生産設備にエネルギーマネジメントシステムを導入した 炭酸ガスの削減

Vol.89 No.03 278-279
炭酸ガス削減ヘの日立の取り組みと今後のエネルギーサービス事業展開
生産設備にエネルギーマネジメントシステムを導入した
炭酸ガスの削減事例
Optimum Energy Management for Plant Energy Facilities
酒井 孝寿 Takatoshi Sakai
正嶋 博 Hiroshi Shojima
エネルギーマネジメントシステム
受配電設備のエネルギー管理
生産設備のエネルギー最適化
FMS+EMS
受変電設備
計測・制御
空調・衛生設備
計測・制御
照明設備
計測・制御
ユーティリティ設備
計測・制御
受変電設備
空調・衛生設備
照明設備
ユーティリティ設備
生産設備
管理・計測・制御
生産設備
注:略語説明 FMS(Facility Management System:生産設備管理システム)
,EMS(Energy Management System:エネルギー管理システム)
図1 エネルギーマネジメントシステムの概要
工場のエネルギーは,受配電設備,生産設備のエネルギーで構成され,生産設備の管理,計測,制御を加えて最適化することで,さらなる炭酸ガス削減に向けた具
体策の立案が可能となる。
1.はじめに
2.エネルギーマネジメントの必要性
わが国の産業部門のエネルギー使用量は,全体のエネル
エネルギーマネジメントには,生産設備に着目したエネル
ギー量に対し約45%で横ばいに推移し,民生や運輸部門と
ギー量の計測や改善目標の設定と生産品目ごとのエネル
比較すると省エネルギー対策は
「優等生」
と言われている。し
ギー原単位管理が求められる。エネルギー最適化をめざすう
かし,エネルギー使用の実態を調査し,検討を行うとさらなる
えでの着眼点を図2に示す。エネルギーコストを最小化させる
省エネルギーの余地があることも多い。
ために,待機電力をできるだけ少なくしたり,
「チョコ停」による
工場設備の中でも,エネルギーを供給するユーティリティ設
備については適切な対策が採られ,
改善が進んでいるものの,
トラブルを回避したりすることは,生産の高効率化にもつなが
り,大きな効果をもたらす。
エネルギー使用の60∼70%を占める生産設備については,
生産が優先されるのでこれまで省エネルギー改善に手がつけ
3.エネルギーの
「見える化」
による最適化事例
られていないことも多かった。
3.1 設備稼働時の待機電力の削減
生産設備の改善策の具体化は難しく,リスクも大きいため
手がつけられていない。
生産用機械設備の稼働状況を10分間隔で計測し,ビジュ
アル化すると図3に示すような実態が表れる。この図中に実加
ここでは,生産設備の省エネルギーを,エネルギーマネジメン
工電力と待機電力を区分するように目標線を入れて管理する
トシステムなどによって実現した事例について述べる
(図1参照)
。
ことで最適化を図ることができる。工場内で稼働している機械
62
2007.03
炭酸ガス削減のために,工場での取り組みは最重要課題として推進され,
大きな効果をあげている。省エネルギー対策としては,ユーティリティ設備,空調設備や高効率機器の導入などを実施してきた。
特に建物関係の空調設備は,BEMS
(ビルエネルギー管理システム)
の導入による最適制御システム化が広がりを見せ,
工場でも空気圧縮機の台数制御やインバータ機の普及が進み,省エネルギーが実現している。
これからの工場の省エネルギー対策は,生産設備の実態の把握を含め,改善を進める必要がある。
これを解決するための切り札として,日立グループは,FEMS
(工場エネルギー管理システム)
を提案している。
運用コスト
25
省エネルギー改善
実加工電力
目標管理と効果継続
20
生産設備のエネルギー最適化
(エネルギー原単位管理)
15
待機電力
10
設備待機電力の削減
チョコ停・設備トラブル回避
5
設備のむだ運転回避
生産の高効率化
0
省エネルギー
省エネルギー
未使用時の電源
オフ徹底
省エネルギー
0:00
1:00
2:00
3:00
4:00
5:00
6:00
7:00
8:00
9:00
10:00
11:00
12:00
13:00
14:00
15:00
16:00
17:00
18:00
19:00
20:00
21:00
22:00
23:00
FEMS(工場エネルギー管理システム)
Feature Article
電力(kW)
エネルギーコストの最小化
注:略語説明 FEMS(Factory Energy Management System)
(時刻)
図2 エネルギー最適化のポイント
アルミダイカストの待機電力削減による対策
省エネルギー量:90 kWh
削減率:26%
エネルギーマネジメントを導入することにより,エネルギーコストの最小化や生
産の効率化が図れる。
図3 機械設備の待機電力削減
設備電力の稼働実態図に待機電力表示をすることで待機電力の削減を実現
する。
設備には30∼50%の待機電力が含まれ,これを停止すること
で削減率26%という省エネルギー効果が得られた。
発生時でも変化を見逃しがちであるが,生産個数と対比して
3.2 生産量の原単位「見える化」
による削減
原単位化すると,原単位グラフでリアルタイムに変化を運転員
に伝えることができる。原単位を
「見える化」することでエネル
生産のための電力量は明確な変化として表れないので,
ギー使用の良し悪しが直接理解できる
(図4参照)。
省エネルギー化の判断がつきにくい。
「チョコ停」
やトラブルの
生産枚数
原単位悪化時間帯
原単位
日付1 原単位
日付2 原単位
原単位目標値
65
52
39
26
13
0
注:
日付1 93. 自装機1号ライン生産数
日付2 93. 自装機1号ライン生産数
目標値
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
0
4.5
3.6
2.7
1.8
0.9
0
(kWh/個)
(個)
注:
時刻
時刻
日付1 自装1号ライン:電力量累計
日付2 自装1号ライン:電力量
(kWh)
日付2 自装1号ライン:電力量累計
16
12.8
9.6
6.4
3.2
0
日付1 自装1号ライン:電力量
電力量
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
実装ラインの時間別原単位グラフ例
21
22
23
0
330
264
198
132
66
0
時刻
自装1号ライン
電力量累計(kWh)
注:
注:
出典:日本電機工業会「FEMS導入のおすすめ」
図4 生産個数との原単位化による削減
生産設備エネルギーと生産個数との原単位で見える化し,チョコ停やトラブルの早期改善による削減を実現する。
63
Vol.89 No.03 280-281
炭酸ガス削減ヘの日立の取り組みと今後のエネルギーサービス事業展開
鉄心焼鈍炉
2005年01月04日
(火) 日分
合計電力
2,351
量(kWh)
最大値
513
(kWh)
管理値(1)
(kWh)
管理値(1)
/最大値
管理値(2)
(kWh)
焼鈍炉運転状況
600
電力量(kWh)
4号炉17時(16時から
17時)の立ち上げ電力
は150 kWであり, 18時
以降の立ち上げにした
場合150 kWの最大電
力が低減できる。
400
基本料金の
削減可能
300
200
電力
料金
基
本
料
金
100
電力
料金
電力
料金
時間
0
時刻
焼鈍炉小形
焼鈍炉4号
焼鈍炉3号
焼鈍炉2号
焼鈍炉1号
1
0
0
0
0
0
210 kW
立ち上げを工夫すれば最大電力を抑制し,
平準化が図れ, 契約電力の低減ができる。
500
2
0
0
0
0
0
3
0
0
0
0
0
電力
料金
時間
4
0
0
0
0
0
5
0
0
0
0
0
6
0
0
0
0
0
7
0
0
0
0
0
8
0
0
0
0
0
9
0
0
0
0
0
10
0
0
0
0
0
11
0
0
0
0
0
12
0
0
0
0
0
13
0
0
0
0
0
14
0
0
20
0
0
15
0
0
150
10
0
16
0
0
60
60
80
17
23
150
50
130
160
18
43
80
40
60
80
20
22
50
30
40
50
19
37
60
30
50
60
21
19
50
30
40
40
22
17
40
30
40
50
23
15
40
30
30
40
24
15
40
70
40
50
図5 デマンド管理の例
デマンド管理を適切に行うことにより,エネルギーコスト削減を可能にする。
顧客ビルN
3.3 最大電力の平準化による改善
顧客ビルB
工場内に1台当たりの消費電力の大きな設備が複数設置
顧客ビルA
されている場合,起動時間を前後にシフトできれば,最大電
力を抑制して平準化を図ることができる。電気炉5台のうち大
PAC空調機
形炉3台の起動時間のシフト化で約40%の最大電力の回避
を行い,契約電力の削減を図った例を図5に示す。
4.業務ビル空調運用コスト最小化制御システムの事例
エネルギーマネジメントシステムの概念は,エネルギー使用
量を可視化し,待機電力を削減することであり,対象が工場,
あるいは業務において共通である。
日立グループは,ビル空調の運用コストを最小化するため,
居室内の快適性を維持しながら,光熱費をある値以内に抑
える
「コスト目標型省エネ制御システム」
を開発した。次に,そ
・・
自不
動要
省空
エ調
ネオ
ルフ
ギ
ー
温
度
設
定
・・
リ消
モ費
コ量
ン・
操稼
作働
履デ
歴ー
タ
消費電力量(kWh)
省エネルギーコントローラ
上
限
実
績
1
予
測
10
20
31
(日)
・省エネルギーレポート
管理者
インターネット
・省エネルギーコスト目標
このサービスの構成を図6に示す。複数のビル群とカスタ
マーセンターはインターネットで結ばれ,各ビルの空調に関す
る稼働データがカスタマーセンターに集約される。
省エネルギーサーバ
・省エネルギー制御計画
・管理者向けサービス
監視者がコスト目標を入力するだけでカスタマセンターの省
エネルギー消費量
の機能と実証試験の結果について述べる。
kWh
1,100
1,000
800
昨年
同月
上限
範囲
削減率
20%
1,050 kWh(105%)
∼850 kWh(85%)
エネルギーサーバがビル空調の運用費を目標値以下にする
運用方法を算出し,該当ビルに送り出す。また,図7に示すよ
日立カスタマーセンター
うな省エネルギーレポートを,任意の時間に管理者がウェブ上
注:略語説明 PAC
(Package Air Conditioner)
から見ることができる。濃い色の棒グラフがそれまでの実績で
図6 ビル省エネルギーサービスシステムの構成
あり,薄い棒グラフが今後の予測を示している。気候の急変
顧客のビルと日立カスタマーセンターをインターネットで接続し,利用状況を把
握しながら最適な空調省エネルギー計画を自動計算し,それをビルコントローラに
送信して快適なビル空調の省エネルギーを実現する。
などで省エネルギー目標が達成できないとの予測結果が出た
64
2007.03
場合には,超過警告が表示される。
2004年に京都のビルにこのシステムを
用いてエネルギー削減効果を検証する実
証試験を行った。対象としたビルの実施
条件を表1に示す。
室内の人間が不快に感じる割合を理
論的に5∼100%で示す指標値である
PPD
(Predicted Percentage of Dissatisfied:
予測不満足率)
を用い,ここでは,省エネ
ルギーの上限値をPPD30%と設定した。
また,在室把握はアンケートによって時間
帯ごとに設定した。省エネルギー目標上
図7 ビル省エネルギーレポートの画面例
限額は,前年比−5%とした。ここでの比
較値は,外気温に対する消費電力量に
ついての削減額である。
表1 ビル省エネルギーの実施条件
実証実験の結果を図8に示す。この図は2003年と2004年
PPD上限を30%とし,コスト削減目標を前年比−5%とした。
実施期間
2004年5月∼8月
制御期間
1か月
(1日∼月末)
における日間平均外気温と空調の消費電力の相関を表して
2003年同月の−5%
おり,図中実線は夏季(5月から8月)
の実績データから示した
設定温度上限 28 ℃→26 ℃(7月下旬) 所在地
京都
在室把握手段 アンケートベース
地上8階 ビルの2フロア
回帰式による直線を示す。外気温度が28 ℃のとき,日間消費
設定PPD上限 30%
空調クレーム
目標上限額
未使用
規模
延床面積
電力量は600 kWh
(2003年)
から506 kWh
(2004年)
に削減し,
2
約1,000 m
注:略語説明 PPD(Predicted Percentage of Dissatisfied)
94 kWh
(15.7%)
の省電力を達成することができた。
5.おわりに
800
ここでは,エネルギーマネジメントシステムの導入により,生
消費電力(kWh/日)
700
y=32.516x−322.23
R2=0.8814
産設備の省エネルギーを実現した事例について述べた。
600
炭酸ガスの削減の取り組みとして,率先して取り組まなくて
600
2003年
はならない課題は省エネルギーであり,生産設備の省エネル
500
ギーは,その効果も大きい。日立グループは,生産活動のエ
506
400
2004年
300
y=27.64x−265.04
R2=0.9001
ネルギー実態の把握と業務用ビルの最適化技術を融合した
エネルギーマネジメントの推進が重要と考え,今後も炭酸ガス
削減に向け取り組んでいく所存である。
200
15
20
25
30
35
平均外気温度(℃)
図8 ビル省エネルギーの実証実験結果
夏季(5月から8月)
における,省エネルギー制御なしの2003年と省エネルギー
制御実施の2004年を平均外気温で表した結果を示す。近似直線から約15%の
省エネルギー効果が得られていることがわかる。
また,継続的な改善を進めるうえにおいても,業界を超えた
横断的な技術展開や事例の相互交流が重要と考える。今回
の事例を紹介するに際してご協力をいただいた,社団法人日
本電機工業会,および関係各位に深く謝意を表する次第で
ある。
参考文献
1)日本電機工業会:工場エネルギー管理システムに関する調査
(2004.10)
2)日本電機工業会:FEMS導入のおすすめ
(2005.11)
執筆者紹介
酒井 孝寿
1970年日立製作所入社,株式会社日立産機システム 産業
システム事業部 所属
現在,環境・省エネルギーシステムの開発に従事
正嶋 博
1981年日立製作所入社,日立研究所 情報制御第二研
究部 所属
現在,都市開発ソリューション技術開発に従事
情報処理学会会員
65
Feature Article
管理者は,ウェブサービスされる画面で,目標設定後の省エネルギー状況をいつでも確認することができ
る。気候変動などにより,目標が達成できないことが予想される場合は,警告が表示される。