北部処理区千若末広線整備工事に伴う試験施工に関する共同研究

2009年度 下水道新技術研究所年報
北部処理区千若末広線整備工事に伴う
試験施工に関する共同研究
本研究は,本工事着手前に試験施工を行い,施工上の
課題を把握した上で,良好な施工環境ならびに労働環
境を確保した安全かつ効率的な施工方法を提案するこ
横浜市北部処理区千若末広線に布設されている汚泥
圧送管(FRPM製¢450×2条)を更新し,ダクタイル
鋳鉄管(DCIP¢450×2条)に布設替えする工事が発注
された。
当該工事は,図−1に示すようにトンネル内径㊥
2,200mmの限られた狭小空間でコンクリート構造物を
取り壊す作業があり,延長約4.5kmにわたってこれら
の作業をすることは,施工の効率性および労働安全衛
生上に対して適切な配慮が求められる。
とを目的とした。
本研究は,松尾・土志田・三橋建設共同企業体と(財)
下水道新技術推進機構の2者で行った。
なお,研究成果の客観的な評価を受けるため,有識
者による『北部処理区千若末広線整備工事等に関する
施工検討委員会』を設置した。
図−1当該工事の概要
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3.1 試験施工の計画
狭小スペースにおけるコンクリートの取り壊し作業
を数ケース実施して,安全に施工できる工法の選定な
らびに作業環境を確認するため,地上に幹線内と同じ
作業空間を再現した模擬トンネル(¢2,200mm、L=9.44恥
HP管2.36m/本×4本)を構築した。内部に防護コンク
コンクリート構造物の取り壊し方法は,回転式コン
クリートカッターによる切断位置と切断深さ,静的破
砕工法用コアボーリングの穿孔角度とコア削孔深さに
着目して,以トのとおりとした。
なお、本研究では,回転式コンクリートカッターに
よる切断工法としてウオールソー工法を,静的破砕工
法として電動セリ矢と静的破砕剤(プライスター)を,
手はつりとして電動式コンクリートブレーカーを採用
した。
リート(以下,「防護コン」という。)の取り壊し区間
を5.4m,シンダーコンクリート(以下,「シンダーコ
(1)防護コンの取り壊し方法
ン」という。)の取り壊し区間を9.44m設けた。模擬ト
[瑠‥ウオールソー+手はつり
巨頭:ウオールソー+セリ矢十手はつり
上記の代表として,巨頭の施工フローを図−3に示
す。
ンネルを図−2に示す。
(2)シンダーコンの取り壊し方法
巨頭:ウオールソー十手はつり
匡覇:ウオールソー+セリ矢十手はつり
巨頭‥ウオールソー+プライスター十手はつり
上記の代表として,巨頭の施工フローを図−4に示
す。
図−2 模擬トンネル
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(3)試験施工時の測定項目
効率的な施工方法の評価の判断資料として,各取り
壊し(案)を実施する際に, 次に示す作業の所要時間
を計測した。
◇ウオールソーによる切断
◇コアの削孔
◇セリ矢による破砕
◇プライスターによる破砕
◇手はつりおよびガラの集積
◇管の撤去
◇ガラの搬出
また,作業環境の評価の判断資料とするため,試験
施工時に模擬トンネルの両端部をシートで塞いで送風
機および集塵機を稼動させながら狭小空間で壊し作業
を実施し、以下の項目について測定および観測した。
◇温度と湿度
◇散水の有無による粉塵量
◇風速による粉じんの流れ
◇振動と騒音
◇作業スペースと作業員の配置
◇必要設備の確認
表−1防護コンの取り壊し所要時間
窒
麗
1案
2案
ウ オ ー ル ソー 上 段 tニ
ニ3 00
2 ,7 m
下 段 tこ
こ2 50
2 .7 m
ウ オ ー ル ソー 上 段 tニ
ー
3 00
2 ,7 m
12 0
下 段 tこ2 50
2 .7 m
8箇所
18 0
15 箇 所
30 0
コアホ.…リンク.
¢射〕 tニ2 20
静 的破砕
か まO tニ
ニー
400
セ リ矢
23箇所
12 0
18 0
摸 塞 瀦輝 薔
60
12 0
扇粛鱒議
て確認できた代表的な事項を次に記す。
(彰 手はつりの補助として,静的破砕による一次破砕
が必要である。
② セリ矢によるHHHH・次破砕を先行して施しておくと,
コンクリートの壊しガラを大きく取り出すことが
できるため,電動ブレーカーによる振動作業の時
間が短縮できる。
③ セリ矢用のボーリング施工は,作業空間が狭いた
め削孔長さが限られ(max40cm),かつ,作業性が
悪い。
④ セリ矢の効果を最大限に生かすためには,30cm程
度のコア孔の深さが必要である。
⑤ 水平方向にセリ矢を設置する作業では,機械本体
3,2 試験施工の結果
(1)防護コンの取り壊し
写真−1に防護コンの取り壊し状況を示す。
の荷重が作業員の負担になる。
⑥ セリ矢の一部代替え工法として,薬剤を注入する
プライスター工法が効率的である。
ウオールソーによる切断 油圧式セリ矢工法による破砕
(2)シンダーコンの取り壊し
写真−2にシンダーコンの取り壊し状況を示す。
プライスターによる破砕 電動プレーカによる取壊し
写真−1防護コンの取り壊し状況
手はつりのみで壊す方法(巨頭)と,セリ矢と手は
っりを組み合わせた方法(頭)について所要時間を
比較した。どちらもウオールソーにより先行切断を施
した。
作業員の構成は,ウオールソー等の補助工法に2人
工,取り壊しに3人工で実施,取り壊しにおける各作
業の所要時間を表−1に示す。
[圭司の手はつりのみで1ブロック(1・92m3)を取り壊
すための所要時間は約4.6日(8hr/dayで換算)に対
して,匡司のセリ矢と手はつりでは約2.5日で,巨頭
と比較して60%ほど手はつりによる作業時間を短縮し
ている。
試験施工を通じて,その作業性および効率性につい
写真−2 シンダーコンの取り壊し状況
作業員の構成は,ウオールソー等の補助工法に2人
工,取り壊しに4人工で実施,取り壊しにおける各作
業の所要時間を表−2に示す。ン
[項の手はつりのみで1ブロック(2・04mこう)を取り
壊すために要した時間は約1.4日(8hr/dayで換算)
に対して,[頭のセリ矢と手はつりでは約1・1日で,
巨頭と比較して80%ほど手はつりによる作業時間を
短縮できた。
また,麺のプライスターと手はつりでは約0.7日
で,[圭司と比較して50%ほど手はつりによる作業時間
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を短縮できた。
表−2 シンダーコンの取り壊し所要時間
㍉
1、案
2 案
3 案
ウ オ ー ル ソー 端 部 tこ
こ30 0
6 .30 m
3 80
中 間 t.
ニ15 0
1.65 m
120
挟漸 生娘
ウ オ ー ル ソー 端 部 tこ
こ
300
6 .30 m
3 80
中 間 tこ
こ15 0
L 65 m
120
30箇所
4 70
30箇所
90
郡骨 幹闇
6 .28 m
3 80
コアホ.−リンクや
¢4 0
静 的破砕
tこ2 50 ∼ 40 0
セ リ矢
ウ オ ー ル ソー 端 部 tニ3 0 0
中 間 tニ15 0
1.65 m
120
コアホ’
、−リンク.
¢4 0
30箇所
tこ
こ
2 50 ∼ 40 0
プ ライス ター
4 70
静 的破砕
30箇所
70
対類 鍍 駕
写真−3 作業環境の測定状況
粉塵低減の対策として散水の効果を確認した。特に
静的破砕した箇所での手はつり作業時には,散水によ
り表面を湿らす程度でほとんど粉塵が発生しないこと
を確認した。また,シンダーコンの取り壊しの試験施
工の際に,静的破砕を実施した巨頭,巨頭においては,
巨頭よりも騒音や振動が小さくなる傾向が確認された。
試験施工を通じて,その作業性および効率性につい
て確認できた代表的な事項を次に記す。
(彰 取り壊し方向は,トンネル軸方向にしたほうが効
率的である。(試験施工時はトンネル軸に対して
直角方向で実施した。)
②トンネルの両端部のウオールソーによる溝切りは,
シンダーコンをトンネル軸方向に壊す場合には,
当初案より中央部に寄せる方が効率的である。
③ プライスターによる”HHHHA次破砕は,手はつりの補助
として有効である。
④ プライスターを使用する際には,有効な距離を考
慮する必要がある。
⑤ 空孔も有効な手法である。
⑥ プライスターを使用する際には,距離を十分に勘
案して,装薬孔と空孔の配置計画を検討する必要
がある。
⑦ セリ矢またはプライスターの孔は,垂直の方が斜
孔よりも効果的である。
⑧ 垂直方向の手はつりは,水平方向に比べて施工し
易く,効率的である。
(3)作業環境の測定
模擬トンネル内の作業は,両端部をシートで塞ぎ,
送風機と集塵機を稼働させながら実施した。
試験施工中の作業環境の測定結果とその状況を,表
−3と写真−3に示す。
3.3 試験施工の評価
(1)防護コン取り壊し方法の基本方針
[享遜,麺当に示した方法での施工結果より作業性お
よび効率性についての評価を行い,取り壊し方法の基
本方針を以下に示す。
1)セリ矢による静的破砕を採用した場合
◇セリ矢の加圧範囲は,@300mm程度である。
◇現場でのボーリングマシンによる削孔可能な深さ
は,L=400mmである。
◇ウオールソーは,鉄筋の切断(静的破砕時の加圧
に支障する帯筋の先行切断)と,FRPM管の固定金
具の切断に使用することとする。
◇FRPM管の撤去後は,現場合わせでハンドドリルを
用いて穿孔し,セリ矢を併用して取り壊す方法と
する。
2)プライスターによる静的破砕を採用の場合
◇水平に穿孔された孔に装薬可能なカプセルタイプ
(¢32)を使用する。
◇装薬ピッチは穿孔径に応じて算出する。
(2)シンダーコン取り壊し方法の基本方針
[享頚,巨丞巨頭に示した方法での施工結果より,
作業性および効率性についての評価を行い,取り壊し
方法の基本方針を以下に示す。
表−3 作業環境の測定結果
舗 ㍑ 軒 議 幻 厳 簿酪 頭軽
骨 頗煎 棺
逃 頚か醸
減 擁 漸栂 猷
坑 内風速0.3
坊譲コン
24∼2 9 4 5∼70 0.「\.
0.2 85 ノ
\.
用0 35∼ 55 1.7ノ
\.
:
3.8
9!17∼9.
/
22
騒 呂 85
シンダ…コン
80 へノ100 35 ∼5 5 0 ,8以 下 振 動 75
22 ノ
ー2 9 4 5′
、85 0,1へノ
0.2
坑 内粉塵:
3.0
9ノ
ノ
ノ
か∼膵!2
(10 5)
(
70 )
1)セリ矢併用の静的破砕を採用する場合
◇セリ矢の加圧範囲は,@300I皿程度である。
◇削孔径¢40mm,直孔,削孔深さL=300mmとする。
◇セリ矢孔の配列は,トンネル断面に3列で@300mm
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とする。
◇ウオールソーによる切断により両端部に自由面を
設け,静的破砕の効果アップを図る。
2)プライスターによる静的破砕を採用の場合
◇装薬孔径¢40mm,直孔,装薬深さしこ400Im(max)
とする。
◇装薬孔の配列は,トンネル断面に3列で@300mmと
する。
・ウオールソーによる切断により両端部に自由面を設
け,静的破砕の効果アップを図る。
3)セリ矢の加圧方向ならびにプライスターの装薬順
序
◇上記の1),2)は,トンネル軸に対して平行方向に
できた自由面に対して、コンクリート塊を起こし
ていく取り壊し方法として実証を行った。それに
対して,セリ矢の加圧方向またはプライスターの
装薬順序を変更して,トンネル軸に対して直角方
向にできた自由面に向かって、順次コンクリート
塊を起こしていく方法を実施工時に試行して確認
し,採用を検討する。
(3)作業環境
模擬トンネル坑内での環境測定を行った結果から,
作業環境について評価した内容は,以下に示すとおり
である。
3)坑内環境対策
粉塵の発生については,以下の対策を行う。
◇集塵の吸気ダクトの先端は,粉塵が発生する電動
ブレーカーのノミ先近くに配置すること。
◇発生した粉塵が滞留しない程度の風量(0.3m/sec)
を確保すること。
◇静的破砕を先行して施してからの手はつり作業に
おいては,表面を湿らす程度で粉塵がほとんど舞
い上がる状況にはならないことを確認したため,
作業時には表面を散水により湿らすこと。
振動・騒音については,以下のとおり。
◇静的破砕を先行して施しておくと無対策の場合と
比較して,それらの測定値が抑えられることを確
認した。
3.4 施工方法の提案
試験施工で実証された施工結果とその評価,基本方
針に基づき,作業の省力化および効率性に重点をおい
た防護コンおよびシンダーコンの取り壊し方法として,
それぞれ図−5,図−6に示す方法を提案した。
なお,提案2はトンネル軸に対して平行方向にでき
た自由面に対して,コンクリート塊を起こしていく取
り壊し方法であるが,プライスターの装薬順序を変更
して,トンネル軸に対して直角方向にできた自由面に
対して順次コンクリート塊を起こしていく方法も有効
である。
1)実構造物の残存強度
千若末広線坑内のシンダーコンは約34N/mm2で,試
験施工と同等な強度(模擬トンネルで再現したもの
32.6N/mm2)であり,実施工においても本取り壊し方
法は十分に適用できると判断される。
また,防護コンの推定残存強度は,約43N/mm2で,
想定より3割程度高い状態であるが,機械による切断,
削孔,静的破砕の作業は,試験施工の結果からみて大
きな支障とならないものと判断される。
2)使用機械の取り扱い
取り壊し作業をするにあたり,人的災害の確率が高
い電動ブレーカーの取り扱いについては,以下の安全
対策を行う。
◇側面の壊し時に,電動ブレーカーを上部より吊る
等の措置
◇ノミ先の滑り防止措置
◇作業員の安全靴のつま先の防護措置
◇取り壊す作業員のほかに,補助的な作業をする手
元を配置
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〔作業フロー SteP り
コアボーリング
ウオールソーの切断はなし
装薬用のコアの削孔
¢32@320 上段400mm
中段220mm
下段400mm
静的破砕
カプセルめ32
装薬順序
上段⇒中段⇒下段の順序
電動ブレーカー
端部から鉄筋とともに撤去
装薬順序 上⇒申卑下
¢450管の撤去
〔作業フロトー SteP 2〕
セリ矢併用・手はつり
ガラの集積と搬出
管架台部の解体
大型土のう・台車
ハンドドリルを用いて
現場合わせ
SLより上部に適用
SLより下部は,
ウエイトをかけて壊し作業が可能。
(状況に応じてセリ矢併用とする。)
大型土のう・台車
図−5 防護コンの取り壊し方法(提案1)
両端 t=300mm
¢40@400 両端し=400mm
中央しこ250mm
B箇所に自由面を設ける
1日目 両端コアに装薬
2日目 中央コアに装薬
状況に応じて空孔を設置
電動ブレーカー
表面から鉄筋とともに撤去
固定金具部の解体
大型土のう・台車
図−6 シンダーコンの取り壊し(提案2)
試験施工においては,施工環境の状況把握,油圧式セ
リ矢工法やプライスターによる静的破砕の有効性が確
認できたとともに,様々な改良点の抽出をすることが
本研究は,施工検討委員会と連携して北部処理区千 できた。
若末広線整備工事における現場作業の安全性・施工性 なお,当該工事は,施工検討委員会の評価を踏ま
等を勘案し,より良い環境条件を目指し模擬トンネル えた施工方法で平成23年10月完工めざして施工中
を製作して試験施工の実証に基づき検討を行った。 である。
●この研究に関するお問い合わせは
●この研究を行ったのは
研究第二部長
松島 修 研究第二部長
松島 修
研究第二部副部長
吉川 静雄 研究第二部副部長
松尾 正喜 研究第二部研究員
吉川 静雄
研究第二部主任研究員
研究第二部研究員
中村 哲也
− 78 −
中村 哲也