津波堆積物中のヒ素および重金属類と 津波堆積物の化学判別 土屋範芳・渡邊隆弘・小川泰正 山崎慎一・山田亮一 東北大学環境科学研究科 120118 せんだいメディテーク 調査地域: 分析項目: 岩手県-宮城県-福島県(相馬市以北) ヒ素及び重金属類 全岩含有量 (主として蛍光X線分析) 水溶出挙動(環境省告示18号試験) (主としてICP-MS) 海水による溶出 多段階ろ過法->化学形態解析 As(水溶出量) 釜石 気仙沼 石巻 仙台 Cu(水溶出量) Cu(含有量) 宮古 宮古 釜石 釜石 気仙沼 仙台 気仙沼 仙台 Cu(含有量) 田老 釜石 野田 宮古 気仙沼 仙台湾 広域的な震災影響評価(As) 震災前(2004) 震災後(2011) 久慈 1 2 3 宮古 釜石 4 気仙沼 5 女川 6 仙台 相馬 産総研地球化学図(2004.底質) 1. 2. 3. 4. 5. 野田玉川 田老 釜石 鹿折ほか 大谷ほか 東北大(2011.05-08) 大谷ー気仙沼地域の異常(As) 震災前(2000) JOGMEC東北中部(2000.底質) 震災後(2011) 東北大(2011.05-08) As 水溶出量 μg/kg 1000.0 100.0 10.0 1.0 1.0 10.0 100.0 1000.0 地球科学的含有量 ppm 10000.0 As 海水溶出量 μg/kg 1000.0 100.0 10.0 1.0 1.0 10.0 100.0 水溶出量 μg/kg 1000.0 AAS(還元気化原子吸光法) b) Kesen-numa area 気仙沼地域 a) Iwate coast 岩手県沿岸地域 As NT27 RY25 RY8 NH2 NT11 NH3 NT10 Tnm6 0 20 40 60 80 100 NH4 Relative abundance of As (%) 0 20 60 40 80 100 Relative abundance of As (%) 南三陸-石巻地域 c) Minamisanriku and Ishinomaki area 仙台湾地域 d) Sendai Bay coast NT5 Tnm14 NH21 0 20 40 60 80 100 NH14 Relative abundance of As (%) AO3A < 3 kD 0.2 mm - 0.45 mm 3 kD - 0.2 mm > 0.45 mm 0 20 40 60 80 100 Relative abundance of As (%) Figure 3, Tsuchiya et al. 大谷鉱山周辺域 津波堆積物 1735 mg/kg 45 μg/kg 鉱滓 2563 mg/kg 107 μg/kg 津波堆積物 1840 mg/kg 249 μg/kg 津波堆積物 227 mg/kg 254 μg/kg 上段が含有量,下段が水溶出量 NH2 NH2 Pb Pb As AS < 3kDa 3kDa-0.2μm FeFe 0.2-0.45μm > 0.45μm AlAl 0% 20% 40% NH3 NH3 60% 80% 100% Pb Pb As AS < 3kDa 3kDa-0.2μm FeFe 0.2-0.45μm > 0.45μm AlAl 0% NH4 20% 40% 60% NH4 80% 100% Pb Pb ASAs < 3kDa 3kDa-0.2μm FeFe 0.2-0.45μm > 0.45μm AlAl ・ヒ素は溶存種(一部は有機態?) ・限外ろ過後もやや着色(NH2<NH4) ・懸濁物質が多い ・Fe, Al, Pbはコロイド粒子が主 (溶存種は少ない) 多変量解析結果 1 Zn –Zn-Comp comp 1 1 Cu –Cu-Comp comp 1 3 3 2.5 2.5 Cu(ppm) 2 Zn(ppm) 2 High-As 1.5 High-Pb High-As 1.5 High-Pb High-Zn 1 High-Cu 0.5 0 -3.00 High-Zn 1 High-Cu 0.5 -2.00 -1.00 0.00 1.00 2.00 3.00 0 -3.00 4.00 -2.00 -1.00 Comp1 0.00 1.00 2.00 3.00 4.00 Comp1 As-Comp 1 1 Pb –Pb-Comp comp 1 As – comp 1 4 2.5 3.5 2 3 As(ppm) 2.5 High-As 2 Pb(ppm) 1.5 High-As High-Pb High-Zn 1.5 High-Pb High-Zn 1 High-Cu 1 High-Cu 0.5 0.5 0 -3.00 -2.00 -1.00 0.00 1.00 Comp1 2.00 3.00 4.00 0 -3.00 -2.00 -1.00 0.00 1.00 Comp1 2.00 3.00 4.00 Fig. 1 規格化に用いた試料位置 仙台湾は,南部の阿武隈 川流域花崗岩,北部の北 上川流域中古生界堆積 岩,西部の広瀬川流域グ リーンタフという東北地方 の主要構成地質体からの 砕屑物で構成されるた め,東北地方全域の規格 化に適当と考えられる. これをSendai marine sediment composition (SMSC)と称することにす る. 上部地殻平均組成で規格化した海底堆積物の性状 -地球化学標準試料(産総研)と比較ー 100 青ラインが,日立~久慈までの太平洋側海底 堆積物平均値,赤ラインが仙台湾海底堆積物 (SMSC)平均値(産総研, 2004) ROCK/Up. CRUST 10 1 0.1 SMSCは,全般に全海底堆積物平均値より高濃度で推移するが,上部地殻平 均値より有意に低い.そのパターンは,東北本州弧第四紀安山岩(JA-3)に極 めて類似するが,堆積岩や堆積物とは異なっている. 0.01 Sr K Rb All marine sed. Lake sed (JLk-1) Ba Th Nb SMSC Kitakami slate (JSl-1) Ce P Zr Ti Quaternary and (JA-3) Stream sed (JSd-1) 上部地殻平均組成は,Taylor and McLennan, 1981による. Y 全検討試料の重金属変動パターン Fig.2 -仙台湾海底堆積物(SMSC)で規格化- 100 赤ラインは,3成分異常 青ラインは2成分異常 10 1 Cu Zn Pb 3成分異常は,全てCu-Zn-Pb±Cd型, 2成 分異常はそれと同じ型とCu-As型との2種類 がある.いずれも,(元素間の相関があるた め)自然由来と考えられる. 0.1 As Cd RY04 RY05 RY12 RY20 NH4 NT33 RY03 NT36 RY25 RY06 RY07 RY19 NT20 NH22 NH28 RY22 NH8B AO3A NT34 NH7 NH21 NH20 NT27 RY28 RY29 RY08 NT17 NH6 RY32 RY13 Fig. 3 複成分異常を持つ試料の地域性 100 黒ライン(灰色マーカー)は釜石湾,赤ライン (黄色マーカー)は大谷海岸,青ライン(青マー カー)は田老港からの試料 10 1 Cu 0.1 Zn Pb 複成分異常は,釜石型(Cu-Zn-Pb-Cd), 田 老型(Cu-Pb-Zn),大谷型(Cu-As)にパターン 化される.いずれも内陸に稼行鉱山があ り,鉱山および周辺鉱化帯からの異常と推 定される. As Cd RY04 RY05 RY12 RY20 NH4 NT33 RY03 NT36 RY25 RY06 RY07 RY19 重金属異常帯の分布 ・複数の重金属異常が検出される津 波堆積物は,田老港,釜石湾および 大谷海岸の3地域に集中する. ・いずれも稼行鉱山から流出する河 川による海底堆積物が巻き上げら れたものと考えて矛盾はない. ・単独の重金属異常を持つ津波堆 積物は,仙台湾沿岸,気仙沼湾, 釜石ー大船渡間に分散する. 少なくとも一部は人為由来と考え られる 津波堆積物の地球化学判別図 1 Sedimentary Discrimination 1 Fig.1 / K2O) log (Na2O LOG(Na2O/K2O) 0.5 竜の口 和泉 Graywacke 高峰 Litharenite 0 女川 船川 大年寺 津波 -0.5 -1 0 0.5 1 1.5 log LOG(SiO2/Al2O3) (SiO2 / Al2O3) 2 2.5 Pettijohn(1972) & Herron(1988) 津波堆積物の地球化学判別図 2 Al2O3*0.11 Al2O3*0.11 Al2O3*0.11 Al2O3*0.11 竜の口層 堆積 和泉 地調 高峰 津波 女川 船川 大年寺 地調推奨値 0 20 (CaO+Na2O)* (CaO + Na2O)*0.18 0.18 40 60 80 100 K2O K2O Nesbitt & Young(1984,1989) 0 20 (CaO+Na2O)*0.18 (CaO + Na2O)*0.18 40 60 80 100 K2O K2O Nesbitt and Young(1 Nesbitt & Young (1984, 1989) 津波堆積物の地球化学判別図 2 mole(Al2O3) Kaolinite Illite Muscovite Sericite Igneous origin Plagioclase 0 20 mole (Na2O + CaO) K-feldspar 40 60 80 100 mol (K2O) Nesbitt & Young (1984, 1989) Fig.1 特性要因判別 Sea Water(Na+Ca)*45.1 竜の口 和泉 高峰 堆積岩上限 女川 船川 津波下限 大年寺 津波 0 20 40 Rock(Al)*16.2 津波堆積物判別図3 60 80 100 Metal(Cu,Pb,Zn,As) 化学組成特性要因 津波堆積物判別図 4 Si/Al vs. (Na + K+ Ca+ Mg) Tsunami Discrimination 45 Na2O+K2O+CaO+MgO NA+K+CA+MG 40 35 30 25 Sed 20 Tsunami 15 10 5 0 0 2 4 6 8 SiO2/Al2O3 SI/AL 10 12 14 16 Tsunami discrimination 45 40 + K2O + MgO Na2O + CaONA+K+MG+CA 35 30 Sediments 25 20 Tsunami Tsunami deposits 15 Extrordunary data 10 5 Sedimentary rocks 0 0 0.2 0.4 Graywacke 0.6 Arenite 0.8 log (SiO2 / Al2O3) LOG(SI/AL) 1 Arkose 1.2 沓形遺跡 弥生津波(2100年前)(沓形遺跡) 現代耕作土 被覆土壌 弥生津波 弥生耕作土 Tsunami discrimination 津波堆積物の地球化学判別図4 20 20 18 + K2O + MgO Na2O + CaONA+K+MG+CA 16 16 津波堆積物 14 Sediments 12 12 Tsunami 10 Extrordunary data 88 海成層上限 6 津波堆積物 下限 貞観津波 Jyogan 弥生津波 Yayoi(sed) 弥生非津波堆積物 44 海成層 2 00 0.2 0.2 0.4 0.4 0.6 0.6 LOG(SI/AL) log (SiO2 0.8 0.8 / Al2O3) 1.01 Yayoi(Tnm) SMSCで規格化した津波堆積物 100 赤ラインが,重金属異常を持つ試料を除外した平成津 波堆積物(バックグラウンド母集団)の平均.青ライン が貞観津波,緑ラインが弥生津波堆積物.いずれも SMSCで規格化. ROCK/SMSC 10 平成津波 弥生津波 1 貞観津波 平成津波堆積物は,LILEからHFSEまで,全ての元素で有意 に高い.とりわけNbやZrといったIncompatibilityの大きい HFSEで顕著に高く,島弧安山岩(JA-3)とも異なっている.津 波の規模が大きく,深部にあった背弧期火山岩起源の砕屑 物が相対的に多く混入している可能性がある. 0.1 0.01 Sr K Rb Ba Th Nb Ce P Heisei tsunami sed. Jogan tsunami sed. Yayoi tsunami sed. JA-3 Zr Ti Y 平成津波のPとYはデータなし 今後の課題 対策法 ・海水による溶出挙動の評価 ・風化の進行にともなう溶出リスクの変化 ・面的広がり ・化学形態とリスク評価 ・休廃止鉱山の影響 ・港湾部の影響 津波堆積物判別図を用いた歴史津波の再評価 砂層ばかりが鍵層ではない ・津波被災地のヒ素汚染リスクの実態 ・海水溶出のリスクは水より低い ・津波堆積物の地球化学的判別法の提案 歴史津波の被災地域の特定と防災計画 Table 1 検討対象試料 Threshold (BG母集団上限) Loc. 釜石 釜石 山田 田老 大谷 大谷 釜石 大谷 大谷 釜石 釜石 田老 津波 津波 津波 津波 津波 津波 津波 津波 津波 津波 津波 津波 津波 津波 津波 津波 津波 追加 Ser. No. Htnm-78 Htnm-79 Htnm-86 Htnm-94 Htnm-4 Htnm-134 Htnm-77 Htnm-137 Htnm-122 Htnm-80 Htnm-81 Htnm-93 Htnm-54 Htnm-22 Htnm-28 Htnm-96 Htnm-9 Htnm-59 Htnm-135 Htnm-7 Htnm-21 Htnm-20 Htnm-118 Htnm-125 Htnm-126 Htnm-82 Htnm-51 Htnm-6 Htnm-129 Htnm-87 85.1138 251.1886 50.11872 25.11886 Calculation Table Sample Cu (ppm) Zn (ppm) Pb (ppm) As (ppm) Cd (ppm) RY04 301.67 523.308 147.089 24.878 0.804 3 RY05 200.007 384.725 102.819 15.033 0.618 3 RY12 158.347 419.101 72.887 8.2 0.327 3 RY20 90.974 326.87 120.58 13.541 0.226 3 NH4 62.2 201.146 66.106 226.52 0.3 2 NT33 52.81 157.752 74.649 200.967 0.291 2 RY03 71.347 276.256 51.128 9.393 0.279 2 NT36 46.523 256.958 30.297 26.096 0.256 2 RY25 40.984 148.773 54.243 102.93 0.239 2 RY06 114.551 206.034 64.245 14.177 0.214 2 RY07 91.329 160.718 38.357 29.832 0.162 2 RY19 61.292 254.827 58.803 6.761 0.01 2 NT20 36.388 384.181 30.835 6.684 1.828 1 NH22 49.703 376.911 35.806 12.882 0.948 1 NH28 35.928 601.661 33.225 3.799 0.379 1 RY22 71.318 151.74 45.523 46.207 0.288 1 NH8B 37.259 336.674 34.605 9.715 0.248 1 AO3A 40.657 133.348 46.067 41.244 0.238 1 NT34 34.394 106.675 35.677 32.98 0.234 1 NH7 124.887 174.978 33.875 20.046 0.149 1 NH21 50.896 274.32 43.678 14.802 0.118 1 NH20 33.582 114.252 35.8 31.395 0.116 1 NT27 35.81 148.431 31.115 29.396 0.1 1 RY28 76.353 132.222 47.304 80.554 0.086 1 RY29 44.562 312.025 30.419 9.814 0.07 1 RY08 77.439 145.417 39.027 40.298 0.046 1 NT17 21.392 398.684 47.738 5.357 0.043 1 NH6 89.933 131.362 22.304 11.671 0.037 1 RY32 21.544 108.857 55.107 6.088 0.024 1 RY13 47.476 277.411 11.888 2.247 0.01 1 ・対数正規確率グラフにおい てバックグラウンド母集団の 上限値をThreshold(閾値)とし た. ・検討に用いた閾値を表の上 段に示す. ・Cdは,検出限界未満が多く, 統計処理はできなかった. ・Cdの検出未満は最小値 0.01ppmを与えた. ・赤マーカーはCu, 水色はZn, 黄緑はPb,黄色はAsの異常値 ・右端の数字は異常値を示す 元素数 津波堆積物の重金属異常の原因分析 1.解析の前提条件 (1)検討は,津波堆積物のうち,Cu,Zn,Pb,Asについて対数正規確率紙による閾 値以上の試料を対象とした.これをTable 1に示す (2)仙台湾海底堆積物(産総研)データ38試料の平均値(SMSCと仮称)で規格 化した.規格化に用いた試料採取位置をFig. 1に示す. 2.解析の方法 (1)検討対象とした30試料の重金属5元素をSMSCで規格化したパターンをFig. 2にしめす. →複数の元素異常を持つ試料は,Cu-Zn-Pb-Cd型とCu-As型とがあり,ある特 定の地域(田老,釜石湾,大谷海岸)に分布する(Fig.6参照) →Cu-Pb-Zn-Cd型は釜石型,Cu-Pb-Znは田老型,Cu-Asは大谷型といえる (Fig. 3). →単独の元素異常を持つ18試料は,大部分がFig.3のいずれかの型に属する が,特異な変動パターンを持つ3試料が抽出された(Fig. 4). (2)検討対象とした30試料につき,岩石成分を含めてSMSCで規格化した.これ をFig.5に示す. →岩石成分と調和しない単独異常を持つ3試料が抽出された. (3)Fig.4およびFig.5で抽出された特異パターンの6試料につき,人為由来か否 かの検討を行った(Table 2). (4)複成分異常13試料と単成分異常のうち特異な変動パターンを示す6試料の Fig.4 単独の異常を持つ試料の重金属変動パターン 100 赤ライン(赤字)は高Cu,青ライン(青字)は高Zn,緑ライン(緑 字)は高Pbの特異パターンを示す試料.黒ラインは,Fig.3の複成 分と同じパターンを持つ低濃度試料. 10 NH6 NH28 NH28 RY32 NH28 NH28 RY32 NH6 RY32 1 Cu Zn NH6 Pb As NH6 RY32 NH28 Fig.2に示す複成分型のいずれとも調和し ない3試料の特異パターンが抽出された. 0.1 Cd NH6 RY32 NT20 NH22 NH28 RY22 NH8B AO3A NT34 NH7 NH21 NH20 NT27 RY28 RY29 RY08 NT17 NH6 RY32 RY13 全試料の岩石vs重金属変動パターン Fig.5 主要岩石成分-酸性岩成分-重金属および不適合元素-塩基性岩成分の順に配置した 100 RY04 Igneous major Igneous major RY05 RY12 Felsic affinity RY20 Mafic affinity Incompatible elements NH4 NT33 RY03 NT36 RY25 10 RY06 NH6 RY07 NH28 RY19 NT20 NH28 RY13 NH6 RY32 RY13 RY13 AO3A NH20 RY22 RY13 NH20 RY32 NH20 AO3A K NH20 Rb Zr Cu NH28 Zn RY13 NH20 PbRY13 As Cd AO3A 青ライン(青字)とオレンジライン(赤字)は,Cu-Asが ,黄色ライン(赤字)はCu-Znが相対的に高く,岩石成分 から外れる試料.黒ライン(黒字)は,Fig. 4で特異な重 金属変動パターンを示す試料. NH6 NH28 NH8B NH6 RY32 AO3A NH6 NH28 NH20 RY13 AO3A Cr Ti AO3A 0.1 NH28 NH20 RY13 RY32 Sr NH22 NH28 NH20 RY13 NH28 Al; RY32 RY32 NH28 1 RY13 RY13 Mg NT34 NH7 NH21 NH20 NT27 RY28 RY29 RY08 NT17 NH6 RY32 RY13 RY13 RY13 仙台湾海底堆積物(SMSC)とはどういうものか 2011.12.30 山田 亮一 1.検討の目的 津波堆積物の重金属異常を検証する上で,仙台湾海底堆積物(SMSCと仮称 )による規格化が有効と考えられたため,SMSCの性質を再検討した. 2.検討手順 (1)上部地殻平均組成(Taylor and McLennan, 1981)を基準とし,Pearce(1983) の配列に従って,spider diagramを作成した. (2)産総研の地球化学標準試料との比較をFig. 2に示す. (3)(島弧安山岩との類似性が認められたため),東北本州弧後期新生代安 山岩との比較検討を行った.これをFig. 3に示す. (4)(SMSCは東北本州弧の現世堆積物を代表する可能性が高く)SMSCを基準 とした歴史津波堆積物の組成変動を検討した(Fig. 4). 3.結論および問題点 SMSCで規格化することで,津波堆積物とそれ以外の堆積岩や堆積物とを識 別できる可能性がある.既存の堆積岩の分析値(荒川,米田修論)は, spider daigramに必要な元素が分析されておらず,残試料を活用した追加分 析,あるいは,文献調査による分析値の取得が不可欠と考える. 後期新生代安山岩との比較 ー上部地殻平均組成で規格化ー Fig. 2 100 青ラインが,全太平洋側海底堆積物,赤ライ ンがSMSC,オレンジ模様線が青の木森安山 岩,灰色模様線が七つ森安山岩類.その他 は,12Maから5Maまでの東北本州弧の島弧 安山岩. ROCK/Up. CRUST 10 1 0.1 SMSCは,青の木森(5Ma)や七つ森(2-1Ma)など,現 世に近い安山岩に極めて類似したパターンを持つ. 0.01 Sr K All marine sed. Kakuda and.(10-8Ma) Kunimiyama ad.(5-2 Ma) Rb Ba SMSC Souma ad.(10-8Ma) Aonokimori ad(5-2Ma) Nb P Quaternary and (JA-3) Mitaki an.(8-5Ma) Nanatsumori ad.(2-1Ma) Zr Ti Koriyama and.(12-10Ma) Jyogi ad.(8-5 Ma) Y SMSCの特徴 • SMSCは,後期新生代,とりわけ,鮮新世から現世の 東北本州弧島弧期安山岩に極めて近い組成を持つ . • P,Tiの正の異常や,Zrの負のスパイクが特徴的に見 えるが,これらは,Fig. 2の安山岩のみならず,Fig. 1 の堆積岩や堆積物にも認められる.本邦の様な,後 期新生代造山帯の特徴といえる. • いずれにしても,SMSCは,殆ど安山岩の砕屑物か らなるgraywackeと考えて良い. • 次に.SMSCで規格化した解析事例を示す. Table 2 特異な変動傾向を持つ試料の解析 NH-6 気仙沼港近くの鹿折川河口 NH-28 石巻湾東岸の牡鹿半島 RY-32 釜石ー大船渡間の吉浜湾 NH-20 石巻工業港の後背地 AO-3A 岩沼市の阿武隈川河口 RY-13 宮古南方山田湾 Cuのみの異常 全ての火成岩固有元素に調和的であり,砕屑性堆積物と考えられる が,上流部にCuを伴う鉱山あり,銅鉱物の添加 ZnーCdの異常 Al-Sr-Kに火成岩とはやや異なるパターンを持つ,Caも高く,牡蠣養 殖の影響も考えられる. Pbのみの異常 Sr,K,Cr,Tiなど火成岩固有元素とは異なるパターンを持つ.何らかの 人為的影響の可能性が高い. Cu-As異常 全ての火成岩固有元素について,有意に低濃度.人為由来(例えば 農薬など)の可能性高い. Cu-As-Pb-Cd弱異常 SiO2 25%,Na2O 27%と特異な組成.重金属の汚染した河口デルタ堆 積物の可能性あり. Al, Srが高く,岩石成分からはずれる.近隣に小規模ながら鉱山あ Cu-Znの異常 り,変質した岩片を含むためと推定される. 結論およびまとめ (1) 複成分異常を示す試料は,重金属元素間の相関を持つと同時に,鉱山下流に集中して おり,自然由来と考えられる. (2) それら自然由来には,Cu-Pb-Zn型とCu-As型とがある.単独成分異常を持つ試料の大 部分についても,それらと同じ変動パターンを持つ低濃度試料である. (3) 複成分異常の全てと,単成分異常の大部分の試料は,重金属以外の火成岩固有元素 に関して調和的であり,自然由来の異常と考えてよい. 単成分異常の6試料が,重金属パターンや火成岩固有元素との比較において,特異な (4) 変動傾向を示し,少なくとも一部は人為由来の可能性がある.
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