気象研究所地球システムモデルの開発

気象研究所地球システムモデルの開発
̶̶ モデル概要と予備実験結果 ̶̶
行本誠史,保坂征宏,吉村裕正,坂見智法,足立恭将,田中泰宙,出牛真,小畑淳
平原幹俊,辻野博之,野田彰, 他温暖化特研*グループ(気象研究所)
はじ め に
高解像度での計算効率が大幅に向上している.晴
地球温暖化予測の不確実性の低減に向けて,各
天放射過程には新しいスキームが導入され,長波放
種エーロゾルの変化とその直接効果(放射過程)及
射に k-分布法とテーブル参照法を併用し高精度化,
び間接効果(凝結・雲放射過程),各種微量気体の
短波放射も改良されている.雲スキームは Tiedtke
変化に関する成層圏・対流圏の大気化学過程,海
(1993)に基づく雲水・雲量を予報するスキームが導
洋及び陸面の生物化学過程を含む炭素循環,およ
入された.エーロゾルの直接効果,間接効果が取り
び氷床など,諸過程と気候システムとの相互作用を
入れられ,硫酸(SOx+DMS)、黒色炭素(BC)、有機
表現する地球システムモデルを構築することが求め
炭素(OC),海塩(2 ビン),鉱物ダスト(6 ビン)を扱っ
られている.
ている.陸面過程では,積雪の多層化など精緻化さ
気象研究所において新しい全球大気海洋結合モ
れた SiB が用いられている.簡単な陸域生態系の炭
デル cgcm3 を開発した.このモデルは化学輸送モデ
素循環過程(小畑他 2003)を導入し,大気中 CO2 濃
ル(CTM)などを結合する地球システムモデルのプラ
度の3次元分布も表現できる.その他,積雲対流,海
ットホームとなることを目指した.この cgcm3 の概要と
氷面過程など多くの改良が加えられている.
それを用いた地球システムモデルによる予備実験の
海洋モデル:気象研究所共用海洋モデル(MRI.COM;
結果を紹介する.
石川 他 2005)である.CGCM2で用いられた海洋モ
モ デル の概 要
デルとは主に次のような違いがある.極を移動した球
カ ッ プ ラー : cgcm3 は、独立して開発されているオ
座標格子,一般直交曲線座標格子(Joukowski変換
ゾン CTM(MRI-CTM; Shibata et al. 2005),エーロゾ
格子,Tripolar格子など)に対応できる.自由表面モ
ル CTM(MASINGAR; Tanaka et al. 2003)などと柔
デルとなり,淡水流入による海面水位の変化が表現
軟に結合できるよう,気象研究所で開発したシンプ
できる.海氷モデルにはHunke and Dukowicz (1997)
ルな汎用カップラーScup(Yoshimura 2006)を使用し
に基づくレオロジーが導入され海氷の漂流速度が計
ている.これにより異なる解像度・格子配置及び時間
算される.混合層スキームはMellor-Yamada,KPP,
間隔での結合が可能であり,また各コンポーネントモ
Nohから選択可能である.また,簡単な海洋生物化
デルを別プロセスで並列に実行させることが可能で
学過程(Obata and Kitamura 2003)が組み込まれて
ある.水平格子間の内挿には SCRIP(Jones 1998)を
いる.
元にして開発したツールで変換テーブルを作成する
予備 実験 結 果
ことにより,保存性を保証しながら柔軟にかつ容易に
大 気 T42L46 ( top=0.01hPa ) , 海 洋 Joukowski
格子を変更できる.現在、大気海洋間は Scup を使わ
1°×0.5°の cgcm3 にオゾン CTM 及びエーロゾル
ず直接結合させているが,Scup と同様の水平内挿の
CTM,炭素循環などを組み込んだ地球システムモデ
仕組みを使用し,任意の解像度・格子配置の組み合
ルで予備実験を行った.フラックス補正なしで放射収
わせが可能である.
支分布,降水量,海面水温,海氷分布,ENSO など,
大 気 モ デ ル : 気象庁/気象研究所・統一大気モデル
ほぼ満足できる気候再現性を示す.今後,解像度を
(gsmuv; 気象庁 2004, 2005; Mizuta et al. 2006)の
上げて調整を行い,歴史実験で20世紀気候再現性
最新版である.CGCM2(Yukimoto et al. 2006)で用
を見る予定である.
いられた大気モデルから次のような大きな変更があ
る.移流スキームにセミラグランジュ法が導入され,
* 気象庁気候変動予測研究費:温暖化による日本付近の
詳細な気候変化予測に関する研究