チャプター9:脳保護法

チャプター9
脳保護法
講師:海江田 章 先生
(2014年6月19日)
大動脈瘤の分類
瘤壁の形態
真性
仮性
解離性
瘤の存在部位
胸部
胸腹部
腹部
原因
動脈硬化性
外傷性
炎症性
感染性
先天性
瘤の形
紡錘状
嚢状
大動脈瘤手術時の術前確認
Perfusionistとしての人工心肺プランニング
大動脈瘤に対する現在の術式
open distal anastomosis 法
・・・大動脈を開放下に吻合
通常の開心術
⼤動脈遮断を⾏い⼼停⽌にする
大動脈瘤の手術
大動脈遮断しない(できない)
・・・脳に⾎液が流れない
送血部位
・大腿動脈(+腋窩動脈)
・上⾏⼤動脈
大動脈遮断鉗子による大動脈損傷の防止
⼤動脈瘤内の⾎栓、粥腫等による塞栓症の防⽌
⼤動脈の径の評価が容易
大動脈瘤に対する現在の体外循環法
open distal anastomosis 法を⾏うために・・・
・代謝を下げることによる臓器保護(特に脳保護)
・術野の無血視野確保
・吻合のし易さ
低体温だけの脳保護には、時間的制約がある
・・・・脳保護を⾏う追加⼿段が必要
脳血管の解剖
ウイリス動脈輪
脳保護法
超低体温循環停止法
hypothermic circulatory arrest(HCA)
逆⾏性脳灌流
retrograde cerebral perfusion (RCP)
順⾏性脳灌流
selective cerebral perfusion (SCP)
超低体温循環停止法(HCA)
超低体温下に⼿術操作を⾏う。簡便であるが、安全な循環停⽌時間は
⿐咽頭温15℃で30〜45分、20℃では約20分と考えられている。
超低体温であっても循環停止時間には限界がある
〜 1990年代前半 〜
Lars G. Svensson
循環停止で手術した656例について、循環停⽌時間と脳障害の発⽣率を分析
J Thorac Cardiovasc Surg 1993;106:19-31
(低体温;20℃)
循環停止時間 (分)
7〜29
30〜44
45〜59
60〜120
分
分
分
分
脳障害発⽣率(%)
4% (12/298)
7.5% (15/201)
10.7% (9/84)
14.6% (7/48)
結論;40分を超えると 脳障害の発⽣率は、急激に増加する
逆⾏性脳灌流(RCP)
超低体温下に上大静脈に挿入された脱血管より酸素加された血液を
静脈から脳内に灌流させる⽅法。
・ SVC+IVC2本脱⾎、上⾏Ao or FA送血
にて通常の体外循環回路にてスタート
・18〜20℃にて、IVCをクランプし循環停止
・再循環回路を利⽤し、SVCから送血
- 送⾎流量: 5〜10 mL/min/kg
- SVC圧 :15〜20 mmHg
- Sactionにて血液回収
脳障害の発⽣頻度
HCAとHCA+RCPの比較
帝京大学医学部 心臓血管外科学講座 ホームページより
当院のRCP法
遠心ポンプで1.0L以下の流量コントール
は困難なためローラーポンプでRCP送血
を⾏う
再循環回路の開放閉鎖を⾏わなくてよい
RCPとSCPの切り替えが容易
・体温(膀胱温)25℃で下肢循環停止
・RCP時の送⾎流量 200〜300mL/min
・RCP許容時間30〜40分
逆⾏性脳灌流法(RCP)
メリット
脳の低温維持効果
空気、⾎栓、粥腫等による塞栓症の予防
(Aortic No-Touch Technique)
HCA時間を延⻑できる
術野の視野が良い
デメリット
脳保護効果は不⼗分(非⽣理的)
超低体温は必須
時間的制約あり
順⾏性脳灌流法(SCP)
メリット
確実な脳保護が可能
時間的な制約がない
必ずしも超低体温が必須ではない
デメリット
カニュレーション操作が必要
バルーン付きカニューレを用いた
瘤内直接送血法
術野回路が煩雑
カニュレーション操作に伴う、空気、
⾎栓、粥腫等による塞栓症の発⽣
上⾏⼸部⼤動脈⼿術時の脳分離体外循環システム
ポンプ送血式
分岐送血式
サクション
ポンプ
サクション
ポンプ
ベント
ポンプ
ベント
ポンプ
脳送血
ポンプ
体送血
ポンプ
体送血
ポンプ
⼈⼯⼼肺の送⾎回路を分岐させて
脳送⾎を⾏う
体送血用ポンプの他に脳送血用の
ポンプを⽤いて脳送⾎を⾏う
当院の脳分離体外循環⽤回路
分離送⾎の注意点
通常の体外循環より回路や操作が複雑になる
特に⼈⼯肺から空気を引き込み、空気誤送のトラブルの発⽣率が⾼い
分離ポンプ + ローラーポンプ
の組み合わせ
分離ポンプ + 遠心ポンプ + 吸引補助脱血
の組み合わせ
SCP送血方法
3分枝送血
2分枝送血
人工血管側枝送血
(Arch first法)
右腋窩A or 右鎖骨下A送血 右腋窩A or 右鎖骨下A送血 右腋窩A or 右鎖骨下A送血
+
+
(⼀側性順⾏性脳灌流)
2分枝送血
1分枝送血
当院のSCP法
Lt)CCA
12Fr
BCA
14Fr
脳分離ポンプ
・体温(膀胱温)25℃で下肢循環停止
・SCP時の送⾎流量;1分枝当たり200〜300mL/min
・SCP許容時間;なし
Lt)SCA
12Fr
脳分離体外循環時のモニタリング
血圧 (灌流圧)
・右 or 左橈骨動脈
・浅側頭動脈
・循環カニューレ先端圧
・大腿動脈 or 足背動脈
脳循環
・脳内酸素飽和度(rS02)
・動脈血二酸化炭素分圧
体温
・直腸温
・膀胱温
・咽頭温(⾷道温)
・鼓膜温
・皮膚温
・血液温(S­Gカテーテル挿入時)
脳内酸素飽和度測定
INVOS 5100C
(コヴィディエン ジャパン)
NIRO-200NX
(浜松ホトニクス)
reginal cerebral oxygen saturation : rSO2
「局所混合⾎酸素飽和度」もしくは「組織酸素飽和度」とも呼ばれる。
局所(センサー直下)の灌流状態や代謝といった“酸素の需給バランス” の変化を捉える
脳内は静脈系が75〜80%を占めるため、主に静脈⾎酸素飽和度を測定していることとなり、
術前の基準値から20%以上の低下があると術後の神経障害が増加するといわれている
RCP中のrSO2(HAR)
RCP開始
RCP終了
RCP時間
29分
RCP中のrSO2(HAR)
RCP開始
RCP終了
RCP時間
56分
SCP中のrSO2(HAR)
RCP開始
RCP終了
SCP時間
42分
人工血管
被覆人工血管(シールドグラフト)
⾎管の繊維の隙間から⾎液が漏れるため、⾎液で目詰まりさせて使⽤。
繊維の隙間をコラーゲンやゼラチンでシールされている。人工血管が折れ曲がらない
ように皺がついており、この皺のことをクリンプ(crimp)と呼ぶ。
4分枝管付人工血管
(Gelseal)
1分枝管付人工血管
( INTERGARD)
1分枝管付人工血管
(Gelweave
Valsalva)
ストレート人工血管
(Gelweave)
Y字人工血管
RCPを⽤いた上⾏置換(Hemi arch)の手術手順
・下肢循環停止
・RCP開始(200〜300mL/min)
・瘤切開
・Retro Caldioplegia
・中枢側吻合
・末梢側吻合
(大動脈弓の小弯側
を含めて切除)
・大動脈遮断解除
・人工血管側枝送血
人工弁付き人工血管による大動脈基部置換術
Bentall原法
Cabrol 法
Piehler 法
(interposition graft法)
Carrel patch 法
(button Bentall法)
人工弁サイズの+3mmの人工血管を選択
(コンポジットグラフト)
SCPを用いた弓部全置換(TAR)の手術手順
・下肢循環停止
・瘤切開
・脳分離確⽴(500〜600mL/min)
・Retro Caldioplegia
・中枢側吻合
・末梢側吻合
・大動脈遮断解除
・Lt)CCA吻合
・人工血管側枝送血
・Lt)SCA吻合
・BCA吻合
下肢循環停止時の対麻痺予防策
下肢循環停止時の対麻痺予防
下肢循環停止時間が60分を超える場合に
バルーンを用いて5〜10分程度下肢灌流
を⾏う
バルーン送血
バルーンオクリュージョン
+
FA送血
各種脳保護法の比較
SCP
HCA
・時間的制限がない
・⽣理的な循環
・時間的制限あり
・非⽣理的な循環
・時間的制限あり
・分枝へのカニュレーション不要
・術野の視野が悪い
・HCAとRCP併用で脳合
・超低体温にする必要あり
・分枝へのカニュレーション必要
Operator
RCP
(脳保護効果が疑問)
併症を軽減できる
・分枝へのカニュレーション不要
・術野の視野がいい
・術野の視野がいい
・⼼停⽌時間が⻑くなる
perfusionist
(Arch fast時)
・脳分離回路の追加
・セットアップ時間の延⻑
・通常の体外循環回路のみ
・回路のセットアップが容易で
・通常の体外循環回路のみ
・超低体温が必要
・コストが高い
・超低体温が必要
・体外循環時間の延⻑
・操作が煩雑
・中等度低体温でも可能
・体外循環時間の短縮
余分なコストがかからない
(18 〜20℃)
・体外循環時間の延⻑
(18 〜20℃)
脳分離体外循環時の合併症
中枢神経障害
カニュレーションに伴うAir、debrisによる塞栓症
不適切な脳保護による脳虚⾎や脳浮腫
⼈⼯⼼肺回路からのAir誤送
低体温による弊害
⾎液凝固能異常
・・・・出⾎、⼤量輸⾎
体外循環時間の延⻑・・・・冷却、復温時間の延⻑
各臓器障害
下肢循環停止に伴う脊髄虚血(対麻痺)、腹部臓器虚血(肝臓、腎機能障害)