アスベスト・中皮腫の血液検査

io2
日本臨床細胞学会雑誌
◇ワークショップ3
W3一葉 悪性胸膜中皮腫における異常メチル化と
SV40との関連
千葉大学大学院医学硯究院胸部外科学i),岡山大学医歯
W3−2
アスベスト・中皮腫の血液検査一賢ansla−
tional research一
順天堂大学医学部病理・腫瘍学
学総合研究科腫瘍・胸部外科学2),東京医科大学第i外
科3)
○鈴木 実(MD)11,豊岡伸一(MD)2),重松久之(MD〉2),
0樋野興夫(MD〉
宮島邦治(MD)3〉,藤澤武彦(MD)1)
[背景]悪性胸膜中皮腫はアスベスト暴露がその発症に重
アスベストにより誘発される中皮腫は,暴露から発症ま
要であるが,更なる要因がその発癌に関与している可能性が
での潜伏期間が35年前後と長く,一旦発症したら治療
ある.SV40ウイルスはハムスターに胸膜内注入すると100%
が難しいため早期発見・早期治療が重要である.しかし,
中皮腫を発症し,またヒト悪性胸膜中皮腫の約50%の症例
現在一般に用いられている診断法は,断層撮影(CTス
でSV40ウイルスのシークエンスが陽1生である.ヒト正常中
キャン)あるいは生検材料による診断で,検出された時に
皮細胞は他臓器細胞よりSV40に易感染性で,感染成立後継
は既に進行していることが多い.我々は,遺伝性ラット
代培養すると,細胞不死化・形質転換が起きる.一方悪性胸
腎発がんの進行過程で高発現してくる遺伝子(Erc)を以
膜中皮腫における異常メチル化を検討した研究は少ない.
前に発見した.このErc遺伝子産物は,血中に分泌され,
[目的コ悪性胸膜中皮腫の異常メチル化の果たす役割と
遺伝性ラット腎がんの血液診断に使用できることが,明
SV40感染の関連にっいて検討した、[対象と方法]63症
らかになった.正常ではラットも,ヒトも胸膜や腹膜の
例の悪性胸膜中皮腫,6種の胸膜中皮腫細胞株,ヒト正常
中皮に存在することから,中皮腫になれば同蛋白が増加
中皮細胞の初代培養4種,SV4G感染後継代培養したヒト
し,ヒト悪性中皮腫においては腫瘍マーカーになりうる
中皮細胞2種類において,鴛種の癌抑制遺伝子(DRM/
ことが予測された.そこで,ELISA系を(株)免疫生物砺究
Gremlin,RRAI),RASSFiA,NOREIA,RIZ1,DcR1,
所(群馬県〉と共同で中皮腫を血液で診断するキットの開
DcR2,CychD2,TMS1,HIC−1,CRBP1,HPP1)の異常
発を地道に行ってきた.ERCは後に,ヒトMesothelin/
メチル化をMe癒ylation特異的PCR法により検討した.
MPFのラットホモローグであることが判明した.まさ
[結果璽正常中皮細胞4種における異常メチル化は検討し
に,疾患モデルからヒトヘ貸anslationalresearchの具体
た全遺伝子で認められなかった.悪性胸膜中皮腫における
例である.咋年,いわゆる「クボタ」ショックで「アスベ
異常メチル化の頻度は3−65%であった.HPP1,RASSFIA,
ストによる中皮腫3が大々的に報道され,我々の研究が急
Cyc1組D2,RRAD,TMS1の異常メチル化の頻度と全体の
に注目されることになった.そして順天堂大学の英断を
異常メチル化を反映するMet鼓ylation Indexの値は,SV40
誘い,全国に先駆けて「アスベスト中皮腫外来」が実現さ
シークエンス陰性症例(n皿32)より陽性症例(F31)で有意
れるに至った(呼吸器外科医:塩見和 医師 担当).
に高かった.TM$とHIC−1の異常メチル化痙葺列は予後不
本キットを用いた測定によって,中皮腫と診断された患
良であった(それぞれp10.01,p10.02,iogranktest).SV40
者重L清においては,その存在量が高まることも見いださ
感染ヒト中皮細胞の継代培養では,継代が進むにしたが
れてきている.今後の精査によって,中皮腫の進行状況
い7つの遺伝子(RASSFIA,HPP1,DcR1,TMS1,CRBP1,
をより早期に診断することが可能になると考える.本
HIC−1,RRAI))で進行性に異常メチル化がみられた.
ワークショップでは,血液検査の現状について紹介した
抑制遺伝子の異常メチル化の関連が明らかになった.ヒ
ト正常中皮細胞がSV40に感染することにより,同じサ
ブセットの遺伝子が進行性にメチル化を起こす箏が示さ
れた.以上よりSV40感染は癌抑制遺伝子の異常メチル
化により,悪性胸膜中皮腫の発癌に寄与している可能性
が強く示された.
い.
[結論]悪性胸膜中皮腫におけるSV40といくつかの癌