モデル化にあたって,図 2 のような格子を考え,格子上
に質点(i, j)を置き,4 つの質点で囲まれた要素[i, j]を定義す
る.格子は正方形で 1 辺の長さを l ,2 次元音響空間の厚
さを h ,図 2 の斜線部領域の体積を V0 ,密度を ρ とする.
質点(i, j)には,周りの要素[i, j],[i, j+1],[i+1, j],[i+1, j+1]
の圧力が図 2 の斜線部領域の各辺にかかるものとする.こ
の力をばねの復元力として考える. 要素[i, j]の体積変化量
dV[i, j] は,質点(i-1, j-1)を原点と見なした四角形の面積変
化量を考えて,各頂点の変位 x , y より,
#
1
dV[i, j] = {(l + xi, j−1 )(l + yi, j ) − (l + xi, j )yi, j−1 %
2
%
%
+(l + xi, j )(l + yi−1, j ) − xi−1, j (l + yi, j )
$
(1)
%
+xi−1, j ⋅ yi−1, j−1 − xi−1, j−1 (l + yi−1, j )
%
+xi−1, j−1 ⋅ yi, j−1 − (l + xi, j−1 )yi−1, j−1 } ⋅ h − l 2 h%&
x , y について,2 次以上の項を無視して,
lh
dV[i, j] = ( xi, j−1 + xi, j − xi−1, j − xi−1, j−1 + yi−1, j + yi, j − yi, j−1 − yi−1, j−1 )
2
(2)
ここで,要素[i, j]内で断熱変化を仮定すると,平衡状態の
圧力を p0 ,圧力変動量を dp[i, j] ,比熱比を γ として,

















Concentrated mass model
(3)
p0V0γ
dp[i, j] =
− p0
(V0 + dV[i, j])γ
(4)
式(4)を線形化すると,
dp[i, j] = −
p0γ dV[i, j]
V0
(5)
式(2)を式(5)に代入して,
p γ lh
dp[i, j] = − 0 (xi, j−1 + xi, j − xi−1, j − xi−1, j−1 + yi−1, j + yi, j − yi, j−1 − yi−1, j−1 )
2V0
(6)
解析では式(6)で表される圧力変動量を結果として見る.
次に,隣合う質点の速度差によるせん断応力に起因する
図 1 のような減衰を結合減衰としてモデル化する.ニュー
トンの粘性法則を質点間で差分化することで,粘性減衰係
数 c s は粘性係数 µ を用いて以下のように決定される.
s
(7)
c = µ h
さらに,図 3 のように厚さ方向の速度分布を考え,上下
面からのせん断応力 τ (y) の影響を図 4 に示す基礎支持減
衰と質量でモデル化する.図 3 における厚さ dy の検査体
積の運動方程式は, u を流速としてニュートンの粘性法
則を用いると,
ρl 2 dy
∂u 2 ∂2 u
=l
dy − ldy( pi+1 − pi−1 )
∂t
∂y 2
(8)
ここで,石川ら (1).と同様に,平均流速 u を求めて式(8)を
変形すると,
$
ρ hl 2 u = µ hl 2 Γ(h)u − hlΔpe jωt &
&&
λ 2 tanh(λ h 2)
Γ(h) =
%
(9)
λ h 2 − tanh(λ h 2) &
&
λ = jω ν = jω (µ ρ ) &'
一方,図 4 に示す集中系モデルの運動方程式は,基礎支
持減衰係数を c b ,質量を m として,
m
xi = −c b xi − hlΔpe jωt
(10)
jω t
ここで, u = x = Ue として式(9),(10)を変形すると,
jω mU = −c bU − hlΔp
(11)
jωρ hl 2U = −µ hl 2 Γ(h)U − hlΔp
(12)
式(11)と式(12)で係数比較して,c と m はそれぞれ以下の
ように決定される.







Fig.1

γ
p0V0γ = { p0 + dp[i, j]}{V0 + dV[i, j]}
b





Fig.2
Connecting damper and spring
c b = µl 2 h Re[Γ(h)]
µl 2 h
m = ρl 2 h +
Im[Γ(h)]
ω
(13)
(14)
式(14)において,第 1 項は流体の質量,第 2 項はせん断応
力のうち加速度と同位相の成分をみかけの質量として扱
う.
Table 1





Base damper and mass
3.2 固有振動数の比較 2 章で提案したモデルの妥当性を検証するために,空間
内の共振周波数理論値と数値計算結果を比較する.閉空間
Lx [m]× Ly [m]× h[m] の共振周波数理論値は,音速 c を用い
て,次式で与えられる(2)..
2
f0 =
c ! nx $ ! ny $
# & +# &
2 " Lx % #" Ly &%
1000
600
0
400
200
400
600
800
x [mm]
600
0
400
0.5
1000
200
400
600
x [mm]
(a) 1.0[ms]
1000
800
1000
1000
800
Sound Pressure [Pa]
0
400
200
600
0
400
200
200
400
600
800
x [mm]
0.5
1000
(c) 3.0[ms]
200
400
600
x [mm]
800
1000
(d) 4.0[ms]
Numerical results
Fig.5
4000
Amplitude
3000
2000
1000
0
200
Fig.6
300
400
Frequency [Hz]
500
600
Frequency response curve
Table 2
Reasonance frequency
(nx , ny )
Theoretical value
Eigenvalue
Peak value
(0, 1)
(1, 1)
(0, 2)
(1, 2)
(2, 2)
(0, 3)
(1, 3)
167.0 [Hz]
236.2 [Hz]
334.0 [Hz]
373.4 [Hz]
472.4 [Hz]
501.0 [Hz]
528.1 [Hz]
166.6 [Hz]
233.2 [Hz]
332.8 [Hz]
367.9 [Hz]
465.4 [Hz]
498.3 [Hz]
519.2 [Hz]
166 [Hz]
233 [Hz]
332 [Hz]
369 [Hz]
461 [Hz]
494 [Hz]
522 [Hz]
文 献
2)
0.5
800
600
1)
0.5
(b) 2.0[ms]
0.5
Sound Pressure [Pa]
(15)
4. 結言 本報では,音響空間の 2 次元集中系モデルを提案し,音
響空間内の音圧変動の時間応答を確認して,周波数特性を
調べた.数値解析による共振周波数は低次のモードにおい
ては特に理論値と近い値を示し,モデルの妥当性をある程
度示すことができたと言える.
今後は,分割数を増やした解析を行い,2 次元音響空間
における実験と対応させることで,さらなるモデルの妥当
性を検証する予定である.
0.5
200
200
本節では,境界上の質点(0,0)〜(0,5)に x = δ sin(Ωt) Ω2 ,(0,0)
〜 (5,0) に y = δ sin(Ωt) Ω2 の 強 制 変 位 を 与 え る .こ こ で ,
δ = 350[m/s2 ] , Ω = 2π f である.要素分割数と時間刻みは
3.1 節と同じ値を用い,ルンゲ−クッタ法により数値計算を
行う.要素[100,100]における音圧変動の時間応答から得ら
れた周波数応答線図を図 6 に示す.図 6 において,破線は
式(15)によって求めた共振周波数理論値を表している.ま
た,参考として,共振周波数理論値と,要素分割数 50×
50 で式(14)中の第 2 項を考慮しないときの運動方程式か
ら導出した固有振動数,図 6 のピーク値をそれぞれ比較
したものを表 2 にまとめる.共振点の数は一致しており,
それぞれの共振周波数も近い値を示している.数値計算
による共振周波数は理論値よりも若干小さい傾向にある
が,低次のモードにおいて両者はほぼ一致しており,得ら
れた計算結果は妥当なものであると言える.数値計算結果
と理論値との間でずれが生じる理由としては,要素分割数
が十分でないことが考えられる.以上のことから,2 章で
提案したモデルは妥当である.
Sound Pressure [Pa]
800
2
(nx , ny = 0, 1, 2,)
1000
0.5
Sound Pressure [Pa]
800
y [mm]
3. 解析結果及び妥当性の評価 3.1 時間応答の確認 音響空間における音圧変動の時間応答を求めるために,
Lx = Ly = 1.0[m] , h = 0.03[m] で固定端の音響空間を考えて
解析を行う.固定端は,境界上の質点について,境界と垂
直方向の変位を 0 として固定することで再現されている.
解析には直接数値積分法の代表であるルンゲ−クッタ法を
利用する.要素は x 方向, y 方向にそれぞれ 100 分割し,
時間刻みは 1.0 ×10 −5 [s] とする.また,解析に用いるパラメ
ータを表 1 のように定める.4 つの要素[1,1],[1,2],[2,1],
[2,2]に dp = sin(2π ft) の圧力変動を与えたときの各時刻に
おける圧力分布を図 5 に示す.加振振動数は f = 500[Hz] で
ある.時間をおって音波の伝わる様子が再現できている.
y [mm]
Fig.4
0.1013
1.27
1.4
1.75×10-5
334
p0 [MPa]
ρ[kg/m 3 ]
γ
µ[Pa ⋅ s]
c[m/s]

Fig.3 Velocity distribution
Phisical property of atmosphere
y [mm]


y [mm]

石川諭,近藤孝広,松崎健一郎,集中系モデルによる非線形
圧力波の解析:第 1 報,解析モデルの提案とその妥当性の検
証,日本機械学会論文集,75(2009) pp.215-217.
一宮亮一,機械系の音響工学 pp.108-112.
0.5
生体柔軟性の計測技術および解析モデルの開発
807
Development of Measurement Technique and the Analysis Model of the Living Body
Flexibility
○学
藤原 圭佑(九州大) 正 石川 諭(九州大)正 雉本 信哉(九州大)
正 高山 佳久(九州大)正 木庭 洋介(九州大)
Keisuke FUJIHARA ,Kyushu University, moto-oka 744, nishi-ku, Fukuoka
Satoshi ISHIKAWA,Kyushu University, Shinya KIJIMOTO , Kyushu University,
Yoshihisa TAKAYAMA, Kyushu University ,Yosuke KOBA, Kyushu University
Key Words : The Living Body Flexibility,Analysis Model,Silicon,Elastic Modulus,Viscosity Coefficient
1.諸論
現在,
医療の現場では触診が広く用いられている.ただ,
これは医師の技術や経験に頼るところが大きい主観的な診
察であるため,生体の軟らかさを数値で定量的に測定し,
その客観的な診断から生体内部の異常の発見を行うことが
望まれている.本研究では,生体に接触子を押しこみ,そ
の荷重と変位の時間応答を測定し,生体解析モデルの数値
計算により逆問題を解くことで各パラメータを算出し,生
体柔軟性を評価する方法を提案する.そして,シリコンを
用いた実験を行い,本手法の妥当性と内部の異常検出の可
能性を検証する.
2.2.一層シリコンの粘弾性の同定方法
図 1(a)のようにモデル化した一層シリコンの k,c の値の
同定方法について説明する.まず,実験におけるシリコン
表面の測定変位を質点 1 に与え,モデル表面の荷重を数値
計算させる.その結果を実験結果と比較し,fi (k , c)の二乗和
である式(3)を最小にするような k , c を,ガウスニュート
ン法を用いて求める.ガウスニュートン法は式(4)を用い
て, k ,c を更新していく方法である 1) .これにより,シリ
コンの粘弾性定数 k,c を決定する.このとき, fi (k , c) は i 番
目におけるシリコンとモデルの表面の荷重の誤差,pはデー
タ点数, q は更新回数である.
p
2.生体柔軟性の測定方法
2.1.生体のモデル化
本研究では,シリコンを図 1(a)に示す多自由度 Voigt モ
デルでモデル化し解析を行う.シリコンを図 1(b)のように
n 1分割し,各節点に質点を置く.シリコン断面積 A,密
度 ,シリコン厚さ h ,質点数 nを用いて質点間距離 l ,各
点の質点の質量 mi は式(1)で表される.ただし, mn = m 1 =
mi 2である.
Ah
h
mi 
,l 
(1)
( n  1)
( n  1)
本研究ではシリコン全体の弾性定数 E,粘性定数  を,以
下の式(2)を用いてモデルの微小要素パラメータである弾
性定数 k ,粘性定数 c に変換している.
kl
cl
E  ,η
(2)
A
A
Fa ( k , c ) 
(b)
Fig.1 Multi Degree of Freedom Model
(c)
i
2
i 0
k 
k 
 
    [ J T J ]J T F (k , c) c
  q 1  c  q
 f1 (k , c) f1 (k , c) 


 f1 ( k , c) 
k
c






 J  
F ( k , c)  

 

 f p (k , c) f p (k , c) 
f
(
k
,
c
)


 p

k
c



(3)
(4)
2.3.二層シリコンの異物検出(シミュレーション)
次に,シリコン内部の異物の検出方法について説明する.
シリコン内部の異物を再現するために二層シリコンを製作
した.本研究ではこのシリコンの層の変わり目,つまり異
物までの深さを検出する方法を検討した.まず,シリコン
で行う前にシミュレーションを行った.シリコンのモデル
として図 1(c)のように質点 j で粘弾性 k , c が k ,c に変
化するモデルを仮定する.このモデルにある変位を与えた
ときの荷重の時間応答を数値計算で求め,これを実験デー
タとし,これに対して 2.2 節の方法で同定を行いながら異
物までの深さを検出する方法を以下に示す.条件として上
部のk ,c は既知とし以下の手順①~③で,k ,c および異物
までの深さを検出する.
①質点 j で粘弾性が変わると仮定し実験データとの最小二
乗法により k ,c を求め,荷重の誤差の二乗和を記録.
②①を質点 2~ n 1すべてで行う.
③すべての誤差を比較し,最も小さい質点でモデルの粘弾
性が変化していると決定.
j
ここで,=5
のモデルでシミュレーションを行った.
このときの各パラメータは表 1 に示すとおりである.
Table.1 Simulation Condition
n
(a)
 ( f (k , c))  [kg/m ]
h [m]
3
7
1000
20×10-3
2
A [m ]
k [N/m]
c [Ns/m]
7.85×10-5
2.7768
0.02310
表 2 は境界の質点を j としたときの誤差 Fa (k , c) を表してい
る.境界の質点が 5 のとき誤差が最小で,離れるにつれて
誤差が大きくなっている.これより,異物の検出ができそ
うな結果となった.
3.実験装置および数値解析条件
提案した方法の妥当性の確認のために図 2 のような実験
装置を製作した.ロードセルに取り付けた直径 10mm の接
触子をマイクロメータでシリコン表面に近付けていき,荷
重が変化し始める点で,レーザ変位計の変位をゼロに補正
する.その後,ステージを下に移動させることで,生体に
接触子を押しこみ,ロードセルとレーザ変位計からシリコ
ン表面の荷重と変位を測定する.シリコンは信越シリコー
ン社製の KE-1052 を使用した.このシリコンは A 液,B 液
の配合比率で硬さを調節できる.今回は,硬さの違う一層
シリコンⅠ,Ⅱ,Ⅲと,二層の厚さが違うシリコンⅣ,Ⅴ
を準備した.それぞれ直径 60mm,高さ 20mm の円柱状の
容器に製作した.
数値計算には常微分方程式の数値的解法であるルンゲク
ッタ法を用いた.このときの各パラメータを表 3 に示す.
(a) Silicon Ⅳ
(b) Silicon Ⅴ
Fig.3 Bilayer Silicon
Fig.2 Experimental Device
Table.2 Simulation Result
j
j
Fa (k , c) Fa (k , c) -9
2
3
4
4.109×10
1.236×10 -9
1.879×10 -10
5.718×10 -17
3.244×10 -11
5
6
Table.3 Numerical Calculation Condition
4.一層シリコンの粘弾性の測定
まず,一層シリコンで k ,c を求め式(2)より E , を求め
た.各シリコン 2 回ずつ荷重,変位の時間応答の測定を行
い.それから E, を導出した.デュロメータ(アスカ―FP
型)でもそれぞれの硬度を測定し,そこからヤング率 E を求
めた 2) .表 4 がその結果である.図 4 にはシリコンⅢの 1
回目と 2 回目の実験の変位のグラフを示す.表 4 の 1 回目
と 2 回目の結果を比較することにより接触子の押し込み速
度の変化による E の再現性はある程度とれていることが分
かる.そして,E  に比べ E は 3 倍ほどの誤差が生じている
が,それぞれのシリコンの E の比率と Eの比率がほぼ同じで
あることからも提案した同定方法が妥当であると言える.
5.二層シリコンでの異物の深さの検出(実験)
次に,二層シリコンでの異物の深さ検出を試みた.用意
したシリコンⅣ,Ⅴは図 3 のような構造になっている.上
部シリコンの E,  にはシリコンⅢの二回目の結果を使用
した.2.3 節の方法を用いて解析を行った結果である誤差
Fa (k , c) を表 5 に示す.シリコンⅣでは境界の質点が 5(深さ
4mm)のとき,シリコンⅤでは境界の質点が 3(深さ 2mm)
のときに誤差が最小となった.両シリコンとも若干誤差が
生じてしまったが,異物の深さを検出できそうな結果とな
った.誤差が生じた原因には,押し込み深さが 2mm ほど
で,シリコン厚さ h に対して実験の押し込み量が足りなか
ったことが考えられる.
6.結論
本研究ではシリコンの粘弾性定数の測定方法および内部
の異物の検出方法を提案した.シリコンを用いた実験を行
い測定したヤング率や異物までの深さは概ね妥当な結果と
なった.しかし,解析結果に若干誤差があるため,押し込み
深さを大きくできる実験装置の改良が今後の大きな課題と
なる.
文献
1)
2)
矢部 博,八巻 直一,”非線形計画法”, pp.95-96, 1999.
日本ゴム協会,”ゴム試験法第三版”, pp.203-204, 2006.
Time Interval [sec]
n
 [kg/m3]
5.0×10-5
21
1000
2
7.85×10-5
20×10-3
A [m ]
h [m]
Table.4 Numerical Calculation Results
Silicon
E 
(measured
by durometer)
Ⅰ
A:B=1:3
74.82 [kPa]
E 240.4[kPa]
 102[Pa・S]
E

Ⅱ
A:B=1:2
37.44 [kPa]
E 131.0[kPa]
 231[Pa・S]
E

Ⅲ
A:B=2:3
24.05 [kPa]
E 71.56[kPa]
 124[Pa・S]
E

Fig.4
j
2
3
4
5
6
7
8
9
10
First
Result
Second
Result
246.5[kPa]
95[Pa・S]
125.6[kPa]
224[Pa・S]
71.99[kPa]
87[Pa・S]
Displacement of SiliconⅢ Surface
Table.5 Experimental Results
j
Fa (k , c) (Ⅳ)
2
9.268×10-2
3
9.195×10-2
-2
4
9.158×10
5
9.149×10-2
6
9.156×10-2
7
9.172×10-2
8
9.191×10-2
-2
9
9.210×10
10
9.227×10-2
Fa (k , c) (Ⅴ)
1.934×10-1
1.913×10-1
1.919×10-1
1.933×10-1
1.943×10-1
1.951×10-1
1.955×10-1
1.956×10-1
1.957×10-1
BTA 深穴加工における
ライフリングマーク発生現象の防止対策
-実験的考察-
0808
A Countermeasure Against a Rifling Mark Generating Phenomenon
on BTA Deep Hole Drilling Process
-Experimental Study-
○学
本田
貴晶(大分大)
正
劉
孝宏(大分大)
正
松崎
健一郎(九州大)
Takaaki HONDA, Oita University, 700 Dannoharu , Oita
Takahiro RYU, Oita University, 700 Dannoharu, Oita
Kenichiro MATSUZAKI, Kyushu University, 744 Motooka, Nishi-ku, Fukuoka
Key Words : Self-Excited Vibration, Stability, Vibration of Rotating Body, Pattern Formation, Drilling, Chatter Vibration,
Rifling Mark
1. 緒言
BTA (Boring Trepanning Association) 深穴加工とは,円筒
状の部材に切れ刃と複数のガイドパッドを取り付けた専用
の工具を,ボーリングバーと呼ばれる細長い一様な中空棒
の先端に取り付け,工具または被削材を回転させながら送
ることにより穴あけを行う加工法である.本加工法では,
加工中に発生した振動により加工穴にライフリングマーク
と呼ばれるらせん状のパターンが形成される現象が品質管
理上の問題となっているが,防止対策として,ガイドパッ
ドの位置の最適配置や追加配置による方法を検討し,ライ
フリングマークを抑制可能な設計法について理論的見地か
ら提案を行った.BTA 深穴加工機を用いることにより,ラ
イフリングマーク発生状況を詳細に検証するとともに,理
論的検討を元にした最適な位置に追加配置されたガイドパ
ッドを有する新型工具を利用して,その効果について実験
的に検証した.
おり,摩耗や粘弾性変形によるパターン形成現象とよ
く似た特徴を有する.
(2) 切れ刃から 90に位置するガイドパッドのパターン形
成現象に対する影響は小さい.
(3) 切れ刃から 180に位置するガイドパッドは,偶数角形
のパターン形成現象を防止する効果がある.
(4) 図 5 は,ガイドパッドが二つの場合であり,190と
固定し2 を 120:240の範囲で変化させたときの,発
生振動数が 200Hz 以下における 2~9 角形に対応する
特性根の実部の最大値max を求めたものである.図か
(a) Standard tool
2. 実験の概要および実験装置
(b) New tool
Fig.1 BTA tools
図 1 は BTA 深穴加工用の工具を示す.工具は,円筒状の
部材の先端に切れ刃と複数のガイドパッドが取り付けられ
たものであり,切りくずと切削油の排出のため先端から穴
が貫通している.ガイドパッドは穴の内壁と接することに
より切削力を受ける役割を持つ.
図 2 は実験に用いた BTA 深穴加工機の写真である.加工
機は,ボーリングバー,プレッシャーヘッドからなり,ボ
ーリングバーの先端に工具が設置されている.ボーリング
バーは,支持パッドにより支持されている.
Fig.2 BTA deep hole drilling machine
3. 数値解析の要約
Y
図 3(a)および(b)はそれぞれガイドパッド二つおよび三つ
の場合のパッド配置図を示す.i は,切れ刃から i 番目パ
ッドまでの角度を表す.BTA 深穴加工で発生するライフリ
ングマークの発生メカニズムと防止対策について理論的に
検討し,ライフリングマークとパッド配置の影響の考察お
よびライフリングマークを抑制するための最適なパッド配
置の提案を行った.その結果を以下に要約する.
(1) 標準的工具では,奇数角形の不安定領域が存在する.
領域の境界と不安定度は固有振動数と密接に関連して
Work material
Y
Guide pad 3
Work material
w
X
O
a2
w
a1
a2
Guide pad 2
Cutting edge
Guide pad 1
(a) Two guide pads
X
O
a3
a1
Cutting edge
Guide pad 2
Guide pad 1
(b) Three guide pads
Fig. 3 Angle of guide pads
4. 実験
2
6
3
7
4
8
0.001
5
9
smax
smax
0.001
2
6
3
7
4
8
5
9
0
0
−0.001
−0.001
120
150
180
a2 (deg)
210
240
−0.002
180
240
270
a3 (deg)
Fig. 4 Variation of max
Amplitude of displacement dB
210
Fig. 5 Variation of max
-60
31.875
-70
-80
-90
-100
0
100
200
300
Frequency Hz
400
500
Amplitude of displacement dB
Amplitude of displacement V
Fig.6 Result of hammering test
0.04
0.02
0.00
-0.02
-0.04
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8
Time s
-30
-40
-50
-60
-70
-80
-90
-100
0
100
200
300
Frequency Hz
400
500
Amplitude of displacement dB
Amplitude of displacement V
(a) Waveform
(b) Frequency
Fig. 7 Vibration of boring bar using standard tool(6min6s)
0.04
0.02
0.00
-0.02
-0.04
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8
Time s
-30
28.75
-40
-50
-60
-70
5. 結言
-80
-90
-100
0
100
200
300
Frequency Hz
400
500
Amplitude of displacement dB
Amplitude of displacement V
(a) Waveform
(b) Frequency
Fig. 8 Vibration of boring bar using standard tool(17min58s)
0.04
0.02
0.00
-0.02
-0.04
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8
Time s
振動の測定は,ボーリングバーの水平方向の変位を,レ
ーザ変位計を水平に設置することで測定した.水平方向が
背分力方向に相当する.また,被削材に突起物を接着し,
それをレーザ変位計で測定することで,回転信号を測定し
た.
4・1 打撃試験 ライフリングマークのようなパターン形
成現象では,系の固有振動数を知ることが重要である.そ
こで,プレッシャーヘッドにボーリングバーが入った状態
で,ボーリングバーの水平方向の打撃試験を行った.図 6
は打撃試験の結果を示す.図から,約 32Hz に 1 次の固有
振動数が存在することがわかる.
4・2 標準工具を用いた場合 図 7(a)は標準工具を用いた
ときの加工開始直後 6min6s 経過後のボーリングバーの水
平方向の変位である.また,図 8(a)は標準工具を用いたと
きの加工開始後 17min58s 経過したときの結果である.比較
すると,振幅が大きく成長していることがわかる.図 7(b)
および図 8(b)は,それぞれ図 7(a) および図 8(a)の水平方向
成分を周波数分析した結果である.ボーリングバーの 1 次
の固有振動数近くで振動が大きく成長し,成長した振動数
は被削材回転数の約 5 倍であることがわかる.以上から 5
角形のパターン形成現象が発生していると思われる.
4・3 新型工具を用いた場合 図 9(a)および(b)は,第三の
ガイドパッドを追加配置した場合の図 8(a)および(b)と同様
の結果を示す.加工開始からの経過時間はほぼ同じである
が,追加したガイドパッドの影響で,振幅の成長が抑えら
れているのがわかる.周波数分析結果のピーク値を見た場
合,20dB 以上の差があり,振幅では 1/10 以下に抑えられ
ている.新型工具を用いて,同様の実験を複数回行ったと
ころ,再現性を確認することができた.
-30
-40
-50
-60
-70
BTA 深穴加工で発生するライフリングマークについて,
標準工具におけるパターン形成現象の成長過程を詳細に調
べるとともに,パターン形成を抑制する第三のガイドパッ
ドを追加配置した新型工具を使用して,その抑制効果を検
証した.その結果,標準工具では,5 角形のパターン形成
が徐々に成長すること,その振動数はボーリングバーの 1
次の固有振動数に近いこと,新型工具を用いた場合,振動
抑制効果が見られることがわかった.
-80
文献
-90
-100
0
100
200
300
Frequency Hz
400
500
(a) Waveform
(b) Frequency
Fig. 9 Vibration of boring bar using new tool(17min57s)
ら,2180が最も max が小さく,最適な位置と考えら
れるが,ライフリングマーク発生現象の完全な防止は
難しい.
(5) 図 6 は,ガイドパッドが三つの場合であり,190,
2180と固定し3 を 180:270の範囲で変化させたと
きの,図 5 と同様の結果である.偶数角形は常に安定
であり,三つ目のガイドパッドを 3189:212の範囲
に設置すれば,系の完全な安定化が可能である.
1)
2)
松﨑健一郎,末岡淳男,劉孝宏,森田英俊,“BTA 深
穴加工におけるライフリングマーク発生現象に関す
る基礎的研究”,日本機械学会論文集 C 編,Vol. 75, No.
755 (2009), pp. 1918-1925.
松﨑健一郎,末岡淳男,劉孝宏,森田英俊,
“BTA 深穴
加工におけるライフリングマーク発生現象の防止対
策”,日本機械学会論文集 C 編,Vol. 76, No. 767 (2010),
pp. 1684-1691.
0809
磁気ばねを用いた救急車用防振架台の最適設計
に関する基礎的研究
A Fundamental Study on Optimal Design of Vibration Isolating Bed Using
Magnetic Spring for Ambulance
○学 河津 健作(大分大) 正 劉 孝宏(大分大)
正 中江 貴志(大分大) 正 松崎 健一郎(九州大)
Kensaku KAWAZU, Oita University, 700 Dannoharu, Oita
Takahiro RYU, Oita University, 700 Dannoharu, Oita
Takashi NAKAE, Oita University, 700 Dnnoharu, Oita
Kenichiro MATSUZAKI, Kyushu University, 744 Motooka, Fukuoka
Key Words : Vibration Control, Magnet Spring, Nonlinear Vibration, Forced Vibration
患者搬送時の救急車では,
80km/h 程度で走行を行ったり,
急な加減速の繰り返しが行われたりする.その影響で,加
減速による血圧変動や,ベッドが振動することによる内臓
共振が発生し,患者に対して大きな負担を強いることが問
題となっている.そのような問題を解決するため,油圧や
空気ばねを用いたサスペンションの開発や大きな加速度変
動を受けにくくする研究がなされてきた (1)~(3).また,最近
では、自動車用のサスペンションシートで開発された磁気
ばねを利用した非線形ばね特性を有するサスペンションシ
ステムの開発も行われている (3),(4).本研究では、磁気ばね
を利用したサスペンションシステムの最適設計を図るため
の基礎的研究として,系を非線形ばねを有する1自由度系
にモデル化し,理論解析から最適な数値パラメータを検討
した.
は,RKG 法を用いた.
図 3 の解析モデルにおいて,非線形ばね特性 f(z)を偶数次
を含まない z の 7 次関数近似し,原点における線形項となる
ばね定数 k と,ダッシュポットの粘性減衰係数 c を調整する
ことにより,良い制振特性を実現できる最適パラメータを検
討する.
2000
Restoring force N
1. 緒言
1500
1000
500
0
-0.05
0.00
Displacement m
2.予備加振実験
0.05
Fig.1 Restoring force characteristics
実機の救急車用防振架台では,磁石による負のばね特性
と線形ばねの組み合わせにより,図 1 に示すような,Duffing
型のばね特性を実現している.図から,破線付近において,
ばね定数がほぼ 0 になっていることがわかる.この領域を
利用することで,救急車の振動伝達を抑制する.図 2 は救
急車用防振架台を加振台に乗せ,強制変位(5mmp-p)で加振
した場合の基礎に対する架台の加速度伝達率を示す.横軸
が加振周波数,縦軸が伝達率である.図中の数値は,ベッ
ド・患者等の付加質量に相当する.後述の数値計算で基準
とする付加質量 100kg の結果を見てみると、共振周波数が
約 3Hz であることがわかる.
2
2
1.8
90kg
Transmissibility
1.6
1.4
1.2
110kg
1
1
0.8
0.6
100kg
0.4
0.2
0
0
0
0
1
2
4
3
4
5
6
7
8
8
Frequency Hz
Fig.2 Frequency response curve
3.理論解析および数値解析
m2g
図 3 は救急車用防進架台の上下方向振動を解析するため
のモデル図を示す.m1 は架台本体の主質量,m2 はベッド・
患者等の付加質量であり,架台本体は質量 m=(m1+m2)の質点
としてモデル化する.質点は非線形ばねおよび線形のダッシ
ュポット c により支持されている.救急車の揺れを模擬する
ため,床が u=acost で強制変位する.質点の変位を x とし,
床との相対変位を z=x-u とする.運動方程式は以下のよう
になる.
(1)
m z c z ( )
f z 2 mcao s 2
t m g
表1に数値計算に使用したパラメータを示す.数値計算に
x
m
f
c
u
Fig.3 Analytical model
Table 1 Standard Parameter
m1
19.1 kg
m2
100 kg
a
2.5 103 m
0.025
0.020
Displacement m
Transmissibility
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0.015
0.010
0.005
0.000
0
2
4
6
8
Frequency Hz
10
-0.005
Damping Coefficient Ns/m
D
C
5000 10000 15000 20000 25000 30000
Spring Constant N/m
0.020
Displacement m
Transmissibility
0.025
0.015
0.010
0.005
0.000
0
2
4
6
8
Frequency Hz
10
-0.005
0
1
3
4
5
Time s
0.020
0.015
0.010
0.005
0.000
0
2
4
6
8
Frequency Hz
10
-0.005
0
1
2
3
4
5
Time s
(a)Wave form
(b)Frequency response curve
Fig.7 Vibration characteristics at point C
(k=15000N/m ,c=1500Ns/m)
0.025
0.020
Displacement m
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0.015
0.010
0.005
0.000
0
2
4
6
8
Frequency Hz
10
-0.005
0
1
2
3
4
5
Time s
(a)Wave Form
(b)Frequency response curve
Fig.8 Vibration characteristics at point D
(k=25000N/m , c=4500Ns/m)
文
Fig.4 Optimum design of the system
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
2
言
磁気ばねを有する救急車用防振架台の振動特性の基礎的
研究として,非線形1自由度強制振動系としてモデル化し,
RKG 法を用いることにより,パラメータ判定を行った.4
つの条件の下,パラメータ判定を行った結果,最適なパラメ
ータを検討することができた.今後は,条件を厳しくさせ,
付加質量を変化させた場合の最適パラメータを検討する必
要がある.
B
A
1
0.025
Displacement m
Transmissibility
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
4.結
5000
4500
4000
3500
3000
2500
2000
1500
1000
500
0
(a)Wave form
(b)Frequency respons curve
Fig.6 Vibration characteristics at point B
(k=5000N/m , c=4500Ns/m)
Transmissibility
この2つの最適パラメータを検討する上で,自由振動,強
制変位において4つの条件を設定し,その条件を満足してい
るか否かで判定を行った.以下に評価条件を示す.
(1) ある初速を与えた自由振動波形おける最大変位(行き過
ぎ量)が基準値以下である.
(2) ある初速を与えた自由振動波形おいて,一定時間後に基
準値の範囲まで自由振動が収束している.
(3) 強制変位において,強制変位を与えた時に得られる周波
数応答曲線における伝達率の最大値(ピーク値)が基準値以
下である.
(4) 強制振動において,周波数応答曲線の積分値が基準値以
下である.
以上の4つの条件で,パラメータ判定を行った.
図 4 は,線形ばね定数 k およびダッシュポットの粘性減衰
係数 c を変化させたときの判定結果である.
図示した記号は,
それぞれ,■:行き過ぎ量,●:収束時間,▼:ピーク値,
▲:積分値の条件を満足していないことを示す.従って,マ
ークがない空白の部分が条件を満足している領域である.図
5~8 はそれぞれ図 4 における点 A~点 D における自由振動
波形と周波数応答曲線を示す.点 A のみが条件を満たした場
合である.
点 A と点 B の自由振動波形を比べると,1s 後における変
位が点 A のほうが小さく条件を満たしている.また,点 A
と点 C の自由振動波形と周波数応答曲線を比べると,点 A
のほうが伝達率のピーク値が低く,かつ,行き過ぎ量が小さ
いため,条件を満たしている.点 A と点 D を比べると点 A
のほうが高周波における伝達率が低下しているため,積分値
の条件を満足している.以上の結果から,4条件を満足した
点 A が最適であることがわかる.
今後は,患者の体重によるロバスト性の検証と,実験機に
よる実験的評価を実施したい.
2
3
4
5
Time s
(a)Wave form
(b)Frequency response curve
Fig.5 Vibration characteristics at point A
(k=10000N/m , c=3500Ns/m)
献
(1) 藤田悦則,中川紀壽,小倉由美,小島重行,救急車用防
振 架 台 の 乗 り 心地 と 設 計 ,設 計 工 学 , Vol.35, No.12,
(2000), pp.32-40.
(2) 佐川貢一,猪岡光,猪岡英二,救急車用アクティブ制御
ベ ッ ド の 開 発 , 機 論 (C), Vol.63, No.609, (1997),
pp.1533-1539.
(3) 大嶋茂幸,村田義弘,前森健一,救急車用防振ベッドの
最適設計(患者最大加速度の最小化),機論(C), Vol.63,
No.616, (1997), pp.4128-4133.
(4) 藤田悦則,中川紀壽,小倉由美,小島重行,磁石ばねを
利用した組み合わせ非線形ばねに関する実験的研究,機
論(C), Vol.66, No.645, (2000), pp.1445-1452.
(5) 劉孝宏,松崎健一郎,藤田悦則,大下裕樹,救急車用防
振架台の振動抑制に関する基礎的研究,電気学会講演論
文集,SEAD21,(1991), pp. 593-59
810
自動車用ディスクブレーキの面内鳴きに関する研究
Investigation on In-plane Squeal Phenomena in a Car Disk Brake
○学
正
中山
中江
雄太(大分大学)
貴志(大分大学)
正
劉
孝宏(大分大学)
Yuta NAKAYAMA, Oita University, 700 Dannoharu, Oita
Takahiro RYU, Oita University, 700 Dnnoharu Oita
Takasi NAKAE, Oita University, 700 Dannoharu Oita
自動車用ディスクブレーキは,制動性能が良いことから広
く使用されているが,制動中に発生する鳴きによる騒音が現
在も問題となっている.特に高級車においては,走行中の
静粛性の妨げがクレームとなるケースも多々ある.ブレー
キ鳴きとその制振手法に関する研究は数多く行われてきた
が,鳴き現象は未だ解決されていない.
ディスクブレーキ鳴きは,従来 5000Hz 以上の高周波鳴
きが主流であったが,ディスクブレーキの大型化に伴い,
2000Hz 程度の低周波鳴きが発生するようになってきた.著
者らはこれまで,低周波鳴きに対する発生メカニズムの解
明と防止対策の検討を行ってきた (1),(2).一方,最近特に問
題となっている鳴きの一つに面内鳴きと呼ばれる鳴きがあ
り,企業はその対策に苦慮している.面内鳴きは,いくつ
かの報告 (3)があるものの詳細な検討は行われていない.本
報告では,ブレーキパッドの鳴きへの影響について実験的
に調査した.
2. 面内鳴きの特徴
図1は実験に使用した装置を示す.装置はロータのイン
ナー側のみにピストンが配置された浮動型のディスクブレ
ーキシステムであり,ロータ,キャリパ,パッド,油圧式
ポンプおよびギアドモータから構成されている.実験条件
としては,ロータの回転数は 20rpm,ブレーキ油圧は 0.5
~1.0MPa,制動方法としては回転数一定の引きずり試験を
採用した.図 2 は鳴きが発生したときのキャリパにおける
ロータ面外方向の加速度の周波数分析結果である.この図
から,10195Hz の非常に高い周波数の鳴きが確認された.
以後,この鳴きを基準鳴きとする.
これまでの実験結果から,面内鳴きの特徴を要約すると
以下のようになる.
(1) 面内鳴きはロータ面内の 2 次モードで発生する.
(2) ロータの振動モードは面内方向に主に振動するが,ロ
ータ面外方向にも振動する.また,パッドもロータ面
内・面外方向に振動しており,キャリパはあまり振動
していない.
(3) ロータの正転・逆転の実験を行った結果,逆転ではほ
とんど鳴きが発生しなかった.
(4) パッドとロータの接触領域の影響を確認するため,パ
ッドの一部を切除する実験を行った結果,鳴き抑制に
やや効果がある領域が存在した.
3. 面内鳴きに対するパッドの影響
一般的に,ロータはロータ面内方向に大きく振動してい
るため,面内鳴きの発生メカニズムとしては,摩擦特性が
相対速度に対する負勾配を有することが原因と考えられる.
しかしながら,ロータやパッドがロータ面外方向に振動す
ること,ロータとパッド間の接触領域が面内鳴きに影響が
あること,ロータの回転方向により,面内鳴きの発生・不
発生が変化することなどから,剛性行列の非対称性による
不安定要因も否定できない.面内鳴きの発生メカニズムを
検証するため,パッドの打撃試験および面内鳴きに及ぼす
パッド支持部の影響を実験的に検証した.
3・1 パッドの打撃試験 パッドを軽いひもでつるしてパ
ッドの面外および面内方向に打撃試験を行った.それら結
果をそれぞれ図3および図4に示す.図3および図4から,
パッドの面外方向には鳴き発生振動数と近い周波数が存在
していないが,その近傍には固有振動数が複数存在するこ
と,およびパッドの面内方向には基準鳴きと近い固有振動
数が存在することがわかった.これらのパッドの振動数が
面内鳴きに影響を与えている可能性がある.
3・2 鳴きの抑制実験 図3および図4の結果から,パッ
ドの面外および面内方向の振動がロータに影響を及ぼす可
能性があることがわかった.そこで,パッドの支持部にゴ
ムを貼り付けることにより,パッド支持部の面内鳴きに及
ぼす影響を実験的に検証した.
図5および図6はパッド支持部に貼り付けた防振ゴムの
取り付け位置を示しており,図5では,パッド-マウント
間のロータ面内方向,図6では,パッド-キャリパ間のロ
Fig.1 Test rigs for disk brake
20
Amplitude dBV
1. 緒言
0
10195Hz
-20
-40
-60
-80
0
5000
10000
Frequency Hz
Fig.2 Frequency analysis
15000
-20
out-of-plane
Amplitude dB
-30
-40
-50
-60
-70
-80
-90
0
5000
10000
Frequency Hz
15000
Fig.3 Hammering test (Out-of-plane direction)
-20
in-plane
Amplitude dB
-30
-40
-50
-60
-70
-80
-90
0
5000
10000
Frequency Hz
15000
Fig4. Hammering test (In-plane direction)
Rubber
Fig.5 Attachment position of rubber (In-plane direction)
Rubber
ータ面外方向に取り付けた.防振ゴムは,インナー・アウ
ター両側,アウター側のみおよびインナー側のみに貼り付
けた場合の3通りで行った.実験方法は基準鳴きの発生を
確認した後に,パッドを取り外してゴムを貼り付け,5回
鳴きの測定を行った.その後,ゴムを外し基準鳴きの発生
を再度確認する.この実験を繰り返し行い,最低でも 50
回の実験を行った.実験では,再現性を確保するため,1
日で全ての実験を行うのではなく数日に分けて実験を行っ
た.
実験結果を図7および図8に示す.図7および図8はそ
れぞれ図5および図6の位置に防振ゴムを取り付けた場合
の面内鳴きの発生確率を表す.黒色は 10195Hz の基準鳴き
が発生した場合,灰色はそれ以外の鳴きが発生した場合を
示す.パッド-マウント間(面内方向)に防振ゴムを取り
付けた図7の結果から,両側に取り付けた場合鳴きは全く
発生しないこと,インナー側のみに取り付けた場合の方が
アウター側のみに取り付けた場合より鳴きを抑制する効果
が高いことがわかった.パッド-キャリパ間(面外方向)
に防振ゴムを取り付けた図8の結果から,両側につけた場
合にやや鳴き抑制効果があるが,完全には抑制できないこ
と,インナー側のみに取り付けた場合はほとんど鳴き抑制
効果がないこと,アウター側に取り付けた場合は,基準鳴
き以外の鳴きも多く発生することがわかった.防振ゴムを
挟んだ場合,支持部の減衰を増加させる効果および接触ば
ね定数を低下させる効果がある.摩擦方向である面内方向
では,ゴムの影響が減衰として作用したため,不発生の確
率が増え,面外方向にゴムを取り付けた場合は,減衰効果
はやや小さいものの剛性が変化したため,別のモードが励
起された可能性があると思われる.
今後は,解析的な検討とあわせて発生メカニズムの検証
を継続して行う予定である.
4.結論
Fig.6 Attachment position (Out-of-plane direction)
100
面内鳴きの発生する実験装置を用いてパッドの面内鳴き
への影響を実験的に調査した.その結果,パッドの固有振
動数が鳴きに影響を与えている可能性があること,パッド
の支持剛性および支持減衰が鳴き発生に大きく影響してい
ることがわかった.
文 献
Incidence %
80
60
40
20
0
both sides
outer only
inner only
Attachment position
Fig.7 Result of experiment 1
100
Incidence %
80
60
40
20
0
both sides
outer only
inner only
Attachment position
Fig.8 Result of experiment 2
(1) 末岡淳男・劉孝宏・白水健次・市場保昭,自動車用フ
ローティング型ディスクブレーキの鳴き(第 1 報,鳴き
発生とパッド/ロータ間の接触位置関係の実験),機論,
67-658, (2001),pp.23-30.
(2) 中野寛・劉孝宏・末岡淳男,動吸振器を用いた自動車
用ディスクブレーキの鳴き抑制対策,機論(C),73-734,
(2007),pp.2653-2661.
(3) 横井雅之ほか5名,ディスクブレーキの円周方向振動
による鳴き音(回転円板とはりによる鳴き音),機構論,
99-7,(1999),pp.487-490.
0811
はりの非線形性を用いた防振装置の研究・開発
Development of a vibration isolator using the nonlinearity of a beam structure
○学 末松 拓也(北九大) 正 佐々木 卓実(北九大)
Takuya SUEMATSU, The University of Kitakyusyu ,1-1,Hibikino,Wakamatsu-ku,Kitakyusyu,Fukuoka
Takumi SASAKI, The University of Kitakyusyu
Key Words : Nonlinear Isolator , Buckling , Beam Frame
1. 緒 言
機械・構造物の高性能化,高精度化に対する社会的要求
が高まるにつれ,機械・構造物と周囲の環境との間を伝達
する振動の低レベル化の重要性が高まっている.とくに,
微弱な振動ノイズが機器性能に大きな影響を与えるような
精密機器では,水平・鉛直方向の防振装置の高性能化が非
常に重要な課題となっている.このような要求に対して,
各方面で様々な防振装置の開発が精力的に行われている.
中でもパッシブ防振装置は,設備コストの面,動作の安定
性と信頼性の面から,その重要度が高い.パッシブ防振装
置に求められる最も基本的な特性は,与えられるノイズの
振動数よりも十分に低い固有振動数をもち,振動応答を十
分に小さくすることである.すなわち,出来るだけ柔軟な
ばね要素により構造を支持することが求められる.ところ
が,鉛直方向の防振には,支持する物体の自重によって静
的変位が大きくなってしまい装置が巨大化してしまう.そ
のために,漸軟型の非線形支持要素を利用することで,効
果的な防振性能が得られることが報告されている (1)(2) .本
研究では,鉛直方向防振装置として,はりが座屈する際に
生じる漸軟非線形特性を利用した防振装置を検討し,数値
解析によりその有効性を考える.
2. はり座屈時の非線形性を利用した防振装置
本研究では,はりの座屈を用いた防振装置を検討する.
通常,はりの長手方向に荷重を加えた際,はりの長手方向
の変位と荷重の関係は図 1 の実線のようになる.すなわち,
座屈荷重前後において局所剛性が大きく変化し,座屈後の
局所剛性は座屈前に比べて非常に小さい値をもつ.一般的
な座屈荷重 Pcr は次式で定義される.
Pcr  n
EI
l2
··········································
(1)
ここで,n ははりの境界条件により決定される定数である.
座屈後のはりは,大きな静的剛性と小さな動的剛性を併せ
持ち,この特性を利用することで,高性能な鉛直方向防振
装置を構成することが期待される.しかしながら,単純な
はりを長手方向のみに圧縮するためには,横方向変位を拘
束するために比較的大きく複雑な周辺装置を必要とする.
そこで本研究では,鉛直方向の漸軟非線形性を損なうこ
となく,横方向の変位を拘束する簡便な構造として,図 2
のような 2 本のはりを L 字型に組み合わせたはりフレーム
を採用し,本構造の防振装置としての特性を明らかにする.
防振対象ははりの結合部に設置する.
3. 数値解析
図 2 に示すはりフレームの防振特性を明らかにするため
に,数値解析により,その特性を検討した.
3.1 静的解析
はりフレームモデルの力と変位の非線形特性を明らかに
するために,構造解析ソフト ANSYS により静的解析を行
った.解析に用いた各種の定数は,はりが鉄鋼材料である
ことを仮定し,ヤング率 E = 206 GPa, ポアソン比 0.3,
密度を 7930 kg/m3 と設定している.鉛直はりの断面は 20
mm,厚さ 0.4 mm とし,長さは 300 mm とした.また,
各はりと基礎との境界条件は,両はりとも完全固定とした.
水平はりは,断面積を一定に保ったまま,その断面二次モ
ーメントを種々に変化させて解析を行った.本報では,そ
の一部として表 1 の 5 種類の水平はりによる解析結果を示
す.両はりとも長手方向に 30 分割して解析を行った.図 3
が静的解析の結果である.図の横軸ははりの結合部の鉛直
方向変位,縦軸は結合部に加えた鉛直方向の力の大きさで
ある.図から分かるように,各構造とも,変位の増大に伴
って反力の増加割合が減少する漸軟型の非線形性を示して
いる.また,単純なはりの座屈時の変位-力特性のように明
確な座屈荷重が存在するわけではなく,各構造とも滑らか
な漸軟特性を示している.この際のはりの座屈パターンの
一例を図 4 に示す.以上の結果から分かる本構造の漸軟非
線形特性を利用すれば,本構造を用いた高性能な鉛直方向
のパッシブ防振装置への適用が十分に期待される.
Isolation
object
Beam
Base
Fig.2 Outline of beam frame isolator
Fig.1 Force-displacement relationship of buckled beam
and normal linear spring
Table 1 Cross-section size of horizontal beams
Model
1
2
3
4
5
h×b[mm] 0.4×20 0.7× 1.0×8.0 1.2×6.6 1.6×5.0
11.4
Fig.3 Force-displacement curve of analytical model
以上の 3 つを評価基準として周波数応答を評価する。図 5
に各フレームはりの周波数応答の結果を示す.図の横軸は
外力の振動数,縦軸は外力の基礎への伝達率を示している.
なお,各フレームはりには,図 3 の結果をもとに表 2 に示
す質量を付加した.図 5 より,各モデルとも 1 次の固有振
動数は 1 Hz 付近に存在し,大きな違いはないことが分か
る.2 次固有振動数は各モデルで大きな差が生じ,モデル 1
→モデル 5 の順に 2 次固有振動数が大きくなっていること
が分かる.すなわち,水平はりの断面二次モーメントが大
きいほど,2 次固有振動数が大きくなっている.図では分
かりにくいが,3 次以降の固有振動数についても同様の傾
向が見られた.このことから,高性能な防振装置としては
水平はりの断面二次モーメントの大きいモデルが適してい
ることが分かる.
Model
Mass [kg]
Table 2 Mass on each model
1
2
3
4
8.0
9.5
10.0
10.7
5
11.3
Fig.4 Typical buckling mode
3.2 動的解析
本構造の防振装置としての特性を明確にするために,前
節で得られた静的特性をもとに,本構造の周波数応答解析
を行った.解析の手順は以下に示すとおりである.
(1) 図 3 の結果から,各はりフレームにおいて,小さい局
所剛性を与える力を見出し,その力を与える質量をは
りの結合部に与える.
(2) (1)のはりフレームに対して,重力を考慮した静的解析
を行い,所定の変位まで座屈させる.
(3) (2)の静的平衡点近傍で線形化した系に対して固有値解
析を行い,固有振動数と固有モードを求める.
(4) 10 次までの固有モードを用いて,全系を 10 次のモデル
に低次元化した線型モデルを構築する.
(5) (4)のモデルの質量部分に調和外力を与えた際の周波数
応答解析を行い,系の応答を確認する.
ここで,防振装置に求められる最も基本的な特性は,防振
対象と周囲の環境との間の振動伝達率を低減化することで
ある.この特性を満足し,高性能な防振装置となり得るた
めには,本はりフレームの周波数応答が以下に示す特性を
持つことが求められる.
(1) 外力の振動数が 1 次の固有振動数以下の場合は,常に
伝達率は 1 よりも大きくなる.そのため,広い範囲で
良好な防振性能を得るためには,1 次の固有振動数を出
来る限り小さくし,外力の振動数が 1 次の固有振動数
以上となることが必要である.
(2) 外力の振動数が 2 次以降の高次の固有振動数に近づく
と伝達率が上昇する.そのため,広い範囲で良好な防
振性能を得るためには,2 次の固有振動数を出来る限り
大きくし,外力の振動数が 1 次と 2 次の固有振動数の
間に存在し,常に伝達率を低く保つことが必要である.
(3) 高周波のノイズに対応するため,2 次以降の固有振動数
領域で,共振ピークの値が小さくなることが必要であ
る.
Fig.5 Frequency response of analytical model
4. 結 言
本報では,高性能なパッシブ防振装置として,2 本のは
りを L 字型に結合したはりフレームの座屈現象を利用した
防振装置を検討し,その特性を数値計算により明らかにし
た.その結果,以下の特性が明らかになった.
(1) 本モデルは,はり結合部に鉛直方向の荷重を加えた場
合,鉛直はりの座屈が生じることで漸軟型の非線形特
性を示す.
(2) この特性により,本モデルは高い静的剛性と低い動的
剛性を併せ持つ構造である.
(3) 水平はりの断面二次モーメントを変化させることで,
漸軟特性が変化する.
(4) 水平はりの断面二次モーメントが大きいほど,1 次と 2
次の固有振動数の間隔が開き,防振装置としての性能
が向上する.
文 献
(1)
S-T Park and T-T Luu , Techniques for optimizing parameters
of negative stiffness , Proc.IMechE Vol.221 Part
C ,pp.505-511
(2)
J.Winterflood,D.G.Blair,B.Slagmolen ,High performance
vibration isolation using springs in Euler column buckling
mode , Physics Letters A 300(2002) pp.122-130
0812
成長する組織上のパターン形成について
Pattern formation on a growing tissue
○学 本田 貴之(琉球大学) 正 倉田 耕治(琉球大学)
Takayuki HONDA, University of the Ryukyus, senbaru
Koji KURATA, University of the Ryukyus
1
緒言
生物には様々な模様を持ったものが存在する。反応拡散
方式をモデルとした形態形成に関する組織上のパターン形
成をシミュレーションし、ミノカサゴのような縞模様に見
られるリズムを再現することを目的とする。またミノカサ
ゴの縞模様と骨質歯鳥類の歯の配列に強弱中弱の繰り返し
パターンが現われていることがわかる。
1, nisihara, Okinawa
𝜕𝒖
𝜕𝑡
= 𝐷 △ 𝒖 + 𝒇(𝒖)
ここで
𝑢 (𝑡, 𝑥, 𝑦)
𝒖=( 1
)
𝑢2 (𝑡, 𝑥, 𝑦)
,
(1)
△=
∂2
𝜕𝑥 2
+
∂2
𝜕𝑦 2
であり、𝒖は物質の濃度を表わし、また𝒇は反応を表して
いる。さらに𝐷は拡散係数を要素とする対角行列であり,
𝑑
0
𝐷=( 1
)
,
𝑑2 >𝑑1 >0
0 𝑑2
である。ここで(1)式を差分によって次のように近似する。
まず、空間𝑥軸を⊿𝑥, ⊿𝑦の間隔で分ける。
𝒖(t+⊿𝑡,𝑥,𝑦)−𝒖(𝑡,𝑥,𝑦)
⊿𝑡
図1ミノカサゴ幼魚
www.izuzuki.com/Zukan/fish/kasago/minoKG.html
= 𝐷(
⊿ 𝒙𝒙
⊿𝑥 2
+
⊿ 𝒚𝒚
⊿𝑦 2
) 𝒖 + 𝒇(𝒖)
(2)
と近似できる。ここで、
⊿ 𝑥𝑥 𝒖 = 𝒖(𝑡, 𝑥 + ⊿𝑥, 𝑦)+ 𝒖(𝑡, 𝑥 − ⊿𝑥, 𝑦) − 2𝒖(𝑡, 𝑥, 𝑦)
(3)
⊿ 𝒚𝒚 𝒖 = 𝒖(𝑡, 𝑥 + ⊿𝑥, 𝑦)+ 𝒖(𝑡, 𝑥 − ⊿𝑥, 𝑦) − 2𝒖(𝑡, 𝑥, 𝑦)
(4)
である。
図2ミノカサゴ成魚
www.env.go.jp/nature/naco/kinki/kushimoto/kaisetll
.html
3 シミュレーション
一次元100細胞の場合と、二次元30×30の場合の
細胞を考えた2パターンでシミュレーションを行った。そ
れぞれの細胞𝑢1 , 𝑢2 に 0.09~-0.09 の濃度を乱数で与え、一
次元は左右、二次元は上下左右に周期境界条件を用いてシ
ミュレーションを行った。今回のシミュレーションに用い
たのは以下のようなモデルである。
𝑢1
𝑏𝑢 𝑢 + 𝑐(𝑢1 )3
(𝑢 ) = 𝐷 △ 𝒖 + 𝐴𝒖 + ( 1 2
)
𝜕𝑡
2
𝑏𝑢1 𝑢2 + 𝑐(𝑢2 )3
𝜕
𝐷=(
図3 骨質歯鳥類の歯
http://newswatch.nationalgeographic.com/2010/10/05
/giant_birds_with_false_teeth/
2 反応拡散方程式
反応拡散方程式が、斑点、縞模様などの模様を形成する
ための条件は線形解析を行うことによってある程度決定す
ることができる。最終的に安定となる模様は、非線形項の
影響があるため、数値実験によって模様の形を決定するこ
とができる。二次元二成分の反応拡散方程式の一般形は次
のように書ける。
1.2
0
)
0 2.92
,𝐴=(
3.5 −4.0
)
3.5 −4.0
𝑏 = 0, 𝑐 = −1 , ⊿𝑥 = 1 , ⊿𝑦 = 1 , ⊿𝑡 = 0.07
一次元の結果を図1に、𝑢1 が正の値を持った細胞を+で表
示した二次元の結果を図2に示す。
4 成長する組織上のパターン形成
4.1 一次元の場合
細胞数100の一次元の場合を考え成長させる。成長は
細胞数を増加させるのではなく、細胞間の距離 ⊿𝑥 の値を
徐々に大きくすることで成長したこととし、𝑢1 の値が0以
下になった場合、𝑢1 の値は0に固定する。モデルは以下の
ようにする。
𝑢1
𝑏(𝑢1 − 𝑝)(𝑢2 − 𝑝) + 𝑐(𝑢1 − 𝑝)3
(𝑢 ) = 𝐷 △ 𝒖 + 𝐴𝒖 + (
)
𝜕𝑡
2
𝑏(𝑢1 − 𝑝)(𝑢2 − 𝑝) + 𝑐(𝑢2 − 𝑝)3
𝜕
𝐷=(
4.8
0
)
0 11.68
3.5
,𝐴=(
3.5
−4.0
)
−4.0
𝑏 = 0, 𝑐 = −1 , 𝑝 = 0.2, ⊿𝑥 = 0.5 , ⊿𝑦 = 0.5 , ⊿𝑡 = 0.0007
⊿𝑥 = 0.5, 2.5, 8.0の時点の状態を図 5,6,7 に示す。
4.2 二次元の場合
次に、魚の形の二次元の領域を考え、縦に 20、横に 100
の細胞を考える。境界条件は反射境界条件を用い、拡散係
数𝐷の値を以下のようにしたところ以外は一次元の場合と
同じ条件である。
𝐷=(
図7
一次元の成長する組織上のパターン形成(⊿𝑥 = 8.0)
図6では濃度が0のところの幅を見ると強弱の繰り返し
パターンが現れ、図7では強弱中弱の繰り返しパターンが
現われているのが分かる。
3.0 0
)
0 7.3
⊿𝑥 = ⊿𝑦 = 0.5, 4.5, 8.5の時点の状態を図 8,9,10 に示す。
5
図3
図4
2 次元の成長する組織上のパターン形成(⊿𝑥 = 0.5)
図9
2 次元の成長する組織上のパターン形成(⊿𝑥 = 4.5)
図 10
2 次元の成長する組織上のパターン形成(⊿𝑥 = 8.5)
結果
一次元におけるシミュレーションの結果
二次元におけるシミュレーションの結果
図3、図4より一次元、二次元ともに一定の周期を持つ
模様の生成に成功した。
図5
図8
一次元の成長する組織上のパターン形成(⊿𝑥 = 0.5)
成長させると縞模様の間に模様ができ、さらに成長させ
ると、またその間に模様ができることが確認できた。
6
結言
模様を徐々に成長させることによって、ミノカサゴの縞
模様のような強弱中弱の繰り返しパターンを再現すること
に成功した。今後の課題として、もっとミノカサゴの模様
に近い模様を形成する。
1)
2)
3)
図6
一次元の成長する組織上のパターン形成(⊿𝑥 = 2.5)
参考文献
宮城 哲郎 “二つの反応拡散方程式の弱い結合によ
る複雑な模様の形成”(2009)
小川 育男 “2次元反応拡散方程式の空間位相同調
とその紋様形成への応用”(1993)
宮永 寛史 “複数の反応拡散系の弱い結合による模
様の制御”(2011)
0813 はりの座屈による負のばね特性を利用した防振装置の開発
Development of a vibration isolator using the negative spring property of buckled
beam
○学 藤戸 孝一(北九大) 学 櫨木啓介(北九大)正 佐々木 卓実(北九大)
Koichi FUJITO,The University of Kitakyushu,1-1,Hibikino,Wakamatsu-Ku,Kitakyushu,Fukuoka
Keisuke HAZEKI,The University of Kitakyushu
Takumi SASAKI,The University of Kitakyushu
Key Words : Nonlinear isolator,Beam frame,Negative stiffness,Buckling
1. 緒 言
自動車や家電製品をはじめとする身近な機械をはじめ,
工作機械など大型の機械は,防振装置なしで運転させると
多量の振動を発生させる.このような振動はその装置の性
能,安全性,快適性を損なうだけでなく,装置自体を破壊
する危険性がある.また,振動が周囲の環境に伝達すると,
振動・騒音問題を引き起こし,伝達周波数によっては人体
に極めて高いストレスを与える.その他にも地震での地面
の振動は建造物等に甚大な被害をもたらし,また重力波検
出装置のような多くの精密測定装置は微小な振動も大きな
ノイズとなるため計測結果に大きな影響を与える.
防振装置は周囲の環境と機械との間を伝達する振動を低
減させることが求められる.近年の,機械に対する高速化,
軽量化,複雑化,精密化および知能化を通して,さらなる
性能向上を求める声が一段と増大している.ここで防振性
を軽視すると,かえって性能低下や耐久不足を招いてしま
うことが多いために,防振性は極めて高いものを要求され
ることが多くなった.そのため高性能な防振装置の開発は
社会的重要度が非常に高い.
現在水平方向の防振は,比較的良い防振性能をもつ装置
が多く開発されている.一方,鉛直方向の防振は水平方向
と比べ搭載する機械の自重を考慮しなければならないので,
質量が大きい物体を柔軟な受動防振装置で支持すると,機
械の自重のみで大きな変位を持ってしまい,装置が巨大化
してしまう.そのため質量が大きいものでも小さな変位で,
防振することを可能にする装置の開発が求められている.
本研究では,その要求に対処するためにはりが座屈した時
の負のばね特性を利用した防振装置の開発を行う. (1)(2)
2. 研究対象
本研究でははりを図 1.1 のように組んだはりフレームを
実験対象とした.これは鉛直方向に立てたはりと垂直には
りを結合したものであり,このようにはりを結合させるこ
とでシステムの水平方向変位の拘束を図った.防振したい
装置は,はりの結合部に取り付けるものとした.はりの結
合部に荷重を加えると図 1.2(a),(b)の 2 通りの座屈をする.
(a)は力-変位曲線が常に正の勾配を持つ安定な座屈である.
一方(b)は力-変位曲線の一部に負の勾配を持つ領域のある
不安定な座屈となる.
本研究では,構造の負のばね特性を利用するために,図
1.2(b)に示す不安定な座屈を研究対象とした.図 1.2(b)に荷
重をかけた時の力-変位曲線を図 2 に示す.図 2 において接
線の傾きが局所剛性を表す.このグラフにおいて傾き即ち
局所剛性が負の部分は不安定領域とよばれ,この部分では
跳躍現象が起こるために,系が安定的に存在することはで
きない.そこで本研究では,図 1.2(b)の構造に正のばね定
数を持つコイルばねを組み合わせ,微少な正の局所剛性を
もつ系を検討し,防振装置としての有効性を検討する.
Fig.1.1 Beam frame
(a)
(b)
Fig.1.2 Buckling mode of beam frame
Fig.2 Force-displacement characteristics of Fig.1.2 (b)
3. 数値解析とその結果
3.1 コイルばねの取付け位置
詳細な検討結果は省略するが,数値解析の結果より,コ
イルばねは図 3 のように取付けると最も効率良く防振性能
が得られることが分かった.以降では,図 3 の構造を研究
対象とし,数値解析と実験から検討を行う.
以降の数値解析は有限要素法解析ソフト ANSYS を用い
た.ここでは,最も良い防振性能を持つはりの鉛直・水平
はりの組み合わせを見つけるために,図 3 の鉛直はりの長
さを 300mm,厚さを 0.5mm とし,水平はりの長さや,厚
さを変化させて比較検討を行った.長さ変化解析の際は,
各はりの支持はピン支持,厚さ変化解析の際は完全固定で
解析をしている.
Fig.5 Frequency response (Comparison by changing the
thickness of horizontal beam)
Fig.3 Outline of research model
3.2 水平はりの長さ変化比較
水平はりの長さを 150,250,300,350,400,450, 600mm
とし,ANSYS で解析を行った.その周波数応答解析の結
果を図 4 に示す.但し図 4 は,1 次の共振ピークに対する 2
次以降の共振ピークとの間隔を比較しやすいよう,横軸に
振動数比をとり,対応する 1 次固有振動数で正規化したも
のを示している.周波数応答曲線において良い防振性能が
得られているものは 1 次 2 次間の共振周波数の幅が広く尚
且つ 2 次以降の共振ピークの高さが低いものである.この
2 つの条件を相対的に考慮すると水平はりの長さが 250mm
の時に最も良い防振性能が得られている事が分かった.
3.3 水平はりの厚さ変化比較
水平はりの厚さを 0.3,0.4,0.5,0.6,0.7mm として周波
数応答解析を行った.結果を図 5 に示す.これらを比較す
ると,水平はりの厚さが 0.7mm の時に最も良い防振性能が
得られていることが分かった.
4. 実験結果
3.2 節で良い結果が得られた鉛直はりの厚さ 0.5mm,水
平はりの厚さ 0.7mm の構造を実験対象とし,実験モデルを
製作した.実験装置の詳細は以下の通りである.また装置
の外観を図 6 に示す.
はりの境界条件:完全固定
水平はり:長さ 280mm,幅 18mm,厚さ 0.7mm
鉛直はり:長さ 280mm,幅 18mm,厚さ 0.5mm
この装置の力-変位特性を調べるため,はり結合部に荷重
を加え,レーザ変位計とロードセルを用いて測定を行った.
結果を図 7 に示す.5 回測定を行ったが,各々の結果はほ
ぼ一致しており,負の勾配を持つ領域を確認することがで
きる.
Fig.6 Experimental model
Fig.7 Experimental result of force-displacement
characteristics
5. 結 言
本報では,はりの構造の負のばね特性を利用した防振装
置の検討を行った.数値解析の結果から,負のばね特性と
コイルばねを組み合わせることで,高性能な防振装置を構
成することが可能であることが分かった.また,実験モデ
ルを製作し,その実験結果から,負のばね特性が観測され
た.今後は,実験モデルにおいて最適な防振性能を得るた
めのコイルばねを選定し,実験モデルの周波数応答を計測
することで,防振装置としての有用性を検討していく.
文
1)
2)
Fig.4 Frequency response (Comparison by changing the length
of horizontal beam)
献
S-T Park and T-T Luu,Techniques for optimizing of negative
stiffness,Proc.IMechE Vol.221 PartC,pp.505-511
J.Winterflood ・ D.G.Blair ・ B.Slagmolen , High performance
vibration isolation using springs in Euler column buckling mode,
Physics Letters A300(2002),pp.122-130
814 壁面/床面衝撃音を対象とした能動的音響制御 Active Control against Wall/Floor Impact Noise
○学 彌冨 哲平(九州大) 正 木庭 洋介(九州大)
正 石川 諭 (九州大) 正 雉本 信哉(九州大)
Teppei YADOMI, Kyushu University, Moto-oka 744, Nishi-ku, Fukuoka
Yosuke KOBA, Kyushu University
Satoshi ISHIKAWA, Kyushu University
Shinya KIJIMOTO, Kyushu University
Key Words : Active Noise Control, Impact Noise, FTF Algorithm
1. 緒言 集合住宅などの生活空間において,壁面や床面を透過し
てくる騒音が問題となることがある.透過音として物の落
下音や足音などの衝撃音が挙げられるが,衝撃音は主に低
周波帯域にピークを持ち,受動的な音響制御では対策が難
しい場合がある.本研究ではこの衝撃音を,能動的音響制
御を用いて制御することを目的とする.能動的音響制御と
は騒音に対し逆位相,同振幅の制御音を干渉させることで
騒音を打ち消すような技術である.このとき適応アルゴリ
ズムを用いて騒音制御を行うが,衝撃音は単発的に発生す
る騒音のため,とくに高い収束性能が求められる.本研究
では収束速度の速い高速トランスバーサルフィルタアルゴ
リズム(FTFアルゴリズム) ( 1) を用い,その改良を行う
ことでより良い制御性能を得ることを目的とし,シミュレ
ーションによって効果を確認する. 2. 能動音響制御 能動音響制御のアルゴリズムとして,先に述べたFTF
アルゴリズムを用いる. FTFアルゴリズムは,再帰的最
小二乗法アルゴリズムアルゴリズム(RLSアルゴリズム)
を基にして考えられたものである.最も一般的なアルゴリ
ズムであるLMSアルゴリズムが勾配法に基づいているの
に対し,FTFアルゴリズムは最小二乗法に基づくので収
束速度が速いという利点がある. 本 研 究 で は , F T F ア ル ゴ リ ズ ム を 直 接 法 (Direct
Adaptive Algorithm, DAA)(2)に適応する.直接法は二次経
路特性の事前同定が不要であり,制御点の移動による二次
経路特性の変化にもある程度追従して制御できる. 直接法
FTFアルゴリズムのブロック線図を図 1 に示す.騒音源
から誤差マイクまでの音響特性(一次経路特性) !,騒音源
から参照マイクまでの音響特性を!!"# ,制御音源から誤差
マイクまでの音響特性(二次経路特性)を!とおく.直接法
では,制御器内部に仮想的な誤差信号!!! ,!!! を導入し,
それらが 0 になるように 3 つのフィルタ!,!,!を更新す
る.このとき 3 つのフィルタ!,!,!はそれぞれ−!/!!"# !,
−!/!!"# , !に収束する. 3. 単発騒音暴露レベル 衝撃音の制御において,制御効果を評価する指標として
単発騒音暴露レベル!! を用いる.この単発騒音暴露レベル
は,単発的な騒音を同等なエネルギーを持つ 1 秒間の定常
騒音に換算したものである. !! は次式で表わされる.
!! = 10 log!"
1
!!
!!
!!
!! !
!" ! ! (!)
(1)
Fig. 1 Block diagram of DAAFTF
ここで,
!! :基準化時間(1[s])
!! ∼!! :単発的に発生する騒音の継続時間を含む時間
!(!):誤差信号
!(!):参照信号
である.制御前後のデータのそれぞれについて!! を求め,
次式を用いて制御前後の差Δ!! を求める.
Δ!! = !!!" − !!!""
(2)
ここで,添字の on,off はそれぞれ制御している状態,制
御していない状態を指す.
4. Δ!! を評価指標とした可変忘却係数 直接法は3つのフィルタを更新するため,フィルタの収
束に時間がかかる.さらに,衝撃音の制御では衝撃音が発
生している間にしかフィルタが主に更新されないため,収
束速度の速さが求められる. FTFアルゴリズムは忘却係数!を含んでおり,過去の
データの影響をどれくらい残すのかを決定できる.!は 1 以
下だが 1 に近い値を取る.FTFアルゴリズムにおいて,
適切に!が小さいと収束速度は速くなる傾向があるが,小
さい状態が続くと制御系が不安定になりやすい.そこで,
!! を評価指標として!を可変として制御中に変化させ,制
御系を安定させつつ速い収束速度を得ることを考える.
Δ!! を求めるには参照信号!! ,誤差信号!! ,所望信号!! が必
要である.しかし,実際の実験を想定した場合,制御中は
制御音を出しているため!! を得る事ができない.そこで!!
の推定値!! = ! ∗ !! を代わりに用いてΔ!! の推定値Δ!! を
求め,評価指標としている.!を次式にしたがって,衝撃
音が発生する毎に変化させる.
!!"#
DAALMS
DAAFTF
(Δ!! ≥ Δ!! !"# )
なお,今回のシミュレーションでは,図 2 のように設定し
た.
5. シミュレーション 本論文では図 3 に示すような音場を想定してシミュレー
ションを行う.なお,制御効果を確認するためにLMSアル
ゴリズムとの比較を行う.制御対象音として,木箱の内側を
一定の時間間隔で硬質ゴムのボールで叩くことにより発生
する衝撃音を用いる.表 1 にシミュレーション条件を示す.
なお,収束性能をあげる目的で,!がある程度収束するの
を待ってから!に初期値を与え,!, !の更新を開始するよ
うにしている.図4にLMSとFTFの比較を,図5に忘
却係数を固定したものと可変としたものとの比較を,図 6
に忘却係数を可変として制御シミュレーションした時の忘
却係数の時間変化を示す. 図4よりFTF, LMSともに回数を重ねるにつれ制御 できているが, FTFの方がより速く収束していることが 分かる.また図5より忘却係数を可変としたものの方が,
固定したものよりも収束速度が速いことが分かる. 6. 結言 本論文では直接法型のFTFアルゴリズムとLMSアル
ゴリズムの比較を行った. 明らかになったことを以下に
示す. l FTFアルゴリズムの方がLMSアルゴリズムよりも
衝撃音への制御性能が高いことを確認した. l 忘却係数を固定せず,Δ!! を評価指標として適切に変化
させることで,制御系を安定させつつFTFアルゴリズム
の収束速度を速くすることが可能であることを確認した. 今後は直接法FTFアルゴリズムを用いて実際の実験を
行うとともに,制御点が移動した場合における衝撃音の制
御をシミュレーション及び実験で確認する予定である. Le[dB]
0
é5
é10
é15
0
5
10
15
Number of impact
20
Fig. 4 Control effect in simulated result; DAALMS vs DAAFTF
5
lambda 0.9992
lambda 0.9988
variable lambda
0
Le[dB]
!!"#
5
Δ!! !"# < Δ!! < Δ!! !"# (3)
é5
é10
é15
0
2
4
6
Number of impact
8
10
Fig. 5 Control effect in simulated result of FTF
1
lambda
0.9995
0.999
Lambda[é]
! = !!"#
(Δ!! ≤ Δ!! !"# )
!!! − !"! !"# !!"# − !!"#
−
!"! !"# − !"! !"#
0.9985
0.998
0.9975
0.997
Δ!! !"#
Δ!! !"#
!!"#
!!"#
0.9965
= 0 dB
= −10 dB
= 0.997
= 0.9999
Fig. 2 lambda - Le
0.996
0
20
Time[s]
FTF
LMS
Sampling frequency [Hz]
1000
1000
1024
1024
Adaptive filter length
200
200
Step size parameter !
-
0.2
0.9992,0.9988,
Forgetting factor !
variable
Cutoff frequency of LPF [Hz]
500
500
参考文献
1)
2)
Fig. 3 Acoustic Field for Simulation
Algorithm
Filter length of acoustic
60
Fig. 6 Changing of Lambda
Table. 1 Condition of Simulation
property
40
今村泰理, 高速に収束する適応アルゴリズムを用いた実空
間での能動的音響制御 ,平成 17 年度修士論文,九州大学
河野敏和,太田悠助,佐野昭, 2次経路の間接同定を必要
としない能動騒音制御アルゴリズム ,電子情報通信学会論
文誌 A,J86-A(2003),pp. 9-18.
一方向の外乱環境に対する旋回クレーンの制御系設計法
0815
Neuro-control System Design Method for Rotary Crane with Disturbance
○学 新垣 康太(琉球大学) 正 中園 邦彦(琉球大学)
Kouta ARAKAKI, University of the Ryukyus, Senbaru 1, Nishihara, Okinawa
Kunihiko NAKAZONO, University of the Ryukyus,
Key Words : Rotary Crane, Genetic Algorithm, Neuro-control
1.緒言
建設現場や港湾などで広く用いられているクレーンシス
テムは,ブームの一端を中心とした旋回動作や起伏動作を行
うことによって,荷物を所定の位置まで運搬する機械装置で
ある.クレーンシステムの重要な制御課題は,目標位置にお
ける残留振れを抑制することである.実際の現場では,旋回
動作のみによって荷物を運搬することが主である.また,実
機のクレーンシステムに対する振れ止め抑制問題の実用化
には,風や障害物回避などの外乱環境を考慮した吊荷の振動
抑制制御系を設計しなければならない.
そこで本研究では,一方向の外乱環境に対する旋回クレー
ンの制御系設計法を提案する.一日の作業で風向が大きく変
わることはないため,特定方向の風に特化させた階層型のニ
ューロ制御器(NC)を設計する.NC の最適化には遺伝的アルゴ
リズム(GA)を用いる.
2.旋回クレーンのモデリング
ここで , はブームの質量 と慣性モーメント を含む 定
数, は操作量, は重力加速度である.
3.旋回クレーンの振動制御
図2
旋回クレーンの振動制御
表1
GA のパラメータ
初期個体
子個体
選択方法
交叉方法
世代数
100
50
ランキング方式
一点交叉法
5000
ニューラルネットを用いた吊荷の振動制御系を図 2 に示す.
ここで,
,
である.また,NC の最適化に用いた GA のパラメータを表 1
に示す.
4.外乱設定
図1
旋回クレーンシステムのモデル
本研究で用いる旋回クレーンモデルの概略図を図 1 に示
す.図中において, はロープ支点までの高さ, はブームの
旋回半径, はロープの長さ, はブームの質量, は吊荷の
質量である.は吊荷の進み角, は吊荷の振れ上がり角,
はブームの傾斜角, はトルク,
は吊荷の位置, は張
力, はブームの旋回速度である.風速 の外乱が与えられ
たとき,風力 が吊荷に作用する.このとき, 方向と 方向
の風力をそれぞれ , とする.
吊 荷の揺れ が十分小 さいと仮 定すると ,吊 荷の位置 は
平面のみを考えれば良い.このとき,旋回クレーンの
吊荷の運動と旋回動作を表す運動方程式は,外乱を含めて
次式で近似される.
図3
風速
本研究で用いる風による外乱設定を図 3 に示す.
外乱は,吊荷の制御開始後 秒~ 秒の間,一様の風速
[m/s]で吹く定常流とする.NC による吊荷の制御時間 秒
内で ~ 秒までに吊荷が整定するように GA の最適化を行
う.
5.最適化条件
NC を GA によって最適化する際,作用する風向条件を図 4
に示す.
回ランダムに発生させる.また,風向の範囲φを変える.こ
のとき,制御シミュレーションの評価関数 の値が 0.1 未
満の場合,振れ止め抑制成功とする.制御シミュレーション
の評価関数 を次式に示す.
8.シミュレーション実験
5000 世代まで GA で最適化させた NC を用いて,性能評価
の シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 実 験 結 果 を 表 2,3 に 示 す . こ の と
き, =0~10,10~13 の場合の制御の成功率を表 2,3 に示す.
表2
φ [°]
±15°
±20°
±25°
±30°
±35°
±40°
±45°
成功率[%]
ε =45° ε =135° ε =225° ε =315°
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
100
99
100
100
100
98
100
100
100
表3
図4
φ [°]
±15°
±20°
±25°
±30°
±35°
±40°
±45°
風速と風向の関係
吊荷の位置 点から, 方向に対して範囲が± φだけずれた
方向に風速 の風を発生させる(図 4 の黒丸の点.ただし,
点は外乱なしの場合).風力 と風速 には次式のような関
係がある.
ここで,
る.
=0~10[m/s]の場合
=10~13[m/s]の場合
成功率[%]
ε =45° ε =135° ε =225° ε =315°
95
87
100
100
84
83
100
100
71
77
100
100
61
73
92
100
52
68
90
100
45
65
72
100
44
56
73
100
は抗力係数, は空気密度, は吊荷の断面積であ
6.GA の評価関数
GA の評価関数は以下の通りである.
ここで, =0 のとき,外乱なし, =1,2 のとき, ±φ方向の風
とする. は目標値で
は外乱の 方向での吊荷の状態
である. は評価関数に対する重みである.
7.シミュレーション条件
本研究で用いる旋回クレーンのパラメータは,
=1.0[m/s], =1.0[kg], =1.0[m], =1 とする.
GA の 最適 化の 際の 条件 は , =1.0, =3.0,評価 時間 は
=6.0, =7.0 であり,制御時間 =10[s]である. =10[m/s],
φ=15[°]とし,
とする.
=45,135,225,315[°]の各方向に対して最適化を行い,
次に,GA で最適化させた NC の性能評価を行う.このとき
の外乱発生の条件を以下に示す.吊荷の制御開始後 =1.0
秒~ =3.0 秒の間,外乱を発生させる.風力は,風速
=10[m/s]以内の風のと,風速 =10~13[m/s]の風を 100
表 2 より,風速 10[m/s]以内においてはほぼ全ての方向で
振れ止め抑制に成功している.しかし,表 3 より,風速 10~
13[m/s]では振れ止め抑制の成功率にばらつきがみられ
る. =315°と =225°では成功率が高いが, =45°と
=135°では低かった.
9.結言
本研究では,一定期間,一様な風の外乱環境下に対する旋
回クレーンシステムの振れ止め制御系を提案した.その結
果,風速 =10[m/s]以下の風に対しては良好な結果が得ら
れた.風速 =10~13[m/s]では, ±20°までは良好な結果
が得られたが,外乱の風向の範囲が広がるとあまり良好な
結果が得られなかった.提案する NC は,風向や風速の想定
した範囲内において,ある程度有効な制御性能を有してい
ることがわかった.
1)
2)
文 献
大音 光博,安信 誠二,熟練操縦者の制御戦略を考
慮した旋回クレーンの制御,計測自動制御学会論文集,
Vol.33,No9,pp.923-929,1997
宮城 一郎,中園 邦彦,金城寛,定常風速下におけ
る旋回クレーンの制御系設計法,第 30 回 SICE 九州支
部学術講演会論文集,pp.181-182,2011
816 振動モードを利用した薄板ガラスの割断加工の可能性に関する研究
Research on the possibility of cleaving of thin glass processing using
〇学 園田 剛 (佐世保高専) 正 森田 英俊(佐世保高専) 正 原 要一郎(佐世保高専)
学 朝長 和也(佐世保高専) 学 野崎 亮太(佐世保高専) 学 白髭 幸治(佐世保高専)
Takeshi SONODA, Sasebo National College of Technology
Hidetoshi MORITA, Sasebo National College of Technology
Youichirou HARA, Sasebo National College of Technology
Kozuya TOMONAGA, Sasebo National College of Technology
Ryouta NOZAKI, Sasebo National College of Technology
Kouji SHIRAHIGE, Sasebo National College of Technology
Key Words : glass, brittle materials, cleaving process, vibration mode
諸言
近年,脆性材料は産業界における多種多様な分野で広く
必要とされている.例えば,年間 1 億 7000 万台生産されて
いる薄型テレビ市場である.地上波デジタル放送の開始に
より,薄型テレビの需要が増加し,それに伴った低価格化
によりその規模は年々拡大している.更に携帯電話は,高
齢者から子供まで年齢を問わず使用されており,パソコン
も家庭や会社に広く普及してきているため,これらに付随
するディスプレイ用ガラス基板の需要と,それを加工する
機械の効率化などが強く求められている.
ガラスの割断は,レーザやスクライビングホイールによ
ってガラスの深さ方向にスクライブ(けがき)線を入れ,
そのき裂を進展させるように曲げ応力を加え,ガラスを割
断する方法によって行う.
現在,スクライブ加工後に,割断するための方法として
は,硬質のゴムローラでスクライブ線上に押し付けるもの
が主流である 1).しかしクロスカットするには,材料を 90°
回転させる必要があるなど問題点もある.
そこで新しい割断技術として,共振周波数付近の振動モ
ードの腹の起伏による曲げ応力を利用して,スクライブを
深さ方向に成長させることが可能なのではないかと考えた.
この方法では直交する 2 方向を同時に割断できる可能性が
ある.そのため材料を 90°回転させる必要がなく,クロス
カット時の工程を減らすことにつながり,従来の手法より
も,歩留りの高い方法となるのではないかと考えられる.
本研究では実際にガラスを加振する実験装置の製作を行
う.また,FEM による振動モード解析から,本研究におけ
る割断技術の可能性についてさらに検証を行う.
1.
理論
振動による割断方法の原理を説明する.加振により振動
されたときの振動モードの腹を,あらかじめガラスに入れ
ておいたスクライブ線と合わせることで,ガラス表面に引
張応力が発生し,き裂を進展させることができる.
振動モードとは,各固有振動数で物体が振動する際の,
振幅形状のことである.例として Fig.1 に固定端を 2 行 3
列に並べたモデルの,周波数 f=711Hz で加振した際の,9
次の振動モードを示す.一般に,高次の振動モードほど複
雑な形状と高い振動数を持つ.
2.
物体の固有振動数は,その物体の大きさ(長さ l,幅 b,
高さ h,表面積 A,断面時二次モーメント I ),ヤング率 E,
密度 ρ に関係している.ここで, n 次モードのときの固有
振動数 f n は,以下の式より求まる 2).
fn 
( n l )
2l 2
EI
A
(1)
bh3
, A  bh である.
12
ま た  nl は , 両 端 固 定 は り に お け る 振 動 方 程 式
ここで, I 
cos n l cosh n l  1 の解より,それぞれ求めることが出来る.
3. 実験
3-1 実験装置の製作
Fig.2 は製作した実験装置を示したものである.
今回の研究の目的は,振動によるガラスの割断の可能性
を探ることである.そのため,実機のモデルとは異なるが,
まずは基礎的なモデルである,両端固定のガラスを割断す
ることを目的とした実験装置の製作を行なった.
ガラスの固定方法としては,ネオジム磁石を配置し,そ
の上にガラスを置き,さらに薄い鉄板で挟んで固定する方
法を採用した. また加振器としては,振動スピーカの先端
に針を取り付けたものを使用した.針によってガラスを直
接叩いて,加振することができるようになっている.
3-2 実験方法
3-2-1 振動モードの観察
FEM による解析結果と,実験による各振動モードにおけ
る共振周波数の値を比較し,モデルの有効性を確認するた
めの実験を行なった.実験はクラドニ図形の確認をするた
め,イオン交換樹脂製粒子(有効経 0.25mm 以上)を使用し,
ガラスの挙動を観察した.
このときに入力した周波数を FFT アナライザで測定し,
固有振動数を同定する.
Fixed part
Needle
FFT Analyzer
Function generator
Shaker
Fixed part
Fig.1
Examples of vibration mode (f=711Hz)
Amplifier
Fig.2
Schematic diagram of experimental apparatus
Table 1 Physical properties of the specimen(glass)
Length
Width
Thickness
90 [mm]
30 [mm]
0.7 [mm]
Poisson's ratio
0.23
Table 2
mode
1
2
3
4
5
6
Young's modulus
71600 [MPa]
Density
2200 [kg/m3 ]
Experimental, FEM and theoretical values of the
natural frequency of each vibration mode
Experimental
FEM
Theoretical
values (Hz)
values (Hz)
values (Hz)
507
512
695~780
―
1133
965~1050
1397
1411
1185~1280
1540~1720
2435
1900~2175
2910~3400
2768
4027
(a)Fixed part (1×2)
(b) Fixed part (2×2)
Fig.3 The primary mode of vibration
512Hz(1 次)
2768Hz(5 次)
―
2739
5135Hz(8 次)
―
3-2-2 FEM による振動解析
振動モードの発生の傾向を調べるため,アダプティブ P
法を用いた構造解析が可能な,Pro-Engineer (Mechanica)を
使用して振動モード解析を行った.振動モードの発生の傾
向を調べることが今回の目的であるため,実際の加振力と
は関係なく 1[N]とした.また,同様に減衰比もすべてのモ
ードにおいて 5%とした.
まず,Table 1 の物性値を用いて固有値解析を行った.ま
た固定端を 3 つ並べたモデルと,4 つ並べたモデルの固有
値解析を行い,それぞれの比較を行った.
次に固定端を 2 行 2 列,2 行 3 列,2 行 4 列,3 行 3 列,
4 行 4 列にそれぞれ並べたモデルの固有値解析を行った.
固有値解析を行ったモデルにおいて,さらに周波数応答
解析を行った.周波数応答解析は変位と応力に関して解析
を行った.
4.実験結果と考察
4-1 振動モードの観察
ファンクションジェネレーターの周波数を徐々に上げて
いったところ,Table 2 のような周波数で,それぞれの振動
モードが確認された.
FEM による計算値と,クラドニ図形の観察から得られた
固有振動数の平均値との間の誤差率は平均すると,
-10.1(%)であった.これは,固定部が理論解析と比べて,
垂直方向の拘束力が弱いこと,また水平方向の拘束力がか
なり弱いことが原因ではないかと思われる.
実験によって得られた固有振動数は,両端固定のモデル
と単純支持のモデルの固有振動数の間の値になっているこ
とが確認された.
4-2 FEM による解析結果
合計 8 点のモデルを作成し,Pro-Engineer(Mechanica)を使
用して振動解析を行った.ここでは,2 種類の解析結果を
示す.Fig.3(a)は 2 つの固定端を横に並べたモデルで,(b)
が固定端を 2 行 2 列に並べたモデルである.
Fig.4,5 はそれぞれの周波数応答解析の結果である.両
端固定のモデルの場合,1 次の振動モードで最も大きな応
力を得られることが分かった.
4-3 振動モードの活用方法
実際には携帯電話用のパネル用ガラスなどは,マザーガ
ラスから格子状にクロスカットされている.実機と比較す
ると,固定部の大きさや固定部間の幅,吸着力等は異なる.
しかし,1 次の振動モードの形状とおおよそ,傾向が似て
いること,固定部が増えたモデルになるほど固有振動数は
大きくなるが,おおよそ同じ振動数であるのが分かった.
Fig.4 Frequency response in model of fixed at both ends
337Hz(1 次)
666Hz(5 次)
1467Hz(10 次)
Fig.5 Frequency response in model to Place a fixed part to 2×2
Feeding
direction
of
the glass
Fig.6
fixed part
vibration
of ventral
Cleaving processing method of vibration mode
そのため Fig.6 に示すように 3 ヶ所を同時に加振すること
で 1 列ずつ,割断を進行させ,連続的にクロスカットでき
る可能性があると考えている.
5.結言
1) 解析の結果から両端固定の梁の場合,1,3,5 次の振動
モードにおいて割断できる可能性がある.3,5 次のモ
ードに関しては,同時に複数ヶ所での割断が期待でき
る.
2) 格子状にスクライブ線を入れた場合は,固定端を 2 行 2
列に並べたモデルの 1 次モードの形状を利用すること
で割断が可能であると考えられる.
文 献
1) 沖山俊裕,レーザ割断,精密工学会誌 Vol.60,No.2(1994)
2) 斉藤秀雄,工業基礎振動学 養賢堂(1977)197-202
0817
自転車振動特性の測定
Bicycle vibration measurements
熊本大学
○山内 健太郎,鳥越 一平,水本 郁朗,公文 誠,大嶋 康隆
Kentaro YAMAUCHI, Kumamoto University,
Ippei TORIGOE,Ikuro MIZUMOTO,Makoto KUMON,Yasutaka OOSIMA, Kumamoto University, kurokami
2-39-1, kumamoto-shi, Kumamoto
Key Words :Comfort,Acceleration pick-up,Amplitude spectrum ,Bluetooth
1. はじめに
近年,自然環境や健康への配慮から,自転車の人気が高
まっている.一般的なシティサイクルを始め,マウンテン
バイク,ロードバイク,ミニベロや電動アシスト自転車な
ど,その種類も多種多様である.さらに,震災を機に大都
市では,移動手段としてのその価値が再認識されている.
19 世紀終わりに現代的なチェーン駆動の自転車が完成
して以来,ロードバイク用フレーム素材としては,スチー
ル(クロモリ)が多く用いられてきた.現在は,アルミ,チ
タン,カーボンを加えた 4 種類が最も利用されている.他
にも,フレーム素材の特殊な例としては,マグネシウム,
カーボン,竹などといったものがある.また,アルミとカ
ーボンのように,2 種類の素材を組み合わせたフレームも
存在する.フレーム素材の特徴として一般的な例を挙げる
と,スチール(クロモリ)は「フレーム設計が容易で乗り心
地がしなやか」,アルミニウムは「剛性が高く乗り心地は軽
い」,チタンは「反応性や剛性が高く,乗り心地がしなやか」
カーボンは,
「軽量性に優れ,剛性や振動吸収性が良い」と
いったものがある. 1)このように,ロードバイクはフレー
ム素材によって,
“乗り心地”という点でも違いがあるとい
われている.
本研究では,フレーム素材として代表的なスチール(クロ
モリ),アルミニウム,カーボンの三種類を用いて実験を行
う.第一に,フレームのみを圧電アクチュエータで加振し,
加速度ピックアップで測定する.これによって,フレーム
単体の機械的特性,特に振動伝達特性の測定を行う.さら
に,実走行状態においての振動を測定し振動解析を行うこ
とで,自転車のフレーム素材による乗り心地違いを振動特
性の面から解明する.
あたって,以下の予備実験を行う.ステムに加速度ピック
アップを固定して未舗装の道路や段差を含むコースを実走
し,実際に発生する加速度のデータを測定する.これは,
ノートパソコンと自転車を有線で接続して測定したもので
あり「3.2 実走行状態での振動測定」とは異なるものであ
る.
(a) 振動波形
(b)振幅スペクトル
(相対値のみ)
Fig.2 予備実験結果
この結果,加速度の卓越周波数は 25Hz,加速度ピーク値
は 10g のオーダーであることが分かる.1gp-p
(=9.8[m/s2]),
f=25[Hz]で加振し,加速度ピックアップ分解能が 0.1g レ
ンジで十分であると仮定して,原点からの距離を x とする
と,
x  x0 cos 2ft
a  4 2 f 2 x0 cos 2ft
( a : acceleration, x0 : amplitude, f : frequency, t : time)
より,アクチュエータストローク x0 は,
x0 
a
4 f cos 2ft
 40 [ m]
2 2
程度であればよい.
Fig.1 カーボン(左),アルミ(中),スチール(右)
2. 実験装置
2.1 予備実験
フレーム単体での機械特性を測定する装置を設計するに
2.2 加振治具の寸法要件
ホイールベース(WB)は 950~1050[mm] (ロードバイ
ク:平均 980[mm],マウンテンバイク平均 1100[mm],max
1150[mm]),ボトムブラケット下がり(BDD)はロードバイ
ク平均 68[mm],ボトムブラケットシェル外径(D)は最大
(BB30)50[mm]であるので,フレーム支持の高さは,BBD
+D/2 より大きければよい.BBD+D/2=~95[mm]であるの
でフレーム支持高さを 100[mm]以上とする.
コンへ取り込む.振動波形は同期加算(加算平均)により
雑音を取り除く.
(a)出力波形(パルス波)
(b)入力波形(Ch.2)
Fig.6 シュミレーション結果
(出力)周波数 10Hz,振幅 0.4V,デューティーサイクル 0.5%
Fig.3 各部名称
3. 実験方法
3.1 フレーム単体での加振実験
フロントハブ用①,リアハブ用②加振器を圧電アクチュ
エータで加振させて実走状態のフレームの振動を再現する.
前後の加振器の振動部(Ch.1,Ch.3),自転車のステム(Ch.
2)及びシートピラー(Ch.4)に加速度ピックアップを固
定し測定,解析を行う.加振システムを Fig.4 に実験装置
を Fig.5 に示す。
Ch.1 と Ch.2 で測定された波形を同期加算(加算平均)
したものを Y1 ,Y2 とすると,周波数領域におけるゲイン
は,
G1 ( jw) 
Y2
Y1
で求まる.これは Ch.3 と Ch.4 においても同様である.
この作業を,スチール(クロモリ),アルミニウム,カー
ボンの三種類で行い,振動特性を比較する.
3.2 実走行状態での振動測定
加速度ピックアップを自転車のステム,シートピラー,ハ
ブアクスルに取り付け実際に走行し,地面からフレームを
通じて伝達する振動を測定する.加速度ピックアップの信
号 は , ア ン ド ロ イ ド ベ ー ス の ロ ガ ー (MOTOROLA,ME525+)
(Fig.7)にブルートゥース規約で送信して記録する.
Fig.4 加振システム
Fig.7 アンドロイド端末
(a)全体図
Fig.5 実験装置
(b)加振部
予 備 実 験 (2.1) の 結 果 よ り , 変 位 量 42  6.6 [ μ m] の
NEC-TOKIN 社製 AE0505D44H40F を用いる.パソコンから 10Hz
~200Hz の範囲の様々な周波数で,加速度が一定になるよ
うに振幅を制御したパルス波(Fig.6(a))を出力する.パ
ルス信号を受けた圧電アクチュエータは,加振器に振動を
伝えフレームを通じてステム(Ch.2)及びシートピラー(Ch.
4)へ伝達される.各部の振動は加速度ピックアップによっ
て測定し,A/D 変換して振動波形(Fig.6(b))としてパソ
4. おわりに
本論文では,フレーム素材による自転車の乗り心地の違
いを振動特性の面から解析するために,フレーム単体及び
実走行状態での振動特性の測定,解析を行うことを提案し
た.今後、実験を進め,各フレームでの振動特性を求めて,
比較,考察を行う予定である.
文 献
1)
仲沢隆,ロードバイク進化論,エイ出版社,159(2010),pp.
8-18.
0818
口唇インパルス応答の測定
Measurement of the lip impulse response
○山崎 拓也(熊本大)
鳥越 一平
大嶋 康敬
西山 雄太
Ippei torigoe, Yasutaka Oshima, Yuta Nishiyama,
Takuya Yamasaki, Kumamoto University, Kurokami2-39-1 Kumamoto
Key Words : lip impulse response
1. はじめに
呼吸器系疾患の病状の指標として気道抵抗を求めること
が必要とされている.気道抵抗は中枢気道の閉塞などで増
加し,喘息発作時や肺気腫等の病変が進行した状態におい
て非常に大きくなる.この気道抵抗は通常,ボディプレチ
スモグラフや強制振動負荷法により求められる[1].
ボディプレチスモグラフでは,密閉したボディボックス
と呼ばれる測定容器内に入れた被験者にパンティングとい
う動的な息み動作を行わせる.その時のボックス内容量変
化と流速から気道抵抗を測定する.
強制振動負荷法では,被験者の口から一定周波数の振動
スピーカーを用いて加えその時の圧力と流量からインピー
ダンスを測定する.この強制振動負荷法では周波数を変え
ながら,また,様々な周波数の振動を同時に付加して高速
フーリエ変換を用いて一度に解析する方法が使われる.こ
の手法では,ボディプレチスモグラフのような特殊な呼吸
法は必要とせず通常呼吸時の測定が可能である.測定され
るインピーダンスは測定管の圧力センサーの位置から見た
肺気道の入力音響インピーダンスである.しかし,上部気
道(咽頭から測定装置の圧力センサー位置まで)のインピ
ーダンスは,測定装置のフィルターやマウスピース,被検
者の舌・頬・唇の位置の影響を受ける.これに対して,呼
吸器系疾患の診断においてより重要なのは声門を含めない,
声門より先の末梢側の音響インピーダンスだと考えられる.
従来の強制振動負荷法では低周波(5Hz)におけるイン
ピーダンスが全気道のインピーダンス値であるのに対して,
高周波(20Hz)のインピーダンスは比較的上部の中枢気道
のインピーダンスにより決定されるという推定に基づいて
前者と後者の差を末梢側インピーダンスの推定に用いてい
る[2].この推定根拠は,定性的な傾向としては誤りではな
いが,末梢側インピーダンスの明確で定量的な推量とは言
えない.また,末梢側のインピーダンスの周波数依存性に
含まれていると考えられる情報を無視することとなる.
そこで,我々は音声研究の分野で利用されている,声道
断面積関数を推定するための手法を用いて声門からみた末
梢側インピーダンスを推定する手法を提案する.声道断面
積関数とは,横軸を口唇位置から声道への距離,縦軸を声
道断面積とし声道形状を曲線で表したものである.声道断
面積関数を推定する手法は,レントゲン撮影や MRI による
直接測定法と,音声信号そのものの解析(PARCOR 法)や
入力音響インピーダンスから測定(Schroeder, Sondhi 他)
する間接法に大別される.
間接法のうち,マウスピースをくわえて入力音響インピ
ーダンスを測定して声道断面積関数を推定する方法は,気
流速センサーの代わりに 2 マイクロホン法を用いて流速を
測定する以外は強制振動負荷法と装置構成の点でほとんど
共通である.ただし,声道断面積関数推定の場合,声門を
閉じた状態で測定が行われる点,伝播損失と声道壁面イン
ピーダンスを無視している点が異なる.
本研究ではマイクロホンで検出した音響信号を入射波と
反射波に分離して口唇インパルス応答を求めることで,肺気
道の入力音響インピーダンスをより正確に測定し,呼吸器系
の診断精度を上げることを目標とした.
2. 原理
2.1 進行波と反射波の分離
Fig.1 平面波の伝播
Fig.1 のように音響管内を平面波が伝播しているとする.
 x 方向に伝播する進行波,  x 方向に伝播する反射波を
それぞれ次のように表わす.

, x) 
 p  ( t 
 p  (t , x ) 

p  (t 
p  (t 
x
)
c
x
)
c
c は平面波の位相速度としている.また,減衰は無視する
ことができると仮定する.
x=0,L の位置に取り付けたマイクロホンから測定した音圧
をそれぞれ pt (t), p2 (t)とする.
p1 (t), p2 (t), p+ (t,x), p- (t,x)の関係は次のようになる.
 p1 (t )  p  (t ,0)  p  (t ,0)  p (t )  p (t , L )  p (t , L ) 

 2
ここで,減衰を無視することができるとしているため,
 p  (t , L )  p  (t  T , 0)
 p (t , 0)  p (t  T , L )

 
ただし T 
L
c
p+, p-, p1, p2 を phasor で表現すると
p 

p 
j (t kx )
 P e
j (t  kx )
 P e
p 1  P  P 
 jkL
jkL
 P e
 p 2  P e
ここで k を波数とし, k 

3. 実験方法
実験装置の構成を Fig.3 に示す.また実際の実験装置が
Fig.4 である.パソコンから正弦波を発生させスピーカー
を駆動し,被験者の口より正弦波状の圧を付加する.その
時の入射波と反射波の音圧を,2 つのマイクロホンにて測
定した音圧から算出する.マイクロホンからの出力は A/D
コンバーターを介してパソコンに取り込み解析する.この
操作を,スピーカー駆動周波数を順次変えながら行う.
となる.
c
 jkL
 p 1  p 2 及び e
 p 1  p 2 を計算することで入
射波,反射波を導出することができる.
e
jkL

P


P
 

jkL
p1  p 2
jkL
 jkL
e
e
 jkL
e
p1  p 2
e

e
jkL
e
 jkL
Fig.3 実験装置の概要
管内音波が平面波とみなせる任意の についてこの式が成
り立つ.そのため phasor を各信号のフーリエ変換と読み替
えて,任意の信号に対して上式が成り立つと考えることが
できる.
2.2 インパルス応答の導出
声道を音響管とみなし,インパルス入力を加えたときの
模式図を Fig.2 として示す.p+m (t), p-m (t)はそれぞれ各断面
における左端の進行波,反射波を表わしている.反射波は
肺の末梢に到達したものが反射して帰ってきた波と声道の
途中で反射した波の合成波となっている.これを考慮して
前項で求めた入射波,反射波とインパルス応答 g (n) (n≧0)
の関係を表わすと以下のようになる[3].
N 1 0
0
p  ( n  1)   p  ( n  i ) g (i )
i 0
この式からインパルス応答 g (n)を一般化したのが以下の式
である.
n1 0
0
p  ( n  1)   p  ( n  i )g (i )
i 0
g (n) 
0
p  ( 0)
Fig.4
実験装置
4. おわりに
本稿では音響信号から分離した入射波,反射波を用いて
口唇インパルス応答を推定する方法を提案した.これによ
って,より正確な末梢側インピーダンスの推量が可能にな
ると考える.今後実際の測定を進めていく予定である.
文 献
[1]
Fig.2 声道の音響管モデル
横田聡,,御船尚志,梶本和宏,光延文裕,谷崎勝朗,気管
支喘息における抗喘息薬吸入効果の体プレチスモグラフに
よる評価
[2]
栂博久,黄正寿,呼吸機能検査,呼吸と循環 57 巻 4
号(2009), pp.385-393
[3]
持田岳美,誉田雅彰,口唇インパルス応答に基づく声道断面
積関数の測定,日本音響学会誌 55 巻 3 号(1999),pp.148-149
0819
電気インピーダンス利用した電解液流量の測定
Electrolyte flow rate measurements using the impedance
鳥越 一平
甲斐 一光
○永松 拓也
Ippei Torigoe, Kai kazumitsh Takuya Nagamatsu Kumamoto university ,
Kurokami2-39-1,kumamoto-shi,komamoto
1、はじめに
近年、様々な機械要素部品(センサー・アクチュエータ・
電子回路など)を一つの基盤上に集積化する MEMS( Micro
Electro Mechanical System)技術を利用したシステムとして
lab-on-a-chip やμ-TAS(Micro Total Analysis System)と呼ば
れる一つの基盤上に小型化・集積化された生化学分析装置
が世界的に注目されている。
本研究では、lab-on-a-chip における要素技術の一つであ
るマイクロフローセンサーについて研究を行った。微少流
量の測定方法については様々なものがあるが、本研究では
低コストで実現可能かつ集積化が容易、といった点から電
気インピーダンスを用いたセンサーによる研究を行った。
この測定方法は、電極で挟んだ微少流路を流れる流体のイ
ンピーダンスを測定することで流量を求めるものである。
この方法では電解質の液体しか測定対象にならないが、生
化学の実験で用いられる微少流体の試薬の殆どが電解質を
利用するため特に問題とならない。
2、原理
電圧をかけた電極に電解質溶液が接触することによって
電極表面に電気二重層が形成される。電気二重層とは不動
層と拡散層からなるイオン層のことでる。不動層は電極に
引き寄せられた層であり流れによる影響を受けない。内部
ヘルムホルツ層と外部ヘルムホルツ層の二つ分かれている。
拡散層は電極に引き寄せられているが流れによる熱運動の
影響も受ける層である。また、電圧の影響を受けない bulk
層も存在する。この様子を図 1 に示す。
拡散層
不動層
ここで、電気二重層の等価回路を図2に示す。C 1 が拡散
層によるコンデンサー成分、C 2 が不動層によるコンデン
サー成分で、R 1が bulk 層のイオンの動きによる抵抗成分
となる。拡散層におけるコンデンサー容量は拡散層にある
イオンの数によるので、電解質溶液の流れが起きると拡散
層のイオンが流されるためコンデンサー成分は減少する。
bulk 層による抵抗は、流れが起きたとき bulk 層のイオン
がわずかに電極に引き寄せられるため、電流が流れ易くな
っているように見え、抵抗成分が減少する。よって、拡散
層におけるコンデンサー成分 C1 と bulk 層の抵抗成分 R1
が減少することでインピーダンスが変化するため、インピ
ーダンスと流量との特性を知ることができる。
C1
C2
R1
AC
3、実験
・実験装置構成
本研究の実験装置の構成図を以下の図3に示す。
シリンジポンプ
発振器
bulk 層
参照信号
測定回路
ロックインアンプ
電極
微小流路
電極チップ
図3
不動層
実験装置構成図
拡散層
・電極チップ
実際に実験に用いた電極チップとその断面構造を以下
の図4・5に示す
電極
Ti
Au
Si
外部ヘ ル ム ホ ル ツ 層
内部ヘ ル ム ホ ル ツ 層
図1
電気二重層と bulk 層
図5
Cr
電極チップの断面構造
・電極チップのパターン
本研究では、電解質溶液の流れに対して電圧を印加
する方向により違いが生じるか、また流量を測定する
にあたって、どの方向に電圧を印加するのが適してい
るかを調べるために、以下の図6示す垂直式と並行式
の二種類のパターンの電極チップを用いる。
図10
図6 電極パターン(左:垂直式、右:並行式)
実験の際には、状態の良い電極を選んで回路に接続
して測定を行う。実際の電極チップを図7に示す。
図7 電極チップ(左:垂直式、右:並行式)
この電極チップにフォトレジストフィルムをラミネ
ートし、以下の二種類のマスクを張り合わせ露光をお
こない、現像することにより流路が形成される。マス
クは図8に示す二種類である。
図8 マスク(左:垂直式、右:平行式)
またマスクと電極を張り合わせる際には、電極面と
マスク面が平行かつ流路と電極が垂直に交差すること
が重要である。そこで、以下の図に示す張り合わせ装
置を使用して張り合わせを行った。
図9 張り合わせ装置
この張り合わせ装置によって、真空チャックでマス
クをアクリルの下面に固定し、実態顕微鏡で観察しな
がら、角度と位置を調整し電極チップとマスクの張り
合わせを行った。
最終的な流路完成時の構造は以下の図のようになる。
流路完成図
4、流路
・従来の流路の構成と問題点
従来の流路にはガラスとフォトレジストフィルムによ
る流路とPDMS(ポリジメチルシロキサン)による流路
の2種類があった。
フォトレジストフィルムとガラスによる流路
Micro Channel
Glass
Photo Resist Film
Electrode
図7流路の構成(ドライフィルムとガラス)
この流路では、電極とガラスの間にあるドライフィルム
とガラスの密着性が低く、加圧式のシリンジポンプで電解
質溶液を流したときに、圧力に耐えられずに液体が漏れる
といった問題が起こった。
PDMSによる流路
Tube
Micro Channel
PDMS
Electrode
そこで、平滑な面に対する接着性に優れ、形状転写性が
良いといった特徴をもつPDMS(ポリジメチルシロキサ
ン)を用いた流路を製作した。
この流路では液体の漏れはなくなったが、PDMSが硬
化後もある程度の柔軟性をもつ物質のため,微少流路に流
体を流す際の圧力により変形していると予測され、正確な
データが得られないといったことが問題となった。
新しい手法による流路の製作
以上の二つの流路の問題点を踏まえ、図に示したように
フィルムとガラス間にPDMSの薄膜を介入させた流路を
製作する。PDMSの薄膜により密着性が向上することで、
電解質溶液の漏れを防止でき、薄膜にしたPDMSをフィ
ルムとガラスによって挟むことによって、PDMSの圧力
による変形を防げると考えたからである。
5、おわりに
本研究では、電気二重層のインピーダンスを用いたマイ
クロフローセンサーについて、流路の構造や製作方法につ
いて検討を行った。今後、新しい手法による流路により実
験・測定を行う予定である。
文 献
1)John Collins and Abraham P.Lee : “Microfluidic flow
transducer based on the measurement of electrical admittance”,
The Royal Society of Chemistry 2004, MINIATURISATION
FOR CHEMISTRY, BIOLOGY & BIOENGINEERING, Lab
Chip,2004,4,7-10
901
動圧真円空気軸受の予測性能に及ぼす溝の影響
Effect of Groove on Predicted Performance of Hydrodynamically Air-Lubricated Circular Bearing
○学
藤
恭彦(九工大)
[指導教員]正
畠中
清史(九工大)
Tadahiko FUJI, Kyushu Institute of Technology, 680-4, Kawazu, Iizuka-shi, Fukuoka 820-8502
Kiyoshi HATAKENAKA, Kyushu Institute of Technology
Key Words : Tribology, Hydrodynamic Bearing, Journal Bearing, Gas Bearing, Load Carrying Capacity, Stability
1. 序論
環境保全,省資源志向の高まりから,分散型電力源の一
(1)
つであるマイクロガスタービンが開発されている .マイ
クロガスタービンのロータは,大規模発電用ガスタービン
のロータに比べて,小型であり,また,高速回転するため,
その支持軸受に動圧空気軸受の一つであるバンプフォイル
軸受が採用されている.
バンプフォイル軸受は,軸受面を構成する円筒状の弾性
薄板(トップフォイル)と,これを弾性支持する波状薄板
(バンプフォイル)からなる.この軸受は構造が複雑なた
め,その性能予測にあたり,モデル軸受を使用することに
(2)
なる .しかし,その最大負荷容量や安定性などの軸受性
能を適切に予測できる理論モデルが構築されていないため,
その開発が望まれている.その一方で,その開発過程で得
られた性能予測値の妥当性について検証が必要となる.
著者らはこれまでに,構造が簡素な真円軸受を対象とし
て,この軸受で支える水平剛体軸の安定限界速度(ホワー
(3)
ル開始速度)の予測値が妥当であることを示した .この
性能解析は,空気膜の切れ目(以下,溝)がない場合を扱
ったが,その一方で,フォイル軸受で形成される空気膜の
ように,円周方向の一部で空気膜が途切れる場合について
(4)
も予測安定限界速度を求めている .しかし,溝の有無に
よる安定限界速度の違いについては検討できていない.ま
た,溝の有無が軸受の最大負荷容量に及ぼす影響について
も調べられていない.
そこで本研究では,真円軸受の最大負荷容量ならびにこ
の軸受で支える水平剛体軸の安定限界速度を溝がある場合
とない場合の双方に対して調べ,それらの軸受性能に及ぼ
す溝の影響について明らかにする.
2. 理論解析
溝のない真円軸受(以下,全周軸受)を図 1(a)に,溝が
ある真円軸受(以下,溝付き軸受)を図 1(b)に示す.この
軸受の最大負荷容量は,定常圧縮性等粘度レイノルズ方程
式とジャーナルに作用する力の釣合い式を用いて求める.
一方,安定限界速度は,非定常圧縮性等粘度レイノルズ方
程式と軸の運動方程式を用いて求める.これらの式は,空
気膜厚さ式を介して,互いに関連する.
2-1 圧縮性等粘度レイノルズ方程式
空気膜内で発生する圧力 P の分布は,等温状態にある理
想気体のもとで導出される非定常圧縮性等粘度レイノルズ
方程式(1)を解くことにより求める.
∂
∂θ
1 ∂ ⎡
⎡
3 ∂P ⎤
3 ∂P ⎤
⎢ PH ∂θ ⎥ +
⎢ PH ∂Z ⎥
⎣
⎦ 4Λ 2 ∂Z ⎣
⎦
= 2λν
溝なし
図1
(b)
真円軸受
溝付き
(1)
ここで,τ は時間,θ,Z はそれぞれ円周方向,軸方向の座
標を表し, λ は軸受定数, ν は軸回転速度( λν は気体軸
受数 Ω を表す),Λ は軸受幅径比である.また,H は空気
膜厚さを表し,式(2)で与える.
H = 1 + X j cos(θ + θ st ) + Yj sin(θ + θ st )
(2)
ここで,X j,Y j はそれぞれ軸中心の鉛直,水平方向座標を
表す.θ st は,溝付き軸受では空気膜入口のθ 方向座標であ
り,全周軸受では 0 とする.
式(1)に対し,軸受端( Z = ±1/2 )において空気膜圧力が大
気圧 P at に等しいとする境界条件を与える.溝付き軸受の
場合には空気膜の入口( θ = 0 )と出口( θ = β )においても同
様の境界条件を適用する.
なお,式(1)の右辺第 1 項の時間微分項を省略すると,定
常圧縮性等粘度レイノルズ方程式になる.
2-2 軸の運動方程式
真円軸受で支える水平剛体軸の運動方程式は,外力とし
て空気膜反力と軸の自重の作用を受けるとすると,
ν 2 X j′′ = −
ν 2Y j′′ = −
(a)
∂( PH )
∂ ( PH )
+ λν
∂τ
∂θ
1
2Γ
1
2Γ
∫
( P − P at )cos(θ + θ st )dS + 1
(3.a)
S
∫
( P − P at )sin(θ + θ st )dS
(3.b)
S
ここで, ( )′ は時間微分, Γ は軸受荷重を表し,積分範囲 S
は潤滑面全体とする.
なお,式(3)の左辺を 0 とすると,ジャーナルに作用する
力の釣合い式になる.
2-3 最大負荷容量
気体軸受数 Ω を与えて,定常圧縮性等粘度レイノルズ方
程式,空気膜厚さ式および力の釣合い式を連立して解くと,
軸受荷重 Γ に対する最小空気膜厚さ H min が求まる.本研
究では,この H min が許容最小すきま H cr(= 0.05)に等し
くなるときの軸受荷重 Γ を最大負荷容量 Γ max とする.
2-4 安定限界速度
非定常圧縮性等粘度レイノルズ方程式,空気膜厚さ式お
(5)
よび軸の運動方程式に対して振動数応答法 を適用する.
まず,空気膜圧力と空気膜厚さを,定常成分と変動成分と
の和で置き換える.それを式(1)に代入して,空気膜圧力の
変動成分に対するレイノルズ方程式を求める.この方程式
をラプラス変換したうえで解くと,空気膜圧力の変動成分
δ P が求まる.一方,式 (3)をラプラス変換したうえで,空
気膜圧力の変動成分 δ P ならびにラプラス変換した空気膜
厚さの時間変動成分 δ H の式を代入すると,軸・軸受系の
特性方程式が導出される.この特性方程式の解が純虚数と
なる軸回転速度 ν が,軸受荷重 Γ と軸受定数 λ に対する安
定限界速度ν cr となる.
3. 結果および考察
軸受幅径比 Λ = 0.8 の真円軸受を対象として,その最大
負荷容量 Γ max と安定限界速度ν cr を求める.ただし,溝
付き軸受では,空気膜入口のθ 方向座標をθ st = 10 °,溝の
中心角を 2π − β = 20 °とした.
まず,最大負荷容量 Γ max に及ぼす溝の影響を調べるた
めに,気体軸受数 Ω = 0.1 ~ 1 に対して Γ max を求めた.
その結果を図 2 に示す.空気軸受では,空気膜圧力 P が潤
滑面の一部で大気圧 P at を下回る.この作用により軸は鉛
直上方に引き上げられる.しかし,その範囲が溝位置に重
なる場合には,その箇所で,空気膜圧力 P が大気圧 P at に
まで引き上げられることになるため,軸を引き上げる作用
が弱まることになる.この結果,溝付き軸受の最大負荷容
量 Γ max が全周軸受のΓ max よりも小さくなると当初は予
想していた.ところが,最大負荷容量 Γ max に及ぼす溝の
影響はほとんどないことが分かった.そこで, Γ max 程度
の荷重を与えた場合の空気膜圧力の分布を双方の軸受で比
較した.その結果を図 3 に示す.空気膜圧力 P は,鉛直下
方付近で最大値に達し,その下流側で大気圧 P at を下回っ
ているが,この範囲はθ + θ st = 240 °付近に限定されている.
このため,溝付き軸受では,その影響が溝を配置した鉛直
上方付近にまで及ばず,そこでの空気膜圧力 P が大気圧 P at
程度になっている.この結果,全周軸受の空気膜圧力 P と
ほとんど同じ分布になった.このような理由により,双方
の軸受でΓ max に差が現れないことが分かった.
次に,安定限界速度 ν cr に及ぼす溝の影響を調べるため
に,軸受定数 λ = 0.1 ~ 1 に対してν cr を求めた.その結果
を図 4 に示す.双方の軸受では,軸受定数λ が 1 に近いと
ころで安定限界速度 ν cr に若干の差が見られるものの,全
体としては安定限界速度 ν cr は同程度の値になることが分
かった.空気軸受で支える軸は,空気膜の相当連成減衰剛
n
性C
XY が負になると不安定な状態に陥ることが知られて
(6)
いる .これを受け,空気膜圧力の変動成分に関する伝達
関数の虚部 Im[GPY ]の分布を双方の軸受で比較した.その
結果を図 5 に示す.溝を配置したことによる影響が伝達関
数 Im[GPY ]の分布に現れている.しかし,その箇所が鉛直
軸付近に限られているため,これに cos(θ + θ st)を乗じて積
n
分することにより求める相当連成減衰剛性 C
XY には,有意
な差となって現れない.このため,双方の軸受で安定限界
速度ν cr に大きな差が生じないことが分かった.
4. 結論
本研究では,真円軸受に設けた溝が真円軸受の最大負荷
容量ならびにこの軸受で支える水平剛体軸の安定限界速度
図2
図3
空気膜圧力分布( Z = 0,Λ = 0.8,Ω = 0.5)
図4
図5
最大負荷容量(Λ = 0.8)
安定限界速度(Λ = 0.8,Γ = 0.5)
空気膜圧力の変動成分に関する伝達関数
(Z = 0,Λ = 0.8,Γ = 0.5,λ = 0.16,ν = 7.8)
に及ぼす影響について調べた.その結果,鉛直上方に溝を
設けた場合には,その影響がほとんど見られないことが分
かった.
参考文献
(1) 石井,マイクロガスタービンシステム,オーム社,(2002) 2.
(2) 畠中・生島,機論(C),75,753 (2009) 1361.
(3) 道田・畠中,日本機械学会 九州学生会 第40回卒業研究発表
会論文集,(2009) 317.
(4) 加藤・畠中,日本機械学会 九州学生会 第42回卒業研究発表
会論文集,(2011) 179.
(5) 谷口,振動工学ハンドブック,養賢堂,(1988) 962.
(6) 畠中・山口・生島,トライボロジスト,53,12 (2008) 842.
902
9
大型低速回転機械に対する動圧ジャーナル軸受の適用可能性
Feasibility of Application of Hydrodynamically Lubricated Journal Bearing to
Large-Sized Low-Speed Rotary Machinery
○学
竹谷
崇(九工大)
[指導教員]正
畠中
清史(九工大)
Soh TAKETANI, Kyushu Institute of Technology, 680-4, Kawazu, Iizuka-shi, Fukuoka 820-8502
Kiyoshi HATAKENAKA, Kyushu Institute of Technology
Key Words : Tribology, Hydrodynamic Bearing, Journal Bearing, Planetary Gear, Oil Film Pressure, Oil Film Thickness
序論
2011 年 3 月 11 日に勃発した東北地方太平洋沖地震にと
もなう東京電力福島第一原子力発電所の事故を発端として,
エネルギー供給不足の問題が全国的に発生した.この問題
と近年の環境問題に対する関心の高まりとが相まって,再
生可能エネルギーが注目されている.
その一つである風力のエネルギーは,火力発電のエネル
ギーとは異なり,化石燃料の燃焼による発電時の二酸化炭
素排出がないため,クリーンな自然エネルギーに位置付け
られ,地球温暖化への対策に有効であるといわれている.
風力発電装置は,羽根付きの巨大なロータで上空に吹く
強風を捉えることで,風のもつエネルギーを電力として取
り出す発電設備である.風力発電の累積導入量は着実に増
加している.その導入量は,化石燃料が将来確実に枯渇す
る状況が訪れることや,近年の環境問題,地球温暖化の問
題に対策をとる必要があることから,今後ますます増加し
ていくことが予想されている.
発電用の典型的な大型風車は,スチール製のタワーの上
部にナセルがあり, 3 枚の羽根が付いたロータをそのナセ
ルに取り付けた構造をしている.タワーとナセルとの間に
はヨー駆動装置が付いており,これにより風車の正面を風
上側に向けて運転する仕組みとなっている.風車には自然
相手の過酷な使用条件のもとでも十分な耐久性が必要とさ
れ,20 年程度の寿命が要求されている.
風車用の発電機は 4 極であることが多く,仮に 60 Hz の
周波数で発電する場合には,1 800 rpm の回転数が必要にな
る.しかし,大型風車のロータでは,回転数が通常 10 rpm
程度なので,その回転を高めて発電機に伝えるために,歯
車式の増速機がロータ主軸の途中に配置されている.発電
機と増速機はナセル内に格納されている.
発電用風車の増速機には,遊星歯車機構が採用されてい
る.この遊星歯車機構は,駆動軸,従動軸,固定軸の 3 軸
が同軸上に配置された構造をしている(図 1).駆動軸は,
ロータ主軸に連結した遊星キャリヤ,および,遊星キャリ
ヤに固定される遊星ピンからなる.この遊星ピンは遊星キ
ャリヤの中心軸に対して半径方向にずらして取り付けられ
1.
図1
遊星歯車機構
ているため,ロータ主軸が回転すると,遊星ピンは駆動軸
の中心軸まわりを公転する.この遊星ピンには軸受を介し
て遊星歯車が取り付けられている.この遊星歯車は,固定
軸となる外輪歯車および従動軸に連結した太陽歯車とかみ
合うように配置されている.このため,遊星歯車は駆動軸
の中心軸まわりを公転しながら遊星ピンのまわりを自転す
る.太陽歯車は,遊星歯車の自転にともない,回転する.
このような仕組みでロータ主軸の回転が従動軸に伝わる.
その増速比は外輪歯車の歯数と太陽歯車の歯数の比に応じ
て決まる.
風力発電装置は,羽根で受けた風のエネルギーのうち,
45 % 程度を電力として取り出すことができる.物理的に
は,風車の発電出力は羽根の面積の 2 乗に比例し,また,
風のエネルギーは風速の 3 乗に比例することが知られてい
る.このことから,できるだけ高い所に設置した,大きな
羽根で上空の強風を受けるようにすると,風車が取得する
エネルギーを高くすることができる.
このような発電出力と風車 1 基あたりの設置コストとの
関係から,風車は年々大型化しており,この傾向は今後も
続くと予想されている.この大型化に対応して,ナセル内
に格納する増速機も大型化が必要になる.ただし,この大
型化が実現できたとしても,増速機の製造および組立工場
内のクレーンなどの設備の大型化,また,製造後の搬送に
耐えうるような輸送インフラの再整備などが必要になるた
め,全体的なコストは膨大なものになる.結果的には,製
品価格を抑制できず,国際競争力をつけることが難しくな
る.この問題への対策として,増速機の非大型化,非重量
化が挙げられる.しかし,増速機を構成する個々の部品を
単に大型化しないようにするだけでは,その達成は難しい.
一般に,大型で低速回転する回転機械は,その支持軸受
に転がり軸受が使用される.増速機の遊星歯車を支える軸
受にも転がり軸受が採用されている.この軸受は,内輪と
外輪,そして,その間を転がる転動体から構成されている
ため,増速機の非大型化,非重量化を妨げる一因となる.
仮に,軸受の種類を動圧ジャーナル軸受に変更できれば,
径方向の寸法を転動体の分だけ縮小できるので,増速機の
大型化にともなう重量の増大を抑えることが可能となる.
しかし現時点では,遊星歯車のような大型で低速回転する
回転体を動圧ジャーナル軸受により支持することを想定し
たすべり軸受の油膜解析が実施できていないので,その適
用可能性について軽率に是非を論ずることはできない.
そこで,本研究では,遊星ピンと遊星歯車の間に形成さ
れる油膜を対象としたすべり軸受(以下,遊星歯車軸受)
の性能解析を行い,油膜厚さの最小値と油膜内で発生する
圧力(以下,油膜圧力)の最大値を評価することにする.
ただし本報では,遊星ピンと遊星歯車の公転は考慮せず,
固定した遊星ピンのまわりを遊星歯車が回転する場合につ
いて検討することにする.
2. 理論解析
図 2 に遊星歯車軸受を示す.遊星ピンと遊星歯車の間に
形成される油膜の最小厚さと最大油膜圧力は,等粘度レイ
ノルズ方程式,油膜厚さ式,遊星歯車の運動方程式を連立
して求める.
2.1 等粘度レイノルズ方程式と油膜厚さ式
油膜圧力 p の分布は,非定常等粘度レイノルズ方程式(1)
により求める.
表1
解析で用いる数値
遊星ピンの半径 r p
遊星歯車のピッチ円半径
軸受幅
r pg
200 mm
400 mm
400 mm
lj
平均半径すきま
c
200 μm
遊星歯車の質量
mpg
1180 kg
回転数
軸受外力
n 0 (= 30 ω pg / π )
20 rpm
1000 kN
f0
1 ∂ ⎡ 3 ∂p ⎤ ∂ ⎡ 3 ∂p ⎤
∂h
∂h
h
+
h
= −6 μω pg
+ 12 μ
(1)
rp ∂θ ⎢⎣ ∂θ ⎥⎦ ∂z ⎢⎣ ∂z ⎥⎦
∂θ
∂t
ここで, t は時間, θ , z はそれぞれ円周方向,軸方向の
座標を表し, rp は遊星ピンの半径, ω pg は遊星歯車の角速
度, μ は油膜粘度である.また, h は油膜厚さを表し,式
(2)で与える.
h = c + xpg cosθ + ypg sin θ
(2)
ここで, c は平均半径すきま, xpg , ypg は,それぞれ遊星
歯車中心の鉛直,水平方向座標を表す.
式(1)に対し,油膜の両端( z = ± l j 2 )で油膜圧力が大気
圧に等しいとする境界条件を与える.ただし, l j は軸受幅
を表す.
2.2 遊星歯車の運動方程式
駆動軸の入力トルクに対応する軸受外力 f0 が遊星ピン
に作用すると想定する.この場合,遊星歯車にはその反力
が作用するので,その運動方程式は,
mpgxpg = f x (xpg, ypg, xpg, ypg ) + mpgg
(3.a)
mpg ypg = f x ( xpg , ypg , xpg , ypg ) + f0
(3.b)
図2
遊星歯車軸受
図3
最小油膜厚さ
図4
最大油膜圧力
ここで, f x と f y は,それぞれ鉛直方向,水平方向の油膜
圧力であり,
fx =
fy =
∫
∫
lj 2
−l j 2
lj 2
∫
∫
2π
0
2π
−l j 2 0
prp cosθ dθ dz
(4.a)
prp sin θ dθ dz
(4.b)
結果および考察
遊星歯車軸受の諸元と運転条件を表 1 に示す.この数値
の組を与えたうえで式(1)から式(4)を連立して解き,風力発
電装置の寿命である 20 年間の最小油膜厚さ hmin と最大油
膜圧力 pmax の変動を求めた.その結果をそれぞれ図 3,図
4 に示す.最小油膜厚さ hmin は,基準時刻において確保さ
れた値(約 35.3 μm)を変動することなく維持し続けてい
る.もし,遊星ピンと遊星歯車がミスアラインメント状態
になるものの,それによる油膜圧力分布への影響がないと
すると,両者が相対的に 5.1×10 −3 ° 傾くだけでその値を超
えてしまうので,片あたりを発生させないためには,加工
や組立の精度に十分な注意を払わなければならないことが
分かった.
最大油膜圧力 pmax についても同様に,基準時刻における
値(約 20.5 MPa)を維持したままで時間が経過していく.
本解析では,固定された遊星ピンのまわりを遊星歯車が
回転する場合を扱ったが,実際は遊星ピンが公転する.今
3.
後はこの状況に対応する解析を行いたい.
4. 結論
本研究では,遊星ピンの公転を無視して遊星歯車軸受の
油膜解析を行い,最小油膜厚さと最大油膜圧力について調
べた.その結果,片あたりを発生させないためには,加工
や組立の精度に十分な注意を払わなければならないことが
分かった.
謝辞
本報は,平成 23 年度戦略的基盤技術高度化支援事業
23184008008「 風力発電の大型化に対応する為の新構造設計
と新加工技術を盛り込んだ小型・軽量な増速機の開発」に
係わる研究成果の一部である.本研究は(株)石橋製作所
の諌山勝己氏,原田英明氏の協力のもとで遂行された.こ
こに厚く御礼申し上げる.
903 真 円 軸 受 で 支 え る 回 転 軸 の 理 論 安 定 性 に 及 ぼ す カ ッ プ リ ン グ の 影 響
Effect of Coupling on Predicted Stability of Rotor Supported by Circular Bearing
○学
浦川 勇人(九工大)
[指導教員]正
畠中
清史(九工大)
Hayato URAKAWA, Kyushu Institute of Technology, 680-4, Kawazu, Iizuka-shi, Fukuoka 820-8502
Kiyoshi HATAKENAKA, Kyushu Institute of Technology
Key Words :
Tribology, Rotordynamics, Hydrodynamic Lubrication, Circular Bearing, Stability, Coupling
1.
はじめに
油を潤滑剤とする動圧型のすべり軸受は,タービンやコ
ンプレッサなどの回転機械を支える軸受として用いられ
ている.その一つに真円軸受(図 1)がある.この軸受は,
構造が簡素である一方で,軸回転速度が上昇すると,軸受
油膜の不安定化作用に起因する自励振動(オイルホイッ
プ)が発生する.この結果,回転機械が不安定な状態で運
転することになり,安全に対する裕度が低下する.このよ
うな理由から,オイルホイップが発生する安定限界速度を
設計の段階で予測することが望まれている.
流体潤滑理論モデルは,すべり軸受の油膜解析に広く用
いられている.この理論モデルを適用すると,軸回転速度
や軸受荷重を与えた場合の油膜の圧力と厚さの分布が定
まる.静的な釣合い状態にある軸に微小な運動を与えると,
油膜圧力の分布に変化が生じる.この圧力の変動分から油
膜のばね定数と減衰係数(油膜係数)が求まる.この油膜
係数をもつすべり軸受で支える軸の安定性は,軸・軸受系
の運動方程式から導出する特性方程式を解くことにより
判別される.この安定判別をさまざまな軸回転速度に対し
て行うと,軸・軸受系の自励振動が発生する軸回転速度(安
定限界速度)の予測値が求めることができる.
著者らは,現在,真円軸受で支える回転軸の安定限界速
度を理論解析モデルに基づき予測する解析ツールの開発
を行っている.この予測ツールで得られた予測安定限界速
度の妥当性を検証するために,図 2 に示す軸受試験装置を
用いた実験で得られた安定限界速度の実測値との比較を
試しに行った.その結果,予測ツールで入力値として指定
する軸受荷重を適切に与えたときに,安定限界速度の予測
値が実測値と良好に一致することが分かった.しかし,軸
受荷重は,本来は安定限界速度の予測値が実測値と良好に
一致するように,その値を調整するものではなく,実測値
を予測ツールに入力すべきものである.ただし,供試軸と
中間軸をカップリングにより連結した状態で軸受に作用
する荷重(軸受荷重)を測定する方法が適切ではないため,
その実測値を確定させることができていない.この問題の
合理的な解決策が見出せない現状では,予測ツールを修正
し,中間軸との連結に使用するカップリングを取り外した
状態で測定する軸受荷重,つまり,供試軸の自重のみが作
用する場合の軸受荷重の実測値を予測ツールの入力値と
して指定するようにすることが現実的な対策として挙げ
られる.このためには,現在は考慮していないカップリン
グの作用を理論モデルに取り入れる必要がある.
本研究では,カップリングを考慮できるように理論解析
モデルを修正し,それに基づく予測ツールを開発して安定
限界速度の予測値を求め,安定限界速度の実測値と比較す
ることによりその妥当性を検証することにする.
2. 理論解析
2.1 油膜係数
真円軸受の油膜圧力 p の分布は,非圧縮性等粘度レイノ
ルズ方程式(1)から定まる.
1 ∂
rj 2 ∂ θ
∂h
∂h
⎡ 3 ∂p ⎤ ∂ ⎡ 3 ∂p ⎤
⎢ h ∂ θ ⎥ + ∂ z ⎢ h ∂ z ⎥ = 12 μ ∂ t + 6μω ∂ θ
⎣
⎦
⎣
⎦
ここで,t は時間,θ ,z はそれぞれ円周方向,軸方向の座
標を表し, μ は油膜粘度, ω は軸の回転角速度である.ま
た,h は油膜厚さであり,ミスアラインメントによるジャ
ーナルの中心軸と軸受の中心軸との傾きがないとすると,
h = c + x j co sθ + y j s i n θ
図1
溝付き真円軸受
(1)
(2)
ただし,c は軸受平均半径すきま,x j ,y j はそれぞれジャ
ーナル中心の鉛直,水平の座標を表す.
式(1)に対し,油膜圧力は,軸受端(z = l j /2)では大気
圧に等しく,また,給油溝では給油圧力に等しいとする境
界条件を与える.円周方向に対しては,レイノルズ境界条
件を適用する.ただし,l j は軸受幅である.
静的な釣合い状態にある真円軸受では,ジャーナルに作
用する軸受荷重と静的な油膜圧力 p 0 による油膜反力とが
釣り合う.その釣合い式は,
∫
∫
S
S
p 0 r j cos θ dS + wg x = 0
(3.a)
p 0 r j sin θ dS + wg y = 0
(3.b)
ここで,wg x ,wg y はそれぞれ鉛直方向,水平方向の軸受
荷重であり,S は軸受面全体を表す.
ジャーナル中心の静的な釣合い位置( x j0 , y j0 )は,式(1)
の右辺第 1 項を省略した定常レイノルズ方程式,式(2)なら
図2
軸受試験装置 (1)
びに式(3)を連立して解くと求まる.
静的な釣合い状態にあるジャーナルに微小な変位や速
度を与えると,油膜圧力が変動する.この変動分をもとに,
油膜の線形ばね定数,線形減衰係数は算出される.
2.2 安定限界速度
図 2 に示す軸受試験装置では,カップリングで連結され
た供試軸と中間軸の外径が,長手方向に変化する.この運
動方程式を有限要素法により求める.まず,図3に示すよ
うに,真円軸受ならびに転がり軸受で支持された供試軸と
中間軸を,剛体円板要素,回転軸要素,転がり軸受要素,
ジャーナル軸受要素に分割してモデル化する.供試軸と中
間軸を連結するカップリングは,カップリング要素でモデ
ル化する.
このように有限要素モデルに分割された各要素に対し
て,その種類に応じて,剛体円板の運動方程式
ii
i
m d Δq d + g d Δq d = 0
(4)
回転軸要素の運動方程式
ii
i
m r Δq r + ω g r Δq r + k r Δq r = 0
(5)
ジャーナル軸受要素の油膜反力式
i
f jb = c jb Δq jb + k jbΔq jb
(6)
カップリング要素の運動方程式とばね反力式
ii
i
m cd Δq cd + g cd Δq cd = 0
(7.a)
f cs = k csΔq cs
(7.b)
のいずれかを立て,それらを重ね合わせることで系全体の
運動方程式 (8)を構築する.
ii
i
m Δq sys + cΔq sys + kΔq sys = 0
を支える転がり軸受の幅中央まわりのモーメントが釣り
合うようにジャーナル中心の静的な釣合い位置を求める.
3. 結果および考察
真円軸受の仕様を表 1 に示す.この仕様は文献 (1)の軸受
試験装置に合わせて指定した.給油圧力は 9 kPa とする.
文献 (1) において取得した安定限界速度の実測値ならびに
2.に記した方法に従い求めたその予測値を表 2 に示す.ま
た,この表には,カップリングの影響を考慮しない場合の
安定限界速度の予測値を参考までに記す.この場合には軸
受荷重として,軸の自重を与えた.
カップリングの影響を考慮してモデルを修正したこと
により,安定限界速度の予測値が実測値に良好に一致する
ようになった.カップリングのばね作用を考慮すると,軸
受荷重が,軸の自重のみが作用する場合とは異なる値とな
る.これにより,ジャーナル中心の静的な釣合い位置 ( x
j0 , y j0 ) が移動することになる.これにともない油膜係数
にも影響が現れ,その値,つまり,式 (6)の係数行列 c jb ,k jb
の成分が変わる.この結果,軸・軸受系の特性が変化する.
本解析では,それが実測値との一致度を良好にする効果を
もたらしたと考えられる.
4. おわりに
本研究では,カップリングを考慮できるように修正した
理論解析モデルに基づく予測ツールを開発した.それによ
る安定限界速度の予測値は,実測値と良好に一致した.た
だし,現時点では 1 ケースのみの比較に留まるため,予測
安定限界速度が妥当であると言い切るには,他の運転条件
で取得した実測値との比較が必要であろう.なお,本解析
では,供試軸の静たわみがないとしてジャーナル中心の静
的な釣合い位置を求めたが,その弾性変形を考慮できるよ
うに理論モデルを修正することが予測精度のさらなる向
上につながると考えられる.
文献
(1) 橘高・畠中,日本機械学会九州学生会第 41 回卒業研究講演
会論文集,(2010) 331.
(8)
表1
ここで, Δq sys は静的な釣合い位置からの微小な節点変位
を成分にもつ系全体の節点変位ベクトルである.式 (8) に対
して,転がり軸受要素を配置する節点の並進運動を拘束す
るという幾何学的な拘束条件を適用すると,
ii
i
m sys Δq sys + c sys Δq sys + k sys Δq sys = 0
真円軸受の仕様
ジャーナル径 2 r j ,mm
20
平均半径すきま c ,μm
80
軸受幅 l j ,mm
8
油膜粘度 μ ,mPa·s
19
(9)
式 (9)から軸・軸受系の特性方程式を導出し,その固有値
を求める.軸・軸受系の安定性は,固有値の最大実部 Re [s]
max の符号を調べることにより判別する.この安定判別を
さまざまな軸回転速度に対して行うと,安定限界速度の予
測値が求まる.
2.3 カップリングが軸受荷重に及ぼす影響
ジャーナル中心の静的な釣合い位置 ( x j0 , y j0 )は,軸受
荷重 wg x ,wg y に依存して定まる.軸受荷重は,カップリ
ングを取り付けない場合には鉛直下向きに作用する軸の
自重のみとなる.しかし,カップリングを取り付ける場合
には,その影響を考慮して軸受荷重を修正する必要がある.
本解析では,供試軸の静たわみがないという仮定のもと
で,真円軸受の油膜反力と釣り合う軸受荷重,軸の自重,
カップリングのばね反力のそれぞれにより生じる,供試軸
表2
安定限界速度の比較
安定限界速度, krpm
実測値
5.3
本予測値
5.1
予測値(カップリング考慮せず)
3.7
図3
軸・軸受系の有限要素モデル
905
トロコイド歯車における応力測定
Stress measurement in the trochoid gear
○学
正
河村 紀規(長崎大)
中嶋 明(長崎大)
正
奥村 哲也(長崎大)
森高 秀四朗(長崎大)
Noriki KAWAMURA, Nagasaki University, bunkyoumachi 1-14, Nagasaki
Tetsuya OKUMURA, Nagasaki University
Akira NAKASHIMA, Nagasaki University
Hideshirou MORITAKA, Nagasaki University
Key Words :
Trochoid planetary gears, Stress amplitude, Trochoid
1.緒言
トロコイド歯車(以下 TG とする)を用いたトロコイド
遊星歯車装置は,産業用ロボットの精密減速機として広く
使用されている.バックラッシが極めて小さく,高い精度
の制御が可能であり,剛性が高く大きな負荷に強いという
特徴を持つ.この TG において歯面荷重が原因で表面はく
離など損傷が生じることがある.ひずみゲージ(以下ゲー
ジとする)による接触面での応力測定は難しく,TG の研
究では接触部分の荷重の実測ができていないというのが現
状である.しかし,歯面損傷への対策を行うことによる TG
の長寿命化を実現するために歯面荷重の実測値が求められ
ている.そこで接触のない部分で歯面に発生する応力を測
定するために,TG の軸方向に垂直な面に貼ったゲージで
接触面に発生する応力の大きさを導き出すことはできない
か考えた.本研究では TG の接触のない穴の側面と軸方向
と垂直になる面に貼ったゲージで測定を行った.実験結果
からゲージを貼った2か所での応力分布の傾向について検
討した.
2.トロコイド遊星歯車装置
Fig.1
Schematic view of Trochoidal planetary gears1)
Table.1
Specifications of Trochoidal planetary gears
Trochoidal
Internal
gear
gear
Tooth form
Trochoid
Pin
Number of teeth
39
40
Teeth distributed
―――
48
radius (mm)
―――
Pin radius (mm)
2
Eccentricity (mm)
0.9
TG は一般的なインボリュート歯車と異なる特殊な歯形
を採用している.トロコイド遊星歯車装置(図1)は2段
減速機構を採用しており,第1減速部ではインプットギヤ
から入力された回転がスパーギヤによって歯数比分の減速
が行われる.第2減速部ではスパーギヤへ伝達された回転
がクランク軸へと伝達され,TG がピン歯車と噛み合いな
がら偏心運動を行う.クランク軸が1回転したところで
TG はクランク軸の回転とは反対方向にピン歯車と TG の
歯数の差だけ回転し,その回転が出力される 2).本研究で
用いたトロコイド遊星歯車装置の諸元を表 1 に示す.
3.応力測定
応力測定にあたり,ゲージを貼付する位置を図2に示す.
ゲージはどちらも周方向に向いている.扇形穴のリム部側
面にゲージを貼付する(G1).G1 に近い位置で TG の軸方
向に垂直になる面にもゲージを貼付する(G2).トロコイ
ド遊星歯車装置に任意の負荷トルクを与えて TG の回転速
度 0.0154rpm(サーボモータの最小回転速度)でクランク
軸が一回転したときに TG に発生する応力を測定した.今
回行った実験の条件を表2に示す.
Fig.2
Positions of strain gages
Table.2 Experimental conditions
Torque(Nm)
0,49,98
Motor rotation speed(rpm)
2
The first gear ratio
52/16
The second gear ratio
40
本研究の結論を以下に示す.
1)実測により得られた結果から,G1 と G2 でクランク
角度による応力の変化の傾向は一致する.
2)トルクを大きくすることによって G1 と G2 の最大
引張応力の差が小さくなる.
文 献
1)
2)
石田武・他 4 名,サイクロイド歯車を用いた K-H-V 遊星歯車
装置の回転伝達誤差に関する研究,日本機械学会論文集,
62-593 (1996),pp.292
吉川敏夫, 大速比減速機 RV 減速機, 設計工学, 33-5(1998),
pp.159
Stress(MPa)
10
0
-10
0
-20
60
辞
180
240
300
360
(a) 0Nm
G1
G2
20
10
0
-10
0
-20
60
120
180
240
300
360
Rotation angle of crankshaft
(b) 49Nm
G1
G2
20
10
0
-10
0
60
-20
120
180
240
300
Rotation angle of crankshaft
(c) 98Nm
Stress amplitude(MPa)
Fig.3
G1
G2
0
Fig.4
Fig.5
Stress at G1 and G2
40
35
30
25
20
15
10
5
0
49
98
Torque(Nm)
147
Stress amplitude of G1 and G2
500
400
200°G1
300
200°G2
200
300°G1
100
300°G2
0
0
謝
120
Rotation angle of crankshaft
Stress percentage(%)
5.結言
G1
G2
20
Stress(MPa)
図3に応力の測定結果を示す.(a)から(c)はそれぞれ負荷
トルクが 0,49 ,98Nm のときの結果であり,横軸はクラン
ク軸の角度,縦軸は応力(正の値が引張,負の値が圧縮応
力)を表す.図3(a)の G1 と G2 の間にはクランクが1回
転する間に応力が上がるときにはどちらも上がり,下がる
ときにはどちらも下がるという関係性がある.図3(b),(c)
のグラフでも同じことがいえる.
図3の(a)の G1 と G2 それぞれの最大引張応力値を比べ
ると,G1 では G2 での応力値の2倍以上の値を示している.
同様に(b),(c)でも G1 と G2 での最大引張応力を比べると,
トルクが大きくなるにつれて G1 での値と G2 での値の差
は小さくなっていき,(c)では G1 と G2 での最大引張応力
がほとんど同じ値を示している.また,TG 歯面では表面
はく離が生じることがあるので,疲労損傷に関わるものと
して応力振幅も知りたい.図4に各負荷トルクでの G1,
G2 の応力振幅を示す.横軸はトルクの大きさ,縦軸は応
力振幅を表す.図4でトルクが大きくなると G2 の応力振
幅値が G1 の応力振幅値に近づいており,98Nm で応力振
幅はほぼ一致している.
図3(a)からクランク角度が 200°のとき最大の引張応
力が発生している.図3(a)から(c)のクランク角度 300°で
の G1 での応力はトルクによる応力の変化量が大きいこと
が分かる.図5にこれらの角度での G1 と G2 でトルクに
よって変化した応力の大きさを負荷が無いときの応力値で
割った値をパーセンテージで表す.図5の 300°の2つの
グラフと 200°の 2 つのグラフを比べると,300°の G1,G2
のグラフが 200°の G1,G2 のグラフを大きく上回っている
ことが分かる.トルクが応力分布に及ぼす影響はクランク
角度によっても変化し,一様でないということがわかる.
図3の(a)から(c)でトルクによる応力の変化量が大きい
クランク角度 300°を見ると.トルクが大きくなるにつれ
て G1 と G2 の応力値は離れている.G1 と G2 の間の応力
値もクランク軸角度によって変化し,一様でないというこ
とである.
以上のことより,TG の扇形穴のリム部側面と表面の応
力に差を与える要因としてクランク軸の回転角度,トルク
の大きさが関係していると考えられる.今後,トルクやク
ランクの角度が応力にどのように影響するのか考察して必
要なデータは何かを把握する必要がある.
本研究はナブテスコ株式会社の王宏猷氏による情報や装置など
の御提供によって初めて可能となりました.ここにその好意に対
する感謝を申し上げます.
Stress(MPa)
4.実験結果
49
98
Torque(Nm)
147
Effect of applied torque on stress
360
906
微粒子ピーニングによる表面改質
Surface modified by fine particle peening
○学
正
小林
奥村
美紀(長崎大)
哲也(長崎大)
正
非
中嶋
明(長崎大)
森高秀四郎(長崎大)
Miki KOBAYASHI, Nagasaki University, 1-14, Bunkyo-machi, Nagasaki
Akira NAKASHIMA, Nagasaki University
Tetuya OKUMURA, Nagasaki University
Hideshiro MORITAKA, Nagasaki University
Key Words:Fine particle peening, Surface modification, Friction, Wear
1.緒言
近年,機械の高性能化,高効率化,小型・軽量化の追求
にともない,構成部品の使用環境は過酷になっている.機
械の摺動部品においても例外ではなく,低摩擦,長寿命化,
耐摩耗性の向上などが求められている.その解決法として
摺動部品の表面改質が有効であり,現在,表面改質技術の
実用化が進められている.
近年注目されている表面改質技術に微粒子ピーニング処
理法がある.これは,微粒子を被加工物の表面に高速で衝
突させる処理法で,微粒子材料成分を含む表面の形成や被
加工物の表面近傍に高い圧縮残留応力および加工硬化を生
じさせることができる.したがって,微粒子ピーニングに
よる表面改質材はトライボ特性の向上や疲労強度の向上な
どが期待できる.しかし,改質材のトライボ特性は未だ明
確になっておらず,データも不十分なのが現状である.
本研究では,4 つの摺動環境下における改質材のトライ
ボ特性を明らかにすることを目的とし,SiC 微粒子を用い
て S45C 材、PBB2 材、SUS304 材にピーニング処理を施し,
摺動実験を行なった.なお,改質材のトライボ特性評価は
S45C,PBB2,SUS304 の非改質材とそれぞれ比較すること
で行なった.
⑤ノズルから噴射させる.微粒子ピーニング材の緒元とピ
ーニング条件および各試験片の材料の緒元をそれぞれ表 1,
表 2,表 3 に示す.
図 2 は吹付け圧力を 100kPa として各粒径におけるピーニ
ング処理後の改質材表面(S45C 材)の断面形状をそれぞれ
示す.また,改質前の断面形状を No Peening として示す.
なお,吹付け圧力はバルブの開閉前後の圧力差から決定し
ている.
被加工材の塑性変形は吹付ける粒子により生じるため,
粒子の寸法や形状により被加工材の表面性状は変化する.
図 2 の(b)~(c)を見ると,(a)に比べ粗くなっている.また,
粒径が大きいほど被加工材の表面が粗くなっている.
3.摺動実験
微粒子ピーニング処理による改質材のトライボ特性評価
にはBall-on-Disk 型摩擦試験機を用いた.摺動雰囲気は大
気中,蒸留水中,人工海水中,油中で行なった.相手材に
はφ19.05mmのAl2 O 3球(セラミックス,硬度Hv1800)を使用
し,接触状態は点接触である.実験条件を表 4 に示す.
4
6
2.微粒子ピーニング処理
微粒子ピーニング装置の概略図を図 1 に示す.被加工物
となる①試験片を②回転テーブルに固定する.その後コン
プレッサーから送り出される圧縮空気とともに微粒子を
5
2
1
①
②
③
④
⑤
⑥
Disk
Rotary table
Motor
Air hose
Air nozzle
Handle
Table1 Dimension of fine particles
#180
Material:SiC
Hardness
[Hv]
Average dimension
[μm]
#500
#800
2800
85
31
3
Fig.1 Schematic illustration of fine particles peening apparatus
19
Table2 Peening conditions
Spraying pressure
[kPa]
100
Spraying radius
[mm]
9 , 12
Rotational speed
[m/s]
60
Nozzle diameter
a [mm]
φ6
Table3 Hardness and dimension of lower disk
Material
S45C
PBB2
SUS304
Hardness
[Hv]
210
183
242
Dimension [μm]
φ30×t10
(a)No peening
(b)#180
(c)#500
(d)#800
Fig.2 Section profiles (S45C,Spraying pressure 100kPa)
5.結言
本実験において,以下のことが明らかになった.
(1) S45C 材は,大気中および人工海水中では微粒子ピー
ニング処理による改質材のトライボ特性は向上する.しか
し,人工海水中の#180 においてはトライボ特性が低下する.
(2) PBB2 材は,大気中および人工海水中では微粒子ピー
ニング処理による改質材のトライボ特性は低下する.
(3) SUS304 材は,人工海水中の#800 でのみ微粒子ピーニ
ング処理によるトライボ特性の向上がみられた.
Normal load
Sliding distance
Rotational speed
Environment
Table4 Test conditions
[N]
20
[m]
180
[m/s]
0.1
・Dry
・Water
・Solution of 3% NaCl
・Oil(Plant oil)
Friction Coefficient
1
Dry
No Peening
#180
#800
0.8
Sea Water
No Peening
#180
#800
0.6
0.4
0.2
0
0
30
60
90
120
Sliding Distance[m]
(a)Al2 O3 -S45C
150
180
0
30
60
90
120
Sliding Distance[m]
(b)Al2 O 3-PBB2
150
180
0
30
60
90
120
150
Sliding Distance[m]
(c)Al2 O3 -SUS304
Fig.3 Variations of friction coefficient
180
Friction Coefficient
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
1
Friction Coefficient
4.実験結果と考察
図 3(a)~(c)にそれぞれ S45C,PBB2,SUS30 の大気中と
人工海水中での SiC 微粒子ピーニング処理による改質材お
よび非改質材の摺動距離と摩擦係数の関係を示す.また,
図 4 は S45C 材の大気中および人工海水中での非改質材と
改質材の摺動後の断面形状を示す.
図 3(a)をみると,大気中では S45C の改質材は非改質材
に比べ摺動初期に摩擦係数が小さい.これは,微粒子ピー
ニング処理により改質材表面に微粒子成分を含む層を形成
し,強い凝着を抑えられたためだと考えられる.また,図
4 の(a)をみると,改質材は非改質材に比べ摩耗が小さい.
これは加工硬化や残留応力によるものだと考えられ,摩耗
が少ないことで接触面積の増加を抑制し摩擦係数を下げる
要因になったと考えられる.人工海水中では SiC#800 での
改質材は非改質材に比べ摩擦係数が小さいが,SiC#180 で
の改質材は非改質材よりも摩擦係数が大きい.これは,粒
径の違いによる改質材表面の粗さの違いが原因だと考えら
れる.粒径が小さいほど改質材表面の粗さは小さくなり,
改質材表面は緻密になる.#800 では改質材表面が非常に緻
密になっており,S45C 材の腐食が材料内部に進行していく
特性を防ぎ海水中での腐食摩耗が進行せず,接触面積の増
加が減少したため非改質材より摩擦係数が小さいと考えら
れる.#180 では改質材表面が#800 に比べ粗く,腐食の進行
を妨げられず腐食摩耗により接触面積が増加したため,非
改質材より摩擦係数が大きいと考えられる.
図 3(b)をみると,大気中と人工海水中ともに PBB2 の改
質材は非改質材に比べ摩擦係数は大きい.PBB2 材はトラ
イボ特性が良い材料である.しかし,改質材は微粒子ピー
ニング処理により表面粗さが大きくなることで摩耗が進み
接触面積が増加し,摩擦係数が大きくなったと考えられる.
図 3(c)をみると,大気中では SUS304 材の改質の有無に
よる摩擦係数の差はほとんどみられない.これは,SUS304
材は熱伝導率が小さく摺動部の熱が発散されにくいため局
部的に高温になりやすく,凝着性が高くなり微粒子ピーニ
ング処理を施しても改質部分がすぐに摩耗するためだと考
えられる.人工海水中では,SiC#800 を吹付けた改質材は
非改質材に比べ摩擦係数が下がる.これは,粗さがあるこ
とにより摩耗が増え接触面積は大きくなるが,接触面圧は
逆に小さくなり,腐食物などによる潤滑がしやすくなった
ためだと考えられる.
0.8
0.6
0.4
0.2
0
(ⅰ)No peening
(ⅱ)#180
(ⅲ)#800
(a)Dry
(b)Sea Water
Fig.4 Section profiles (S45C,Normal load 20N)
差動歯車装置の歯元応力に関する実験的研究
907
Experimental studies on the tooth root stress of differential gear
○学
正
中村和正(長崎大学)
奥村哲也(長崎大学)
非 川崎紀明(長崎大学)
正 中嶋 明(長崎大学)
Kazumasa NAKAMURA , Nagasaki University,1-14 , Bunkyo-machi , Nagasaki , 852-8521
Noriaki KAWASAKI , Nagasaki University
Tetsuya OKUMURA , Nagasaki University
Akira NAKASHIMA , Nagasaki University
Key words : Gear , Differential Gear , Bevel Gear , Tooth Root Stress , Lubrication
1.緒言
かさ歯車式差動歯車装置は,主に自動車の旋回時に生じる
内輪と外輪の回転数差を吸収する目的で使用される装置であ
る.近年過酷な負荷条件で使用されるようになってきている
ため,高強度化への要求が高まっている.しかしながら,差
動歯車装置におけるかさ歯車の歯面荷重分布や歯元応力分布
について,解析的または実験的な研究をまとめた論文は少な
い.そこで本研究では,差動歯車装置のすぐ歯かさ歯車と曲
がり歯かさ歯車での,歯車形状の違いによる応力分布の変化,
また歯面に潤滑油を塗布する事での応力分布の変化について
実験を行い,その結果について検討した.
2.差動歯車装置の構造
Fig.1 に差動歯車装置の概略図を示す.ピニオンギヤが自転
しながら公転することにより,旋回時に生じるサイドギヤの
回転数差を吸収する. Fig.1 において,ドライブピニオンに
よりリングギヤに与えられる駆動トルクを ,左右サイドギ
ヤのトルクをそれぞれ
,
とすれば,次式が成り立つ.
TD  TL  TR 
 ··························· (1)
TL  TR

差動時にも左右の車軸のトルクは常に等しいことが差動歯車
装置の特徴である.
Power
Drive pinion
Differential
side gear
Ring gear
Differential
pinion
3.実験条件、方法
ピニオンに負荷が加えられた場合に生じる歯元応力分布を
測定するために使用した実験装置を Fig.2 に示す.サイドギ
ヤ B に連結されたプーリにおもりをかけることで負荷トルク
を与え,ピニオンに歯元ひずみを生じさせる.サイドギヤ A
をモータ(回転速度 3.6rpm)により回転させ,連続的なデータ
の取得を行っている.Fig.3 はすぐ歯かさ歯車におけるひずみ
ゲージ貼り付け位置を示している.30°接線法により示され
る危険断面位置にひずみゲージを貼り付けてひずみを測定し,
歯元応力を求めた.内端側を No.1 とし,以降 No.5 まで番号
を振っている.曲がり歯かさ歯車においても,同様に貼り付
けを行っている.また、Table.1 には実験条件を,Table.2 に
は実験に用いたかさ歯車の諸元を示している.オイルは,ボ
ンノック(24℃で 260cSt)を使用した.
Table.1 : Experimental condition
Structure
1 Pinion System
Backlash
[mm]
28
Torque
[Nm]
53 , 106 , 159
Atmosphere
Dry , oil
Measuring method
[mm]
30°Tangent Method
Table.2 : Specification of bevel gear
Type
Gleason
Module
[mm]
6
Pressure angle
[deg.]
20
Number of tooth
20
face width
[mm]
30
Material
S45C
Herlix angle (spiral)
[deg]
35
Differential case
Fig.1 Differential gears
Fig.2 : Experimental device
Fig.3 : Strain gage putting position of Straight bevel gear
4.実験結果、考察
Fig.4 と Fig.5 は,すぐ歯かさ歯車と曲がり歯かさ歯車にお
いて,53.07Nm,106.14Nm,159.22Nm の各トルクにおけ
る歯元応力の時間的変化を示したものである.縦軸は歯元応
力,横軸は噛み始めを 0 とした時間で表している.Fig.1 と
Fig.2 をひかくすると,噛み終わるまでに 1.2 秒のずれが生じ
ている.これは,それぞれの噛み合い率がすぐ歯かさ歯車が
1.64,曲がり歯かさ歯車が 2.65 となっていることから,一枚
の歯に関して曲がり歯かさ歯車の方がより長く噛み合う為で
ある.また応力分布を見ると,すぐ歯かさ歯車は比較的平坦
な形状をしているのに対し,曲がり歯かさ歯車は山なりの形
状をしている.これは曲がり歯かさ歯車の歯すじがカーブを
描いているので,噛み合いの始めと終わりが徐々に変化する
為である.また,両グラフの歯元応力の最大値に着目をする
と,わずかではあるが曲がり歯かさ歯車の方が大きい値を示
していることがわかる.曲がり歯かさ歯車は,組立誤差の影
響や,歯面がカーブを描いている事等により,理想的な歯当
たりを作る事が大変困難である.今回理想的な位置に歯当た
りを近づける事は出来たが,すぐ歯かさ歯車のように当たり
の範囲を広くする事が出来なかった.このため,曲がり歯か
さ歯車の方が大きい値を示してしまったものと考えられる.
Fig.6 と Fig.7 は,すぐ歯かさ歯車と曲がり歯かさ歯車にお
いて,それぞれ無潤滑状態とオイルを塗布した状態で の
53.07Nm,159.22Nm の各トルクにおける歯元応力の時間的
変化を比較をしたグラフである.本実験が,低速回転によっ
て行われている事や,回転の直前にオイル塗布するという実
験条件で行った事から,本実験では境界潤滑状態となると考
えられる.よって,境界潤滑膜が形成されるが,低速で回転
しているため,潤滑膜によるせん断力への影響がほとんどな
いので,Fig.6 と Fig.7 において,それぞれ無潤滑状態とオイ
ルを塗布した状態で比較すると,オイルを塗布した状態の応
力分布の方が多少の減少は見受けられるが,大きく減少する
事は無かったと考えられる.
5.結言
本研究では,差動歯車装置において,歯車形状の違いよる
歯元応力分布の変化と,潤滑状態の違いにおける歯元応力分
布の変化について実験的研究により調べた.その結果,以下
のような結論を得た.
1.曲がり歯かさ歯車はすぐ歯かさ歯車と比べて,歯すじがカ
ーブしている為,かみ合いのはじめと終わりが徐々に変化す
し,歯元応力分布が滑らかな山なりになることが分かった.
また本実験では歯当たりの範囲が曲がり歯かさ歯車の方が狭
くなった為,曲がり歯かさ歯車の方が歯元応力の最大値が大
きいという結果が得られた.
2.オイルを塗布し,低速で回転させるという条件では境界潤
滑状態となり,境界潤滑膜によるせん断力への影響がほとん
どない為,結果として歯元応力分布にあまり大きな変化を確
認することはできなかった.
Fig.4 : Tooth root stress for each torque at pinion β
meshed with side gear B (straight bevel gear)
Fig.5 : Tooth root stress for each torque at pinion β
meshed with side gear B (spiral bevel gear)
Fig.6 : Tooth root stress for each torque and atmosphere at
pinion βmeshed with side B (straight bevel gear)
Fig.7 : Tooth root stress for each torque and atmosphere at
pinion βmeshed with side B (spiral bevel gear)