SURE: Shizuoka University REpository http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/ Title Author(s) Citation Issue Date URL Version p-ヒドロキシフェニルマレイミド系ポリマーによるフェ ノール樹脂の耐熱性向上および強靭化に関する研究 松本, 明博 静岡大学大学院電子科学研究科研究報告. 16, p. 189-192 1995-03-28 http://hdl.handle.net/10297/1261 publisher Rights This document is downloaded at: 2014-11-01T14:05:12Z 氏名・(本 籍) 松 本 明 学位 の種 類 博 士 (工 学位記 番号 工博 乙第 学位授与の日付 平成 学位授与の要件 学位論文題目 博 (三 重県) 学) 55 6年 3月 号 23日 学位規則第 4条 第 2項 該当 p― ヒ ドロキシフェニルマレイミ ド系ポ リマーによるフェ ノール樹脂の耐熱性向上 および強靭化 に関す る研究 論文審査委員 (委 員長 ) 教 授 藤 波 達 雄 教 授 稲 垣 訓 宏 教 授 石 井 仁 教 授 長 村 利 彦 助教授 田 坂 茂 論 文 内 容 の 要 旨 フェノール樹脂 は機械的性質、耐熱・ 耐寒性、寸法安定性、電気絶縁性、成形加工性、難燃性 に優 れ、かつ、低発煙性 であ り、 さらに、 これ らの諸物性 がバ ラ ンス良 く優 れてい るわ りには比較的安価 であ るので、 日用雑貨から工業材料 に至 る幅広 い分野 で賞用 されてい る。 しか し、 フェノール樹脂 に は他 の熱硬化性樹脂 にも共通 のことで あ るが 、脆 い、すなわち靭性 に劣 るとい う欠点がある。そ こで この靭性 を改 良す ることを目的 として従来 か ら、 フェノール樹月 旨に天然 ゴム、 アクリロニ トリル・ プ タジエ ンゴム (NBR)等 の外部可撓化剤 を添加す る方法、 フェノール核間結合距離 を長 くした り、橋 かけ密度 を低下 させる方法、あ るい は充填材 に布チ ップやガラス繊維等 を使用 し、充填材 で脆 さを補 う方法が報告 され、一部 は実用化 されてい る。 しか し、 これ らの方法 では靭性 は向上 して も、耐熱性 の低下 をまねく。 一方、 フェノール樹脂 の耐熱性 をさらに向上 させ るために従来 か ら、硬化剤 の添加量 を増加 させた り、成形条件や後硬化条件 を厳 しくす る方法、あ るい はイ ミド環や トリアジ ン環等 の剛直な環構造 を 導入す る方法が検討 されてい る。 しか し、 これ らの方法 では耐熱性 は向上 して も靭性 の さらなる低下 をまね く。以上 のように、 フェノー ル樹脂 の靭性向上 と耐熱性向上は多 くの場合両立 しがた く、一方 を向上 させると他方が低下す るとい う欠点がある。 そ こで本研究 ではフェノール樹脂 の靭性 お よび耐熱性 を同時 に向上 させる ことを目的 と し、改 質材 お よび硬化物 の構造設計 を行 つた。 改質材 の設計 は以下の概念 に基づ き行 つた。 フェノール樹脂 の靭性 を向上 させるためには、 (1)改 質材が ノボ ラックと相溶 し、かつ、そのTgが 室温 よ り低 く、柔軟なセ グメ ン トを有す るポ リマーであ るこ と、 (2)ノ ポラックと改質材 の混合物 が 硬化剤 であるヘ キサメチ レンテ トラ ミン (ヘ キサ ミン)と 反応 し硬化反応 が進行す る際、改質材中の 柔軟 なセ グメン トの凝集が誘発 され、マ トリックス中 に微細 な粒子 の形 で分散 し海島構造 を形成す る こ とが重要であ る。 一方、同時 にフェノール樹脂 の耐熱性 を向上 させるためには、 (1)改 質材の分子量が ノボ ラックよ り大 きく、かつ 、改質材がヘ キサ ミン と反応 じうるポ リマーで あ ることが重要であ る。す なわ ち、 ノ ボラックはヘ キサ ミンと反応 して ミクロゲル を生成 し、その ミクログルが集 まって硬化系 を形成す る のであ るが、通常 のノボ ラックより分子量 の大 きいポ リマーがヘ キサ ミンと反応 してグルを形成す る ヘ キサ ミン硬化系 場合、グル形成 までの分子 のエ ンタングルメン トが多 くな り、結果的 にノポラック‐ よ りも均質で橋 かけ密度 の高 い硬化物 が形成 される可能性 が高 い。 また、グル間のエ ンタングルメン トを多 くす る ことによ り、硬化系 の靭性 をも向上 させることが期待 で きる。 さらに、 (2)改 質材 とし て用 い るポ リマーの主鎖 にイミド環やベ ンゼ ン環等 の剛直 な環構造 を導 入す るこ とによ り、主鎖 の 自 由度 を下げることも重 要である。 以上 のような条件 を満足 させる改質材 として、本研究 では、 フェノール核 に耐熱性骨格 で あ るマ レ n_プ チル イミド基が置換 したp― ヒ ドロキシフェニルマ レイミド (HPMI)と アクリル酸― (n‐ BuA)と の コポ リマーを用 い た。 まず、種 々のHPMIポ リマー を合成 し、 これの諸物性 お よび反応性 を検討 した。その結果、 これらポ リマーは (1)ノ ボラックと比べ て 10倍 以上大 きな分子量 を有す る、 (2)ノ ボラックよ り優 れた耐熱 分解性 を有す る、 (3)コ モノマーの種類 や組成比 を変 える ことによ り、Tgを 267℃ から-23℃ まで幅 広 い範囲で設計す る こ とがで きる、 (4)ノ ボラックと相溶す る、 (5)ヘ キサ ミンと反応 して三次元 網 目構造体 を形成す る等 の特徴 を有す る ことがわかった。 次 に、 これ らのHPMI系 ポリマーで変性 したフェノール樹脂硬化物 の諸物性 について検討 した。その 結果、 これ らのポ リマー を改質材 と して用 い ることによ り硬化物 の耐熱性が 向上 し、特 に、主鎖 に柔 軟性 を有す るゴBuAと の コポリマー を改 質材 として用 い る ことによ り硬化物 の靭性 も向上 した。 そ こで、躙 1/ntuAポ リマーを改質材 として用 い、 フェノール樹脂硬化物 の靭性 および耐熱性 を同 時 に向上 させるための構造設計 を行 つた。その結果、 ノボラックとコポリマーの中のHPMIユ ニ ツ トが ヘ キサ ミンと反応 して高度 に橋 かけ した硬化物 を形成 し、その硬化反応の過程 で凝集 した主 としてn‐ BuAユ ニ ツトか らなるミクロ ドメインが マ トリックスであ る硬化物中 に均一 に分布 し、その分散 した ド メインの径が小 さく、径 の大 きさの分布 が 少 ない系 を設計す るこ とが重要である こ とがわかった。 こ のような硬化物 の構造設計 を行 うためには、改質材 として用い たH恥 側n‐ BuAコ ポリマーのモ ノマー組 成力油Rttn‐ BuA≒ 1/4で かつ、平均分子量 が大 きいコポリマーが最 も効果的であ り、従来 のフェノール 樹脂硬化物 と比べ て、Tgが 約 10℃ 、臨界応力拡大係数 (Klc)が 約 1.5倍 向上することがわか った。 さらに、 この改良材 の応用展 開 としてエ ポキシ樹脂 の硬化剤 と しての適応性 を検討 し、エ ポキシ樹 脂 においてもKlcが約 1.喘 、Tgが 約20℃ 向上す ることを見出 した。 また、本系では向上 させる ことがで きなか つた硬化物 の耐水性 については、新規 に別途見 いだ した吸水率が小 さく、耐熱性 に優れた2,3,5‐ トリメチルフェノールノボ ラックをフェノールノポラックの代替 に用い る ことによ り向上することが 示唆 された。 -191- 論 文 審 査 結 果 の 要 旨 フェノール樹脂 は耐熱性、機械的性 質、寸法安定性、電気絶縁性 お よび成型安定性 に優れる工業材 料 として広 く使用 されてい るが 、 よ リー層 の高性能化が望 まれてお り、特 に靭性 と耐熱性 の向上が強 く求 め られている。 しか し従来 の方法 では靭性 を改良す ると耐熱性が低下 し、耐熱性向上を図 ると靭 性が低下 して しまい、靭性 と耐熱性 とは表裏 の関係 にあ った。 本論文 は、 フェノール樹脂 の靭性 と耐熱性 を同時 に向上 させ るための改質材 に関す る ものであ る。 第 1章 では研究の歴 史的背景 と目的が述べ られ、改質剤 の設計概念が提案 されてい る。 第2章 では改質材 としてのp― ヒ ドロキシフェニルマ レイ ミ ド (HPMI)と 各種 ビニルモノマー との コ ポ リマー について合成 と基本的性質が述べ られている。 これ らのポ リマーは分子量 が比較的大 きく、 耐熱性 に優 れ、 フェノール樹脂 中間体 であ るノボラック樹脂 と相溶 し、 さらに硬化剤 のヘキサ ミンと 反応 して三次元網 目構造 を形成 で きる等、改質材 としての適性が明確 にされてい る。 第3章 ではHPMI系 ポ リマー によるフェノール樹脂 の耐熱性 お よび靭性 の改良 について述べ られてい る。主鎖 に柔軟性 を有す るHPMIと アクリル酸 プチルとの コポリマーが改 質材 として適 してお り、 フェ ノール樹脂硬化物 の耐熱性 の向上 と、曲げ強度 を低下 させるこ とな く靭性 を向上で きることが示 され てい る。 第緯 では、HPMIと アクリル酸 プチル との コポ リマー を改 質材 に用 いて得 られた耐熱性お よび強靭 性 フェノール樹脂 の構造制御 について述べ られている。 ノポラックとコポリマー中のHPMIセ グメ ン ト がヘ キサ ミンと反応 して高度 に架橋 した硬化樹脂 となるが、その硬化過程 で主 としてアクリル酸 ブチ ルか らなる ミクロ ドメイ ンが マ トリックス中に均 ― に分散 して形成 され、 この ミクロ ドメイ ンが靭性 向上 にとって重要 な役割 を果 た してい ることを明 らかにした。 ドメインの径 が小 さく、かつ系 の分布 が狭い場合 にフェノール樹脂硬化物 の靭性 が優 れる。 この ような構造設計 を行 うためには、HPMVア ク リル酸 ブチルが1/4の 組成 が最適 で、 さらに平均分子量 の大 きい コポ リマーが効果的であるこ とが示 さ れてい る。 第5章 ではPMI系 ポ リマーで変成 した ノボ ラックのエ ポキシ樹脂用硬化剤へ の応用が述べ られてお り、硬化が速 く、耐熱性 お よび靭性 に優 れたエ ポキシ樹脂が得 られる ことが示 されている。第6章 は結 論 であ る。 以上要す るに、設計概念 に基づいて新 しい改質材 を開発す ることによってフェノール樹脂 の耐熱性 向上 と靭性向上の両立を可能 にす るとともに、硬化樹脂 の構造 と物性 との関係 を解明 したものであ り、 樹脂 の高性能化技術 に寄与す るところが大 きい。 よつて、本論文 は博 士 の学位 を授与す るに充分 な内 容であ ることを認 める。
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