株式会社 松田ポンプ製作所

◇ 会員企業訪問 ◇
株式会社 松田ポンプ製作所
松田 一登 代表取締役社長
「理想のポンプ」の創造をテーマに、高い技術力とすぐれた人材で
産業界の心臓部(ポンプ)を支える
大阪府工業協会の会員企業訪問。今月は【株式会
ンプ分野のパイオニアとして、ケミカルポンプ製品
社 松田ポンプ製作所】を紹介いたします。
の開発・設計・製造を行ってきました。創業当時は
同社は産業の心臓部ともいえる「ポンプ」、なかで
化学用ポンプの製造と製紙機械の製造も行っており
も化学プラントなどで用いられる「ケミカルポンプ」
ましたが、現在の当社の主力事業は化学用ポンプの
の製造に強みを発揮しています。鉄・非鉄の金属製
製造です。1929年には大阪市西淀川区に工場を増築
錬プラントへ数多くの納品実績を誇り、発電、重化
移転し製造設備の拡充を行いました。その後1940年
学といった産業のベースとなる分野、資源開発では
に海軍監督工場、いわゆる軍需工場に指定されまし
海外にも広く輸出されています。
た。そして1945年には戦災で工場が全焼し、現在の
2016年には創業100周年を迎える松田ポンプ製作
兵庫県宝塚市逆瀬川へと移転してきました。
所。
「使命は、産業界の心臓(ポンプ)を社会に送り
-会社が発展していくにあたりさまざまな技術革新
出すこと!」と力強く語る、松田一登代表取締役社
や、業績飛躍の契機となる製品開発があったかと
長にお話を伺いました。
思われます。貴社の中で業容拡大のターニングポ
イントとなった出来事を教えてください
戦後、高度成長期に入ると経済の発展と共に、さ
まざまな公害訴訟が起こるようになりました。企業
の環境対策への関心が高まっていく中で1970年にマ
スキー法が成立し、大気汚染に関する規制が非常に
厳しくなりました。当社のターニングポイントの一
つとなった出来事は、火力発電所から排出される煤
煙による大気汚染の防止、「排煙脱硫装置用ポンプ」
の製造でした。
火力発電所では、重油あるいは石炭を燃料とし
松田 一登 代表取締役社長
て燃焼させることで蒸気を生成し、この蒸気によっ
て蒸気タービンを回転させて電力を発生させていま
-まず会社の沿革についてお聞かせください
す。しかし重油や石炭には硫黄分が含まれているた
当社の起源は、創業者で私の祖父にあたる松田栄
め、燃焼させた際に発生する排出ガスの中に亜硫酸
次郎が、1916年(大正5年)に大阪市東淀川区でポ
ガス(SO2)が含まれており、この亜硫酸ガスは酸性
ンプの製造を始めたことに端を発します。日本初の
ガスなので、これをそのまま大気に放出すると酸性
高珪素耐酸鉄ポンプを世に送り出して以来、耐蝕ポ
雨の原因となってしまいます。つまり亜硫酸ガスを
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大気中に放出する前に中和させる必要があります。
そうすると当然のことですが材質や形状も負荷に耐
薬液を亜硫酸ガスに噴霧して中和させるのですが、
え得るものが必要になってきます。そのため設計を
その際に非常に硬く細かい粒子が発生します。それ
全て変えてしまうケースもあります。
がポンプの中を通過しますので、さながら砥石をあ
研究・開発にあたっては、1983年に設立した研究
てているようにポンプの内部が激しく摩耗していき
所が大きな役割を果たしていると思います。やはり
ます。通常の汎用ポンプでは耐蝕性が低く、数ヶ月
化学プラントが主な納品先ですので、例えば水のよ
で交換しなければなりません。この状況をなんとか
うに形状だけ工夫すれば良い、ということはありえ
改善できないかと、当時の取引先からお話をいただ
ません。硫酸や塩酸といった腐食性の強い液体を扱
き、試行錯誤した結果、市販のステンレス材料では
いますので、耐蝕性と耐摩耗性を考慮した設計が求
対応できず、もっと高機能・高性能なステンレスが
められます。特に日本は国土が狭いせいなのか、高
必要だということがわかりました。当社では自社で
効率化・高機能化の要求が世界基準より高い気がし
鋳造工場を持っておりますので、社内で研究に研究
ます。
を重ね、当社独自の「パイロメット合金」という耐
酸・耐摩耗性に優れた排煙脱硫装置用の材料を開発
-鋳物工場を自社で備えているとのお話について。
し、それをポンプに採用しました。これが当社の基
開発・設計・製造を一貫して自社で行っておられ
礎となっていると言っても過言ではありません。
るとのことですが、製造工程の一部を外注すると
いったお考えはなかったのでしょうか?
ケミカルポンプの製造に関して言いますと、鋳造
工程含め全て自社でやらざるを得なかったというの
が本音です。というのも、当社が作るポンプは受注
生産で受注量も少ない。汎用ポンプを大量に受注す
るのであれば、一部を外注できるのかもしれません
が、用途が特殊で受注数も少ないとなればなおさら
自社で完結させる必要があります。先ほども申し上
げたように製品サイクルのスピードが年々速くなっ
てきていますので、時代のニーズに対応をするため
には、外注ではとてもじゃないが間に合いません。
優れた耐蝕性・耐磨耗性を誇る同社の
一気通貫の生産体制が、今では当社の大きな強みだ
パイロメット合金製耐腐蝕耐磨耗ポンプ
と思っています。
-非常に特殊なポンプの開発を手掛けられていると
のことですが、顧客のニーズに応える研究・開発
への具体的な取り組みについて教えてください。
パイロメット合金については、今でも研究を続け
ており、日々進化しています。当然のことですが、
装置のコンパクト化・高効率化・高機能化が進むな
か、ポンプも進化していかなければなりません。昔
はある装置に10台ぐらいのポンプを使っていました
が、それを5台にしたいというような要求もありま
鋳造工程を自社工場で行うことで、
す。
単純計算で1台あたりの負荷が倍になりますが、
顧客からのニーズに柔軟に対応できる
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-話題は変わりますが、
「海外展開」についてお聞
込みのせいで次の工程が困る。若い従業員に言わせ
かせください。2006年にサウジアラビアに排煙脱
ると「作業手順書に書いていないからわからない」
硫装置用の大型ポンプを納品されていますが、海
「教えてもらってない」。マニュアルがあればその通
外輸出・海外進出をどのように捉えておられます
りに作業をするのですが、それ以外のことは気が付
か?
かない。なので、思いもよらないことをするかもし
海外進出や海外展開をしなければと、あらためて
れない、という前提で指導をしないと非常に危険で
考えたことはありません。むしろ取引先が海外展開
す。ある程度勤続年数が経つと、そういったミスは
を積極的に進めていますので、必然的に当社も出て
減ってくると思うのですが、最初は手厚く教えなけ
行かざるを得ない。基本的には日本のメーカーへ納
ればならない。
品する事になりますが、それが国内か海外かの違い
ですので、安全第一、セーフティファーストを念
があるだけです。ご質問にあったサウジアラビアへ
頭において指導しています。ヒヤリハットが多いと
の納品の件も、
当社が直接取りにいったのではなく、
従業員の安全確保だけでなく、生産活動自体にも影
発電所に使われるポンプの製造の依頼が当社へきた
響してきますので、きちんと作業手順に沿って安全
ということです。
に作業をしているか抜き打ちでチェックすることも
ある取引先からこのスペックのものができます
あります。そういったチェックは所属長が常々やっ
かと依頼がきました。最初はどこへ納品するものか
ていますが、それだけでは完全にカバーできません
分からなかったのですが、最終的にはサウジアラビ
ので、作業員同士がお互いにチェックし合うように
アだと。結局のところ、当社は依頼されたものを
しています。自分がやっている作業は自分ではわか
作って納めるだけなので、国内・海外は関係ありま
りませんが、横から見ている作業員にはわかること
せん。日本のエンジニアリング会社は海外企業と比
が多々あります。常に声を掛け合い指摘された方も
べても非常に強い力を持っており、ある地域へ納品
ありがとうという気持ちを忘れないように心掛け、
した製品が良いと評判になれば同じものが欲しいと
言われずとも分かっている、というのは言語道断で
オーダーがくるそうです。それを調べていくと当社
す。
の製品だったりしますので、過去にお納めしたもの
とオーダーされたものが同じであればいいのです
が、技術の守秘義務もありますので全く同じという
のは難しい場合もあります。当社としては良い製品
を作り続け、顧客からの注文に精一杯応えていくの
みです。
-貴社で取り組まれている人材育成や求める人物像
についてお聞かせください
作業中は常に声を掛け合う。
従業員の勤続年数は比較的長く16年ぐらいで、平
安全が確保できない職場に良品なし
均年齢38歳です。団塊の世代が一気に抜けてしまい
ましたので若返りを果たした一方、技能伝承の難し
さを痛感しています。どこのメーカーでも共通の課
それでも人間というのはミスをするもので、時
題だと思いますが、昔だったら考えられないトラブ
には不具合も出します。その場合は不具合の内容を
ルが発生するようになりました。作業手順書に書き
じっくり聞き、本人が原因を理解しているか、再発
きれませんので、少しのチェックや検査が抜けてい
防止はどうしたら良いか考えているかと徹底的に確
ることがあります。つまり大丈夫だろうという思い
認します。何も考えていなかった場合は怒りますが、
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ミスをした時は本人が一番反省していますので、再
ができますし、今までもそうしてきました。細く長
発防止に向け一緒になって取り組むことが重要だと
くではありますが、オンリーワンの企業だと思って
思います。
います。
私の役割として後継者に会社をバトンタッチし
-今年度、
「WLB(ワーク・ライフ・バランス)の
なければなりませんが、次の世代では既成概念を超
実現を積極的に推進している会社」として、兵庫
えて仕事をして欲しいと思います。顧客は地球上ど
県から表彰を受けられましたが、労使協調に向け
こにでもいます。もしかしたらコストダウンのため
てどういった取り組みをされておられますか?
には海外の外注先を使うこともあるかもしれませ
当社でも昔は組合と闘争がありました。会社と
ん。要は変わり身の早い経営が重要になってくると
して労使間の対立は出来る限りなくしていこうと思
いうことです。過去に成功したやり方は、未来では
い、従業員の不満は何か、どうやって解消するかと
成功しないかもしれませんし、過去に失敗した事例
考え続けてきました。待遇面や労働環境を含め改善
は未来の種になるかもしれません。タイミングを逃
に向けてさまざまな取り組みを行ってきましたが、
さず色々な仕事にチャレンジしていくことが重要で
やはり職場の人間関係に関係する悩みが一番多く、
す。
人間関係の問題を放置しておくと従業員は辞めてし
そして一番の夢はやはりみんなで楽しく仕事を
まいます。
したいなと。苦しいこともありますし、汗をかかな
所属長や周りの人間が常に気を付け、会社として
ければならない時もありますが、一生懸命取り組め
従業員の不安を放置しない。そのためにはコミュニ
る会社にしたい。会社の規模は重要ではないと思っ
ケーションを取り合うことが一番だと思います。少
ています。縁あって同じ釜の飯を食べているわけで
し声をかけるだけで気持ちが変わったり、思いを口
すから、何でも言い合える関係を築くことができた
にすることで、不安の半分ぐらいはおさまったりし
ら、これほど素晴らしいことはないと思います。
ます。解決しようという姿勢を見せれば、従業員の
意識や態度も変わります。仕事はチームプレイで
す。とにかく楽しんで働いてもらいたいと思ってい
ます。遊びではなく、仕事の中に面白いと思える要
素を見つけてもらいたい。そのためにはプライベー
トな部分でもフォローするようにしています。何か
不安があると仕事に身が入らない、安全面にも不安
がでますし結果的に不良も発生してしまいます。
-ありがとうございました。最後になりますが、創
業100周年に向けて社長の夢を教えてください。
私が今60歳ですから、入社して40年近く経ちま
す。
まさか会社が100年も続くとは思いもよりません
株式会社 松田ポンプ製作所
住 所 :兵庫県宝塚市野上2ー6ー14
(本社・工場)
業 種 :一般機械器具製造、ケミカルポンプの製造
従業員 : 55名
URL : http://www.mazda-pump.com/
でした。
日本でも100年続く企業はそれほど多くない
と聞いています。ですので、社員には200年を目指
すようにと伝えています。
当社は親会社もなければ下請け関係があるよう
な企業もありません。納品先も多種多様です。つま
りどんな取引先が相手でも、対等な関係を築くこと
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