厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業) 分担研究報告書 乳幼児突然死症候群における予防ならびにモニターの 開発に関する研究 分担研究者: 中川 聡(国立成育医療センター手術集中治療部) 【研究要旨】 乳児のアデノイド増殖症の患者でアデノイド切除術の前後でパルスオキシメトリを 行ったところ、手術によってdesaturationの改善を確認することができた。パルスオキ シメトリの解析は、上気道閉塞の病態の改善や変化を追うのに有用である。今後のモニ ター開発では、パルスオキシメータを基本としたうえで発展させることが重要だと考え られた。 【はじめに】 いかを模索している。今回は、乳児期に 乳幼児突然死症候群の予防を目的と 上気道閉塞をきたすアデノイド増殖症の したモニターの開発にあたっては、乳児 症例でパルスオキシメトリを行い、示唆 の呼吸循環中枢の成熟のパターンを認 に富む結果を得たので報告する。 識するのが重要だと考える。乳児期の 無呼吸やapparent life threatening events 【対象】 (ALrE)を呈する乳児から得られる生理 国立成育医療センターでアデノイド切 学的指標をもとに、SIDS予防のモニタ 除術を受けた乳児症例。 リング方法を構築する必要がある。 われわれは、以前よりパルスオキシ 【方法】 メータを在宅でのモニターの基本とし 診療録の後方視的検討。終夜パルスオ て、それから得られる情報から、乳児の キシメトリが行われている症例では、そ 呼吸循環中枢の発達を見ることができな の検査から得られるdesaturation index 一67一 (DI)、%desaturation time below90 となりやすい。このような疾患群でもパ (%DT90)、%desaturation time below ルスオキシメトリによる解析は有用であ 85(%DT85)が、アデノイド切除術の術 ることが示唆された。 前と術後でどのように変化したのかを調 現時点では、SIDSのハイリスク群の 査した。 同定は困難である。新生児期に無呼吸を 呈したもの、AurEの既往のあるもの、 【結果】 SIDSの同胞などが、古くはリスク群と 該当する症例は9例であった(調査期 認識されていたが、現在では、それらに 間は約3年間)。月齢は5∼12か月(平均 ルーチンにモニタリングすることは推奨 7.2か月)。平均身長は61cm、平均体重 されていない。 は7.4kgだった。術前後のパルスオキシ 一方、SIDSで亡くなった乳児で生前 メトリの指標の変化は以下のとおりだっ にポリグラフ検査が行われているもので たQ は、閉塞性の呼吸パターンの遷延が多い ことが指摘されている。そういった病態 術前 術後 DI 17.2 5.8 %DT90 %DT85 13.1 0.6 4.9 O.3 を呈する患者群をいかにして見つけ出す のかが大きな問題であるが、閉塞性の無 呼吸を呈するALrEの乳児などにおいて は、経時的なな呼吸パターンの解析など 【考察擁 により、病態を解明できる可能性がある。 乳児の上気道閉塞の原因としてアデノ また、パルスオキシメトリは簡便なモ イド増殖症は重要である。乳児期のアデ ニターであるが、その解析により、乳児 ノイド切除術においては、術直後に上気 の上気道閉塞患者においても有用な情報 道閉塞症状がすぐには改善されず、低酸 を提供しうることがわかった。 素血症などの合併症も生じやすい。その ためには、ICU環境下での観察が望まし 【結論】 いとされる。今回の検討では、術後1週 乳児のアデノイド増殖症の患者でア 間程度経過したところでパルスオキシメ デノイド切除術の前後でパルスオキシメ トリを行ったところ、desaturationの頻 トリをおこなったところ、手術によって 度が、術前に比べて減少していることが desat組rationの改善を確認することがで わかった。 きた。パルスオキシメトリの解析は、上 解剖学的な上気道の閉塞機転によって 気道閉塞の病態の改善や変化を追うのに 乳幼児は用意に無呼吸(閉塞性無呼吸) 有用である。今後のSIDS予防のモニター 一68一 開発は、これを基本としたうえで発展さ せることが重要だと考えられた。 【論文発表】 1)中川 聡.SIDS予防のためのホーム・ モニタリング,過去10年,現在,未来. 日本SIDS学会誌 5:65−67,2005. 一69一
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