「運動したくなる空間」を“音像”で作り出す超 音波スピーカー - 立命館大学

R-GIROの活動報告
先端医療研究拠点
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Activity
Report
拠点形成型 R-GIRO 研究プログラム
(2013年度採択研究プロジェクト)
多世代交流型運動空間による健康増進研究拠点
運動誘発感覚支援と運動者共存空間制御技術に関する研究
「運動したくなる空間」を
“音像”で作り出す超
音波スピーカー
03
超音波の指向特性を持ちつつ人の耳に聞こえる音を生成し
これだけでは当然音は聞こえません。私たちの開発した超音波スピーカー
しようと試みています。これが実現すれば、大勢の人が共存する空間内に、
音像プラネタリウムを創成しました。
は、可聴領域の音波を超音波によって変調して放射します。すると、空気
それぞれのパーソナルユースの音空間を作り出すことが可能になります。
音を生み出します。これに対して音像ホログラムを作るには、キャリア波
の非線形性によって超音波にひずみが生じ、人間の耳でも知覚可能であり
私たちは、数十から数百もの超音波素子を配置した超音波スピーカーを
(超音波)と、変調した可聴領域の音波(側帯波)を分離し、二方向から放
作り、その放射面を曲面形状に加工することで、受聴領域を拡大する方法
射します。二台の超音波スピーカーを用いて、一方からキャリア波を、も
少子高齢社会化の進む日本がこれからも持続的に維持・発展していく上
で、健康寿命の延伸は最重要課題の一つです。健康の維持・増進はもちろ
ながら、かつ超音波と同様の指向性を保持した音が生成されます。
の音波を変調させ、超音波と共に放射することで直線的な指向性を持つ
音波は、周波数によって空気中の伝わり方(指向性)が異なります。一般
を見出しました(特許出願済:特願 2013-197599)。曲面の加工法は、超音
う一方から側帯波を放射すると、キャリア波と側帯波が重なったポイン
ん、生活の質の低下を防ぎ、医療費などの社会的負担を軽減するためには、
的に低い周波数ほど同心円状(全方位)に広がり、高い周波数ほど直進す
波スピーカーの放射面を凸型の曲面形状に加工した場合と、凹型の曲面形
トでのみ音が復調し耳に聴こえます。キャリア波と側帯波が分離してい
健康づくりの一環としての身体運動が欠かせません。本研究拠点では、
「持
る傾向があるため、周波数が低いほど広範囲に音を伝え、周波数が高くな
状に加工した場合の大きく 2 種類が考えられます。凸型では放射方向を広
る領域では可聴音は復調しません。その結果、人には狙ったポイントから
続可能で健康な社会」の実現を見据え、運動促進を図る一つとして「運動空
ると、聞く人は、音がまるで直球のように鋭くぶつかってくるような感覚
げてより広い指向性を持つ音波を作り出し、一方凹型では、スピーカーの
あたかも音が発しているように聞こえます。こうして好きな場所から音
間」に着目しています。中でも本グループでは、
「運動したくなる空間」
「異
を覚えます。つまり私たちが開発に成功した超音波スピーカーは、超音波
近傍に焦点を形成し、その焦点よりさらに遠方で指向性が広がる音波を作
を発する音像ホログラムを作り出すことができるというわけです。いず
なる運動が共存できる空間」の創成に、
「音」からアプローチしています。
と同様の鋭い直進指向性を持ちつつ、人に聞こえる音を生成することがで
り出します。曲面の角度を変えることで、音波の放射特性を制御すること
れは 3D映像などと組み合わせることで、映像や音像の運動トレーナーの
人によって音の受け取り方は千差万別です。大勢の人が共存する公共
きるのです。これによって、狙ったポイントに音をまっすぐ伝達すること
ができます。私たちは、凸型から凹型まで自由に曲面形状を変え、多様な
指導がまるで本物のように感じられる超臨場感を味わうこともできるよ
空間では、ある人にとっては運動を促進する音であっても、その他の人に
が可能になります。超音波の反射音も直進性を有することから、私たちは
指向特性を作り出すことのできるデバイスの開発を目指して、現在曲面の
うになるでしょう。
とっては苦痛な騒音でしかない場合もあります。本プロジェクトでは、ス
超音波スピーカーで壁面に音を反射させ、あらゆる方向から音像を体感で
形状によってどのような放射特性が生まれるか検証しています。曲面の形
本グループでは、企業との連携も活発に行っています。私たちの開発し
ピーカーから放射する音の指向性を制御する技術を開発し、子どもから高
きる「音像プラネタリウム」を科学研究費助成事業(科学研究費補助金)基
状と放射特性の関係性を特定する変数を導き出し、自在な制御を可能にす
た超音波スピーカーに関しても、協力企業によって実用化が進められてい
齢者まで、運動能力や嗜好の異なる多様な世代の人々が運動空間を共有し
盤研究(S)
(代表:田村秀行教授)の枠組みにて生み出しました。
ることが今後の課題です。
ます。今後もさまざまな企業と連携することで、最先端の研究成果をいち
ながら運動を楽しむだけでなく、運動に参加していない人にもその魅力を
伝え、空間に誘導することまで可能にしようとしています。
これまでの我々の研究成果の一つが、鋭い指向特性を有した超音波ス
早く実用化に結びつけていくことを目指します。音響に関わるデバイスの
超音波スピーカーの指向性を制御し
超音波の放射方式を工夫し
みならず、運動ウェアや映像、住空間など多様なモノと組み合わせ、
「運動
音で空間を分割することを可能にします。
超臨場感の音像ホログラムの創成に着手しています。
したくなる空間」を創成することで、
「運動」が組み込まれた新しいライフ
ピーカーの開発です。通常、人の耳に音が聞こえるのは、音を伝播する波
動、すなわち音波が可聴周波数の範囲にある時です。これに対し、超音波
スピーカーは人間の耳には聞こえない高い周波数(超音波)を放射します。
スタイルの創造に貢献したいと考えています。
さらに本プロジェクトでは、超音波スピーカーの指向性を制御し、直進以
超音波スピーカーの技術をさらに発展させ、
「音像ホログラム」の開発
外の指向性の制御も可能にすることで、同一空間内を異なる音環境に分割
にも着手しています。先に述べたように、超音波スピーカーは、可聴領域
[写真 中央]
分離
側帯波
振幅変調波
キャリア波
側帯波
分離
振幅
グループリーダー
振幅
西浦 敬信
振幅
立命館大学情報理工学部 教授
キャリア波
[写真 右]
情報理工学研究科 博士課程後期課程 3 回生
周波数
中野 皓太
側帯波用
パラメトリックスピーカー
周波数
周波数
キャリア波用
パラメトリックスピーカー
振幅
[写真 右中]
情報理工学研究科 博士課程後期課程 3 回生
キャリア波と側帯波
が分離している領域
で は可 聴 音 は 復 調
しない
福森 隆寛
[写真 左中]
情報理工学研究科 博士課程後期課程 3 回生
林田 亘平
キャリア波
側帯波
周波数
キャリア波と側帯波が重なり、
振幅変調波を復元することで、
オーディオスポットを形成
[写真 左]
情報理工学研究科 博士課程後期課程 2 回生
音像ホログラムによる拡張型空間シェア
生藤 大典
● 参考文献/1 西浦敬信ら(著), "次世代ヒューマンインタフェース開発の最前線, " エヌ・ティー・エス出版, ISBN-13: 978-4864690638, Jun. 2013. 2 西浦敬信ら "音像プラネタ
リウム -パラメトリック・スピーカを用いた 3 次元音響再生方式-, " 月刊「超音波テクノ」, 日本工業出版(株), pp. 47-51, Jun. 2011. 3 Yutaro Sugibayashi, Sota Kurimoto, Daisuke
Ikefuji, Masanori Morise and Takanobu Nishiura, "Three-dimensional acoustic sound field reproduction based on hybrid combination of multiple parametric loudspeakers and
electrodynamic subwoofer, " Applied Acoustics, Volume 73, Issue 12, pp. 1282-1288, Dec. 2012.
● 連絡先/立命館大学 びわこ・くさつキャンパス 西浦研究室 電話:077-561-5075 http://www.aspl.is.ritsumei.ac.jp/
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R-GIRO Quarterly Report vol. 17 [Spring 2014]
R-GIRO Quarterly Report vol. 17 [Spring 2014]
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