日降水特性からみた全球気候モデル出力値のバイアス補正 - 東京大学

H23 農業農村工学会大会講演会講演要旨集
[2-11]
日降水特性からみた全球気候モデル出力値のバイアス補正 法の検証
Verification of Bias Correction Methods for Global Climate Model Based on
Characteristics of Daily Precipitation
○工藤亮治*・増本隆夫*・堀川直紀*・吉田武郎 *
KUDO Ryoji, MASUMOTO Takao, HORIKAWA Naoki, YOSHIDA Takeo
1. はじめに 近年,気候変動に関する影響評価研究が数多く行われている.温暖化影響評価
を行う際には,全球気候モデル(GCM)等の出力値を水文モデルに入力して将来予測を行
うが,GCM は全球を対象としているため詳細な地形の表現が困難である.そのため,GCM
出力値には地域レベルの実測気候値と比較して偏差(バイアス)が存在していることが知
られている.本研究では,気候予測シナリオとして用いられる GCM 出力値のバイアス補
正に注目し,日本全国を対象として日降水量の補正を行った.その際,バイアス補正法に
2 つの方法を適用し,それぞれの方法における特徴を 日降水特性により比較した.
2. 解析資料と全球気候モデル 気候予測値には,東京大学気候システム研究センター等によ
って開発された MIROC 1) による温暖化予測実験結果 の現在期間(1981-2000 の 20 年間)を
採用し,逆距離内挿法により標準 地域 3 次メッシュ(約 1km メッシュ)に内挿したものを
用いた
2)
.また,全国気象官署,アメダスの値を同じく 3 次メッシュに内挿し た もの を 実
測気象値として用いた.補正の検証地点には,東京,高田,岡山,高知の 4 点を選定した.
3. GCM 出力値のバイアス補正 法 バイアス補正には以下 2 つの方法を用いる.
確率分布法(correct 1) この方法では,GCM 降水量の確率分布関数 F gcm (x)および実測降水
量の確率分布関数 F obs (x)からそれぞれ非超過確
率を求め,GCM 日降水量 x gc m を非超過確率が
等しい実測日降水量 x obs に置き換えることで両
者 の 確 率 分 布 を 一 致 さ せ る ( Fig.1). こ れ に よ
F(x)
Fgcm(x)
Fgcm(xgcm)
Fobs(x)
Fobs(xobs)
'
1
Fgcm xgcm 
xgcm
 Fobs
り,両者の平均値や分散 値などの統計値を一致
させるのがこの方法の特徴である.
平均値比率法(correct 2) GCM 月平均降水量に
対する実測月平均降水量の比率を補正係数と
し,GCM 日降水量に月毎の補正係数を乗じ る方
法である.この方法では月降水量の平均値は一
xgcm
'
xgcm
x
Fig.1 確 率 分 布 を 用 い た バ イ ア ス 補 正 法
Bias correction method using cumulative
distribution functions.
致するものの,分散などのばらつきの情報が考
慮されず,日降水量の単純な引き延ばしを行うのみである .
4. バイアス補正結果 (1)日降水量分布
Fig.2 は横軸に日降水量,縦軸に超過確率を示した
ものである.確率分布 法(correct 1)で は日 降水量の分布を考慮し ているため ,実測の日
降 水量 分布 にか なり 近づ いて いる .一 方, 平均 値比 率法 ( correct 2) では 補正 前 (original)
と比べて若干の補正がみられるものの,その効果は小さい .平均値比率法では月降水量 の
平均値は一致するものの,日降水量の分布は必ずしも一致しないことがわかる.
(2)連 続 無 降 水 日 数
次に 降 水 イ ベ ン ト の 発 生間 隔 で あ る 連 続 無 降 水日 数 の 検 証 を 行 っ た
(Fig.3).図は,高知における連続無降水日数の月平均値を示したものである.平均値比
*農 研 機 構 農 村 工 学 研 究 所 National institute for rural engineering
キーワード:バイアス補正,全球気候モデル,温暖化影響評価 ,日降水特性
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100
的に続く弱い降水を消去できないため,1 月,12 月
を除いて補正の効果がほぼみられない.それに対し,
確率分布法(correct 1)では無降水日数が増加する
ことにより,連続無降水日数 が実測値に近付いてい
る.連続無降水日数は低水時の流量に 大きく影響す
るため,渇水に対する温暖化影響評価では重要な指
Exceedance probability (%)
率法(correct 2)は補正係数が 1 以上の場合,断続
標となると考えられる.
(3)年 最 大 日 降 水 量
10
1
0.1
0.01
大雤について補正の効果を確
認するため,岡山における年最大日降水量を極値確
率紙にプロットしたもの を Fig.4 に示す.補正前と
0
月の補正係数が 1 以下であったため,補正前よりも
250
Observed
MIROC (original)
MIROC (correct1)
MIROC (correct2)
8
Dry spell (days)
ると考えられる.平均値比率法では岡山における各
100
150
200
Daily precipitation (mm/d)
10
し,上位 3 位くらいまでは過少推定となっているた
め,これらについては別途バイアス補正が必要であ
50
Fig.2 日 降 水 量 分 布 の 検 証 ( 高 田 )
Verification of distribution of daily
precipitation (Takada)
比べると確率分布法は実測値に近付いている.ただ
年最大日降水量が減少している.
(4)日 流 出 量
Observed
MIROC(original)
MIROC (correct 1)
MIROC (correct 2)
6
4
2
バイアス補正の影響が流出量に与え
0
る影響を検討するため,各 降水量をタンクモデルに
の気象データから Makkink 式により推定した.また,
モデルパラメータは菅原によって提案されている標
準パラメータを用いた.Fig.5 に東京における月平均
流出高,20 年間の最大・最小日流出 高(図中のエラ
ー バー )を 示す .確 率分 布法 ( correct 1) ,平 均 値
比 率法 ( correct 2) とも に月 平均 流出 高は 実測 降 水
量 を入 力し た値 (Observed) と ほぼ 一致 して いる .
2
3
一方で,各月の最大・最小日流出高については,
温暖化影響評価も重要となる.そのため GCM 出力
9
10 11 12
80
50
Observed
MIROC (original)
MIROC (correct1)
MIROC (correct2)
10
1
0.1
0
100
200
Annual maximum daily precipitation (mm/d)
Fig.4 年 最 大 日 降 水 量 ( 岡 山 )
Annual maximum daily precipitation
(Okayama)
Tokyo
Observed
MIROC (original)
MIROC (correct1)
MIROC (correct2)
100
Runoff depth (mm/d)
傾向のみならず,洪水や渇水など極端現象 に関する
8
90
が得られている.すなわち,平均値比率法に比べ,
5. おわりに 水文・水資源分野では ,平均的な変化
6
7
Month
95
correct 1 では最大値,最小値ともに実測値に近い値
確率分布法は最大流量や最小流量に対する信頼性が
5
99
correct 2 では両者の幅が実測よりも小さい のに対し,
高いと推測される.
4
Fig.3 連 続 無 降 水 日 数 の 検 証 ( 高 知 )
Verification of dry spell (Kochi)
Non-exceedance probability (%)
入力し,流出高の比較を行った.蒸発散量は各地点
1
10
1
値のバイアス補正法として,分布のばらつきも考慮
できる確率分布法がより適していると考えられる.
引 用 文 献 1 ) K-1 model developers (2004), K-1 coupled model
(MIROC) description K-1 technical report. 2) Okada, M. et al (2009),
Journal of Agricultural Meteorology, 65.
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Month
8
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11
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Fig.5 タ ン ク モ デ ル に よ る 日 流 出 高 ( 東 京 )
Simulated runoff depth using tank model (Tokyo)