計測工学講義 第11回目 担当:西野信博 A3-012号室 [email protected] プラズマ実験装置NSTX(Princeton) 1 本章の目次 • 前回演習の答え • 3-1 移動平均を用いた平滑化処理 – 単純移動平均 – 重みつき移動平均 – 適応化平滑化法 • • • • • 3-2 積算平滑化処理 3-3 装置関数の補正 3-4 周波数領域における処理 3-5 重畳波形の分離 時間が許せば、以下を概説する – FFT – 最大エントロピー法 2 演習 • 一般的に知られていることだが, • 実空間でコンボルーション(たたみ込み積分)されている 形をフーリエ変換するとどのような演算になるか? g (t ) a(t ) f (t t )dt o o o フーリエ変換 G() A() F () • 証明は,数学の教科書などを参考にしてください。 3 3-3 装置関数の補正処理 • 前2節で不規則雑音を対象としたSN比改善法を述べた。それ から、観測時間を一定とした時、不規則雑音の減少に伴い、 波形自体も歪みの増加が起こることがわかっている。この原 因は、今までは数値フィルターの重みであった。実際の測定 においては、類似の歪みが測定装置によりもたらされる。例 えば、分光器に、ある単波長の光を入れたときの出力は、分 光器と光計測器で決まる分解能で決定される。 • これらを表すのに、装置のインパルス応答(入力を単位イン パルスにしたときの装置の出力)を用い、これが、装置関数 (apparatus function/instrumental function)であった。 a(t ) δ(t) t=0 時間遅れ t=0 4 装置関数の補正とは? • 前回説明した装置関数は、信号の鋭さをなまらせる働き があった。 • それを補正するとは、所謂、ピークがなまった信号から正 しくピークを得ること • すなわち、高周波成分を強調することになる。 • 装置関数 a( ) として、得られる信号 g ( ) は、真の信号 f ( ) と a( ) のたたみ込み積分で与えられた。 g ( ) a( o ) f ( o )d o , a( o )d o 1 • 具体的な逆演算の方法を考える。 5 数値計算の考え方 • ディコンボルーションの演算は数値的に不安定であるが、 ここでは、代表的な方法を表す。 • 前式の離算化表示は g ( m ) a( n ) f ( m n ) n • あるいは g ( m ) a( m n ) f ( n ) n • よって、行列表示すると gm amn fn • m=nでは、連立方程式を解く手法を用いる事ができる。 • 対角要素 aii 非対角要素 aij の時は、反復法が用 いられる。 6 反復法の基礎 • 連立方程式 AX b • これを、 X MX + C の形に変形する。 x1 ・ X ・ ・ xn • • • • • • b1 ・ b ・ ・ bn a1n ann a11 A an1 次に、初期ベクトル X(0) を適当に決めて、 ) X( (ν 回目の反復値)を使って ( 0,1, 2・・・・) ( 1) X( 1) MX( ) C と X を順次求める。 もし、 X( ) が収束すれば元の方程式の解 収束するかどうかは、Mの形による。 X となる。 7 行列の分解 • • • • 今、Mのスペクトル半径(固有値の絶対値の最大値) をρ (M) とすれば、ρ (M)<1 の時収束する。 さて、A=D+L+U 但し、 0 a11 D , 0 a nn 0 a21 L an1 ann 1 0 0 0 a12 U 0 a1n an 1n 0 8 ヤコービ法 • すると (L + U D)X = b -1 -1 X = -D (L + U)X + D b • であるから、 (ν+1) X -1 (ν) -1 = -D (L + U)X + D b • となる。この方法をヤコービ法と言う。 • Dは対角行列なので、D-1は簡単に求まる。成分ごとに書 くと (但し、aii≠0 の様にしておく、下式のkはダンピング 係数) 1 b ( ) i a x ij j a aii i ii bi k ( ) aij x j aii i aii xi( 1) xi( 1) 9 ガウス・ザイデル法 • 次に、元の方程式を (D + L)X = -UX + b • と書き換えると、この時 (ν+1) (D + L)X • これは、 (ν) = -UX + b X(ν+1) = -D-1 (LX(ν+1) + UX(ν) ) + D-1b • とも書ける。 • つまり、 ( 1) xi bi 1 ( 1) ( ) ( aij x j aij x j ) aii j i aii j i • これを、ガウス・ザイデル法と言う。 • (一般にはヤコービ法より収束の仕方が倍早い) 10 Successive Over Relaxation (SOR) • さらに、変形してGauss-Seidel 法を使って • X( )から X( 1) をいったん計算して、 X( ν 1) X( 1) (1 )X( ) • とする方法がある。 • これを、SOR(Successive Over Relaxation)法といい、 0<ω <2である。 X( 1) (D + L)-1 (-UX(ν) + b) (1 )X( ) • うまくすると、 Gauss-Seidel 法より収束が倍早い 11 Burger-Cittert の擬似ディコンボルーション • 方法を以下に示す。 g (k ) nh ( ) f ( k ) ( )a( ) 0 f ( k 1) ( ) f ( k ) ( ) g ( ) g ( k ) ( ) • を用いる逐次近似法である。(実はJacobi法の k aii とし たもの) k • この場合の f ( ) の収束性は、フーリエ変換した式 Gk Fk . A • Fk 1 Fk G Gk Fk (1 A) G • から F G 1 (1 A) (1 A) 2 ・・・・・ (1 A) n n n G Fn G / 1 (1 A) F A 1 A 1 12 実際上の注意 • g(ν )、a(ν )はともに測定誤差を含む事から、高周波成分 がある。すなわち、収束条件を必ずしも満たさない。 • また、ディコンボルーションの演算は高周波域を強調する • 容易に発散する • 対策 • 通常、演算前や計算途中に平滑化処理を入れる 13 3-4 周波数領域における処理 • 概要 – 時間空間座標を x として表すと、通常データは f ( x) の 様に表現できる 。ここで、 f ( x) が信号 s ( x) と雑音 n( x) の和、と相加的に表せたとする。 f ( x) s( x) n( x) – この時、フーリエ変換(Fourier)によって周波数領域で表 せば • 但し、 F ( ) S ( ) N ( ) F ( ) f ( x)ei x dx • などと大文字の関数は小文字の関数のフーリエ変換を表す。 14 フィルター関数によるSN比改善 • この様に表した時、s(x)、n(x)の周波数成分が違う時、 S(ω )とN(ω )の分離は比較的容易となる。 • すなわち、信号成分は一定範囲の周波数成分しか含ま ない場合が多く、雑音成分は一般的にどの周波数成分 も一様な強度の白色雑音で高い周波数成分を含んでい る。 • 通常のSN比は S ( )d / N ( )d • F(ω )にフィルタ関数(重み関数)P(ω )を作用させれば、 • S ( ) P( )d / N () P()d • となり、異なった値が得られる。 15 例 生データg(x)のスペクトル フィルター関数P(ω ) 50 1.2 45 40 1 X 20 P(ω ) 0.8 30 25 0.6 0.4 15 10 0.2 5 0 0 0 20 40 60 80 0 100 20 40 ω • 生データのスペクトルを フーリエ変換のプログラ ム(FFT)で求める • フィルター関数P(ω)を かける • その結果を逆フーリエ 変換する(やはりFFT) 60 80 100 ω フィルター通過のスペクトル 50 45 40 35 F^(ω ) F(ω ) 35 30 25 20 15 10 5 0 0 20 40 60 ω 80 100 16 フィルター関数の役割 • 従って、雑音成分N(ω )が比較的大きい周波数成分(通 常高周波成分)を滅衰させるフィルター関数をF(ω )に作 用させ、これを変数Xの領域にFourier逆変換すればSN 比の改善ができる。平滑化後の信号は • 1 i x Sˆ ( x) 2 F ( ) P( )e d • となる。 • P(ω )はSN比を大きくし、かつ、S(ω )に大きな影響がない 周波数領域のフィルターが望ましい。 17 たたみ込み積分との関係 • 関数は、フィルター関数P(ω )をフーリエ逆変換して、 1 p ( x) 2 • を求め、これを用いて、 s '( x) P( ) exp(i x)dw f ( x ') p( x x ')dx ' • と表せる。 • この表現は、コンボルーション(たたみ込み積分)で、前に 述べた平滑化の数学的基礎を与える。 • 従って、3.1節、3.2節の平滑化は、前に述べたように低周波 を通すフィルター関数となっていることがわかる。 • たたみ込み積分は、実の世界での処理、一方、フーリエ変 換に代表されるものはスペクトルの世界での処理である 18 使用上の留意点 • また、フィルター関数が周波数0(DC成分)において1に なっていれば、 F (0) f ( x )e i 0 x dx f ( x)dx • の値が保存されるのでピーク毎の平滑化によってピーク の強度(積分値)は変わらない 19 フーリエ変換を用いた方法の利点 • 平滑化と同様の手続きでディコンボルーション(分解能の改 善)も行える。 • 前節の結果は、観測データ g ( x) • 測定装値への入力関数 f ( x) • 装置関数 a( x) として、 g ( x) f ( x ')a( x x ')dx ' • であった。これをフーリエ変換すると、 G( ) F ( )・A( ) • 我々に必要な情報は f ( x) なので 1 f ( x) 2 • として、求められる。 G( ) / A( ) exp(i x)d 20 フィルター関数の選択 • これは、平滑化の計算で P( ) 1/ A( ) • となるフィルター関数を用いた事と等価である。 • 但し、前と異なるのは、このフィルターは高周波成分を強調す る事である。 • 式(42)は、測定装置の分解能関数の周波数分布に逆比例した フィルター関数を表すので、インバースフィルター(逆フィル ター)とも呼ぶ。 • もし、g(x)がノイズを含まない理想的な信号なら、 • ω →∞で A(ω )→0であるが、G(ω )はA(ω )より速く0に収束し、 G(ω )/A(ω )は発散しない。 • しかし、実際の観測データはノイズを含むためG(ω )→ (not 0) となり、発散する場合が多い。 • この様な理由から、1/A(ω )の高周波成分を滅衰させて計算さ れている。 21 G(ω)とA(ω)、W(ω)の関係 G(ω) 1/A(ω) 雑音成分 G(ω) ω 1/A(ω) G( ) / A()が大きくなる W(ω) G( ) / A() の大きさを抑える G( ) / W () を使用 ω 22 1 f ( x) 2 G( ) / A( ) exp(i x)d • を変更し、部分的に分解能を高める方法もある。 A( ) A1 ( ) A2 ( ) • と表せる時に、A2(ω )に相当する分のみ分解能を改善す る。すなわち、 1 f1 ( x) 2 G() / A () exp(i x)d 2 f ( x ')a1 ( x x ')dx ' • この様にして、得られる関数は、真の入力分布に比べて 測定系の影響がとして与えられたものであるがに比べて 分解能を上げる事ができる。 フィルター関数の選択 つづき • 以上の様に、装置関数の及びA(ω )の正確な形がわから ない場合でも、うまくそれなりの形のA(ω )を選ぶことがで きれば、雑音成分が少ない信号なら分解能改善が可能 となる。 24 フーリエ変換を用いた方法の特徴 より広い立場で • フーリエ変換が必要であるから、移動平均に比べて多少演 算量は増える • ただし、任意の周波数範囲の強調、あるいは、逆に除去が 可能である。 • 信号(雑音)の性質があらかじめ分かっている、あるいは、予 測できる場合にはきわめて有用である。実際は、スペクトル 解析によって、信号と雑音の区別をつける目安とする。 • 逆に言うと、周波数領域で同じ領域の雑音は除去できない – 信号と雑音の区別がつかない • このような場合、一般的な方法がないため、個別対応となる。 • 個別対応とは研究者の腕(能力)の見せ所 – 基礎をよく理解して、応用できる力がある – 頭が柔軟 25 演習 • 信号処理のアルゴリズムで、移動平均を使用する場合と フーリエ変換を使用する場合とを比べた場合、どちらの 方法が適用範囲(応用範囲)が広いか。 • 例を挙げて説明せよ。 26
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