尋常性白斑患者における抗甲状腺抗体保有率及び 甲状腺機能異常合併

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尋常性白斑患者における抗甲状腺抗体保有率及び
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甲状腺機能異常合併率について
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日皮会誌:103
(10),
1301―1305,
1993
(平5)
林
伸和
池
亨仁
門野
岳史
中川
秀己
石橋
康正
安藤
巌夫*
要 旨
臨床的には,特徴的な皮疹の分布により全身性にみ
尋常性白斑患者231例を汎発型,分節型,局在型の3
られる汎発型,デルマトームに一致してみられる分節
つに分類し,それぞれの抗甲状腺抗体(抗サイログg
型,孤立性にみられ,汎発型に移行することの多い局
プリン抗体,抗マイクロブーム抗体)保有率を調べた.
在型の3型に分類される,古賀等1)は,分節型をB型,
また,そのうち190例については甲状腺機能(TSH,
それ以外の局在型及び汎発型をA型とする分類を提
T3,T4)も調べた.
唱している.A型では,1)他の自己免疫疾患の合併率
抗甲状腺抗体陽性率は,汎発型では173例中26.6%
が高いこと,2)サットソ後天性遠心性白斑やケブネル
(男性22.5%,女性30.1%),分節型では44例中6.8%(男
現象の合併がみられること,
性0.0%,女性11.1%),局在型では14例中7.1%(男性
munoprecipitation
3) Naughton等2)がim-
assayにより確認した抗メラノサ
14.3%,女性0.0%)であった.汎発型では分節型と比
イト抗体が高率に認められることなどにより,自己免
べ,有意に抗甲状腺抗体保有率が高かった(pく0.01).
疫が病因に関与している可能性が高いと考えられる.
甲状腺機能異常を示した患者は33.7%であり,非常
一方,B型に関しては,1)その分布や電子顕微鏡所見
に高率であった.病型別にみると,汎発型139例中
で末梢神経末端に異常がみられること3),2)病変部に
36.7%,分節型39例中15.4%,局在型12例中58.3%で
発汗異常がみられること4)により,何らかの神経由来
あった.このうち抗甲状腺抗体陽性例は23例で,残り
の因子が働いていると考えられているが,詳細は不明
の41例は陰性であった.また,自己免疫とは異なる機
である.
序が考えられている分節型では全例で抗甲状腺抗体が
尋常性白斑の甲状腺疾患の合併に関しては,悪性貧
陰性であった.
血や膠原病,糖尿病などと同様よく知られている.し
これらの結果は尋常性白斑患者診察時に甲状腺機能
かしながら,尋常性白斑患者を母集団として,病型別
を調べる必要性を示唆するものと考えた.
に甲状腺疾患の合併率及び抗甲状腺抗体の陽性率に関
して調べた報告は現在までのところ見あたらない.今
緒 言
回我々は,自覚症状のない甲状腺機能異常も含め,抗
尋常性白斑は生命予後には関係しないものの,顔面,
甲状腺抗体の有無,及び甲状腺機能異常の有無につい
手背などの露出部位が好発部位であることから,特に
て,これまでに経験した症例をまとめ,それぞれの病
若い女性などでは精神的な苦痛を伴うことが多い.し
型について検討を加えたので報告する.
かし,その治療はステロイド外用剤やPUVA療法な
対象及び方法
どの光線療法が主体となっているが,治療の煩雑さに
当科白斑外来を受診し,抗甲状腺抗体に関して検査
加え,治療効果も必ずしも満足のいくものでないため,
し得た231例を対象とし,臨床症状により汎発型,分節
医師から不治の病と言われ,当科専門外来を受診する
型,限局型の3型に分類した.分類の基準は,検査時
患者も多い.
にデルマトーム一致性の白斑がみられるものを分節型
とした.限局型は分節型に合致しない単発のものとし
東京大学医学部皮膚科学教室(主任 石橋康正教
授)
た.汎発型は全身の所々に白斑が存在し,分節型及び
限局型には合致しないものとした.このうち190例につ
*帝京大学溝口病院皮膚科(主任 久木田 淳教授)
平成5年2月26日受付,平成5年4月21日掲載決定
いてはさらに甲状腺機能も検索した.
別刷請求先:(〒113)東京都文京区本郷7−3−1
抗甲状腺抗体は,抗マイクロソーム抗体をマイクロ
東京大学医学部皮膚科学教室 池 亨仁
ソームテスト,抗サイログロプリン抗体をサイログロ
1302
林 伸和ほか
表2 発症年齢分布
表1 対象
汎発型
分節型
局在型
計
汎発型
男 性
女 性
80
93
173
27
44
0−10
14
10−20
20−30
17
7
計(人)
7
104
127
231
発症年齢
男性
男性
女性
17
40―50
50−60
男性 女性(人)
20
1
9
11
16
21
10
18
n
4
0
0
2
1
0
12
10
2
6
1
0
7
30−40
局在型
分節型
女性
6
1
3
1
1
0
1
0
60―70
9
4
13
ブリンテストにより評価した.また,甲状腺機能は
4
1
0
2
1
0
TSH,T3,T4にて評価した.検査値は当院検査部で
70−80
1
0
0
0
0
1
0
行ったものを採用した.
合 計
80
93
7
7
17
27
3
結 果
231例を分類した結果を表1に示す.汎発型173例(男
7例58.3%
性80例,女性93例),分節型44例(男性17例,女性27例),
60.0%)であった,このうち抗甲状腺抗体の陽性だっ
局在型14例(男性7例,女性7例)であった.発症年
た症例は23例で,内訳は汎発型22例(男性8例,女性
齢の分布を表2に示した.
14例),分節型O例,局在型1例(男性1例)であった.
発症平均年齢は汎発型29.3歳(平均:男性31.0歳,
一方,抗甲状腺抗体陰性例は41例存在し,その内訳は
女性27.9歳),分節型22.8歳(平均:男性22.2歳,女性
汎発型29例(男性13例,女性16例),分節型6例(男性
23.1歳),局在型32.2歳(平均:男性23.7歳,女性40.7
4例,女性2例),局在型6例(男性3例,女性3例)
歳)であった.分節型の平均年齢が若いのは若年層で
であった.甲状腺機能異常の内訳を表6に示す.重複
の発症が多いためと考えられた.
を含めるとTSH高値11例(汎発型男性3例,汎発型女
抗甲状腺抗体陽性患者は全体で231例中50例
性7例,局在型女性1例),TSH低値19例(汎発型男
(21.6%)であった.その内容を表3に示す.抗甲状腺
性8例,汎発型女性10例,分節型男性1例),
抗体陽性率は汎発型では173例中46例26.6%(男性80例
例(汎発型男性4例,汎発型女性2例,分節型男性1
中18例22.5%,女性93例中28例30.1%),分節型では44
例,局在型男性1例),
例中3例6.8%
分節型男性1例),
(男性17例中0例0.0%,女性24例中3
例11.1%),局在型では14例中1例7.1%
(男性7例中
C男性7例中4例57.1%,女性5例中3例
T3高値8
T3低値4例(汎発型女性3例,
T4高値33例(汎発型男性9例,汎発
型女性13例,分節型男性2仇分節型女性2例,局在
1例14.3%,女性7例中O例0.0%)であった.大部分
型男性4例,局在型女性3例),T4低値3例(汎発型男
が抗マイクロゾーム抗体陽性で,時に抗サイロダロプ
性1例,汎発型女性2例)であった.甲状腺原発の機
リン抗体が共存しており,抗サイログロブリン抗体単
能低下を示すものは15例(汎発型男性4例,汎発型女
独陽性の症例は汎発型の女性の2例のみであった.
性10例,分節型男性1例),甲状腺原発の機能完進を示
Yate'sの修正を加えたχ2検定を行ったところ,汎発
すものは47例(汎発型男性17例,汎発型女性19例,分
型では分節型と比較して,有意に陽性率が高かった
節型男性3例,分節型女性2例,局在型男性4例,局
(p<0.01).局在型との比較では有意差は認められな
在型女性2例)であった.TSH,T3,T4とも高値のた
かったが,局在型症例数が少なく明確な回答は出し得
め甲状腺原発と特定できないものが2例(汎発型女性
なかった.抗甲状腺抗体が1万倍以上を示した患者を
1例,局在型女性1例)存在したが,慢性甲状腺炎の
表4に示した.ほとんどが汎発型で,局在型の1例は
急性期と考えられた.疾患としては,橋本氏病,バセ
右肩甲部に生じたものであった.
ドウ氏病,単純性甲状腺腫等がみられた.
一方,甲状腺機能異常合併率に関する結果を表5に
尚,抗甲状腺抗体の有無・抗体価,及び甲状腺機能
示した.
190例中64例(33.7%)の患者で何らかの甲状
異常の有無と白斑の分布範囲や病気の時期(初期,拡
腺機能異常を示した.甲状腺機能異常の合併率は汎発
大期,陳旧期)など臨床像との間に特に関係は認めら
型139例中51例36.7%(男性65例中21例32.3%,女性74
れなかった.
例中30例40.5%),分節型39例中6例15.4%(男性15例
考 察
中4例26.7%,女性24例中2例8.3%),局在型12例中
分節型の尋常性白斑患者が全体に占める割合は
1303
白斑の抗甲状腺抗体と甲状腺機能
表3 抗甲状腺抗体陽性率
汎発型
男性
女性
計
頴
18/80
22.5%
28/93
46/173
(歳)
30.1%
3/24
11.1%
o/7
26.6%
3/44
6.8%
1/14
7.1%
50/231
21.6%
一
分節型
-
一
局在型
-
0/17
0.0%
1/7
14.3%
19/104
18.3%
-
表4 抗甲状腺抗体高値例(1万倍以上)
0.0%
31/127
24.4%
pく0.01
性
別
T4
T3
病
型 TSH
(μu/ml) (μg/dl) (ng/ml)
50
M
G
42
37
M
F
G 0.10
G 4.20
10
M
L 0.70
15
F
F
G 3.78
未検査
G
8.29
G 4.31
G 3.95
8.69
G 0.08
24
注:表上段:陽性患者/母集団(人)
39
F
F
表下段:陽性率(%)
24
F
29
12.70
7.38
1.13
2.19
16.03
7.64
10.21
4.94
9.30
10.80
ATG
(倍)
AMC
(倍)
0
409,600
400
102,400
1.22
100
102,400
1.57
0.79
400
25,600
0
0.98
1.13
0
1.19
1.68
0
25,600
25,600
100
25,600
25,600
400
25,600
注:G:汎発型 L:局在型
表5 甲状腺機能異常合併率
抗甲状腺抗体陽性
男性
女性
汎発型 8/16
14/28
50.0%
分節型 O/0
o/3
0.0%
50.0%
−
局在型 1/1
100%
計
O/0
−
計
22/44
50.0%
O/3
0.0%
1/1
100%
14/31 23/48
9/17
52.9% 45.2%
47.9%
表6 甲状腺機能異常の内訳
抗甲状腺抗体陰性
総計
男性
13/49
26.5%
女性
16/46
34.8%
計
TSH
2/21
9.5%
6/36
16.7% 6/39
15.4%
3/6
50.0%
3/5
60.0%
6/11
7/12
54.5% 58.3%
20/70
28.6%
64/190
41/142 33.7%
21/72 28.9%
29.2%
注:表上段:陽性患者/母集団(人)
表下段:陽性率(%)
汎発型 男性
3
8
4
0 9
女性
小計
7
10
10
18
2
6
3
3
分節型 男性
13
22
合計
(人)
1
21
2
3
30
0
1
1
1
2
0
4
0
0
0
0
小計
0
1
1
1
2
4
0
0
2
6
0
0
4
0
4
0
1
0
0
1
0
3
0
3
1
0
1
0
7
0
19
8
4
33
3
局在型 男性
総 計
n
あった.男性に比較して,女性の患者数が多いのは白
斑の統計ではよくみられ,整容的に女性の方が受診率
が高いためと考えられている.
プリン抗体32.0∼44.4%,抗マイクロソーム抗体
汎発型がO歳から60歳まで,どの年齢でも一様に発
52.0∼86.1%),橋本氏病(抗サイログロブリン抗体
症がみられるのに比べ,分節型では20歳以下の若年層
40.0∼64.0%,抗マイクロゾーム抗体50.0∼100.0%),
と40歳台での発症が多い.これは古賀等1)の報告に合
特発性粘液水腫(抗サイログロブリン抗体
致し,我々の全白斑患者でのデータ(未発表)にも一
64.8∼91.3%,抗マイクロソーム抗体63.6∼88.9%)
致した.これらのことより,特に偏りのない母集団で
では尋常性白斑の保有率に比較して一様に高い.他の
あると考えた.
膠原病と比較すると,
尋常性白斑患者での抗甲状腺抗体に関する過去の報
10.8∼35.1%,抗マイクロソーム抗体16.2∼29.1%),
告を文献的に調べると,
17/52
(32.7%)^'
24/
SLE
(抗サイログロブリン抗体
PSS(抗サイログロブリン抗体25.0%,抗・マイクロソー
80(30.0%)6),8/70(1L4%)7)などがある.,抗甲状腺
ム抗体16.7%),
抗体の健常人及び他の自己免疫疾患における抗甲状腺
9.6∼21.1%,抗マイクロソーム抗体20.5∼36.5%)で
抗体の保有率を文献的に調べる8)
あり,尋常性白斑汎発型では,これら疾患とほぼ同様
lo)と,報告者により
ばらつきがあるが,健常者の抗サイログロブリン抗体
51
女性
女性
小計
14.7%と古賀等(I)の報告した19%に比較的近い値で
T4
高値 低値 高値 低値 高値 低値
29/95 36.7%
51/139
30.5%
4/15
26.7%
T3
RA
(抗サイログロブリン抗体
の値を示した.このことは汎発型に自己免疫が関与す
保有率は2.3∼4.0%,抗マイクロソーム抗体保有率は
ることを示唆し,古賀等の意見を支持する所見である.
2.5∼13.8%であり,特に汎発型では高値を示している
甲状腺機能異常の合併は予想されたものよりはるか
ことが分かる.甲状腺疾患でのそれぞれの抗体保有率
に高率であった.また,橋本氏病では甲状腺機能が正
は報告により異なるが,バセドウ氏病(抗サイログロ
常化する時期があることが知られており,数値上の甲
7
64
1304
林
伸和ほか
状腺機能異常がなくても,抗甲状腺抗体陽性例では橋
外の何らかの因子の関与を示唆するものと考えた.
本氏病を合併している可能性がある.いずれにしても,
結 語
尋常性白斑では甲状腺機能異常の合併が多くみられる
尋常性白斑患者を汎発型,分節型,局在型の3つに
ことは確かであり,また大部分の症例が特に自覚症状
分類し,それぞれの抗甲状腺抗体保有率,及び甲状腺
もなく,検査により初めて甲状腺機能異常を指摘され
機能異常合併率につき報告した.特に汎発型では抗甲
ている.このことは尋常性白斑患者の診察時に,甲状
状腺抗体の保有率が高く,自己免疫がその機序に関与
腺機能異常の有無を調べる必要性を示唆していると考
する可能性の高いことを示唆していた.甲状腺機能異
えられた.
常合併率は各病型で高く,尋常性白斑患者診察時に甲
また,抗甲状腺抗体陰性で甲状腺機能異常を示す症
状腺機能異常の有無を調べる必要性が示唆された.
例が多数認められたことは,興味深い所見と考えられ
本稿は,日本皮膚科学会第689回東京地方会(研究地方会)
る.特に分節型では,抗甲状腺抗体陰性患者にのみ甲
において発表したものにさらに症例を加え,また個々の症
状腺機能異常がみられることはその発症に自己抗体以
例を詳細に検討し,数値に変更を加えたものである.
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Hayashi,
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Yasumasa
Thyroid
Functions
Chi, Takafumi
Ishibashi
1305
of Vitiligo Vulgaris
Kadono,
and Iwao
Hidemi
Nakagawa,
Ando*
Department of Dermatology, Faculty of Medicine, University ofTokyo
*Department of Dermatology, University Hospital Mizonokuchi, Teikyo University
(Received February 26, 1993; accepted for publicationApril 21, 1993)
Vitiligo vulgaris is generally
thyroid
antibodies
patients
T4)
who
were
classified into
were
(anti-thyroglobulin
patients,
statistically higher
segmental
thyroid
and
than
thyroid
patients, and
Twenty-three
41 patients
7.1%
antibodies
14 localized
that of segmental
functions
segmental,
antibody)
and localized vitiligo. Anti・
were
examined
thyroid
in 231
dysfunctions
vitiligo
(TSH,
T3,
were
were
as f0110wS: 26.6%
patients.
The
in 173 generalized
positive rate in generalized
patients, 6.8% in 44
vitiligo patients
patients (pく0.01).
seen
in 33.7%
patients:
36.7%
in 139
generalized
patients, 15.4%
negative.
showed
Segmental
abnormal
thyroid function
vitiligo patients
with
were
abnormal
positive for anti-thyroid
words: vitiligo
in 39
thyroid
functions
were
antibodies, while
negative
antibodies.
apn J Dermatol
was
58.3% in 12 localized patients.
patients who
were
in
These results strongly suggest
Key
anti-microsomal
in 190 patients.
The rates of positive anti-thyroid
Abnormal
and
clinically classified into one of these three types. Additionally,
examined
segmental
three types; generalized,
antibody
that vitiligo patients should
be examined
103: 1301∼1305,1993)
vulgaris, anti-thyroid
antibody,
thyroid function
for thyroid function.
for anti-