第 一 講

第 一講
とう ぐう
つけたり
み やすどころ
次 の文 章は 、﹃ 太平 記﹄ 巻十八 ﹁ 春宮還 御の 事 付 一宮 御息 所 ﹂ の一 節であ る。一 宮は、 自他と もに 認める 春宮候 補で
あった が、鎌 倉幕 府の計 略によ ってそれ がかなわな かった。 そのため 、一宮は 、万事に つけて不本 意な気 持ちのまま 、とく
かんだちめ
に心ひか れる女性 もなく 、ひとり日 々を過ご していた 。以下の文 章は 、それに続 くもので ある 。これを読 んで 、後の問い 問
(
1∼6 に
) 答え よ。
たま
い
う
ば そく
あか
源) 氏 の 優 婆 塞 の 宮 の 御 娘 、 少 し 真 木 柱 に
注
(1
ある 時 、関 白 左大 臣 の家 に て、 な ま上 達 部・ 殿 上人 あ また 集 まり て 、絵 合 せの あ りけ る
とう ゐん
は
甘) 泉 殿
注
(4
-1-
に 、 洞 院 の 左 大 将 の 出 だ さ れ た り け る 絵 aに 、
び
らふ た
﨟)闌 け てに ほ
注
(2
居 隠れ て 琵琶 を 調べ 給 ひし に 、雲 隠 れし た る月 の には か にい と 明く さ し出 で たれ ば 、扇 な
ばち
らでも招くべかりけりとて 、撥を揚げてさしのぞきたる顔つき、いみじく
や かな る 気色 、 ア(言) ふ ばか りな く筆 を 尽く し てぞ 書き た りけ る 。一 宮こ の 絵を 御覧 ぜ られ 、
り
李) 夫 人 、
注
(3
はん ごん かう
反) 魂 香 を た き 給 ひ
注
(5
太平 記
第一講
セ ン ター 対 策 古文 ( 発 展編 )
限り な く御 心 に懸 か り けれ ば 、こ の 絵を し ばら く 召し 置 かれ て 、見 る に慰 む 方も や とて 、
巻 き 返し 巻き 返し 御 覧ぜ らる れど も、 御 心さ らに 慰ま ず。 昔 、漢 の
の病の床にふ してはかなくなり給ひしを 、武帝悲しみにたへかねて、
5
にせ ゑ
しに 、 李夫 人 の面 影 の煙 の 中に ほ のか に 見え た りし を 、似 絵 に書 か せて 御 覧ぜ ら れし かど
しう さつ
も 、﹁ も の 言 は ず 笑 は ず 、 人 を 愁 殺 せ し む ﹂ と 武帝 の 嘆 き 給 ひ け ん も 、 げ に こ と わ り と 思 ひ
つら ゆき
知 ら せ 給 ふ 。﹁ わ れ な が ら は か な の 心 迷 ひ か な 。 ま こ と の 色 を 見 て だ にも 世 は 皆 夢 の 中 の う
へん ぜう
つ つ と こ そ 思 ひ 捨 つ る こ と な る bに 、 Aこ は そ も 何 事 の あ だ し 心 ぞ や 。 遍 昭 僧 正 の 歌 を 貫 之
歌) の さ ま は 得 た れ ど も ま こ と 少 な し 。 た と へ ば 絵 に 書 け る 女 を 見 て 、 い た
注
(6
-2-
が 難 じ て 、﹃
たぐ ひ
あ) や に く な る 御 心 胸 に 満 ち て 、 限 り な き 御 物 思 ひ に な り け れ ば 、 か た へ の 色 異
イ
(
づらに 心を動 かすが ごとし ﹄と言ひ し、 その 類 に もなりぬ るもの かな﹂と思 ひ捨て給へ ど
も 、 なほ
な る人 を 御覧 じ ても 、 御目 を だに も めぐ ら さ れず 、 まし て時 々 の たよ り につ け て、 こと 問
かさ
ひ 交 は し 給 ふ 御 方 さ ま へ は 、 一 村 雨 の 過 ぐ る ほ ど の 笠 宿 り cに 立 ち 寄 る べ き心 地 に も お ぼ し
ひま
め さ ず。 せ めて は 世の 中 にさ る 人あ り と伝 へ 聞き て 御心 に 懸 から ば 、玉 垂 れの 隙 求む る風
の た よ り も あ り ぬ べ し 。 ま た わ づ か に 人 を 見 し ば か り な る 御 心 当 て な ら ば 、 B水 の 泡 の 消 え
太平 記
第一講
セ ン ター 対 策 古文 ( 発 展編 )
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15
返り て も寄 る 瀬は な どか な かる べ きに 、 これ は 見し に もあ ら ず聞 き しに も あら ず 、い にし
み
て うづ
せう えう
か
も
ただ す
まう
なり ひら
賀) 茂 の 糺 の 宮 へ 詣 で
注
(7
へ の はか なき 物 語、 あ だ なる 筆 の跡 に 御心 を なや ま され け れば 、 せん か たな し とお ぼ しめ
がは
し 煩 は せ 給 へ ば 、 せ め て 御 心 を や る 方 も や と 、 御 車 dに 召 さ れ て 、
みたらし
そで
さ せ 給ひ 、御 手 洗川 の 川水 を御 手 水に 結ば れ 、何 と なく 川に 逍 遥せ さ せ給 ふに も 、昔 、業 平
み そぎ
かはら
お
-3-
の 中将 恋 せじ と御 禊 せし こと も 哀れ なる さ まに お ぼし めし 出 ださ れて 、
した つゆ
C ると も 神や はう け ん影 をだ に みた ら し川 の深 き 思ひ を
祈
こ
と詠 ぜ させ 給 ふ時 し も あれ 、一 村 雨の 過 ぎ ゆく ほ ど、 木 の下 露 に立 ち ぬれ て 、い と ど御 袖
こけ
も し ほ れ た る に 、﹁ 日 も は や 暮 れ ぬ ﹂ と 申 す 声 し て 、 御 車 を と ど ろ か し て 一 条 を 西 へ 過 ぎ さ
た
せい がい は
青) 海 波 を ぞ調 べ た る 。﹁ あ や し や、 い か な る 人 な る
注
(8
せ給 ふに、 誰が住 む宿と は知らず 、垣に 苔むし 瓦 に松生 ひて、 年久しく 住み荒した る宿の
ウ
(
過) ぎ が て に 御 車 を と ど め さ せ て 、 は る か に 見 入 れ さ せ 給 ひ た れ ば 、 見 る 人 あ
も の さ び し げ な る eに 、 撥 音 気 高 く 、
ら ん ﹂と 、
太平 記
第一講
セ ン ター 対 策 古文 ( 発 展編 )
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す
てい
り とも 知 らざ る 体に て 、暮 れ ゐる 空 の月 影 の、 時 雨の 雲 間よ り 、ほ の ぼの と あら は れ出 で
み
さん ご
鉄) 珊瑚 を 砕く 一 両曲 、
注
(9
たる に 、御 簾 を高 く 巻き 上 げて 、 年の ほ ど十 七 、八 ば かり な る女 房 の、 言 ふば か りな くあ
せん ばん せい
て やか な るが 、秋 の 別れ を慕 ひ つつ 琵琶 を 弾ず るに て ぞあ り ける 。
こほり
氷 玉 盤に 落 つ 千万 声 、 かき 鳴 らし た る その 声 は 、庭 の落 葉 にま ぎ れつ つ、 Dよそ に は降 ら ぬ
4
3
2
1
反魂香︱︱死者の魂を呼び返すという香。
甘 泉 殿 ︱ ︱ 秦 の 宮 殿 であ っ た も の を 武 帝 が 整 備 し て 離 宮 と し た も の 。
李夫人︱︱前漢の武帝が 寵 愛 した妃。
﨟闌けて︱︱洗練された気品と美しさがある様子。
源 氏 の 優 婆 塞 の 宮 の 御 娘 ︱ ︱ ﹃ 源 氏 物 語 ﹄ 橋 姫 巻 で 、 薫 が 優 婆 塞 の 宮 の 娘 た ち を か い ま見 る 場 面 。
-4-
村 雨 に、 袖し ほ るる ば かり にぞ 聞 こえ たる 。
5
歌のさまは⋮⋮動かすがごとし︱︱紀貫之の﹃古今和歌集﹄仮名序の一節。
)
6
賀茂の糺の宮︱︱京都市左京区下鴨にある下鴨神社。
注
(
7
青海波︱︱雅楽の曲名。
ちようあい
8
鉄 珊 瑚 を 砕 く 一 両 曲 、 氷 玉 盤 に 落 つ 千 万 声 ︱ ︱ 琵 琶 の 音 色 が 美し く 多 様 なこ と を 形 容 し た 表 現 。 白 居 易 の 詩 に よ る 。
しん
9
太平 記
第一講
セ ン ター 対 策 古文 ( 発 展編 )
35
問1
ア
(
傍線部 ア
( ∼
) ウ
( の
) 語句の 解釈として 最も適 当なものを 、次の各 群の①∼ ⑤のうち から、そ れぞれ一つ ずつ選べ 。
① 言葉で言い表せないくらいに
④ 言葉に出して言うはずもなく
② 言葉に出す必要もないくらいに
) 言ふばか りなく
③ 言葉で言い表すだけではなく
⑤ 言葉で表す余裕もないくらいに
① 気まずくてたまらない思い
④ とてもつまらないという思い
② 何となくにくらしい思い
) あやに くなる御 心
③ 筋が通らないという思い
⑤ どうすることもできない思い
① 通り過ぎるのを見とがめて
④ 通り過ぎるのをはばまれて
② 通り過ぎることができずに
) 過ぎが てに
③ 通り過ぎるのをあきらめて
⑤ 通り過ぎることがつらくて
① a 出だされたりける絵に
④ d 御車に
② b 思ひ捨つることなるに
波線 部a∼e の助詞﹁ に﹂には 、一つだ け種類の異 なるもの がある。 それを次 の①∼⑤ のうちから 選べ。
③ c 笠宿りに
⑤ e ものさびしげなるに
傍線 部 A ﹁こ は そ も何 事 のあ だ し心 ぞ や﹂ とあ るが 、﹁あ だ し心 ﹂の 具体 的 内容 の説 明 とし て最 も 適当 なも の を、 次の ① ∼⑤
-5-
イ
(
ウ
(
問2
問3
太平 記
第一講
セ ン ター 対 策 古文 ( 発 展編 )
傍線部 B﹁水 の泡 の消え 返りても寄 る瀬はな どかなか るべき﹂ という表 現により、 ここでは 具体的に どのよう なことを 言い表
⑤ あこがれの女性の似顔絵を何枚も描いてもらうことでしか、募る思いをまぎらすことができない切ない心。
④ 恋はかなわぬ夢のようなものであり、むなしいとわかってはいても、何度も繰り返してしまう節操のない心。
③ 見た目は整っていて美しいが、相手に対する誠意がなく移り気な女性ばかりを好きになってしまう軽薄な心。
② 絵に描かれた女性であれ、現実の女性であれ、美しければだれに対しても恋心を抱いてしまうとりとめのない心。
① どんなに美しくても現実の女性には心を動かされないのに、絵の中の女性には心をひかれてしまうむなしい心。
のうち から一つ 選べ。
問4
① はかなく消えてしまい決して浅瀬にたどり着くことのない水の泡のように、一度しか会ったことのない相手を思い続けても、あまり
頼りにはならないということ。
② 水の泡が消えてもまた出来ていつか必ず浅瀬にたどり着くように、少しでもかいま見たことのある相手を思うのであれば、出会う機
会はあるはずだということ。
③ 水の泡が消えてもまた出来ていずれ浅瀬にたどり着くように、一度は心を通わせ合った相手ならば、また会いに行きたいという気持
ちになるはずだということ。
④ はかなく消えてしまい決して浅瀬にたどり着くことのない水の泡のように、まったく知り合う機会のない相手を思っても、結局はむ
なしいものだということ。
⑤ 水の泡が消えてもまた出来ていつか必ず浅瀬にたどり着くように、過去に恋仲であった相手を思うのであれば、ふたたびめぐり会う
機会はあるはずだということ。
みそぎ
傍線 部Cの 歌に は 、﹃伊 勢物語 ﹄で、 在原 業平に 擬せら れる﹁ 男﹂が恋の 執着に苦 しみ、御 手洗川で 禊 をした ときに詠 んだ、
-6-
そうとし ているのか 。その 説明として 最も適当 なものを 、次の① ∼⑤のう ちから一つ 選べ。
問5
﹁ 恋 せ じ と 御 手 洗 川 に せ し み そ ぎ 神 は う け ず も な り に け る か な ﹂ と い う 歌 が踏 ま え ら れ て い る 。 傍 線 部 C の 歌 の 解 釈 と して 最 も
太平 記
第一講
セ ン ター 対 策 古文 ( 発 展編 )
かわ も
① 姿をかいま見ただけの女性に夢中になっている私は、身を清めるべき御手洗川の川面にさえその面影を見てしまう。次に出会う手立
てすらないような人に恋などすまいと祈っても、そのような願いを神は聞き届けてくれるだろうか。
② 似顔絵を見てそこに描かれている美しい女性に恋している私は、身を清めるべき御手洗川の川面にさえその面影を見てしまう。ぜひ
ともその女性にめぐり会いたいとどんなに祈っても、そのような願いを神は聞き届けてくれないだろう。
③ 美しい女性の絵姿を見てそれに恋い焦がれている私は、自分の恋心が御手洗川のように深いことをあらためて知った。このまま祈り
続けたならば、理想の女性にめぐり会いたいという私の願いを神は受け入れてくれるだろうか。
④ 姿をかいま見ただけの女性に夢中になっている私は、御手洗川に映るやつれた自分の姿にあらためて恋心の深さを知った。成就する
見込みのない恋に身をやつすまいと祈っても、そのような願いを神が受け入れることはないだろう。
⑤ 美しい女性の絵姿を見てそれに恋い焦がれている私は、身を清めるべき御手洗川の川面にさえその面影を見てしまう。それほど恋心
が深いのだから、恋をすまいとどんなに祈っても、そのような願いを神は聞き届けてくれないだろう。
傍 線部D ﹁よそ には 降らぬ村 雨に、袖 しほるる ばかりにぞ 聞こえ たる﹂とあ るが、こ の部分の 解釈とし て最も適 当なものを 、
-7-
適当な ものを、 次の①∼ ⑤のうち から一つ 選べ。
問6
次 の①∼⑤の うちから 一つ選べ 。
① 優美な女性が弾く美しい琵琶の音色に聞きほれていたので、一宮だけは、にわか雨の後の木の枝葉から落ちる露で袖がぬれているこ
とにも気づかないほどであった。
② 美しい音色の琵琶を弾く女性のもの悲しい様子を、一宮は、絵姿の女性に対するかなうはずもない恋の行く末に重ね、悲しみの涙に
袖をしとどにぬらしたのであった。
③ 優美な女性が弾く美しい琵琶の音色を聞いて、ずっと思い続けていた絵の情景と重なり、一宮は、自分の上にだけ雨が降ったように、
感動の涙を流したのであった。
④ 美しい音色の琵琶を弾く女性のあまりの優美さに、一宮だけは、にわか雨が降って袖までしとどにぬれていることにも気づかないほ
ど、心ひかれたのであった。
太平 記
第一講
セ ン ター 対 策 古文 ( 発 展編 )
-8-
⑤ 優美な女性が弾く琵琶の音色が過ぎゆく秋を惜しむ情感をよく表現していたので、一宮は、自分の上にだけにわか雨が降ったかのよ
うに、感涙にむせぶのであった。
太平 記
第一講
セ ン ター 対 策 古文 ( 発 展編 )
︻読 解のポイ ント︼
体言 に ↓ 格
<
A﹁ に ﹂ の 識 別
①
○体
↓ 接
<
↓ 格
< 強
>調
二つ の文をつ ないでい る・ ︱
< ︱ノデ ・スルト ・ノニ と
> 訳せ る
>
副 ︶
><
> 同じ 動
ヒ
< タスラ・ヤタラニ︱︱スル
同じ動○用 に ︵ 係
<
︵﹁基礎古文Ⅰ ﹂より︶
>⋮⋮
>⋮⋮
名 補え る⋮ ﹁ コト ・ トキ ・ト コ ロ・ など ﹂
○体 に
名 補 えず
体言 に ↓断定 の助動﹁な り﹂○用
→﹁ デ アル ﹂ の﹁ デ﹂ と 訳せ る
に て
に あらず
︵﹁あ り﹂ 部 分は ﹁侍 り ・侍 ふ・ お はす ﹂ と入 れ替 え 可
に︵ 係
副 ︶
< ><
>︵あり ︶
-9-
②
③
○体
体言
○体
用 ⋮ ⋮﹁︱に き・︱に けり﹂の ことが多 い
↓助動﹁ ぬ﹂の○
用語 尾
態様語 に ↓ナ リ形動の ○
○用 に
⑤
用語 尾
死 に・去︵往 ︶に ↓ナ変 動の○
④
⑥
体言 にて ↓ 格
< ﹁
> にて﹂ の一部
副詞の一 部
→﹁ デ アル ﹂の ﹁ デ﹂ と訳 せ ない
⑦
⑧
太平 記
第一講
セ ン ター 対 策 古文 ( 発 展編 )
︵命︶す ぐ︵過ぐ ︶
いたづら になる
うす ︵失す︶
きえうす ︵消え失 す︶
いふかひな くなる
ともかく もなる
をはる︵終 ︶
たえ いる︵絶え 入る︶
ゆ く︵行・逝 く︶
す ぐ︵過ぐ ︶
きえ いる︵消え 入る︶
やむ︵已 ・止・罷 む︶
ことをはる ︵事終は る︶
かく る︵隠る ︶
いぬ︵往・ 去ぬ︶
B︻﹁死﹂ を意味す る慣用句 ︼
①比 喩的に動 詞を使っ て
︵息 ︶たゆ︵ 絶ゆ︶
かき たゆ ︵掻き 絶ゆ︶
こと きる︵事切 る︶
︵身 ︶まかる︵ 罷る︶
あへな くなる
き えはつ︵ 消え果つ ︶
し ゅっす
きゆ︵ 消ゆ︶
むな しくなる
たえはつ ︵絶え果 ︶
はかなく なる
こ うず︵薨 ず︶
ねはん︵ 涅槃 ︶︶
こう ぎょ︵薨 御︶
にふめつ ︵入滅︶
くもがく る︵雲隠 る︶
にふ ぢゃう︵ 入定︶
- 10 -
②形 容詞﹁︱く ﹂+﹁な る ﹂・形 容動詞﹁︱ に﹂+﹁ なる﹂
あさま しくなる
③尊敬 語︵貴人 の死に使 う︶
にふじゃ く︵入寂 ︶
かみさ る・かむ さる︵神 去る︶
との ごもる︵ 殿籠る︶
いは がくる ︵岩隠 る︶
︵卒す ︶
太平 記
第一講
セ ン ター 対 策 古文 ( 発 展編 )
C 形 容 詞・ 形 容 動 詞 の 語幹 用 法
②連体 修飾用法
>
︵﹁基礎古 文Ⅰ﹂よ り︶
> ﹁語幹+の﹂の部分が下の体言を修飾する・感動の気持ちを伴う
=
↓そうい う場面で 人間がふ つうどん な気持ちに なるか
↑その和歌 を誰がど んな状況 で詠んだ のか
︱
< ︱なX
←連 体 修飾 格 の 格
<
語幹 の 体言
和歌 はセ リフ
D
心情
に 注意
- 11 -
登場人物 のその時の
・区切れ
・心情語 ︵形容詞・ 形容動詞 など︶
・述部
②文法的・ 意味的に ﹁ 。﹂にあたる 部分は﹁ 。﹂を打つ
手
<順 ①
>と りあえず 、五・七 ・五・七 ・七に切 る
③倒置に注 意しつつ 、登場人 物の 心情の表れとし て解釈す る
→その和歌を 誰がどん な状況で 詠んだの か
*修辞︵縁 語・掛詞 ・見立て ︶にも注 意︵セン ター古文の 場合は、 まず修辞 が使われ ていると 考えた方 が良い︶
太平 記
第一講
セ ン ター 対 策 古文 ( 発 展編 )
☆掛 詞の見つ け方
①︻ 地名 と掛詞が からむこ とが多い︼
右の例
逸る
そ
あらそへば思ひに侘ぶるあま雲にまづそる鷹ぞかなしかりける
尼 ↑ 縁語 ↓ 剃 る
②︻ 縁語 と掛詞が からむこ とが多い︼
例
天
>
>
- 12 -
夫
< と 争っ て 途 方 に暮 れ 、 い っ そ 尼 に で も と 思 う 私 に は 飛 び 立 つ 鷹 の よ う に す ぐ に も 共 に 出 家 す る と い う 我 が 子 が 切 な く 悲 し い こ と よ
吉 野河岩波 高く行く 水のはや くぞ人を 思ひそめて し
速く
読ん でいって おかしくな る部分で 考えよ
③︻ 尻取り 的に連 結する部分 が掛詞と なること がある︼
例
早く
吉
<野川の岩に当たり、波しぶきを高く上げて流れる水が速いように、早くもあの人を思い始めてしまったことだよ
④その 他、物語 に出てき たアイテム にからん だり
その場 に関係な いものに からんだ り
リード 文や注、 話の流れ から気づ かなければ ならなか ったり
︵﹁○○を 見て詠む ﹂﹁○○ を題にて 詠む﹂な ど︶
太平 記
第一講
セ ン ター 対 策 古文 ( 発 展編 )
︵ 時雨︶
うちしぐ る︵打時 雨︶
命の
しぐる
E︻﹁泣く ・涙﹂を 表す慣用 表現︼
しほ たる︵潮 垂る︶
の露
思ひの
袖の
しずく
の雫
を 濡ら す
袂の
たもと
を絞る
さ しぐむ︿ 涙 ぐむ﹀
を濡らす
に余 る
に月が映る
浮く
- 13 -
に月が宿借る
の下 の海
太平 記
第一講
セ ン ター 対 策 古文 ( 発 展編 )
︻語
句︼
こ こにあ るすべ ての単語は 、入試の 必須 古語です 。せっか く講義で 説明を聞 いたのだ から覚えて 下さい。 また、こ こに
取 り 上げ て い なく て も、 講 義の 際 の ホワ イ トボ ー ド 上で 、青 マ ーカ ー し た 単語 は重 要 古語 で す。 徐 々に 覚え て いっ て下 さ
い。
︻ 果無し︼
③ むなしい。 無常であ る。
② 便りになら ない。 あっけない 。もろい 。
︵○体で ︶ちょっと した。
①頼る ものがな い。心細 い。弱々し い。当 てがない。
安 心 して 頼れ る 人や
④ たいしたこ ともない 。取るに 足りない 。
は
かなし
11
物 が 無く て心 細 い
⑤ 幼い。未熟 でたわい がない。
⑥ あさはかだ 。愚かだ 。
感じ
が っ ち り ・ 巨大 ・
⑦粗 末である 。卑しい 。
ま めびと︵ 忠実人︶
> ↓ま めごと︵ 忠実事 ︶・
=中身 が詰まっ ている感 じ =ま め ま め し ・ま め や か な り
>
ま めだつ︵ 忠実立つ ︶
ま めざま︵ 忠実様︶
=あ だ あ だ し
>↓あだこと ︵徒言︶
あだごと ︵徒事︶
あだびと ︵徒人︶
- 14 -
確 実の 感 じの 反 対
まめ・なり 実
127
本 格的だ
><
誠
< 実・ 忠実・ 実直・まじ めだ
実
< 用的 だ
>
=中 身がない ・実がな い
丈
< 夫・ 健康だ
あだ・なり 徒
む
<な しい・は かない・ もろい・ たよりに ならない
>
≒
い た づ ら ・ な り ︵徒なり︶
>
不
<誠 実・浮気 だ・軽薄 だ・うわ ついてい る
む
<だ ・無用だ ・中身が ない
≒
む な し ︵空し︶
太平 記
第一講
セ ン ター 対 策 古文 ( 発 展編 )
)
ぞ
か
かは
⋮ 態様方法を 問う
ど
<う ・どのよ う
⋮ 疑問・反語
>
+α
ど
< うし て⋮︵い や⋮ない︶
⋮疑問 ・反語
*﹁ 疑問・反 語﹂﹁態 様・方法 ﹂を表す 副詞﹁な 系﹂﹁い か系﹂
に
ん
(
ど
ぞ
て
が
か
ん
( で
)ふ
に
かは
ど
<う して⋮︵ いや⋮な い︶
>
>
○体で
結ぶ
- 15 -
で
ん
>
* いかで系・いかにして系⋮⋮意志・希望・願望の時
な
< ん と か し て・ ど う に か し て ⋮ ⋮
太平 記
第一講
セ ン ター 対 策 古文 ( 発 展編 )
︻通
釈︼
う
ば そく
ま
き はしら
あ る時、 関白大 臣の家 で、若 い公卿や 殿上人が 大勢集ま って、絵 合せの会が あったと ころ、洞 院の左大 将がお出 しになっ た絵に、
ばち
﹃ 源氏物 語﹄の 優婆塞 の宮の 姫君︵ の絵 があっ たのだ が、そ の絵の 中で姫君 が 、︶少 し真木 柱 に隠れて 座り、琵 琶を奏で なさって い
たと ころ 、雲に 隠れし ていた 月が急に 明るく差 し出した ので、扇 でなくて も︵月は︶ 招くこ とはできる のだなあ というよ うに撥を か
かげ て︵ そこか ら︶の ぞいて いる︵姫 君の︶顔 つきが、 とても洗 練されて 気品がある 美しい様 子を、言 葉で言い 表せない くらいに筆
の限 りを尽 くし てすば らしく 描いてあ った。一 宮はこの 絵をご覧 になり、 この上なく お気に入 りになっ たので、 この絵を しばらくお
そば にお置 きに なって 、見る と心が慰 められる こともあ るのではな いかと おもって、 繰り返し 繰り返し ご覧にな えるけれ ど、お心は
全 然慰 ま な かっ た 。昔 、 漢 の武 帝 の李 夫 人 が、 甘 泉殿 で 病の 床に 臥 して お亡 く なり にな っ たの を、 武帝 は 悲し み に耐 えか ねて 、 死
(
者の魂を呼び返す という 反
) 魂 香 を お 焚 き に な っ た と こ ろ 、 李 夫 人 の 面 影 が 煙 の 中 にか す か に 見 え て い た の を 、︵ 絵 師 に ︶ 肖 像 画 に
- 16 -
描か せて、 ご覧に なっ たけれ ども﹁も のも言わ ず、笑い もせず、た だ私を嘆 き悲しま せるだけ だ﹂と武 帝がお嘆 きになっ たとかいう
の も、 ま こ とに も っと も な こと だ と 一
( 宮は 思
) い知 りに なっ た 。﹁ 我な がら 、 むな しい 心 の迷 いで あ るこ とよ 。 本当 の女 性 を見 てさ
えも 、この 世のこ とは すべて 夢の中の 現実なの だと思って 思い捨て て顧みな いできた ことなの に、これ ︵絵の中 の女性に心 をひかれ
てし まうと ︶は、 なん という むなしい 心である ことか。僧 正遍昭の 和歌を紀 貫之が 古
( 今 集仮名序の 中で 批
) 評し て﹃歌の形 は整って
いる が、真 実味が 少な い、た とえば、 絵に描い た女性を見 て、無駄 に心を動 かすよう なものだ ﹄と言った が、そ れと同じこ とになっ
てし まった ものよ ﹂と 思い切 ろうとな さるけれ ども、やは り、どう すること もできな い思いが 胸に満ちて 、この 上ない恋心 にとなっ
たの で、か たわら にい る格別 美しい女性 をご覧 になっても 、御目さ えもお向 けになら ず、まし て、折々の 機会につ いえて、 お便りを
交わ しなさ る女性 方に は、に わか雨が通 り過ぎ る間の雨宿 り︵程度 の短い時 間︶にで もお立ち 寄りになろ うとする 気持ちも お持ちに
なら ない。 せめて 、世 の中に ︵=現実に ︶こうい う美人が いるのだ と伝え聞 いて、お心 にとま ったのなら ば、玉す だれのす き間を抜
け て風 が 通る よ う に 、︵ その 女 性に ︶ 思い を 伝え る機 会 もあ るだ ろ う。 また 、 ほん の少 し その 人を 見た と いう 程 度の 当て 推量 で ︵探
す のな ら ば ︶、 水の 泡 が 消え て もま た 出来 てき て いつ かは 必 ず浅 瀬 にた どり 着く よ うに 、い つ かは きっ と 出会 う機 会 にめ ぐり あう は
ず な の だ が 、︵ し か し ︶、 こ れ は ︵ 今 回 の 一 宮 様 の 恋 は ︶ 実 際 に 姿 を 見 た わ け で も なく 、 声 を き い た わ け で も な く 、 昔 の 他 愛 も ない
物語 や、は かない 筆で描 いた絵 に御心を 悩まされ ているの で、どう しようも ないと思い 煩いなさ るので、 せめてお 気持ちを はらす手
太平 記
第一講
セ ン ター 対 策 古文 ( 発 展編 )
ただす
みたらし
立 て にも な るだ ろ う かと 、 御車 に お 乗り に なっ て 、 賀茂 の 糺 の 宮 へ 参詣 な さ り、 御 手洗 川 の 川水 で お手 を 清め な さっ て、 何 とな く
川 をそぞ ろ歩き なさる つけて も、昔、 業平の 中将が﹁も う恋はす るまい﹂ とみそぎ をしたこ とも、しみ じみと哀 しく思い だしなさ っ
て
祈 る とも ⋮ ⋮= た と え︵ 恋 はす る まい と ︶祈 っ たと して も 神は 聞き 届 けて はく れな い だろ う 。身 を清 める 御 手洗 川の 川 面に さえ
その 絵にあっ た女性の 面影を見て しまうほ どの深い 恋心なの だから。
とお 詠みなった ちょう どその時に 、にわ か雨が降 りすぎて 行く間、木の 枝から滴り 落ちる 露に立ち濡 れて 、
︵恋 に 悩 む 涙 だ け で な く ︶
ま す ます 袖 も濡 れ てい た と ころ 、﹁ 日 もす でに 暮 れま した ﹂と 申 し上 げる 声 がし て、 御 車の 音を 響 かせ て一 条 通り を西 へ 行き 過ぎ な
さっ ている と、 誰が住 む家と はわから ないが、 垣根に苔 がむし、瓦 に松が 生えて、長 い間荒れ るがまま にまかせ ている家 で、ものさ
びし げな家に 、撥音 高く青海 波を奏でて いる︵のが 聞こえた ︶。
﹁不 思 議 な こ と よ 、
︵演奏 している のは︶どう いう人で あるのだろ う ﹂
と 、︵ その ま ま ︶通 り 過ぎ る こ とが で きず に御 車 をと めさ せ て、 ず っと 奥の 方を 覗 きこ みな さ ると 、見 て いる 人が い ると も気 づか な
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い様 子で、 暮れゆ く空 の月影 が、時雨 をもらた した雲の 晴れ間から 、わずか にあらわ れている ところに 、御簾を 高く巻き 上げて、年
頃は 十七、 八才ほ どの 女性で 、言いよ うもない ほど気品 のある女性 がが、過 ぎゆく秋 を惜しみ つつ琵琶 を弾いて いるのであ った。ま
るで 、鉄で 珊瑚を うち 砕くよ うな一、 二曲、ま た、氷が玉 盤に落ち たかのよ うな多様 な音を、 かき鳴ら している 琵琶の音色 は、庭の
落ち葉 の音に紛 れて、一 宮は自分 の上にだけ にわか雨 が降った ように、 感
( 涙で 袖
) が濡れ るほどに 聞こえた。
太平 記
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