梅原嘉明(宮城県) - 東北大学

うめはらよしあき
氏名・(本籍)
梅原嘉明(宮城県)
学位の種類
理学博士
学位記番号
理第468号
学位授与年月日
昭和50年7月23日
学位授与の要件
学位規則第5条第2項該当
最終学歴
昭和37年3月
東北大学大学院理学研究科
(修士課程)地学専攻修了
学位論文題目
一方向凝固によるInSb-NiSb,InSb-MnSb,
InSb-FeSbおよびInSb-CrSb共晶合金の組織
に関する研究
論文審査委員
(主査)
教授砂川一郎教授植田良夫
教授青木謙一郎
助教授秋月瑞彦
目
文
論
次
1緒言
HInSbおよびMSbの結晶構造(MINi,Mn,FeおよびCr)
m一方向凝固の研究史
皿一1一方向凝固方法
皿一2一方向凝固綾織
田一3一方向凝固の成長機構
'皿一・4一方向凝固の結晶の方位関係と相境界エネルギー
一340一
m-5.一方向凝固した共晶合金の用途
W実験および結果
W-1.InSb-MSb共晶合金の作成方法
W-2.InSb-MSb共晶合金の組織
坪一2-LInSb-NiSb共晶合金
四一2-2,InSb-M血Sb共晶合金
可一2-3.InSb-FeSb共晶合金
y-2-4.InSb-CrSb共晶合金
W-3、InSb-MSb共晶合金の針状相間隔
W-4.InSb-MSb結晶の方位
1V-5,共晶組成からずれた場合のInSb-NiSb合金の一方向凝固組織
IV-5-1.実験
揮一5-2、InSb-NiSb合金中のNiの定量分析
坪一5-3.組織の観察
IV-5-4.溶質濃度分布
W-6.InSb-MSb共晶合金の電気的特性
V考察
V-LInSb-MSb共晶合金の相境界エネルギー
V-2.相境界エネルギーと組織
V-3.拡散定数
V[
結論
w
結言
㎎
謝辞
K
引用文献
X
添付論文
一34/一
論文内容要旨
天然における多くの異種鉱物間の共生関係の中で,融液から直接共晶として晶出する場合の鉱物
間の方位関係については,これまであまり明らかにされていない。これらについて合成実験を行な
うことは,複雑な要因が多すぎて殆んど不可能に近い。そこで、これら天然の鉱物の合成実験に先
立ち,比較的単純な系であり,また諸性質が比較的天然の鉱物に類似したInSbとMSb(Mは
Ni,Mn,FeおよびCr)との偽二元共晶系をもちいて,融液からの結晶成長の共生関係を明
らかにすることを目的として,本研究を行なった。結晶の作成方法は高温の溶融状態の一方の端か
ら冷却凝固していく一方向凝固である。
第1章は緒言である。天然で見られる異種鉱物間の共生関係で、結晶方位の相関のあるものにつ
いて概説した。また,天然の系で偽二元共晶系として知られているものについて概観し,この研究
の目的および意義について述べた。
第2章は本実験で得られるInSb,NiSb,MnSb,FeSbおよびCrSbの結晶構造
および結晶の諸定数の記載である。
第3章は本実験の結晶作製の方法である一方向凝固の研究史について概説した。すなわち,一方
向凝固の一般的方法,種々な共晶合金の一一方向凝固組織,一方向凝固の凝固理論,一方向凝固組織
での二種類の結晶の方位関係および異種結晶間の不適合性から相境界エネルギーを求める方法,お
よび一方向凝固によって得られた合金の種々な用途等について解説した。
第4章は本研究の実験方法およびその結果について述べた。
第1節はhlSb-MSb共晶合金の結晶作製方法(一方向凝固方法)について述べた。電気炉
は縦型の2-zo亙1e炉である。原料は市販の最高純度のものを使用し石英管中に真空封管した。
封管した育成管を高温部から低温部へ降下,凝固させていくタンマγ・ブリッジマンの方法である。
凝固温度附近での温度勾配は約20℃/αnであった。得られた結晶のイγゴットの長さは約12αア1,
直径は約13皿皿であった。
第2節はInSl)一MSb共晶合金の組織について述べた。得られたインゴットについて,その
横断面および縦断面についての研磨面について光学顕微鏡で観察したものの一部について記載した。
また,InSb-NiSb共晶合金については,電子顕微鏡による反射像についても観察し,In
SbmatriXに共晶として析出するNiSbが,ほ穿円柱状に晶出していることを示した。
一般的にInSb-MSb共晶合金では凝固速度が速い場合にはMSb針状相は円柱状を呈する
が,凝固速度が遅くなると外形はそれぞれ特徴的な自形を示し,NiSb針状相では菱形に近いよ
うな三角形状,MnSb針状相では正三角形に近い形状,FeSb針状相では菱形ないし三角形状,
一342一
CrSb針状相ではV字形になる傾向がある。
第3節では実験結果からInSb-MSb共晶合金の針状相間隔(λ)と凝固速度(R)との間
に,λ2R=一定の関係があることを示した。図1に縦軸に針状相間隔をとり,横軸に凝固速度
をとって図示した。共晶合金のそれぞれのλ2Rの値は表1に示した。
表1.
共晶系共晶縄成〔wt%)λ2Rの値(㎡〆sec)
InSb-NiSbInSb-MnSbInSb-FeSbInSb-CrSb1.86.50.670.601.57x10-10 、50×10}108.36×10-103.45x10-9
第4節は互nSbmatrixとMSb針状相との結晶の方位関係について述べた。得られた
共晶合金のインゴットの成長方向である縦方向および側面方向について,X線単結晶ゴニオメータ
ーを使用して解析を行なった結果下記の方位関係があることがわかった。
(a)成長方向く110>InSbノ<0001>MSb
側面方向〈110>1nSbノく1120〉MSbおよび
〃く100>{nSb/く1010>MSb
(b〉成長方向く110>hlSb/<0001>MSb
側面方向く110>亙nSbノ<1010>MSbおよび
〃<100〉IIISb/〈1120〉MSb(MIFe,Cr)
第5節は共晶組成からずれた場合のInSb-NiSb合金の一方向凝固組織についての実験お
よび結果である。供試組成は共晶組成であるL8wt%NiSb前後の1.45wt9ちNiSbの亜共
晶状態から,3,60wt%NiSb過共晶合金についての範囲である。作製したインゴットの先端
から終端部にかけて,約2α刀間隔ごとに切断し,インゴットの各5箇所での横断面について比色法
によるNlの化学分析を行ない,またその位置での横断面の組織の観察およびNiSb針状相間隔
を測定し,溶質の濃度分布と組織との関連について総合的に考察を行なった。(図3)。その結果
過共晶合金の場合,Ni濃度が増すと共にインゴットの先端部にNi濃度が高くなり,組織の上か
らもNiSb樹枝状結晶が析出してくるが,イγゴットのなかばからは,ほ冥共晶組織を示してく
{『
ることがわかった。また,共晶緯織を示す部分では、共晶組成からずれる程Ni濃度も高くなり,
また針状相の太さがや\大きくなってくることがわかった。針状相間隔λと凝固速度Rとの関係は
1
一343一
共晶組成の場合とほ丈一致した。一方,亜共晶合金の場合はNiSb針状相間隔が,共晶状態の場
合にくらべてやN拡がっており,針状相間隔λと凝固速度Rとの間にはλ2R=2.5×1じ均。濡/
secの関係があることがわかった。Ni濃度分布は先端部から終端部にかけて漸次や』高くなるが
組織の観察ではInSbの初晶樹枝状相の生成は,はっきりしなかった。この場合,NiSb針状
相の間隔が,インゴットの先端部から終端部にかけて拡がり,NiSb針状相が漸次太くなる。こ
れらの結果について考察を行なった。
第6節は王nSb-MSb共晶合金の電気的特性についての結果である。MSb針状結晶相が磁
場と電流に直角になるようにした場合,磁場の変化によって抵抗倍率が変化する。InSb-Nl
Sb共晶では10kgaussで15,5倍の値が,InSb-CrSb共晶では5,9倍,InSbFeSb共晶では3.9倍の値が得られた。また,共晶組成からずれたInSb-N量Sb合金の場
合では,共晶組成の場合にくらべて抵抗倍率はやや低く,13倍以下になる傾向がある。また,一
般的傾向として凝固速度が速いもの程(針状相間隔が大きいもの程)抵抗倍率が小さくなる傾向が
ある。
第5章では結晶方位の相関関係を調べた実験結果にもとづいて,互nSb結贔とMSb結晶との
相境界エネルギーについて考察を行なった。
InSbとMSbの結晶方位の一致する方向で,界面の原子配列を考慮すると,界面での両者の
結合に不適合性があり,その結果相境界面での2つの相を調節する刃状転位が考えられる。相境界
エネルギーは,その刃状転位の配位の配列によるひずみエネルギーの和であらわされる。すなわち
図2に1列として亙nSbmatrix(Spぬalerite型結論構造)とMSb針状相
〔Niccolite型結晶構造)とが結合している状態(整合界面が{110}至nSbノ『{1120}
MSbの場合)を示したが,結晶成長方向のく110>InSbと<0001>MSbとの格子面
間隔のずれ(LIとし豆とのずれ,△4働)と1その直角方向の格子面間隔のずれ(BiとBHと
のずれ。△召働)がある。その結果,この界面には両者を調節する2群の刃状転位が考えられる。
Friedelによると1つの刃状転位によるひずみエネルギーは(1)式で示される。
μb2rl
E=召n一・・・…一・…一・・一一(1)
4π(1一ン)ro
こNでInSbが転位によるひずみエネルギーを受け持つと仮定すれば,μはInSbの剛性率,
ンはポアソン比bはバーガスベクトル,roは転位のしんの部分の半径でありbに等しい。r1
は転位のしんの部分からひずみエネルギーが消失する範囲までの長さであり,転位の間隔であらわ
されbグi△引に等しい。格子面間隔の差を調節する界面転位によるひずみエネルギーは部分的整
合状態を考えると,結晶成長の横断面方向の刃抹転位によるひずみエネルギー(E陶)と結晶成長
一344一
の縦断面方向の刃状転位によるひずみエネルギー(E◎)との和として考えられる。したがって,
全ひずみエネルギーETは(1)式に転位密度を乗じた次の式で表わされる。
1△6酬1△緬l
ET-x輸+xE⑳'……………-"(2)
b2臼b20
(2)式に(D式を代入してまとめると,(⑤式のようになる。
μb画bの
ET=4π(1一ン){1△制召nl△召働1+1△解n賜い""(3)
(3)式から相境界エネルギーを計算した結果,界面が{110}亙nSb・ノ{1010}MSbで代
表される場合の方が,界面が{110}互nSb/l1120}MSbで代表される場合よりもエ
{
ネルギーがL2∼L3倍高い値になることがわかった。また亙nSb-CrSbおよびInSb-
FeSb共晶の場合については,相境界エネルギーの低い整合方位のみが観察されたが,これは2
相聞の相境界エネルギーが低くなるように結晶成長しやすいことを示している。表2に得られた相
境界エネルギー値を示した。これらの値は,凝固の理論から求められた他の一般の金属での値にく
らべ非常に大きな値である。また,得られたエネルギー値および実験から得られたλ2R=一定の
値をもちいて,Jacksonらによって解析された凝固の理論式から拡散定数を求めてみると,
InSb-NiSbでは2,5x10-6誘/sec,hSb一瓢aSbおよび1nSb-FeSbでは3,0x
10-6㎡//sec,InSb-CrSbでは1.5×10-50遇/secの値が得られた。これらの値は溶融
合金の一般的な値10-4ないし10-5α丑/seCに近い値であり,表2の相境界エネルギー値が,
妥当な値であることを示している。
第6章は,以上各車で述べた結果および考察をまとめた「結論」である。
本研究は天然の共晶系に対するモデル実験であり,固溶体の規則性やエピタキシー結晶,共軸連
晶などと並んで共晶系鉱物共生でも相異なる鉱物間に,外見は一見不規則ではあっても,原子配列
間には規則性があり,また,凝固条件によっては外形も規則性を示し,また,それが理論的にも妥
当な結果であることを明らかにした。
表2.相境界エネルギー値(erg/襯)
エネルギー値lnSb一lnSb一InSb一InSb一
相境界NiSbMnSbCrSbFeSb
『{110/1nSbノ{1120}MSb790116010901010
』1100}InSbノ{1010}MSb910990940840
一{110}InSb/{1010}MSb13201490一一
{100}InSbノ{11至0}MSb10401150一一
一345一
一 InSb-NiSbIn -CrSbIn -FeSbIn _翼nSb7
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図2,.InSb-MSb相境界の原子配列図
(整合界面)
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論文審査の結果の要旨
天然の鉱物には,しばしばeutecticgrow偽を暗示するような鉱物共生関係がみとめられ
る。珪酸塩鉱物や硫化鉱物にその例が多い。これらは従来,単純にeutecticgrowthとして
説明されてきたが,鉱物相互間の方位関係や結晶境界の構造については信頼のおける研究結果は少
なく・また,成長機構についても問題が残されていた。
梅原は天然現象の理解には,まず単純な系についての理解から出発する必要があると考え,天然
の鉱物としても共生がみられる亙nSbとMSb〔灘はN玉,擁n,Fe,Cr)間の偽二元共晶系につ
いて,一方向凝固法によって共晶合金を合成し,主として相境界構造の研究を行なった。共晶合金
はTa㎜an-Bri謡geman炉駄殆成し,種々の凝馳駅成長させた多数の試料の組織
についての観察を行なった。その結果,1)凝固速度と腋Sb針状晶の形態に一定の関係があるこ
と,2)針状晶の間隔λと凝固速度Rの間にλ2R=一定の関係があることを明らかにした。つい
でX線回折法によって玉nSbとMSbの方位関係を検討して両者が一定の方位関係で存在すること
を確認した。同様の検討は,共晶組成からずれた場合(亜共晶および過共晶)の亙nSb-NiSb
合金についても行ない,N量の濃縮,N量Sb樹枝状晶の析出,亜および過共晶の場合のλとRの関
係の特徴などについて明らかにした。また,亙nSb一躍Sb共晶合金の電気的特性をしらべ,MSb
針状晶が磁場と電流に直角になるようにした場合,磁場の変化によって抵抗倍率が変化すること,
共晶組成からずれる場合には抵抗倍率が低くなること,および凝固速度と抵抗倍率の間に相関があ
ることなどを明らかにした。
梅原は上述の結果をもとにして,亙nSbとMSbの相境界は,両相聞のミスマッチによる刃状転
位で構成されているものと予測し,刃状転位エネルギーから,相境界エネルギーの計算を行なった。
こうしてえられた相境界エネルギーの計算値は,一般の金属共晶合金の場合にえられている値より
もやや大きいが,半金属共晶合金の場合の値とはオーダとして一致している。また,異なった方位
関係に対して計算された相境界エネルギー値と実際に観察される方位関係はよく一致している。さ
らに,相境界エネルギー計算値とλ2R二一定の値を用いて拡散定数を計算すると,その値は溶融
1
金属の一般的な値10-4∼1r5謡/seCに近い値であり,相境界エネルギー値が妥当な値であ
ることがわかる。
梅原のえた上記の結果,および相魔界構造についてのモデルは,天然でのeutecticgrow曲
を理解するために貴重な基礎的概念を新しく提示したものと認められる。よって審査員一同は梅原
嘉明提出の論文を合格と判定した。
一348一